ビリビリ少女の冒険記   作:とある海賊の超電磁砲

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12話 海軍大将〝青雉〟

 ミサカは怯えるロビンを背に隠すように前へ出た。

理由は分からないが、ロビンとこの青雉とかいう大将は面識があるらしい。

それも只成らない何かが、二人の間にあったのだろう。何時も落ち着いているロビンが、今は恐怖に震える子供のようだ。

 

「大将って……えっと、海軍の凄く偉い人ですか?」

「まぁ、んな感じだ」

「「「会話ふわっふわか?!」」」

 

 サンジとゾロ、ウソップにツッコまれてしまうが、ミサカは本当にそんな風にしかレイに教えてもらっていないのだ。

レイから教わったのは覇気や戦い方の他に、海賊に至る経緯とその後の冒険譚……海軍は冒険譚にちょっと出てきたときに、補足するように説明されただけである。

後は……シャボンディ諸島で赤犬という大将に追われたことくらいだろう。

 

「あー、っていうかお前さんもしかしてエレクトロ・D・ミサカか?」

「うん」

「なるほど……将来が楽しみなお嬢ちゃんじゃないの」

「てめぇミサカちゃんに色目使ってんじゃねぇぞ!!」

「サンジ、喧嘩売っちゃダメ」

 

 サンジを止めながら、取り合えずナミの後ろに隠れる。

 

「あらら……悩殺ねーちゃんの後ろに隠れちまった。そんなに怖いかぁ?」

「赤犬って人は、怒鳴ってばっかりだったから……大将って、みんなそんな感じだと思ってました」

「あーまぁサカズキはアレだ、ほら……何でもいいや。所でスーパーボインなねぇちゃん、今夜ヒマ?」

「何やってんだノッポコラァ!!!」

「サンジ、ストップ」

 

 こんな強い人に喧嘩売れるって普通に凄いのだが、今戦闘するわけにはいかない。

海賊に海兵な彼らはともかく、此処には一般人のおじいさんと馬がいることを気にしてほしい。

 

「……取り合えず、何の用ですか?」

「ただの散歩だ」

「………えっと、お仕事は?」

「ん?海軍大将だが?」

「つまり、サボリ?」

「んなド直球な……まぁアレだ、アラバスタ時後消息不明だったニコ・ロビンを確認しに来ただけだ。予想通り、お前さん方と一緒に居た」

 

 ミサカまで一緒だったのは誤算だったが、と小さな少女を見下ろす大将青雉。

見下ろされるだけじゃない、ミサカは妙な威圧感を感じていた。

一味の皆は感じていないのだろうか?それとも、それでも無視しているだけ?

 

「報告位はするつもりだ。二人も賞金首が加わって、総合賞金額が……えっと、1億と、6千万と、7900万と、1億5千万……まぁそんな感じだ」

「どんな感じだ、しろよ計算」

 

 ものすごいダルそうにしている大将。

ミサカが初めてであった大将の赤犬とは、まるで真反対である。

赤犬は出逢った瞬間に殺しにかかり、怒鳴りながら追ってくるドロドロ男だった。

 

「えっと、確認だけなら帰ってもらっていいですか?」

「んー嫌われたもんだなぁ……ま、海兵と海賊だししょうがないか。わかった、帰るがその前に……あんた」

 

 指を差したのはおじいさん。

一体こんな一般人に何の用なのだろうか、とそのまま様子を見守る。

 

「この島特有の移住民だな、もしかして逸れちまったとかかい?」

「あ、あぁ。皆に出会えるのは、当分は先になるかと……」

「――よし、どうにかしよう。直ぐに移住の準備をしなさい」

 

 ………数瞬の沈黙が流れた。

この男は、何を言っているのだろうか?

 

「移住って、おじいさんは馬が怪我をしてるから……」

「大丈夫だ」

「大丈夫って、貴方何言って」

「出来るわ……その男なら」

 

 追求しようとすると、ロビンが座り込んだまま呟いた。

何も知らない自分達には怪しいことだらけだが、因縁あるロビンがそういうのなら、何か方法があるのかもしれない。

どのみちおじいさんを放っておくのも後味が悪いし、移住する方法があるのなら乗っかるべきだと、青雉も一緒になって荷造りを開始した。

流石というべきか、全員慣れた手つきで荷造りはあっという間に終わり、年に一度引き潮で道が出来る海岸へと帯同する。

 

「偶には労働もいいもんだ」

「ホントだな!お前なかなか話せるなー!」

「……みんな、手際よかった」

「なぁにお嬢ちゃんもよかったぞ。あとは慣れだな」

 

 気づけばすっかり青雉と打ち解け、和気あいあいとした雰囲気になっている。

呆れた様子でナミがこちらを見るが、彼はだらけきっているが、良い奴なので嫌いになれなかったのだ。

 

「それで、どうするの?見たところ、船とかは無いみたいだけど」

「船があったところで行くべき方向が分かんないんじゃァ意味が無い……まぁ、少し離れてろ」

 

 青雉は波打ち際まで歩いていくと、片手を海水に着けた。

数秒後、青雉を獲物だと思ったのだろう海王類が一匹襲い掛かってきた。

ルフィたちはそれを見て危ないと忠告していたが、ミサカとエネルは、何の心配も起こさなかった。

何故ならば……――。

 

 

氷河時代(アイス・エイジ)

 

 

 ――この男は、海王類の一匹程度でどうにかなるような存在では、無いからだ

海王類どころか辺り一面の大海原を、凍らせてしまった(・・・・・・・・)

 

自然(ロギア)系、ヒエヒエの実の氷結人間……これが、海軍本部〝大将〟の能力よっ」

 

 怯えながらそう解説してくれるロビン。

これならおじいさんは次の島と言わず、村へと合流できるだろう。

青雉曰く、この氷は一週間は持つという。

 ルフィたちとおじいさんを見送り、彼の背が見えなくなるまで手を振った。

 

「はーーっ……よかったよかった」

 

 ルフィは仲良くなったおじいさんが、長い間村に合流出来ないことを気にしていた。

だから、敵のおかげとはいえ、どうにかなったことを素直に喜んでいる。

そんな彼の姿を、青雉はジッと見ていた。

 

「……何というか、じいさんそっくりだな。モンキー・D・ルフィ。奔放というか、掴み所がねぇというか」

「じ、じいちゃん……!!」

 

 ルフィが何やら冷や汗をかきだした。

どうやら、お爺ちゃんが苦手らしい。

そういえば、ルフィはじいちゃんの拳骨が痛かった、と語っていたのを思い出す。

大将にも知られている覇気使い……もしかして、有名人なのだろうか?

 

「……やっぱお前ら、今死んどくか」

 

 小さな呟きに、少し緩んでいた気が締まるのを感じた。

青雉の目は、冗談を言っているわけではない。

 

「政府はお前らを軽視しているが、少し探れば中々骨のある一味だ。初頭の手配に至る経緯、これまでのお前らの所業の数々、成長速度……末恐ろしく思う」

 

 大将青雉が、この一味の〝未来(さき)〟を見据え、認めた。

確認しに来ただけだったが、実際会話をし、船長の気質を把握したうえで改めて考えが変わったのだろう。

 

「特に危険視される原因は、お前だニコ・ロビン」

「ッ!!」

 

 その言葉に思わず、急いでロビンの前に立つ。

彼女がこの男を恐れているのは確かであり、事実強いのも明らか。

もし、本当に戦うとなれば、一番に狙われるのは彼女だ。

 

「懸賞金の額は何もそいつの強さだけを表すものじゃない。政府に、世界に及ぼす危険度(・・・)を示す数値でもある。だからこそ、お前は8歳という幼さで賞金首になった」

「8歳……?」

 

 思わず背後のロビンを振り向きそうになる。

14歳で手配されたミサカも中々だが、上には上がいると言ったところだろうか。

 

「子供ながらに上手く生きてきたもんだ。裏切っては逃げ延び、取り入っては利用して……そのシリの軽さで裏社会を生き伸びてきたお前が、次に選んだ隠れ家(・・・)がこの一味というわけか」

「テメェ、さっきから聞いてりゃカンに障る言い方すんじゃねぇか!!ロビンちゃんに何のうらみがあるってんだ!?」

「別に恨みはねぇよ、因縁があるとすりゃぁ一度取り逃がしちまったことくらいか。まぁ昔の話だ」

 

 背後のロビンは、何も言わなかった。

きっと事実なのだろう。色々細かいところは分からないが、事実ロビンはそうやって必死に生きてきたのだ。

今まで、必死に……。

 

「――ねぇ、ロビン」

「何かしら……?」

 

 青雉を無視して、振り向いてロビンに尋ねる。

青雉は何かまだ言いたそうだったが、それを無視した。

 

「私、ロビン好きだよ」

「…………ぇ?」

 

 ミサカが唐突に言い出した言葉の意味が分からないのか、呆けるロビン。

そんな表情も出来るんだ、なんてロビンの人間らしい一面を見れたことを嬉しく思いながら、言葉を紡ぐ。

表情があまり変わらないけれど、出来るだけの感情を、壊れた心から必死に想いを、今のミサカの精一杯を込めて、ロビンへ語り掛ける。

 

「カッコいい服貸してくれたし、頭良くて冷静で……空島の鐘楼見つけられたのだって、ロビンのおかげ。予想してなかった黄金の大冒険が奇麗に締まって、満足して降りてこられた。楽しかった。ロビンは?」

「……私、は」

 

 少し戸惑うようにして、ロビンは言葉に出した。

空島、その第一歩から未知であり、大冒険の始まり。

共闘し、一緒に黄金郷を探索し、鐘楼を鳴らした。

一味の皆と一緒に宴をして、皆で傷ついて、皆で……。

 

「私も、楽しかったわ」

 

 思い出せば出すほど、その言葉に偽りなどないとミサカはロビンを信じた。

 

「うん。じゃぁ、私たちは一緒に冒険を楽しんだ仲間――そうだよね、ルフィ?」

「おう!ロビンは仲間だ!!」

「うん……ねぇ、大将さん」

「………」

 

 ミサカの気配が変わったのを悟ったのか、黙り込んで此方を見つめる青雉の視線には少し敵意……殺意が感じられた。

 

「ロビンの過去を私たちは知らない。でも、一緒に冒険した今のロビンを狙うのなら」

「……なら?」

「容赦、しない」

「そうかい……じゃぁもうニコ・ロビンに関しては言わねぇよ。覚悟(・・)ありってことにしておこう。……()り合う前に、この一味を危険視するもう一つの理由(ワケ)を話そうか」

「何かな」

 

 近辺の温度が下がっていく。

能力行使と共に、明らかな殺意を感じ一味全員が構えた。

 

「お前だ、エレクトロ・D・ミサカ」

「私?」

「そう、サカズキの奴はお前さんを酷く警戒していた。天竜人を害するその倫理観、大将を前にして動じないその気質……そして――」

「ッ」

 

 言いながら氷の弾丸が放たれ、それをミサカは砂鉄の弾丸で撃ち落とす。

ついでに自然系だということを思い出し、冷気を伝って移動してくる可能性を考え、放電することで辺りを電熱で少し温めた。

 

「その実力……お前さんは躊躇なく(・・・・)やらかす(・・・・)大問題児になるだろう。シャボンディ諸島では誰も殺さず、大将とも大して交戦せず逃げたことから、懸賞金はその程度(・・・・)だったが、サカズキはもっと上でいいと何度も打診していた」

 

 電熱で温まった空気が、また冷えていく。

青雉の周囲は既に凍り付き、まるで剣山の様になっていた。

 

「この一味でニコ・ロビンの次に危険なのは、お前だ」

 

 ミサカは数年前、一人の老人に拾われた。

それからは覇気の修業もあり、ずっと無人島生活をしていた。

彼女は老人からの口伝でしか天竜人のことを知らない、海軍や世界への影響力を知らない。

碌に世界のことを知らないまま、彼女は海賊になった。

 無知であり、純粋であり、無垢である。

きっと海賊だった老人に拾われなければ、彼女は今海賊になっていないだろう。もし拾われた相手が海兵だったのならば、そのまま海兵になっていたに違いない。

エレクトロ・D・ミサカとは、そういう少女だった(・・・)

 

「お前さんは、此処で死んでおいた方がいい。――アイスサーベル」

「ッ」

 

 草を直線状に凍らせ、氷の剣を作った青雉が迫る。

それを砂鉄の剣で迎撃しようとして――ミサカの前をゾロが走った。

 

切肉(スライス)シュート!!」

 

 氷の剣を鉄の刀が受け止め、それをサンジが蹴り飛ばす。

そこへルフィが駆け出した。

 

「ゴムゴムのぉ――!?」

「ダメ」

「んが?!何すんだミサカ!?」

 

 それを首根っこ捕まえて止めたのは、ミサカ。

ルフィは止まるが、青雉は止まらない。

剣を弾かれ両手がフリーになった彼は、ゾロの肩とサンジの脚を掴んだ。

 

「ウ!!」

「ん?!」

 

 パキキという、何か高音が鳴りだし、掴まれている箇所が凍りだした。

その光景と痛みに二人が呻き、叫ぶ。

このままでは全身凍らせられてしまう、そう予感した瞬間、雷鳴が轟いた。

 

「ヤハハ、我を無視するとは、不届き!!」

「ッ!?」

 

 雷速の黄金が、青雉に叩き込まれる。

バラバラに砕け散り、ゾロとサンジが解放されるが倒したわけじゃない。

青雉は見聞色で攻撃を察知し、電熱が込められた黄金の棒と電撃から逃げるために、散った(・・・)のだ。

二人の足下の砂鉄を操り、こちらへ手繰り寄せた。

 

「……二人とも、大丈夫?」

「グっくそ、問題ねぇッ」

「わけねぇだろ!?急いで手当しないと、凍傷になったら手足が腐っちまうぞ!!」

「船医命令、二人とも下がってて」

「いくらミサカちゃんや船医命令といえどッ」

「……引くぞ、クソコック」

「ハァ!?おめぇ、なに言ってんだマリモ!?まさかミサカちゃんやあの野郎に全部任せる気じゃねぇだろうな!!」

「……そうだ」

「テメェッ!!! なんだ、臆病風にでも吹かれたってのk――」

 

 喝を入れようとするサンジの胸元を、凍っていない手でゾロが掴み上げた。

彼の表情は……見るまでもなく、怒り心頭だと分かった。だがその怒りは、サンジだけに向けられているものではない。

 

「分かんねぇのかッ!?邪魔なんだよ、俺たちは!!!」

「ッッ!!!」

「今俺らに中てられた緩い殺気とコイツに中てられた殺気の濃さ、違いが分かってんだろ!」

 

 そう、さっき青雉が彼らを凍らせかけたのは、ついでに(・・・・)殺しておこうか、程度の認識だった。

同じ土俵に立てていない、今の彼らでは――この海兵と戦うことすらままならない。

それを分かっているからこそ、サンジは何も言い返すことが出来なかった。

 

「お前らもだ、引くぞ。船まで戻れ!!」

「お、おう!」

「二人とも早く戻って手当しないとな!」

「ほら、ロビンも行きましょ」

 

 一味がメリー号へ走る中、ルフィだけはその場から動かなかった。

 

「おい、何やってんだルフィ!」

「おれは行かねぇ」

「はぁ!?」

「……ルフィ、クソマリモの言う通り、俺たちじゃ」

「分かってる」

 

 ルフィは座り込み、その場から動かないという意思表示を行った。

 

「俺は船長だ。船員(クルー)だけに任せていけるか……俺は残る!」

「……勝手にしろッ」

 

 ルフィの言い分も確かだ。それにゴム人間の彼なら、電撃を扱うミサカやエネルの邪魔にはならないだろう。

そう考え、ゾロ達はルフィを置いて引き返していった。

 

「ミサカ、エネル。俺のことは気にすんな」

「……ん、分かった」

 

 ミサカは一言だけ、応えて前を向いた。

ルフィが自身の手を余りに強く握りしめ、自身の爪で傷つき血を流すほど悔しい思いをしていることを分かりながら、彼女は目の前で戦うことを決めた。

 

「ヤハハ、で、どうする?」

「電熱は通ると思う。エネルは……電流を凍らせることはできない、でしょ?」

「だが相手は覇気使いだ。見ろ、さっき一瞬掠っただけだぞ?」

 

 そう言って少し凍らされひび割れした脇腹を……雷速で動いていたはずの、彼を捕らえた証を見せた。氷を電熱で溶かしてみると、血が少量滴った。

 

「心網は私と同等か、少し上だろう。武装色は分からん」

「取り合えず、やってみよ……ううん、やろ。やらなきゃ、()られるよ」

「それもそうか。先手は貰うぞ!放電(ヴァーリー)!!」

 

 エネルの派手な一撃から、本格的な戦闘が始まった。

海賊成り立てのルーキーに、世界屈指の実力者―――大将青雉が牙を剥く。




 忙しいし眠いけど書きます、です、はい。
ちょっと更新速度遅くなりますけど、許してくださいデス!

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