ビリビリ少女の冒険記   作:とある海賊の超電磁砲

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13話 そして、次の島へ

 エネルの放電、を青雉は氷の壁を作り出すことで防いだ。

よく見れば層になっており、一枚一枚の厚さも十分。

これを貫くには只の放電では不可能だろう。

 

「アイス(ブロック)両棘矛(パルチザン)!!」

「ッ砂鉄の壁(ブラック・ウォール)

 

 青雉は盾をそのまま矛へと切り替え放つ。

地面から引き上げた黒い砂鉄の塊は、氷の矛を粉々にした上で溶かして見せた。

砂鉄一粒一粒を振動させれば大抵のものは粉微塵になり、発熱する。

 それだけではない、砂鉄同士が擦れ合うことにより電気、エネルギーが生まれるのだ。

 

超電磁砲(レールガン)

「チィッ!」

 

 今度は盾に使った砂鉄を熱で固め、複数の弾丸へと変える。

砂鉄によって生まれたエネルギーを使い、ミサカを欠片も疲労させずに放たれた。

青雉に中る直前、彼自身が冷気となり散って避けて見せた。

 

「そこだな!稲妻(サンゴ)!!」

 

 しかし、気体になって散ったということは、表面積が増したということ。

青雉の気配を探ることが出来れば、そこへ雷撃を叩き込みダメージを負わせることが可能となる。

 

「自然系と超人系の同質能力者コンビか……随分厄介だなぁ」

 

 そして、顔色変えずに背後へ現れる青雉。

エネルは確かにその気配を探ったはずだ、彼の見聞色の探索範囲はこの島くらい覆えるし、集中すればその索敵力の的中率は跳ね上がる。タイミングとしても、当たったと確信できる一撃だった。

しかし、青雉は雷撃を喰らった様子など微塵も感じさせず、ミサカを襲った。

 

(どうやって、何をして――それより迎撃を)

 

 疑問を横に捨て置き、電撃を放つ。

振り向いている時間などない、そんなことをしている間に彼はこちらに冷気をぶつけてくるだろう。

電撃で背後を焼き払う。紫電が奔り、青雉を襲うがそれをもう一度、今度は半球状にした氷の盾を前方に出現させ、防いだ。

 

「ヤハハ、同じ手が通じるとでも?――「暴雉嘴(フェザントベック!!)」――!? ヒ、雷鳥(ヒノ)!!」

 

 背後に回ったエネルが雷の鳥を放つ。だが、それよりも先に放たれた(・・・・・・・・・・)青雉の氷の鳥が――食い破った。

威力でも性質でもない、覇気の違いであり、今のエネルにあの攻撃を防ぐ手立てはない。

意表を突いたつもりが、あまりに早すぎる行動に驚いたエネルは一瞬の()が出来てしまった。

いくら本人が雷速で走れても、走ろうとしなければ(・・・・・・・・・)動けない。

 

超電磁(レール)――」

「アイスボール!!」

「ッ砂鉄の壁(ブラック・ウォール)―――ッ!!」

 

 氷の鳥を狙い撃とうとしたその時、青雉が冷気を放ってきた。弾丸では気体を貫くだけで、完全に防ぐことはできない。

 砂鉄の壁(熱壁)で防ごうとしたその時、冷気が破裂(・・)する。

砂鉄を覆いつくし、その向こう側のミサカへ冷気が襲い掛かり、凍り付いてしまう――光景を、ミサカが視た(・・)

 

「まさか、今のを避けたのか……?」

「ハァッ、ハァッ……!!!」

 

 頭痛のする頭を片手で抑えながら全力で後退し、一息ついたところで、今の青雉の行動をようやく理解した。

半球状の盾を作っておきながら、態々前方に出現させ背後をがら空きにした(・・)

雷速で動くエネルならば、隙だらけになった背後を狙ってくるだろうと予測した。青雉は避けるつもりが欠片もないため、背後の警戒心(避けるつもり)が無い青雉を狙うチャンスだとエネルがその通りに動いてしまった。

 後は、来ると分かっている背後にタイミングを計って(殺意をもってして)攻撃すればいい。

意表を突かれたエネルは、ご覧の通り覇気の籠った一撃を喰らい、ぶっ飛ばされてしまう。

チラッと確認すれば、氷の塊である鳥が破裂したのだろう、エネルは気絶はしていないようだが、傷だらけで蹲っていた。

 

「貴方、今エネルにわざと攻撃させた、の?」

「あぁ。うまくいって何よりだ」

「エネルが警戒して近寄らないとは、想わなかったの?」

 

 エネルが策に嵌ってくれたからいいものの、これは少しでも警戒されれば成功しない。

それどころか、敵に挟まれる形になり、ピンチを招くことすらある。

しかし青雉はそれを行った。迷わず、顔色一つ変えずに。

 

「あの男は強い。実際、サンゴとかいったか?アレは覇気で防いでも効いたぞ。

……まぁただ、戦闘慣れしてねぇだろ?見聞色が上だと思った、それくらいしか自分の動きについてこれるはずがない(・・・・・)。自分の能力に対する絶対の自信と傲りは、自然系能力者が陥りやすい傾向の一つだ。それと、可能性を一つだけだと思い込んじまうのは、実戦じゃ致命的だ」

 

 彼は大将と呼ばれる程の功績を立ててきた。

その座に就くために様々な強敵と戦い、研鑽を積んできた。

対人戦闘の経験が豊富であり、相手を分析するだけの知識がある。

 

短い時間(リアルタイム)で、エネルの癖を解析したっていうの……?」

「あぁ、お前さんもな――アイスボール」

「ッ!!」

 

 殺気を強く(・・)感じ、いつの間にか周囲に準備された冷気を焼き払うために、ミサカは放電する。

話している間殺気が緩かったのはインターバルではなく、単純に油断を誘うため。

見聞色が強いミサカは相手の気配をより強く感じ取ってしまう。それに緩急を付けられれば、こんな風に冷気を忍ばせ攻撃される。

 

「――アイスタイムカプセル」

 

 準備された冷気を焼き払うが、立て続けに起こった更に強い第二波に覆われてしまう。

準備していた青雉と、急遽迎撃したミサカでは、放出された力に差があり、ムラがある。

球状に放電しながらも、少し弱い場所を狙い撃ちされ、左肩を凍らされてしまった。

 

「っァ!?」

 

 パキパキパキと左肩の氷がミサカを覆っていく。

熱が奪われ、身体の感覚が少しずつ失われていくミサカ。

 

「あとはそこにいる船長と男、エネルだったか?……殺して、終わりだ」

 

 意識すら薄れていく中、青雉の呟きがミサカへ届いた。

彼はルフィを殺すのだという。海賊だし、賞金首だ。感じたところ彼は船で来たわけではないらしい、身柄を拘束せず殺そうとするのは、合理的だ。

 

(ルフィ……――みんな)

 

 ルフィを殺した後は、きっとメリー号へ戻った一味の元へ向かうだろう。

ゾロやサンジは挑んで、そのまま凍らされるだろう。もしくは、みんな仲良く船ごと凍らされるかもしれない

どのみち、麦わらの一味は終わり(・・・)だ。

 

(やだ、やだ……)

 

 駄々をこねようにも身体が凍り付いていくミサカには何もできない。

表面から凍り付いていき、何時かは体の芯から熱を奪い、ミサカの細胞全てを氷へと変えるだろう。

沈んでいく意識の中、ミサカはなにかを幻視した。

 

『『―――』』

 

 こちらへ笑いかける女性と男性……ミサカの両親。

走馬燈だろうか、それとも三途の川の向こう側で待っている二人の元へ、死に行くミサカが向かおうとしているだけなのだろうか。

 

(ママ……パパ……)

 

 死んでしまった二人を思い出した直後、他にも仲の良かった友達や先生の姿が浮かんでは沈んでいく。

全てミサカが過去持ち得て、失ったものだ。

彼女には抗う力が無かった。彼女には、何も出来はしなかった。

今も、何も変わらない。彼女はただ、何も出来ず失うだけだ。

 

――『合格だ』

 

 絶望に意識を失いかけたその時、脳裏に言葉がよぎった。

彼女を拾ってくれた、老人の声だ。

合格……そう、最後のテストで言ってくれた、認めてくれた。

 

 

 ――――今のミサカには力があり、貴女は強いのだと。

 

 

 直後、凄まじい轟音を響かせながら雷光が空へ上がった。

黑雷(・・)の余りの眩さに、青雉が目を細める。

 

「……あらら」

「――わたしは、アタシ、は」

 

 氷を溶かし尽くし、その身を焼く程の雷撃を自身へ(・・・)浴びせながら、ミサカはキッと青雉を睨みつけた(・・・・・)

 

「もう、何も()くさない。奪わせない!!!」

 

 それは一度すべてを失ったエレクトロ・D・ミサカの原点。

彼女を突き動かす、芯からの激情。

今の彼女の全てを開放し、改めて青雉へと向き直る。

余波だけで地面を焼く程の強いエネルギー、黒い雷を迸らせるミサカを警戒する青雉へ――掻き消える程の高速で接近した。

 

「んなッ!?」

 

 雷撃すら防ぐ盾を瞬時に青雉が造りだし、それを黑雷を纏う細腕で粉砕した。

冷気を放つも黑雷の放つ膨大な(エネルギー)により、容易に払われてしまう。

 加速なんてモノじゃない、人間にはありえない爆発力。

それを生んでいるのは彼女の黑雷であり、つまり覇気だ。

武装色の覇気を鎧の様に纏うのではなく、浸透(・・)させ、身体を効率よく最大限まで強化した。

その上彼女の能力で脳内のリミッターを除去、強化された身体の限界点を突破させたその力は、青雉の力などものともしない。

 

(まとい)――」

 

 驚き慄く青雉へ追撃する。

砂鉄を右腕へかき集め、青雉が見上げる程巨大な黒腕を作り出した。

黒く光る雷撃迸る黒い右腕を、真っ直ぐ青雉へと叩き付ける。

 

「武装・鉄黑巨腕(マグネ・ギガントアーム)!!!」

 

 黒雷は冷気を焼き尽くし、巨大な腕は武装防御を取った青雉を遠くへ吹き飛ばした。

 

「―――っ」

 

 だが安心はできない。相手は海を凍らせる実力者。

例え海の上へ飛ばされても、海を地面へ変えてしまえば問題ない。

そしてミサカは感触からして青雉は気絶しておらず、無事な可能性は大いに高い。

 ミサカは一歩を踏み出し―――倒れた。

 

「「ミサカ!?」」

「…………」

 

 覇気は消耗する。

ミサカは気絶するほどの覇気を扱ったことが無かった(・・・・)

この戦闘で、彼女は初めて自身の殻を一枚割ったのだ。

 しかし、そんなことを知らないルフィとエネルはミサカを心配し、駆け寄った。

凍傷に火傷を負っているが、息はしていることを確認し、二人は一安心する。

 

「無事、みたいだな。よかったぁ」

「は、ハハハ。全く、この状況でよく気絶など……」

 

 エネルは笑った。剛毅なモノだと。

ルフィはその小さな少女を抱えた。さっきの戦闘で魅せた強さなど、微塵も感じさせない程に軽く、細い。

 

「ルフィ、今のうちに船へ急ぐぞ。かなり吹き飛んでいったようだが、あの男は無事だろう」

「アレを喰らったのにか!?」

 

 巨大な黒い腕、迸る電撃だけでも受ければ人くらい倒せるだろうソレを、真正面から受けていた青雉がまだ無事だとエネルは断じた。

 

「最大限の冷気の壁を作り、後方へ跳んでいた。武装色とやらを使ってもいたようだったし、アレならば気絶はしていないだろう。あの男は海の上へ落ちたとしても、海を凍らせればいい」

「………じゃぁ急ごう。ミサカがこの状態で襲われたら、勝ち目はねぇ」

「ヤハハ、ハッキリ言うなお前は……まぁ事実、私も今のままでは勝ち目などないしな」

 

 見聞色の差ではなく、経験値の差で一時行動不能にされたエネル。

腹部を中心に胸元が血だらけで、彼自身重症なのは目に見えていた。

今まともに戦えば勝ち目はないが、船の上から迫ってくる青雉を雷撃で追い払うくらいは出来るはずだと、彼らはメリー号へと急いで向かった。

 

 

 彼女は丸一日意識を失ってしまった。

その間、エネルが警戒していた青雉の追撃は無かった。

もう安心していいという状況を確信するのに、三日はかけ、暫くの間一味は静けさに包まれていた。

 ミサカと青雉の戦いは、一味に衝撃を与えた。

特に、間近で見て感じていたルフィとエネルは、ミサカが意識を失っている間、何かを考えこむように黙っていたという。

 

 こうしてどうにか一波乱を超えながら、麦わらの一味はログを辿り、次の島へと向かった。

次の島は北――ウォーター・セブン、水の都と呼ばれる世界最高の造船所だ。




黑雷(こくらい)
 一枚殻を破ったミサカの本領、雷に渾身の覇気を練り込み威力を底上げするだけではなく、覇気を同じように自分に練り込むことで、纏うのではなく浸透させることに成功した。生体電流の操作も相まって、自身の超強化を可能とした。
 なお、覇気の消耗が激しいため、今のミサカでは短時間しか扱えない。今回初めて使ったこともあり、あっという間に消耗した上、回復に丸一日もかけてしまった。意識して扱ったとしても、使用後いくらかインターバルは必要である。

・激情
 ミサカの行動理由、根源、核。彼女の強さの秘訣であり、弱点。彼女がようやく自覚した、彼女が持ち得ている感情の一つ。
彼女はこのためならば、自分の雷で自分が焼けることも構わない。
文字通り、その身を焼き尽くす熱意。

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