ビリビリ少女の冒険記   作:とある海賊の超電磁砲

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16話 悪だくみ

 ガレーラカンパニー本社の屋上へと着地したミサカとゾロ。

勢いつけ過ぎて通り過ぎようとしたところを、反発と引力でうまいこと調節し、最後は無理やり空を跳ねて着地したのだが、ゾロにはキツイ体験だったらしい。

 

「おまっ殺す気か!?」

「んー……色々能力について考えて、初めてやったから調節が……ごめんね」

 

 ビリビリの実の能力は〝発電〟だろうとミサカは想像していた。

さらに電撃を操り、磁界すら操作するその自由性こそが真骨頂なのだと。

 

「多分、もっと色々できると思う……エネルみたいに雷速で動けない分、私は手札で勝負しなきゃ」

 

 エネルは雷そのものであり、実力もある。そんな彼に磁力操作を教えたところ、磁界は出来はしたのだがかなり大雑把なものとなっていた。

ミサカの様な緻密な磁力操作をものにするにはもっと時間がかかるか……もしくは、自然をモチーフにしたゴロゴロの実では、そこまで細かいことは出来ないのかもしれない。

 

「たくっ……んじゃ、いくか」

「うん、ゾロどこ行く気?扉はこっち」

「下の窓から入った方が早いだろ?」

「下に人もいるのに、派手に窓を破る気?音と姿でばれちゃうでしょ……」

 

 ゾロの方向音痴を防ぎながら、二人はこそこそと移動を開始する。

社員はマスコミの対処に追われているらしく、あっさりとアイスバーグの居ると思われる寝室へ辿り着いた。

彼の部屋だと分かる理由として……分かりやすく、数人職人が心配そうに座って陣取っていたからだ。

 

「……どうする?」

「………」

 

 このガレーラには職人とは思えない実力者がいる、とルフィやナミが言っていたが……なるほど、あの四角い鼻の人と部屋の中にいる気配の人は頭一つ抜いて強い。

特に前者は……ゾロでも厳しい相手かもしれない。

 

「………ん、こっち」

「?」

 

 ゾロの手を引いて、トコトコ歩いていく先は……アイスバーグ部屋の真上の部屋。

誰かいたら痺れてもらうつもりだったが、誰もいないようで良かった。

 

「何する気だ?」

「……――融解」

 

 片手を硬化し地面に指を埋め(・・)、円形に電気を走らせる。

派手な電撃は人を呼び寄せてしまうが、目に見えない電流を延々と同じ場所に周回させればそんなことはない。

電熱によって地面がゆっくり溶けていき、円形にくりぬいた(・・・・・)

 

「っ貴女は――」

 

 アイスバーグの部屋に控えていた、秘書らしき女性が驚いた顔でこちらを見るが、あいにくこれは奇襲。

彼女が言葉を発するよりも先に、彼女の背後に周り電気を首筋に浴びせた。

人を気絶させるのに、派手な一撃はいらないのだ。

取り合えずちょっと隅で寝てもらい、ベッドへと近づいた。

 

「この人が……アイスバーグさん?」

「いや、知らねぇぞ」

「……多分、アイスバーグさんのはず」

 

 二人はアイスバーグの顔を知らないが、暗殺されかけ重症である男が本社で寝かされているという情報を知っている。

この島には病院らしい場所は無い。小さな医院くらいはあるのだが、大きな施設は無いのだ。

海列車で病院のある場所に運び込まれるか、腕のいい医者を連れてくるのが当たり前の島。よって、此処で安静にされているこの男性がそのはずだ。

 

「ん、ここは……っ」

「まって」

 

 叩き起こそうとするゾロを止めていると、丁度意識が戻ったらしい。

ミサカとゾロを見て驚き、騒ぎ出す前にその口を片手で抑えて止めた。

 

「襲撃に来たわけじゃないの……貴方に、訊きたいことがあってきた。お願い、静かにして」

「………」

 

 こくこくと頷いたのを確認して、ゆっくり手を放す。

 

「ンマー……俺に用ってのは、昨日……昨日か?」

「うん、貴方が撃たれたのは昨日の夜。私たちは、それが誰かを知りに来たの」

「そうか……昨晩、俺を撃ったのは仮面の男と――お前たちの仲間、ニコ・ロビンだ」

 

 言うやいなや、布団から突き出した彼の手には一つの銃があった。

 

「こうみえて俺は用心深くてな……こっちからも一つ頼み事だ、今すぐニコ・ロビンに会わせろ」

「………ロビンは昨晩、多分海軍の誰かに誘われて船からいなくなった。どこにいるか分からない。ロビンにあってどうするの?」

「……ッ!?」

 

 無言で引き金を引こうとした彼だが、その前にミサカの手が触れた。

同時にガクンッと腕から力が抜け、そのまま銃はベッドに落ちた。

 

「……何しやがった?」

「生体電流を操って、腕の信号をシャットアウトした……他人のは触れてないと出来ないし、集中力要るけど、貴方なら近づいても問題ない」

「チッ」

 

 憎々し気に舌打ちするアイスバーグ。

素のスペックでは、覇気が使えなければただの少女のミサカにとって、ゼロ距離というのは本来あり得ない。しかし、彼くらいならどんなに暴れられても問題はない。

そう言えるだけの実力が、彼女にはある。

 

「教えて、ロビンは何をしに来たの……貴方は、何に狙われて、こうなってるの」

 

 数分、彼は悩んだ後口を開いた。

 

「………お前らは、あいつが何をして世界に追われてるか知ってるか?」

「……歴史を追ってるってことくらいなら」

「あぁそうだ。その探求が、結果として世界を滅ぼせる古代兵器を呼び起こすことになる」

「古代兵器……」

「ただ歴史を知りたい、それだけの興味が世界を滅ぼすのなら……あの女は死ぬべきだ」

「テメェッ」

「ゾロ、落ち着いて」

 

 憤るゾロは、やっぱり仲間想いなんだとよく分かる。

それ比べてミサカは頭が冴えていくのを感じていた。

 

「ロビンは歴史を知るために、態々暗殺なんてしない……ロビンなら、歴史を盗み知るもの」

「………………お前たちとグルではなく、単独犯でもねぇならあの女は今、おそらく世界政府(・・・・)に使われている」

「世界政府?」

「あぁそうだ。政府はよりによって、あの女を殺すのではなく利用するつもりらしいな」

「……ロビンが興味があるのは歴史。貴女が狙われた相手は、どっちかというと世界政府。その世界を滅ぼすような存在に、貴方が狙われた理由はその兵器絡み?」

「……そうだ。政府は俺にその設計図をよこせと、しつこく迫ってきてたからな。ついに実力行使に出たらしい」

「どういうことだ?」

 

 疑問符を浮かべるゾロだが、ミサカは察し纏めた考えを言葉に出した。

 

「世界政府はロビンを使って、世界を滅ぼせるナニカを、手中に収める気なの?」

「そういうことになるな」

「私たちから離れて、世界政府と一緒に……脅されて?」

「そこまでは知らん……知らんが、そういうことかもな」

「……………ありがと」

「………」

 

 手を放し、アイスバーグを自由にする。

ゾロも察したらしく、黙った。

つまり、世界政府から20年逃げ続けたロビンが、怨敵のはずの世界政府に使われるしかない状況に居る……大半の理由は、弱みを握られている。

この場合の弱みなんて、言うまでもない……麦わらの一味だ。

 

「ロビンは一味を滅ぼす手段を持った、世界政府の脅しに屈している」

「ンマーそういうことだ。両者ともに信じがたい(・・・・・)ことにな。……にしても全く、文字通り命を握られるって体験を、連日とはな」

「ごめんなさい……」

「あぁまぁ仕方ない……それよりお前ら、俺に雇われないか?」

「「?」」

 

 アイスバーグの言葉に揃って首を傾げる。

二人にとって用件は済んだのだし、もうここにいる理由は無い。

しかし、押しかけ色々教えてもらうばかりというのも確かに悪いし、聞いてみることにした。

 

「俺の考えが確かなら、恐らくもう一度襲撃される。その時に切れる手札がもう一枚欲しい」

「私たち?」

「あぁ。俺は死んでも世界政府に渡したくない物がある。お前たちは、世界政府にとらわれ状態のニコ・ロビンを欲している。お互い、相手は同じだ」

「……」

「……いいよ、どうしたらいい?」

 

 ゾロと頷き合い、短い時間だが三人の悪だくみが計画された。

 

 

―――

 

 

 海賊と市長が悪だくみしているその時、ルフィは裏町で暴れていた。

相手はフランキー、ここウォーターセブンでは有名な荒くれ者だ。

 

「オウオウ!!なんだてめぇ、俺様はあの野郎に用があるんだがなぁ!!」

「ん、悪い。でも原因俺らなんだし、別にいいだろ?」

「ア?」

「お前の子分が奪おうとした金、俺らのだったんだよ」

「ほー海賊がどこぞから盗んできた金か」

「にしし、空島からな!」

「?」

 

 冒険を思い出して笑うルフィを怪訝な顔で見つめるフランキー。

海賊と言えばもっと横暴で自分勝手で我儘……こんな子供のような男がそうだとは、見えなかった。

 

「ゴムゴムのぉ~~銃弾(ブレット)ォ!」

「おぉっと」

「ハハ、強ぇな」

 

 腕の()で防ぐと、その威力がよく分かる。

腕っぷしはたしかにあるのだが、笑うその姿は海賊には見えない。

 同様にルフィもあっさり技を防ぐ相手の強さを察し、それでも余裕を保つ。

ルフィは自分に出来ることと出来ないことがあるのを、よく知っている。

彼一人では航海すらままならないことを、よく知っている。

だから今回のこともそんなに焦っていない。皆ならロビンを見つけてくれる、ロビンを見つけたら話を聞くのだ。

 

「あ、そうだ。お前ロビンしらねぇか?」

「ロビンん?しらねぇなぁ!」

「そっか」

 

 言いながら彼らの攻防は裏町に多大な被害を与えていく。

住民は慣れたもので、避難していった。

そんな二人の元に、一報が届いた。

 

「ルフィ、あんた何してんの!?」

「ん?ナミか、どうした!?」

 

 現れたのはナミ。彼女は息を荒げて新聞を見せた。

 

「ミサカが本社で強盗したって!!」

「アイツが?」

「うん。それで、市長暗殺未遂の疑惑(・・)が私たち一味にかかっちゃって、大騒ぎよ」

「まぁ追われんのはいつものことじゃねーか」

「笑い事じゃないわよバカ!! ともかく、まだ疑惑だから何とか船も預かってもらえたけど……盗んだ物がないか、持ち物全部没収されちゃって。疑惑もあるからミカンの木までよ!?ほんと信じられない!」

 

 黄金も衣類食器、ナミのミカンの木まで疑惑が晴れるまで市に没収されてしまったらしい。

ミカンの木はナミにとって何よりの宝物であり、怒り心頭といった具合だ。

 

「まぁ船乗り換えるときに全部移動しなきゃいけねぇんだし、手間が省けたじゃねぇか。それよりロビンは?」

「未だ捜索中!」

「分かった、そっち頼む!強盗はわかんねぇけど、ミサカが意味ないことするわけねェし、今は何よりロビンだ!!」

「分かってるわよ!あんたもさっさと手伝ってよね!!」

 

 ナミは走って探索の続きを始めた。

そこでふと、フランキーからの攻撃が止んでいることにルフィが気づいた。

 

「あの野郎が、暗殺?」

「あぁ、何だ知らねぇのか?」

「あぁ子分共のことで頭一杯でな……っておい麦わら!てめぇどこ行く気だ!?」

 

 ゴムの腕を伸ばして建物の上へ跳んだルフィを見て、フランキーが呼び止めた。

 

「あのツンツン頭も離れたみてぇだし、俺もやることあるんだよ。んじゃーなー海パン野郎~!」

 

 最後まで明るい麦わらの少年は、そう言って去っていった。

 

「………たくっ何だってんだ」

 

 フランキーは改めて、ツンツン頭の海兵を追うことにする。

裏町は彼の庭、ウォーターセブンに居て彼から逃げ切れるなど、通常ではありえないのだ。

 

 

―――

 

 

「ンマー、悪いなカリファ。無理させちまって」

「いいえ……それより不覚です。それに、こんな時に強盗とは」

「こんな時だから、かもな」

 

 起きた秘書、カリファを労わるアイスバーグ。

海賊による強盗は、気絶するその直前に見たカリファが流したものだ。

アイスバーグは起きたその時に二人の海賊に会ったことは告げていない。

暗殺犯もよく覚えていないと告げ、事件は未だ難航していた。

 

「それで、奪われたものは?」

「あぁ……」

 

 ごくりとカリファの入れた紅茶を飲みながら、アイスバーグは言った。

 

「なんてことはない、ただの紙切れだ。木っ端海賊には価値の分からんものだろうよ」

「………そうですか」

「ただ……あいつ等に価値が分からなくとも、他の連中は違うかもしれん。大急ぎで見つけ次第捕まえてくれ」

「わかっています。任せてください」

 

 強盗ということで一味は追われているが、暗殺犯が分かっていない今アイスバーグの防衛の方に人が割かれている。

その為、小規模にしては実力の高い一味を捕まえられるものがおらず、どうにか預けに来た船を取り押さえるのがやっとという状況。

 

(ここまでは思い通り……頼むぞ、嬢ちゃん達)

 

 敵も味方も欺いて巻き込んで、街中大騒ぎにした三人の悪だくみがどうなるのか。

勝負は、アクア・ラグナがやってくるであろう今夜まで。

きっと起こるであろう襲撃を警戒しながら、アイスバーグは静かにその時を待った。


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