ビリビリ少女の冒険記   作:とある海賊の超電磁砲

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17話 襲撃の夜

 日が落ち、夜がやってくる。

アクア・ラグナが迫っているウォーターセブン、その下町からはすっかり人の気配が無くなっていた。

全員が津波を警戒し、街の上へ上へと非難しているのだ。

 

「………あぁ、入ってくれ」

 

 ゆっくりしていたアイスバーグの部屋に、ノック音が響いた。

促し入れられたのは、神妙な顔つきの職長パウリーだった。

 

「なんです、俺に用って?」

「………………ンマー、色々考えたんだがな。お前さんにも一つ頼んでおこうと思ってな」

「?」

「俺が政府を突っ返してんの知ってるな」

「えぇ」

 

 アイスバーグの元に政府の役人がやってきては、追い返されるのはここ数年で恒例になるほど職人たちは目にしていた。

ここで働いている人間ならば、誰しもが知っているはずだ。

 

「アイツらが狙ってるのは、マー詳しいことは言えねぇが、ある設計図でな」

「設計図?」

「あぁ。今回の件は、それを実力行使でって感じだろう」

「………それで、俺にどうしろってんです?」

「まず、社長室の金庫にある紙束を手に入れに行ってくれ。これは誰に見られても構わねぇ……それともう一つ、麦わらの一味だが」

「確か暗殺未遂の疑惑が掛かってましたね」

「あぁ。アイツら今回味方だ、一芝居打ってもらってる」

「なっ」

 

 よりによって海賊と組むとは、いったい何を考えているのかと驚愕するが、よくよく考えれば相手は政府の人間。

無法者を雇った方が確かに理にかなってもいた。

 

「アンタは、ホント無茶しますね……」

「ンマー、これくらいの無茶無謀には慣れたもんだ。あぁそれで、だ。紙束は偽物なんだが、恐らく襲撃される……だから―――」

 

 その後、金庫の番号を聴いたパウリーは一人で社長室へと向かった。

そこにある偽物の紙束を手に入れ……そして。

 

「此方へ渡したまえ、君にはその価値を見出せん」

「マジで現れたか……外も騒がしいな」

 

 仮面をつけた二人が現れると同時に、本社に爆音が響いた。

外が騒がしいことから、襲撃(・・)されているのだと察する。

 

「てめぇらに渡すもんなんざねぇよ!」

「……致し方なし」

「ッ」

 

 瞬きなんてしていなかったはずなのに、パウリーの目の前に現れる牛の仮面。

高速移動だと気づいた時には、魔の手が彼に迫っていた。

 

(あぁくそ、確かにこんなのが二人相手なんざ俺には無理だっ)

 

 脳裏にアイスバーグから言われた言葉がよぎる。

 

『だから―――隠れてお前についてってる嬢ちゃんに助けてもらえ、腕っぷしは確かだ』

 

 牛仮面の背後に落ちてきた(・・・・・)のは、茶髪の少女。

紫電を体に奔らせる彼女の名は、エレクトロ・D・ミサカ。

ここ最近麦わらの一味に入った少女であり、1億5千万相当の賞金首。

 

「――」

 

 そんな危険人物に、牛仮面が気づいた。

しかし遅い、彼の手がパウリーに伸びて居なければ間に合っていただろう防御行為もなく、少女の加速した黒拳が顔面へ突き刺さった。

しかし、牛仮面も相当な実力者。常人なら地面へ叩き付けられ気絶するだろうに、あろうことかその場で耐えてみせた。

 

「……なっ」

「……」

 

 しかし、耐えたからこそ仮面が弾け飛び、その素顔が露わになる。

パウリーもよく知った男だった。いつも肩にハトを乗せ、腹話術で喋っていた男。

一緒に仕事をして、一緒に騒いで、一緒に呑んだこともある、親しいと思っていた人物だった。

 

「お前、ルッチ?!」

 

 驚愕するパウリーだが、事態は休むことなく進んでいく。

口から一筋の血を流しながら、ルッチは冷ややかな目でミサカを睨む。

パウリーに伸びていた手はそのままミサカへと矛先を変えた。

 

指銃(しがん)

 

 一本の指で少女を貫こうとしたが、それは黒く染まった少女の肌に防がれる。

武装色の硬化だと気づいた時にはミサカの雷撃が放たれようとしていた。

 

「――っ」

 

 しかし、もう一人の骸骨仮面が放った蹴り、その衝撃()によってミサカの小さな体が壁に叩き付けられた。

壁が斬れるその威力、硬化していなければミサカもバッサリいっていたのは言うまでもないだろう。

 

「おい、大丈夫か!?」

「ん」

 

 ミサカを心配してくれるパウリーの声に頷きながら、蹴りの刃という未知の攻撃に驚く。

レイも剣を使って同じような衝撃刃を飛ばしてきたが、それを蹴りでやるとはとんだ人外である。

 

「……エレクトロ・D・ミサカじゃな。まさか、賞金首と組むとはのぉ」

「……全く、度し難い」

 

 骸骨仮面の声を聴き、もう驚かねぇぞと頬を引き攣らせるパウリー。

今聞こえた声は、山風と呼ばれ親しまれていた男。

 

「てめぇもかよ、カク!!」

「すまんのぉ。しかし、政府が大人しく申し出とるうちに渡さんから、こう(・・)なるんじゃ」

「このっ……いや、まて。アイスバーグさんの部屋の前を守ってたお前らがここにいるってことは」

「安心せい、まだ無事じゃ……まぁそれも今だけの話じゃがな」

「カク――っ嬢ちゃん?」

 

 ミサカは憤るパウリーの腕を掴み、止めた。

 

「………この二人の相手は私がするから、行って」

「何無茶言ってんだ!?」

「無茶じゃない」

 

 高速移動し、蹴りで壁を斬って見せた二人にたった一人でいいという少女の言葉を信じられず、怒鳴り返すパウリー。

しかし、あくまでミサカは冷静だった。

 

「私なら大丈夫。それより、今は真っ直ぐ走って。貴方が傷つくのは、誰も望んでない」

「悠長だな」

「逃がすと思うとるのか?」

 

 意見が割れている二人に、高速移動で左右から迫るルッチとカク。

その五指と蹴りには、人体を貫き、斬り裂くだけの威力がある。

しかし、パウリーを背後に放り投げたミサカは、そのどちらも受け止めて見せた。

 

「走って、早く行ってっ」

「っ」

 

 今の両者の一撃をパウリーは、反応できても止められる自信はなかった。

明らかにレベルが違う、自分では足手まといだと自覚した彼は悔しそうに走り去った。

 

「無駄なことを、逃げられんぞ」

「――それは、こっちの台詞」

 

 ミサカはグッと受け止めた腕と脚に力を入れ二人を地面へ叩き付けた。

しかし、鉄の塊でもぶつけたかのような音がして、地面に亀裂が入るだけで二人とも無傷だった。

 

「逃がさない。ロビンはどこ?」

 

 頑丈で、速くて、強い。確かにこの二人は今まで出会ってきた人たちとは違うようだが、それでも大将と比べれば(・・・・・・・)まだ容易い。

 ルッチとカクは少女の手から逃れようとするが、彼女の覇気に阻まれ攻撃が通らない。

1億5千万の賞金首は、探せばざらにいる。だが、この目の前にいる見かけ小さな只の少女は、どう考えてもその額に収まる実力ではないと、二人の認識が切り替わるのはすぐだった。

 

「貴様に教えることなど、何もない――っ」

「?」

 

 ググっと抑えていたルッチの腕に違和感を覚えた。

腕がミサカの胴より圧倒的に太くなって、掴んでいられなくなっていく。

いや、そもそもルッチ自身がどんどん変化していっている。

身体が変化するのは、自然(ロギア)系と――動物(ゾオン)系。

 

「ネコネコの実……モデル〝(レオパルド)〟――生命帰還」

 

 豹と呼ぶには人間らしく両の足で立つ歪な姿。

正しく豹人間と化した彼は、立っただけで部屋の天井に付く程の巨漢になった。

しかし、それがみるみる縮んでいき、最終的にはスマートになる。

比べると威圧感は少なくなったが、この部屋の中で戦うならば先ほどの巨漢よりもこっちの方がいいだろう。

 

「カクを離してもらおうか――嵐脚(らんきゃく)凱鳥(がいちょう)!」

 

 カクが放ったソレとは比べ物にならないほど強大な斬撃。

自由になった片手を黒く染め斬撃を弾き飛ばしたミサカに、更に速くなった高速移動で迫る。

 

剃刀(カミソリ)

 

 それだけでなく、その速度のまま空を駆けてみせた。

負けじとミサカも空を同じように跳ねる。

 

月歩(げっぽう)では逃げられんぞっ!」

「んっ」

 

 動物系は身体能力が向上する。まともに受ければミサカでは一溜りもないのは明らかなため、接近戦は避ける方が無難。

しかし、彼女も退けない理由があった。

嵐脚が乗った蹴りを覇気で受け止めると、返しに雷撃の槍を放ち相手を怯ませる。

 

「別に、それが出来ないわけじゃ、ない」

 

 更に同じように高速で空を駆け、怯んだ豹人間に蹴りを叩き込んだ。

しかし、ルッチもカウンターとして、指先で弾いた衝撃破でミサカの手を狙い、カクを弾き飛ばして見せた。

 

「すまん」

「さっさと行け」

 

 電撃を逃げるカクに向けるも、それを嵐脚で妨げられた。

雷は空気を伝うため、空気を断ち切る嵐脚は相性が悪い。

 

「空気の斬撃は、厄介」

「此方の台詞だ、覇気使い」

 

 首を鳴らしながら、政府でも恐れられている男が本気で、一人の少女を止めるためだけに立ち塞がった。


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