ビリビリ少女の冒険記   作:とある海賊の超電磁砲

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18話 襲撃の夜②

 対峙し合う二人―――小柄な少女と見かけ化け物の男。

しかしその両者ともに実力者であり、暴れだせば止められるものなど少数しかいないであろう危険人物だ。

 

「覇気、知ってるんだ」

「職務上、貴様の様な奴の相手をしたことがある……数回程な」

 

 覇気使いは強者が多いが、決して無敵ではない。

覇気で防げない威力の攻撃なら通るし、意識外の攻撃は当たる。

暗殺しろと言われれば、幾らでもできる。

 

「凱鳥すら防ぐ相手に、こうして真正面から挑みたくはないが、仕方ない」

「こっちもこの展開は想定外だから、お互い様」

 

 本当ならば紙束を持って逃げたミサカを、仮面の誰かが探し出すのを期待していたのだが、全く持ってそんなそぶりはなかった。

そのため、パウリーに態々頼んでもう一芝居うつことになったのだ。

 

「私が盗んだのが望みのモノだって、思わなかったの?」

「探せる場所は隅々まで探した。だから我々はこうして潜入していたのだ」

 

 盗みに長けた者ならばいざ知らず、武力が取り柄の小娘が容易に盗めるのならば、こんな苦労はしていない。

 

「なるほど……で、ロビンはどこ?」

「ふっ貴様、あの女がどんな存在か知って言っているのか?」

「その問答はもうした。私の答えは変わらない」

「そうか――では、死ね」

 

 殺気を放ち、空中を駆ける二つの影。

狭い一室で始まった戦闘は、過激さを増していく。

 

 

――

 

 

 一方。爆音からしばらくして、アイスバーグの自室でも事件が起こっていた。

隣の部屋の壁をドアにして(・・・・・)、仮面をつけた人物が一人入ってきたのだ。

 

「……驚いた、そんな方法で来るとはな」

「ドアドアの実、どんな硬い壁でもおれの触れた部分はドアになる。壁さえあれば、俺はどこでも出入りできる」

 

 そう言ってベッドに横になっていたアイスバーグへ近づく仮面の男。

 

「さぁ、用事を済ませようか。こちらも時間が無い」

「………今日は、あの女は一緒ではないんだな」

「元々海賊に罪を被せる為に使おうとしていたからな」

「なるほど」

 

 麦わらの一味は暗殺疑惑で追われている。

しかしその追われていることが、同時に彼らの無実を証明してしまう。

特に今日強盗に入っただけ(・・)のミサカなど、殺意が無いのが明らかだ。

 

「命の危機に陥れば、誰かに託すと思っていたが……その相手がパウリーとはな」

「……………仮面で籠って聞こえづらいが、そうか、お前……ブルーノか?」

「……」

 

 男は無言で仮面を外し、その素顔を晒した。

想像通りガタイの良い男で、行きつけの酒場の店主だった。

 

「そうか、ウォーターセブンに潜入していたわけか……じゃぁ他にもいるな?」

「全く、貴方の頭のキレには惚れ惚れするわ」

「本当じゃのぉ。流石と言えば、流石じゃが」

「っ――パウリー?!」

 

 もう二人、扉を開けて入ってきたのは、仮面の女性と、自身もよく知る大工職職長カク。

しかし驚愕すべき点は、パウリーがボロボロになり引きずられているという事実だった。

 

「お前たち……随分遅かったな。爆音が上がる頃には、終わらせているものだと思っていた」

「ちぃと邪魔が入っての。ルッチの奴が頑張っておるが……時間が無い」

「どういうことだ?」

 

 カクの脳裏に一人の少女が浮かぶ。

悪いが、ルッチでもあれはきついだろうと彼は予想していた。

 

「さて、色々聞きたいことが出来たので尋ねましょうか」

「その声は、カリファだな……」

「……まぁ、分かるでしょうね」

 

 あっさり認め仮面を取った、自身の秘書だった女性。

もう驚くことを止め、兎にも角にもパウリーを放せと言うアイスバーグ。

彼女はパウリーが握りしめていた紙束と一緒にパウリーを放った。

息はあるらしいが、十分重症だ。

 

「古代設計図プルトンではなく、それはただの船の設計図……しかし、乗っている設計士の名前に聞き覚えがあります」

「………」

 

 懐かしい図面を見てしまったと思っても、もう遅い。

 

「まずトム。これは過去裁かれた魚人の男……次にアイスバーグ、これは貴方……そして〝カティ・フラム〟……4年ほど前に貴方を訪ねてきた男が、一度だけその名を名乗りましたね。アロハに海パン一丁の非常識人――そう、フランキー」

「………それで、あんな男に俺が何か託したと?」

 

 必死に動揺を隠しながら、アイスバーグは薄ら笑いを浮かべ挑発にも似た言葉を放つ。

しかし、彼らにその言葉の真意を測る時間は無い。

 

「悪いですが、制限時間(タイム・リミット)です」

「なに?――まさか」

 

 とっさに窓の外を見て、気づいた。

黒煙と、下からの明かり―――火の手が上がっている。

 

「もうじき、此処は炎に包まれる。貴方達は死に、真犯人は闇の中だ」

「一般人を殺していいのか?」

「我々は、その特権を持っていますので。まぁだから我々の正義は語られないのですが」

「市民殺しの正義など、あってたまるか!!」

「何と言おうと、これは正義の行いです。貴方たちは放っておいても焼死するでしょうが……一応、この手で殺しておきましょう」

 

 近づいてくる彼らに冷や汗をかくアイスバーグだが、それでも逃げようとはしなかった。

自分ではパウリーを抱えて逃げることなどできはしないと分かっていたのもあるが、それ以上に自分が動く必要など無かったからだ。

 

「いいや、そうはいかねぇ」

「「「!?」」」

 

 聞こえたのはベッドの下。

現れたのは―――飛ぶ斬撃。

 

「三十六煩悩(ポンド)鳳!!!」

 

 三人が驚き、全員が鉄塊という技で斬撃を防いだ。

体重の軽いカリファなど、軽く後方にのけぞるほどの威力。

こんな斬撃を放てるのは、そう。

 

「ロロノアか……!」

「よっと。んじゃ、あばよ」

 

 アイスバーグとパウリーを抱え、彼は窓から跳び去った。

ここは四階、人二人抱えて無事に降りられるものではないのだが、鍛え抜かれたゾロは途中の壁を斬ったり蹴ったりして加速を殺しながら落ちていった。

 

「……してやられたわね」

「まったく、想定外ばかりじゃわい……急いでフランキーの元へ行こう、確かあ奴はどっかの海兵を追って町中を走り回っとるはずじゃ」

「ルッチはどうするの?」

「邪魔をしてはいかん……火事に乗じて、逃げるじゃろうて」

 

 三人はゾロを追うのを諦め、フランキーを探すことにした。

幸か不幸か、フランキーはあっという間に見つかった。

 

「待ちやがれぇ!!!」

「ちくしょー!!なんでどこ行っても見つかるんだ!?」

「この街で俺様から逃げようなんざ、百年早いんだよ!」

「不幸だぁぁああ!!!」

 

 騒がしいツンツン頭の海兵を、フランキーとその子分たちが追っていた。

なんともまぁ騒がしいものだが、都合のいいことに近辺は避難して住民がいない。

……彼にとっては、同時に助けてくれる人が居ないということでもあったため、やはり不幸なのだろう。

 

「嵐脚」

「え」

「アォ!?」

 

 カクの放った斬撃が、トウマとフランキーの間に割り込んで両者を止めた。

直後着地したカリファの棘鉄鞭によって、フランキーを縛り付け、拘束した。

 

「「「「「「アニキ!?」」」」」」

「邪魔は許さん」

 

 子分たちの前に立ち塞がるのは、ブルーノ。

大勢を相手取るも難なく捻じ伏せ、一人たりとも近寄らせない。

 

「おめぇら!!」

「フランキー……いや、カティ・フラムだな」

「ア?山猿に……てめぇら揃って一体何の用だ!?」

「古代兵器プルトンの設計図、そのありかを話してもらおう」

「……知らねぇなぁ」

 

 激昂していたフランキーが、古代兵器の単語を聞いて一瞬表情が変わった。

余裕の表情を作り直すが、その一瞬を彼らは見逃さない。

 

「ふっ……お主は本当、嘘がへたじゃのぅ。アイスバーグを少しは見習ったらどうじゃ」

「………アイスバーグを暗殺しに行ったのは、てめぇらか」

 

 合点がいったと睨みつけるフランキー。

だが、彼らは飄々とした様子でそれを流した。

 

「さて、悪いが此方も時間が無い。おぬしには都合のいいことに8年前、海兵と役人から100人を超える重傷者を出した罪がある。――連行していくぞ」

 

 そう言って連れていこうとしたカク、彼の腕を止める者がいた……トウマだ。

 

「ちょっと待てよ、行き成りなんだ古代兵器とか過去の罪とか」

「………我々は政府の者じゃ。犯罪者を連れていく、その邪魔をすると言うのかの?」

「っ」

 

 とっさに止めただけのトウマにその言葉を論破するだけの理屈などない。

しかし、ただフランキーを連れていくだけの様子ではない彼らを放っておくのも、正しくはないと思っていた。

 

「………俺もついていかせてくれ」

「理由は?」

「そいつには散々追っかけられてたんだ、どんな罰を受けるかくらい見てもいいだろ」

「………まぁよかろう」

 

 彼らは縛ったフランキーを連れ、海列車へと歩き出した。

ボコボコにされた子分たちは、それをただ這いつくばって見ているしかなかった。

彼らには何もできない、はずだった。

 

「………ヤハハ、全く面倒な。さてどうするか」

 

 そこに彼が現れなければ、きっと彼らはその後どうすればいいかも分からなかっただろう。

 

「海兵全員倒してもいいが、私にあの女を止める言葉は無い……しかし、一味の奴らを呼んでくるのも面倒だ」

 

 雷速で告げに行っても、他の者が雷速で動けるわけじゃない。

全員離れた場所にいる為、時間稼ぎが必要だろう。

 

「おい、這いつくばっている者どもよ」

「?」

 

 フランキー一家、その子分たちは痛む身体を起こし、怪訝な顔で彼―――エネルを見る。

さっきこの近辺には誰もいなかったはずなのに、この男は急に現れた。

そのくせ、事情を把握しているという不可思議な存在。怪しく思うのも仕方ないだろう。

 

「アイツらに一泡吹かせたくはないか?」

「な、んで」

「ヤハハ、私は神になる男。――願うのならば、叶えてやるのも役目よ」

 

 ただの戯れだと、エネルは告げる。

だがこのまま慕っているアニキを連れていかれるのを見ているだけなんて、彼らにはできなかった。

しかし、彼らには一人止めることすらままならないのも事実。

 

「力が、欲しいのだろう?」

 

 (まるで悪魔)の様な男の囁きに頷くのに、抵抗などなかった。


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