ビリビリ少女の冒険記 作:とある海賊の超電磁砲
暴走海列車に乗った一行。道中は海賊らしく、平穏にはいかなかった。
「「つ、津波だぁぁあぁあ!!!」」
ウソップとチョッパーが揃って叫び怯えるのも仕方ないと言えるほど、大きな津波。
巨人ですら飲み込まれるのは想像に容易いほど大きな津波に、海列車が呑まれようとしていた。
「おぉー、でけぇな」
「アレがアクア・ラグナね……確かにガレオン船も吹っ飛びそう」
「ンマー、このままじゃ海列車も吹っ飛ぶだろうな」
「そんな……って、アイスバーグさん!?運転席にいなくていいの?!」
航海士であるナミの呟きに肯定どころか、最悪の現実を伝えに来たアイスバーグ。
彼はこの列車を動かす車掌のはずなのだが、平然と座って輪に加わった。
「俺の役目は海列車を線路に乗せるまで、だ。なにせ暴走してるからな、そもそも運転できる代物じゃねぇ」
「つまり?」
「常時フルスロットル、なんならブレーキも効きゃしない。ンマー、その代わり間違いなく最速で着くぞ」
彼の言葉は沈まなければという前提があってのこと。
このままでは全員そろって海の藻屑である。
「任せろ、フランキー一家特性のキャノン砲がある!」
急げ急げと全員が津波に穴をあけようとバタバタ準備している中、ふとアイスバーグが一人の少女が居ないことに気付いた。
「……おい、ミサカの嬢ちゃんはどこいった?」
「「「「「「へ?」」」」」」
「ヤハハ、前だ。面白いものが観られるぞ」
久しぶりに目隠しを外したエネルが指さしたのは、海列車の頭、ロケットヘッドが付けられた場所。
本来ならとんでもない速度で動いているこの列車の上に立つことなどできない。
だが磁力でくっつけられるミサカは吹き飛ばされることなく、そこに立っていた。
「邪魔、しないで」
彼女の両手には、それぞれ雷の球体が存在しており、それがどんどん強まっていく。
「中々の電圧だ。ヤハハ、気合十分というわけか」
電撃とは思えないほどきれいな球体となった2つの球体、みかけ野球ボールほどの大きさのそれを、両掌を前に突き出し合わせた――瞬間、空気が爆発したかのような巨大な轟音が轟いた。
強烈な光を直視できたのは、本人であるミサカと雷そのものであるエネルだけだろう。
その構造を二人は理解しきってないが、電気、この場合電子だろうか。いつも使っている大雑把な力をもっと細かく丁寧に加速させ、臨界になったところで放出した、という認識である。
そして、ほんの一瞬、光の軌跡を見た者たちの反応は……。
「「「「ビ、ビ、ビームだぁあああ!!!」」」」
他の者は一瞬だけだが、ミサカが青白いビームを出したように見えていたという。
集中力が必要で隙が大きく、まだまだ実戦で使うには試作段階の技だがコインも砂鉄も必要としない、ミサカにとっての新たな手札。
もし、とある人が居ればこう言ったかもしれない――プラズマ、疑似的な荷電粒子砲だ、と。
「すっげぇ、ビームじゃん!」
「ミサカすっげぇ!」
「嬢ちゃんやるなぁ」
「さっすがエネルの旦那の仲間だぜ!!」
「「「「「ビーム!ビーム!ビ-ム!」」」」」
「…………………」
なお、男性陣の異様な盛り上がりが予想外だったミサカは、少し頬を染めてそっぽを向いていた。
アクア・ラグナを吹き飛ばしたら多少褒められるかと思っていたが、まさか未完成の技にそこまで喜ばれるとは微塵も考えていなかったのだ。
「……ンー、ぅぅ?」
久しぶりに羞恥という感情を得た彼女は、その処理が上手く行えず、そのまま暫く強烈な潮風に中って身体ごと冷やした後に車内へと戻っていった。
―――
ミサカ達が着実に近づく中、トウマはボロボロになりながら逃げ回っていた。
「もういい加減に降ろしてっ」
「ハァ、ハァ……んなわけにいくかよ」
大将というのは、海軍組織において最上級の強さを誇る実力者しかなれない。
そもそも将校自体が覇気を一種類でも扱えなければ辿り着けない、険しい頂きなのだ。
トウマの准将という座も決して低い場所ではない。
ただ、大将という頂と比べると、その間には大きな壁があったというだけの話だ。
「そろそろ諦めろ、海列車は一台のみ。いくら待っても来ねぇよ」
「ハハ、ホントーにそう思うか?アンタなら、あいつらの意外性分かってるだろ?」
「………お前さん」
「アラバスタの件なら知ってるさ、俺がどれだけ面倒な書類仕事こなしてたと思ってんだ。それに、アレにはスモーカーたちが大きく関わってたからな」
砂漠の国「アラバスタ」。その内乱を止めたのは海軍とされているが、事実は違う。
書類仕事も勿論だが、それには同期……と言っていいのか分からないが、それに近いたしぎという女性海兵と、その上司であるスモーカーから少し話を聞いていたのだ。
「七武海、クロコダイルの暴走とそれを海賊に救われた事実……その海賊は、麦わらの一味」
「本来なら出回る情報じゃねぇんだが……あぁそうか、白猟たちか……お前さんの奇縁は侮れねぇなぁ」
「ハハ、許してやってくれよ。たしぎが落ち込んでたり、スモーカーのやつがむしゃくしゃしてたりして、気になったんでな」
「お節介焼きだな」
「まー、な!」
語り合いながらも攻防は続く。
青雉に傷一つなく、トウマは傷だらけ。
その差は段々と致命的な結果に近づいていった。
「ハー、ハァ……ゲボ」
「もう終いだな」
「っ……なぁ、ニコ・ロビン」
「………なにかしら」
ボロボロのトウマと違い、
正直動くことすら億劫だったが、それでも少しでも己の信じたことを全うするために、彼は伝えたいことを一つだけ告げた。
「アンタが、どれだけ仲間想いなのかは、わかったよ……でもきっとアンタの仲間も、同じくらいアンタを想ってる。だから、なぁ――あいつらを信じてやれよ」
「………」
「――もういいな?」
凍らせても覇気で冷気が浸透しずらいトウマを、確実に沈める為に覇気を込めた拳を青雉は構えていた。
トウマの答えを待たずに、青雉の拳が一人の少年をぶっ飛ばし、幾重も建物を貫通した彼はそのまま崩れ落ち……。
「お待たせ」
気絶する直前、静かな少女の声を聴いた気がした。
―――
暴走海列車がエニエス・ロビー到着まであと少しというところで、ミサカの見聞色に強い感情が引っかかった。
アクア・ラグナを超えた後にも強い意志を持った大きなカエル、ヨコヅナが邪魔をしに来た。
アイスバーグ曰く、過去に同じように体一つで海列車を止めようとしたフランキーの意思に共感しているらしく、そのカエルはチョッパーの通訳のおかげで一緒に助けに行くメンバーとして新たに加わっていた。
そのカエルの時とは違い、距離があって少し感じ取りずらいが……それでも確実に
「ん、どうかしたのかいミサカちゃん?」
「……ごめん、私先にいく」
「え」
女性の機微に敏感なサンジがいち早く雰囲気の変わったミサカに気付くが、その行動を止めるには至らなかった。
代わりにエネルが小さなその背中をポンっと軽く押した。
「ヤハハ、仕方ない娘だな」
「ん、皆のサポートよろしくね」
ミサカ以外に見聞色を扱える上に、その範囲を超越しているエネルに後を任せ、ミサカは移動した
バヂッとまたロケットヘッドに張り付くと、磁力を改めて操作する。
エニエス・ロビーが見えているとはいえ、大分距離がある上に間は海。失敗は許されない。
「……」
それでもミサカは我慢できなかった。
必死な想いに応えたかった。その為には、今すぐ飛び込む必要があった。
ただの磁力砲では足りない。海列車の速度を反発力として扱ってもなお足りなかった。
だから、跳んだ彼女は線路を使うことにした。
「んっ」
線路に着地することで海水に触れ、力が抜けるが、能力が使えなくなるわけじゃない。
線路は大きなカエルが乗れる程度には頑丈で、何より鉄分が含まれている。
磁力を細かに扱い、脚を動かさずに彼女の身体が高速で線路を辿りだす。
少し浮くことで海水からも脱し、さらに速度を上げたミサカはエニエス・ロビーへと辿り着き、巨人族が守る大きな扉を跳び越え、内側へと急いだ。
そして、破砕音と共に吹っ飛んできた一人の海兵を受け止めた。
「お待たせ――あとは、任せて」
気絶した名前も知らない青年だが、彼が自分たちを待っていたのを彼女は感じ取っていた。
限界を超えて戦ってくれたことは裂傷と凍傷の跡を見ればよく分かる。
恩義を感じたミサカは青年を優しくゆっくりと寝かせると……すでにボロボロの広場を一直線に走りだした。
彼らが暴れたおかげで邪魔者は居ない。彼女が青雉に追いつくのは直ぐだった。
「……オイオイ、マジか」
「ロビンは、返してもらう」
近づいてくる海列車の気配を感じながら、彼らは再びの邂逅を果たした。
―――暴走海列車到着まで、残り数分。