ビリビリ少女の冒険記   作:とある海賊の超電磁砲

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幕間 カミジョウの友

 一人の少女が刀を振るっていた。

眼鏡をかけたショートヘアの彼女は、細身に見えても立派な海兵。

その視線は真剣で、根っからの真面目さと優しさが目つきに出ていた。

 海軍基地で特訓していた彼女に、一人の同じく女性海兵が話しかけてきた。

桃色の長髪に勝気な少し鋭い目付きの彼女は、飲み物を片手にやって来た。

 

「今日も頑張ってるわね」

「あ、ヒナ大佐!」

「敬礼はいいわ、ヒナ休憩中だから」

「は、はい」

 

 休憩中なのに何しに来たんだろう、と少し不思議に思いながらも、改めて刀を握った。

少女、たしぎの上司はヒナではない。同じ大佐であるスモーカーが直属の上司だ。

 たまに仕事を共にすることはあるが、たしぎを含め若手実力派である彼らは忙しい。

連絡事項など含め、基本海の上でしか会わないため、こうして陸の上で会話をするのは思えば久しぶりのことかもしれない。

 

「聞いた?()、休日なのに海に出たって」

「へ?トウマくんがですか!?」

 

 彼と言っただけで一人の男性の名前が出てきた。

カミジョウ・トウマ。彼はたしぎよりずっと若い身でありながら、既に自分より位が上だ。

実力もさることながら、そもそも関わってきた……関わってしまった(・・・・・・・)事件の数が多すぎる。

一時期は病院以外で本当に寝ているのか、と心配する程度には生傷の絶えないそんな少年だ。

 

「何でも大将青雉が車輪の跡だけ残して行方知れずで、追いつけそうなのが彼しかいなかったとか」

「むむむ………心配ですね」

 

 彼は不幸(・・)である。

それはもうとんでもなく不幸である。

少し休憩時間にふらっと出歩けば、一つか二つ事件に巻き込まれる程度には不幸体質で、その度に怪我をして帰ってくるのだ。

 心配ではあるが、彼女たちには実力的にそれを手伝えることが出来ない。

一時期は部下であり、書類整理から戦闘の立ち回りまで面倒を見たことがあるゆえに、より一層歯がゆさが増すばかりだった。

 

「トウマくんのことですから、また生傷だらけになってくるんでしょうね……」

「そうね、帰ってきたら流石に休暇はしっかり休みなさいって、注意しないと……言って聞きそうにないのが、ヒナ悔しい」

「わかります」

 

 トウマはその持つ素質の高さ故に、色々な船を転々とたらい回し、もとい研修(・・)させられた。

武器の才能がからっきしな彼に、少しでも生き残れるようにと拙いながらも指導したり、不幸ゆえに後処理が多くなる彼にその効率のいい処理の仕方を教えたり……位は下でも、彼女たちにとってトウマは弟のような存在だった。

 

 だから元上司とか関係なく凄く心配で堪らないのだが、鈍い彼には今一通じない。

半分社交辞令だと思っているのか、性懲りもなく怪我をしてくるだろう。

 

「まぁ事件解決祝いってことで、休日にベッドに縛り付けて、看病するのもありかしら?ヒナ名案?」

「あはは、流石に……んー、でも一日監視するつもりじゃないと、確かに……」

 

 ちょっと過激かもしれないが、それくらいじゃないと彼はまともに休めないかも、とたしぎが揺らぐ。

心配からこんな会話をしながらも、彼女たちはトウマは戻ってくると信じていた。

怪我をして、ヘラヘラ笑って「よかった」って事件解決を喜ぶ姿が容易に思い浮かべられた。

 

 

 きっとまたそんな姿が見られる、その時はしっかり休ませて、無茶していたら怒って、ゆっくりできるように看病しよう。

 

 

 そんな彼女たちの思いとは裏腹に、件の少年は大変なことをやらかしてしまって暫く会えなくなるのだが……それはまだ先の話である。


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