ビリビリ少女の冒険記   作:とある海賊の超電磁砲

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5話 雷鳴と共に

 ミサカはチョッパーと船番をしていると、此方に近づいてくる気配を感じ取った。

明らかな殺意を感じる……空島は随分とおっかない場所だ。

 

「チョッパー、敵みたい」

「な、ホントか?!」

 

 チョッパーが空の騎士を呼ぶ笛をしっかり握りしめる。何かがあってもあれで応援を呼べるのは有り難い。

少しして鳥に乗ってやってきた男は、大きな槍を持っていた。

 

「殺していい生贄は、お前ら二人か?」

「初めまして、私ミサカ」

「お、オレはトニー・トニー・チョッパーだ!だ、だだ誰だこのやろー!」

「女、それもガキとペットとはな……我が名はシュラ、こっちはフザだ。とりあえず、死ね」

「な、ふ、ふざけんな!」

「断る」

 

 交渉というほどのモノではないが、話し合いは不可能。

相手は怪鳥、フザに乗ったまま槍を突き出してきた。

 

(避けたら船に穴が開いちゃう……)

 

 バチッと紫電を奔らせ、シュラに放つ。

 

「おっと」

「クカッ!」

 

 フザが旋回し、回避することで避けていった。

空を飛行する相手に、ミサカは跳びはね追った。

 

「能力者、それも稲妻を操るとはなっ!」

「それ、皆驚く。空の上に棲んでるのに、雷が怖いの?」

「これから死ぬやつに……語る理由は、ねぇな!!」

 

 明らかな態度だった。これはつまり、雷を畏れる何かがあるということだ。

 

「そう、まぁ知ってそうな人に後で聞くからいい」

「ふんっこの俺相手に生き残るつもりかぁ!!」

 

 槍に対し、ミサカは電気を操り、副次的に磁力を操ることで砂鉄の剣を作り出した。

空の上だから使えない戦法だと思っていたが、此処、神の島(アッパーヤード)()地。

地面があるならば、砂鉄が存在する。

 伸縮自在の黒い剣を振るい、槍を防いで見せると、困惑した様子でシュラが離れた。

 

「なんだそれは?」

「剣」

「……なるほど。フン、嫌な奴を思い出させる武器だ」

「?」

 

 誰か知らないが、砂鉄の剣……もしくは伸縮自在の武器を扱う人が居るのだろう。

知らない相手のことを考えても仕方ない。切り替え、さらに振るう。

しかし相手は心網、見聞色の使い手。分かっていたように防いで見せた。

 

「……なんだ、この戦い」

 

 チョッパーから見ると、おかしな戦いだろう。

敵へ向けた剣がしなり、背後から襲い掛かってもまるで背中に目があるように避けたり、避けた先に槍の先端が向けられたりしているのだ。

まぁ、一番の理由はミサカが砂鉄の剣を分裂させて、一見(・・)何もない空間を攻撃していることかもしれないが。

 

「ッ貴様、さっきから何のつもりだ!?」

 

 暫くそうしていると、手傷を負ったシュラが、無傷(・・)のミサカに激昂した。

 

「ハァ、……心網での掴みは問題ない。お前の動きは読めた」

「そう」

「だが、その上で此方の試練(・・)を断ち切った上に、動きも読み勝ってやがるくせに、さっきから攻撃はその剣だけときた……舐めてんのか?!」

「別に。それに、貴方に答える理由は無い」

「ッ」

 

 試練というモノが何なのか知らないが、ミサカは先ほどから何かを察知し、断ち切りながら戦っていた。恐らくそれだろう。

それともう一つの理由、砂鉄の剣のみで戦うこと。

これはエビに捕まった時もそうだが、船を自分の攻撃で傷つけないためだ。

 

(チョッパーもいるし、間違えて焦がすわけにはいかない)

 

 だが、このまま長引かせるのも得策ではないだろう。

よって、ミサカも一つカードを切ることにした。

 

「……」

「なんだ、コイン?」

 

 取り出したのは、一枚のコイン。

ベリーを攻撃に使うなんて、ナミが見たら卒倒するかもしれないけれど、今はいないし別にいいだろう。

 

「――死なないでね」

「ッ」

 

 電流は磁場を生み出し、磁力で見えない砲身を(かたど)り、一枚のコインをそのレールへ乗っける。

これをレイに初めて見せたとき、初めて彼を呆然とさせた。

それからはコレは彼女の必殺技の一つになっている。

 

 

超電磁砲(レールガン)

 

 

 少女の指から放たれたコインは、音速を突破し轟音を唸らせながらシュラへと向かう。

避けようとする彼だが、残念――周囲は既に砂鉄の刃が囲んでいた。

ここは島の真ん中に位置する湖、360度砂鉄は調達し放題である。

 

「終わり」

「く、そっ」

 

 無理に避けようとしたおかげで致命傷にはならなかったが、文字通り吹き飛んで行った。

ダメージは深いだろうし、追撃は無いだろう。

 

「す、すっげぇ~~!!ビームみたいだぁ!!」

「………ビーム」

 

 チョッパーが偉く瞳を輝かせるが、ビームではなくどちらかというと大砲や銃に近いのだが……。

どう説明しようか、船に降りてそう考えていると―――気配が現れた(・・・)

 

 

「ヤハハ、面白いな娘」

 

 

 背後に現れた気配、実はこの島に立ち入った時から気づいてはいた。

しかし、島の奥地から動かなかったため無視していた。

その気配が、雷鳴と共に(・・・・・)ミサカの背後に現れた。

 

「………貴方、は?」

「ヤハハ、私に名乗らせるか。しかし許そう、どうやら私と似た力を持っているようだからな。愉快なモノも見れた、今私はとても気分がいい」

 

 長身で金髪、耳たぶが長く四つの小太鼓を背負った男。

彼は、自分をこう名乗った。

 

「我は、神なり。人は私を、(ゴッド)・エネルと呼ぶ」

 

 この人が、神。

雷鳴と共に現れ、分かっていても背後を取って見せた男。

 

「娘、貴様の名は何という?」

「エレクトロ・D・ミサカ」

 

 チョッパーを背に庇いながら、名乗る。

いけない、此処で戦ってはダメだとミサカの勘が警鐘を鳴らしていた。

ここで戦えば、船もチョッパーも、きっと無事では済まない。

 

「ミサカか、良い名だ。ヤハハハ、退屈しのぎの試練だったのだが、どうやら貴様は他の奴とはレベルが違うらしい」

「そう?さっきのも結構ギリギリだったよ」

「抜かせ――」

 

 エネルの姿が掻き消える直前、ミサカは察知し背後に砂鉄を放った。

砂鉄の剣の形を崩し、周囲に散らしていたおかげで直ぐに攻撃が出来たが、それをエネルは持っていた金の棒で防いで見せた。

 

「ほれ、私の動きについてこれている。十分貴様は規格外だ」

「………」

「うぇ?え!?い、何時の間に!?」

 

 チョッパーは自分が攻撃されるところだったと今分かったのだろう、慌ててミサカの近くへ走り寄ってきた。

ミサカは見聞色の覇気を、本気で使うことに決めた。

 

「うわ?!」

「チョッパー、ごめん」

 

 パチっと静電気が流れビックリして少し離れるチョッパー。

 

「な、なんかミサカピリピリしてないか?」

「ごめん、我慢して」

 

 このエネルは、もしミサカの予想通りの能力者なのだとしたら……自分以外、今の麦わらの一味に勝機は薄い。

ルフィなら、あるいは……というところだろう。

ミサカは能力を使うと、自分を中心に球形状に電磁波が発せられる。日頃意識して抑えている電磁波に見聞色の覇気を乗せることで、範囲内の動きを全て知ることが出来る。

 

「ヤハハ、まぁそう急くな。本格的な試練は明日からだ」

「?」

「今、シャンディアの戦士たちと貴様たちの仲間が私の神官と争っている。シャンディア達はいつものように退けるだろうが、なるほどお前たちは中々やるらしい。サトリのやつがやられているな」

「……」

 

 島に少し意識を向けると、ルフィ、サンジ、ウソップが島に入っていた。

少し弱っている様子から、戦っていたらしい。相手は、エネルの言うサトリだったのだろう。

 

「それで、なんで明日なの?」

「なぁにこちらの目的のモノが今日には完成するのでな。明日、退屈しのぎにこの島に決着をつけようと思っていた(・・)。態々今日と明日、二日も戦うことは無いだろう?」

 

 それはつまり、面倒だから一纏めに潰してやる、という分かりやすい宣戦布告だった。

それと同時に感じることが一つ……。

 

「三竦みの潰し合いなど、別に放っておいてもよいのだがな。しかし私が思うに、私とやり合えるのは娘、お前だけだ」

「……」

「何だろうな、今私は凄く高揚している。ヤハハハハ!!娘、ミサカと言ったな。明日の試練、絶対に貴様は参加しろ、よいな!これは、神の意思である!!」

 

 それだけ告げると、ヤハハと愉快な笑い声をあげてエネルは消えた。

 

「な、なんだアイツ……こえぇ」

「……うん。でも」

「?」

 

 本当にうれしそうで、きっと退屈しのぎに決着をつけるつもりというのも本心で。

ただ、少しだけ。本当に少しだけ。

 

「寂しそうだったな、って」

 

 きっと相手(・・)と呼べるほどの存在が現れて嬉しくて現れたんだろう。

きっと子供みたいな理由で、はしゃぐように現れたのだ。

きっと、そんな理由で喜べるほど、退屈していたのだろう……そう、ミサカは感じた。

 

 その後、探索からゾロ達が戻り、ルフィたちもやってきた。

麦わらの一味が合流し、各々分かったことを、サンジお手製の晩御飯を食べながら報告し合う。

 まずナミ達がこの島は過去、空へ飛んできたジャヤ……黄金郷なのだと発見した。

猿山連合のクリケットが暮らしていた半分の家、そのもう半分を見つけたことで確信に至ったのだという。

試しに空から落ちてきた船から拾ったスカイピアの地図と、ロビンがジャヤで手に入れたという地図を合わせてみると、髑髏の形になった。

 

「ノーランドの最後のページの言葉、髑髏の右目に黄金を見た」

「つまり、此処に黄金があるんだな!」

「そういうことよ。ノーランドは島の全形を言いたかったの。けど今は半分しかないんだから、分かるわけもなかった」

 

 凄かった、お金が関わったナミの思考速度はあり得ない速度で回っていた。

 

「明日は真っ直ぐこのポイントを目指せばいいの。船はその間放っておけないわ、二つに班を分けましょう……ふふふ、莫大な黄金が私達を待ってるわよ!!!」

 

 気合一杯に告げるナミに賛同する一味。

もう、これは明日の試練参加も決定だろう。

そう思い、ミサカも冷静に起こったことを説明する。

神官と戦い、神・エネルと出会ったこと。

 

「え、神にあったのかぁ!?」

「チッ残ればよかったか」

 

 羨ましがるのはルフィとゾロの二人。

この二人の好奇心と血生臭さは生半可じゃない。

 

「試練が明日、行われるって言ってた」

「へぇ。試練ってどんな?」

「シャンディアの戦士と、神官と、私達の三竦みの潰し合い」

「要するにサバイバルってわけか」

「黄金探しにサバイバル、面白そうだなぁ!ニシシ!!」

 

 ニヤッと笑うゾロから中々の威圧感を、明るく笑うルフィからも闘気を感じる。

やっぱりこの二人には覇気を教えたい。しかし、今は時間が無いのも事実だ。

 

「それで、私は強制参加だって」

「ハァ!?ミサカちゃんが、サバイバルだって!?」

「まぁ、サバイバルは慣れてるから」

「くっそ、こうしちゃいられねぇ!今すぐ弁当の下ごしらえを完璧にしなければ……それと、明日はぜひこの騎士(ナイト)サンジをお側に」

「えっと……」

 

 取り乱したサンジの扱いに困っていると、落ち着きなさいとナミに一発殴られ少し収まった。

 

「ふーん、ミサカ気に入られたんだなぁ」

「……多分、アレに勝てる、ううん。戦える(・・・)のは、私とルフィだけ」

「俺?」

「なんだ、俺らが弱ぇとでも?」

 

 ゾロの威圧が増した。

しかしそうではないと、首を横に振る。

 

「多分、雷の自然系(ロギア)能力者だから。ゴムのルフィ以外の直接攻撃は効かないと思う」

「その理屈だと、ミサカの電撃も効くのか怪しいんじゃないかしら?」

 

 ロビンの指摘にそうだそうだと頷く彼ら。

基本冒険を愉しむ彼らはおバカなことが多いというのを、此処少しの付き合いではあるが知れた。

しかし、それ以上に戦闘になるとやけに頭が回るというか、勘がいいのも事実である。

 

「私の攻撃は効く。これは、絶対に」

「どうして?」

「……見せた方がはやい」

 

 すたすたと岩の前に歩いていく。

そして覇気を腕に込めた。

 

「武装硬化」

 

 能力を使わず、大岩を殴り割る。

最近自主練以外で使わなかったが、問題なく使えた。

 

「な、なんだぁ!?」

「武装色の覇気」

「は、はき?」

「……ちょうどいいから、覇気に関して説明する。みんなも聴いて」

 

 全員に武装色、見聞色の覇気について説明していく。

同時に覇王色もサラッとだが話す。説明しようにも、レイが使ったことがあるだけでミサカ自身覇王色は使えないからだ。

 

「そういやぁ爺ちゃんに殴られた時、俺ゴムなのに痛かったんだよなぁ」

「覇気、か。なるほど、イイことを聞いた」

 

 ルフィは何かあったのを思い出したのか、渋い顔をした。いつも楽しむ彼らしく無い。

ゾロは平常運転である。もっと強くなれるんだと、彼は獰猛な笑みを浮かべる。

 

「まぁともかく、相手の心網と同じ技術があるのね?」

「うん、見聞色の読み合いしつつ、武装で攻撃が出来る私と」

「ゴムのルフィくらいしか敵になりえない、と」

 

 ルフィの場合は敵というよりは、『天敵』と言った方が正しいだろう。

電撃が効かないゴム人間は、きっと想像以上にエネル相手には鬼札になる。

 

「となると、もう班決めは決まったわね。ルフィとミサカは絶対探索班。それも、神・エネルを相手に勝ちなさい」

「おう!任せろ!」

「ん、頑張る」

 

 他の探索班として、戦闘狂のゾロや遺跡に興味のあるロビン、そして今日は船番をやっていたチョッパー。

船番兼逃走用に船を走らせるのはナミ、サンジ、ウソップの三人。

サンジは最後までミサカの側で護りたかったらしいが、ナミの騎士になってほしい、とミサカが上目遣いでお願いした結果、折れてくれた(KOされた)

 

「んー、仕方ないとはいえ、ちょっと船番が心もとないわね」

「サンジ、強いよ?」

「聞いた感じ三竦みでも相手の数がねぇ……四方八方から狙われてサンジ君だけじゃ無理があるわ」

 

 少し考え、それならと船に保管されていたホイッスルをナミに手渡した。

 

「これ、使えない?」

「そっか、空の騎士!あ、でもいいの?強敵と戦うんなら必要じゃ……」

「いい。船が無いと、海賊出来ないから」

 

 麦わらの一味は本当にいい人ばかりだ。

この人達の居場所に居てもいいのなら、ミサカは全力を尽くしてもいいと思っていた。

 

「私、頑張る」

「……ありがと、ミサカ。あんたイイ子ね」

「イイ子……私、海賊」

「アハハ、そうね。うん、そう、私たち(・・・)は海賊よね」

 

 ポンっとナミに撫でられるミサカ。

しかしミサカは海賊だし賞金首だし、過去に人だって殺している。

ナミの言葉に疑問符を浮かべるが、そんなミサカの頭を撫でることを止めたりしなかった。

 

「ミサカはいい子よ」

「……ありがと、ナミ」

 

 温かな手に撫でられるミサカ。

一味の仲間に入って本当に良かったと、久しぶりに感じる温かな気持ちを大事に感じ取りながらミサカは明日を頑張ることを決意した。


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