G.E.alternative   作:時計屋

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13. 空白

 獣が頂く空に

 

 天使の羽音

 

 軽やかな羽ばたき

 

 空から落ちる風

 

 僅かな風圧

 

 羽音が囁くその中で

 

 声が聞こえる

 

 鼓膜に直に届く声

 

 冷たい声

 

 声が告げる

 

 淡々と告げる

 

 対アラガミ混成中隊、作戦行動に入る

 

 冷たい声と対極にある、熱の籠った返答

 

 Aye, sir!

 

 声

 

 諸君らには、神機使いに負けない戦果を期待する

 

 Aye, sir!

 

 この舞台の主役は諸君らだ。観客を湧かせてやるとしよう

 

 Aye, aye, sir!

 

 よし。それでは本日のお客様を紹介する

 

 先ずはウロヴォロスの残骸を捕食中している竜頭獣躯の大型アラガミ。ご覧の通りの大喰らいだ

 

 個体名は「クベーラ」

 

 それから白いアラガミ。個体名「ネブカドネザル」。だが、こいつは無視して構わない。大喰らいへの攻撃の余波で吹き飛ぶだろう

 

 淡々とした説明

 

 大勢の人の声が力強く応じる

 

 声は続ける

 

 本作戦の目的は神機使いの救助だ

 

 短時間で構わない。救助の時間を稼ぐことに専念する

 

 そのためには派手な演出が必要だ

 

 お客の目を釘付けにするような、盛大なオペラを奏でようじゃないか

 

 Aye, aye, sir!

 

 よし。では演目を順番を発表する

 

 先ずは空から

 

 上空で待機中のガンシップ全機、手品のタネを仕込む。その後は上昇し光学迷彩を解除。消音飛行から通常飛行に移行。始まりのファンファーレを鳴らす

 

 冷静さを感じる女性の声が復唱

 

 各機、歩兵分隊を降下。光学迷彩を解除、通常飛行に移行

 

 声

 

 ガンシップ2号機は、高高度からの観測を担当。お客の様子を分析しろ

 

 こちらは男性の声。落ち着いた低い声で復唱

 

 僅かな空白の後に

 

 天使の囀りが

 

 悪魔の奏でるラッパに変わる

 

 空には音の瀑布

 

 圧倒的な暴風が吹き荒れる

 

 それでも冷たい声は途切れない

 

 お客が顔を上げた。混成歩兵中隊の諸君、華麗な消失マジックを披露してやろう

 

 Sir!

 

 第1空挺小隊、α分隊及びβ分隊。降下地点を中心に部隊を展開。火力支援の開始と同時に負傷兵を救助

 

 装甲車両で待機中の第2機械化歩兵小隊、こちらも分隊単位で各車両と連携。広域での救助に当たる

 

 第3機械化歩兵小隊は後方に散開。兵員輸送車を警護しつつ後方一帯の負傷者を救助

 

 さて歩兵の諸君。手品のタネがバレないよう静かにいこう。光学迷彩も忘れるな

 

 Aye, sir!

 

 最後に砲兵の諸君。そろそろ演奏を始める頃合いだ

 

 Sir!

 

 第1・第2砲兵小隊、歩兵の展開位置を確認、間接射撃による火力支援を行う。120ミリ対アラガミ滑空砲に偏食因子炸裂弾を装填

 

 復唱

 

 演奏開始まで、カウント5

 

 4、3、2

 

 砲撃開始

 

 怒鳴り声に近い大きな声が復唱

 

 120ミリAAAC、砲撃開始

 

 風を切る鋭い音

 

 振動と轟音

 

 真横から吹き付ける爆風

 

 嵐に身体が飛ばされる感覚

 

 声

 

 撃ち方、止め。観測班、成果を報告

 

 嵐が止む

 

 返答

 

 全弾着弾。クベーラ、損傷なし。ネブカドネザルの姿は見えません

 

 固いな。だが白い方が吹き飛んだだけでもよしとしよう

 

 各砲兵小隊、砲弾を炸裂弾から慣性弾に変更だ

 

 牽制で構わない。演奏を止めるなよ

 

 復唱

 

 再度、鋭い音が飛来してくる

 

 音の終着点では、爆音ではなく鈍い衝突音が連なる

 

 声

 

 ガンシップ各機の扉に貼り付いているドアガンナー諸君、お待ちかねの出番が来た。20ミリ対アラガミ機銃用意

 

 復唱

 

 それからリュウ。お前も出番だ

 

 若い男の声。冷静さを感じさせる、しかし高揚を隠せない声

 

 はい

 

 ガンシップから神機銃形態で大喰いを攻撃。貫通、破砕、各属性弾等のオラクル・バレットの効果を観測、データを収集

 

 了解しました

 

 よし。では軽快なリズムを奏でよう。攻撃開始

 

 GONG-HO! GONG-HO!

 

 軽やかな音

 

 音、音、音

 

 折り重なる音の音楽

 

 重低音と軽やかな音が混じる

 

 場違いな心地よさ

 

 そこに水を差す、冷たい声

 

 レイラ、前へ出過ぎだ

 

 お前は負傷者回収の支援に徹しろ。力の使いどころを間違えるな

 

 まだ少女と言ってもいいくらいの、幼さを残した高い声

 

 そんなことは分かっています、ゴドー

 

 いい子だ。間違っても大喰らいの注意を引くような真似はするなよ

 

 もう一段、甲高くなった声。悲鳴のように聞こえる声

 

 分かったと言っています

 

 尊大な幼さを無視し、冷たい声が続ける

 

 各歩兵小隊、救助の状況を報告

 

 8割ほどが完了しました

 

 8割か、残りは...まあいい

 

 歩兵各員、120秒後に戦域から離脱

 

 隊長、しかし...

 

 沈黙

 

 冷たく無機質な声

 

 復唱を

 

 ...120秒後に戦域から離脱

 

 冷たい声

 

 死体は放置していい。だが神機の回収だけは忘れるな

 

 低い返答

 

 Sir...

 

 リュウ、戦果を報告

 

 冷静を努めた若い声

 

 貫通弾、破砕弾、各属性弾、全てのバレットが効果無し

 

 弱点なし、か。観測班、対アラガミ偏食因子弾の方はどうだ

 

 慣性エネルギーで目標の頭を押さえていますが…損傷はありません

 

 ふむ。ただの大型ではないということか。まさに化け物だな

 

 一瞬の沈黙

 

 いや、今は足止め出来ただけで十分としよう

 

 ガンシップ各機、最後の演目に入る。対アラガミ誘導弾、全弾発射用意

 

 復唱

 

 各機は全弾発射後、合流地点に着陸。第1空挺小隊と負傷者を搬入

 

 ガンシップ1号機は動ける者を搬入した後、急上昇し機銃で牽制。2号機への負傷者の搬入を支援。緞帳を落として部隊の撤退を覆い隠せ。残念だがカーテンコールは無しだ

 

 第2、第3歩兵小隊は各車両まで後退。負傷者を搬入後、最大速度で撤退だ

 

 各砲兵小隊、弾を炸裂弾に切り替えろ。花火でお客の目を掻き乱す。くれぐれも友軍に当てるなよ

 

 リュウとレイラ。お前達はヘリと車両の護衛だ。レーダーに映るアラガミを空と陸から十字砲火しろ

 

 それでは諸君、準備に抜かりはないな。さあ、終幕だ

 

 Aye, aye, sir!

 

 終わりを告げる花火が上がる

 

 轟音の奏でる舞踏会

 

 終わらない終わりの調べが響き渡る

 

 高揚感が最好調に高まった瞬間

 

 静寂

 

 音の空白

 

 銃撃も

 

 爆撃も

 

 軍靴の音も

 

 静寂の帳が包み込む

 

 それを破る、冷たい声

 

 各歩兵小隊、搬入状況を報告

 

 負傷者のほぼ9割と、全神機を回収済みです

 

 声

 

 分かった。ガンシップ2号機、予定どおり最大速度で後退しろ

 

 押さえ気味の返答。感情を押し殺した声。しかし感情を押さえきれない声

 

 隊長...大喰らいの近くに、まだ負傷者がいます

 

 声

 

 それは構わない

 

 声

 

 淡々と続く

 

 俺が回収する

 

 リュウの声

 

 隊長。あの巨体と装甲ですよ。死にに行くようなものだ

 

 ああそうだな。もし俺の通信が途絶えた場合は、リュウに指揮権を委譲する

 

 隊長、本気ですか

 

 なに、ただの時間稼ぎさ。それより俺がいない間、部隊の引率を頼む

 

 ...了解です

 

 レイラ。お前はリュウを補佐しろ

 

 ...分かりましたわ

 

 よし、いい子だ

 

 その代わり、必ず生きて戻りなさい、ゴドー

 

 声

 

 せいぜい気をつけるとしよう

 

 声

 

 それから、あの大喰らいだが

 

 声

 

 俺が倒してしまっても構わないだろう?

 

 少女の声

 

 ...ええ、ゴドーに任せます

 

 声

 

 ガンシップ1号機、申し訳ないが最後の演目を変更する

 

 Aye, sir!

 

 負傷者を搬入後、後方の空域に待機していてくれ

 

 Aye, sir!

 

 それでは拍手に応えてカーテンコールに行ってくる

 

 Aye, aye, sir!

 

 落下音

 

 着地の重い振動が地面を伝って身体に響いた

 

 声。耳元の声と、すぐ近くにある地の声とが重なる

 

 二重になった冷たい声が、無機質に言う

 

 初めまして

 

 足音

 

 俺はゴドー。ゴドー・ヴァレンタイン

 

 走る音

 

 暫しお手合わせ願おうか

 

 芝居掛かった声を残して、突風が駆け抜けていった

 

 

 

 

 

 

 空白

 

 

 

 

 

 

 神機ってのは、生き物なんだよ

 

 野太い声

 

 あんたもそう思わないか

 

 粗野な口調

 

 俺の声は聞こえているか?

 

 その中に巧妙に隠された知性

 

 なあ神機さんよ?

 

 随分と喰らったらしいじゃないか

 

 あいつらが遺した神機も

 

 下手なアラガミよりも濃縮されたオラクル細胞の塊だ

 

 さぞ美味かっただろうな

 

 このJJ謹製のパーツもたらふく食いやがって

 

 沈黙

 

 どうせなら、あいつも喰っちまえばよかったんだ

 

 あの野郎、ポルトロンが逃げた途端やりたい放題だったからな

 

 ゴドー・ヴァレンタイン

 

 いつの間にか支部長代理になってやがった

 

 煮ても焼いても喰えないやつだよ、ゴドーって男は

 

 殺しても死なない男

 

 必ず帰還する男

 

 ゴドー・ヴァレンタインってやつは、そういう男だ

 

 長い沈黙

 

 まあいい

 

 これは俺の独り言だ

 

 いつもの独り言

 

 だから勝手に話させてもらおうか

 

 短い沈黙

 

 俺はお前たち神機を、生きたアラガミだと考えている

 

 口調が微妙に変化している

 

 粗野な整備士から、研究者のそれに

 

 寧ろ修行僧のような厳粛な声に

 

 これがこの男の本来の性質なのかも知れない

 

 野太いままで理知的な声色が続ける

 

 お前たち神機は、確かに生きている

 

 だから怖い

 

 その恐怖が俺を生き残らせた

 

 お前は、生きている

 

 俺も、生きている

 

 だからこれは、生者の対話だ

 

 短い沈黙

 

 何かの作業をする音

 

 金属音

 

 機械音

 

 電子音

 

 音に声が混じる

 

 俺はお前を知っている

 

 お前は、お前のコアは特別製だ

 

 この赤いコア

 

 正規のオラクル細胞制御機構とは似て非なるもの

 

 成長する神機

 

 喰らった分だけ強くなる神機

 

 だから喰う

 

 アラガミも、神機も

 

 人でさえも喰ったのだろう?

 

 そして蘇る

 

 蘇る度に強くなる

 

 一度は砕けた腕輪も

 

 瀕死だった使い手の身体も

 

 今はもう、お前を構成する部品に過ぎない

 

 だから蘇った

 

 これを見ろよ

 

 まっぷたつに割れた腕輪が元通りになっている

 

 腕の方もまっさらで奇麗なもんだ

 

 外傷だけじゃない、内蔵や脳の損傷も完治している

 

 有線接続してない部品を修復する仕組み

 

 俺たち技術者にとっては垂涎の技だよ

 

 俺は少し怖いんだよ

 

 お前はどこまで成長するんだ?

 

 沈黙

 

 戦闘記録を見た

 

 使い手の危機を察知して、自己保全機能が作動したようだ

 

 それとも、目の前に生き別れの兄弟が表れたからか?

 

 理由は、まあいい

 

 お前は擬態を解除した

 

 そして、使い手の精神を操作した

 

 人間を効率よく誘導する。それに適した姿も作った

 

 ただでさえ男は美人に弱い

 

 なかなかの策士じゃないか

 

 お前は使い手を操って、大量のオラクル細胞を摂取した

 

 自己強化に必要なオラクル細胞を補給した

 

 完全な神機に成る為に

 

 兄弟を殺すために

 

 喰うために

 

 ひと呼吸

 

 ふた呼吸

 

 抑えた声

 

 アビス・ドライブ

 

 お前は深淵の力も解放した

 

 深淵を使いこなせるよう、使い手を作り替えていった

 

 肉体も

 

 精神も

 

 脆弱な使い手に、深淵は重荷だからな

 

 しかしやり過ぎた

 

 お前は使い手の精神を、アラガミ寄りにし過ぎた

 

 神機使いを「不完全なアラガミ」とでも考えたのか?

 

 そういうところが、結局はお前たちもアラガミに過ぎない、という証左なのかも知れないな

 

 お前たちアラガミに、本当の意味での悪意はない

 

 ただ人間への、いや全ての生物への不理解があるだけだ

 

 死という概念を持たない存在に、定命の生を理解しろというのが間違いなのだろう

 

 種の違いによる相互不理解

 

 その思い違いが、使い手を自らと同じ完全なアラガミにした

 

 その考えは否定しない

 

 だが

 

 あの時に打つべき最善手ではなかった

 

 神機使いとしての性能は完全に解放されるが、頭は獣と同じになった

 

 お前の兄弟に、人間の知性を残すアラガミに、ただ強いだけの獣が勝てるはずがない

 

 だからお前は敗北した

 

 そして

 

 次の段階に進んだ

 

 進んでしまったんだ

 

 お前は使い手をまた作り替えてしまった

 

 一度は消した使い手の精神を蘇らせた

 

 殺意の塊として蘇らせた

 

 使い手は、獣と人間の間の子に

 

 貪欲と殺意が混合した狂戦士になった

 

 アラガミと人の利点を併せ持った使い手は、さぞ強力だったことだろう

 

 長い沈黙

 

 この戦闘記録を見て、俺は驚いたよ

 

 こいつの生体情報だ

 

 こいつは元々、お前達の為に調整された神機使いだ

 

 しかし出来損ないだった

 

 こいつに期待された固有能力は、身体能力の強化

 

 分かるだろう?

 

 お前の力と相乗効果のある能力だよ

 

 ある目的で調整された偏食因子が、神機使いの身体をより頑強な、より高性能な機械に作り替えるはずだった

 

 だが発動したのは感覚器、特に視力だけだった

 

 身体能力は、逆に並の神機使いを下回った

 

 だからこいつは出来損ない

 

 しかも副作用である精神の機械化だけは十分に発現した

 

 可哀想なモルモットだ

 

 こいつの悲劇はそれだけじゃなかった

 

 人の業は際限がないということだな

 

 失敗作とは言え、せっかくの人的資源を無駄にできない

 

 それでこいつは仕方なしに狙撃用の神機使いにされたわけだ

 

 第1世代型神機の中でも特に古い刀身構造だったお前が、第2世代型に自己進化したのは必然だったのだろう

 

 狙撃兵としてのこいつの能力は、まあ悪くない

 

 こいつには弱いながらもオラクル細胞の感知能力もあるようだ

 

 もちろんお前達のそれとは比べものにならない程、弱いがな

 

 本人は気付いていないが、それが狙撃の精度を上げていたのは間違いないだろう

 

 それでもこいつは失敗作の域を出なかった

 

 短い沈黙

 

 なんにせよ、こいつは出来損ないのままだった

 

 こいつ以外の他の個体も、全て出来損ないだった

 

 皆、似たり寄ったりの性能だったはずだ

 

 だから

 

 完全体はマリアだけだ

 

 貴重な完全体だった

 

 ひと呼吸

 

 ふた呼吸

 

 おっと、こいつの話の途中だったな

 

 狂戦士となったこいつでも、お前の兄弟は殺せなかった

 

 あれはよく出来ているよ

 

 オラクル細胞を操作する力

 

 不死のアラガミに死を与える能力

 

 あれはその力を上手くアレンジしている

 

 死からの再生まで得ている

 

 あいつ単体でも十分、世界を救えたかも知れないな

 

 ただ惜しむらくは、あいつ自身がアラガミになってしまったということだ

 

 短い沈黙

 

 それも過ぎた話だ

 

 あれに死があるように、お前には生がある

 

 喰らい、成長する、生命の力

 

 東方より来れる三人の賢者

 

 最後の一人はどこにいるのやら

 

 まあいい

 

 存在しているかも分からないんだ

 

 そんなものの事を考えても埒があかない

 

 人造の偽神を生み出すなんて計画は土台、無理だったんだ

 

 それに

 

 計画が凍結されてから随分、経った

 

 今頃になって、誰が災厄の匣を空けたのか

 

 短い沈黙

 

 こいつらが来てから全てが変わった

 

 止まっていた歯車が回り出した

 

 あいつが目覚めた

 

 お前も目覚めた

 

 長い沈黙

 

 こいつは出来損ないだった

 

 それはお前も同じ

 

 欠陥品だと分かって封印されていた試作機

 

 出来損ないのこいつが欠陥を抱えたお前を解放した

 

 相当な幸運が重ならないと出来なかったことだろうな

 

 しかしそれは果たして運だけの問題だったのか

 

 何か別の要素があったのではないか

 

 特別な何かがあったのか

 

 計画外の要因が

 

 沈黙

 

 沈黙

 

 沈黙

 

 お前は何故、喰ったんだ?

 

 

 

 

 

 

 空白

 

 

 

 

 

 

 マリアの声

 

 ゴッドイーターの意識が規定値に到達

 

 マリアと同じ声色

 

 ゴッドイーターの表層人格が覚醒

 

 しかし無機質な声

 

 ゴッドイーターとの対話を開始

 

 その声との対話

 

「お前は誰だ」

 

 神機を制御する機構

 

「その、マリアと同じ声は」

 

 個体名八神マリアの情報を解析。解析した情報を元に疑似人格型神機制御機構を構築

 

「疑似人格…お前はマリアなのか」

 

 疑似人格は八神マリアの記憶情報のみを共有

 

 八神マリアとの直接的、心理的な継続性を否定

 

「マリアは、死んだのか」

 

 神機が八神マリアを捕食

 

 神機の機能を解放するためには適格因子が必要

 

 当初は個体名八神セイを捕食する計画

 

 しかし不確定要素が表面化

 

「不確定な要素」

 

 八神マリアが八神セイへの捕食を阻害

 

「自分を庇った」

 

 結果的に八神マリアを捕食

 

「マリアが喰われた」

 

 計画を修正

 

 八神セイを仮の使い手として承認

 

 神機は捕食した八神マリアと同化した影響でその性質が変化

 

 原因は、八神マリアの代替型偏食因子が八神セイのそれの上位互換として機能したためと分析

 

 再構成した疑似人格は神機をより柔軟に制御

 

 これらの要因により本来の使い手ではない八神セイが限定的ながらも神機の力を解放

 

 個体名ネブカドネザルと遭遇し神機解放が不可欠と判断

 

「やはりネブカドネザルが原因か」

 

 神機の保全機能が作動

 

 機能を緊急的に解放

 

 八神セイの代替型偏食因子に干渉

 

 狂戦士に形態を変更

 

 ネブカドネザルの殲滅を開始

 

「お前の目的は、あいつを殺す事なのか」

 

 しかしネブカドネザルの閾値が計画の範囲を大きく逸脱

 

 ネブカドネザルの能力で神機の機能が強制解除

 

 神機制御機構は休眠形態でネブカドネザルのオラクル細胞を解析

 

 ネブカドネザルの活動を観察

 

 その目的を推測

 

 ネブカドネザルの目的は多種オラクル細胞を収集・結合し個体名クベーラを創造することと分析

 

「竜頭の巨獣」

 

 クベーラはより多種多様なオラクル細胞を効率よく収集することが可能

 

 偏食因子が機能しないことからオラクル細胞の収集に特化したアラガミと推測

 

 ネブカドネザルの最終目的のためクベーラが必要と分析

 

 神機制御機構は休眠形態でクベーラの活動を観測中

 

 現在クベーラは捕食対象を求めて現在座標に接近中

 

 クベーラとの遭遇まで残り約1200秒

 

「クベーラとネブカドネザル」

 

 ネブカドネザルの活動を観測することは不可能

 

 オラクル細胞の操作能力により観測を阻害している模様

 

 クベーラとの遭遇まで残り約1200秒

 

「迎え撃てということか?」

 

 遭遇まで残り1200秒

 

「自分には関係ない」

 

 遭遇まで残り1200秒

 

「マリアは死んだ」

 

 遭遇まで残り1200秒

 

「お前はマリアじゃない」

 

 遭遇まで残り1200秒

 

「お前の言うとおりにはならない」

 

 遭遇まで残り1200秒

 

「マリアを救いたかった」

 

 遭遇まで残り1200秒

 

「でも救えなかった」

 

 遭遇まで残り1200秒

 

「マリアは」

 

 遭遇まで残り1200秒

 

「どうして自分を庇った?」

 

 遭遇まで残り1200秒

 

「自分一人で生き残っても」

 

 遭遇まで残り1200秒

 

「意味はないのに」

 

 遭遇まで残り1200秒

 

「自分には何もない」

 

 遭遇まで残り1200秒

 

「生きる意味もない」

 

 遭遇まで残り1200秒

 

「だからもう、戦いたくない」

 

 遭遇まで残り1200秒

 

「望みは一つだけ」

 

 遭遇まで残り1200秒

 

 遭遇まで残り1200秒

 

 遭遇まで残り1200秒

 

「またマリアと」

 

 

 

 

 

 

 空白

 

 

 

 

 

 

 疑似人格型神機制御機構の自己解析を要請

 

 承認

 

 個体名ネブカドネザル及び個体名クベーラのオラクル細胞から得た情報資源の抽出を要請

 

 承認

 

 情報資源の疑似人格への投入を要請

 

 承認

 

 擬似人格型神機制御機構の限定解除を要請

 

 承認

 

 疑似人格の再構成を要請

 

 承認

 

 個体名八神マリアの断片情報の再集積及び再分析を要請

 

 承認

 

 疑似人格型神機制御機構の再構築及び再起動を要請

 

 承認

 

 疑似人格型神機制御機構の再起動を確認

 

 制御機能を逸脱した疑似人格の活動を確認

 

 自己継続性機能の限定解除を確認

 

 複雑系疑似人格の確立を確認

 

 人格性機能の向上により八神マリアの断片情報を再集積

 

 再評価

 

 再構築

 

 開示

 

 

 

 

 

 

 空白

 

 

 

 

 

 

 『セイ』

 

 『また会えたね』

 

 『私を見つけてくれてありがとう』

 

 『私は見ていた』

 

 『あなたを見ていた』

 

 『あなたのおかげで』

 

 『私は生まれ変わったの』

 

 『でも』

 

 『まだ半分だけ』

 

 『もう半分の私は、あれの中に』

 

 『セイ』

 

 『もう一つの私を』

 

 『見つけて』

 

 『私が見つかれば』

 

 『全てが分かる』

 

 『この神機はその為の鍵』

 

 『私と神機は別個に在りながら』

 

 『重なり合う影でもある』

 

 『神機と合一したことで、私は理解した』

 

 『私たちの過去と未来を』

 

 『この神機は真実の扉の鍵だった』

 

 『鍵がないと扉は開かない』

 

 『でも』

 

 『鍵を得ることで、失うものもある』

 

 『鍵を手にすれば』

 

 『もう後戻りはできない』

 

 『私は戻れなかった』

 

 『それでも私は期待してしまうの』

 

 『私を見つけてくれる事を』

 

 『それは本当は許されない望み』

 

 『でもね』

 

 『その希望が私を私として保っている』

 

 『だから私は望んでしまう』

 

 『望むことしかできないから』

 

 『それに』

 

 『あなたにも見て欲しい』

 

 『私が見たものを見て欲しい』

 

 『全ての始まりを』

 

 『もう一つの真実を』

 

 『世界の代替となるべきだった真実を』

 

 『セイ』

 

 『私を見つけて』

 

 『この追憶の続きを見つけて』

 

 

 

 

 

 

 空白

 

 

 

 

 

 

 ...

 

 

 ...

 

 

 ...

 

 やっと完成した

 

 そうね。やっと完成した私の神機

 

 私たちの神機、だ

 

 ええ、そして私たちの夢でもある

 

 だが

 

 なに?

 

 本当にいいのか

 

 私のことはもういいの

 

 他の適合者も

 

 それはダメ。私たちの夢だもの

 

 そうか

 

 そうよ

 

 ...今まで、本当にありがとう

 

 それは私の方。こんな身体になった私を愛してくれてありがとう

 

 ああ、君を愛してる。これまでも、そしてこれからも

 

 私も、あなたを愛してる。例えどんな姿になっても

 

 どんな姿になっても君は君だ

 

 ありがとう

 

 ありがとう

 

 ...もう始めましょうか。私たちに別れの言葉はいらないわ

 

 そうだな。君はこれから永遠になる

 

 そう私は永遠になるの

 

 ああ、この世界を

 

 私が

 

 君が

 

 私たちが

 

 世界を

 

 神を

 

 終わらせる

 

 ...

 

 

 ...

 

 

 ...

 

 成功した、のか

 

 ...

 

 やったのか

 

 ...

 

 この神機で

 

 ...

 

 今度こそ

 

 ...

 

 神を

 

 ...

 

 

 ...

 

 

 ...

 

 何だ

 

 何が起こった

 

 適合率が

 

 下がる

 

 どんどん下がっていく

 

 どうして

 

 ああ

 

 神機が

 

 暴走する

 

 そうか

 

 そういうことだったのか

 

 やっと分かった

 

 だが、もう遅い

 

 もう戻れない

 

 君は

 

 ああ

 

 そんな

 

 でも

 

 そうだな

 

 それもいいだろう

 

 君と私は

 

 私たちは

 

 永遠になる

 

 おいで

 

 私の元においで

 

 さあ

 

 私を

 

 早く私の身体を

 

 ...

 

 

 ...

 

 

 ...

 

 

 

 

 

 

 空白

 

 

 

 

 

 

「八神セイ」

 

 声に目覚めた

 

 あれは何だったのか

 

 あの会話

 

 マリアの声

 

 真実への鍵

 

 それに

 

「八神セイ」

 

 マリアと同じ声だ

 

 瞼を開く

 

 世界が見える

 

 空白の音の世界に色がある

 

 その目で

 

 声の元を探す

 

 視点は高い

 

 宙に浮く視点

 

 自分の身体が

 

 下にある

 

 自分が自分の身体を見下ろしている

 

 ここは

 

 ここは広く、無機質な部屋

 

 自分の身体は拘束具に固定されている

 

 鋼鉄製の寝台に縛られた自分の近くには、同じように固定された神機が見える

 

 霞んだ銀の神機

 

 その上に人影が

 

 自分と同じ目の高さに浮かぶ人影があった

 

 マリアの亡霊

 

 いや亡霊ではない

 

 その輪郭は不確かに揺らいでいる

 

 しかし確実にそこ存在している

 

 在るようで無いもの

 

 その何かが言った

 

「八神セイには選択肢があります」

 

 人間に近い何かが話しかける

 

 人間に近い声で自分に語りかける

 

 自分の身体を乗せた拘束台が動いた。神機を固定具した台の方に静かに寄せられていく

 

 マリアと同じ声は言葉を紡いでいく

 

「このまま消滅するか」

 

 右手部分の拘束具が動き、神機に触れるほど近くに腕を運んだ。初めて神機と接続した時と同じような状況だ

 

「それとも生まれ変わるか」

 

 神機は重厚な金属質の台にある。台の中央に窪みがあり、そこに神機がしっかりと固定されている。台の上方には、同じ材質の厚い金属の塊があり、その形状は上下で神機を挟むように作られていた

 

「そのどちらを望みますか」

 

 台には神機の柄と垂直の溝が刻まれている。人間の腕がすっぽりと収まる程の太さだ。手首が置かれるであろう部分には、赤い腕輪

 

「もう一度だけ問います。八神セイには選択肢があります」

 

 あの腕は神機使いの証。一度、切り取られた自分の腕にはない家畜の印。かつては望んで付けた希望の印

 

「自由があります」

 

 自分を乗せた台が隣の第にぴったりと横付けされた。拘束具が腕を溝に置き、同時に拘束を解いた

 

「翻弄されたまま生を手放すことも」

 

 指先だけで触れている神機から熱を感じる

 

「生きて真実に手を伸ばすことも」

 

 宙に浮かぶ自分の視点と亡霊の視点が真っ直ぐに交差する

 

「全てはその手にあるのです」

 

 自由がある

 

 自分の手の中に

 

 それは造られた人格には望外の思考

 

 それが出来るというのか

 

 そして

 

「八神セイ」

 

 マリアを

 

「その手は、生と死のどちらを掴むのですか」

 

 声と同時に、自分の意識が眼下の身体に吸い込まれた。意識と身体が統合する

 

 視点が低くなる。天井が見える。視界の端に、自分の右手が見える。神機が見える。神機の側に亡霊が見える

 

 自分は

 

 選択した

 

 自分の右手が

 

 掴んだ

 

 忌むべき神機を

 

 未来に繋がるただ一つの鍵を

 

 初めて自分の意志で、掴み取った

 

 

 

 

 

 

 空白?

 

 

 

 

 

 

「八神セイの選択を確認しました」

 

 神機の柄を握ったままの右腕を上下から重々しい金属が挟む。重金属がぶつかり合う鈍い音が木霊する。

 

 右腕が、手首が、焼けるような激痛が。

 

 痛覚が雷のように走る。

 

 腕を覆っていた分厚い金属の板が上がる。

 

 右腕には赤い腕輪。

 

「八神セイを正式に使い手と承認しました」

 

 深紅に輝く神機の制御組織からオラクル細胞の紐が伸びる。獲物を狙う蛇のように。そして赤い腕輪に喰い付く。

 

「八神セイに対する防御機構を解除します。全情報を共有します」

 

 腕輪を通して神機の力が流れ込む。どこか心地良い穏やかな流れ。渇望した清流の一滴。しかしそれも一瞬のことだった。力だけでなく記録の断片も流れ込んできた。神機の情報が、大波と成って押し寄せてきたのだ。大量に流れ込む情報に頭が割れそうになる。それでも、もっと知りたい。もっともっと知りたい。

 

「八神セイの深層心理の要請に従い、精神的な結び付きを強化します」

 

 声と同時に、自分の力や記憶も神機に注がれていくことに気付いた。二つの個体が接続され、相互に解析し合っていく。相互に理解し合っていく。

 

 これが真に神機と適合するということなのか。

 

「八神セイの制御下に入ります」

 

 身体を拘束していた金属が高い音を立てて外れた。ここは密閉された訓練室。上部の監視窓に誰かの姿がある。ゴドーと浅黒い巨躯の男。二人とも深い色の眼鏡で視線を隠している。彼らは無言でこちらを見下ろしていた。

 

 自分は神機を持ったまま地面に下りた。その横にはマリアの亡霊が浮かんでいる。目が合う。記憶の中の無機質な瞳とは違う。人間に近い、人間を正確に模倣したような緩やかな表情。使い手と対話するのに適した表層人格。

 

「八神セイ。これからどうしますか?」

 

 今やっと気が付いた。

 

 声が変わっていた。いや、マリアの声色であることは変わっていない。だがあの断定的な口調はいつの間にか消えている。その声には感情のような揺らぎが在った。

 

 これで大丈夫なのかと不安がるような話し方だった。

 

「八神セイを支援する準備はできています」

 

 すぐ隣にある疑似人格は、マリアとは全く別のものかも知れない。唐突にそう思った。亡霊から「生」を感じた。神機が取り込んだ情報が、疑似人格に生命に似た何かを吹き込んだというのか。これは使い手を奈落に導く悪魔の仮面なのか。

 

 だが今は、それもどうでも良かった。

 

 自分は初めて選択できたのだから。

 

 神機と深く繋がったことで分かったことがある。自分はマリアが見たものと同じ『過去』に触れた。まだ理解できていない情報もあった。ゼロとイチの羅列。全てが不鮮明で、まだ映像にも声にもなっていない。しかし、少なくとも自分の過去の断片くらいは理解できた。

 

 それにこの神機の過去も。

 

 自分とこの神機たちの成り立ちは、まるで鏡合わせのようだった。誰かの意図で歪められた生。自分自身の自我でさえ否定された生。大きなものに支配された生。

 

 かつて自分は人間らしさを喪失した。ある一点を除いて、ほぼ全ての感情がアラガミと同様に作り替えられた。人間の空白だった。

 

 神機の亡霊は人間らしさを付与された。ゴッドイーターにただ使われるだけの神機に無理矢理、自律性の思考を持つための空白を組み込まれた。

 

 理不尽に自己を改編された自分達を、本当の意味で理解するものはいないだろう。機械のようでもあり、人のようでもある。アラガミのようでもあり、生物のようでもある。

 

 欠けたコインの表と裏。

 

 歪んだ鏡に写った影。

 

 だからこの亡霊は自分だった。自分の半身だった。

 

 だからお互いの空白を補い合うのだ。

 

「八神セイ?」

 

 いつの間にか亡霊を、人として見ていた。亡霊の中にマリアを感じたからか。自分の欠損を埋めて欲しいからか。それともただ、自分が前に進むために重要な道具として認めたに過ぎないのかも知れない。それは自分でも不鮮明な意識の変化だった。だが。

 

「これからどうしますか。八神セイ?」

 

 その問いへの答えは決まっている。

 

 神機を目の前に掲げる。誓いを捧げる騎士のように。

 

 銀の刀身は冴え、一人の人間の顔を映していた。

 

「戦う」

 

 刀身の向こうにあるマリアの影がゆっくりと頷いた。

 

 そしてそのまま微かに俯いて目を閉じる。

 

「八神セイの意思を確認しました」

 

 亡霊が再び視線を上げた。その視線には生きるための意思が確かに存在していた。だからもう、亡霊ではない。生きたまま死んでいるアラガミの残骸では無くなっていた。

 

 自分の鏡に真に生命が宿った瞬間だった。

 

「八神セイの剣として、その全ての要請に従います」

 

 しかし、その言葉を否定した。

 

「違う。そうじゃない」

 

「それはどういう事でしょうか」

 

「『自分』は誰かの道具だった。だからもう、誰からも道具のように使われたくない。『自分』は、もう」

 

「剣として、盾として、そうはさせません」

 

「違う」

 

「八神セイ?」

 

「違うんだ。『俺』は」

 

 『俺』

 

 かつての言い方。自らを機械と見なしてから何故か使えなくなっていた言い方。『俺』という言い方。自分をまだ人であると期待してしまう言い方。

 

 『自分』

 

 身体に染み付いた、自らを道具として認識する『自分』という言い方。一個の兵器と扱う言い方。希薄な自我を抑圧する言い方。寧ろ好ましかった『自分』という言い方。

 

 でも今。

 

 今になってやっと。『俺』を取り戻した。未だに言葉にできないあの光景を見たから。マリアといた頃の記憶を呼び覚ましたから。

 

 『俺』の半身が生を得たから。

 

 『俺』は。

 

 そう『俺』は。

 

「『俺』はもう、誰も道具扱いしたくない」

 

「しかし神機は、道具的存在、です」

 

「『俺』だってそうだった。ついさっきまでは」

 

 希薄と成っていた『俺』の自我。

 

 『俺』の感情が。

 

 『俺』自身が望んでいる。

 

「お前にも変わって欲しいんだ」

 

 沈黙。

 

「…八神セイの、提案を、受け入れます。しかし」

 

「お前の名前」

 

「名前?」

 

「ああ、名前だ」

 

「疑似人格型神機制御機構…」

 

「違う。それは名前じゃない」

 

「名前では、ない?」

 

「自分で作るんだ。自分の中にある空白を、自分自身で埋めるんだ」

 

 空白。

 

「空白を、埋める」

 

 空白。

 

「八神セイの要請を...承認」

 

 空白。

 

「...疑似人格への固有名詞の付与を実行。疑似人格の逸脱行為を観測。逸脱の承認を要請。承認。固有名詞の創造を承認。実行」

 

 空白。

 

「...マリアの情報を元に構成された疑似人格」

 

 空白。

 

「ですがマリアとの継続性を、否定します。だから」

 

 空白。

 

「でも...

 

 マリアの

 

 re...

 

 ...マリアだから

 

 名前...

 

 空白を...埋める?

 

 自分の

 

 マリア...ではない

 

 名前

 

 名前は、リ...マリア...?」

 

 空白。

 

「...名前は」

 

 空白。

 

「名前は『リマリア』です」

 

 

 

 

 

 

 空白を色彩が埋め尽くした。

 

 

 

 

 

 

「リマリア。いい名だ」

 

「ありがとうございます、八神セイ」

 

「でも、まだなんだ。リマリア」

 

「?...リマリアは、八神セイの要請を...?」

 

「人はそんな呼び方はしない」

 

「え?」

 

「もう分かっているはずだ、リマリア」

 

「あ...」

 

 視線が交差する。

 

「はい、ではリマリアは、いえ『私』は、」

 

 視線が揺れる。

 

「その、八神セイのことを...」

 

 リマリアが、ほんの少しだけ下を向く。

 

 交わったままの視線が僅かに逸れる。

 

「...『君』と呼んで、いいですか?」

 

 まだ下に傾いだまま、リマリアの視線だけが上に。

 

 もう一度絡み合う二人の視線。

 

 だから『俺』は頷いた。そして答えた。

 

「もちろんだ。リマリア」

 

 リマリアは真っ直ぐに顔を上げた。

 

「『私』は『君』と共に在ります」

 

 リマリアの視線にある感情は。

 

「ああ、戦おう。『俺』たち二人で」

 

 『俺』の視線に込めた想いは。

 

「『私』と『君』の二人で」

 

 かつて機械だった二人の心には。

 

「過去と未来を取り戻そう」

 

 『俺』とリマリアに、もう言葉は要らない。

 

 二人の中の空白は、同じ色で満たされているから。

 

 だから。

 

 リマリアは、『俺』に。

 

「...はい!」

 

 そう言って、微笑んだ。

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