戦域管制官の悲鳴のような高音が聞こえた。
ほとんど重なるように発せられた激しい声も。それも複数だ。熱狂を感じさせる言葉たちに共通していたのは高揚、焦燥、そして怯えの感情だった。
幾つもの感情が渦となって混ざり合う。混沌色となって空間を満たす。充満した感情が広場といっても差し支えない空間を、とても狭く感じさせていた。
出撃準備室は混乱の中にあった。
名前の示すとおり、この部屋は作戦行動に入る前に様々な準備を行う場所だ。作戦の確認や部隊のブリーフィング、神機を微調整するスペースもある。
部屋に入って初めに目につくものは、中央に設置してある大型モニターだ。金属のアームで天井に固定されている3台のモニターは、長身の人物の頭部より少し上くらいの高さに位置にあった。室内のどこからでも表示内容が見えるよう、モニターの角度が調整されていた。今はそこにフェンリルのエンブレムだけが映し出されていた。
中央モニターを挟んでロビーの東側と西側には、出撃ゲートと管制カウンターが配置されていた。東に向かう頑健な出撃ゲートは多重エアロック構造だ。四重の対アラガミ装甲壁が外部からの侵入を防いでいる。
完全環境都市であるこのヒマラヤ支部は、分厚い対アラガミ装甲壁によって外の世界から完全に閉ざされていた。
世界中にあるフェンリルの各支部は、全てここと同じアーコロジー構造の建設群だ。水資源の浄化施設、食料生産工場、再生エネルギー発電所。生活に必要なインフラ全てを体内に有するアーコロジーという概念は、かつて建築学と生態学が交差する領域で生まれた。
それを自給自足が可能な建設群として実現させたのがフェンリル技術開発部門だった。
一口に自給自足と言っても、完全に閉鎖した都市を維持することは決して容易ではない。人数に比して少ない面積の中で限られた資源を活用し、全ての需要を賄っていくことはほとんど不可能に近かった。それに加え、外部のアラガミと戦う必要もあった。戦いに持ち出す資源は多かった。
自給自足を維持するためには支部内のアーコロジー比率を100%に近づける必要があった。
そのため都市の人口統制は厳密を極めた。皆が結婚、出産のタイミングまで支部管理部にコントロールされている状況が長く続いていたため、その事はもう問題にもならないくらいだ。
もっと刹那的な食料の充実や娯楽設備の拡充など目の前にある欲求にこそ、人々の関心が向いていた。それが支部の現実だった。
不自由な立場に甘んじる一般居住区の人々は、形式上はフェンリルに雇用された専門作業員という立場であった。
しかし、その内実は支部の維持運営のための強制労働者だった。賃金は少なく、それも何らかの形でフェンリルに吸い上げられる。だから手元にはほとんど何も残らない。そもそも支部で流通している通貨それ自体がフェンリルの管理下にあるフェンリル・クレジット、仮想通貨fcなのだ。
これではフェンリルが一般の人々に好かれるはずもなかった。
しかしアラガミのいない世界に住むためには、管理者フェンリルに人生を捧げる必要があった。たとえ不自由な暮らしでも、外界でアラガミに喰い殺されるよりはましだ。そう思って全てに耐えている者も多いだろう。
だが既に壁の内側しか知らない世代が増えていた。アラガミをその目で見たことがない新世代の若者が、今や成人になろうとしている。
彼らは内心、支部の外を見たいと思っているに違いない。たとえそこが地獄であっても、人の好奇心は止められないのだ。
しかし彼らの願いは叶えられない。支部の中で生まれた者は生涯を壁の中で過ごし、一度も外部に出ないまま死ぬ。それが現実だった。
支部外への移動手段の中で比較的安全といわれる輸送機の燃料は、途方もなく高価だ。家族全員が生涯をかけて働いた金を集めても手が届かない。それ以前にfcでは貴重な化石燃料を買うことさえできない。
陸路は空路より更に困難だ。外部に通じる扉は、ただ一カ所のみ。外壁とほぼ一体化したヒマラヤ支部フェンリル司令部の、この出撃ゲートだ。そして、ここを通って閉鎖都市を行き来するのは神機使いしかいない。
例外的にだが、ゲートを通過できない大型の車両などのために別の方法もあるにはあった。対アラガミ装甲壁の表面に外付けされたリフトを使って、物資などを外に持ち出すことができた。
リフトは司令部の操作一つで爆破・廃棄でき、万が一、機能が停止してもアラガミが侵入する橋頭堡にならないように作られていた。その反面、運べる大きさや重さに制限があり、更に強度に不安があるという問題もあった。また破損する心配があるため、利用が制限されている代物だった。
つまり支部の外に出るためには事実上、神機使いになる他に道はない。そういうことだ。
夏への扉を探す猫は、結局はそれを見つけることが出来ない。鈍色に光るゲートを見ると、ターミナルの古いデータで見つけた小説の一遍が頭に浮かんだ。
出撃ゲートからモニターを挟んで反対の位置にあるのが、管制カウンターだ。ここは管制官の定位置になっている。今、数人が集まって話し合っているのは、この場所だった。
カウンターそのものである情報端末を囲んだ神機使いの顔には焦りが浮かんでいる。彼らと対面している管制官もまた、神機使いたちと同じような表情をしていた。
横長に広いカウンターには2人の管制官がいる。ともに若い女性だった。2人の内、どこか幼さを感じさせる黒髪の女性は、神機使い達と顔がぶつかり合うくらい近い距離で地図を睨んでいる。
本来、柔和さが目立つのだろうその顔には、全く余裕が見られなかった。女性は身を乗り出し、卓上に立体表示されている支部周辺図の各所を示していく。
カウンターを囲んでいる神機使い達は、女性の指す座標や別のモニターに出ている情報などを食い入るように見ていた。彼らは時折、自分達でも地図の点を指しながら、張りつめた言葉のやり取りをしていた。
もう一人はアジア地域では珍しい長い金髪が目立つ女性だ。幾つかの監視モニターを同時に操作する指先には優雅さが感じられた。
ただ、その涼やかな顔は極度の緊張下で青白くなっていた。顔をモニターに固定したまま、視線だけが忙しく動いていた。
この二人の女性は神機使いと直に接する上席戦域管制官なのだろう。
単にオペレーターとも呼ばれる彼女たちは、実は多くの部下を指揮する立場にあった。
部下である下位の管制官たちは一般的に神機使いと接する事はなく、平時は管理室、有事は後方支援室に詰めている。有事の今は、協力して戦域全体の観測データを分類・分析しているはずだった。二人の上役を情報面で補佐し、間接的に神機使いを支援するためだ。
一方で彼女たち上席戦域管制官が担当するのは作戦内容の伝達、部隊編制の補佐、戦闘下の情報伝達などの単なる通信・補佐分野だけに留まらない。小型無人機による支部周辺の監視・索敵の指揮、オラクル細胞の共鳴技術を応用したアラガミ情報の解析、戦闘中のアラガミの戦力分析と神機使いのバイタル情報の管理。これら全ての分野を統括している。
神機使いのように直接、アラガミと戦うことはないが、同じくフェンリルを軍事面で支える存在だ。ある意味、神機使い以上にアラガミに詳しいことが要求されるこの専門職は、前線に出る部隊の生命線といってよかった。
冷静な分析と的確な指示を行う戦場の指揮者が、彼女たち戦域管制官だ。
しかし今、冷静さが求められるこの管制官が、神機使い達と一緒になって感情を露わにしている。この支部の置かれた状況をよく表しているように思えた。
もしかすると。
ふいに思った。
この支部は落ちるかも知れない。
冷静さを欠いた現場に活路はない。もちろん、その先の未来も存在し得ない。
だが運命を共にするはずの支部の行く末も、他人事のように感じられた。
支部と共に最後を迎える。例えそうであっても別に構わないではないか。自分の人生はもう既に終わっいる。
横に立つ男が、鋭い仕草で二回、手を叩いた。
飛び交う喧噪の空白に、乾いた音が響く。
音の余韻が消えた。声も消えた。
「諸君、話を聞いてくれ」
自ら作った沈黙の中、ゴドーの低い声が静かに広がった。
神機使いたちは顔を上げ、声の主の方を向く。僅かに緊張感を増したように見える彼らは、しかし同時に落ち着きを取り戻していた。隣接する待機室からも何人かの神機使いが現れた。彼らもゴドーに近づき姿勢を正した。
神機使いと共に熱くなっていた黒髪の管制官はゴドーを見て一瞬、大きく目を見開いた。次いで目を閉じ深呼吸する。口元に軽い微笑みが浮かんだ。そして瞼が開かれると、柔和な顔つきに似合う澄んだ瞳が現れた。
女性は目線で男に謝意を示し、直ぐに同僚の肩を軽く叩いた。どうやら黒髪の女性の方が先輩格のようだ。金髪の女性は驚いたようにそちらに顔を向け、両手で胸を押さえた。
二人は揃って目線を男に向けたまま端末を操作し始めた。先ほどよりも滑らかな動きに思えた。一定のリズムが感じられる指先の動きだった。
色彩を感じさせないゴドーの声は、室内の温度を急速に冷やしたようだった。先ほどまで狂騒は消え去り、代わりに静かな緊張感が広がっていた。
「ヒマラヤ支部の周辺に、アラガミの群れが集結している」
聴衆は無言のままだった。声の主を真剣な表情で見つめていた。隣に立つ自分は、きっと全く目に入っていないことだろう。
「危機的な状況ではあるが、既に防衛作戦は用意してある」
その言葉に安堵を表す者。反対に疑いの目を向ける者。それらの視線に込められた感情を無視したまま、ゴドーは言った。
「カリーナ、音声を全チャンネルに繋いでくれ」
「了解」
カリーナと呼ばれた黒髪の女性は短く答えて端末を操作した。
短いやり取り。短縮された単語。
フェンリルの公用語は英語を元に作られた短縮言語だ。習得の容易さと会話の迅速さのために、単語の各所が削られている。そのことから喰い千切られた英語という意味でファングド・イングリッシュ、または単にファングドなどと呼ばれている。
カリーナは母国語のように流暢なファングドで、
「作戦中の部隊を含む全回線に接続しました」
と報告した。ゴドーは彼女に軽く頷いた。
「最初に言っておく。防衛作戦の指揮は俺が取る」
ゴドーはそこで一拍、呼吸を挟んだ。
「先ほど、ポルトロン支部長より期限付きで指揮権を委譲された。それに伴い野戦任官があり、一時的に特務大尉となった。作戦中は全部隊が俺の指揮下に入る。よろしく頼む」
ある程度、予想されていたのであろう。神機使い達からは何の声も上がらなかった。ゴドーが優秀な神機使いというだけでなく、前線指揮官としても信頼が厚いことを意味する沈黙だった。
「安心して欲しい。諸君らが敬愛する支部長閣下は引き続き、支部長の椅子を暖めるという重大な職務を全うされる」
情報秘匿のため一般回線から独立している支部長室の回線に、ゴドーの声は届かない。
神機使い達は失笑した。大きく声に出して笑う者もいた。無表情なのはゴドーだけだ。
「言い忘れていた。我らが支部長閣下はフェンリル本部や近隣の支部に支援を要請している。自分の身の安全のため必死だ。熱心なラブコールに応じて、遅くとも48時間以内に救援部隊が到着すると予想される」
周りから安堵のため息が漏れた。そして先ほどより大きい笑い声も。リラックスした声だった。
「俺たちはこの2日間を凌ぐだけでいい。楽な仕事だ。クールにいこう」
ゴドーは「カリーナ」と声をかけながら手のひら大の情報チップを放り投げた。
両手を伸ばしてそれを受け取ったカリーナは、直ぐに情報端末に接続、データをモニターに映した。
「現在、第3部隊が遅滞戦を行っている。彼らが帰投した後、支部防衛作戦を発令する。予定時刻は本日一二○○」
右腕の腕輪を操作して時刻を合わせ、発令時間を確認する。約2時間後だ。
「敵の規模は500から1,000を想定する。広域から集まったアラガミの群れと推測される。群れは現在、支部の東方に位置する山岳地帯に集まっている」
「群れの一部は数時間前、南に下った平原に移動。そこから支部方面に向かう動きを見せていた。付近を哨戒していた第3部隊がこの小集団と遭遇、威力偵察を行った」
「情報収集を終えた第3部隊は先ほど、支部からの増援と合流。遅滞行動を取りつつ交戦を続けている。ここまでが現状だ」
話しながら合図するゴドーに合わせ、カリーナが手元の端末を操作した。大型モニターに支部周辺の地図が表示され、ゴドーの話す内容に沿って幾つもの光源が浮かんだ。
支部の東方、山岳地帯にアラガミを示す無数の赤い点が光っている。平原地帯にも少数の点があった。
アラガミの足止めをしている第3部隊の現在位置も表示された。彼らは平原の端でアラガミの群れの先端部分と接していた。
平原にいるアラガミの群れを示す光はまばらだった。散開する隊員の方へ、バラバラに別れて向かっているようだ。そしてアラガミの赤い点は、徐々に数を減少させていった。第3部隊が群れからはぐれたアラガミを個別に叩き、数を減らしているのだ。
第3部隊の威力偵察によって得られたアラガミの数や種類などの情報も、地図とは別のモニターに表示されていた。
「見てのとおり第3部隊は偵察班としての職務を忠実に果たしている。彼らはアラガミの本隊が移動を始める直前の段階で戦域を放棄、帰投する」
第3部隊の面々は交戦しつつゴドーの声を聞いているだろう。ゴールが明確になった彼らに迷いはなくなったはずだ。粛々と任務を遂行するプロフェッショナルの姿が想像できた。
「第2部隊はいつもどおりの仕事をしてくれ。防衛班の腕に期待している」
カウンターに陣取った神機使いのひとりが「了解」と答えた。ゴドーは軽く手を上げてそれに応じた。
「防衛ラインは2カ所だ。第一ライン旧都市群の手前、立体交通網の中央部だ」
アラガミの群れから少し離れた地点に第2部隊の印が光った。旧時代の発達した交通網が交差する地域だ。立体の交通路を両側から挟み込むように二つの光源が表示された。
「第2部隊は小隊に分かれ、小隊規模で行動する。D小隊は北、E小隊は南に陣を置き、交通路に入ったアラガミを挟撃、動きを止める。残りの小隊はD、E両隊を支援する。アラガミ本隊の中央部分が立体交通路に入ったところで支柱を爆破。群れの損傷具合を確認した後、支部に帰投する」
防衛班の面々は頷いた。ゴドーはそちらに視線を向け、目線で頷いた。
「今回は特別サービスとしてダイナーを手配した。2台あるので好きに使ってくれ」
カウンター前にいた神機使いが口笛を吹いた。
「ダイナー」とは移動式オラクル補給機構の俗称だ。かつて旧型神機が主流だった時代、銃形態のみで戦う遠距離型の集中運用の為に考案されたものだ。対アラガミ装甲車両の内部に偏食因子で保護された大容量オラクル細胞貯蔵タンクを搭載している。
事前に神機と車両とリンクさせておくことで、銃撃戦の最中、タンクのオラクル細胞を神機に送り続けることができる。弾切れを心配せずに撃ちまくれるということだ。
ダイナーと接続された数人の遠距離型神機使いは、アラガミの群れを数分で撃退することも可能だった。それが2小隊分あるということは、遠距離からアラガミを十字砲火し続けることを意味する。十字放火で射撃効率は数倍に向上するため、高い戦果が期待できる。
このダイナーは平坦かつ広い路面でしか運用できない上、集中砲火で貴重なアラガミ素材をほとんど破壊してしまうという問題があった。その性質上、偵察・討伐任務には向かない装備だが、その反面、射撃に特化した防衛班との相性は抜群だった。
「第二ラインはここ、旧都市群の周辺だ。帰投した第3部隊に任せる。第2部隊が分断した群れの頭を叩いてもらう」
第3部隊は所謂、何でも屋だ。元々はアラガミの討伐を行う第1部隊と支部の防衛を行う第2部隊の両部隊を助ける支援部隊である。もちろん討伐も防衛も高い水準でこなせる。
だが、彼らの本領は別にある。支部に余裕がある時、彼らは遠征を行って新たな資源を発見・発掘する。そして持ち帰った資材で壁の補修も手がける。偵察も出来る工兵部隊という性格を持った部隊だった。
「第3部隊らしい万能さを発揮して欲しい。主な任務はピザのデリバリーだ」
この「ピザ」も対アラガミ装備の愛称だった。箱型のこの装備の中身は偏食因子の応用技術で出来ている。
偏食因子はオラクル細胞を元にして作られたアラガミが捕食したがらない素材だ。神機や支部の壁に練り込まれている。
この偏食因子の開発の副産物として、アラガミの捕食を誘発するフェロモンのような因子が発見された。
発見されてしばらくの間、誰にも見向きされなかったこのフェロモン因子に最初に目をつけたのは、神機の整備士だった。必要となる神機の素材を効率よく手に入れるため、特定のアラガミを呼び寄せる因子が欲しい。そんな考えがあったのだろう。
こうして完成したフェロモン因子は、しかしその効果が強すぎため携行する神機使いから不評だった。必要以上のアラガミが集まるため、近くにいる神機使いに危険が及ぶこと、また、目的のアラガミだけでなく他のアラガミも引きつけてしまうことなどがその理由だった。
支部に近づくアラガミを別の場所に誘導する餌として、防衛班が活用するようになったのは、それから随分と時間が経ってからだった。
モニター上に第3部隊の各員を示す点が浮かんだ。彼らは一人ずつ旧都市群の中に点在する高層ビルに配置されている。
「各員は建築物の中層部に罠を仕掛け、狭い通路に迷い込んだ小型アラガミを迎撃する。ある程度のアラガミが餌に食いついた段階でその場から離脱、ビルごと爆破する。その後、アラガミ本隊が通過するタイミングで同じように餌をまく。後の手順は同じだ。本隊の前方と後方を掻き乱してやろう」
残るは最終防衛ラインだけだ。
数を減らしたアラガミ本隊は、それでもかなりの規模で支部の東側に押し寄せるだろう。
モニターにアラガミの群れが表示された。場所はこの司令部の目の前だ。壁に群がるにアラガミたちの姿が目に浮かんだ。
「分かっていると思うが、本作戦の主な課題は、最終防衛ラインにたどり着く前に、アラガミの数を可能な限り減らすことだ」
ゴドーは淡々と話している。モニターはそれに合わせ、最終防衛ラインの各隊の配置を表示させた。
最小の人数で、最大限の効果を狙う。神機使いの数が限られる中で支部を守るためには、軍事資源を効率よく使い尽くさなければならない。
最後まで残しておくべきは神機使いだった。アラガミを倒せるのは神機使いだけ。他の装備は神機使いを支援するだけだ。
それはゴドーの言葉にも表れていた。
「だが、第2、第3の両部隊は、それぞれの持ち場に固執するな。最終防衛ラインでの支部の防衛。これは総力戦になる。それまで力を温存するように。支部の対アラガミ装甲壁と各種支援装備、それに諸君らの神機が加われば、この程度の数はどうにでもなる」
実際のところ、いくら司令部の潤沢な物資が使えたとしても、この状況で支部を完全に守ることは容易ではない。それはこの場にいる全員が肌で感じているだろう。だが、それでもゴドーの静かな言葉には、騙されてみたいと感じさせる魔力があった。
しかし。
「残るは第1部隊だが、隊長である俺は指揮に専念するため司令部から動けない。そのため」
ゴドーは言葉を区切った。
「副官である八神マリア少尉に代理を頼みたいところだ。しかし、諸君も承知しているように哨戒中だった彼女は現在、群れから離れた大型アラガミの討伐任務に就いている」
そういうことか。
ゴドーはこちらに手を向けて淡々と言った。
「そこで新任の八神セイ少尉を隊長代理に任命する」
周りの視線が自分に集まった。
「彼はあの極東支部で対アラガミ戦を学んだ最初の士官だと付け加えておく。第1部隊各員、少尉にヒマラヤ支部の真価をお見せするとしよう。ただし、戦場では彼の指揮に従うように」
ゴドーと目が合った。こちらを見る視線は冷ややかな無感情のままだ。他からの視線は、既に感じられなくなっていた。
ゴドーは最初と同じく、2回手を叩いた。
「そろそろお客様を出迎える準備に取りかかる。向こうは食事に来たつもりだろうが、残念ながらここは注文の多い料理店だ。身ぐるみ剥いで骨までしゃぶり尽くすとしよう」
ゴドーは芝居のかかった口調で演説を終わらせた。神を喰らうゴッドイーターらしく。
「各員、食べ残しのないように。俺は食事のマナーにはうるさいからな」