G.E.alternative   作:時計屋

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07. 災厄

「オルタ5、ウロヴォロスを視認」

 山の影から姿を表したウロヴォロスは、悠然とした足取りで前へ前へと進んでいた。触手が岩を砕く。爪が大地を削る。ただ歩くだけで地形が崩れていった。

 正に歩く災厄だった。

 いや、違う。

「標的が予定地点に入り次第、攻撃を開始する」

 そう、あれは単なる標的だ。

 狙撃手は標的を狙い撃つのみ。

 そう言い聞かせながら、神機を握る手に力を入れた。イメージの中で神機の中核に熱を送り込む。エンジンの回転数が上がるような高鳴りが神機から発せられた。

 強い捕食衝動を感じる。神機のコアに宿るアラガミの本性が剥き出しになっていた。

 喰いたい。

 その声を無視して、標的に集中する。

 ウロヴォロスを眼下に見た。自分の位置からだと、突き出た頭部と大きく湾曲した背骨を見下ろす形だ。

 次にレーダーを一瞥した。他の神機使い達の配置はどうか。攻撃を前に確認する。第1部隊各員は自分が居るこの丘を少し下った辺り、ウロヴォロスの背骨くらいの高さの地点で待機している。

 光学迷彩に身を隠した彼らの目の前にウロヴォロスの左半身があるはずだ。

 標的を挟んでこの丘の反対側にある山の斜面には、第3部隊を示す点があった。丘の頂上より遥かに高所だ。彼らは地図情報や無人機の好感度カメラの映像でウロヴォロスの動きを注視しているだろう。

 腹が減った。

 また神機の衝動を感じた。これも無視する。

 ウロヴォロスの足下に連なる小型アラガミは、狭い山道を歩いているため密集した列を成している。王者に率いられた従者たちの長い長い行列だ。

 ウロヴォロスが進む。すり鉢状に低くなった場所まで、あとほんの少しだ。

 喰わせろ。

 巨体が地形に身を沈めるのが見えた。

 銃身の左右に並べた分厚い対アラガミ装甲壁から迷彩布を剥ぎ取る。鈍色の神機を構え直した。自分の攻撃的な意思に応じて、神機の熱が臨界点に達するのを感じた。

 神機の中のアラガミが喚き出す。

 早く。

 ウロヴォロスが進む。

 窪地に入った。触手の動きが僅かに乱れた。

 早く。

 早く。

 体勢を崩したウロヴォロスは触手を伸ばした。それを左右の岩に突き刺して、身体を支える。

 喰わせろ。

 ウロヴォロスの動きが止まった。

 あいつを喰わせろ。

 ここだ。

「攻撃を開始する」

 弾速強化ユニットを取り付け、通常の2倍以上の長さとなった銃身から、高圧縮されたオラクルバレットが放たれた。

 発射とほぼ同時に着弾。ウロヴォロスの複眼に命中。それと同時に幾つもの短い光が弾けた。

 シユウの頭部を破壊したものとよく似たこのバレットは、アラガミの装甲に突き刺さった後、刃の華と化して身体の中を切り裂くものだ。かつて極東で開発されたこのバレットは、構成が古い反面、効果が安定していた。

 もう一度、狙い撃つ。更にもう一度。着弾した場所に華が咲いた。

 そして神機からの声。腹が空いた。まだか。早く喰わせろ。

 この数回の射撃で、神機内部に貯蔵されていたオラクル細胞が空になった。予備タンクも含めてだ。神機から強い飢餓感が伝わってくる。急ぎ予備のタンクと繋ぐ。流体化したオラクル細胞が神機に流れ込んだ。

 それでも抗う神機をねじ伏せ、照準の先にあるウロヴォロスの複眼を見た。損傷を確認するためだ。

 多少なりともダメージを与えられたはずだ。ウロヴォロスの複眼が拡大された。僅かながら損傷が見られる。

 しかしそれも束の間、急速に傷が修復されていく。

 時計が巻き戻るような奇妙な感覚を覚えた。回復というより復元だ。

 化け物め。

 ウロヴォロスの複眼が怪しく光った。完全にこちらを視認している。

 長距離狙撃用ユニットを切り離す。神機をトーチカ内に引き入れる。身体と神機を装甲壁の影に隠す。

 その瞬間。

 衝撃。

 光に飲み込まれた。

 ウロヴォロスの放った光条がトーチカを直撃した。

 身体に直に触れる装甲壁から熱を感じた。高い耐熱性能を誇るこの装甲をも燃やさんとする熱量に驚きを隠せない。支部の外壁でも使われる対アラガミ多重装甲はすぐには溶かされないはずだ。そう分かっていても焼き殺される恐怖に抗えなかった。

 引き絞られた光による照射は続く。山肌を光の束が這い回り、トーチカの装甲を何度もなぞった。

 

 身を焦がす熱波を感じながら、無線に呼びかけた。

「オルタ5より第2部隊。標的に目立った損傷なし。だが足は止めた」

 必死に声を落ち着かせようとしたが、それでも震えを隠し切れない。

 少女のような甲高い声が自分の声に応えた。

「こっちの準備はもう整っているさね。みんな、新人が二つほど階級を上げる前に敵を吹き飛ばしてやろうじゃないか」

 芝居がかった口調はドロップ1のものだ。若くして第2部隊隊長に就いたドロップ1は、その幼い外見に反してヒマラヤ屈指の攻撃的な神機使いだった。年上ばかりの部下達からも信頼が厚い。

「アイ、マム」

 合図を待っていたかのように一拍も置かず応じる男達の声。

 装甲を置いていない空中を見上げる。

 光が降ってきた。ウロヴォロスの光線に負けない勢いだ。それが何条も連なっている。夜空に流れる流星群だ。

 星たちがウロヴォロスに直撃した。着弾と同時に大きな爆発が起きる。閃光と爆発の連鎖がウロヴォロスの巨体を包む。周囲の小型アラガミなど、もはや紙屑のように消し飛んでいた。

 圧倒的な火力だった。

 流星を生んだのは第2部隊による曲射砲撃だった。かつて机上で学んだこの手法が、これ程までの破壊力を秘めていたとは。しかも数キロ先からの砲撃だというのに。

 地形の遮蔽を越えるように曲がるオラクルバレットは、神機に変異チップを組み込んで作った代物だ。重力の影響を受けるために弾速が異常に遅く、止まった標的にしか当たらない。エネルギー効率も最悪の部類だ。

 しかし、その威力は甚大だ。多重に増幅された砲撃が、混沌を穿つ。砕く。押し潰す。

 それは蹂躙だった。

 このバレットの燃費の悪さは、神機と車両搭載型オラクル補給装置を有線接続することで補える。曲射ならではの狙いの荒さや弾速の遅さは、敵を足止めしてしまえば問題にならない。また、神機に外付けされた射程延長ユニット、オラクル圧縮ユニット、銃身冷却・反動軽減ユニットなどの各種追加装備でバレットの性能を高めることもできた。

 しかし、この強力な攻撃には最大の欠点があった。

 追加装備でも補いきれないその弱点とは、神機への負担が大きすぎるということだ。活動限界を越えて酷使された神機は一時的に機能が制限されてしまう。

 そろそろか。

 急いたような少女の声が叫んだ。

「こちらドロップ1。もう神機が活動限界になった。あとはそっちで頼むよ」

 いつの間にか砲撃が止んでいた。

 限界を超えた第2部隊の神機は暫くの間、使い物にならないだろう。彼女達の役目はここまでだ。

 

 流星の雨によって、辺りは粉塵で包まれていた。

 爆撃の成果はどうか。

 ウロヴォロスの姿を探す。狙撃型神機の視力で煙の向こうを見渡した。ウロヴォロスは圧力に潰されるようにして、触手を放射線状に投げ出していた。

 更に視界を絞る。損傷を確認する。

「オルタ5。背面及び側面の触手、結合崩壊」

 強固に結合していたオラクル細胞が砕けていた。

 視点を下に向けた。

「頭部の損傷は軽微。脚部はほぼ無傷」

 爆発系バレットではダメージが表面に留まる。

 分厚い触手の盾に守られた胴体に損傷を与えることは困難だ。攻城戦に例えるならば、要塞の外壁は壊せたが中の兵隊は健在、といったところか。

 しかも。

「ウロヴォロス、急速に傷を修復。活動を再開」

 これが円環を成す大蛇の不死性か。その驚異的な回復力は見るものに根源的な恐怖を感じさせた。

 起き上がろうとするウロヴォロス。

 しかしこの程度は極東のアーカイブで研究済みだった。

 自分の神機に接続された追加装備を全て放棄した。身軽になった神機は、それでも身の丈を越える長さだ。

「作戦の第1段階が終了。第2段階に移行」 

 長い銃身を担ぐように持ち、装甲壁を飛び越えながら言った。

「第1部隊、作戦行動に入る」

 神機を構える。

 狙撃。

 狙撃。

 狙撃。

 狙いは複眼。標的の視界を奪うためだ。

 崖を転がるように駆け下りた。暴れる銃身を押さえ込みながら、また狙撃する。ブレイブ、クリード各隊の狙撃手もそれに続いた。自分よりも的確に複眼の中心部を射抜く幾つかの弾丸が見えた。

 立ち上がろうとしていたウロヴォロスの動きが止まった。そして頭部がこちらを見る。複眼に光が灯る。

 そこに地上の神機使い達が襲いかかった。

 一番槍はブレイブ1だ。オラクルを放出させて加速した戦槌が先陣を切る。

 他の神機使いもそれに続いた。いつの間にか足下近くまで接近していた強襲兵は、周囲に転がる小型アラガミを蹴散らし、また捕食しながらウロヴォロスに肉薄する。

 頭部に叩き付けられる戦槌や大剣。

 千切れかかった触手を切り裂く刃。

 その下をすり抜けて脚部を貫く鋭い穂先。

 少し遅れて狙撃手たちもウロヴォロスに接近した。もちろん自分もだ。ウロヴォロスに近付きながら何度も狙撃する。

 至近距離で放たれたオラクルバレットが複眼に突き刺さる。

 連射。連射。

 気付くと連射が止まっていた。弾切れか。

 更にウロヴォロスに近付いていく。走りながら神機の制御組織群に命じ、隠した爪を引き出させた。

 銃身がバラバラに崩れた。弾けた金属質のパーツが、それと一体化している生体パーツによって再構築される。

 次の瞬間、対物狙撃銃の形だった神機が巨大な刀となっていた。

 白刃を構える。ウロヴォロスに肉薄する。ウロヴォロスは既に身体の各所が崩壊していた。

 触手に刀身を突き立てる。切り上げながら触手を駆け上り、複眼に迫る。

 そして、

「第1部隊、一斉捕食」

 と叫んだ。

 それに応じる神機使い達の声が聞こえた。

 刀身が崩れた。コア部分にある生体パーツが大きく広がり、鋭い牙を剥き出しにする。神機から表れた漆黒の顎がウロヴォロスの複眼に喰らい付いた。

 歓喜の声が聞こえた。

 これが喰いたい。もっと喰わせろ。

 今度はそれに抗わず、獣の本能のままに喰らい付かせる。

 初めての捕食だった。

 神機の中のアラガミの意識が暴力的に高まるのを感じた。神機と同じく自分の身体からも歓喜の声が上がった。人間の部分とアラガミの部分が混じり合う。

 快楽から身を引き離して叫んだ。

「各員、アラガミバレット準備。カウント5」

 神機を銃形態へ。先ほどとは形が違う。よりアラガミに近い生物的な姿をした異形の銃だ。

「4、3、2」

 銃口が輝く。

「放て」

 神機から強力な光が迸った。ウロヴォロスが放つものと同じか、それ以上の熱量だ。

 捕食したアラガミの能力を模した強力なバレット。それがアラガミバレットだ。第2部隊の攻撃に劣らない光がウロヴォロスを襲った。

 第1部隊によるアラガミバレットの零距離一斉射撃によって、ウロヴォロスの身体が切り刻まれていった。

 王者の外套は激しい熱に焼き尽くされた。背骨は砕け散り、既に身体を支えていない。触手に無事なものはほとんどない。胴体から切り離され肉片と化している。太い脚部も同様だった。角の一方は根元で両断され、もう一方には幾つもの風穴が空いている。切り裂かれた複眼に光はなかった。

 不死の大蛇が倒れたか。

 しかし。再度、再生を始めたウロヴォロスの触手。複眼にも弱いながらも暗い光が灯った。

 あれだけの攻撃でも中枢細胞群を破壊できなかったか。

 激しい損傷を受けたためまだ身体は動かせないようだが、既に触手の一部が本体と繋がり、神機使いに向ってた。

 

 だが、それすらも想定内だった。

 一斉に駆け出す神機使い達。元来た丘の中腹に登っていく。

「オルタ5、ケーキカットを終了。第3部隊、ブーケトスの準備はどうか」

「こちら、ハーモニー1。お疲れさま」

 戦場にあって、間延びした返事。どこか眠気を感じさせる中性的な声が聞こえた。第3部隊の隊長だ。

「花束にはリボンも結んでおいたよ」

「では最終段階に移行願う」

「ああ分かった」

 第3部隊は万能部隊だ。つい先ほどまで威力偵察を行っていたこの部隊は、今は工兵隊に姿を変えていた。

 無敵とも言える再生力をもつウロヴォロスを仕留めることは容易ではない。だが、困難に思えるこの任務も、時と場所を選べば難易度が下がる。

 第3部隊ならそれを実現できる。

 山間の窪地に沈むのはウロヴォロスと小型アラガミの残党のみ。

「第1部隊の後退を確認。ウロヴォロスに花束を届けるよ」

 場違いな程にのんびりとした口調でハーモニー1が言った。

 大きな爆破音。

 次々と連続して起こる。それが山間に共鳴した。爆発はウロヴォロスが倒れる地点の北側にある山の中腹辺りで起こっていた。第1部隊が退避した丘の対面側だ。

 爆発とほとんど間を置かず、それとは異なる轟音が響いた。強い振動もだ。

 土砂崩れが起きた音だ。

 土と瓦礫が濁流となって斜面を駆け下りていく。そして動き出そうとしていた巨大なアラガミの上に、滝のように落ちていった。

 度重なる攻撃で大きく亀裂が走るウロヴォロスの触手に、砕けた角に、切り裂かれた複眼に、容赦なく土砂が襲う。

 いや、それだけではない。きらきらと光る何かが、まるで花びらのように混じっている。

 対アラガミ装甲壁、その材料となる巨大な金属片だ。偏食因子で作られた板や杭、強靭な綱の束などが土砂と一緒にウロヴォロスに突き刺さっていく。振動が収まるまで、長い時間がかかった。

 やがて静まった谷には、鉄の花びらで死化粧された混沌の王が眠っていた。

 まだ痙攣を続けるウロヴォロスは、しかし身体を再生することができなかった。偏食因子を含んだ金属がオラクル細胞の再結合を阻害しているのだ。こうなってしまうと、ウロヴォロスの不死性も無意味だった。

 それを視認してからインカムに向かって言った。

「オルタ5より司令部、作戦終了」

 

 だが災厄は、これで終わりではなかった。

 

 

「ア・・ミハ・・ガ、接近・」

 声が聞こえた。

 インカムの不調か?

「アラガミ・・」

 再度、送られた声。やっと単語を聞き取ることができた。

「・・接近」

 マリアの声。似ている。声の内容も気にかかった。耳を澄ませる。

 先ほどより鮮明になった声が言った。

 やはりマリアの声だ。

「アラガミ反応が接近しています」

「アラガミ反応?」

 思わず聞き返す。反射的にレーダーを見る。

 アラガミ大のオラクル反応に反応するレーダーには、近くに倒れるウロヴォロス以外、何も映っていなかった。

 別の戦域の通信だろうか。混線の可能性は否定できない。

 しかし。

 そう思って視線を上に向けた瞬間。

 空から氷の刃が振ってきた。

 神機の装甲を展開する。落ちる氷の勢いを殺しきれず、身体が地面にめり込んだ。盾の影に入りきらなかった右足が被弾した。焼けるような感覚が走った。

 おかしい。レーダーにアラガミの反応はなかったはずだ。司令部もこの戦域一帯を警戒しているのに。いったいどこから?

 周囲で聞こえる悲鳴。肉が割け、骨が砕ける鈍い音も。周りを見渡す。地面に縫い付けられた第1部隊の精鋭の姿が見えた。

 そこに更なる刃が降り注いだ。

 インカムに向って叫ぶ。

「オルタ5、未確認のアラガミにより攻撃を受けた」

 直ぐにカリーナの声が返ってくる。

「こちら司令部、レーダーにアラガミ反応はありません」

 やはり。しかしレーダーに映らないアラガミなど聞いたことがない。急いで辺りを見回すが、氷の雨の中にアラガミの姿を見つけることは出来なかった。

「オルタ5、アラガミを視認できず」

 続けて言った。

「第1部隊の損傷甚大。救援求む」

 だが、インカムから別の声が聞こえた。

「ドロップ1、なんだよこれ。空からミサイルが降ってくる」

「ハーモニー1、山頂からコンゴウの群れ表れた。完全に不意打ちだね」

 同時に襲撃を受けた。しかも、各隊がウロヴォロスに注意を向けていたところを上から強襲するとは。ウロヴォロスを餌に神機使いを釣ったとでも言うのか。

「まだ神機が動かないんだ。こっちは総崩れになってる。誰か助けてくれ」

「コンゴウの総数は15体前後だから、1人頭4体か。これは生き残れないな」

 焦燥と諦観と。

 そして両者の声色に共通していたのは、絶望の色だった。

 

 降り注ぐ氷の刃が止まった。第1部隊はどうなったのか。辺りを見回した。そこにあったのは。

 手や足が切り取られた者。腹に刃が刺さった者。頭が潰された者。

 無傷な者はいなかった。動く者もいない。この場に立っているのはインカムの声に反応した自分だけだった。他の部隊と同じ絶望を感じながら、上に向いた。

 そこには山肌を跳ねるように下る白毛の四足獣があった。その動きはまるで重力を受けていないようだった。

 背中に三日月のような刃を背負っている。

 それは白いアラガミだった。

 視界が揺らいだ。

 あれは記憶の中の。

「個体名ネブカドネザル」

 またマリアの声が聞こえた。やはり生きていたのか。

 マリアの声がネブカドネザルと呼んだ白いアラガミは、瓦礫が散乱する地面の一段高い場所に降り立った。それを目の端に留めつつも、しかし自分の意識はマリアの声に向いていた。

 この危機的状況にもあっても、喜びが湧き上がるのを押さえられない。この場がどうなっても構わない。

 マリアさえいるのなら。

 マリアが生きているなら。

 マリアはどこにいるのか。司令部に戻ったのだろうか。

「マリア」

 その気持ちが思わず声に出ていた。

 マリアの声が無機質に回答した。

「個体名八神マリアは、既に神機と一体化しています」

 神機と一体化。どういうことだ。

 夢の中の光景が、鮮明に頭に浮かんだ。断片的だった記憶が繋がる。意味を成す。

 そうだ。

 白いアラガミ。自分は確かにあのアラガミを知っている。あれはどこだったのだろうか。

 そうか。

 マリアと研究施設を偵察中、あの白いアラガミに襲われて。砕かれた神機の刀身。それをアラガミが飲み込む。吹き飛ばされるマリア。動かない。担いで逃げる。

 そうだったのか。

 彼女を助けるために自分は。

 半ば瓦礫に埋もれた、古い神機を、手に。

 適合していない神機の捕食機能が目覚めて。

 黒い顎が。

 自分と神機の間に入るマリア。

 なんでそんな事を。

 マリアの声が言った。

「神機の自己保全機能により」

 止めてくれ。

 これ以上は、もう止めてくれ。

 

「八神マリアを捕食しました」

 

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