G.E.alternative   作:時計屋

9 / 13
09. 深淵

「アビス・ファクター、レディ」

 耳元で囁いた亡霊の声に恍惚の色を感じた。

 その声色は俺にマリアのそれを思い出させた。似ているというのではない。全く同じ声だった。中空に浮かぶこの世ならざる姿も、何処かマリアと似ていた。

 姉はもういない。八神マリアは死んだのだ。

 しかし彼女は亡霊となって蘇った。俺は神機に取り憑く亡霊をそういうモノとして受け入れていた。だからこの亡霊が追憶のマリアと重なるのも当然だった。俺にとって銀に輝く亡霊は、マリアと同一線上にある存在として認識されていた。

 マリアに背を押されたように、俺はネブカドネザルに向って走り出した。

 疾風となった俺の背に亡霊が付き従った。銀の亡霊は焦点の合わない瞳で俺を見下ろしていた。俺だけでなく俺を取り巻く全ての現象を観察しているのかも知れない。俺は視界の端に映る亡霊の、その冷やかな横顔を覗き見た。

 この亡霊はきっと、ある種の呪縛なのだろう。俺がマリアを忘れないように。俺とマリアが背負ったものを忘れないように。その為だけに記憶の海に沈められた碇なのだ。

 俺は亡霊をすぐ側に感じながら走る速度を上げた。地上を滑空するようなその走りは、既に人間のものではなかった。オラクル細胞を投与されたゴッドイーターとしても、異常な速度だった。

 代償もあった。両足に焼き付くような尖った痛みが走った。足の筋肉が過負荷に耐えきれず芋虫のように無様に収縮を繰り返した。そしてぶちぶちと音を立てて筋が断ち切れた。

 壊れた筋肉は、しかしその端から再生されていった。神機から腕輪を通して逆流したオラクル細胞が、俺の肉体に暴走と修復を同時に生じさせているようだ。

 激痛と癒しの際限のないループが俺を蝕もうとしていた。

 だが俺にとって痛みとは、生者の証でもあった。激痛は俺により強く生を意識させた。俺は生きている。走る事ができる。走って牙を剥き、喰い千切ることができる。俺の牙はどこまで届くのか、早く試したい。そう考えるだけで、こんなにも愉快でたまらなくなった。

 だから俺は激痛の中で、乾いた笑い声を立てた。

 俺は自分の神機を失い、代わりにこの神機を手に入れた。新たな神機は、あの一件で失った人としての感情を俺に思い出させた。かつて灰色の哀しみだけで構成されていた俺の内面は今、極彩色の感情で塗り潰されていた。

 それは今も同じだ。俺は愉悦と快楽の色に染まりきっていた。

 口元に笑みを張り付けながら、俺の五感はどんどん鋭敏になっていく。そして研ぎ澄まされた意識を映す鏡のように、神機の刀身は白銀に冴えていた。

 俺が手に入れたこの神機は、今ではほとんど見られなくなった単純な構造の神機だ。ただ鋭いだけのシンプルなブレードは身の丈を超える。その鍔の部分には刀身と同色の盾が折り畳まれ、いつでの展開できるようになっていた。鍔元にある銃口は収納された重火器のものだ。近接形態から銃形態に変形させると、この銃身部分が伸張し長大な狙撃銃となる。近接形態と銃形態に形を変える可変機構は、第二世代の神機が最低限、備えるべき機能だった。

 俺の神機は標準的な第二世代型神機と比べても、どこか素っ気ない雰囲気があった。

 かつては。俺は心の中で付け足した。

 だが今は。

 神機の無機質な刀身が赤い波に覆われていた。刃の部分に埋め込まれた捕食に特化したオラクル細胞が光を放っていた。その刀身は血に飢えた妖刀のようだった。

 違う。血に飢えているのは俺の方だ。快楽の裏側に際限のない飢餓感を感じた。獲物の血肉に飢えた獣のそれと同じだった。

 お前を喰えばこの飢えも止むのか。

 俺は餓狼の眼差しで、瓦礫の山の上に立つ白いアラガミを見上げた。

 

 ネブカドネザルは俺の飢えた視線を無視するように静かに佇んでいた。

 その硬質的な眼球に哀れみの色が浮かんでいるように見えた。化け物に堕ちた俺を、同じ化け物が哀しむ。その矛盾は俺をもっと愉快な気分にさせた。

 せいぜい高い位置から見下しているがいい。お前はマリアと俺を深淵の底に落とした。多くの神機使いを塵芥のように踏みつぶした。同じアラガミでさえも意のままに操り、死んでからもなお自らに従わせた。

 それもここで終わりだ。俺の牙が死神の喉笛を喰い千切るまで、あとたった3歩しかない。そう思うと心が喜びで満ちた。擦れた声が甲高い嘲笑に変わっていた。

 俺は最後の数歩を疾走しながら、神機の刀身を正眼に構え直していた。妖しく光る切っ先が、真っ直ぐにネブカドネザルを狙っていた。

 神機の先端を逸らすように白いアラガミが身を沈ませた。それは俊敏な四足獣が動き出す直前の独特な身構えだった。

 遅い。あと2歩だ。

 刀身を正確にアラガミの右の眼球に向けた。

 そして最後の1歩を踏み込んだ。

 全ての運動エネルギーを1点に集中させた刺突が、狙い澄ました銃撃のように標的に向って放たれた。

 アラガミが動いた。まるで重力に干渉されないような優雅な動作で俺の右手側に跳んだ。神機の刀身がアラガミの影だけを斬り裂いた。

 アラガミは宙に浮いた状態でしなやかに身体を捻った。四脚獣が空中を跳ねるようにして運動エネルギーの方向を捩じ曲げる。驚異的な身体能力だった。

 ネブカドネザルは刀身に引きずられるように伸びた俺の腕に、背中にある巨大な三日月型の刃を振り降ろした。

 これでいい。

 俺は刀身を平に返し、刃先を斜め上に向けた。三日月刃と水平にすれ違う軌道だ。斬り付ける速度が三日月のそれを上回るよう、俺は大地を踏み締めて力を溜めた。

 俺の動きに合わせるように三日月の落ちる軌道が変わった。ネブカドネザルは俺の切り上げを受け止める方向に刃先を向けた。だが急な方向転換に体勢が乱れた。

 ここだ。あの三日月を。

「噛み砕けぇっ!」

 咆哮に導かれるように、神機から赤いオラクルの炎が噴き出した。間欠泉のように爆発的に迸った炎が巨大な剣の形に収束する。紅蓮に揺らめく刃は神機本体の倍ほどの長さがあった。

 それは禍々しく燃える修羅の太刀だった。

 俺は炎刃で三日月を薙ぎ払った。太陽の紅閃と白い三日月とが1点で交わる。そして太陽が三日月を飲み込んだ。修羅の炎がネブカドネザルを焼き尽くさんと全身を覆い隠した。

 俺は溜め込んだ力を解放した。全身のばねを使ってアラガミごと炎刃を振り抜く。紅蓮に包まれたまま、ネブカドネザルの巨体が上に吹き飛ばされた。

 俺は炎刃を従えて跳躍した。燃えるアラガミの脇をすり抜けて、もっともっと高い場所まで。そして跳躍の頂からネブカドネザルの焦げ付いた身体を見下ろした。

 俺は落下する勢いを炎刃に乗せて振り下ろした。

 ネブカドネザルは三日月を掲げて炎刃を受け止めた。斬撃が防がれても、しかし神機の纏う炎の勢いは止まらなかった。神機の刀身から轟炎が弾けた。そして白いアラガミの身体を紅蓮一色に染め上げた。

 俺はそのまま空中で歯車が回転するように、身体ごと縦に炎刃を振り抜いた。風車のように回る剣戟がネブカドネザルの三日月を弾き、身体ごと地面へと突き落とした。

 アラガミの巨体が激しい音を立てて地面に激突した。その衝撃で旧世界の建造物が粉々に砕けた。その破片が地表に沈むアラガミの上に振り注いだ。

 俺はふわりと地表に降り立ちながら、神機を肩に担いだ。

 神機の炎は消えていた。だが刀身を静かに覆う赤いオラクルの光は、寧ろ先ほどより強まっているように感じられた。一瞬の交差でネブカドネザルのオラクル細胞を削り取り、自らの力に変えたのだろう。

 生き血を啜った妖刀が禍々しく濡れていた。

 俺の視線の先で瓦礫が揺れた。そして激しい音を立てて崩れる。その粉塵の中からネブカドネザルの身体が表れた。白い体毛は焦げ付き、全身が埃にまみれていた。アラガミは四肢を踏ん張るが、思うように力が入らない様子だった。四脚獣の蹄が揺れていた。

 そして、背に負う三日月型の刃に大きなひびが入っていた。

 俺の牙は、死神に届く。

 俺の口元が歪んでいた。それは無邪気さを感じさせるような微笑だった。言いようのない歓喜が俺を包み込んだ。それに全身に力が漲っていた。ネブカドネザルの肉を喰らったからだろうか。

 俺は担いだ神機とその横に浮かぶ亡霊に目を向けた。

 お前はまだ、喰い足りないだろう?

 問いかけに応えるように、刀身が妖しく光った。マリアの亡霊はただ暮夜けた輪郭の淵を輝かせていた。

 だが俺には亡霊が確かに頷いたように見えた。

 

 瓦礫の山に立つネブカドネザルが、大きく吠えた。

 それは生物が決して発しないような金属音じみた鳴き声だった。その咆哮に込められていたのは傷付けられた屈辱か、それとも恐怖か。ひび割れた三日月型の刃は、声に合わせるように揺れていた。

 音の波を全身に感じつつ、俺は風となってネブカドネザルとの距離を詰めた。先手を取って封殺するためだった。間合いに入った瞬間、脇に落とした刀身を上段に移し、真っ直ぐに振り下ろした。

 反撃を敢えて想定しない全力の斬撃を、ネブカドネザルは破損した三日月刃で受け止めた。三日月刃からは金属が軋むような悲鳴が聞こえた。俺はそのまま三日月刃を断ち切らんと手元を引き締めた。そして人間の限界を超えた剣圧でアラガミを圧した。

 だがネブカドネザルは蹄を地面に食い込ませながらも俺の一撃を受けきった。それだけではなかった。優位な体勢で斬撃を放ったはずの俺の方が押し返されていた。勢いが完全に殺されていた。

 俺は両手で神機を押さえ付けながらネブカドネザルを見た。神機を止めた三日月刃は今にも折れそうなほど歪んでいる。そして全体から甲高い悲鳴が上がっていた。

 悲鳴は徐々に高くなり俺の聴覚を狂わせた。耳鳴りで全身の平衡感覚がおかしくなる。神機を持つ手が痺れるのはそのせいだろうか。

 そうではなかった。

 この音は悲鳴ではない。そう気付いた時、狂乱の悲鳴が可聴音域を越えた。さざ波に飲み込まれるように三日月の輪郭が暮夜ける。その瞬間、高い金属音と共に俺の身体が弾け飛んだ。

 俺は大きく弧を描いて地面に叩き付けられた。地面を転がった勢いで片膝を付いて立ち上がったが、両手は痺れてほとんど動かなかった。それでも神機を離さなかったのは、神機の方が俺の右手に噛み付いて離さなかったからか。銀の亡霊も背後に浮かんだままだった。

 俺は痺れの残る両手で神機を握り直した。目線はネブカドネザルに向けたままだった。

 狙撃用に調整された俺の両目がアラガミの三日月刃を何倍にも拡大した。俺は三日月刃を自分の手に持つような感覚で観察し分析した。

 そして分かった。そういうことだったのか。

 三日月刃は高い金属音を響かせながら、刃とそれを覆うオラクル細胞を高速で振動させていた。振動で運動エネルギーを無力化し、オラクルの衝撃波で俺を吹き飛ばしたのだ。神機の刀身にあるオラクル細胞の活動も抑制されていた。

 ネブカドネザルは三日月刃の波動とオラクル細胞の操作とを掛け合わせていた。俺の斬撃を無力化することに特化したような能力だった。

 今や三日月は雲懸かったように周囲の景色を歪めさせていた。あまりの振動が蜃気楼のように視覚に干渉しているのだ。ネブカドネザルの身体はさざ波の中に浮かんでいるようだった。あのさざ波はオラクルの炎刃をも打ち消してしまうかも知れない。

 俺はそれでも、アラガミに向って走った。そして三日月刃に神機を打ち込んだ。先ほどと同じ全体重を乗せた斬撃だ。三日月刃が神機の刀身を阻むように掲げられ、振動が俺の視界を歪ませた。三日月からは先ほどと同じ、いやそれ以上の高密度の波動が発せられていた。今度は違うと言わんばかりの敵意があるように感じられた。

 だが俺も今回は違う。

 神機の刀身がさざ波を呼んだ。刀身を覆うオラクル細胞が高速で振動していた。三日月刃と同じ振動だ。耳鳴りのような高音を放つ銀の刀身は、朧月夜のように幻想的な美しさを放っていた。

 俺は振動する刀身を押さえ込みながら、三日月刃に振り下ろした。刀身の描く軌道は朧な満月のようだった。満月と三日月が交わった。振動と振動とがお互いを打ち消し合っている。相殺しきれなかった振動は衝撃波となって周りに散った。真空状態となった両者の間で刃と刃が直に触れ合った。刹那の均衡が生じた。

 俺は上から全身で神機を打つ体勢で。ネブカドネザルは斬撃を支える体勢で。

 だから決まっている。勝つのは俺だ。

 俺の剣圧に耐えきれず、白いアラガミは前脚を折って地面に沈み込んだ。

 俺は刀を上段に持ち上げ直し、連続で打ち下ろした。さざ波を纏った刀身が幾筋もの残像を残し、脚を屈したアラガミの上に流れ落ちていった。それは月夜から溢れた雨のようだった。斬撃に削り取られた三日月刃の破片が雫のように宙に舞った。

 鬼雨のような連撃に俺の肺が悲鳴を上げた。俺は最後に大きく一振りしてから後ろに飛びずさった。そして間合いを取るため更に数歩、後方に飛ぶ。十分な距離を空けてから、切っ先でアラガミを制したまま大きく息を吸い込んだ。

 斬撃の嵐を受けきったネブカドネザルの三日月刃は、だが高い代償を払っていた。三日月が歪んでいた。振動のためではない。既に波の音は消え去っていた。白い三日月の所々が欠け、醜い亀裂が走っていた。

 無様に横たわるネブカドネザルを見下ろしながら、俺は大きく声に出して笑った。

 俺の力は死神を越えた。

 ゆっくりと一歩ずつ死神に近付きながらそう思った。

 俺は神機をぶらりと下げて歩みを進めながら地に堕ちた神に問いかけた。

 お前は死神ではなかったのか。

 お前の力はこの程度か。

 この程度でお前は。

 笑いながらも、俺は心に空虚を感じていた。

 

 ネブカドネザルが甲高い吠え音と共に立ち上がった。膝を揺らしながらもしっかりと地面を踏み締めていた。その目は真っ直ぐに俺を捉えていた。

 俺は顔に歪んだ笑みを貼り付かせたまま、地面を踏み抜いて一気に加速した。そして自ら空けた間合いを一瞬で詰めた。刀身の間合いまであと僅かだ。

 だがその距離を縮める前に、アラガミが立つ辺りの地面が激しく隆起した。そして大地を引き裂いて透明な物体が姿を見せた。

 それは氷の華だった。

 アラガミの前方に薄く尖った氷が生えていた。幾つもの鋭利な氷が折り重なった形状は、見るものに大輪の華を思わせた。これもネブカドネザルの能力なのか。

 俺はかつてフェンリル士官学校で学んだ対アラガミ戦の基礎を思い返した。

 アラガミはその種ごとに固有の特性を持つ。風を操る大猿や雷を纏う獅子など、彼らは自然現象や物理法則を容易に捩じ曲げる。神の名を冠するに相応しい化け物だった。

 しかし、古来より神を殺すのは人間の狡智と決まっていた。だから神機使いには三つのルールがあった。新種のアラガミと対峙した場合には、近接戦闘を避け遠距離からその特性を観測すること。その情報を持ち帰り弱点を洗い出すこと。戦う際は必ず部隊で連携して弱点を突くこと。後はただ一度の反撃も許さない程の圧倒的な火力でアラガミを葬り去るだけだ。人が神に抗うためにはこうした奸智が不可欠だった。

 しかしそれでも、神が人智を越えた存在であることに変わりはなかった。人の知恵を嘲笑うかのように、次々と新種のアラガミが表れた。古いアラガミも環境に適応してその姿を変えた。体格や敏捷性が少し変化したくらいの亜種と遭遇するだけで、その部隊の生存率は大きく下がった。予想しなかった攻撃に命を落とすことは極めて多い。それもまた神を喰うゴッドイーターの心得のひとつだった。

 この地中から突き出た氷華は、ネブカドネザルが地中の水分を氷結させて創造したものに間違いない。白いアラガミはオラクル細胞の操作に加え、氷も自在に操ることができるのだ。第1部隊を強襲した氷の雨もネブカドネザルの能力だったのだろう。全く違う2つの能力を併せ持つアラガミは極めて稀だった。それだけ潜在的な脅威度が高いアラガミだということだ。

 そう考えながら、俺は転がすような声で笑った。空虚だった心が何かで満たされていた。

 そうだ。もっと俺を楽しませてくれ。

 氷華が渦を描くようにして地面に広がった。岩や瓦礫を砕きながら、この一帯に氷華が咲き誇る。氷華がぐるっと俺を囲んだ光景は、さながら巨人の王が頂く花冠のようだった。

 重なる華たちが俺の視線からネブカドネザルを覆い隠した。

 邪魔だ。

 冷たい華に包囲された俺は、右手だけで神機を肩に担ぐ高さに構えた。氷華はまだ間合いの遠く先にある。この位置からの斬撃では氷華まで届かない。

 だから、俺は神機を深く後ろに引きながら、

「舞い散れ」

 と呟いた。

 神機が俺の声に応えた。刀身がオラクルの波を纏った。ネブカドネザルの波動を打ち消した一閃と同じ振動だ。俺は朧に揺らめく刀身を水平に投げるようにして振り抜いた。

 刀身から朧な斬撃が舞った。

 それはネブカドネザルが放った衝撃波とよく似ていた。少しだけ違う点は、圧縮されたオラクルの波を神機の一閃に乗せて撃ち放ったところだ。俺はアラガミの能力を模倣し、更に強化していた。それは飛ぶ斬撃だった。斬撃は標的に向って舞い、氷華を砕いた。

 俺は嬉々として刀身を振り続けた。振った数だけオラクルの斬撃が飛んだ。斬撃の舞が次々と氷華を切り裂いった。

 それでも華は消えなかった。華というより寧ろ雑草の生命力で、次々と地中から生えてくる。地中の水分が無くならない限り永遠に咲き続けるだろう。

 しかし俺は気にも止めなかった。俺は先端が砕けた氷塊を踏みつけ高く跳んだ。空中に舞った俺は、縦横無尽に神機を振った。網のように高密度の斬撃が眼下に降り注いだ。そこは華が咲いている場所の中心に位置していた。網目に走った斬撃がその場所にある華を粉砕していた。

 俺は自分で作った空白の場所に着地した。今度は左に深く刀身を引き、力を溜めた。そして円を描くように回転しながら刀身を薙ぎ払った。俺の周りに輪の形をした光刃が生まれ、周囲の華たちを残らず刈り取った。

 俺は身体の後方まで回し落とした神機を手首だけで返し、そのまま肩に乗せた。俺の周りに砕けた氷の破片が舞い、風花のように儚く散った。

 

 あとはあいつを討てばいい。

 俺は神機の鍔元にある銃口をネブカドネザルに突き付けた。白いアラガミは先ほどの場所から身動きひとつ出来ていなかった。照準をアラガミの目と目の間に合わせ、白雪の降り落ちるようにそっと神機に力を込めた。

 刀身の下にある銃口から意思のある力が弾けた。俺は暴れる神機を両手で押さえ込んだ。

 神機から圧倒的なオラクルの閃光が生じた。閃光は一点に収束し、そして巨大な顎を象った。光が凝固して生まれた顎は、大蛇のように大きく口を開け牙を剥いていた。

 閃光の牙が音を越える速度で飛翔した。その優美な躯が空に舞う風花を貫いて駆けた。

 そして閃光がネブカドネザルを飲み込んだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。