あの、サンダーは?
おジャマ新規がいい加減欲しいんですよ!
あとレジスタンスのリーダーとして、V兄様とか出ないですかね?
そろそろ終わりが見えてきたシンクロ次元編ですが、セルゲイがDホイールと合体したところであぁ、シンクロ次元だなぁと納得した私がいます。来週はセルゲイがプラシドになるのでしょうかね。
三枝一族。
銃を向けられても発砲されてからの回避行動で充分対応できる反応速度を誇り、その速度故に相手に一撃を入れることなんてこともない一族連中。
本来人間を殺すのに大層な覚悟なんて必要ない。
人間なんて、そこらのスーパーで売っているような安物ナイフで刺されただけでも死んでしまうし、その辺に落ちてそうな木の棒であったとしても頭を叩きわることだってできるはずだ。即ち、テレポートという超能力は人間を相手にする分には絶対的な攻撃力を有する超能力ともいえた。彼らは爆弾を放り投げて離脱することだってできる。一瞬で相手の背後に回って相手の頭を銃弾で吹き飛ばすことだってできる。
相手を殺す。その一点を実行しようとしたとき、これほど便利なものはない。
だが、最強の一族ともいえた彼ら三枝一族は今は滅亡している。
三枝一族は絶対的な攻撃力を持つが、結局のところそれだけだったのだ。
打たれ強さという点で見れば、それは一般人と何ら変わらない。
銃弾が当たらないというだけで、当たれば死んでしまう普通の人間でしかないのだ。
耐久力という面では人並みでしかないのだから、三枝葉留佳と三枝葉平という同じ一族の人間の戦いは、どちらが早く自分の攻撃を相手に叩き込むかにかかっている――――――はずだった。
(……く、そ)
事実、最初に攻撃を当てたのは葉留佳であり、そこには一切の加減をしたつもりはない。殺すつもりでやったし、実際に殺したと思っていた。だが今倒れているのは葉留佳であり、立っているのは葉平であった。超能力を乱発し、もともと短期決戦を望むほど疲れてきていた葉留佳は、今は何とか気力と親族に対しる憎しみでなんとか意識を保っているようなものであった。なんとか起き上がろうとしているものの、立ち上がることができないでいた。
(一体何をしたんだ、あいつは……ッ!)
上空30メートル近くから屋上の地面に叩きつけられて、その際ヌンチャクによる一撃もプラスしておいたのにどういうわけか立っている葉平に対し、葉留佳の理解は追いつかないでいた。倒れたまま動かない葉留佳を見下ろしたまま、葉平はつぶやいた。
「ふん。いい気味だな。臆病者は臆病者らしくさっさと臆病者らしく逃げ出せばいいものを。戦おうとするからそんな風になる。みすみす命を捨てるようなことをしている」
実のところ、葉留佳だけは逃げ出そうと思えばいつでも逃げ出せたのだ。
先程までは葉平の超能力に反応して葉留佳の『
空間を一瞬で移動できるタイプのテレポーターである葉留佳を追うことなど、例え同じ三枝一族である葉平にも無理なことだった。葉留佳は戦おうとさえしなければ、今こうして這いつくばることはなかったのだ。
「……さっきから、よくしゃべるんだね。気に食わないことがあればすぐに私を殴ってたアンタが」
緋色にそまっている左目を押え、必死に息を整えながら葉留佳は呟いた。
彼女は立ちあがえることもできず、顔だけを向けている状態だったが、それでも眼光だけは決して衰えなかった。
「ふん。そうは言ってもお前、さっきから震えているぞ。昔のトラウマなんてそうそう払拭できるもんじゃない。お前、俺が怖いんだろ。今まで佳奈多の後ろに隠れて震えていただけのやつだ。いきなり人が変わるわけじゃない。なぁ、疫病神」
「いちいちバカにしやがって……ッ!あんたらは私のことを疫病神と呼ぶが、どうせ私が超能力を持って生まれてきてもそう呼んでたんだろッ!」
葉平は葉留佳のことをなめきっている。そのことが感じ取れるから、なおさら葉留佳は腹立たしかった。
テレポーターを前にしたら、一瞬の隙が命取りとなる。それはこいつも理解しているはずなのに、もう何もできないと命を奪わないのがその証拠だ。嫌がらせのために、こいつは私にとどめをささないのだ。
(……ホントにそうなの?)
そこで。葉留佳はふと疑問に思った。
どうして私は生きているのだろうか、と。
葉留佳自身葉平にはいろいろと聞きたいことがあったが、そのために殺さないように気を配る必要があるとは一切考えなった。それは、頭に血が上っていたからでもあったが、そんなことを言っていては足元をすくわれる相手だと判断したからでもあった。そもそも葉留佳を殺したいなら、チャンスはいくらでもあったように思う。まだ理子たちと離れる前に一度地面へとたたきつけられたとき、こいつは自分を足蹴にして痛めつけてきただけだった。
らしくない、と葉留佳は目の前の親族の男について思う。
気に食わないなら暴力で従えてしまえ。そんな発想ばかりだった親族連中にしては、やり方が手ぬるすぎる。 考えられる可能性としては、葉留佳が死んだことにより、不都合が生じるということだ。
現に今の戦闘でも、葉平は一切武器を使ってはこなかった。
適当な棒切れ一本あるだけでだいぶ戦闘を葉平は楽に行えたはずだ。
ということは、
「――――――――そんなにかなたが怖いか」
こいつは私に死なれたら困ると思っている。
その心当たりだってある。
それはあいにく葉留佳が佳奈多の妹だから人質としての価値がある、なんてことではなかった。
単純な事実として提示できるものがあった。
「『双子の超能力者』の現象に基づき、かなたが完全な
「……やっぱり知っていたか」
「調べたさ。かなたがこの超能力を私に託した意味を知るためには必要なことだった」
三枝一族が滅んだあの日、かなたは言った。
『私の超能力の一部を葉留佳に注ぎ込んだ。双子の超能力者にはおもしろい現象が起こる。もともと双子は二人で一人という考え方があるし、特有の魔術だって存在している。これはその、双子の超能力者特有の現象の一つ』
実を言うと自分が超能力を使えるようになったとき、ずっと疑問ではあったのだ。
どうして自分が超能力を使えるのだろうか、と。
ずっと使えないものとばかり思っていた超能力が、突然使えるようになったのだ何が原因なのかと。
そもそも、双子の超能力者特有の現象とは一体何なのだと。
イギリス清教所属の来ヶ谷の姉御に聞いてみたり、自分で
結局見つけたのは姉御の方であったのだが、結論としてある現象のことを知ることはできた。
『美魚君から報告があった。なんでもロシア聖教の文献に資料があったそうだ。とはいっても、相当古いものだったらしいから具体的な方法までは分からなかったみたいだが、結論として起きる現象というか、考え方があることがわかった』
『というと?』
『双子っていうのは、もともと二人で一人って考え方があるんだよ』
『まぁ……それは何となくイメージできますケド……それが何か?』
『つまり、双子の
『……つまり?』
『双子の
つまり、
「私が死ねば、かなたは完全なる
「ああ、そうだとも。厳密には殺したらマズイことが起こる、だ。別に殺そうとするなら今すぐにだってできるんだ。お前に仕込まれたその緋色の瞳によるテレポートも、こちらが超能力を使わなければ対処できる。お前ひとり、殺していいならとっくの昔に殺しているさ。この疫病神め。さっきも言ったがお前さえいなければ今頃はこんな手下みたいなことをする羽目にはならなかったんだ。だから俺は、お前が死なないように叩き潰すなんて面倒なことをしなきゃならなかった」
「さっきから何をイラついたように言っている?むしろ怒っているのは私の方だッ!!もしもアンタたちが、殺すことに躊躇するだけの人間だったら、お姉ちゃんは一族に絶望することもなく、イ・ウーっていう組織にかかわった程度でおかしくなることなんてなかったんだッ!!今でも私のたった一人の家族として、私を愛してくれたはずなんだッ!!」
「それで、どうしたい?」
「私の
再会してよく分かった。こいつらは、別に顔を合わせたいと思うような価値がある人間ではない。
関わらないで済むなら一生会わずにいたい人間だ。
こいつらの命と引き換えに元のお姉ちゃんが帰ってくるというのなら、私は迷わずこんな奴らは死神に差し出すだろう。そして、そう決断するのに一秒としてかからないだろう。いなくなったところで痛くも痒くもない。
「―――――――フッ」
「何が可笑しいッ!!」
けど、三枝葉平はそんな葉留佳の叫びを一蹴した。
「何も知らない小娘だと昔から思っていたが――――――まさかここまで無知だとはな。そもそも佳奈多を取り戻すという発言からしてずれている」
「……何だって?」
「そもそも、どうして俺がこんなにもお前を憎んでいるのか分かるか?どうして殺したくて仕方ないお前のことをまだ生かしてやっているか分かるかッ!!なぁ、この疫病神ッ!!」
一族の疫病神。
昔から葉留佳はそう呼ばれてはいた。
三枝一族において直系にあたる血を受け継ぎながらも全く超能力というものを使えなかった葉留佳は、まるで疫病神であった。これから葉留佳のような無能力者ばかり生まれてくるのではないかと、親族たちは怖かったのだ。
超能力が使えなくなったら、当然今の地位は失われてしまう。
そんな暗い未来を暗示する疫病神。
葉留佳は一族ではそのような意味として疫病神と呼ばれていた。
けど、今葉平が使っている意味はちょっと違うように葉留佳は思えていた。
「さっきから疫病神疫病神とうるさいな。私がいったい何をしたというの?アンタらは私が
「決まっている。お前は生まれてくるべきではなかった。お前が生まれてきたことそのものが罪なんだ。お前さえいなければ、佳奈多が一族を裏切ることもなかったんだ。お前のせいで!!一族は滅んだんだッ!!」
「―――――――え?」
葉平の言った言葉を受けて、葉留佳は自分の心臓が止まるかと思った。
お前なんか生まれてこなければよかったんだ。
そんな生まれていた意義を否定する言葉に傷ついたわけではない。
生まれてきてからずっとこいつらに言われ続けてきたことだ。こいつらに言われるのは今更だ。
もっと、別のことが葉留佳の言葉を揺さぶった。
「私のせい?」
「ああそうだよ。お前さえいなければ、一族が滅ぶことはなかったんだ」
「どういうこと?かなたが一族を滅ぼしたのは、当時公安0だったお姉ちゃんがイ・ウーに入るための条件だったんでしょ?イ・ウーがどんな場所か知らないけど、それをためらわせる価値がアンタらにあれば、あんなことにはならなかったんだッ!かなたにとって私がそれを思い留まらせるだけの価値がなかったから、私が悪いと言いたいのか。ふざけんな!そんなことは鏡を見てから言えッ!!アンタらは一度でも私達のことを気にかけたことがあったか?愛情を注いだことがあったか?一度としてないだろう!!そんなことも分からないから、私もかなたもアンタら親族たちが死んだことには何とも思わないんだよッ!!」
私が悪いだって?ふざけるな。
こいつらは、昔からそうだ。何かあるごとにずっと私が悪いのだと言っていた。
昔事業がうまくいかないのは私のせい。他の委員会との交渉がうまくいかないのも私のせい。
何か都合の悪いことがあればすべて私のせい。
―――――――お前のせいだ。お前のせいだ。この疫病神がッ!!
他の言葉なんて知らないかのように繰り返す。
謝れ、謝罪しろ。泥水に顔を押し付けて謝罪を要求してくるような連中がどの口を叩くんだ。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
何度そういってもこいつらは謝罪を聞いてくれやしない。
殴ることをやめてくれたことなんてない。
「イ・ウー?なんだ、お前はその時点から分かっていないのか。とことん佳奈多は報われないな」
「どういう意味だよ」
「そのままの意味だ。お前がどうして佳奈多が一族を滅ぼすことにしたのか気づいていないとは思っていなかったな。なるほどなるほど。だからこうして明後日の方向に行っているのか。ようやく理解できたよ」
「さっきからお前は何を言っているんだ。一体何が可笑しいっていうんだッ」
「だってよ……」
葉平は笑い出す。ツボにでも入ってしまったのか、しばらくは笑いが収まる気配はない。
しばらくして、先ほどから微妙に会話の内容がかみ合っていなかったことに葉留佳は気づく。
それと同時に、心臓の鼓動が聞こえるくらいに緊張が走る。
なにか、何か見落としてはいないだろうか。何か重要なことを勘違いしているのではないだろうか。
こいつはいったい、何をそんなにおかしいと感じているのだろうか。
葉留佳が戸惑う中、決定的なことを葉平は口にした。
「佳奈多が一族を滅ぼしたことと、あいつがイ・ウーにいることは無関係だぞ」
「……え?」
「いや、直接関係がないだけか。イ・ウーがなかったらあいつは用済みとしてとっくに殺されていただろうしな」
「殺される?一体お前は何を言っているんだッ!」
「じゃあ教えてやるよ、疫病神。佳奈多が一族を滅ぼした理由をお前は勘違いしている」
「……なん、だって?」
「佳奈多が一族を滅ぼした理由はな―――――――お前を、守るためだよこの疫病神め」
私を、守るため。
その言葉を聞いた瞬間、心臓が止まるかと思った。葉留佳はドクンドクンという鼓動が早まっていくのを感じた。
「なぁ。葉留佳。お前だって超能力を使えるようになったんだ。だったら分かるだろう?この能力はすばらしいものだ。生まれ持って優秀な人間は決まっていて、世の中はそんな優れた者の手によって動かされるべきだとは思わないか?」
「な、なにを言って……」
「当時の三枝一族は、ある計画を考えていた。何の力も持たない無能力者が支配するこの世界を、素晴らしい力を扱える神に選ばれた
葉留佳は何の反応も示さなかった。返せなかったのだ。
葉平の言っていることがまるで理解できなかったわけじゃない。
超能力者が支配する。それを当たり前とした世界。それが当然である。
その主張に対して理解が及ばなかったのではない。そうだったらくだらない戯言だと一蹴していただろう。
聞き覚えがあったことがからこそ葉留佳は固まってしまったのだ。それを聞いたのはいつのことだったか。
そしてそれが、夢物語でもなんでもなく実現可能であることを葉留佳は知っている。
現実に起こり起こりうることだと、葉留佳に教えた人がいた。それはいったい誰だったか。
「なぜ神に選ばれた俺たち
砂礫の魔女。その名前だけでどこで聞いた話なのか思い出すのは充分すぎた。
最初に聞いたのはアメリカで。砂礫の魔女、パトラのアジトに行くということでいろいろと姉御から聞いていたではないか。しかも、姉御はパトラが絵空事のようなことを考えるのは別に不自然なことでもないみたいに話していたではないか。
(―――――――え。ちょっと待って。だったら、だったらッ!)
姉御からは、砂礫の魔女パトラはかつて世界征服を掲げて戦争を起こそうとしたが、何か身内の方で不具合でもあったのか戦争は起きなかったと言っていた。
・ビー玉『クーデターってやつ?』
・大泥棒『クーデターとはちょっと違うかな。クーデターは失敗した革命みたいなものだけど、厳密には戦争は起きなかった。多分だけど、何か重大な誤算が生まれたんだよ』
・ビー玉『にしても戦争って……』
・大泥棒『パトラは誇大妄想のケがあるんだよ。自分は生まれながらの覇王ファラオだと思い込んでいる。いずれまた、自分の王国を作るための戦争を起こし、世界制服すら実現させるつもりなんだよ』
実況通信で会議したあの時のことをよく思い出せ。
そういえば、あの時の話にあったパトラの一件はいったいいつ起きた話だったか。
・大泥棒『パトラについては割と有名な話なんだけど……葉留佳は本当に「
・ビー玉『……どういう意味?』
・大泥棒『……深い意味はない。聞いてみただけだ』
そういえば、理子は「砂礫の魔女」という名前に心当たりがないか聞いてきた。
葉留佳の中で今ま経験してきたことがつながっていき、ある事実を導き出していた。
「アンタたちは……パトラと一緒に戦争を起こそうとしてたの?」
「なんだ。パトラのことは知っていたのか。あと間違えるな。戦争じゃない。革命だ。佳奈多さえ余計なことさえしなければ、成功していた計画だ」
突きつけられた事実に、葉留佳は息をするのも忘れるほどに呆然としてしまった。
「生憎と佳奈多は消極的でな、一族のために行動してもらうために公安0に圧力をかけたんだが、それが裏目に出ることになった」
「裏目にでた?」
もう葉留佳は、言われたことを反芻するだけのことしかできていない。
葉平の言っていることが嘘かホントかはさておいて、言われたことに対しての葉留佳の処理能力を超えていたのだ。
「公安0はもともと俺たちのことを信用していなかったんだ。そりゃそうだ。公安0だって無能力者たちが大半だ。三枝一族のテレポーターをまともに相手にしたら被害は甚大だし、自分たちの立場が脅かされるとなれば危機感を覚えるさ。だから連中は三枝一族がイ・ウーとかかわる前から俺たちを滅ぼす機会をうかがっていたのさ。それも全員だ。連中は俺たちがイ・ウーと接触したことを契機に、本格的に危険視してきたんだよ。別にそれはいい。連中との全面戦争になろうが、テレポーターの前にはなすすべなどない。パトラの一派によって世界は一新され、
「じゃあ……」
「ああ、そうだ。イ・ウーにも派閥はある。佳奈多はこともあろうに、さっきの理子とか言うできそこないの小娘たちの所属するところと手を組んで、一族を滅ぼした。そしてイ・ウー内部から、主戦派の連中を監視していた。分かるか疫病神ッ!お前さえ生まれてこなければ!三枝の一族は滅ぶことはなかったんだ!俺が今こうして、みじめにも日陰で隠れながら暮らすはめにもなっていなかったんだッ!」
「じゃあ……じゃあ……」
小さな声でつぶやく葉留佳の瞳からは、大粒の涙が零れ落ちていた。
その涙の意味は分からない。
一族が滅んだ一因となった罪悪感か、それとも、
「じゃあかなたは、私のことを嫌いになったわけじゃなかったんだね」
自分は確かに愛されていたのだという、安心感からか。
きっとその涙に込められたものは一つなんかじゃない。
いろんな感情が葉留佳から湧き上がってきていた。
「あぁ、あぁ忌々しいッ!!」
葉留佳のつぶやきを聞いたのだろう。葉平は心底忌々しげに倒れたままの葉留佳を蹴り飛ばし、葉留佳はそのまま屋上の床に何もできないまま転がった。いつしか振り出していた雨にも打たれ、ゴミのように放置されながらも彼女が考えるのは最愛の家族のことだった。もう、葉平のことなんて葉留佳の頭にはない。
(……かなたお姉ちゃん)
ずっと、佳奈多は変わってしまったのだと思っていた。
イ・ウーによって、心無い本物の魔女に帰られてしまったのだと思っていた。
私の名前を呼んでくれた、あの優しかったぬくもりは二度と帰ってこないものだとばかり思っていた。
そんなことはない。私は家族を取り戻すんだ。
自分にはそう言い聞かせてはいたが、それが幻想に縋りついているようなものだと思っていたのだ。
けど、実際は何も変わってなかったのだとしたら?
自分の知る佳奈多のまま、昔と何も変わっていなかったとしたら、どんな気持ちだったのだろう。
私は全部覚えている。
『はるか。誕生日おめでとう』
こっそりと三枝の屋敷にやってきて、お母さんから送られてきたという髪留めを半分個にしたことも。
あの髪留めは、今でも二つちゃんとつけている。
『いつか二人で一緒に、私たちの両親に会いに行きましょう』
両親に会うことになったのは私だけで、今は仲はとてもじゃないがうまくいっているとは言えないけど、それでも愛してくれる人と一緒に暮らすのは夢でもあったことは確かなのだ。
『葉留佳。今から私と一緒に外に御飯を食べに行きましょう』
初めてのお給金だからってファミレスに連れて行ってくれた。ツカサ君にはあきれられたけど、私は今でもよく思い出す。
『やったわ葉留佳。これであの腐れ親族どもも私に何一つ文句は言うことはできないはずよ。葉留佳、これからは私と一緒に四葉よつのはの屋敷で暮らしましょう」
一緒に暮らせるといってくれた時、とてもうれしかった。仕事があってずっと一緒にいられないけど、それでも朝におはようって言って、夜におやすみなさいといえる。それが幸せなことだって気づかされた。
『ねえ葉留佳。学校に通うつもりはない?』
集団行動なんて最初全く分からなかった。けど、社会で生きていくにはどうしても必要なこと。
そうだ。私は何一つとして忘れていない。
かなたが私にくれたものも、そのささやかな愛情のすべてを。
そして。
あの夜に、かなたが声にも出さずに泣いていたことも。
「……もういい。お前を殺せば佳奈多がかつての超能力を取り戻すことになるが、別にいい。お前を見てると、イラついてしょうがない。それに、超能力を弱体化させて受け渡してまで守ろうとした妹が死んだとなれば、あいつはきっと暴走する。そのうちイ・ウーだが公安0だか知らないが、放置しているわけがない。その時までかくれていればいいだけだ」
(ちく、しょう)
ろくでなしの叔父の言うようにもし私がいなかったら、かなたは今どうなっていたのだろう。
かなた一人ならきっと公安0相手でも逃げられたと思う。
きっと、人殺しにならずに済んだのだ。
それに、今まで生きてきて私は何をやっていたのだろうか。
かなたを取り戻したい。そのためにかなたに大好きだと伝えることは、かなたにとってどういう意味をもっていたのだろうか。苦しめていただけではないのだろうか。
疫病神。
その言葉は葉留佳の心に大きく打撃を与えていた。
昔から考えてきたことでもある。
自分はかなたにとって、重荷でしかないのではないか。迷惑だと思っているのではないか。
何度否定しようとも、事実として葉留佳に突きつけられるものがあった。
(……私はかなたにとっての、疫病神でしかなかった)
かなたに何も与えてあげることができなかった。
真意を気づくことさえできなかった。
今まで私はイ・ウーさえつぶせばかなたが戻ってくると考えていた。
けど、叔父の言うように三枝一族がもともと公安0に狙われていたのなら、イ・ウーがなくなれば佳奈多の後ろ盾はなくなり、命が危ないのではないのだろうか。そうだったら、今まで自分がしてきたことは単に、佳奈多の命を脅かしていただけだ。実際のところは分からない。だが自分は今この場で無様にも敗北し、地べたをはいつくばっている。
「――――――――ごめんなさい」
心からこの言葉をいうのは、いつ以来になるだろうか。
かつて親族たちから泥水に押しつけられながら謝罪を要求された時に、何度も口にしてきた言葉だが、心から言ったことなどなかったはずだ。けど、今は自然と口からこぼれていた言葉であった。
(―――――――――生まれてきて、ごめんなざい)
葉留佳の言葉を同じ三枝一族の人間である葉平がどうとったのかはわからない。
彼にとってもはや、葉留佳を利用して佳奈多をどうこうするつもりもなくなっていた。
葉留佳にもう抵抗する気力すらなくなったのか、葉留佳の左目に浮かんでいた紫色の紋章は消え失せ、緋色の瞳もいつもの青い瞳へと戻っていた。
「じゃあな、疫病神。地獄で懺悔でもしていろ」
そういって葉平は
一秒ともかからずして、葉留佳の首をへし折るつもりでいた葉平だが、最後の抵抗として一矢報いろうとしたのか立ち上がったのを見た。葉留佳の緋色の瞳はもとに戻った。彼女自身酔いがひどくて『
(……なんとか立ち上がったか。だが、お前はもう俺の速度についてはこれまいッ!)
超能力を使って立った状態に転移したのか、葉留佳はもう起き上がっているが、このまま正面から交差したとしても葉平が葉留佳に負ける気がしなかった。――――――そう、さっきまでは。
(――――――――――ッ!?)
一瞬で葉平の全身に寒気が走ったのだ。そしてすぐに違和感の正体に気が付いた。
それは頭での理解ではなく、本能としての直観にも近かった。
違和感がいくつもある。
葉留佳はこんな、寒気がするような殺気を放つ人間であっただろうか。
葉留佳はむき出しの殺気を隠そうともしなかった。こんな、研ぎ澄まされた殺気ではなかったはずだ。
そして何より。
風紀、と書かれたクリムゾンレッドの腕章など、彼女はつけていただろうか。
葉留佳は一般中学出身ということもあって、超能力をまだ完全に使いこなせていない感もあると思いますが、よくよく考えなくてもテレポートという超能力は化け物クラスの汎用性があると思います。
というか一人二人ならまだしも、一族単位でテレポートを使える戦闘能力者集団とか怖すぎると私は思いますが、一体どう思いますか?