現環境勢が軒並み大打撃を受けました。
これはもしや、青眼と師匠の環境がくるか……ッ!!
劇場版の予告の真究極嫁がかっこよすぎて感動しました。
三枝葉平と二木佳奈多。
血縁上は親族に当たる人間同士であるが、互いに抱いている印象は決していいものであるはずがない。
ゆるぎない事実として、もちろんどちらか一方が悪いなんてことはないのだろう。
佳奈多は事実、三枝一族の親族たちをその手にかけている。
佳奈多が葉平に対してどう思っているのか正確なところは分からない。
殺したいほどの憎しみを抱いているのか、それとも親族たちのことでの罪悪感でも感じているのか。
どちらにせよ、今の佳奈多には葉平に対して手心を加えるつもりはなさそうである。
「すぐに、終わらせるか」
「……何か?」
「あいにくだが、こっちはそんなつもりはない。お前には殺す前に聞いておきたいことがある」
葉留佳と葉平の戦いがそうであったように、元来三枝一族の者同士の戦いはそう長引くものではない。
それは、戦う人間が葉留佳から佳奈多へと変わったとしても同じこと。
どちらかが死ぬまで戦いは続くだろうが、葉平はその戦いを今すぐに始めるつもりはないようであった。
「一体何ですか?なぜ私があなたたちを見捨てたかなんて、つまらないことを聞くつもりではないでしょうね」
「そこの疫病神がお前をすべてを狂わせた。そんなものはそれで充分だ。お前に聞きたいこととは、一つだ。あの
「ツカサ君?」
そういえば、四葉ツカサについての疑問は葉留佳の中で何一つして解決していない。
もともと葉留佳にとって、四葉ツカサという人間はどういう人だったのだろうか。
親族の一人……というのは血縁上では正しい表現であるが、葉留佳にとって親族たちとは自分を疫病神だと扱い、生まれてこなければよかったのだと吐き捨てる連中のことを指す。そうなれば、少しなんだが違うような気もする。
じゃあ、ツカサ君のことを家族といえるだろうか?
これもない。葉留佳にとっての家族は、たった一人だけだった。それは今でも変わらない。
あの夜にすれ違うことになったが、今でも葉留佳が家族だと思えた人間は佳奈多一人だけである。
だから、大して今まで気に留めてはいなかった。
佳奈多のことでいっぱいいっぱいで、ツカサ君に対してあまり調べていなかったというのもある。
薄情にも思えるかもしれないが、正直気にするだけの余裕は葉留佳に今までなかったのだ。
佳奈多と会えたら直接聞けばいいと思っていたところもあった。
ツカサ君が両親に残していた置き手紙に従って、一般中学から東京武偵高校へとやってきた。
姉御と慕える人出会いハートランドという場所に連れられて、超能力をまともに扱えるように必死に努力した。
半年ぐらいかけてようやく一段落して東京武偵高校へと戻ってきた矢先、佳奈多が東京武偵高校へと現れた。
それからの時間は自分でも一体何をしていたのだ、と我ながら呆れている。
佳奈多が寮会で仕事を始めた以上、会いたいと思えば会いに行けた。
けど、嫌われるのが怖くて、別人のように変わってしまった佳奈多のことを見ていたくなくて、今まで面と向き合って対峙することが全然できなかった。他人のように話をする佳奈多なんて、見ていられなかったのだ。
だから、ツカサ君のことなんて気にしてはいらなかったのだ。
今日こそは。今日こそはちゃんと佳奈多と話をするんだと自分に言い聞かせて、何を言えばいいのかも分からずに無意味な時間だけが過ぎていっていた。けど、思いかえせばツカサは余計なことはしない人だったように思う。生きていると聞かされて、そこまでの衝撃を受けずにすんなりと納得している自分がいた。
「やっぱりツカサ君は……生きてるの?」
ツカサ君がいなくなったのと、佳奈多がおかしくなり始めたのはほぼ同時期だった。
ツカサ君の失踪が、佳奈多を狂わせた要因の一つなのだろうと考えていたが、今日知ったことを考慮すると、また違った事実が見えてくる。
―――――ツカサ君は、最初から佳奈多が一族を滅ぼすことを知っていたのではないか。
そうなるとしっくりくるのだ。
だとしたら、あんな未来予知にも似た置き手紙を私の両親に残すことができたのだ。
『葉留佳。佳奈多を取り戻したいのなら、お前はその超能力を使いこなせるようになれ。そして委員会連合に所属するどこかの委員会に入れ。そうしたら、そのうち佳奈多と会えるだろう。あと髪留めはそのまま持っていろ。将来役に立つ』
手紙というにはとても短く、言いたいことだけ書いてあっただけのものゆえその意図が全然分からなかったが、結果として予見は事実となった。もはや予言にも近いものになった。
「生きてるか、だと?よくよく考えてみたら分かるだろう。そもそも」
「……くだらない。言いたいことはそれだけかしら」
ツカサ君が生きている。それは佳奈多にとっては重要なことでもなんでもなかったらしい。佳奈多は葉平に対しての落胆を隠しきれないように息を吐いた。佳奈多は制服のポケットから手のひらサイズの小さなケースを取り出すと、その中から小さな粒を出して口に含んだ。
「あいつが今どこにいるか。そもそも生きているのか。なぜ突如行方をくらましたのか。そんなどうでもいいことよりもあなたは他に、私に対して言うべきことがあるでしょう」
「言うべきこと?なんだ、自分を人殺しにした懺悔でもしろっていうのか」
「……はぁ。もういいわ。あなたたちはそういう人間だったわね。これ以上は不毛なことよ。それじゃ……殺し合いを、始めましょう」
そういうと同時、佳奈多の両手に一本の小太刀が出現する。
テレポートを使って前に出したのだろうか、手で取り出す動作が一切なかった。
佳奈多が剣を出したことには何の反応もなかった葉平であったが佳奈多の持つ小太刀に書かれている紋章を見て、葉平は眉をひそめることとなる。
「そういえば、お前は自分の持つ委員会の紋章にもそいつを使っていたな。自分が滅ぼした
「よく見なさい。上下逆様でしょう?」
佳奈多は右手に茎の付いた四葉のクローバーが書かれた小太刀を持ち、葉平に見せつけるようにして小太刀を横に構えた。茎が付いているため対照的な模様はしておらず、上下がはっきりと存在する紋章であったのだ。葉平はそれが四葉公安委員会で使われていたものだと判断したが、佳奈多が違うと否定する。
「ズーボルテルテって知ってるかしら。てるてる坊主を頭が下になるように吊るしたものよ。てるてる坊主が明日の天気が晴れることを願うものなら、ズーボルテルテは明日雨が降れ、曇りになれと願うもの。魔術にも、逆様にすることで意味合いが全く逆の方向に行くものも結構ある。なら、この剣の紋章の意味も分かるでしょう。私が一体、あんたたち親族連中を一体どう思っていたかも大体想像がつくでしょう」
「それって確かツカサ君が……」
葉留佳は前に四葉ツカサから直接聞いたことがあるし、直接使っているところを見たこともある。
反転四葉の紋章。
元々幸運を願う四つ葉のクローバーの反対の意味は不幸を願う。
こんな一族なんか、滅んでしまえという怨念にも似た思いとともにツカサ君が使っていた紋章だ。
「私が仕方なく、血の涙を流しながらあなたたちを殺すことを決めただなんて思わないことね。何度も思った。あなたたちがもう少しまともでいてくれたら、そしたら……」
「……」
「私のことを恨んでいる?いいでしょう。私はそれだけのことをした。当然のことよ」
でもね、と佳奈多は区切り、宣言した。
それは佳奈多の心のうちにある本心であり、怒りであり、絶望でもあった。
「けど、すべて私が悪いみたいに思われるのは心外よ。私だってあなたたちのことを恨み、憎み、すべてをぶち壊してやりたいと思っていたのは紛れもない事実なのだから」
「それが本心か。佳奈多」
葉平は先ほど自分がへし折った佳奈多の小太刀を見る。
今佳奈多が持っている小太刀を同じように、そこにも反転四葉の紋章が書かれていた。
「かかってきな。この小太刀と同じように、お前の込めた願いからすべてへし折ってやる」
その言葉が二人の殺し合いの合図となる。
葉平と佳奈多の間にある距離はだいたい十メートル。
テレポートが扱える二人にとって、そんなものは一秒もかからずして詰められる距離だ。
先に動いたのは佳奈多であった。
目の前に立っていた佳奈多が突如消えた、と葉留佳が思ったと同時、佳奈多の小太刀は葉平の首を切り落そうと葉平のすぐ横まで迫っていた。
葉平とて三枝一族の
そして、葉留佳のように佳奈多を一瞬でも見失ったことが原因でもない。葉平は葉留佳とは違い、佳奈多の動きを一瞬でも見失うことはなかった。むしろ、一度も見失わなかったことが原因なのだ。
(……こいつ、今のはまさかただの踏み込みかッ!?)
三枝一族として根底にあるのは高速戦闘能力であるが、それでも一族内でもやり方に違いは出ていた。葉平のように物理的に高速で移動するか、葉留佳のように空間そのものを一瞬で転移させるか。佳奈多は公安0にいた時代もあまり超能力は使いたがらなかったが、確かなのは佳奈多の超能力は葉留佳と本質は同じもの。佳奈多のテレポートは彼女自身を高速で移動させるようなものじゃない。にもかかわらず、空間を飛び越えるような様子もなく一瞬で迫ってきたときことは、これは超能力でもなんでもなく、ただの身体能力によるものだ。それでいて、葉平の
驚いている暇はない。
佳奈多の小太刀は葉平の心臓を再び突き刺そうと迫ってきている。
(
すかさず葉平は超能力を発動し、その速さを持って迫る佳奈多から逃れると、そのまま佳奈多の背後まで回り込む。いくら佳奈多が葉平のテレポートに速度でついてこれるといっても、それはあくまで瞬間的な速さにすぎない。佳奈多では自分の足で何十メートルも一瞬で動くことはできないのだ。剣を振った直後の佳奈多に対し、今度は葉平のターン。小太刀を再び構える前に佳奈多をその膨れ上がった筋肉で叩き潰そうとした葉平だが、彼はまた危機感とともに攻撃を中断して飛びぬくこととなった。佳奈多は背を葉平に向けたまま、パントマイムでもするように小太刀を指先だけで向きをくるりと変え、引き戻す動作とともに刃を突き刺そうとしてきたのだ。
「――――――――――――」
元々小太刀という武器は、どちらかといえば攻撃よりも防御に向いている武器だ。
一度竹刀を持ったことがある人間なら分かることだが、本来剣というものはそう簡単に振り回せるものではない。理由として挙げられるのは剣自体の重さもあるし、その長さゆえに振り回しにくいということもある。小太刀は一本の日本刀と比較すると短い分威力は大きく落ちる。射程だって短くなる。射程に入れるために、相手の懐にもっと近づかないといけない。
そんな欠点をすべて背負ったとしても、小回りが利くというのは魅力的なもの。
葉平にとって、佳奈多の小太刀により攻撃を回避する分には特に苦労はなっかったが、攻める分にはとてつもなく難航していた。小回りの利く小太刀を利用して、佳奈多はどんな状況からでもカウンターとして刃を突き刺していたのだ。葉平の攻撃する瞬間こそが、佳奈多にとっての最大のチャンスと思えるほどになっていたほどにだ。
何度も何度も葉平は
――――――――――どうして佳奈多は、超能力を使わないの?
いくら佳奈多が超能力を快く思っていなかったとしても、そんな変なプライドを持つような人じゃない。
疑問に思い始めたのは葉平とて同じだったようで、葉平は一度佳奈多と自分の間を三十メートルくらいまで
「佳奈多。お前の超能力は――――――――――――どこまで弱体化している?」
「……」
佳奈多は返事を返さなかったが、佳奈多が何か言わないでも葉平の中ではその予測がすでに出来上がっていた。
「お前、今超能力を全く使えないな?」
「なッ!?」
葉留佳が驚いているが、実を言うと葉平にとってはそれほど不思議には思わなかった。
かつての佳奈多についてどれだけ知っていたかの差からくる認識の違いによる差であろう。
葉留佳は佳奈多がどれだけの強さを持っているかの正確なものをほとんど知らない。
諜報科レザドのSランク武偵。最年少の公安0。
そんな強さの基準となる要素は知っていても、具体的に佳奈多の戦いというものを四葉公安委員会から切り離されていた葉留佳は見る機会もなかったのだ。この様子だと葉留佳は双子の超能力者におきる現象のことは知っていても、佳奈多の超能力が弱体化していることを知っているかすら正直言ってあやしそうだ。
だが葉平にとってはおかしな点はいくつもあった。
まず、佳奈多はこの戦闘を始める前にポケットから何かしらのケースを取り出してその中から何かを口にしている。それが一体何なのかは聞くまでもなく想像つく。『原石』と呼ばれていて『はじまりの超能力者』とも称されている連中ならともかく、
超能力者はドーピングにも似たことができるのだ。ゆえに
だが、こと佳奈多が薬を使う分には葉平にとっては違和感しかない。
それは三枝一族の体質が特別なものゆえに佳奈多には薬など効果がないという理由からではなく、佳奈多にとっては薬を使うという状況自体がおかしいのだ。
(佳奈多。お前の超能力は、そんな薬に頼らなきゃならないほど落ちぶれていたのか)
薬は本来、自分ではどうにもならないものを外部から補うためのもの。使わないならそれにこしたことはないのだ。昔の佳奈多ならそんなものを使うまでもなく、最強の魔女の名くらいは欲しいままにできるだけの能力はあったのだ。自分の能力を高めるための武器である薬でさえ、こと佳奈多においては能力自体が弱くなった現実を突きつけていた。
もちろん弱体化したといっても超能力が全く使い物にならなくなったわけではないだろう。
だが佳奈多が今使えない理由は分かり切っている。
「一応聞いておいてやるが……お前、さっきまでどこにいた?近くで見ていたわけではないんだろう」
「……錬金術師ヘルメス」
「?」
「知らないか。どうやらブラドとパトラは、私を邪魔だし殺したいとは思ってはいても、それで互いにすべての情報を共有していたわけでもないみたいね。または、あなたはブラドにとって仲間でも部下でもなく、単なる研究動物みたいな存在なのかもしれないわね」
佳奈多が理子と連絡を取り合っていて、佳奈多が理子の取引の様子をひそかに見ていたということはない。そうだったら佳奈多はブラドと葉平が理子たちの前に姿を現した時点で転移してきているはずだ。今思えば、葉留佳の左目が緋色に代わり、紫の紋章が浮かんだかと思えば、葉平の
「これは傑作だ。お前、そこの疫病神を守りにここに来るために超能力をほとんど使い切ってしまっているとはなぁ!!」
「そ、そんな……」
もし佳奈多が葉平に殺されるようなことがあれば、その原因が自分にあると自覚した葉留佳の表情が青ざめる。それと同時に、葉平は佳奈多を殺すために必要なことを導き出す。
(あの剣だ。あの剣さえ佳奈多から奪えば、もう佳奈多が俺を殺すことは不可能だ)
三枝葉平は吸血鬼の回復能力を手にしている。だから葉留佳に上空から地面に叩きつけられても生きていたし、佳奈多に心臓を釘を打つように小太刀で貫かれても生きていた。だが、全く痛みを感じなかったわけではないのだ。佳奈多を相手にする場合、葉平が相打ち覚悟で
だが、佳奈多が今超能力を使えないとしたらまた話は別だ。
(むしろ、佳奈多の超能力が戻る前に勝負を決める気でいた方がいい。今は佳奈多を始末するのにこれ以上ない機会だ)
そうと決まれば迷うことはない。葉平は一刻も早く行動に移すことにして、相打ち覚悟で『
ただ、急に危機を感じて飛びのいたため、佳奈多は右手に持っていた小太刀を手放してしまう。
佳奈多の刃の方が先に突き刺さったため、相手が並みの人間ならこの時点ですでに勝敗は決している。
ただ、回復能力を持つ葉平の命を奪うまではできなかった。
そうなってしまうと、もう佳奈多には葉平を傷つけるすべはない。素手で葉平と戦ったところで、佳奈多が与えれられる外傷が葉平の回復量を上回ることはないはずだ。これで心置きなく佳奈多を吹き飛ばせる。そう確信した葉平はうっすらと笑みを浮かべ、葉留佳は悲鳴を上げた。
(超能力が使えない以上、空中ではお前は身動きが取れない。俺の『
吸血鬼の眷属となり、獣に近い身体能力を手にした葉平がこれより行うのは、その身体を用いた超高速タックル。人間の骨くらい簡単に砕くだけの、絶対的な破壊力を持つ巨大な大砲。絶望的ともいえる状況に立たされたはずの佳奈多だが、彼女はその場から逃げようとはしない。逃げられない。
(……そこの疫病神ともども、消え失せろ――――――ッ!)
だって、葉平と佳奈多を結んだ一直線上に葉留佳がいる。
佳奈多が逃げたとしたら、葉留佳が葉平の攻撃を受けることとなる。
葉留佳が死んだら葉留佳の超能力が佳奈多に伝達する以上葉平は葉留佳を殺せないはずだが、それで安心するような人間じゃないと葉平は踏んでいた。事実、佳奈多はその場から逃げようとはしない。
その場から一歩もして動かず、葉平の『
そして、佳奈多が葉平の音速にも迫るタックルを正面から受けて吹き飛ばされてしまう。
「かなたッ!!」
葉留佳の悲鳴がその場に響くが、佳奈多はそのまま空中を舞ったまま体制を整え、葉平の方向に身体を向けたまま後方へと押し出されながらも踏みとどまる。致命傷となって様子もなく、顔色も変えずにいた佳奈多を見た葉留佳はほっと一安心した。
(よかった。お姉ちゃん、あの一瞬でタックルに合わせて後ろに飛びのいていたんだ)
佳奈多の安否の方に意識が言っていたため、葉留佳が葉平から一瞬意識の外へと追い出してしまっていた。そういえば、と思い出したとたん慌てて葉平の様子をうかがった葉留佳であったが、
「…………へ?」
彼女は目にした光景を前に、理解が追いつかなかった。
葉平は佳奈多を吹き飛ばしたその場に立ち止まったままだった。そこまではいい。
信じられなかったのは、葉平の胸を貫くようにして二本の小太刀が突き刺さっていたことだ。
葉平の追撃がなかったのは、佳奈多によって深手を負わされたから。
こうなってしまったら、葉平に佳奈多が吹き飛ばされたというよりは佳奈多によって葉平が止められたと見るべきなのかもしれない。
「やっぱりね。あなたは吸血鬼の眷属となったなんて言っていたけど、元々人間であることには変わらない。いくら心臓一つ貫かれても即死せず回復までできるようになったといっても、痛覚はそのままのようね。なら話は早い。いくつあるか分からないけど、魔臓を全部つぶすか、あなたがもうやめてくれと懇願するまで剣を指し続ければいいだけのことね。痛みにあなたの心が折れるのが先か、私の魔力が尽きて剣が出せなくなるのが先か、試してみましょうか」
そう淡々と機会的に告げる佳奈多の両手には、再び二本の小太刀が握りしめられている。
それを見て、信じられないとばかりに葉平は叫んだ。
「お前、その剣は一体なんだ?一体どこに剣を隠し持っていた!?」
まず、佳奈多に心臓を貫かれて時に使われた小太刀が一本。それは叩き割って真っ二つになった。
次に先ほど佳奈多に突き刺されたのが一本。これはまだ葉平の肩に突き刺さっている。
そして、今しがた差し込まれた小太刀が二本。これは葉平の胸に刺さったままだ。
それだけで佳奈多は五本の小太刀を使っている。
なのに、そのうえで彼女はもう二本、小太刀を取り出して手にしている。
いくら小太刀が小さいものだといっても、ポケットに入るナイフではないのだ。
いくらなんでも持ち運べる限界を超えている。
しかも、今佳奈多は魔力が尽きると剣を取り出せなくなるかのような発言をした。
「まさか、私がイ・ウーにいられなくなり、あの連中と全面衝突する可能性を考えていなかったとでも?イ・ウーのメンバー全員誰と戦ってもいいように対策を練っていなかったとでも思っていたのならお笑いものね。私の超能力はもうあてにできないものとなった以上、魔術でも科学で何でもつかって対策を用意しておくのは当然でしょう」
佳奈多は自分が持っている二本の小太刀を見つめる。
右手に握りしめられているのは、反転四葉の紋章が描かれた小太刀。
その名は
左手に握りしめられているのは、秋の紅葉に見られる特徴的な五本に分かれた
その名は
二つそろって霊装『
知り合いの学者コンビが式神の携帯性に着目して作り出した霊装だ。
持ち運びが面倒だが強力な能力を発揮する霊装をその場で組み立てることはできないのか、なんてことをやってみた結果、二人は式神の技術を応用して作り出した。
「こいつは概念的には剣というよりは式神に近いらしいわ。ほら、別に金属でできていて、小太刀の形をした式神があってもおかしくはないでしょう?そして、式神である以上はその場で作り出せてもおかしくはないでしょう?」
佳奈多には敵である葉平にわざわざそんなことを教えてやる義理はない。
それでも質問に答えてやったのは親切心からでも自分が負けるはずがないとする自信からでもなく、単に注意を二本の小太刀に向けるための作戦であった。
―――――――――――――ドガッ!
そんな音が一つ屋上に響いたと思ったら、
――――――――――――ドガドガドガドッカーンッ!!!
連続して轟音が鳴り響き、屋上は爆風と轟音に包まれた。
突然のことで事前の予測もしていなかった葉留佳は、吹き荒れる風に足元を崩しそうになってしまう。
「私のことを極東エリア最強の魔女だなんていう人もいるけど、私は真っ当な一騎打ちをするよりもこういった騙し討ちや不意打ちの方が得意なのよね」
爆心地は葉平の足元。
佳奈多は葉平に吹き飛ばされる直前、小太刀を突き刺すだけでなく、ありったけの爆弾を足元へとばらまいていたのだ。爆撃の直撃を受けた葉平がどうなったのか爆風や煙でよく見えないが、しばらくしたら影が見えた。ふらふらと、立っているのもやっとであるかのようであった。いくら無限にも近い回復能力があったとしても、痛みを感じない化け物になったわけではない以上、爆撃の直撃をうけて平然としていることはできなかったようだ。少しでも動きが鈍ったこの瞬間は、佳奈多にとっては格好の的でしかない。
葉平が再び動けるようになる前に、佳奈多は次々に小太刀を生み出しては刺していく。
頭を、足を、のどを、腕を、胸を、背中を、肩を、ひじを。
佳奈多は小太刀を指したら引き抜いたりせず、そのままの状態で次の小太刀を作り出しては突き刺していく。
最終的には何十本と葉平の身体全身に小太刀が突き刺さることとなり、あれだけ敵意をむき出しにしていた葉留佳ですら痛々しくて見てはいられず葉平から顔をそらしてしまう。
(……これだけ刺せばいくらなんでも全部引き抜くことはできないでしょうし、刺さっている剣を抜かない以上は傷の修復だってできないでしょう)
恨み言をつぶやくこともできず、そのままうつ伏せになる形で前方へと倒れていく葉平に対し、佳奈多はさすがに思うところがあったのか、穏やかな口調で語り掛ける。
「確かにあなたの言う通り、所詮私は裏切り者の人殺し。パトラの一味にやられてやるつもりはさらさらないけど、どうせ私はろくな死に方はしないでしょうね。イ・ウーに染まった裏切り者として公安0の先輩方によって処理されるか、それともいつか私を殺しにきた誰かによって始末されるか。それだけのことを私はした。でもね叔父様。私がしでかしたことを償うべき相手はあなたじゃない」
罪を犯した人間はその償いをしなければいけないだろう。
それがどれだけの苦痛を伴うものでも、一生かけて償うべきものでも生きている限りは絶望して償いをやめるべきではない。
でも私が償うべき相手は、
「この私を前にして、家族を奪われたという一言すら出てこなかったあなたじゃない。超能力がどうだとか、そんなことばかり口にする奴に対してじゃない。その実親族たちにすら全く愛情を注いでいない奴に対してじゃない。……まぁ、それはお互いさまか。私だってあなたたちを愛そうとさえ思わなかった。私の家族は一人だけだと思っていて、それ以外は血のつながった人間だろうが愛情の欠片すら注ごうとさえ思わなかった」
だから、
「愛そうとさえしなくて、ごめんなさい」
『流星の魔法使い』をやっていたころからちょくちょく情報を出していたのですが、今回の話までで佳奈多とパトラの仲が現状どんな感じになっているか分かったことかと思います。それと同時に、佳奈多とカナの仲もなんとなく想像できたかと思います。