Scarlet Busters!   作:Sepia

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つ、月影さんが……
シンクロ次元編のMVPのイケメン有能忍者が……




Mission116 動物の愛好家

 

理樹たちよりも一足先に名古屋へと到着していた来ヶ谷唯湖と三枝葉留佳の二人は、宿泊先のビジネスホテルへのチェックインをすますと、各自の行動に取り掛かっていた。準備といっても特にやることのない葉留佳はベットに寝転がっているが、来ヶ谷はというと部屋に入ると早々にパソコンを立ち上げて自分の委員会の仲間と連絡を取っていた。

 

・姉 御『それで何か進展はあったか』

・小舞曲『ちょっと前にロシア聖教の方で何かトラブルがあったと言うことは事実でしょうね。それがどういうものなのかは公になっていないし、おそらく末端の人間では何も気づいていないでしょう。でも、モノを動かす時には金が動く。何が起きているということはリズべスにだって分かっているでしょう』

・姉 御『別にトラブルが起きたこと自体はなんということはない。問題は私たちにどこでかかわってくるかということだ』

・小舞曲『ロシア聖教内部での不祥事なら、わざわざ公にすることはない。内部のことは内部で片づければいい。それができないということは、それだけ大きな問題が起きたのか』

・姉 御『それとも、解決するために別の問題が生じてきてしまったのか』

・小舞曲『どちらにせよ、向こうが言ってくることはロクでもないことには間違いないでしょうね』

・姉 御『やっぱり、現時点では話を聞いてみたい限りなんともいえないか。いくつか心当たりがあるんだが、どれもいまいちピンときていないからな』

・小舞曲『リズべスならどんな話の内容でもないした問題ではないでしょう。しかも、これは私たちからもちかけたことではなく、向こうから接触してきただけのことです。気に食わなければきっぱりと切り捨ててもいい。どのみちロシアの連中なんて、仲間でも何でもないんですからね』

・姉 御『「姫」にとって不利益になるような内容なら無視する。その私の行動原理に揺らぎはない。ただ、今後のためのいい機会を手に入れたとは思っている』

・小舞曲『……リズべスがお姫さまから受けている密命のことは知っていますけど、そんなのわざわざあんな連中と会って見極めようとするまでもなく結果は出ているじゃないですか。姫さまにあんなことをしたのはどんな連中だったのかを忘れたわけじゃないでしょう。ロシアの連中がどうとは言いませんけど、私はロシアの連中だけでなくローマの連中も全く信用してませんわ。というか、宗教関係者となんか組みたくありませんわ』

・姉 御『私たちだってれっきとした宗教関係者だろうに』

・小舞曲『私たちはまだかわいいもんじゃないですか。言わせていただきますけど、私たちは神様を信じてますか?私たちが信じているのは、神様ではなくあの眠り姫のはずですわよ』

・姉 御『それは否定しないよ、メヌエット。なら魔術結社とかの方が信用できるかい』

・小舞曲『あんな連中と組むくらいなら、思想さえ理解してしまえば魔術結社の方が可能性があると思いますよ。魔術結社といえばそういえば、魔術結社「ガイア」のボスが変わったということを聞いていますか?』

・姉 御『「ガイアの聖女」か。話には聞いたことがある』

・小舞曲『えぇ。何か、組織を大々的に改革し、一新させたといってもいいほどの手腕を持つ人物だとか。リズべスがまだしばらく日本にいるつもりなら、近いうちに関わり合いになるかもしれませんよ。どのみち、いずれはこちらから接触しなければいけないかもしれない人物です』

・姉 御『……そうだな。心にとどめておくよ』

・小舞曲『ではまた。私はこれよりお茶の時間なのでまた後で話をしましょう』

・姉 御『ああ』

 

 ロシア聖教の人間からコンタクトを受けたはいいが、その要件がいまいち分からず、実際にあってみる前に分かることはないかと調べては見たものの、細かいところは実際にあってみないと分からないという結論で落ち着きそうであった。

 

「姉御ー。これから会う人ってどんな人なんですか」

「ん、私も直接的な面識はないんだ。私自身会うのは初めてだからまだなんともいえないな。経歴上でなら答えられるが、そんなのは固定観念を生みかねないものだ。それでもいいなら答えるぞ」

 

 葉留佳は来ヶ谷とは違い、これから会う人間がどういう立場の人達であるのかすらよくわかっていない。

 彼女はあくまで来ヶ谷の護衛としてついていくのであって、実際に何かを考えて交渉する役割を担っているわけでもないのだ。それでも事前知識くらいは欲しいと思うのは人として当然のことである。

 

「ロシア聖教からの使者だとは聞いていますケド、基本的に超能力者(ステルス)を相手にしているってっ気持ちでいいんですかネ。いつぞやの変な怪しい悪徳宗教を潰した時に出会った連中はロクな奴がいなかったじゃないですカ」

 

 葉留佳は基本的に、超能力者(ステルス)を信頼していない。

 彼女自身が三枝一族という超能力を受け継ぐ一族の中に生まれ落ち、親族たちへの不信感がつもりつのっていたという経験もあるが生憎とそれだけではない。今でこそ空間転移(テレポート)を自分の意識一つで発動させているが、もともと葉留佳は超能力者(ステルス)でもなんでもなかった葉留佳は自分に対する認識がいたって平均的なものだ。一般中学出身のため他の武偵たちよりも武偵としての認識すら薄い。それでも、日々超能力捜査研究科(SSR)に在籍していたことでわかったこともある。

 

――――――――――超能力者(ステルス)っていうのは、どいつもこいつもッ!!

 

 元は佳奈多が復学という形で在籍したために追いかける形で編入することとなったのだが、どのみち必要なことだとして葉留佳は様々な超能力者(ステルス)たちと関わってみることにした。その結果、彼女の中には超能力者(ステルス)に対する不信感が増すこととなった。生まれ持って超能力を宿している人間は、自分は他人とは違い、特別な力を持った選ばれた人間だと思っている節がどこかに見え隠れしているのだ。一般中学に通っていたこともあり、超能力者(ステルス)とそうではい人たちの間にある認識の差というものを嫌というほど感じ取ってきた葉留佳にとっては、超能力者(ステルス)いうものに好印象など持つはずもなかった。

 

「相手は仮にもキリスト系三大宗教の一角だぞ。変な悪徳宗教なんかと一緒に考えたら失礼というものだ。それに、これから会う人間は商売仇ではあっても殺し合いをするような敵ってわけではないんだから、そんなに身構えなくてもいいと思うぞ」

「そうなんですカ?一応どんな人なのか教えてくださいよ」

「その人物には関していうと、特に有名なことはない。というか特に出てこなかった。有名なのは、彼女の親の方だな」

「彼女ってことは女の人ですカ?」

「あぁ、そうらしい。テヴァ共和国って知っているか」

「て、て……なんて言いました?」

「テヴァ共和国。熱帯の赤道付近に存在する、13の諸島からなる共和国だ。その小さな国の出身のある一人の科学者は、『テヴァの英雄』とまで呼ばれている人間なんだ。今回連絡をしてきたのはその娘に当たる人間となる。はっきり言って有名なのはそれくらいで、本人の人となりとはさっぱりなんだ」

「なんでそんな人がロシア聖教と関連が?」

「そこは考えても意味がない。かくいう私だって血統的には日本人なのに、故郷としているのはイギリスだそ?テヴァは冷戦時に旧ソ連領だったし、何か縁があっても格別おかしなところはない。親戚がロシア出身だったとか、なんでもあげられる」

「結局何もわかんないんですね」

 

 結局のところ、何も準備できることはないのだ。葉留佳にとって分かっていることといえば、自分の役割は来ヶ谷唯湖の護衛。何を話し合うのか知らないが、そんなことはすべて任せておけばいい。何があっても、自分は姉御をいざとなったら守ることだけを考えていればいい。結局はいつもと変わらないのだが、それでも思うことはあるのだ。基本的に超能力者(ステルス)だとかオカルトめいた能力を使う連中のことは信用してないけど、姉御のように好きになれる人がいることも確かなのだ。だから、

 

 ――――――――今度は、まともな人間と出会えるといいな。

 

 

 

 

                 ●

 

 

 職場体験の期間は二週間。一応理樹たちも名古屋に二週間は滞在する予定であるが、だからといって遊園地『ハートランド』に二週間もの間滞在するかというとそうではない。岩沢まさみから送られてきたハートランドのリニューアルオープンイベントの参加チケットがあるにはあるが、それだって何週間も行われる予定ではないらしい。

 

 それに、ハートランドの運営に携わっているなら理樹たちの相手をしている場合ではないはずだ。

 

 恭介も別行動をとっている以上、理樹はまだ岩沢とは対した接点がない以上、ここは邪魔をしないことを第一として考えた行動することにした結果、二週間のうちの最初の期間は素直に名古屋に滞在することに決めた。寮会から紹介してもらった仕事を受けてみたり、ちょっと名古屋の街を出歩いてみたり。リニューアルオープンイベントの準備で忙しいであろう岩沢に迷惑をかけるわけにもいなかいので、恭介は名古屋滞在中の宿こそ全員分決めたもののこの後の行動は一切決めなかった。理樹たちほかのメンバーもそれでいいかと思っている。イベントの日まで好き勝手に過ごすつもりであるのだ。何かしようにも今は恭介はいないし、来ヶ谷も葉留佳もいない。なにかやるなら全員でやりたいし、各自好き勝手に過ごそうと決めていた。だから、新幹線で名古屋に到着してからいきなりハートランドに向かうこともせず、最初のうちはのんびりと観光でもしていようかと考えていた。現に、理樹たちは名古屋駅近くの公園に最初に行き、そこで弁当でも買って食べてようとくつろぐことにした。店に入ってもよかったのだが、それだとハイマキが入店可能な店を探すのが面倒くさかったのだ。

 

「見て見て鈴ちゃん!わたしはここに行ってみたいな」

「う……うん?お菓子の祭典?」

「そう!ハートランドは未来都市を構想されて作られたテーマパークなんだけど、その中でも愉快なイベントやアトラクションがたくさんあるの!わたしはいつかここにきたいと思ってたんだ」

 

 小毬なんかは、ハートランドに行くと恭介から聞かされた時点で購入したのかパンフレットを片手に鈴とどこに向かうかの相談をしている最中であった。今回の小旅行において、最も楽しみにしたのは間違いなく小毬であろう。レキも連れてきたとはいえ、もともとは小毬と葉留佳という新メンバー加入に伴う親睦会として計画されたのだ。そのうえ、それが一度行ってみたいと思っていた場所であったのならうれしいと思うことは当然であるはずだ。別に、小毬は一般の女子高生として普通の反応をしてるのかもしれないが、普段から一緒にいた鈴や真人が遊園地というものに興味を全く示さない人間であったというのもあってか、理樹には小毬が予想以上にはしゃいでいるように見えたのだ。

 

「小毬さん、結構調べてきたの?僕は事前準備とか全然してこなかったんだけどさ」

「はるちゃんが結構教えてくれたよ。半年近くゆいちゃんと二人でこっちきてたとはいえ観光なんかやっている場合じゃなかったらしいから、正直はっきりとしたことは覚えていないって言ってたけど、それでも分かる範囲でいろいろと見せてくれたんだ。このパンフレットだって、はるちゃんがくれたものだよ」

「それ葉留佳さんのだったんだね」

「いろいろと書き込んであるから、はるちゃんも一度は見て回ったんじゃないかな。何をしていたのか知らないけど、息抜きだって必要だったと思うしね」

 

 小毬が広げていたパンフレットを覗き込むと、葉留佳がかつて行きたいと思って目印をつけていたのか、それとも小毬が目印をつけたのは分からないが、マジックペンでいろいろと書き込みされていた。

 

「何々……お菓子の祭典『マドルチェ・シャトー』にお化け屋敷『ゴーストリック・ミュージアム』、ヒーロー『エスパー・ロビン』見参?なんかいろんなことをやってるんだね」

「理樹君や鈴ちゃんはどこか行きたいところとかある?」

「そうだね。僕はやっぱり、シンボルマークにもなっている『ハートランドタワー』に一度登ってみたいかな。鈴はある?」

「あたしは正直人込みさえさけれればどこでもいい」

「遊園地で人込み回避はさすがに難しいんじゃないかな」

「おーい、理樹ー!!」

 

 もともと鈴は昔から野郎四人とばかりいたせいもあり、少女趣味というものがあるのから分からないところがある。どうしたものかと考えていると、じゃんけんで負けて弁当を買いに行っていた真人と謙吾の二人が戻ってきた。

 

「あ、真人!謙吾!ちゃんと買ってきてくれた!?」

「もちろんだぜ!ほら!」

 

 理樹が確認した中身は食べ物であることは確かだが、それは自分の食べる弁当などではなかった。

 

「よしハイマキ!これから僕と遊ぼう!!うまくできたら、このドッグフードをあげるよ!」

「ウォン!!」

 

 理樹は真人からハイマキのご飯を受け取ると、これからの予定を考えることを放り投げて

 

「ほーら、とってこーいっ!!」

「ヴォンッ!!!」

 

 近くの店で売っていたスリスピーを片手にハイマキと遊び始めた。

 ちなみにハイマキの正式な飼い主であるレキは公園の木陰に背をつけて、公園の一角で遊んでいる理樹とハイマキをぼんやりと眺めていた。実を言うとレキはハイマキを飼っているものの、ハイマキをこうして公園とかで遊んでやるということをしてやったことはない。ハイマキはそこらのペットショップにでもいるような愛玩動物たちとは違うのだ。武偵として今後も活動していくためのパートナーとして飼っている。主と手下の関係がしっかりとしたもののため、仕事場に連れ出すことこそあれどそうして遊びだけに連れ出すことなんて今までなかったのだ。

 

「あはははは。よしよし、あ、だめッ、くすぐったいよハイマキッ!!」

 

 だから、学校では職場体験の機会として設けられている時間だけど、今は仕事とは一切関係なくここにやってきているのだからこうしてハイマキを遊ばせてやるのもいいかもしれないと、レキは素直にそう考えてた。だが、どうやらレキのそばにいた鈴の意見はどうにも違うらしい。鈴は何やら申し訳なさそうにしている。さすがに申し訳ないと思ったのか、鈴は小毬にちょっと待っててと言って、レキの傍に行って謝ることにした。

 

「その……なんかすまん」

「いきなりどうなされたのですか?」

「レキを誘ったのは何を隠そうあいつなのに、理樹の奴はレキをほったらかしにしてずっとハイマキと遊んでいるなんてな。真人と謙吾の二人も一緒になって遊び始めたしな。あのバカどもめ。レキ、迷惑じゃないか?」

「私は別に構いませんよ。それよりも、今回は誘ってくださってありがとうございます。私もまたまさみさんに会えるのは楽しみですし、見てください鈴さん。ハイマキだって楽しそうですよ」

「それならいいんだが……」

「でも理樹さんって動物好きだったんですね。正直意外でしたよ」

 

 ハイマキはそこらにいるような犬ではなく狼だ。

 普通の反応は、即座に通報でもされるか逃げ出すかはするだろう。

 レキの下僕となったことで大人しくなったとはいえ、全うな神経ならば遊ぼうなどとは考えまい。

 原子力発電と同じだ。いくら安全だとか危険は一切ないなどと他人から言われたとしても自分自身が信じ切れるとは思えないことだってあるはずだ。

 

「あッ、やめてハイマキ!のしかかってくるのはやめて!ハイマキはオートバイ級の体重があるんだから、僕じゃ潰れちゃうよーッ!!真人ー、助けてーッ!!」

「よし、待ってろ理樹!今ハイマキをどかしてやるからな!」

 

 だが、実際にハイマキと戯れている理樹を見ていると、どうにも恐怖というものは感じられない。

 むしろ楽しさ一杯という感じである。今だって潰れる潰れる誰か助けてーッ!!と叫んでこそいるものの、理樹にはどうにもハイマキを本気で押しのけようとしているような気はしない。

 

「ああ、理樹は昔から動物好きだぞ。理樹といい恭介といい、あいつらはどういうわけか昔から動物にはやたら好かれるんだ。恭介の奴なんて、昔大鷹を飼っていたこともあったしな」

「でも鈴さんの飼っている猫にかまっているところは見たことがないですが」

「理樹はどちらかというと、犬や猫のような小さな動物よりは大型動物のほうが好きらしい。なんでも、全身で抱き着けるのがうれしいとかなんとか。小さな生き物も好きではあるみたいだが、理樹は動物に構いすぎてダメにするタイプだと自分で自覚してるみたいだから、猫相手だと自粛しているみたいだ。前に一度、猫の肉球をぷにぷにと触りまくって引っかかれてたこともある」

 

 鈴が自分自身猫を溺愛しているため理樹にとやかく言える立場にないことは置いておいたとしても、鈴から見ても理樹の動物好きは相当なものだ。以前、依頼主の敷地内に侵入してきた犬の駆除を頼みたいという依頼があった時、何を思ったのか正面から動物を抱きしめようとして突進をまともに食らい、気絶したことがあるくらいだ。本人曰く、肉球に囲まれて死ぬなら本望とのことある。

 

「重い……もう……ダメ……」

 

 そして、今ホントに押しつぶされそうになっている理樹なんて放置してレキと楽しく会話していた鈴は、自分たちにゆっくりと近づいてくる人影に気づく。重度の人見知りである鈴は思わずビクッ!となってしまった。

 

「棗さん。それにレキさん。お久しぶりです」

「ひ、ひ、ひさしぶり」

「お久しぶりです美魚さん」

 

 二人の前に現れたのは同じ二年Fクラスに所属するクラスメイトだった。

 いつも日傘を持ち歩いている変わり者の少女。西園美魚。

 

「美魚さん。こんなところで会うとは奇遇ですね。どうしてここに来ているんですか」

「はい。そのことなんですが、お願いしたいことがあります」

 

 そして、偶然名古屋の地で遭遇したクラスメイトは言った。

 

「棗さん。そしてレキさん。お願いがあります。どうか私を匿ってください」

 

 

 




ハイマキを追いかけるイベントに理樹が参加していなかったせいか、理樹とハイマキは仲良しです。……あのころは、理樹がニートとか言われても否定できなかったなぁ。

あ、魔術結社「ガイア」のボスは、シャーロックよりも先に登場できると思います。




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