Scarlet Busters!   作:Sepia

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Mission12 可能性事件

 

遠山キンジは見た。

 

「こちら・・・『真剣に妹に恋しなさい』他、ギャルゲ五点になります」

「うむ。大義である」

 

ルームメイトの直枝理樹(バカ)が、Aクラスの峰理子(バカ)にギャルゲを渡しているのを見た。

 

「何してんだ?」

「なにいってるのさ遠山君!理子さんにギャルゲを渡してるだけじゃない」

「ほんと、キー君はそんなことも分からないの? だからアリアに振られるんだよ」

 

 どうしよう。話についていけない。

 意味が分からないうちにカラオケボックスに連れてこられたし。

 

「あ、そうだ。はいこれ」

「なんだ?」

 

 直枝が何か渡してくるのをキンジは受け取り、

 

(―――――――いっ!?)

 

 愕然とした。約三万円と書かれてる。手渡されたのは領収書だった。つまり、払えとのことだろう。

 

「なんで俺がギャルゲの代金約三万を払わなきゃいけない!?」

「情報は命綱だよ。まさか、ただってわけないでしょ?」

 

 バカに何言ってんだコイツみたいな目で見られた。

 

「遠山君がアリアさんについて調べてくれっていったから、これは経費で落としといてね」

 

 アリアとは既に縁を切った。今のキンジにはアリアの情報なんてどうでもいい。

 

「まっかせといて!! 理樹くんから貰ったギャルゲの分は働いたから!」

 

 理子はギャルゲマニアのバカだ。

 この間なんかギャルゲを買おうとしたが、外見が幼く見えるが故に買えなかったらしい。

 ゆえに依頼料としてギャルゲを所望することがある。

 

「・・・なんでこいつなんだ。お前なら来ヶ谷ってやつに聞けばいいんじゃないか?」

「は? 僕に女装しろと?」

 

 最近バカの言ってる意味が分からない。

 

「・・・まぁ、それも一つの手段なんだけどさ」

「・・・なんだ」

 

 あいつら昔馴染みなんだから調べるまでもないだろ。

 

「来ヶ谷さん、今はアリアさんに協力して裁判の資料集めを風紀委員長の二木さんとやってるみたいで、忙しいんだ」

「・・・・あ―――――」

 

 やってしまったと思った。裁判というのはかなえさんのことだろう。

 

(また俺は、自分のことばかり)

 

 自己嫌悪に陥るが、ふと思う。このバカは、アリアの裁判のことをどこまで知っているのだろうか?

 

 

 

               ●

 

 

 

「さて、じゃ、今からアリアについて話すけど」

 

 理子は語り始める。

 

「アリアはある有名貴族の末裔なんだよね〜」

「なら、来ヶ谷さんも貴族?」

「そこまではわかんない。あの人の情報は多すぎて逆に信憑性がないから」

 

 理樹は恭介のやり方を思い出していた。

 作戦など、呼びのプランをたくさん用意して、何が本命か分からなくしていたな、と。

 来ヶ谷さんは仮にも放送委員長。

 ダミー情報をいくらでも仕込むなんて余裕なのだろう。

 

「アリアに話を戻すけど、襲名はしてないみたい。本人はするつもりみたいだけど」

「・・・え?襲名だって!?」

 

 理樹はキンジと二人、顔を見合わせてしまう。

 『襲名』というのは師匠の名をつぐことを意味する。

 けどそれは、

 

(常に勝ち続けなければならないことの証じゃないか!)

 

 襲名というのはたいていは誰もが知っている人物の名前の襲名である。有名な例を挙げると、探偵科(インケスタ)の教科書に載っている人物達。

 シャーロック・ホームズや世紀末の大怪盗リュパンの激闘は今でも語られている出来事だ。

 

 

襲名者として有名なのを挙げると・・・

 

(襲名者で有名なのは・・・ルパン三世か)

 

 

 

ルパン三世は初代リュパンの名前を襲名している。

○世というのは血縁関係を表す場合もあるが、血縁関係が関係ない場合もあるのだ。

例えば、仮に理樹や真人のようななんの血縁関係のない人物がリュパンの名を襲名しようとしたら、は実力で今代のリュパンだと言い張れる実力を見せればいい。

事実、ルパン三世は今代のリュパンを名乗るだけの実力があった。

 

 

「でも、アリアさんほどの実力で襲名ができないなんて、よほどその襲名先が破格なんだね。アリアさんって確か犯人を逃したことがないと言われていたくらいだし」

 

 理樹はキンジが急に喉を詰まらせたのが気になった。

 

「まーねー。アリアはその襲名先の子息にあたるわけだけど、家庭での折り合いが悪いみたいだからね」

 

 襲名が認められなかったら、例え子息でも勝手に名乗ってるだけの扱いだ。例えば、理樹が『僕は直枝・理樹・リュパンだ!』とか言っても『あっそ』で終わるみたいに。

 

 

「ところで、遠山君は襲名しないの?」

「・・・は?」

「ほら、遠山君のご先祖様って」

 

遠山キンジのご先祖様であり、ヒステリアモードを最新使った人物は、遠山金四郎だ。

『遠山の金さん』という表現の方が馴染みがあるかもしれない。

 

「俺は武偵は止めるんだ」

「そうだっけ?」

 

まぁアリアさんに関する前置きはこんなものでいいだろう。

前置きの終わり、つまり、本題だ。

 

「で、理子さん。『武偵殺し』に関する新情報ってなに?」

 

理樹も、そしてキンジも武偵殺しの被害者だ。理樹はこのために来たと言っても過言ではない。

幸いにも命は無事だが、チャリジャックでひどい目にあった。

キンジにはバスジャックでも。キンジはごくん、と息を呑む。

 

「可能性事件って知っている?」

「「?」」

 

(まてよ。探偵科(インケスタ)の時間にやった気がする)

 

 たしか・・・真人に・・

 

『おーい、理樹。可能性事件ってなんだ?』

『あのね真人。事故とされてるけど、実は事件かも知れない事件のことだよ』

『オレにも分かるように頼む』

『そうだね。真人のたくましい筋肉で無傷ですんだことも、本来なら重傷だったかも知れない可能性?』

 

 とりあえず筋肉とつなげておく。わかりやすい。

 

『なるぼど。よく分かったぜ。つまり、オレの筋肉は、いや、筋肉は素晴らしいということだな』

『真人ならそれでいいんじゃない?』

『ありがとよ』

 

 こんなことがあったはずだ。なら、何かの事件に関連性がある可能性があるのだろうか?

 

「遠山金一」

「「!」」

 

 理子がぼそっと口にした言葉は野郎たちを硬直させた。だってそれは、

 

( ―――確か、遠山君のお兄さんの名前!?)

 

 身近で起きたこと他人事では済まされないこと。

 

「 キー君のお兄さん事故ってさ・・・・シージャックだったんじゃない?」

 

 

 

             ●

 

『キー君のお兄さん事故ってさ・・・・シージャックだったんじゃない?』

 

 何を言われたか遠山キンジは理解できなかった。

 さっきまではアリアの話をしていたはずなのに。

 

(なぜなんだ。どうして兄さんを――――)

 

 疑問は不審に変わり、最後には怒りへと変貌する。

 

「いい・・・いいよキンジ。その眼だ。理子、そういう眼が好き」

 

(―――理子?)

 

 不審ががる時間は、ルームメイトのバカの発言により掻き消される。

 

「ふぅん。なら、遠山くんは『武偵殺し』となんならの形で関わっているんだね」

 

(――――俺が、すべて関わっているだと?)

 

 何をバカなことをルームメイトに言おうとして、

 

(―――待てよ。なら・・・・)

 

 遠山キンジがすべて絡んでいるということは。

 ある事実を意味している。

 

「!!」

 

それに気づいた瞬間。キンジはカラオケ屋を飛び出し走りだしていた。

 

 

 

            ●

 

 

 

 

 理子に会計をお願いし、直枝理樹もキンジを追い掛け走っていた。

 

(なるほど。そういうことね)

 

 理樹は探偵科(インケスタ)だ。真人みたいな筋肉バカや元強襲科一年首席だったキンジを見てると誤解を招きやすいが、理樹は体を動かすより考えるほうが実は好きだったりする。去年のルームメイトが増えたことや、今しがた理子さんから聞いたことを含めると、『武偵殺し』に関するとある考察はたった。

 

 (遠山くんが絡んでいる、ね・・・)

 

 自分で発言しておきながら、遠山君が走り出すまで気がつかなかった。

 全て遠山キンジが絡んでいるということは、

 

(すなわち、遠山君のパートナーたるアリアさんに絡んでいるということ!)

 

 なら、『武偵殺し』の事件は全て繋がる。来ヶ谷さんは言っていたのだ。アリアさんがどうしてあんなにも必死だったのかを。他言できる内容ではないが、なぜだか教えてくれた。

 

(確かに、これはアリアさんへの宣戦布告だな)

 

 チャリジャック、バスジャックと続いて疑問は感じていた。

 

(・・・襲名がからんでるのかな?)

 

 武偵が狙われる理由はたくさんあるだろう。

 その中で、アリアさんだけを狙う理由としては、襲名が考えられる。

 

(アリアさんの先祖の他の襲名候補。アリアさんを潰せば襲名が楽になるのか?)

 

 詳しいことは分からない。

 でも、僕が現場に駆け付けても何もできはしないだろう。

 

 恭介ならこんなときどうするだろう?

 今から恭介や真人に連絡しても時間的にアリアさんの乗る便に間に合わないだろう。

 

(僕に出来るのか? 恭介の力も借りず、何か出来るのか?)

 

 僕は恭介みたいなヒーローじゃない。

 謙吾みたいに心強いわけではない。

 真人みたいに強くない。

 

 でも、きっと何かできる。そうバカなりに信じて行こうと決めた。

 携帯電話を取り出して、

 

『もしもし』

「あ、来ヶ谷さん! 僕は今からイギリス行きの便に飛び乗るからサポートよろしく!!『武偵殺し』が乗ってるんだ!」

『・・・・・そうか』

「ゴメン、急に」

『少年』

 

 何を言われるかと思った。けど、彼女が言ったのは一言だった。

 

『おねーさんに任せとけ』

 

ありがとう、と彼はいい、キンジを追ってそのまま走り続けた。

 

 

 

           

            ●

 

 

 

 キンジは走る。

 

(アリア、アリア・・・・アリア!!)

 

 一度は見限った人のために走り続ける。

 

(アリア、乗るんじゃない! その航空便には、『武偵殺し』が乗っている!)

 

 兄さんは誰よりも正しかった。

 兄さんは誰よりも優しかった。

 そして。兄さんは誰よりも強かった。

 

 もし、兄さんが『武偵殺し』と戦った結果、帰ってこなかったのだとしたら、

 

(アリア。今度はおでこの傷じゃ済まないぞ!)

 

 このままだとアリアは殺される。でも、

 

『俺が駆け付けたところでどうなる?』

 

 この問題に対する答えは出てこない。

 どうして俺は今走っているのだろう?

 どうして俺は命を捨てるようなことをしてるのだろう?

 

 俺はバスジャックの時、役に立たなかったはずなのに。

 キンジは迷いながらも考え続けて、二歩、三歩と走るうちに―――――考えるのを止めた。

 考えるのを止め、走り続けた。

 




では、次回からハイジャックです。
お楽しみに。

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