現在リトルバスターズは大きく分けて二手に分かれている。
現時点でレキは知り合いを探しにいくと言って、小毬と二人で別行動をとっているが、彼女たち二人のことではない。もっと大きなくくりで、現時点でハートランドにいるメンバーとそうではないメンバーに分けられる。
理樹たちと違い、ハートランドには現時点で来ていないメンバー、つまり棗恭介、来ヶ谷唯湖、三枝葉留佳の三人のことである。
三人が名古屋へと来たのは理樹たちよりも先だ。しかしいまだハートランドには今回足を踏み入れてはいない。何度かハートランドに来たことのある三人のうちの誰かがいてくれれば、理樹たちもパンフレット片手ではなくもっと楽に行動できたことだろうが、いないものはどうしようもない。本当なら案内をしてあげたかったが、そうはいっていられなかった。
(前々から声がかかっていたから仕方のないことだが、あぁぁぁめんどくさい)
三人ともいつハートランドにいけるかは実は分からないのだ。ハートランドのリニューアルオープンイベントの開催まではすべて解決して参加できると信じたいが、現状の見通しすら立っていない。なにせ、来ヶ谷自身もなぜ自分が呼ばれたのかさっぱり分からないのだ。
呼ばれたからとりあえず行ってみる。そんな気軽な気持ちで会いに行った。
来ヶ谷唯湖という人物は、大層な肩書きを持っていてもフットワークの軽い人物である。
ロシア聖教からの一員からの実際に会って話がしたいという打診。
この時点で来ヶ谷は十中八九面倒ごとであると判断しているが、話は聞いてみなければどうにもならない。
先日からロシア聖教内部で何か問題が起きていそうだということは分かってはいたが、実際何が起きているのか一向に不明の状態だったために、実態を知る機会を得られるかもしれないとなっては職務上無視をするわけにもいかなかったのだ。
日本にある東京武偵高校にやってきて呑気に学生生活なんて送っているが、、来ヶ谷自身の本来の職務が消え失せたわけではない。普段から仕事なんて面倒くさいなんてことを平然と口にする女ではあるが、たまには仕事らしいことはするか、という心意気がないわけではないのだ。
いざとなったらロシアの問題であり、こちらは関係ないとして言い切るつもりである。
・姉 御『何かわかりそうか?』
・遊び場『面倒なことになってそうだ、ということは分かったぞ』
名古屋にあるある教会にてロシア聖教からの使者と会う予定となっているが、さすがに情報なしでは会いたくはない。何が起きているのか事前に調べておいた方がいいだろうと来ヶ谷の話を聞いてそう考えた恭介が、一足先に名古屋にあるビジネスホテルに宿泊して調べていたのだ。調べる、といってもここは日本であってロシアではない。できることといえば、せいぜい集合地点である海沿いに存在する教会を見張り、何か怪しげなことは起きていないかということを調べる程度のことだ。だが、それでも収穫はあった。
・遊び場『件の教会に、ロシア聖教の武装シスターたちによる部隊の姿が見えた』
「……ちょっと待っテッ!!武装シスターって一体なんですカ!?」
恭介からの連絡を受けた瞬間、ビジネスホテルのベッドが思いのほか柔らかくて気持ちがいいとくつろぎながらスマホの
・ビー玉様が入場しました。
「身近な例を出すと、白雪姫みたいな立場の人だな。彼女は星伽神社の武装巫女。星伽神社伝わる魔術を使って戦える巫女。そう考えたら、私も修道服に着替えればイギリス清教の武装シスターと言える存在だぞ。
「……そんなこと言ったって」
「心配ないさ。その気になれば君は負けはしない。経験がないから不安なだけだ。一般中学出身であることを言いわけにするようなら締め上げるが、君は教えたことはできている。最初はそんなものだ。事実昔のあたしも今の君とは大差なかったような気がする」
「へ……?」
葉留佳にとっての最愛の人物は実姉である佳奈多であるが、最も憧れる人物はといえば来ヶ谷になる。
出会った時点で葉留佳にとっての女としての理想を体現しているような人物であり、初めてのことだってそつなくこなせるだけの才能を来ヶ谷が持っているため、来ヶ谷が未熟者であった時代というものがいまいち想像できないでいた。最初から完全な人間などいるはずもないのに。
「姉御の昔ってどんな感じでしたカ?」
「私はイギリス清教の総長の副官をやっていた時があったんだ。組織の規模こそ違えども、今の葉留佳君と立場としては大して差がないことやっていたと思えばいい。当時は総長が次から次へと頭が痛くなるような案件持ち出してくるからロクに眠れもしなかったな。ローマ正教との会談があったことがあるんだが、総長が朝目覚めたらどこかに行ってて慌てて探しに行けば、会場付近の芝生で子供たちとサッカーしてて激怒したこともあった」
「なんていうか……その……」
「だから何となくだが葉留佳君の気持ちも分かる。それはいずれなれることだ。葉留佳君にとっては私が無理難題を言っているように思ったとしても、それは経験を積めば難なくこなせるようになる。だから変に身構えることもない」
・姉 御『それで武装シスターは一体何人くらいだ?』
・遊び場『俺が遠くから確認した人数では三十人くらいだった。ただ、これよりも増えると思う。敷地でテントの設置をしているんだが、これは後々来る連中を迎え入れるためのもののようにも見える。おそらく本隊はまだ到着していないのだろう』
・ビー玉『どこかと抗争でもやるつもりなんですかね』
・遊び場『その可能性が一番高いと思うぞ。そして、その相手が問題だからこそお呼びがかかったとみてもいいだろう』
(わざわざ日本にまで来てまで抗争する必要がある相手となると……一体どこだ?少なくとも日本国内に存在している組織ではないはずだろう)
少なくとも分かっていることは、抗争が行われるとしてもすぐには起きないということだ。
どこと抗争をするつもりか知らないが、今まさに開戦に踏み切ろうとしているような状況ならば、もっと催促があってもいいはずだ。
それなのに、来ヶ谷は当初の予定から早めてはいない。
自信が抱える問題として一番の優先事項だと判断もしなかった。
最初に連絡を受けたのは、理樹や理子たちが紅鳴館に潜入する前のことだ。
かれこれ二週間は立っている。
(……もともと、どうしてロシア聖教なんてでてくる?魔術が絡む緊急の連絡ならつべこべいわず私たちか星伽神社に連絡いれればいいだけなのに、こんなのんびりとしたことをやっている?)
日本で起きた問題は日本の法律にて裁かれる。
これは日本に関わらず、自国の法律に従う法治国家にとっては当然のことだ。
他国からの侵入者が何かをやろうとしているなら、日本の手によって阻止されるべきである。
外国の組織に頼るとしても、あくまで身内と判断できる連中に頼るべき。
それができないとなると、よほど専門的なこととなるか、緊急の場合となった時のことだろう。
そう考えると見えるくるものもある。
(そもそも日本は多宗教国家のくせに、危険な魔術結社なんてほとんどないんだよな。ハートランドの『SSS』は良くも悪くもゆりの私兵みたいなものだし、暴走することはない。危険な魔術結社といえば、せいぜい
とはいえロシア聖教が抗争の準備をしていると知ったところで、あくまで考察ぐらいしかできない。
根本的な部分は実際に会ってからでないと何も分からないだろう。
(白雪姫が私の代わりでも何の問題がないのかを知りたい。二木女史と連絡がつかないのが痛いな)
現時点での予測として、自分に声がかかったのは日本政府への承諾の手助けを願うためというものがある。それはそうだろう。一武装組織なんてそのまま街に繰り出してテロか何かだと判断されたらたまったものではない。影響力のある国での行動ならまだしも、普段あまり関わらない国で武装組織を動かすには認可が必須だ。佳奈多とでも連絡はつけば、日本政府が今状況をどこまで知っているかも把握できるであろうが、あいにくいないものはどうしようもない。
そういう理由なら来ヶ谷ではなく星伽神社の星伽白雪でも役割としては充分に果たすことができる。自分だから呼ばれたのか、星伽神社の方でもよかったのか、それくらいははっきりさせたいのだが、事前情報だけではどうにもならない。
(日本政府がこのことを知っていたとしたら、あとは身内の勢力といえる存在に下準備としての手回しとしての説明くらいはあってもいいだろう。変に鉢合わせしたら面倒なことになりかねないからな)
牧瀬紅葉の本質があくまでも科学者だというのなら、来ヶ谷唯湖の本質はあくまでも外交を専門とする政治家。 政治家としての視点から詰めていき、現状を大雑把にしか分からない事実から可能性を一つずつ潰していく。
「葉留佳君。白雪姫に連絡を取ってくれ。こちらの現状を伝えてくれてかまわない。つながらないならキンジ少年を中心に白雪姫の現在位置や動向を調べろ」
「ラジャ!」
来ヶ谷が自身の考えをまとめていると、葉留佳が結果を報告してくるまで時間はあまりかからなかった。
「なんか白雪姫は職場体験には出てはいないみたいですネ。今は買い物に出かけていて不在みたいですけど、あと二時間もすれば帰ってくると思うとのことですヨ」
「誰に聞いた?」
「アリアちゃん」
「ならアリア君には知りたいことは分かったから白雪姫には特に何も言わなくてもいいと伝えておいてくれ」
「おーけーですヨ!」
この時点で分かったことは、星伽神社は何も把握していないということだ。
そしてもちろん、イギリス清教も何も聞いていない。
イギリス清教もロシア聖教も別に犯罪組織ではないのだ。
ロシア聖教で何かトラブルでも起きていることだって、単に商売仇ゆえに注意を払っていたおかげで気づけたようなものである。何が起きているのかを把握するために来ヶ谷が来たのであって、分かってさえいれば彼女はわざわざ自分の時間を割きはしない。
・姉 御『恭介氏』
・遊び場『おう』
・姉 御『一応教会の近くにいてくれるか?』
・遊び場『怪しまれない程度に近くをうろつきながら異変でもないかと探ってみる。いざという時のために、俺の居場所を決めておく必要があるか?お前、あの眠り姫の側近として名前は売れているだろう。お前は自覚が足りないが、要人である以上いつ狙われてもおかしくない立場なんだからな。俺は状況に合わせた隠れた遊撃手として動くとするさ』
・姉 御『私にはちゃんと護衛役がいるんだ。何も問題ない。恭介氏が言うように、今回は私自身が狙われているわけでもなさそうだし、もしそうだとしても、葉留佳君一人いれば簡単に逃げ切れる』
・遊び場『そうだな。お前が我がリトルバスターズに推薦したということは、お前がそれだけ信頼しているということでもある。分かった。三枝、俺も近くには陣取っているが、もしもの時は頼んだぞ』
・ビー玉『ラジャ!!』
万が一は想定しなくていいわけではない。
もしもの時は、その場にいるという武装シスター全員を一度に相手にする覚悟すら決めた葉留佳であったが、よくよく考えればその程度のことは大したことではない。元々葉留佳が武偵となったのは自分の家族を取り戻すため。そのためには、場合によっては佳奈多以外のイ・ウーのメンバー全員を殺すつもりであったことは否定しない。それに比べれば、ただ物理的に逃げ出すだけでいいならなんて簡単なことだろう。最初こそ必要に迫られて武偵となった葉留佳であるが、今では武偵として生きていくのも悪くないかなと思いはじめていた。感覚の麻痺なのかもしれないが、それくらいならなんてこないかな、と思ってしまう。
「そうだ。葉留佳君にプレゼントがある」
「え?マジですカ!?」
「これから会うのはロシア聖教の一員だからな。私の場合は顔を知られているが、葉留佳君の場合はそうでもない。だから、何かあった時の身分証明がてらに渡しておくよ。この前やっと届いたんだ」
来ヶ谷は自分のカバンの中から手のひらサイズの白い箱を取り出すと、箱ごと葉留佳に渡した。
一体なんだろうかとわくわくしながら箱を開けた葉留佳が取り出したのは、十字架の首飾りであった。
「……十字架?」
「あぁ。イギリスから送ってもらった十字架で、軽い呪い程度なら簡単にはねのけることができる霊装でもある。これは私から葉留佳くんへのプレゼントだ」
「え、そんなものもらってしまっていいんですカ?」
「いいさ。プレゼントなんだから黙って受け取ればいいさ」
呪いを実際にある程度ならはねのけることができると聞いて、大切な人から実際に効果のあるお守りでももらったような感じで喜んだ葉留佳であるが、実際に首にかけてみた後に、アクセサリーの類は普段つけないことが武偵としての常識であることを思い出してなんだかもったいない気分になってしまった。取っ組み合いにでもなれば、アクセサリーの類は利用されてしまう。例を出すと、ピアスなんてものをつけていたら耳の肉ごと引きちぎられることがある。
「どうかしたか?」
「いや、ほら。せっかく効果があるものをもらったのに普段から持ち歩けないと思うとなんだかもったいない気がしまして……」
「普段から持ち歩きたいなら東京武偵高校に帰った後に牧瀬にでもキーホルダーの形にでも変えてもらっらどうだ?霊装としての効果は変わらないはずだし、あいつならうまいこと加工するだろう」
「モミジくんに?分かりました。帰ったらお願いしてみますヨ」
せっかくのプレゼントだから大切にしたいと思い、首にさげた十字架を手に取って見つめていると、来ヶ谷も自分の十字架を首にかけた。普段から自分はイギリス清教の人間だと公言している来ヶ谷であるが、聖書だとか十字架だとか役職に見合ったものを手にしている姿を普段は全く店はしない。それは東京武偵高校で一番長い時間を過ごした葉留佳で変わらない。彼女をして珍しいものを見た、という感じで驚いてしまった。
「あれ、姉御の十字架はデザインがちょっと違いますね」
「あぁ、これか。これは私の宝物でな、私が総長から私に直接下賜していただいたものだ。葉留佳君に渡したものも私が用意させた特注品だが、これは君のものとは意味合いからして少し違うんだ。君のは私からの単なるプレゼントだが、私のは公的な場には正装として身に着けることにしているものだ。普段は私の宝として飾ってある」
「これ、特注品だったんですカ……」
「そう変に大事にすることもないさ。それはお守り程度につかってくれたらそれでいいよ。それじゃあそろそろ出発しようか」
ホテルの前に待機しているタクシーに行き先を告げ、待ち合わせ場所であるロシア聖教系列の協会へとたどりついた二人は、足を踏み入れようとしていた。近場までタクシーで行った後、少し歩いて教会へと向かうことにしたのだが、徐々に空気があわただしいものになっているのを来ヶ谷と葉留佳の二人は感じていた。
(……たしかに恭介氏の言ってたように、武装シスターたちがテントを張っているな)
堂々を教会の正面玄関へ向かい、首にぶら下げているイギリス清教式の十字架を見せ、堂々と名乗る。するとすんなりと教会の中へと通されたが、教会の中は外とは違って静まり返っていた。
「あれ、誰もいない?」
「信用問題のためだろう。これから行われるのは話し合いだが、別に私からは話があるわけじゃない。こちらはいざとなれば、なかったことにして打ち切ることだってできるんだ。向こうが武装シスターを背後にして威圧をかけるようにして何か言ってくるようなら、こちらにだって考えがある」
「一体何をする気ですカ?」
「バックレる」
「それでいいんですカ……」
「だって私から向こうに何か要求があるわけじゃないし……気持ちとしては相当楽なんだ、足元見てふっかけるだけふっかけてやる」
「姉御……とても悪い顔をしてますよ……」
普段から行動を共にしている葉留佳には、こういう時の来ヶ谷唯湖はロクなことを考えていない。
常識知らずの無礼者というわけでもなく、夢見がちな理想家というわけでもない。
武力による脅しも通用せず、倫理観による説得も気にしない。
それでいて、今自分たちに一番押さえておかなければならないところはしっかりと抑えてくる。
そしてそのことは、後々になって判明することだ。
その場では何も変な結論を出したわけではないはずなのに、いつの間にか相手にとって致命的なことを起こしている。
かつて、彼女が出席した交渉において、相手側の秘書が心労のあまり倒れたという話を聞いたときは何となく理解した。
今日の相手はどんな人が来るか知らないが、葉留佳としてはできれば心労なんて負いたくない。
怖そうな人でも腹黒そうな人でもなければいいな、と考えていた時に、
「す、すいません!ひょっとしてお待たせしてしまいましたかっ!?」
ちょうど声がかかってきた。来ヶ谷と葉留佳の耳に届いたのはきれいな発音の日本語であった。てっきりロシア語で会話するため会話において行かれると思っていた葉留佳にとって、これは朗報である。白い肌に、白い髪。梅雨も終わり、だんだんと熱くなっている日本であるが寒く感じるのか純白のマントと帽子をかぶっている少女がそこにいた。待たせてしまったことに慌てたのか、彼女は急いでこちらへと駆け寄ってくるが、彼女が小柄であるせいか、葉留佳にはその様子が犬が飼い主にかけよってくるような微笑ましいものに見えた。そして、絶好のカモがやってきたのではないかとも思った。
「は、初めまして!わ、わたしはクドリャフカ=アナトリエヴナ=ストルガツカヤといいます!」
これでリトルバスターズ!のメインキャラは全員登場しましたね。
クドとか名前出たのも今回が初めてです。
へ?さささ?
ごめんなさい、彼女はどう扱ったらいいのかよく分からないんです!
では!