Scarlet Busters!   作:Sepia

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Mission13 航空機内の挑発者

 

 

 

 

第三放送室。

この場所で一人の少女は首を傾げていた。

 

「・・・?」

 

放送室にいる少女は当然ながら来ヶ谷唯湖.

彼女はディスプレイに設置された情報を見て疑問を感じていた。

 

「昨日アリアくんが礼と一緒に言っていたのはこのことか」

 

昨日昔馴染みが訪ねてきた。何かと思えば母親の裁判の資料の礼と、イギリスに帰るということの報告らしい。私はイギリスに帰るという彼女に何も言わなかったが、気にはなった。

 

(なんでアリア君はイギリスに帰る気になったんだ?)

 

遠山少年が役立たずなのは分かった。でも、日本からイギリスに帰る理由としてはなんだろう? 母親が日本で拘留されている以上、裁判のことも含めて日本にいたほうが便利だろうに。

『一時的に帰るのか?』

『いいえ。活動拠点をロンドンに移すわ』

 

それこそ意味が分からない。アリアがイギリスに帰ったところで、裁判がうまくいくとは思えない。むしろ王室派にいいように使われる気がする。だから少し調べてみようと思った。で、見つけた。

 

「これだな」

 

来ヶ谷が見つけた情報は以下の通り。

 

『イギリスの王室派が優秀な武偵に帰還命令をくだしている』

 

でもそれは、

「イギリスで何かあったのか?」

 

もちろん、来ヶ谷とて放送委員長を務めるくらいに優秀だ。だが、その彼女に帰還命令がなかったのは彼女が『王室派』ではなく『清教派』に所属するからだろう。

 

(・・・騎士のバカでもを牽制するため?いや、しかし・・・)

 

結論を出しかねていた。

そんな時だった。来ヶ谷に電話がかかってきたのは。

 

(・・・理樹くんか)

 

 どうしたんだろう?

 ひょっとして、彼の女装写真集を出そうとして準備してることがばれたのだろうか?

 とりあえず携帯を耳にあて、彼女は聞いた。

 

『あ、来ヶ谷さん! 僕は今からイギリス行きの便に飛び乗るからサポートよろしく!!「武偵殺し」が乗ってるんだ』

 

 なんだそれは、と思った。今からイギリス行きの便に乗る? 私の知らない所で事態は進行していたようだ。外国に行ったことがない少年が飛行機に飛び乗るなんて普通はしない。率直にいえばバカな行為だ。しかも、そのバカを通す方法が友人に入れる一本の電話とは。ここで私が電話に出なかったらイギリスについてからどうするつもりだったんだろう?これで『武偵殺し』が乗っていなかったらただの不法入国だ。

 

でも―――――

 

(――――面白いな)

 

 面白いと思った。このバカに力を貸してやろうと思った。だから言った。

 

「おねーさんに任せとけ」

 

 ありがとうと返事が来て、電話は切れた。

 

「・・・・」

 

 しばし無言になる彼女に対し、放送室に入ってきて声をかけてくる人物がいた。

 

「よう。どうだ、日本は」

「・・・恭介氏か」

 

 棗恭介。

 直枝理樹が最も頼りにしている、リトルバスターズリーダー。

 

「・・・楽しいよ」

 

 優秀な武偵が海外の武偵高に留学するなんてよくある話だ。来ヶ谷がまだイギリスにいた中学時代に、恭介はイギリスに留学したことがある。その時の面識があるのだ。

 

「そうか。お前を日本に来いと誘ってみてよかったぜ」

 

 日本にくるに至って、彼にはいろいろ世話になった。

 私が理樹くんと関わっているのも、彼の存在もあったのだろう。

 リトルバスターズとはどんな連中か?

 ちょっとばかり興味があった。

 

「理樹くんなら、イギリス行きの飛行機にのったぞ」

「そうか」

「嬉しそうだな」

「いや、あいつも成長してると思ってな。いつまでも何かあったら俺に頼る理樹じゃ無くなってきてるのだからな」

「その割には寂しそうだな」

「ばれたか」

 

 来ヶ谷は恭介と二人して笑い飛ばし、

 

「さて、始めようか」

 

 自分の仕事をすることにした。

 

 

 

 

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・なんとか間に合った」

 

 理樹とキンジの二人はアリアの帰る飛行機に乗り込む。時間ギリギリだ。

 

(早く機長さんに止めるように言わないと・・)

 

『武偵だ! この飛行機を止めろ!』

 

 キンジが怒鳴り付ける。けど、飛行機は止まることなく、

 

「うわぁっ!?」

 

 動き出した。

 理樹は思いもよらぬ足場の振動に尻餅をついてしまう。

 

 「あ痛ーーー」

 

 こんなんで本当に役に立てるのだろうか?

 

『どうして飛行機を止めなかった!?』

『規則でこちらからは止めれません! というか、あなたたち本当に武偵なんですか? 機長は何も聞いてないぞって・・・』

『・・・・バカ野郎っ!』

 

 理樹は会話を聞いて、現状の大方の見当はついた。

 

(あ、メールだ。来ヶ谷さんからだ)

 

メールを開く。その内容は・・

『少年。その飛行機にアリアくんが乗ってるのはイギリスは分かってる。だから「武偵殺し」が現れてもアリアくんに解決させて何事もなかったようにするつもりだ。その飛行機はイギリス王室が絡むほどの豪華なものだから、まず運航中止はない。なにしろ事故でも起きたならあっさり解決して隠したほうがてっとり早いからな』

 

 内容は理解した。どっちみちなら今は、『武偵殺し』が動く前に行動を開始するべきだ。先手必勝!!

 

「遠山くんは、アリアさんのほうをお願い」

「俺は最初からそのつもりだが、お前はどうするんだ?」

 

 理樹はこの場で何をするか?それは走りながらすでに考えてある。

 

「とりあえず、機長さんに会いに行くよ。それからはとりあえず隠れてようと思う」

「そうか。分かった」

「遠山君。最初に言っておくことが歩けど」

「なんだ?」

「僕を『戦闘』ための戦力には数えないでね」

 

 率直に言って、直枝理樹の戦闘能力などたいしたものではない。もしも戦闘がおもることがあるのならアリア&キンジの一時とはいえコンビを組んだ二人に任せるのがベストの選択だろう。何もないならないでそれでいい。来ヶ谷さんの迎えが来るまでイギリス観光を楽しむまで。理樹はキンジに別れをいい、単独行動を開始する。

 

 

 

 

               ●

 

 

 時間がない。ゆえに理樹と分かれた遠山キンジはアリアの個室の前に来るとノックもしないで扉を開く。目の前には驚愕するピンクがいた。

 

「な、何!? キンジ!? !」

 

アリアは驚き、紅い目を見開いく。

 

「さすがリアル貴族様だなこれ片道20万するんだろ?」

 

 やはり住む世界が違うなと思いつつ、なんで俺はこんな場所にいるんだろうとかキンジは考えていた。

 

「断りもなく部屋に押し掛けてくるなんて失礼よ」

「いや、アリアそれ言う資格ないだろ」

 

 以前キンジと理樹&真人の三人が住んでいる四人部屋にアリアは押しかけてきて、野郎三名を追い出した過去が有る。説得力は微塵もない。

 

(なにしろあの後俺は冷たいシャワーを浴びるはめになったんだ)

 

 ルームメイトのバカと筋肉が下手な気を使ったせいで、とremaindしながら遠山が言うとさしものアリアも黙りこんでしまった。相手が何もいえないことをいい事にキンジは言う。

 

「武偵憲章第2条 依頼人との約束は絶対に守れ」

「・・・?」

「俺はこう約束した。 強襲科(アサルト)に戻って1件目の事件をお前と一緒に解決してやる。『武偵殺し』の1件はまだ解決してないだろ?」

「何よ!何もできない役立たずのくせに」

 

 がぅと!小さいライオンが吠えるようにアリアは犬歯を向く。

 だが確かに事実だ。バスジャックの際にはキンジは役に立たずだったのだ。

 

「帰りなさいっ!あんたのおかげでよく分かったの。あたしはやっぱり独奏曲(アリア)なのっ!あたしのパートナーになれるやつなんか世界のどこにもいないんだわ!だからもう武偵殺しだろうがなんだろうがこれからずっと一人で戦うって決めたのよ!」

「ならもっと早く言えばよかったろ?」

 

 アリアがいまさら決めてももう遅い。キンジはもう巻き込まれている。

 

「ロンドンに着いたらすぐ帰りなさい!エコノミーのチケットぐらいは手切れ金代わりに買ってあげるから! あんたはもう他人!あたしに話しかけないことっ!」

「元から他人だろ?」

「うるさい!しゃべるの禁止!」

 

 飛行機は東京湾を出る。

『武偵殺し』がいつでてくるかわからない以上、キンジはいまここにいる理由を説明しておきたいと思った。

 

『―――――お客様にお詫び申し上げます。当機は台風による乱気流を迂回するため到着が30分遅れることが予想されます』

 

(機内放送か・・・。悪天候とはこれまた不運だな)

 

そんなことを思った次の瞬間。

 

ガガ―ン!!! ガガガ―ン!!!!

 

(うわ!? 雷か!?)

 

 突然の轟音に驚いてしまう。男子の方は『ちょっと驚いた』程度ですんだようだが、

 

「・・・怖いのか?」

「こ、こここ怖いわけないじゃない。バッカみたい。ていうか話しかけないで」

 

少女の方はそうはいかない。続けてまた雷光と轟音が連発して、

 

(お、また近い雷が・・)

「きゃ------------------------------------」

 

二人の反応は対照的だった。

 

(はは。アリアの苦手なもの発見だな)

 

雷が苦手な少女。なんかかわいく見える。

 

「雷が苦手ならベッドにもぐって震えてろよ」

「う、うるさい」

「ちびったりしたら一大事だぞ」

「バ、ババ馬鹿!」

 

ガガ―ン!!!!(落雷)

 

「うあ!」

 

アリアは飛び上がってベッドに飛びこんで布団をかぶってしまう。

 

「ハハハハハ!」

 

キンジ大笑いする。まれで、日ごろの恨みが込められているように。それでも、

 

「~き、キンジぃ」

 

少女は毛布から助けを求めるように手を伸ばしたていた。

どうしても怖い。だから少年の袖を掴む。

少年の方はが気をまぎわらすようにテレビをつける。と、そこに映ったのは有名な時代劇だった。

 

『この桜吹雪見覚えねえとは言わせねえぜ』

 

(あ、俺のご先祖様だ)

 

 遠山の金さん。

 彼は肌を露出することでヒーローとなる力を手に入れたらしい。

 

「ほら、これでも見て気を紛らわせろよ」

「う、うん」

 

ぶるぶる震えながらぎゅっとキンジの手と袖を握る姿は、ただのかよわい女の子そのものだった。

 

(だたの・・・・・女のみたいだ)

 

 キンジはアリアのパートナーにはならないと決めていた。

 決めてからここに来た。それでいて、こう思う。

 

(パートナーにはなれなくても、普通の友達になら・・・)

 

 ルームメイトの友達はキンジの危機に何も言わずに助けにきてくれた。

 今なにやってるか知らないが、サポートしてくれている。

 だから。

 

(俺もあいつみたいに、お前に危機には助けに行ってやるよ)

 

 友達としてなら。

 そう考えて、雷に震える一人の女の子と接していこうと考えて、彼はある音を聞いた。

 

 

    パン! パァン!

 

 音が響く。聞きなれた音だった。すなわち、銃声。

 

(現れたか!?)

 

キンジは警戒し、そして機内放送を聞いた。

 

『Attention Please.で やがり ます』

 

それはかつて聞いた『武偵殺し』の声。

二度と聞きたくはなかった声。

 

『この 飛行機には 爆弾が仕掛け てあり やがります』

 

(ついにきたか)

 

彼にはこれは予想していたことである。

変化はないかと周囲を見渡し、ベルト着用サインが点滅を始めるのを見つけた。

 

(和文モールスか)

 

 訳すと、

『おいでおいで イ・ウーはてんごくだよ おいでおいで。わたしはいっかいのばーにいるよ』

 

 明らかな挑発。

「やっぱり現れたな」

「やっぱろってキンジあんた・・・・これを予測してたの?」

「ああ。俺には、いや、俺たちには確信があった」

 

アリアは信じられないものを見ているかのような瞳を見せる。

 

「誘ってやがるな。アリア、どうする?」

「上等よ。風穴あけてやるわ」

 

アリアは眉をつりあげてガバメントを2丁スカートから取り出した。

双銃双剣(カドラ)のアリア。

彼女は一人、独奏曲として立ち上がり、

 

「俺も一緒に行ってやるよ。役に立つかどうかは分からないけどな」

「来なくていい!」

 

アリアの叫んだ言葉は、ガガ―ン!という雷鳴に打ち消された。

 

(直枝の奴なんか、『僕を戦力に数えるな』とかいったんだ。俺だってそれぐらいずうずうしくてもいいだろう)

 

強気でアリアについていこうとするキンジに対し、アリアの方は、

 

「く、くれば?」

「・・・・」

 

完全に雷にビビりきっていた。

こんなんで本当に勝てるのだろうか?そんな一抹の不安がキンジによぎった。

 

 

 

 

 

             ●

 

 

 

 

 ヤツは座っていた。

 二人は指定されたバーに入ると、アテンタントがカウンターに足を組んで座っていた。

 

(あれは・・・俺が飛行機を止めるように命じたアテンダントさん?)

 

「今回もきれいに引っかかってくれやがりましたねえ」

 

 だが、先ほどキンジが遭遇していた気の弱そうなフライアテンダントさんではない。

 彼女はその顔にかぶせられた薄いマスクみたいなお面をべりべりとはがしめる。

 

(・・・マスクか。素顔が出てくるな)

 

 キンジは警戒に警戒を重ね、そして見た。

 その素顔は・・・。

 

「・・・嘘・・・だろ?」

 

 その素顔は見慣れたクラスメイト。

 Aクラスのアイドル。人気者。彼女の名前は、

 

「――――――り、理子か!」

 

 峰理子。

 

「こんばんは」

 

 そして彼女は青いカクテルをくいっと飲み、ぱちりとウインクしてきた。

 そう、いつもの笑みを浮かべながら。

 




さて、次回はアリアVS理子ですね!!

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