Scarlet Busters!   作:Sepia

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さて、がんばれ主人公!!


Mission15 直枝理樹VS 峰理子

 

 

 遠山キンジはアリアを抱えながら、ルームメイトの少年の言葉を聞いた。

 

「医療セットはここにおいておくよ」

 

 彼は緊急措置用の道具を左手にもち、コンバット・マグナムを右手に抱えて立っていた。

 

「・・・直枝」

 

 状況は一刻を争うのだ。

 早くアリアを手当てしてやらないと命はないと思っていた。

 ゆえに、キンジにとっては蘇生道具を持ってやってきたと理樹の存在は天の助け。

 でも、現実的な問題として理子の存在がいる。

 

(・・・くそ、どうする!? 直枝に理子の相手をさせるのか!?)

 

 

 今、東京武偵高の強襲科のトップが純粋な戦闘により重傷を負い、意識不明の状態にまで追い込まれた。そんな化け物相手に友達をぶつけてもいいのか?ここは俺が戦ったほうがいいんじゃないか?キンジは結論が出せなかった。しかも、直枝理樹は典型的な探偵科の人間。くらべてキンジは、仮にも一年生のときは強襲科の主席候補といううわさがヒステリアモードのせいで言われた人物。データだけを見たら、アリアが負けた以上、理樹が戦ったところで勝算はなく、キンジのほうが時間稼ぎができそうなもの。

 

 

 なのに、

 

「遠山君。アリアさんを早く手当てしてあげなよ」

 

 友達はこういった。

 ここは自分がなんとかする、と。

 キンジの対応は迅速だった。

 理子のことを振り返らず、アリアを抱えて

 

「ああ、助かる!」

 

 キンジはひたすら走った。

 

 

 

     

        ●

 

 

 

 飛行機の中。相対する少年と少女がいた。

 

「理子さん」

 

 それでいて、少年はいつもの調子で話し掛けた。

 それに対し、少女もいつもの調子で応える。

 

「なぁに〜理樹くん」

 

 二人は端から見れば対立しているような雰囲気を微塵も見せず、それでも敵対する。

 

「まさか理樹くんがここで出てくるとは思わなかったよ。オルメス倒すのに邪魔だから出てってくれる? 理樹くんなら見逃してあげてもいいから」

「逃げ出すくらいならわざわざ出て来はしないさ」

 

 それに、もとより逃げ場なんて存在しない。

 今キンジがアリアをつれて離脱することを武偵殺しが簡単に許したのは、どうせ逃げ場がない場所だ からということもあるのだろう。それにしても・・・

 

(・・・なにやってんだろう、僕は)

 

 自分でもわけがわからない。

 

「ふーん。変なの。ところでさ、何しに出て来たの? 理樹くんじゃ私に勝てないでしょ?」

 

 そんなことは分かってる。理子の表情はAクラスにいた時のように満面の笑みだ。

 そんな中で、少年はいまここに立っている理由を考えてみる。

 

(なんで僕は出て来たのかな?)

 

 普通に考えてみよう。強襲科での成績優秀なアリアさんと遠山くんを同時に相手できる化け物相手に、一体僕に何ができるというのだろう?ここには真人もいない。恭介が守ってくれるわけでもない。

 

「さぁ、なんでだろうね」

 

 本当によく分からない。 でも、何か僕にも出来ることがあるような気がする。

 気のせいかもしれないが、そう思い込んでおく。

 

「理子さん、僕はね。例えアリアさんたちがやられようと、出てくるつもりはなかったんだよ」

 

 もともと乗客の安全を優先するつもりだった。なのに、どうしてだ。

 

「どうして?」

 

 理子さんも聞いてくる。特別な答えは用意していない。だから、

 

「僕は、リトルバスターズだ」

 

 そう答えた。

 

 

         

        ●

 

 

 

 これ以上は時間の無駄かと判断したのか、理子はワルサーを理樹に向ける。

 

「クフフッ!!」

「え!?ちょ!?」

 

 理樹は迫りくる銃弾を必死で回避する。銃をしまい、走り回る。力の温存とかを全く考えてはいない。正真正銘の全力回避。

 

「・・・今何で銃をしまった?」

 

 凶戦士は素直にそう思い口にした。

 仮にも学校では一緒に探偵術を学んだのだ。

 ある程度は相手の知識は持っている。

 たしかに両手が使える分、回避はいろいろとやりやすくなるだろう。

 けど、銃をしまうということはこの状況下においてメリットよりデメリットのほうが大きいだろう。

 

「僕は恭介に憧れてるから、どうしても真似してしまうのだろうね」

 

 バーのカウンターに隠れた理樹は、律儀に返事をした。

 つまりは、憧れの存在の真似。

 リュパンの襲名者なる理子には、その気持ちが理解できる。

 なら、と凶戦士は考えてみる。

 目の前のバカが憧れている存在は、どうして銃をしまうようなことをするのだろうか、と。

 

「恭介は僕にこう言ったことだあるんだ。『――――撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ』」

 

 普通に考え、理樹程度の相手なら理子の負ける要素は見当たらない。けど、

 

(―――――――ッ!?)

 

 背筋が凍った。一瞬だが、恐れを感じた。

 同時。

 跳弾が理子を襲う。その正体について、バカは言う。

 

反射弾(リフレク・ショット)

 

 恭介が教えた銃技の一つだ。机の角見たいな場所に銃弾を撃ち込み、跳ね返った銃弾で攻撃する技。

 銃という武器な性質上、銃弾は直線上にしかとばない。すると、実は簡単に避けられてしまう。

 事実、理樹にすら避けることが出来る。しかし、一度曲がれば戦術は一気に広がる。

 

「チッ!!」

 

 理子は下手に動けず、様子見になってしまう。

 だが、銃は性質上直線的な攻撃であるため、意外と素人でも回避できる。

 その上、武偵である理樹は人を殺せないし、防弾制服を着ている理子にとってはたいしたことはないとか考えていたが、

 

「―――――痛ぁっ!?」

 

 理子が受けたのは予想だにしない衝撃だった。

 威力が問題なのではない。防弾制服だって衝撃はそのままなのだ。

 問題は衝撃の場所だ。衝撃が手の平に来た。

 彼女は痛みでワルサーを持てず、落としてしまう。

 

(左手を撃たれた? けど・・・・)

 

 防弾制服を着ているからと言って無敵ではない。

 剥き出しの顔面に銃弾を受ければ即死は当然だし、手の平に当たればもう銃なんか持てはしない。

 だから、馬鹿が反射弾が撃てると分かった時は注意した。

 反射した弾丸にも対処できるように観察していた。なのにくらったということは、

 

「特殊弾? いや、ゴム弾かっ!?」

 

 いくら馬鹿が相手とはいえ、万が一がにあように気を使ってたんだ。

 本来なら当たるはずははいんだ。なら、反発係数が異なる弾丸を使われたということだ。

 理子の左手が貫かれていない以上、使われたのはゴム弾だ。

 

「バレたか」

 

 ネタ隠しするつもりもさらさらない馬鹿の銃撃が止む。

 おろらくは、

 

(弾切れか?)

 

 同じ探偵科だからこそ、どんな銃を扱うかくらいは知っている。

 理樹の銃はコンバット・マグマムだ。

 回転式の銃で、早打ちに優れている。しかもあの銃については、

 

(あの銃は、理子のお父様の相棒が好んで使っていた銃!)

 

 なら当然、利点も知っていて、

 

(さっきのゴム弾みたいな一発限りの特殊弾も簡単に装填できるっ!!)

 

 マガジンに銃弾をいれて装着する理子のワルサーとは違い、理樹のような特殊弾を多用するタイプには持ってこいだ。しかしその半面、

 

(装填できる弾数が少ないのもまた事実っ!!)

 

 弱点も熟知している。連射できるのはたったの六発。しかも、リロードはめんどくさい。

 特殊弾を扱う場合ならまだしも、単純な時間を考えたら優位は理子にある。

 

「いくよっ」

 

 相手の銃を見て、装填できる弾数が分からないほど理子は馬鹿じゃない。なら、今が絶好のチャンス。理樹の優位点はバーのカウンターという障害物で銃弾を防げることしかない。いくら理子が先程の銃弾を左手にくらい、二丁拳銃が使えないとはいえ、弾切れの単細胞相手に責めきれないはずがない。なにより理子には、『髪を動かす』超能力がある。理樹の銃撃が止んでからの凶戦士の切り返しが速かったため、理樹はリロードをする隙なんかなかった。

 

 否、与えはしないっ!

 

(精々特殊弾をリロードしたとしても一発くらいだろうっ!終わりだ、直枝理樹っ!)

 

 仮に理樹がリロードを完了していたとしても、近接戦闘で理子が負けるはずがない。単純な装填弾数の絶対的差もあるし、特殊弾を一発詰めたとしても、

 

(この状況で何が使えるっ!?)

 

 戦いは上空を飛行する飛行機の上なのだ。大掛かりな武偵弾や霊装を使い、飛行機に穴を開けるわけにはいかない。それに、下手なものを使えば殺人という武偵の禁忌を侵すことになる。

つまり、理子の勝ち。

 

 理子は先程はオルメスを倒したのだという絶対の自信も伴いバーのカウンターを飛び越えようとして、

 

「!?」

 

 信じられないものを見た。

 バカはこのままでは勝ち目のないことを自覚して、手榴弾を理子の着地地点に二、三個投げ込んだ。

 

「なにやってるんのこのバカっ!」

 

 だって、理子は理樹に飛び掛かるようにしたのだ。

 なら、着地地点とは則ち、理樹の足元。

 

「さぁ理子さん。―――――――― 一緒にアフロになろうZE!」

「勝手にやってろバカ――――っ!?」

 

 自爆か、と理子は思った。たしかに、勝てないなら相打ちに持ち込めたなら理樹としてはいいかもしれない。凶戦士とバカと共倒れになった場合、遠山キンジという今は逃げた仲間がなんとかするだろう。でも、そんな結末は、

 

(冗談じゃないっ)

 

 バカの勝手な自爆に巻き込まれるのはたまったもんじゃない。慌ててバーのカウンターに掴まり、緊急回避しるしかない。しかし、左手は使えない。髪を操作して掴まるにしても、体全身を持ち上げることなどできはしない。なら、右手のワルサーを捨てて、右手でカウンターに掴まり空中からの緊急回避をするしかなかった。

 

 

 バコーン、と手榴弾が爆発する音とともに、爆風が飛んでくる。

 

 

(――風のタイプか!)

 

 

 武偵殺しとしての理子は爆弾使いだ。当然、爆弾の種類くらいは知っている。

 大きくわけて、爆弾には二つの種類がある。今回のように爆風ですべてを吹き飛ばすタイプと、手榴弾自体が鋭利な刃物として襲い掛かるタイプ。

 

 

 

「―――――くっ」

 

 

 ギリギリの緊急回避でなんとか直撃は避けたが、被害はあった。

 一応爆風の影響を受けて地面にたたき付けられ、身体の芯が揺さぶられた。

 

「・・・左手を強く打ったかな?」

 

 緊急回避に左手を使ってしまったがゆえ、爆発に巻き込まれて左手が使えない。数分待てば回復するレベルの負傷だ。でも、

 

「勝った」

 

 バカの自爆は失敗に終わったのだ。

 今頃オルメスが息を吹き返したかもしれないが、左手が回復したらトドメをさしにいけばいいだけだ。

 

 でも、ふと思う。

 

『理子さん。一緒にアフロになろうZE!』

 

 あのバカはとても自爆するという雰囲気ではなかったではないだろうか?

 ふとした疑問から理子は爆心地を見て、理子は見る。

 信じられないことに、無傷のバカが突っ込んできたのを見た。

 

 

 

 

       ●

 

 

 

 理樹は拳を握りしめ、理子に突撃する。

 

(―――――自爆なんてするはずがないでしょ?)

 

 昔から恭介に超能力のことは隠すようにしろと言われていたのだ。

 バスジャックの時は非常時ゆえ来ヶ谷さんの前で使ってしまったが、恭介の助言で武偵高の先生にすら教えてない能力がある。それは自分でも定義がよく分からない能力であるが、

 

(少なくても、魔力を打ち消せる能力だっ!)

 

 手榴弾は謙吾特製の魔術タイプで、自分では作れないレアな一品だ。

 彼は自分の超能力と組み合わせて、タイミングを見計らえば無傷で周囲を爆破できる。

 

「うおおおおぉぉぉ」

 

 隙は作った。

 普通にやって勝てないなら、普通じゃない手段を取ればいい。

 恭介はいつだってそうしてきて、理樹はその姿を見てきた。

 理子の左手は銃撃を受けて使えない。

 理子の右手には回避のためにワルサーは捨てられた。

 

「チィっ!」

 

 理子に残された手段としては『髪を自在に操る』能力がある。

 

 (まだだ!まだ終わらないよっ!)

 

 ナイフを出す時間はない。でも、方法はある。

 バカは素手で突っ込んできた。

 なら、髪を操作してバカの動きを封じ、ナイフで刺せばいい。

 そして、理子はまた衝撃の展開に左右されることとなる。

 

 

 

          ●

 

 

 

 直枝理樹のとる行動はただひとつ。

 拳での攻撃だ。

 理子が髪で搦め捕ろうとしてきたのを見て、

 

(・・・理子さん。君はなにをそんなに必死になってるんだい?)

 

 ふと、そんなことを思ってしまった。

 彼女がアリアさんと戦っているのを見ていて、正直アリアさんと遠山くんに加勢する気が無くなった。もとから無かったというのも紛れもない事実だが、いっそう無くなったのもまた事実。

 

 だって、

 

(僕が可哀相だと、救いたいと思ったのは君なんだよ)

 

 犯罪者に何言ってるのだと僕を皆は批難するかもしれない。

 でも、僕には彼女が今にも泣きそうに見えたんだ。

 本当は、助けを求めてる小さな女の子に見えたんだ。

 いや、カッコつけるのはよしておこう。率直なところ、

 

(・・・恭介に出会い、救われる前の自分と重なって見えんだよなぁ)

 

 だから、

 

(今は君を止める)

 

 

 そして話をしてほしい。

 助けてほしいなら、助けてと叫んでほしい。

 だって、僕はリトルバスターズだから。

 恭介みたいに僕がうまくできるとは思ってない。けど、僕だってきっと。

 だから、

 

「き・ん・に・く――――いぇいえーい!」

 

 今は理子を倒す。

 理樹の右手が理子の髪に触れた瞬間、理子の超能力は意味を無くし、ただの髪に戻る。

 

「――へ?」

 

 

 想定外の出来事は一瞬隙を生む。

 その一瞬は二人の勝敗を決めるには決定的だった。

 理樹はそのまま全力で――――――凶戦士の顔面を殴り飛ばした。

 

 




理樹の戦闘はこんな感じです。
基本的に負けることが前提の戦いをします。
あとは、どのようにして勝つための舞台を整えるかというのが彼の勝負ですね。

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