Scarlet Busters!   作:Sepia

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Mission19 独唱曲のBGM

 

 

「さっさと書きなさい」

「……はい」

 

 理樹や武藤、キンジといったハイジャックに少しでも関わった人物達は風紀委員の監視の元、始末書を書かされていた。

 

(あてて)

 

 理樹は無茶な着陸のせいで身体が数日たってもまだ傷んでいた。

 

(恭介や来ヶ谷さんだって来てたのに「見に来ていただけ」で始末書書かないなんて、なんか不公平だ)

 

 ちょっとした文句も言いたくなるが、横でめんどくさそうに書類を埋める親友の筋肉を見てまぁいっかという気分になる。

 

「謙吾の野郎…………合宿とやらでいなかったから始末書書かないなんてなんかセコいぜ」

「そういわないであげなよ真人」

「いや……待てよ。オレは理樹のピンチに駆け付けたから始末書を書いているのか?」

「そうだね、真人、ありがとう」

「つまり……この書類はオレが理樹を助けた証明書ということになるのか?」

「前向きなそんな真人が僕は好きだよ」

「ありがとよ」

 

 真人はよく分からない理屈で喜んでいた!

 

「黙りなさい」

「……はい」

 

 けど、二木さんの一喝で黙らさせられる。恐い。嬉しそうに書類を埋める真人と一緒にある程度の書類が書き終わった。とはいまだ半分終わったくらいだ。そんなときに二木さんから声がかけられた。

 

「井ノ原、直枝、あなたたちはもういいわよ」

「へ?」

「ま、まさか…………書いても意味がないくらいヤバいことを僕はやらかしたの!?」

 

 書類程度では取り返しがつかないことをやらかしたというのだろうか?

 武藤君たちはまだまだ書かせられている中、主犯格が解放とは……。

 

「どうしたの、二人とも。腰を直角にして平謝りして」

「僕が悪かったです。許して下さい」

「理樹は悪くねぇんだよ、ほら、恭介の野郎がきっとへんなことを……」

 

 ガタガタと震えるバカ二人を見て風紀委員はため息をつき、もう一度

 

「もういっていいわよ」

「それは刑務所に行けということでしょうか」

「…………は?」

「あれ?違うの?」

 

 死刑宣告を受けたような顔をするバカに対し、執行人は告げる。

 

「あなたたちの司法取引の書類は来ヶ谷さんがいろいろとやってくれたから、あなたたちはもうここにいる必要はないわ」

「オレと理樹は自由ってことか?」

「えぇ。邪魔だから出て行ってちょうだい」

 

 やった!と真人と二人教室で抱き合っていたら二木さんに追い出された。武藤君たちの裏切ったなアイツラっ!という負け惜しみを聞きながら筋肉たちは自由という存在に感謝した。

 

「これからどうしようか?」

「そうだな。オレは今日一日絞られると思ってたから特に予定は考えてなかったしな」

 

 うーん、と考えてとりあえず筋肉いぇいえーいをしていると、電話が入った。

 

「恭介、どうしたの?」

『理樹、真人。二人ともいるな?』

「うん。どうして?」

『理樹の無事の帰還を祝って、今夜はバーベキューをするぞ。今から準備だ』

「……了解」

 

 理樹は相変わらず唐突だなぁと感じながら、戻ってきたんだと実感する。とりあえず今は、

 

「一緒に肉を買いに行こうか、真人」

 

 

         ●

 

 

 河川敷にて、ジュージューと肉が焼ける食欲をそそる音がする。

 

「真人、そんなに食うの?」

「タンパク質は筋肉に必要なんだよ!」

 

 真人と謙吾といういくらでも食べることができる体力バカ二人がいる以上、食材は自分が食べると思った分は各自持参。それがまだ小学生だったころに初めてバーベキューした時に恭介が決めたルールだった。

 

「まだか!恭介!」

「お前は食べることしか頭にないのか?」

「謙吾。理樹を手助けできなかったお前には負け惜しみしかいえないようだな」

「何!? やる気か!?」

「望むところだ」

 

 放っておいたらすぐに喧嘩する筋肉と剣道を恭介が仲裁する。

 

「そういうな。謙吾は理樹が心配でSSRの合宿を途中で切り上げて帰ってきたんだから」

「ちっ。引き分けということにしといてやるよ」

 

 

 よく分からないが、勝負は決着がついたらしい。

 

(そういえば……アリアさんが押しかけてきて部屋を追い出された時もバーベキューしたっけ)

 

 あの時もみんなで夕食をバーベキューで楽しんだ。あんな事件の後なのに変わらないな、と理樹が感慨深く感じていると、以前との違いを見つけた。前より食材が多いのだ。しかも、焼鳥や野菜といったメニューだ。余りが出たら均等に持ち帰えるのがルールだから、単純に持ってきた量が増えたということを意味する。

 

「以前よりメニューが増えたね。真人と謙吾はなんだかんだて肉しか食べないし、恭介がこんなに食べるの?」

「いや、今回はこれであってるんだ」

「?」

「もう一人前用意しておいたからな」

 

 もう一人前。

 つまり、誰か来るというのだろうか?

 

「よし、焼けた。そろそ……」

 

 肉や野菜を焼いているのは恭介一人だけだ。鈴は料理音痴だし、謙吾がやると真人が対抗してヒドイことになる。器用さを考えて肉を焼いたりできるのは恭介だけだった。

 

「いったっだっきまーすっ!!」

 

 真人がオレが一番乗りとばかり肉に手を出そうとしたが、真人が取ろう串が何者かにさらっと取られた。

 

「てめぇ、謙吾!」

 

 真人が抗議しようとしたが、真人から串を奪い取ったのは謙吾ではなく、

 

「来ヶ谷さん!」

 

 来ヶ谷さんだった。

 どうしてここに?という質問をするまえに答えをリーダーが応えた。

 

「紹介しよう。我らがリトルバスターズの新メンバーの来ヶ谷だ」

「うむ。よろしく頼む」

 

 え?というリトルバスターズに驚きの声が響く。

 

「来ヶ谷のことはお前ら同じクラスなんだから紹介はしなくていいだろ」

「うん。よろしく、来ヶ谷さん」

 

 恭介がメンバーと認めたんだし、ハイジャックでは世話になった。

 理樹としては異論があるはずがない。

 

(……恭介が用意したもう一人前は来ヶ谷さんの分だったのか)

 

 あとは、

 

(新メンバーか。真人たちはなんて反応するかな?)

理樹は親友の筋肉を見て、筋肉たちの反応を疑ったが、

 

「理樹を助けたんじゃメンバーに入れない訳にはいなかいな」

「うむ」

 

 男二人はよく分からない納得の仕方をしていた。

 鈴は僕の背後に隠れてしまったけど、

 

「…………よ、よろしく」

 

 挨拶はした。

 はいはい、と恭介がしきり、

 

「じゃ、今から理樹の帰還祝いと新メンバーの親睦会を始めようか」

 

 

         

         ●

 

 

 遠山キンジと神崎・H・アリアが解放されたのは理樹たちよりも遥かに遅く、気がついたら夜になっていた。夜景がやけにキレイだ。

 

「東京でこんなキレイな夜景を見れるとは思わなかったわ」

「台風一過ってやつか」

 

 二人は満天の星空の下、ベランダで語り合っていた。

 

「ママの公判が延びたわ。『武偵殺し』な件は冤罪だと証明できたから。年単位の延長みたい」

「……そうか」

 

 報告みたいな会話。

 少し迷ったが、アリアは言いたかったことを言うことにした。

 

「わたし、なんでパートナーが必要なのか分かったの」

 

 飛行機の上で思い知らされた。きった私一人なら理子に殺されていただろう。

 だから、

 

「だから今日はキンジにお別れを言いに来たの」

「……お別れ?」

「約束だから、一回だけって」

 

 キンジが強襲科に戻ってチームを一回だけ組んでくれる。それが約束だった。そして、キンジはわざわざ飛行機に乗り込んでまで約束を果たしてくれた。

 

「キンジ。あなたは立派な武偵よ。だからもうドレイなんて呼ばない。だから…………もう一度……」

 

 そんな彼だから諦められない。けど彼は、

 

「……悪い」

 

 彼は前から言っていた。武偵なんて嫌だ。戦うなんてゴメンだと。

 拒否の応えを聞いてアリアは――――

 

「い、いいのよ。私はまだまだ独唱曲だから。それにほら、あんたのおかげで世界に誰もいないというわけじゃないって分かったし」「……見つかるといいな、パートナー」

「うん」

 

 せめて明るく振る舞うことにした。

 二人はそれからあははと笑いあった。

 

「あ、もうこんな時間。そろそろ行かなきゃね」

「約束でもあるのか?」

「うん。お迎えが来るのよ。ロンドン武偵よ。局がヘリで迎えにくるの」

 

 一度は帰るつもりで飛行機に乗ったんだ。これ以上なんの未練がある。

 自分に言い聞かせながら、別れを告げる。

 

「そっか。じゃあな。ガンバレよ」

「うん。バイバイ」

 

 振り返らずにドアを開き、アリアは一人外に出る。

 一人だった。

 キンジはいない。昔の友達もいない。

 

「……やだよ」

 

 涙がこぼれる。両手で必死に拭っても隠しきれない。でも、時間はない。

 

 女子寮にあるヘリポートにいかないと行けない。アリアは人があまり通らないということで河川敷を歩き、寮に向かうことにする。途中でバーベキューしている一団を見つけた。

 

(……あ、リズ)

 

 その中に、昔馴染みの友人の姿が見えた。直感的に判断したら、友は楽しそうだった。

 

(……あたしもいつか、ああなれるのかな?)

 

 昔は同じだと思っていた。類い稀なる才能を持つがゆえ、周囲と溶け込むことができず、尚且つ自らは自分が皆にとって当たり前のことができない欠陥品と思う存在。

でも今リズは笑えている。以前リズは当たり前のことが当たり前でないことなどよくあることだと言った。それでも、アリアは自分が取り残された気分だった。

 

 

       

        ●

 

 

 河川敷にて、来ヶ谷唯湖は焼鳥を食べていた。

 

(……こういうのもいいものだな)

 

 イギリスにいた時は高級料理を食べていたが、それとはまた別の風情がある。夜景も綺麗だ。

 

「来ヶ谷さん」

「理樹くんに真人くんか」

「書類な件、ありがとうね」

「礼には及ばないさ」

 

 友人と一緒に夜にバーベキューをする。

 以前の私に考えられただろうか?

 

(……私も変わったのかな?)

 

 どうでもいいことを話す。でもそんひと時が楽しい。

 

「いつもこんな感じなのか?」

「こんな感じって?」

「いや、いい」

 

 まったく、無自覚のバカというのはある意味で恐ろしい。

 

『リズ!あなたはどうして……』

 

 昔の友人と大喧嘩した時のことを不用意に思い出す。私が変わるというのなら、彼女だってあの時とは違うものになるのだろうか?

 

「…………」

 

 来ヶ谷は自らも一員となったバカどもを見て、

「来ヶ谷さん、どうかした?」

「悪い、ちょっと席を外す」

「どこか行くの?」

「あぁ、笑えるものを見てこようと思ってな」

「よく分からないけど、行ってらっしゃい」

「あぁ行ってくる」

「なるべく早く帰ってこいよ」

「分かってる」

 

 

        ●

 

 

 ヘリポートにてアリアは言う。

 

「……私を笑いに来たの?あの時正しかったのはリズだって」

「笑いに来たのは事実だ。けど、私は王室派のロンドン武偵局の連中を笑いに来たのさ」

 

 ヘリポートではリズが待っていた。さっきまでバーベキューしていた彼女に先回りされたのは何故だろう?リズは何も言わなかったから、

 

「……私に言うことがあって来たんじゃないの?」

「アリア君に言うことなんか何もないぞ?」

 

 相変わらず謎の女だ。

 何がしたいのかもサッパリだ。

 

「……ママの裁判のことはありがとう。それじゃ」

 

 昔馴染みにも別れを告げ、アリアはヘリに乗り込み、これからの未来を考えてみる。まず、王室派の一員として仕事さそられるだろう。王室派なんだったら、王室に使える騎士の中からパートナー候補を探すのもいいかもしれない。とは言え、

(……キンジ以上のパートナーは、いないでしょうけど)

 

 忘れられない一人の少年のことを思い出していると、アリアは今一番聞きたい声を聞いた。

 

『――――アリア!』

 

      

       ●

 

 

 遠山キンジは女子寮のヘリポートまでやって来た。

 バスは無かった。

 チャリは壊れた。

 だから走った。

 ゆえに心臓がアラートを発している。

 

「アリア!」

 

 俺は何してるのだろう?

 アリアを散々疫病神だと思っておいて。

 ヒステリアモードなどいやだと思っておいて。

 武偵なんか止めると書いた書類を破り捨ててまで。

 

「アリア! アリア!」

 

 息切れを起こしてまで。

 喉が張り裂けそうになったまで。

 

「アリア――――――っ!!」

 

 叫んでいて、分かる。

 あぁ、俺はこいつの味方になりたいんだ。

 

      ●

 

 そして、来ヶ谷唯湖は見た。

 

「バカキンジ!遅い!」

 

 アリアがワイヤーをヘリに括りつけて、強風の中飛び降りてくるのを。

 

(……自由落下みたいだな)

 

 来ヶ谷は何もするつもりはない。だから素直に感想が出る。

 金網があったから助かったが、一本間違えたら転落する着地だった。

 そして、アリアを追かけてロンドン武偵局の連中が降りてこようとする。

 

「来ヶ谷!」

「私はだから何もしないって」

 

 助けを求める視線も一蹴する。

 

(さて、どうするかな、遠山キンジくん?)

 

 

 どうでるか楽しみに見ていると、キンジは、

 

「悪いなアリア。今の俺にはこんなことしか思い付かないんだ」

「?」

「アリア!お前は独唱曲かもしれない。でもな!」

 

キンジは金網をジャンプ台みたいにして、

 

「――――俺がBGMくらいにはなってやる!」

 

 空を飛んだ。

 

(あはは。アッハッハッ)

 

 来ヶ谷は笑った。バカなことをしてるなと。とは言え私は今やリトルバスターズの一員。私も人のことを言えないようなバカなことをやっていくのだろう。

 

「エリザべスだな。そこをどけ」

「王室派の連中のいうことなど聞く必要はないが…………まぁいいか。私もバーベキューに戻らないといけないし」

 

 ゆっくりと戻りながら、友人のことを思う。よかったな、と。

 

 

 

 

「何してるんだ?」

 

 来ヶ谷が戻った時、バーベキューはまだやっていた。対して時間も起っていないから野菜や肉がまだ残ってるのは当たり前だが、何故かメニューが増えていた。しかも魚や貝。

 

「見たか真人! やったぞ!」

「こっちだって負けてられるか!?」

 

 真人少年と謙吾少年が何かやっていた。

 

「あ、お帰り、来ヶ谷さん」

「ただいま。あのバカたちは何してるんだ?」

「来ヶ谷さんにプレゼントする貝や魚を捕ってるんだ」

「この寒い中?バカなのか?」

「うん」

 

 焼けたぞーというリーダーの声を聞きながら、来ヶ谷は思った。

 

「私もやってみるか」

 

 とりあえずリーダーが焼いた魚を食べてから、私も魚や貝をとってみようか。




これで「武偵殺し」編は終わりになります。
次からは「アドシアード」編になります。お楽しみに!

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