Scarlet Busters!   作:Sepia

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Mission21 実況通信

 

直枝理樹は全身の痛みに襲われていた。原因は分かりきっている。昨日探偵科寮大戦に参戦して、結果として真人と一緒に床に転がって眠ることになってしまったからだ。だから、帰ったら寮が悲惨になっていることいえ、夜のふかふかベットが恋しい。僕と真人の勉強&睡眠部屋の扉だけは徹底的に頑丈にしておいてよかったとつくづく底思う。

 

「ほれ、理樹」

 

 体が痛い理樹とは対照的に、脳みそ筋肉は疲れや痛みなど感じさせない様子だった。

やはり鍛え方が違うのだろうか?真人は朝のHRが始まるちょっと前の時間に何かを投げてきた。

ビニールで封印されている。

 

「何これ?」

「前借りてた四文字熟語辞典」

「何でビニールに入ってるの?」

 

 というかガムテープでぐるぐる巻きになっていて取り出せなかった。

 

「さて、次の時間は現国だな、ヨシューをするかヨシューを」

 

 真人は追及から逃れようとするが、まだまだ甘い。

 理樹はジト目のまま親友の筋肉を見つめて問い詰めることにした。

 

「真人、どうやって逆さまにもった英語の教科書で現代文の予習をするか聞かせてもらおうか」

「……」

「ほら、白状してよ」

「そう疑心暗鬼になるなよ」

「四文字熟語辞典だからって、なにうまいこと言おうとしてるんだよ」

「単刀直入にいうと……前代未聞だ」

「遠まわしだからね」

「……以心伝心」

「伝わってこないから」

 

 親友からの冷たい視線を受けて良心が揺さぶられた筋肉はようやく観念したようだった。

 

「つまりだ。机んなかに入れっぱなしにしといたらさ、いろんなものと混ざっちまってな……ほら、食い物とかさ。阿鼻叫喚な状態に」

「えぇ!?」

「オレは無我夢中に救出を試みたさ。しかしブツはすでに絶体絶命。開き直って抱腹絶倒」

「いやいやいや」

「というわけで、返したぞ、理樹」

「どうしてそんなに誇らしげなの?」

 

 真人の顔はほめてくださいと言わんばかりだ。

 

「オレは……借りた借りは必ず返すんだ」

「そんな勝ち誇ったような顔をして……」

 

 新品を買ってきてください。それに、それは元通りにしてから言ってほしい言葉である。だが、もともと授業で暇な時に眺めておくものだったから別にいいとしておこうか。探偵科寮大戦は勃発して、あの部屋にあって無事だったものは真人の筋トレグッズだけだったから、今は帰ってきたことに素直に喜んでおこう。理樹が色んな角度から封印されし四文字熟語辞典を眺めていたら、Fクラスへの来客を見つけた。

 

「やーやーおはよーおはよう。理樹君、真人君もおはよー!」

「おはよう」

「ん? 誰だ?」

 

 真人は人の顔を覚えるのが苦手なのだろうか?

 誰だ?と真人に言われたその女の子は失礼発言を気にした様子もなく、

 

「そろそろ覚えてほしいなぁ。いつもこのクラスに遊びに来てるでしょ?三枝葉留佳だよ」

「サエナイイルカ?」

「さ・い・ぐ・さ・は・る・かぁ!!」

 

 現れたのは三枝さんだった。

 三枝葉留佳。

 理樹や真人の所属する二年Fクラスの生徒ではないが、仲の良いひとがいるのか、よく遊びにくる。

 

「急がないとまた遅刻しちゃうよ」

「または余計かな? 今日も遅刻なのさっ」

「・・・どうして僕の周りにはなにもかもそれが誇らしいという顔で言うんだろう」

「類友ってやつじゃねえか」

 

 その類友が言うべき言葉ではない。

 

「あんまり遅刻していると、寮長や風紀委員の人に目をつけられるよ」

「もうつけられているから大丈夫。でもおかげで珍しいものも見れたし」

 

 なんだろう。すごく気になるのは人間心理というやつだろうか

 

「私も仮にも超能力調査研究科だから、白雪姫とは面識があるんのさ。いつもは生徒会長ということもあってしっかりしているんだけど、朝の予鈴がなるまでずっと花占いしてたんだよ。あの好き、嫌い、好き、とか言って一枚ずつちぎっていくやつっ!!」

 

 あの大和撫子はいったい何をしているんだろう?と理樹は真人と二人して思う。

 原因は何かというと、

 

(……昨日の乱闘なんだろうなぁ)

 

 苦笑いしていると三枝さんは何かを渡してきた。

 

「姉御から、これ」

「姉御って……来ヶ谷さん?」

「そ。来ヶ谷の姉御が理樹君と真人くんに渡すようにって」

「なんだこれ?」

「さぁ? 昼までに携帯電話にそのデータを入れてアップロードしておけって」

「それじゃ、私は他にも渡す人がいるから!!」

 

 三枝さんはそういうとすぐに姿を消してしまった。

 なんなんだろうと思って放送委員の仲間に電話してみる。

 

「もしもし、来ヶ谷さん?」

『少年か? 葉留佳くんから貰ったか?』

「うん、けど、これなに?」

『実は昼から教務科に呼ばれていてな。さっさとダウンロードして会議に参加できるようにしてくれ』

 

 

 

         ●

 

 

 棗恭介と来ヶ谷唯湖の二人は教務科(マスターズ)からの呼び出しを受けていた。

 

(……教務科はなるべく来たくはないんだよなぁ)

 

 強襲科(アサルト)

 地下倉庫(ジャンクション)

 教務科(マスターズ)

 

 東京武偵高の中で三大危険地域と呼ばれている物騒なゾーンである。

 とは言え呼び出されたからにはいかないといけない。

 来ヶ谷は面倒なことになったと思いながら恭介についていき、呼び出された部屋に入ると人が待っていた。

 

「……二木女史じゃないか。なんだ、寮会からの依頼だったか」

 

 待っていたのは寮の女子寮長と風紀委員長の二木佳奈多。二人とも寮会の一員だ。

 

 寮会というのは世間的には寮の管理をしている組織だと思われるが、ここは武偵高。

 いつものように寮会とて一般高とは意味が違う。

 はば広い人脈を駆使して指名での依頼を与える組織である。

 寮会からの依頼は一般の依頼より単位も報酬も豪華ゆえ寮会から指名が入るとみんな好んで受ける。

 

(単位も出席日数も関係ない『委員長』の役職持ちの私には関係ないがな)

 

「相変わらずあなたはやる気あるのかないのか分からない人ですね、来ヶ谷さん」

「どっちだと思う?」

「やる気ないのでしょう?」

「それは褒め言葉と受け取っておくよ、佳奈多くん」

 

 さて、と女子寮長が言って、恭介と来ヶ谷も用意された椅子に座り、持ってきたパソコンを開く。

 

「で、俺達に依頼したいこととは?俺と来ヶ谷という二人が呼び出された以上、リトルバスターズへの依頼と見ているがそれでいいのか?」

「流石棗くん。話が早いわね」

「なら、パソコンによるサポートを受けたいが構わないな」

「えぇ、もちろんよ」

 

 会話を聞いて、来ヶ谷がパソコンを操作した。

 

        ●

 

「あ、できた」

「オウ!バッチリだ!」

 

 直枝理樹と井ノ原真人の二人は裏庭にあるベンチにて、携帯電話とパソコンのバージョンアップに成功していた。来ヶ谷から渡されたマイクロソフトのデータを本体に入れておけと言われたが、何が変わったのか分からない。

 

「何かが変わったようには見えないね」

「そうだな。だが、恭介が言うにはオレたちは携帯電話からチャットで参加するんだろ?」

 

 二人で何もせずにベンチに座り缶コーヒーを飲んでいる、Application「実況通信」と表示された。

 

(……これか)

 

 

 実況通信とはチャットのことだ。

 チームが交渉とかをする際に、仲間からのサポートを受けながら話し合いをしたりできる文章会議システムだ。メンバーが多い時に重宝する。

 

・姉 御『そっちにちゃんと音声が届いているか?』

・筋 肉『オウ!バッチリだぜ!』

 

(僕も早く参加しないと……)

 

 ニックネームは何にしようか?三文字以内だから……理樹……りき……力?

 

・パワー様が入場しました。

 

 理樹だからパワー。なんか安直だ。

 

 

・剣 道様が入場しました。

・ネ コ様が入場しました。

 

 みんなそのままだ。何の捻りもない。

 

・姉御『よし、準備はいいな?恭介氏、始めてくれ』

              

 

          ●

 

 

 棗恭介は女子寮長からの依頼を聞いた。

 

「まず、これは秘密依頼(シークレット)よ」

「分かった。それで?」

「じゃ、説明をお願いね、かなちゃん」

「かなちゃんと呼ばないで下さい、あーちゃん先輩」

 

 説明者が二木へとShiftした。

 本当はあーちゃん先輩とか呼ばれた女子寮長の役割だったのだろうが、話を振られて説明する役目を押しつけられた佳奈多はやる気を微塵も感じさせないような事務的な口調で説明を始めた。

 

「バチカンのローマ正教から一つの要請が入ったの」

「ローマ正教?」

「えぇ、アドシアードの期間中に東京に『バルダ』という魔術師がやって来る可能性があるみたいだから、逮捕に協力してほしいみたい」

「……」

 

・筋 肉『ってことはなんだ?その「バルダ」ってやつを捕まえればいいのか?』

・姉 御『それができたらベストだろうが……捕まえるのは無理だろうな』

・パワー『何で?』

・姉 御『アドシアードに何人外部の人が来ると思ってるんだ?そのバルダという人物を見つけることすら危ういぞ。魔術師というからには銃や剣みたいな武器を一切使わないから検査も軽く通るしな』

 

 アドシアードとは武偵によるインターハイやオリンピックみたいなものだ。

 今年は東京武偵高で行われる行事だ。もともと世間へのイメージアップのための行事でもあるから一般客も大勢来る。逮捕どころか何もできない可能性がある。それを分かった上で恭介は聞いた。

 

「協力というのはどのレベルでだ? 魔術師というからには日本の警察では魔術に疎く、対応できないとは分かったが、どっちみち『可能性がある』という程度なんだろう?」

「棗先輩のいう通りで恐縮です。委員会連合としては、『ローマ正教からの要請に応じた』という言い訳ができる程度で充分です。棗先輩や来ヶ谷さんならどの程度がお分かりですね?」

 

 

       ●

 

 

 ふむ、と理樹は思う。正直言って、

 

・筋 肉『スマン!全く分からない!』

・パワー『僕も!』

 

 全く分からない。

 というかそもそもの疑問なんだけど、

 

・パワー『というか、何で二木産のところの風紀委員会でやらないの?』

・姉 御『別に佳奈多くんが動かないわけじゃないんだ。ただテロリストが来るならまだしも、来るとされているのは魔術師だ。警察では魔術なんてものに対応できないだろう。だから外部の組織ということで二木女子のところに持ちかけられたのだろうが、それだけじゃ知識として不十分なんだ。対応するならするで、日本の場合は魔術の専門家たる星伽神社やイギリス清教に依頼を出して、ようやくローマ正教への言い訳ができるのさ。この手の政治的な問題については、私と二木女史がいれば何とでもできる。だから、今回の依頼は警察というか運営委員会から私と二木女史の二人へと持ち掛けられた依頼ということになるのかな。恭介氏が呼び出されているのは、二木女史には私たちのリーダーだと知られているからだ』

 

 だったら、

 

・パワー『ローマ正教の人たちに来てもらって解決してもらっちゃだめなの?』

・姉 御『政治的に日本の問題を外国からの力を借りて解決したらたかが知れると判断されるからな』

・ネ コ『イギリス清教とやらは?これも外国じゃないのか?』

・姉 御『イギリス清教(うち)はちょっと特別でな』

・筋 肉『特別?』

・姉 御『イギリス清教のトップは日本人だったから、政治的にはトラブルが起きなくなったんだ。で、私もイギリス清教所属だから私が動くだけで言い訳はできる』

 

 まさかとは思うけど……

 

・パワー『来ヶ谷さんが基本的にやる気ゼロなのに委員長の役職をもらえてる理由って……』

・姉 御『私の立場が政治的に便利だからだ』

 

 

            ●

 

 

 風紀の長は言った。

 

「もちろんアドシアードの期間中に『バルダ』という人物を探せとはいいません。探しても見つからないでしょうから。それにアドシアードには優秀な武偵がたくさん訪れますから大事件をおこすことなないでしょう。もちろん私の委員会の方で当日の見回りはやらせますが、もしなにかあったらそちらの方でも現場に向かって下さい」

 

・ネ コ『なんで大事件を起こさないって言い切れるんだ?』

・剣 道『それは当然だろ。アドシアードの選手になにかあるようなことになれば、それはその国すべてを敵に回すようなものだ。オリンピック会場にテロが起きない理由と一緒だ』

・姉 御『つまり、何か起きるとなれば全て後でに回るような規模の事件しかない、ということだな』

 

「分かった。つまり、魔術関連でトラブルがあったら急行できればいいわけだな」

「ありがとうございます」

 

 おおよそは分かった。だが、恭介は疑問が一つだけある。

 確かにアドシアードで事件を起こすのは世界に喧嘩売るようなものだから、テロみたいなものは警戒する必要はなけれど、

 

「この依頼はいわば魔術関連に対応できる人を用意するだけだろ?」

「そうですね。バルダというのが魔術師ではなかったらこんな依頼は発生しませんしね。私だって本当はこんな面倒くさい依頼受けたくないんですよ」

「ならなんで星伽神社にもっていかないんだ?」

「それは……その……」

 

 なぜか二木はいいにくそうだった。だが、女子寮長は平然と、

 

「星伽の白雪ちゃんが、魔剣(デュランダル)に狙われてるっていう情報があるの」

魔剣(デュランダル)?」

「そう。教務科としては護衛をつけて守らせるみたい」

 

・パワー『そうなの、謙吾?』

・剣 道『たしかにこんな予言がSSRで出ていたな。しかし……』

 

 魔剣(デュランダル)というのは超能力者ばかりを狙う誘拐犯だ。

 でも、その存在自体が疑問視されている都市伝説みたいなものだ。

 いわゆる教務科の過保護みたいなものだ。

 星伽白雪は東京武偵高校が誇る優秀な生徒。万が一なんてあってほしくはないのだ。

 

(……こりゃ先に星伽神社に持って行って断られたみたいだな)

 

 しかも、拒否の理由が都市伝説。

 そりゃ風紀委員長である佳奈多は、立場上依頼主の痛いところを突くようなことはしたくないのだろう。

 

「……星伽神社への依頼金2000万をそのまま私たちへの依頼金とします。リトルバスターズはアドシアード当日に魔術関連のトラブルが起きたら対処に向かうチームを編集して行動して下さい」

「佳奈多くんのところとの依頼金はいいのか?」

「仮にも委員会を動かしているわけですから、私たちとしてもお金のことはきっちりとまた後で二人ででも話し合いましょう。動かす規模、人員でどうやってわけるかも変わっていますしね」

「それもそうだ。けど、2000万円使って依頼するなり自分たちでなんとかしろ、という意味と見ていいのか?」

「えぇ。好きにしてください。アドシアード当日のイベント手伝いは結構ですから、よろしくお願いします」

 

     ●

 

 リトルバスターズのアドシアードに向けての方針は理解した。

 でも理樹には疑問があるから聞こうする。ちょうど新しいアプリのおかげでいっせいに送れる。

 

「あれ? 実況通信ってこっちからどうやって立ち上げるんだっけ?」

「アプリを立ち上げて呼び出したい相手を選択するんじゃなかったか?」

 

(……あ、あった)

 

・パワー『アドシアード当日の動きは分かったけど、それまではどうするの?』

・遊び場『そうだな……「バルダ」というやつについてちょっと調べてみるか』

・ネ コ『どうやって?』

・遊び場『ローマ成教からの要請なんだから、ローマ武偵高に行けばなにか分かるかもしれないな。ちょっと行ってくる』

・筋 肉『へぇ、土産を頼むぜ!』

・遊び場『いい機会だ。真人、お前もついて来い。一度本番の魔術文化を見てみてもいいだろう』

・筋 肉『へ?』

 

 

 理樹は隣の筋肉に話し掛ける。

 

「真人、いってらっしゃい」

「そんな……理樹と離れ離れになるのか!?」

 

 極端に落ち込む筋肉さんをあやしながら、

 

・パワー『僕らはどうすればいい?』

・遊び場『一応万が一のために医療技術があるやつが欲しい。来ヶ谷は委員会連合の仕事があるから、理樹と鈴で誰か用意しておいてくれ』

・剣 道『俺は?』

・遊び場『一応自由に動けるやつが欲しいから、謙吾には何もない』

 

 方針は決まった。けど、

 

(……誰かいたかなぁ……)

 

心当たりがまったくないが、とりあえず探してみようか。

 

 

 


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