Scarlet Busters!   作:Sepia

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Mission30 花火大会の参加者達

                     

花火大会だ!屋台もならんでいるぞ!

 こういうイベントは見逃せないと、リトルバスターズメンバー達は花火大会に繰り出していた。

 浴衣装備というわけではないが、Enjoyしていることには変わりない。

 だが、理樹は仕事のことも気になって、フランクフルトを装備している姉御に話しかけた。

 

「ねぇ来ヶ谷さん」

「なんだ少年」

「僕らはこんなことしていて大丈夫なの?」

 

 理樹が聞きたいのはアドシアードに関する依頼のことだろう。

 寮会から依頼を受けている身だ。こんな場所で素直にFestivalを堪能していていいのかという気持ちになる。けれど、姉御は平然と問題ないためらいなく言い切った。

 

「アドシアード当日にしても、現状にしても、バルダとやらの捜索は私と二木女史の二人でやるから基本的には理樹くん達のやることないぞ。恭介氏はイベント運営をやらされるみたいだがな」

「そんな適当なのでいいの?」

「依頼金2000万って言ったら理樹くんには大金に思うかもしれないがな、私に言わせて見ればはした金なんだよ。本当にヤバい魔術士を実際に相手にする時の単位は億か丁だから」

「そういうものなの?」

「実際見つかったら動かざるを得なくなるが、私も二木女史も、『たとえ見つけられなくても問題ない』という意見だぞ。事実、寮会にしても接触しなければ見逃しても問題ないという姿勢だ。寮会からはローマ正教の連中に言い訳さえ出来ればいいと踏んでるから、イギリス清教の私が動いた時点で依頼は達成したともいえる。……一応はな」

 

 はぁ、と返答する理樹はリーダーの方を見る。

 リーダーはタコ焼きを手にしていて、おいしそうに食べている。

 

「理樹も食べるか?半分分けしよう」

「ありがとう恭介」

 

 リーダーもこんなだし、大丈夫かと理樹は仲間たちを見渡した。

 筋肉さんと剣道はというと、

 

「謙吾! 今から俺と金魚すくいで一勝負といこうぜ!」

「……ふっ。仮にも『水』が重要な要素となる勝負でこの俺に挑むとはな。いいだろう。後悔させてやる」

 

 相変わらず勝負事だ。決着がついたら屋台の食べ歩きを始めるのだろう。

 女性陣を見れば、笑顔の薬剤師が人見知りに向かって、

 

「鈴ちゃーん。一緒に綿菓子食べよう。おいしいよ」

「え……えと」

「小毬くんの綿菓子か!? 食べる食べる。是非!!」

「ゆいちゃんもどうぞー」

「でもゆいちゃんはやめてくれぇええ」

「……ゆいちゃん?」

「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

 リトルバスターズは今日も平和だった。だが、理樹が今日も平和だなぁと感じている一方で、姉御は疲れ果てている。理由はゆいちゃんと呼ばれ続けてメンタルダメージが蓄積されたからだ。わかりやすい。花火大会というイベントに乗っかったためか屋台は意外と多く、彼らは一定時間ごとに拠点とする場所を決めて動いていた。で今の拠点はドーナツの屋台。用意されている机でドーナツを食べるのだ。

 

「鈴ちゃん、次は私と半分個しよう」

「……う、うん」

「えへへ。鈴ちゃんと仲良く半分分け。あ、そうそう。私のことは小毬って呼んでね」

「こ、ここ」

「こ?」

「……こまだ」

「私、こまだって名前じゃないー」

「……可愛さで死ねばいいのか? 可愛さで死ねばいいのか!?」

 

 周囲のラーメンの屋台で筋肉と剣道がラーメンと格闘中であるが、姉御は目の前におかれたドーナツを口にすることもなく、照れる鈴と半ベソになる小毬を見ながらブツブツ言っていた。端から見たらただの変人だ。周囲の人間も自然と彼女の周りから退避している。そんな光景を見て、リーダー恭介が流石に見かねたからか一応声をかける。

 

「……お前、大丈夫か?」

「くそっ! 何で私はカメラを持って来なかったんだ!」

「大丈夫じゃなさそうだな」

「いつも通りだ、安心しろ」

「それはそれで問題がある気もするが」

 

 恭介が呆れる一方で、姉御はそういえばいいのか?と唐突に尋ねた。

 

「何がだ」

「恭介氏が今私たちと祭をEnjoyしていていいのかって意味だ」

「俺は仕事が忙しくてあいつらと一緒にいられる時間があまり取れてないからな。こんな時ぐらいは一緒にいるさ」

「……わざわざ呼んだんだろ?」

「アドシアードの時、もしものための人材だ」

「……愛想尽かされても知らんぞ」

「あいつはあいつで戦妹(アミカ)連れて花火見に行くとか言ってたからな。ひょっとしたらここで会うかもしれないな」

 

(……ん?)

 

 姉御はふと思った。戦妹を連れているということは、

 

「ユイって子も来てるのか! 探し出して小毬君に紹介してやる!」

 

 名前がかぶったらさすがにもう『ゆいちゃん』とは呼ばれなくなるだろう。

 ユイって女の子と直接面識はないが、探し出してやる! 

 

「待ってろよ!私のメンタルのために!」

 

 姉御はDashした。

 

「あれ?来ヶ谷さんは?」

「女の子探しに行った」

 

        ●

 

 夜の8時。遠山キンジと星伽白雪の二人はようやく探偵科(インケスタ)の寮を出たところだった。アリアが喧嘩してから雲隠れしたが、キンジの予測通りアリアはレキの部屋に仮住まいしていたのでレキを通してアリアに報告などをしていたら時間が意外とかかってしまったからだ。『ここ数日は、風に何か邪(よこしま)なものが混じっています』とかレキが電波じみたことを言っていたが、何なのだろうか?

 

「白雪、ごめんな。かなり遅れてしまった」

「ううん。大丈夫だよ」

 

 待ち合わせは7時。実際に出ることになったのは8時。白雪は浴衣まで着て待っていた。玄関を出るとき、おろしたてっぽい女物の桐下駄(きりげた)をそっと履く。その動作は完璧な日本美人だった。

 

「……涼しいな」

「う、うん」

「白雪も、夜たまに散歩したりするのか?」

「ううん。キンちゃんとじゃなきゃ、こんな時間に出歩かないよ」

「そうか」

 

 会話が続かない。

 

「あ、あの」

「何だ」

「こ、これ……その、な、な、なんだか……デ……トみたいだったり……したり、しなかったり……」

「何だ?」

「デートみたい……だね」

「これはデートじゃない。外出する依頼人をボディーガードが護衛するだけだ」

「そ、そうだよね」

 

 白雪は悲しそうな表情を一瞬だけ向けてから、作り笑いのような笑顔を向けてきた。

 その笑顔を見て、キンジはあることを聞いた。それは前々から思っていたことで、

 

「なあ、白雪。不安はないのか?俺みたいなEランク武偵が護衛なんかで」

 

 アリアがいなくなってから、いろいろ考えた。

 拳銃さえも頼りなく思えてきた。もしも。

 万が一、魔剣が実在したら。

 億が一、白雪が狙われていたら。

 丁が一、何かあったら。

 

(……俺は白雪を守れるのか?)

 

 自問する。何回考えても答えは『無理』、だった。でも、

 

「不安なんてないよ。キンちゃんがいてくれるなら」

 

 白雪は安心の笑みを見せてくれた。夢みたい、とも言ってくれた。

 キンジが不安を何となくだが感じている一方。星伽白雪は昔のことを思い出した。昔、青森の花火大会に連れ出してくれたことを。初めて星伽神社を出た日のことを。あの花火の光景は今でも覚えている。今、星伽神社ではなく東京にいる。でも、状況はあの時となんら変わらないように思えた。

 

『今度はお好み焼き食べましょう!』

『……こら、ユイ。食べすぎると太るぞ』

『うどん屋台を食べ歩こうとした人には言われたくないです。それに、ひなっち先輩はそんなこと気にしないと思います!』

『ユイ、こっちこい。ユイの浴衣写真を撮影してあたしが日向のやつに売りつけてやる』

 

 祭りということもあり、周囲が騒がしかったのも昔と同じだ。

 昔と違うのは年齢だけ。

 昔とは違い、ちょっとした会話すら続かない。何を話したら喜ばしてやれるかすらわからない。

 だから、

 

『理樹、一緒に筋肉さんがこむらがえったしようぜ』

『課題やってからね』

『課題?何かあったか?』

『忘れちゃったの? 英語で文法のテストがあったでしょ。英語は将来的にも確実に使うんだから、勉強しておきなよ』

『オレには理樹がついてるからな』

『まったくもう』

 

 周囲からは白雪とはどんな関係かと聞かれたら幼馴染だと答えるが、ルームメイト二人を見ていたら、それもどうなのかと考えてしまう。あれが幼馴染の典型例だとしたら、なんだか違うような気もしてくる。アリアが来るまでは唯一会話していた女子ではあるが、仲がいいとはいえるのだろうか?

 

          ●

 

「すぐに見つけられると思ったんだがなぁ」

 

 来ヶ谷唯湖はちょっとだけ困ったさんオーラをかもしだしていた。メンタルのために探しているユイという少女との面識はないが、その戦姉(アミカ)との面識はある。彼女のことだからギターでも弾いて歌ってるか、うどんでも食べているかのどちらかだとふんでいた。どちらにしても人だかりはできるだろうから見つけられないのは自分でも意外だった。ひょっとしたら戦妹に連れ回されているのかもしれない。

 

(……これ以上は面倒なだけだな)

 

 自身が要領のよい方であると自覚する彼女には、これ以上探すのは割に合わないと判断した。

 素直に鈴くんでも観察しよう。インスタントカメラも買っておこう。

 

・姉 御『諦めた。合流するけど次の拠点どこだ?』

・0  『人工なぎさ。花火の打ち上げが近いからそこで花火を見る。食べ物は買っておけよ』

・姉 御『了解』

 

 

 とりあえず、タコ焼きと焼きそばを購入して人工なぎさに向かう。

 人工なぎさは文字通り人工の砂浜であるが、海水浴や釣り、バーベキューなども禁止されているので人気がない。確かに花火を見るには穴場だと来ヶ谷は思う。

 

「当然といえば当然だが、私が一番乗りか」

 

 屋台がたくさん並んでいる地点からも少しだけだが離れている。焼きそばはともかく、タコ焼きでものんびり食べて待ってようかと考えていた彼女だが、彼女は背後から声を聞いた。

 

「イギリス清教のリズベスだな」

 

 それは低い男の声だった。

 声のが飛んできた方向に振り向くと、彼女は顔面目掛けて迫りくる数本のナイフを確認する。

 

「!」

 

 気づいた時にはナイフは近距離まで迫っていたため、弾くことは無理だと判断し、首を強引に捻り回避した。気づくのが一瞬遅れていたら死んでいた。

 

「殺す気か!」

「今のを回避するとは、イギリス清教のリズベスで間違いないようだな」

「人違いだとしたら?」

「それならそれで別に問題はない」

「……」

 

 対面する。来ヶ谷が見たのは身長が180はある長身の男のようだ。

 視覚から入る情報はすぐにすべて認識した。けれど、わからないこともある。

 何よりも彼女に疑問符を浮かべさせたのは、

 

(……いつからつけられていた?)

 

 一年生の時は授業にも出てこないHIKIKOMORIだったのだ。

 外に顔を出すようになったのさえつい最近の話である、単に私の情報をみるだけならこの花火大会に来ているなんて考えもしないだろう。それに、今は一人だが祭に仲間と一緒に来ていたのだ。襲撃を受けるにしては容量が悪い。最大の問題は、なぜ私が気づかなかったか、ということだ。

 

(私は元ロンドン武偵高校インターン強襲科。いくらHIKIKOMORI生活が長かったからと言って、尾行に気づかないほど衰えてはいないぞ)

 

 嫌な予感を感じつつ、直観的な確信とともに聞いた。

 来ヶ谷レベルの危機察知能力を無視できるとしたら、

 

「誰だか知らないが……お前。魔術師か?」

 

 返事は投げられた数本ナイフで示された。





手持ちの装備がたこ焼きなんかで大丈夫でしょうかね?

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