メールが一部の関係者に届いた。
ケースD7の発生を知らせる周知メールだった。
ケース『D』とはアドシアード期間内に、武偵高校内部での事件発生を意味する。
(……ただし、『D7』となると事件かどうかは不明確で故に連絡は一部の者にしか行かない、だったな)
保護対象者の身の安全のため、みだりに騒ぎ立てることは厳禁で、アドシアードも予定通り信号するいう指示でもある。来賓席に座っている不敵な笑みを浮かべた少女来ヶ谷は隣に座っている佳奈多に話し掛ける。彼女達二人の立場からすると、非道と思うかもしれないが失踪した白雪よりもアドシアードのことを気にかけなければならない。
「白雪姫の件、君はどう思う?」
「私は何もしなくていいと想います。学校側も何食わぬ顔でアドシアードを通常運営するみたいですし」
「さすが武偵高。生徒が失踪しようが一々構っていられないか。……しかし、東京武偵高校の生徒会長が行方不明となると、どうやってアドシアードを進行させるんだろうな?白雪姫に頼りっぱなしだった残りの生徒会メンバー達じゃ、とてもじゃないが運営なんてできないだろうに」
意味深なことを佳奈多に言うのは、佳奈多は自身の委員会を持つ委員長であると同時に、東京武偵高校においては寮会の一員だからだ。寮会の普段の仕事は、武偵高の生徒たちに指名の依頼を出すこと。適材適所の仕事を渡すことだ。
「白雪姫の代役は決まってるのか?まさか、生徒会の後輩たちだけでやらせはしないだろう」
「勿論です。生徒会長代理として仕事してもらう人物の目星はついています。寮会は迅速に決定を下し、今から依頼をするところです」
「仕事が早いな。誰に決まった?」
誰でもいいけどとりあえず把握しておこう。
そんな気軽さ担当者の名前を聞いた姉御は、
「くる――」
「サラバッ!!」
悪寒を感じて逃げ出した。刹那の判断だった。
判断、決断、実行の三段階を一瞬にして行った彼女は逃げる。迷いなどない。
「逃げないで下さい来ヶ谷さん!私はあなたの護衛役なんですから、手間かけさせないで下さい!」
「そんな面倒なことやってられるかっ!」
「退屈じゃなかったんですか!?」
「より退屈だよバカ!」
「バカ!? バカってなんですかバカって!?」
●
仕事といっても遠山キンジに与えられたのは講堂でのモギリの仕事。そもそも講堂自体武偵高のかなり奥にあるためにセキュリティを必要としていなかった。やることがないということはヒマを生み、ヒマは眠気を生んだ。一緒にモギリをやっていた武藤は先輩の
眠気の誘いに負け、ぐっすりとしたバカはゲンコツとタバコの火により叩き起こされる。
「……綴先生?」
「遠山!星伽はどこだ!?」
「白雪なら、来ヶ谷や二木と一緒なんじゃ……」
「馬鹿をいうな遠山!! あの二人はこの東京武偵高校の生徒のくせして委員長の資格持ってるキチガイどもだぞ!! いちいち相手にするのが面倒だから一緒に今回行動させてるんだ。星伽の相手なんかするわけがないだろう!」
「え、でも白雪は一緒にいるって」
「Sランクオーバーがボランティアなんてするはずがない!」
ということは、
「おい、遠山、どこにいく!?」
●
白雪が失踪したというのに緊張感のカケラも感じられない低レベルな理由(一人にとっては切実なことではある)のために生じた委員長二人の追いかけっこは、堅物とお気楽の相反する視点ならの不毛な平行線の論争の結果、別の代理を姉御が立てるという結論で小休止を迎えた。
よって、
「恭介氏。白雪姫の代理をしてくれ」
二人は恭介のもとに訪れていた。恭介は屋上で寝転がっていた。そもそも三年生は外部での研修や依頼での外出が多いため、三年生はアドシアードでは実質自由登校だ。
「……なんかあったのか?」
「生徒会長の星伽さんが失踪しました。ケースD7です」
恭介は三年生だからということもあるが、そもそもバスターズの面々には周知メールが届いていない。こういった周知メールはたいていごく少数に送られたりするものだ。来ヶ谷と佳奈多に届いたのは独自の立場が理由である。そもそも周知メールは予め各クラス代表に届けられ、クラス代表が誰に出すか決め、クラス代表が一斉送信するものである。クラス代表と連絡が取れない場合は寮会の仕事のなるが、恭介らには出さないと決めたのだろう。
「失踪か。追跡の方はどうなってる?」
「星伽さんには護衛がついていましたから彼らを中心に動いていることでしょう」
「なるほど。事情は把握したが、寮会から受けていた依頼はどうすればいい?」
恭介がいう依頼とは、バルダと呼ばれる魔術師の迎撃。
「俺はもともとバルダなんて実在しない作り話だと思ってたんだがな」
「……なんのためにですか?」
「理由ならいろいろあるさ」
「ローマの人達が何か隠しているのにもですか?」
「隠しごとなんて一つだけではないだろう? けど、花火大会で来ヶ谷が魔術師と遭遇したことで無視は出来なくなったと思うがどうだ?」
「……その魔術師がバルダであると仮定したら、狙いは来ヶ谷さんでした。なので私が今彼女の護衛に任命されています」
寮会としては、バルダを捕まられなくても別に構わないとしている。
ただ、行動しましたという大義名分が欲しいだけだ。
だから、ひとまずは気にしなくていい。寮会の代表者はそう言った。
「分かったよ」
「じゃ、任せたぞ恭介氏」
「来ヶ谷さんはどうするのですか? 一緒に生徒会の仕事を手伝っていただけたら私としては楽なのですが」
恭介にやっかいごとを押し付けて退散を決め込んだ姉御は至極当然とまでに言うのは、
「そもそも生徒会の仕事が白雪姫一人の手腕で回っていたなら、出来る奴一人いればなんとかなる。私一人にできるなら恭介氏にも出来ないはずはない」
「すごい上から目線だな」
「ほっとけ。私は白雪姫を探すとするよ。その方がヒマしない」
「……言葉選んでいいますけどあなたに動き回られたら護衛としては『迷惑』です」
「おいおい二木女史。まさかとは思うが、この面倒くさがりの私が実際に心当たりを歩いて回るなんていうアナログな方法に頼ると勘違いしてないか?時代はデジタルだ。君は引きこもる私の隣に座ってればいいさ」
疑問符を浮かべる護衛に、面倒くさがりは言う。
「……簡単なことさ。昔から人探しの基本は決まっている」
「……それは?」
「人海戦術」
●
雰囲気は大事な要素だろう。おはようの一言一つとったとしても、爽やかな健康的スポーツ少年(ただし筋肉にあらず)の挨拶と引きこもりネット廃人(ただし美少女は除く)の徹夜明け挨拶では与える印象が違う。誰ひとりとして何も喋らない状況においても、明るい人間がいるのと暗い人間がいるのでは全体として与える印象は必然的に変わってくる。
つまりだ。
「「「…………」」」
一言で言うと、お葬式ムードだった。
奴らはオーラとしては底辺から会場をどんよりと支配していた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
会場を支配するくらいの陰気、陰欝、陰性、陰湿な感情を出している連中の名前はRRR。正式名称レキ様ファンクラブRRR。村上と呼ばれる偉大なる勇者をリーダーとしておいた集団であり、二年Fクラスは男女問わずほぼ全員がメンバーであった。勢力は日々拡大する一方のルーキーとも言える。レキの応援をするためにアドシアードのシフトに関し、銃で脅すなんて生易しい方法を使わず、口にするのもはばかられる手段で脅してまでシフト表を変更してレキの応援に駆け付けた彼らゆえに、衝撃は大きかった。
レキが、失格になったのだ。
反則行為をした訳ではない。
無論レキはそんなことをする少女ではない。
どうして、という気分が彼らを支配する。
理由が分からないために発生した無気力空間は、レキの
その時、チャットの二年Fクラス通信に書き込みがあった。
・姉 御『我か二年Fクラスのアイドルレキが失格になった理由は、失踪した星伽白雪嬢の捜索らしい。誘拐された可能性が大なために、一秒が惜しかったみたいだな』
そこには理由が書き込まれていた。
実質のレキ様ファンクラブ通信と普段は化している二年Fクラス通信を見た奴らは、理解し納得した。
(((……レキ様は自分の記録よりも他人の安全をとったのですねっ!!)))
アドシアードのメダルがあったら将来の就職に有利だ。けれど、レキはそれを蹴って白雪の捜索に向かった。そのことを聞いたファンクラブは自身の崇める少女の偉大さに敬服すると同時、このような事態を招いた現況に殺意した。
「村上会長! レキ様にメダルを蹴らせるような事態を招いた奴が許せません!」
「村上会長!レキ様が動いている以上、我ら真実を知る者がじっとしてはいられません!」
「村上会長! 星伽誘拐犯に天誅を下してやりましょう!」
彼らはすでにブラックオーラから復活し、殺意を秘めたダークオーラを漂わせながらリーダーの指示を待った。彼らはすでに軍隊のように統制させていた。
「俺達は武偵。だが、その前にレキ様ファンクラブRRRでもある」
順序がおかしいことにツッコミを入れる者は当然いない。
「全力で天誅を下す。だが、殺してはならない。後は分かるな?」
かつて真人と来ヶ谷が投げ込まれた武器を用いて決闘したことがある。あの時は全力で戦ったが、(来ヶ谷には)身の危険など無かった。武器さえ選べば、武偵法を意識することなく加減なく戦えるということだ。
「全力全開でやれる準備を整えたか?」
「村上会長!釘バット四ダースの準備が完了しました!」
「よし、ではいくぞ!!」
「「「はい!!!村上会長!!!」」」
彼らは釘バットを片手に出撃した。
●
そして、直枝理樹と井ノ原真人の二人はリトルバスターズ内でのチャットで見た。
・姉 御『恭介氏。謙吾少年がチャットに反応がないが、それ以外は全員揃ったぞ』
・0 『なら、いるものだけでも指示を出す。鈴は小毬を連れて俺のとこに来い。あと真人もだ』
・筋 肉『なんで?』
・0 『何かあったときに必要なのは、医療技術を者をいち早く運ぶことだ。小毬には悪いが、小毬が自分の足で走るよりは真人が担いで走った方が早い。車を使えればよかったが、
・筋 肉『オーケー』
・0 『理樹と謙吾、そして来ヶ谷の三人は捜索に加われ。方法は任せる』
・パワー『アバウトだね』
・姉 御『ま、私に任せとけ』
真人は単純バカではある。
しかしそれは、的確な指示を出せる人間のもとにいるだけで解決できる短所でもある。
「じゃあ、オレは先に戻ってるぜ」
「ちょっと待って真人」
「どうした?」
「周知メール届いてた?」
「メール?」
真人の携帯を確認した理樹は、やたり真人にも届いていなかった事実を確認した。
「それがどうかしたか?」
「謙吾と連絡がつかないことどう思う?」
「寝てんじゃね?謙吾は星伽の失踪なんて知らないだろ。オレたちですら今チャットで知ったんだぜ」
いや、と理樹は首を横にふる。
「謙吾は二年Fクラスのクラス代表。周知メールはどんな内容であれ謙吾に届けられるはずなんだよ」
「……と、いうことはだ」
「謙吾は必ず動いてる。しかも、一人で」
謙吾は強い。
真人との勝負ではいつも勝つ。常勝無敗の男。味方としては頼もしいことこの上ない。
少なくても理樹よりは間違いなく強いため、何も心配する必要はないのかもしれないが、
「あの野郎、シバき倒してやる」
「まぁ僕らには別の依頼が入ってたわけだしなぁ」
文句を言っても始まらない。
真人には真人の、理樹には理樹の役目が出来た。
・姉 御『捜索範囲はある程度絞ってやる。ちょっと待ってろ』
・パワー『いつでもいいよ』
「じゃあ、始めようか」
「オウ、じゃあ待たな!」
それじゃ、
「「ミッションスタートだ」」
ギャグをやりたいのかシリアスをやりたいのか不明です。
あと草薙先生ごめんなさい。