「謙吾大丈夫!?」
倒れている親友の姿を確認した理樹はすぐに謙吾に駆け寄った。
怪我をしているようではあるが、命取りになるような外傷はないみたいで一安心する。
むしろ深刻なのは疲労困憊だ。
「――――よかった。生きてるみたいだし、間に合ったみたいだね」
理樹は屈んでいた状態から立ち上がり、黒魔術師と向かい合う。魔術超能力問わず粉砕する超能力者である少年と魔術超能力問わず増減する魔術師である男の視線が交差した。
しかし、格別因縁があるでもない二人の視線はすぐに別のものへと向けられる。
バルダの視線は穴が空けられた天井に向いていた。
その天井から理樹に続くように人が降ってきた。
彼女は悲鳴をあげるでもなく、静かに降りてきた。
自然な動作で着地した
「……全く。スカートで飛び降りなんてするようなものじゃないな」
何が入っているかは分からないものの、楽器ケースを背負っている少女の姿がそこにあった。
彼女が着ている制服の右肩上がりに一つの
SSS‐Rebels Against The God‐とある。
●
SSS‐Rebels Against The God‐という
「どうせあたしなんて……あたしなんてっ!!」
大好きな人から置いてきぼりをくらったことがメンタルにダメージを与えていた。
あかりと志乃は大粒の涙を浮かべた体育座りを必死に宥めることになる。
「だ、大丈夫ですよユイさん!ユイさんもいずれきっと憧れている人の様になれますって!」
「……そんなことは……そんなこと……、きっとありますよねっ!!」
無理矢理PositiveSwitchをオンにしていた。
「このあたしユイにゃんもいずれはカッコイイCOOLな大人の女性になれますよねっ! よし、ユイにゃんも張り切っていくぞっ!」
「……キャラがクールとは程遠いし無理じゃね?」
「お姉様! ライカお姉様! キャラ属性チェンジはほど難しいものがないという現実を突き付けてはいけません! 真実は時に人を傷つけるものですから……あれ?」
ユイは再び俯いた体育座りにリターンした。
瞳には大粒の涙を浮かべている。
「ほ、ほら、えと、あれだ。キャラ属性は暴走する方へのチェンジは簡単じゃないか。なぁ志乃」
「なんで私を見るのですか?」
あかりさん大好きお嬢様は首を傾げていた。
彼女は自身が
「うわぁああああん。どうせあたしなんてたいしたことないですよ!なんで
「ユイちゃん、そんなことないよ。私もアリア先輩という掛け離れた
落ち込んだ体育座りが二人になった。
あかりの大親友志乃はフォローに入る。
「だ、大丈夫ですよ!白雪お姉様がおっしゃっていたことですけど、大事なのは好きなことだって!」
「し、志乃がまともなこと言ってる!?」
「ライカさん失礼な!大好きだからこそ、ストーカー並の行動をとったりすることすら失礼に当たらないと白雪お姉様はおっしゃって――――」
麒麟はうんうんと頷いていた。
戸惑っているのはどうやら一人だけのようだ。
いつの間にか体育座り二人は気力を回復していたようだ。
「ファンから始まって、追っかけになってストーカーレベルになるのも無理はないことですよねっ!」
「そうそう。私も経験あるよ!部屋に大きなポスター貼ったりとか」
「ぬいぐるみ作ってみたり……」
一歩間違えたらヤバい連中を前にして、ライカはドン引きしていた。
「「「ヤッホー!!!」」」
無駄にハイテンションになった三名は冷静さを取り戻すのにしばらくかかった。
「あーすっきりした」
「はしゃぎすぎましたね」
「そうだね。ライカも麒麟ちゃんもゴメンね」
「仕方のないことですわ。麒麟もお姉様のことを語れと言われたら数時間はかたっ―――」
顔を真っ赤にして己の
「えっと、ユイだったか?お前の
「格別戦うタイプということでもないんですけど――――超強いですよ。少なくとも、
●
その少女は別に殺気を放つわけでも警戒心を表にするでもなく、あくまで自然体で降臨する。
敵か味方か。
涙目で一緒に落ちてきた理樹が平然としていることから少なくとも味方だろう、とキンジは判断する。
「お嬢さん」
「…………」
「お嬢さん?」
「ん、あたしのこと?」
「そうですよ、美しいお嬢さん。貴女は一体……」
「初対面でお嬢さんなんて言葉使う奴始めて見たな。さてはお前、口説き魔か?」
「女性はすべからく美しいものです。女性を褒めることが口説くことにはつながりません」
「ははーん。さてはお前、未来は人妻に手を出してナイフで刺されるタイプだな」
「女性を両手で抱いて死ねるなら本望ですよ」
「死因Jealousyで死ぬなよ……マジで」
ヒステリアモードは女性に優しいモードだ。女性を褒め倒すことなでざらである。その過程で女性という女性をいいたり状態にしてきたキンジは一切の混じり気ない可哀相なものを見る視線を本気でぶつけられてメンタルダメージを負った。なにせ、お嬢さんとか言えば大抵の女性は照れるものだが、彼女は全く照れなかったのだ。年上美人に手を出すのは控えようとかも考えてしまったくらいだ。
「……待って下さいよ」
キンジを現実に引き戻したのは、白魔術師の声だった。
「なんであなたが出てくるのですかっ!」
バルダは、この少女を知っていた。
「仲村グループのところの人物が、なんでこんな場所にいるのですか?場違いでしょう」
「別にあたしは組織として来たんじゃなく、個人的に呼ばれたからせっかくだしな。
チッ、と舌打ちした白魔術師は再び聖剣デュランダルを振るった。
もう冷気が大して残っていないのか、先程の吹雪のような規模ではない。
「あらら」
小さいけれど強力は冷気は乱入してきた少女に直撃した。
「おまえら何もしなくていいからな」
足元からピキピキ凍っていく少女は大して、というか全く危機感を抱かないまま理樹たちにそう言って、そのまま氷漬けになった。
●
バルダは近くにいるジャンヌの側まで行き、ジャンヌに触れて白魔術を発動させた。
謙吾の水の魔術の鎮静作用を吹き飛ばすためだ。
吹き飛ばすことができると、自身の身体で実証している。
「この剣は返しますよ。これは貴女のものです」
「……一体なんのつもりだ?」
バルダが戦闘を行い理由は最初はただのスパイへの牽制のためだった。しかし今は理由が変わっている。黒魔術と白魔術を扱いということを知られるのは割に合わないから皆殺しにしてやろうということだった。おそらく、その皆殺しの対象にはおそらくジャンヌも入っていた。
「この場で私について判明したことは、私が白黒魔術師であることのみです。バルダという名前は貴女が勝手話の空想でしかないですし、貴女が私が白黒魔術師だと宣言しない限りはイ・ウーの連中にも正体がバレませんよ」
つまり、バルダは暗黙の了解の下にこう言っているのだ。
自分に関することはすべて見なかったことにしろ、と。
犯罪というものはバレなければ罪に問われることはない。
宮沢謙吾も、星伽白雪も。
遠山キンジも皆殺しにしてジャンヌ自身が黙っている限り、自身は狙われることはない。
「宮沢謙吾はすでに戦える状況にないため彼へのリターンマッチは果たせませんが、雪辱を果たす機会も得られたのですから、いい取引でしょう?」
「……確かにな。悪くない」
あのままの状況だと、ジャンヌはバルダに殺されていた。雪辱の機会とジャンヌのバルダからの身の安全が保障された今、天井を破って降りてきた乱入者には命の恩人として感謝するべきなのだろうが、
(……あいつ、そんなに危険な奴なのか?)
すでに氷漬けになっている段階で勝負ありのはずだが、勝負がついていないことがすぐに証明された。
ピキ、と氷にヒビが入ったのだ。
そしてパリンッ!と全身の氷が砕けちる。
「いきなり何するんだ、危ないじゃないか」
先程まで氷の中にいたとは思えないほど楽な声だった。
彼女はキンジたちに振り向いて言う。
「君らには自己紹介がまだだったな。あたしはSSSの岩沢まさみ。来ヶ谷なんかからはまさみ嬢とか呼ばれてるけど、お嬢さんじゃないぞ」
●
SSS、と聞いて反応があったのは白雪のみだ。キンジは首を傾げている。
(SSSって確か……)
星伽巫女としての仕事をしていた頃に聞いたことがある組織の名前だ。
確か、魔術師の集団だとか聞いている。
その実力は、、
「『魔女連隊』と全面戦争すら可能とさえ言われている、あの?」
「……さすがにそれは買い被りだ。ゆりが旅に出た今、うちにはバカしか残ってない。うちの組織の弱点はアホなことだし……あ、それは昔も今も変わらないか」
まだ話の途中だが、バルダが突っ込んできた。
空中に浮きながら、低空飛行の航空機のような勢いで一直線に岩沢に向かっていく。
「さて、この状況で『Howling』なんか撃ったら巻き添えがでるな。つまりおまえら邪魔だから……とっ!」
岩沢はロケットのような勢いのバルダをしゃがむことで回避し、
「Guard Skill―――『Over Drive』」
バルダを下から蹴り上げた。
銃弾すら無効にする白魔術を発動した身体をそのまま吹き飛ばすだけの威力がある蹴りだ。
バルダは彼女が乱入者してきた天井の穴を通り抜け、上の階へと強制的に移動することになる。
「じゃ。あたしは上行くから、お前ら達者でな」
「あ、あのっ! あの魔術師は白黒魔術師です」
「白魔術に黒魔術? レアなもん使う奴だな。ま、魔術師の相手ならあたしみたいのに任せときな。あの手の人間の思考なら熟知しているから。じゃあな」
彼女はそのままただのジャンプにより天井まで上がっていった。
天井にあいた穴から上の階へと二人の魔術師はすぐに消え去った。
「さて、向こうは任せてこちらも始めようか」
消え去った二人のことなどさっさと頭から消した理樹は、聖剣デュランダルを構えたジャンヌに向き合う。
バルダを追って行った岩沢まさみが心配という気持ちは彼には存在していない。
存在しているとしたら、嫉妬だろう。
彼女は魔術師が来ると聞いて恭介がとりあえずといえど呼んでおいた存在だ。
つまり、恭介に頼られることができるだけの実力を持つ存在。
恭介は理樹にとっての憧れであり、また同時に大切な友であり仲間であるが、恭介の実力に理樹は正直ついていけていないのだ。
恭介はいつも一人どこかに行ってしまうことが多い。
一人で仕事をするのは学年が一つ違うということも大きいけれど、実力差があることもまた事実。
「僕も負けてはいられないな」
対抗心を燃やせ。
理想を現実のものとしろ。
「僕は、リトルバスターズだ」
主人公が活躍する……そんなことはありませんでした!
次回に期待しましょう。
でもこいつ、活躍できるのかなぁ?