Scarlet Busters!   作:Sepia

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Mission43 幼馴染キンジ&白雪

 

(やっと見つけた!白雪の刀!)

 

 神崎・H・アリアは白雪からの頼まれごとであったイロカネアヤメの捜索に成功していた。

 白雪の話によると、白雪の超能力に耐えられる刀はこれくらいらしい。

 魔術というものに疎いアリアでも、刀の質は重要であることは理解出来る。

 オカルトが絡む以上、やはり質は最高峰ものを使うべきなのだろう。

 

(……見つけたのはいいものの、どうしようかしら?)

 

 勿論、このまま刀を白雪に届けるべきなのは事実だ。だが、今アリアは隠れている状態。存在自体を悟られていない。今のアリアの状態は一瞬のアドバンテージだ。アドバンテージを失ってでもイロカネアヤメを白雪に届けるか、アドバンテージを維持する方向で行くか。

 

(……私の強襲と同時に白雪にこの刀を投げ渡すのがベストかしら)

 

 そうなると、隙ができるまではアリアは動けないということになる。そもそもジャンヌとキンジたちの戦いが超能力(ステルス)によるワンサイドゲームになるならそんな贅沢は言っていられない。アドバンテージを失ってでもイロカネアヤメを届ける必要がある。

 

(とりあえず……あいつ次第か)

 

 直枝理樹。

 彼がどんな仕事をするかで、今後の行動が動く。 

 

 

 

          ●

 

 

「直枝理樹……だったな。お前を倒せばここを制したも当然だな」

「あれ?意外と僕のこと好評価だったりするのか。参ったな」

 

 ハイジャックの際に理樹が理子に勝てたのは相性と偶然と油断の産物だ。

 もう一度戦えば確実に負ける。土下座ルート一直線だろう。

 

(油断してくれたほうが楽だったんだけどなあ)

 

 理樹としてら嘗められることを屈辱と感じることはない。

 むしろ、油断してくれてラッキーとまで考える口だ。

 警戒されるのは普通に困り、彼は照れではなく純粋に弱った顔をする。

 

「今だ姿を見せないホームズも、遠山キンジも所詮は私の超能力の前に無力。イロカネアヤメのない白雪は戦力にならないし、宮沢謙吾はすでにリタイアだ。なら、後はお前だけ。お前……なんの超能力者(ステルス)だ?」

「……さぁ、なんの話?僕は超能力捜査研究科(SSR)にしたらお情けEランクの人物だ」

「しらばっくれるなよ。ただの武偵相手に理子が遅れをとるはずがない」

「僕は普通に負けましたが、何か?」

 

 生きているのは理子のお情けだ。

 理子は理樹を殺す機会があったのだ。

 

「そういえば、理子さん元気?」

「考え事をしているようだがな。―――まぁな」

「そう。ならよかった」

 

 端からみたらおかしな会話だ。

 理樹は自分を殺しかけた人物の様子を聞いて、元気そうならなによりだと言ったのだ。

 ひょっとしたら、彼もどこかおかしな存在なのかもしれない。

 それとも、殺されかけたことすら些細なことだと考えてしまうほどバカなのだろうか?

 馬鹿なのか大物なのか、どっちなのだろう。

 

「……じゃあ謙吾。バトンタッチだ」

「……あぁ」

 

 床に倒れている謙吾の手を握った後、理樹は視線はジャンヌから反らさずにキンジに話しかける。

 

「僕がスキをつくるから、後はよろしく」

「お前、勝てるのか?」

一対一(サシ)なら多分勝てない。けど、負けはしないと思う。第一、僕の勝利条件は勝つことじゃない」

 

 理樹の援護に回ろうにも、キンジの銃弾の残弾は少ない。

 バルダとの戦いを途中から素手に切り替えていたとは言え最初は銃を使っていたのだ。

 今援護に銃を使うと、最後の勝負所でキンジは決め手がなくなってしまう。

 

「君は武偵では超能力者(ステルス)に勝てないと思っているようだけどさ、」

 

 理樹とジャンヌの距離は五メートル近く。

 剣で踏み込むには一歩では足りない距離。

 つまり、

 

「筋肉の力をバカにすんなよっ!」

 

 直枝理樹も十分オカルトじみた超能力者。

 しかし一般的超能力者(ステルス)からは掛け離れている能力者。

 キンジの遠山一族の遺伝体質であるヒステリア・サヴァン・シンドロームのような体質と表現した方が近いかもしれない。

 

 何せ、本人もよく分かってない能力なのだ。いつから備わっていたかも不明。

 理樹の能力はあくまで相対的能力であるため、彼の戦い方は超偵より一般の武偵に近かったりするのだ。

 

 だから。

 

 彼は五メートルという一方的に銃撃できる距離において、普通に科学の力を選択する。

 

「筋肉関係ねえ!?」

 

 バンバンバンッ!

 

 六連早打ち。

 一方的な銃撃が、ジャンヌを襲う。

 ジャンヌは聖剣デュランダルで銃弾を弾き飛ばすという達人技により対応する。

 銃撃を防ぎきった後は、攻守のターンが入れ替わる。

 理樹が使う銃コンバット・マグナムは回転式である。

 彼はマグナムを選んだ理由は特殊弾を多用することと不意打ちの全力攻撃には自動拳銃よりも早いからだ。

 

 回転式の銃の、一発一発の銃弾を好きなように特殊弾を自分で込められるという利点があると同時、最大連射数において自動拳銃に劣るという弱点にがある。

 

 直枝理樹の持つ回転式拳銃(リボルバー)コンバット・マグナムの装弾数は6発。

 峰理子の持つ自動式拳銃(オートマティック)ワルサーP99mp装弾数は15発。

 

 連射力という観点にいて、どうしても自動式拳銃に見劣りしてしまう。

 となると当然、リロードにも時間がかかってしまう。

 理樹がリロードを完了することには、ジャンヌは既に剣撃の射程に理樹を捉えていた。

 デュランダルを振りかぶるジャンヌに対し理樹がとった行動は冷静なもの。

 一歩後ろに引く程度の最小限の動きで、彼は回避に成功する。

 

 直枝理樹という少年はあくまで探偵科(インケスタ)

 にもかかわらず理子にもジャンヌに対し一歩も引かず相対できたのは彼が特別な超能力を持っているからではなかったのだ。

 

 彼の強さの理由は、ただ仲間に恵まれたこと。

 

 銃技には棗恭介。

 剣術では宮沢謙吾。

 格闘技術は井ノ原真人。

 

 トップクラスのレベルを傍で見続け、尚且つそれらを仮想敵としてそばで見続けてきた少年。

 

 だから、単純な剣技において宮沢謙吾に勝てないジャンヌ・ダルクの剣は理樹にとってはいつもより優しい一撃なのだ。

 

 剣士との戦いも身体が慣れている。

 何回も謙吾に鍛えてもらった動き。

 

 ハイジャック時にアリアを圧倒できた理子相手に一矢報いることができたのも、それを考えたらただの偶然だけじゃないのだろう。

 

「謙吾より楽な剣だ魔剣(デュランダル)っ!」

 

 理樹はすでにリロードを完了している。

 もう一回六連早撃ち。

 

 先程と変わらずジャンヌは聖剣デュランダルで弾くが、理樹の口元は緩んでいる。

 

(……銃声は六回。弾いたのは五回。後一発は?)

 

 ほぼ同時に放たれた六発のうち五発も対処できている時点でジャンヌも達人と言えるが、ジャンヌは五発の対処のうちにあさっての方向へと放たれた一発を見逃してしまう。

 

(……待てよ。こいつ確か)

 

 ハイジャックの際も似たようなことをしたという理子からの事前情報がある。

 連射した銃弾の中に特殊弾を忍ばせていたという。

 

 悪寒を感じて後ろを視線を向けると、頭に一直線に跳んでくる銃弾を確認した。

 ゴム製特殊弾。

 高い反発係数と素材により、当たっても大丈夫な弾。

 

 武偵は人を殺せないが、死なない弾で容赦なくむきだしの部分を狙ってきた。

 

「ナメるな直枝理樹っ!!」

 

 ジャンヌは背後からの銃弾を無視して理樹に切り掛かる。

 不意打ちの銃弾はジャンヌが皮膚に展開した氷の鎧により止まった。

 

「嘘ぉ。そんなことができるの?便利な能力だなぁ」

一発、二発と連続の刃から逃げ惑う中、彼はポケットから丸い球を落とした。

 

「お前が爆弾魔だということは知っている!!」

 

 理子は不意をつかれて負けた。そのスキを作ったのは爆弾だと聞いている。どういうわけか自爆覚悟の爆発の中無傷でいられる超能力を持っていると聞いているが、私は理子とは違う。

無傷でいられることを知っている。

 

「『ラ・ピュセルの枷』罪人とされ、枷を科される者の屈辱を知れっ!」

 

 今まで超能力を使わずに溜めていた分、強力だった。

 三メートルくらい離れた理樹の足場ごと、理樹の落とした球が凍りついた。

 足を氷が張り付いているため彼はもう逃げ回れない。

 

「直枝っ!」

 

 ルームメイトのキンジの呼ぶ悲鳴が聞こえるが、理樹は相変わらず口元が緩んでいる。

 

「――――爆弾だと思ったでしょ?」

 

 動けない理樹に止めを刺そうとしていたジャンヌの目の前で、落とした球が光り輝く。

 

「閃光弾は凍りつこうが関係ないでしょ。『光』が凍るわけないんだから」

 

 とっさに眼を閉じたものの、強烈な光はジャンヌの世界を一色にする。

 

(……何も見えないが、動けない標的の場所くらいはわかるっ!)

 

 理樹は足元が凍りついて動けない。

 光り輝く閃光の中、ジャンヌは動けない標的を切り付ければいい。

 武偵が人を殺せないが以上、下手に銃で反撃もされない――――はずだった(・・・・・)

 

 ジャンヌは止めの一撃を空振りしたのだ。

 

(……この私が、標的の場所を見誤った?有り得ん!)

 

 真相は理樹が閃光の中、自身の超能力で足元の氷をさっさと破壊して逃げただけだが、理樹の能力を詳しく知らないジャンヌにはそのことに気づかない。

 

「……くっ!」

 

 閃光が晴れる。

 そしたら次は、

 

(……霧?)

 

 目隠しのためか世界が曇っていた。

 宮沢謙吾が扱う魔術は、水。

 謙吾がノックアウト状態だとしても、謙吾から霧をつくる魔術を学んでいてもおかしくはないが、

 

(……私が冷気を操ると知っていて、霧なんて作るか?)

 

 氷とは水が凝縮したものだ。空気中に水分が多ければ多いほど、氷は作りやすくなる。

 疑問を覚えたその時だ。シューッという放出音を聞いた。

 疑問に感じる時間は本来ジャンヌはつくってはいけなかった。

 ジャンヌはさっさと口元を抑えるべきだった。

 呼吸に不都合が生じてきた。口の中がむせる。

 

「あの野郎っ! 粉塵タイプの消火器を私に向かって放出したなっ!!」

 

 ここは地下倉庫(ジャンクション)

 万が一引火したらドッカーン!であるために消火器は探せばすぐ見つかる場所にある。

 

 ゴホゴホと詰まった咳をしていたら、消火器による擬似的な霧も時間とともに消えうせた。

 そこには、

 

「もう……やめようジャンヌ。私は誰も傷付けたくないの。それが例えあなたでも」

 

 イロカネアヤメを手にした白雪が、そこにいた。

 決意を秘めた瞳で、ジャンヌの前に立っていた。

 

「傷付けたくない……か。笑わせるな。お前は超能力(ステルス)くらいしか取り柄のない。大粒の原石と言えど、お前ではイ・ウーで研磨された私を傷付けられないさ」

「私は(グレード)17の超能力者(ステルス)だよ」

 

 (グレード)

 魔術師では超能力者(ステルス)には勝てないとされる理由の一つがこれ。

 コンデンサーに電気容量があるように、人間にも魔力容量が存在する。

 その大きさを(グレード)という単位で表していた。

 超能力者(ステルス)とそうでない者では、そもそも精製できる最大魔力が違うのだ。

 だから元が一般人たる魔術師では超能力者(ステルス)に一般的に勝てない。

 

 

「―――ブラフだ。G17など、この世に数人しかいない」

「あなたも感じるはずだよ。星伽に禁じられているけど……この封じ布を、解いたときに」

「仮にそうだとしても、お前は星伽を裏切れない。裏切れるなら宮沢謙吾のようになっているはず」

「――――謙吾くんには引け目がある。謙吾くんは星伽神社を憎んでいるんだと思う。きっと私も……嫌われている。でも、来てくれた」

 

 白雪にとって、謙吾が助けに来てくれたことは正直意外だった。

 中学の時のある一件以来、明白な溝が出来ていたからだ。

 

「友達の力って、すごいんだね。私は今まで気づかなかった」

 

 理解を求めるでもない言葉。

 

「普段の私は臆病者。自分より偉大な人達の影に隠れているだけの小さな存在。でも今は、星伽のどんな掟だって破らせるたった一つの存在が、そばにいる」

 

 謙吾の傍には常にリトルバスターズがいた。

 そして白雪の傍には……今はキンジがいる。

 理樹が謙吾のもとに駆け付けたように、キンジが白雪のもとに駆け付けた。

 

「キンちゃん。今から私、星伽に禁じられた禁制鬼道を使うよ。だけど……」

 

 

 キライにならないで欲しいな。

 そのセリフは言葉にならなかった。

 でも、

 

「安心しろよ。俺達二人は幼なじみだ」

 

 リトルバスターズ。

 元は幼なじみの集まりからできた集団。

 彼らのように遠慮なく笑い合えたらどんなに素晴らしいことだろう。

 

「早く帰ってこいよ」

「……うん」

 

 白雪は髪に留めていた白いリボンを解いた。

 

「すぐに、帰ってくるから」

 

 白雪は、もう迷わない。

 ちなみに理樹は粉末消火器の粉を吸ってしまい、謙吾の傍でゴホゴホとむせていた。

 いろいろと残念な奴である。

 

 




どうですか!
これが最近ニートだった主人公のちか……らです。はい、ホントもう。

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