Scarlet Busters!   作:Sepia

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Mission44 焔の魔女

 

 かつん、と白雪は赤い鼻緒の下駄を鳴らして白雪は刀を構えた。

 その構えは普段の八相とは違ってる。

 柄頭のギリギリ先端を右手だけで握り、刀の腹を見せるようにして横倒しにして頭上に構えている。

 剣道、とはおそらく言えないだろう。

 

「ジャンヌ。もう、あなたを逃がせない。星伽の巫女がその身に宿す魔術を見るからだよ。流派は鬼道。そして魔術では歴史がモノを言う」

 

 アリアは150年。

 ジャンヌ・ダルクは600年。

 

「私たちはおよそ2000年。魔術は生まれたのが早ければいいというものではない。千年前に滅亡した陰陽術師の例から分かるように、魔術を受け継いだ年数はそのまま強さの証明となる」

 

 白雪の刀、イロカネアヤメの先端にゆらっと緋色の光が灯る。

 その名は(ほのお)

 

「『白雪』っていうのは、真の名前を隠す伏せ名。私の(いみな)、私の正体は――――緋色の巫女。『緋巫女(ひみこ)』の襲名者」

 

 白雪は床を蹴り。火矢のようにジャンヌに迫る。

 イロカネアヤメとデュランダル。

 二つの剣は宝石のようなダイヤモンドを散らし、瞬時を蒸発させながら交差する。

 

 白雪の刀は、傍らのコンピューターを音も立てずに切断する。

 原料は単純で、高熱でコンピューターを溶かしているから音がでないのだ。

 

 片や、すべてを燃やし尽くす熔解の剣。

 片や、すべてを凍らせる冷却の剣。

 

 二人の超能力(ステルス)が対称的なのは偶然ではない。

 

「炎……!」

 

 初代ジャンヌ・ダルクは火炙りにあって処刑されたと歴史にある。

 それが影武者であったとしても、自身を殺しかけたものが怖かった。

 だから氷の魔術が生まれた。

 恐怖という名の挫折から誕生した魔術。

 

「星伽候天流初弾、緋絃毘(ヒノカガビ)。次は緋火虞鎚(ヒノカグチ)。それで、おしまい。このイロカネアヤメに斬れないものはないもの」

「それはこちらのセリフだ。聖剣デュランダルに斬れないものはない」

 

 火に怯えたかのように見えたジャンヌの瞳には闘志があった。

 ジャンヌの魔術は元々火への対抗策として生み出された魔術。

 星伽巫女の炎に対抗できれば、魔術としては申し分ないことの証明になる。

 もともと。炎を克服するために白雪を狙ったのだ。ここで怖気づいてどうする!

 

「……ふん。おもしろい。この戦いで、我が一族の魔術の研究の成果が実証されることになろう。火を討ち滅ぼす。そのための魔術なのだからなっ!」

 

 ギン!ギギン!

 二人の刀を何度もぶつかり合って激しい音を立てるが刀自体には傷一つとして変化はない。

 熔解の剣が凍ることはなかったし、冷却の剣が燃えることもなかった。

 

「うわー。割って入りたくないなー。割って入ったらこれ絶対死ぬよね?ね?」

 

 この上なく臆病なことを言っている少年は、彼女たちと同じく剣の専門家に尋ねる。

 

「理樹の右手で触れたらあの氷の剣は普通に無力化できるとは思うが……」

「あれに触れって? やるとしたら右手一本の白羽取りになるし、あのレベルのを白羽取りするのは……博打になるな。それよりどんなものなの? 星伽さん勝ってる? 勝ってるよね? ねぇ?」

「俺は星伽巫女の魔術について知ってるが――――あれはとにかく質は最高級だがコスパが最悪なんだ」

 

 百点満点のテストにおいて、二十点を四十点にするのは簡単なこと。

 しかし、八十点を九十点にするのは至難の技。

 つまり、最高級の技は、質を一ランク上げるだけでとてつもない苦労がかかる。

 

「俺は体力にモノを言わせて魔術を使っていたが、星伽は多分、すぐにバテる。長くはこの戦いは続かないぞ」

 

 超偵は強い。

 けど、扱う魔術というものはつきつめれば学問に過ぎない。

 理論に基づいて発動しているのだ。

 魔力精製作業を身体の内側で行いつつ外では戦闘を行いとしたら、身体の内と外の両方で動いているようなもの。体力消費を考えたら、長くは戦えないのは必然である。

 

(……なら、謙吾。不意打ちの全力攻撃をするべきタイミングは分かるね)

(あぁ、もちろん、俺は身体がもう動かないが、今みたいにアイコンタクトでなら行ける)

 

 アイコンタクト会議。

 長年一緒にいたからこその芸当だ。

 

「遠山くん。僕がジャンヌの攻撃はなんとかするから、やってくれるね」

「もちろんだ。そもそもこれは俺の仕事だ」

 

 

         ●

 

 

 炎と氷の戦いは、もうかつての勢いはない、

 白雪は息をとめているかのように、歯を食いしばりながら刀を奮う。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 対するジャンヌも尻餅をつくような形で、壁際に倒れた。

 

「お前は氷砂糖のように甘い女だな。私の肉体ではなく、聖剣デュランダルばかりを狙う。私の聖剣を斬ることなど不可能だというのにな」

 

 白雪がピンチだ。

 キンジは今すぐにでも駆け出したい衝動を必死に抑える。

 理樹と謙吾。

 この二人が、幼なじみという築きあげた年月が、まだだという。

 

 白雪もジャンヌも、ろくに力は残ってない。

 なら、最後に溜めた一発をどう使うか?それが勝敗を分ける。

 チャージが早かったのはジャンヌだった。

 バルダが白魔術により冷気を強めた時のような冷気が放出され始めた。

 再び、ダイヤモンドダストが舞い上がる。

 これが、銀氷(ダイヤモンドダスト)の魔女。

 

「銀氷となって散れ――――――『オルレアンの氷花』」

 

 デュランダルが青白く輝きだす。その瞬間だった。

 

(いけ理樹!)

(オーケー謙吾っ!)

 

 理樹が駆け出した。

 

 

      ●

 

 

 白雪との戦いに集中していたジャンヌは、理樹の接近にハッとした。

 先程から消火器ぶっかけられたり、あの少年はバカというか斜め下の行動をとる。

 普通の思考では読みきれない。だから、先に排除しようと決める。

 

「お前は邪魔だっ!すっこんでいろっ!」

 

 冷気が理樹に向かって一直線に跳ぶ。

 力を溜めていたために、人間すら凍らせるほどの冷気だったはず。

 理樹がとった行動は、右手を前に出したままひたすら前進するだけ。

 理樹を盾にするように、キンジも続く。

 

「知らないようだから教えてあげるけど――――僕は、超能力を過信するタイプにはやたら強いんだ」

 

 冷気の勢いに身体が後ろに押されるものの、理樹の右手は冷気を粉砕する。

 パリンッ!と銀氷(ダイヤモンドダスト)が飛び散り、見ている者を魅力する光景だ。

 

(いくぞアリア!!)

(えぇ!キンジ!!)

 

 少し後ろに押された理樹と入れ替わるように、キンジが前に出る。

 キンジとアリア。

 かつて魔剣(デュランダル)の存在の有無で喧嘩した二人は、再び信頼を取り戻した。

 

 まずはキンジからだ。

 ベレッタ・M92F、三点バーストどころかフルオートも可能な通称キンジモデル。

 三点バーストモードのベレッタにて、ジャンヌの正中線を銃撃する。

 ジャンヌはその三発を、既に引き戻していたデュランダルで弾く。

 コンバット・マグナムによる縦断を弾いていたのを見ていたキンジにはそんなことなど予想の範囲内。

 

(……こっちに集中したな)

 

 元々本命は、

 

「行けアリアっ!」

 

 アリアの強襲だ。

 キンジより。理樹より。

 誰よりも強襲に慣れている少女は、背中から寸詰まりの日本刀を二本抜きつつ、銃弾のように飛び出した。

 

「このっ!ただの武偵がっ!」

 

 ジャンヌは謙吾には及ばずとも、白雪と互角に戦える剣の達人。

 しかし、アリアも天才だ。

 キンジに意識が行っていた一瞬の分だけ、アリアの分があった。

 足元を二刀流で払う攻撃。

 防御が出来ないなら、跳躍して回避するしかできない。

 

「――――甘い!」

 

 ジャンヌの跳躍した先にはキンジがいた。

 迎撃するキンジの銃弾を剣で受けながら、その力を使って剣身を大きく回転させ、脳天目掛けて斬り下ろす。攻守のターンが入れ替えられ、ジャンヌはしてやったと笑うが、アリアにも悔しそうな表情はなく、むしろ楽しそうだ。

 

「何を笑ってる?」

「そりゃ嬉しいわよ。だって今のあたしは、一人であんたを倒さなくていいもの」

 

 今まで一人で何でもしてきた少女は、こんな状況でも楽しそう。

 何でも一人でやれるからといって、それがうれしいこととは限らないのだ。

 

 神崎・H・アリアにしろ、来ヶ谷唯湖にしろ。

 一人で何でもできるような天才だって、誰かと一緒にいたいと思うものだ。

 天才だと持て囃され、別世界の住人のように捉えられとも、人間であることには変わりなどないのだから。

 アリアが自分のパートナーを見つめた先には――――白羽取りで魔剣、デュランダルを受け止めていた遠山キンジ(パートナー)の姿があった。

 

「…………バカめが。触れたな(・・・・)。ちょっとくらいは使えるんだ」

 

白羽取りされた態勢のまま、ジャンヌはほとんど残ってない冷却の効果を発動させる。人間をまるごと凍らせることは無理でも、雪だるまに手を突っ込んだ時ぐらいに手をかじかませることぐらいはできる。手がかじかんだ状態で銃など撃てるはずのないのだから、これで一人、葬った――――はずだった。

 

「君は、超能力(ステルス)を過信しすぎたんだ」

 

 キンジのすぐ後ろに理樹がいる。

 だから理樹はすぐに聖剣デュランダルに手が届いた。

 理樹に触れられていた聖剣デュランダルは、冷気など持ち得なかった。

 

 そして。

 

 もう、勝負はついていた。

 カッ!カカカッ!赤い鼻緒の下駄を鳴らす音と共に、それはやってきた。

 

「キンちゃんに!手をだすなぁあああああああッ!!」

 

 白雪は。

 

「――――緋緋星伽神(ヒヒノホトギカミ)―――!」

 

 鞘に収めていた刀を抜きざまに、下から上に走らせる。

 緋色の閃光が刀に纏う。

 切り上げた刃は、デュランダルを通過して触れてもいない天井にまで焔の渦が沸き上がる。

 

 岩沢まさみに天井に穴を空けられていたため、元々耐久性が低下していた天井はガラガラと崩れ落ちていく。ガレキが降ってくる中でジャンヌは、呆然としていた。

 

「…………! 」

 

 自身の呼び名のデュランダル。

 斬れないものなど何もないと公言していた聖剣は……断ち切れていた。

 最後の最後まで訪れた想定外の出来事に対し、想定外に弱い策士はサファイアの瞳を見開くことしかできないでいた。その隙に、アリアが純銀の手錠をかける。

 

「逮捕よ!」

 

 結局、ジャンヌの敗因はなんだったのだろう?

 誤差を生じてしまったことか?

 よくよく考えると、人間は機械ではないのだ。

 だから、人間を理解した気になっていると絶対に足元を救われる。

 一族皆殺し事件、というのがあった。

 ジャンヌは世界の縮図、と称したが、それはイ・ウーの超能力者(ステルス)としての意見。

 別の人間が見たら、別の味方も出てくるかもしれない。

 白雪にはただ、自分達もそうなるかもしれないという恐怖の対象だった。

 

 他の人が見たらどうだろう?

 

 例えば…………ただ、人を殺しただけの、無慈悲な事件だとか、そんなところだろう。

 

 何が事実であれ真実は一つなのかもしれないが、真実なんて人それぞれだ。

 だから、

 

「キンちゃん……こ、怖く……なかった?」

 

 超能力を使って怖がられたと思い込んでいる少女の言うことも、本人的には真実でも事実とは違うことがあるのだ。

 

「何がだい?」

「さっきの私……あ、あんな」

 

 白雪は黒い瞳を潤ませる。それに対するキンジの顔は優しい笑顔だった。

 

「怖いもんか。とてもキレイな強い火だ。ずっと昔、二人で一緒に見た花火みたいな、な」

「キンちゃん……う……あぁ……」

 

 泣き出した白雪をキンジわそっと抱きしめ、背中を撫でてやる。

 昔一緒に行った花火大会の後、大人達に怒られて泣いていた白雪にしてあげたことと一緒で、昔と何も変わらないように思えた。

 

(……いや、違う。何もかもが同じじゃない)

 

 白雪は何も変わってない。けど、強くなった。

 鳥篭から飛び出し、自分の意志で戦えるようになった。

 

「もう。二度と俺の前からいないなるんじゃないぞ」

「……うん」

 

 キンジと白雪。

 幼なじみ。

 昔からずっと一緒というわけではなかったけど、昔大切だったということは、何よりも大切な思い出だ。

 

 そんな幼なじみの光景を見て、理樹も自分の幼なじみに視線を向ける。

 謙吾は、とても優しい視線を白雪に向けていた。

 

「……どうかした?」

「ちょっと、懐かしいことを思い出してな」

 

 どんなこと?とは聞きなどしない。

 あまのじゃくな謙吾の性格は昔からよく知ってる。

 照れ臭いことは絶対に言わないだろう。

 だから、理樹はこう言った。

 

「じゃあ僕たちも(・・・・)……帰ろっか(・・・・)

 

 そうだな、とすぐに返事が返ってきた。

 あとは上の階のほうの、もう一人の魔術師の問題を解決するだけだ。

 帰るべき場所まで、あと少しだ。

 

 

 

 

       ●

 

 

 岩沢まさみとバルダ。

 二人の魔術師は理樹たちがジャンヌと戦っている階より上の階で相対していた。

 二人は戦いではなく、言葉を交わす。

 

「さて……どうする?」

「どうする、とは?」

「お前、あたしと闘ってメリット無いだろ」

 

 現在の状況を総合的に考えてみると、バルダと名乗る魔術師の不利はいなめない。

 岩沢まさみには勝てないだろうとか、そういった勝負に以前の問題として、今のバルダの勝利条件にある。

 岩沢が知るよしもないが、謙吾に言ったことが事実だとしたらバルダの目的はスパイ探しだということになる。だとしたらスパイどころか何も知らない部外者の人物を相手にするのは不毛なことだ。

 

「このまま逃げるか?でも、お前がこのまま逃げたとしても、下の階にいる冷気の超能力者(ステルス)が捕まったらお前もマズイんじゃない?」

「それは問題ないですよ。『バルダ』という名前は棗恭介さんやエリザベス様みたいな面倒な人達を外交上の理由により動けなくするためにジャンヌ・ダルクが仮想した作る仮面ですからね。彼女が捕まったとしても、どの道私の正体はバレません」

「お前が困らなくても他に困るやつがいりんじゃない?ほら、『バルダ』なんていう仮面の噂で恭介たちを表立って動けなくした奴とかさ」

 

 

 バルダという話が無かったら、岩沢がこの場にいることは無かっただろう。

 白雪失踪に対し、リトルバスターズ総出で捜索すればいいだけだったのだ。

 しかし、バルダとかいう魔術師の存在のせいで『もしも』の場合を想定して人数を割かねばならなくなった。恭介は(面倒事を嫌った来ヶ谷により)白雪の代理をしなければならず、再び来ヶ谷が魔術師に襲撃される

 

 だから恭介は東京武偵高校からの介入を一切受けることのない人物としてわざわざ彼女を呼び寄せたわけだ。こんな面倒な状況を作り上げたとることができたのは、間違いなくイ・ウー側の内通者(スパイ)が委員会連合内部にいたからだろう。

 

「イ・ウーの内通者もおそらく一緒に捕まるぞ。それでも構わないと?」

「ええ、構いません。私はイ・ウーの内通者が二重スパイであり、私が探している奴である可能性も捨て切れないと思ってましたから。噂は聞いていますがどうせ面識はないですし、逮捕されて検挙されたらされたでスパイ候補が一人消えるだけです」

「お前、疑いすぎじゃないか?」

「そうですかね。まぁ、彼女(・・)には治外法権で手が出せないという結果に終わると思いますよ」

「……じゃあ、逮捕されることないじゃないか」

 

 呆れたような岩沢はふと、右手を背中にかづいた楽器ケースに伸ばす。

 彼女の視線はバルダと名乗る魔術師を見つめているも、意識は背後に向いていた。

 

「さて。確か不確定要素たる魔術師は一人ってあたしは聞いてたんだけど」

 

 独り言を呟いた後、彼女は誰もいないであろう暗闇に話し掛けた。

 

「誰だお前」

 

 すると、返事が帰ってくる。

 

「SSSのメンバーにこんな場所で会えるとは。しかも魔術を使うタイプとなると、かなりの下っ端風情でなく幹部クラス。これは光栄ですわね」

 

 姿が明らかになる。現れたのは典型的な三角ハットと魔女のマントを羽織っている少女だった。

 歳は、おそらくは年下。

 自身の戦妹(アミカ)と同じくらいだろうか。

 

 すぐに外見から気が付く特徴として、その魔女には――――逆卍の紋章を左肩についていた。

 つまり、逆鉤十字(ハーゲンクロイツ)と呼ばれ恐れられている紋章があった。

 

「その紋章は確か……」

「ふふん。恐れをなしましたか」

「ハーゲンダッツの紋章だっけ?」

「ハーゲンクロイツですっ!誇り高き魔女連隊(レギメント・ヘクセ)紋章(エンブレム)ですよっ!」

 

 魔女連隊(レギメント・ヘクセ)

 確か魔女ばかりによるテロリスト集団だったはず。

 

「あたしはコスト的にホームランバーが……」

「ねぇ、バカにしてます?ねぇ!?」

「あぁ!?あたしにデザートのアイスを食べるなっていうのか?アイスを食べるためになら晩飯を抜いて金をためろと!?」

「あなた組織の中でもトップクラスの人物でしょう!?どんな食生活してるのですか!?」

「……で、何のよう?」

 

 あくまでマイペースを崩さないのは余裕の証かバカなのか。

 人の意図は不明にしても、結果的に岩沢まさみは挑発に成功している。

 

「ゆりのやつががまたなんかやらかして、その報復にでも来たか?なら」

 

 岩沢は告げる。

 

「SSSと魔女連隊。出会ったのも何かの縁だ。せっかくだし、世の中のはみ出し者同士としてここで殺し合いでも始めるか?」

「やめておきましょうよ。私とあなたが本気でここで戦ったら地下倉庫《ジャンクション》が崩れるかもしれませんし、そうなったらアドシアードというイベントが台なしになりますよ。そして何より、互いの本隊が出てきて抗争になるかもしれません」

 

 それもそうか、と岩沢は答えた。残念がったようすは彼女には見られないとは言え、殺し合いをするならするで構わないみたいな雰囲気もあった。

 

「全面戦争ならまたいずれ。それは今じゃないでしょう」

「ゆりもいないしな。今はそれに賛成だ」

 

 二人の魔女はは一本ずつ足を引く。

 暗黙の了解のもとに行われる、敵意無しの合図だ。

 SSSにしても魔女連隊にしても。

 互いに関わりたくはないというのが実際の所だろう。

 どちらの組織も身内が殺されるような自体になればすぐにでも全面戦争になりかねないとはいえ、偶然すれ違った程度で戦争になるような組織ではないのだ。

 

 必要なら踏み込むにしろ、気軽には互いに手を出せない相手だった。

 イ・ウーの魔術師二人が去っていこうとした中で、バルダと名乗った白黒魔術師が振り向いた。

 

 

「あ、そうそう。イ・ウー主戦派の間でのみささやかれている面白い話を最近噂にしました。聞いてくださりますか、岩沢まさみ嬢」

「ん、噂?」

「現在行方不明となっているイ・ウーの魔術師が拠点としている秘密の部屋が、この東京武偵高校に存在するという話です」

「……お前、まさか本命はその魔術師の捜索だったのか?」

 

 白黒魔術師は何も答えなかった。

 

「待て。おまえらの名前だけ教えてくれ」

「私はただの元ローマ貴族。本名ではないですが……あなたにはバジルと名乗っておきます」

「私は魔女連隊のジュノンといいますよっ!」

 

 では、といい二人は数歩であっという間に移動してしまい見えなくなった。

 

「魔女連隊まで出てきたか。こりゃ、近い内に何かおこるかな」 

 

 何かが進行している。それは何なのかはわからないけど今は、

 

『岩沢さーん!生きてますかーっ!!』

 

 下の階の連中が無事だったことを喜んでおこう。

 

 




次回でチアをやってもいいのですがせっかくなのでアドシアードはもうちょっと続きます。
さて、危機はさったとしても、疑問がいくつか残る章でしたね。

さて、スパイは誰でしょう?
イ・ウーを探っている奴が一人、ジャンヌの協力者のスパイが一人。
のべ二人のスパイが誰なのか、よかったら考えてみてくださいね!


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