Mission48 風紀委員と公安委員
アドシアード三日目の夜。
秘匿回線の実長通信にて。
・風 紀『なんとか確認が取れました。イ・ウー所属の魔術師がこの東京武偵高校に潜伏しているという噂がイ・ウー
・姉 御『この噂知ってたか?』
・風 紀『あなたが知らなかったことを、私が知ってるわけないじゃないですか』
・姉 御『イ・ウーがかかわることについて、二木女史が知らないことを私が知っているわけがないじゃないか』
・風 紀『あの子に何か言われましたか』
・姉 御『そもそも私だってなんでもかんでも知ってるわけじゃない。私はイギリス清教所属といっても星伽巫女たちのようなオカルトトラブル対応部門ではなく一般の経営職だからな。それに、ローマ正教がイ・ウーを必要悪として許容しているように、イギリスとしても基本方針は放置だ。正直言って、いちいち相手したくない』
・風 紀『……。それで、どうしますか?
・姉 御『私はいると思ってる』
・風 紀『では。単刀直入にお聞きします。イ・ウー
・姉御『消去法で行こうか。まず、生徒の中にイ・ウーの魔術師がいるというのはないだろう。まさみ嬢から聞いた話によると、バルダとやらはその魔術師の正体自体は知っているようだったからだ。次に、ジュノンとかいう
・風 紀『それは?』
・姉 御『――――――――だ』
・風 紀『……正気で言ってるんですか?確かにつじつまはあいますけど……』
・姉 御『「
・風 紀『あれと多数決しなくとも、あなたの意見ならむげにはしませんよ。牧瀬のポンコツ野郎は無視しましょう』
・姉 御『あれ。あいつと接点あったか』
・風 紀『委員会持ちはあいつ含めて三人しか東京武偵高校に在籍していません』
・姉 御『一人いれば十分だろう』
・風 紀『そして、あなたたち二人が自分勝手な分、しわ寄せはこっちに来てるですよ』
・姉 御『助っ人送ろうか。葉留佳君とか』
・風 紀『いりません。とにかく話を進めてください』
・姉 御『じゃあそうするが、まさか常識な判断だけで否定したりはしないよな。人間は皆、気づくまでは気づかない』
・風 紀『確かに盲点でした。魔術師が相手ということですけど、来ヶ谷さんはこれからどうするつもりですか?』
・姉 御『イギリス清教としては何もしないからな。下手打てば外交問題になるし。アドシアードの時みたいにSSSみたいな外部戦力も呼べないから、やるなら東京武偵高校の内部戦力でやることだな。あ、私はこれからアメリカの大学で数学講演やるから戦力には数えないでくれよ。ついでに三週間くらいバカンスしてくるから』
・風 紀『えらく他人事みたいですね。あと、あなたがアメリカ行くのはバカンスが目当てが本命なんじゃないですか?楽しい旅になるはか知りませんけど』
・姉 御『だって、私がわざわざ何もしなくても君が排除してくれるんだろ?』
・風 紀『……。分かりました。正直疑問はありますが、あなたが戻ってくるまでには一段落つけておきましょう』
・姉 御『頼もしい限りだ』
・風 紀『こちらも、頼もしい限りですよ。あの子のこと、よろしくお願いしますね』
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「アリアなんて消えちゃえぇぇぇえええええええええええええええええええっ!!!!!」
「なんなのよっ、もう!」
アドシアードもなんとか終わりを迎えた日の夜。とある
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さて。ここで寮会というものについて確認しておこう。
寮会というのは、生徒たちに指名での仕事を仲介する場所である。
元々は寮会は、各寮をまとめるためのものに過ぎなかったのだが、寮をまとめるということはどんな実物がいるか把握しているという意味でもあったため、比較的信用がかかっている依頼を誰に頼むかを考えるための組織として自主的に設置されたと聞く。
やる気ない教師陣が、生徒たちに自主的という言葉で仕事を押し付けたなんて言ってはいけないのは暗黙の了解だ。元々は寮の管理をするための場所なのだ。ダムダム弾を密輸したりした生徒を見つけだしたこともある。
つまりだ。
さすがに許容出来ない問題が寮で発生したら、すぐに寮会のメンバーの厄介になるのだ。たとえアリアや白雪が武力で追いかえすことができたとしても、そうなってしまっては立場の問題から何もできずに黙って話を聞くしかないのだ。
「さて。最近発砲音やら叫び声やらいろいろ聞こえてきて迷惑だとは聞いていたけど……」
ということで、理樹に真人。キンジ、それにアリアと白雪は五人そろって正座して説教タイムへと突入していた。寮会の一員としてやって来た少女、二木佳奈多は部屋の惨状を見て言った。
「……なにか、言い訳はある?」
部屋の壁には焦げ目、切り傷が無数に存在し、椅子や机は粉砕している。
まさしく、戦争でも行った後のようだ。
「「こいつが悪いんです!!」」
反論するアリアと白雪の声がハモった。
見事なことにお互いを指差す姿勢まで全く同じ。
人差し指が互いを頬を突き破らんとつきささっている。
「明らかに悪いのは白雪じゃない!アンタが襲ってこなければこんなことにはならなかったのよ!」
「アリアが調子にのっているからいけないの!わ、わ、わ、私だって、キンちゃんとキスしたんだからぁー!」
「な、なんなのよそれ!?」
「引き分け!だから引き分け!!」
「こ、こらドレイ二号!ドレイの分際で主人に何をするのよ!鎮まりなさいっ!」
「そっちこそメカケの分際で――――盗っ人たげだけしい」
「キンジ!白雪にキスって何よ!? あ、あ、あんた、
誰が悪いのか女子二人が揉めているのを見て、佳奈多はため息をついていた。
「……もういい。わかったわ」
「わかってもらえたようで何よりだわ。なら白雪!今から決着つけましょうか!」
「望むところよ泥棒猫!」
どうやら佳奈多は女子二人から話を聞くのを諦めたようだ。今度は男性陣に向き直る。
どうやらアリアと白雪は話にならないと判断されたらしい。
「あなたたちはどう思う?」
「正直言ってどっちもどっちだとしか……」
佳奈多の質問に対し、ひきつった笑みで理樹が答えた。真人と謙吾が喧嘩した場合も喧嘩の原因はなんだと聞かれた場合はこいつが悪いと二人は互いに責任を押し付けるが、傍から見ている分には両方悪い場合がほとんどだ。最も、アリアと白雪の場合は止められる人物がいないというのが惨状を生む最大の原因ではあるのだが。理樹やキンジだって止められるものなら止めている。それができないから被害が拡大する一方なのだ。
「……とりあえず、あなたたち三人は部屋が入寮前まで修復されるまでは別の部屋に泊まっていてちょうだい」
「この部屋から出ていけってこと?」
「泊まりがけの民間の依頼でも受けて留守にするという形でもいいわ。なんなら寮会の方で依頼を探しておいてあげる。あなたたちが部屋を留守にしている間に、彼女たちに直させるから」
部屋を直すというのは散らばった部屋を片付けるのとは違うのだ。
タンスやテーブルだって買い替えないといけない。そのための金は誰が出すのだろう?
理樹と真人はアドシアードの時の魔術師迎撃依頼のお金が臨時収入として手に入ったものの、多数決の結果、あれはリトルバスターズとしての積立金にすることに決定した。
よって、今の彼ら二人の財力ではテーブル補強のガムテープは買えたとしてもテーブル本体を買うことなどできやしない。自分で壊してしまったものを弁償するのならいい。
けど、何が何だか分からない内に壊れてしまったものに対してお金を出すのは不本意だ。
下手に部屋の修復を手伝って金を出すはめになるなんて真っ平だろう。
ゆえに、貧乏学生遠山キンジが真っ先に反応した。
「分かった。あいつらが部屋を修復するまでは別の場所に泊まることにしよう」
ヒステリア・サヴァン・シンドロームという地雷を抱える彼にとって、合法的に女子から離れられる上、尚且つ部屋の修復をすべて押し付けられるの手段を提示されているのだ。乗らない手はないだろう。
「俺は武藤か不知火の部屋にでも泊めてもらうことにする。お前らは?」
「恭介がまたどこかいっちゃったしね。僕らは謙吾の部屋に泊めてもらうとしようかな。謙吾の部屋は個室だけど、SSRの部屋は広いから三人でも問題ないしね。それでいいよね真人?」
「オレは理樹と一緒ならどこでもいいぜ!」
「じゃあ、部屋の修復が確認されたら寮会からメール回すわ」
それじゃ、と言うことは言ったとして去ろうとする佳奈多をキンジが呼び止めた。
どうやら質問があったようである。
「違う場所に泊まるのはいい。けど、いつまでに戻れると思う?あいつらがこの部屋に住み着いたら、俺達はずっと戻ってこられなくなるぞ」
「その心配はないわ。SSRの合宿が間近である以上、十日かそこらには必ず直ってるはずだから。もしも直っていなかったら寮会の方に連絡をしてちょうだい。私が出なくても、誰かが対応してくれるはずだから」
「分かった。ありがとう」
「これが仕事よ。別にいいわ」
じゃあね、と今度こそ佳奈多は出て行き、キンジと理樹は各自の寝室にて荷物の整理を始めた。部屋に戻ってこないということは、授業で使うものは持っていく必要があるだろう。ちなみに教科書すべてを置き勉している真人の手荷物は服だけだった。
そして。
「キンちゃん!一緒にこの女を排除しましょう!後始末ならすべてやっておくから!」
「キンジ!あたしに加勢しなさい。さもないと、風穴あけるわよ!」
少女二人の言葉を聞いている人物は、誰もいなくなった。
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アリアと白雪。割と切り替え自体は早いタイプなのか、野郎が誰もいなくなった
アリアはぶつぶつと文句を言いながらも作業を行う手を休めたりしない。
「……あの風紀委員。絶対
「二木さんは今はSSRだよ。確かに
「やり方が汚いのよ」
風紀、という言葉は規律という意味を隠し持つ。
つまり、風紀委員というのは、規律、則ち法律の専門家である。
武偵を武力を持つ探偵と表現するなら、風紀委員は武力を持つ弁護士、つまり武装弁護士だとでも言えばいいだろうか。
多少戦闘ができるため勘違いされやすいが、風紀委員の本職は公安委員のような戦闘職ではなく知識職だ。
法律に精通するということは、ルールという絶対的な壁を振りかざすと同時、抜け穴にも精通しているということ。
頭でっかちが多い公安委員の天敵でもある。
昔、イギリス公安局所属の公安委員をやっていたアリアが現役風紀委員長によりなんだかんだで片付けをさせられている事実からも分かるだろう。
佳奈多がアリアと白雪に通達したことは一つ。
『あなたたちが破損させた
男子寮に女子が住んでいたことを責めるでもなく。
住みたきゃ勝手にしろ、ただしずっとそこにいろよ。
見事なやり方だった。
流石に自室を完全撤去は困る。
しかも、寮会からの指名による正式な依頼として費用自己負担、報酬金無しの部屋の修復依頼を強制的に受けさせられた。依頼放棄は認めないとまで注意書きが書かれている。
訳すると、終わるまで授業出るなよということが書かれている。
星伽神社の巫女として、間近の合宿をこんな理由でバックレたことを星伽神社に知られるわけにはいかない白雪だって文句を言っていられない。
「だいたい、こんな回りくどい手を打たなくても直接武力でこればよかったのよ。あの風紀委員、リズの護衛に選ばれるくらいなんだから強いんでしょ?実際に、あたしたち二人を前にしても全くビビッていなかったし」
「二木さんが戦う所は見たことがないんだけど……護衛役に選ばれたのは強さよりも性格によるところも大きいんじゃないかな。おなじ『
「まぁ、確かにまともな神経の奴にリズの相手ができるとは思えないわね」
数少ない友人のことを考え、アリアはどこか遠くを見ているような瞳となる。
案外狂った友人の相手ができる人物ということで興味が出たのか、二人の話題は件の人物へとシフトする。
「白雪は、あの風紀委員がSSRって言ってたわよね。なら
「……さぁ?どうなんだろう」
「白雪?」
「ごめんアリア。正直よく分からないんだ」
白雪の返事には、意地悪をしてとぼけている感じが全く無かった。
おそらく本当に知らないのだろう。
知っていて隠したとして、別にアリアに対する嫌がらせにもならない以上はとぼける必要もない。
「二木さんは委員長だから、そもそも授業の出席義務からしてないし。午前中は寮会で仕事の仲介をして、午後からは自分の委員会の仕事をしているんだよ。そもそも二木さんってよくわからない人なんだよね」
委員会に所属しているということは就職しているという意味でもある。
将来就職のために学校で技能を学ぶ必要もないということだ。
アリア自信、
「それに、SSRの授業は
「そうなの?」
「SSRの生徒からの推薦状あれば大丈夫なんだよ」
理樹は自分が意味不明超能力者だということを隠してSSRを履修しているが、そんなことが出来たのは謙吾が推薦状を書いてくれたからだ。理樹一人では門前払いされていたかもしれない。
「SSRは秘匿性が高いから、
「イギリス清教の推薦枠?リズじゃないなら誰がイギリス清教推薦枠で入ってきたの?」
「三枝葉留佳さんっていう来ヶ谷さんの……委員会の人?関係性がよく分からないけど、とにかく来ヶ谷さんの身内の人だね」
「……三枝?」
三枝、という苗字からアリアは思い出したことがあった。
ジャンヌ・ダルクが証言した部屋の中の盗聴器の数と自身が見つけだした盗聴器が一致していることを確認して、白雪に聞いた。
「白雪。キンジもいないし、今の内に聞いておきないことがあるわ」
「……なに?」
「地下倉庫で言っていた『
不意に。
テーブルを拭いていた白雪の手が止まった。
「……」
「あたしのママの冤罪の一つなの。お願い」
話していいのか躊躇を見せていた白雪は、ゆっくりと口を開く。
「……アリアは、どこまで知ってるの?」
「何も。実行犯はイ・ウーの誰かだとしか分かってない」
それはジャンヌが
「どうも国の隠蔽対応が早過ぎたようにも思う。資料が全然残ってない。もちろんイ・ウー関連のことをタブーとして国が隠すのはいつものことだけど、その中でもなんだか異彩を放っているように思うの」
「……」
「ママの敵を捕まえていく過程で何か知ってる奴がヒットするまで何も掴めないと思ってたんだけど、何か知ってるなら教えてよ」
白雪は玄関の方を確認する。誰も戻ってきたりはしてないかチェックした後語り出す。
「日本の政府の隠蔽が早かった理由はだいたい分かる。前提として聞いておくけどアリアはあの事件をどんな事件だと思ってる?」
「一族特有の技術を持っていて、それをイ・ウーが差し出すように要求した。その結果、イ・ウーの反発に合い、滅ぼされた」
アリアの
「……。アリアは『四葉事件』のもう一つの名前は知ってる?」
「三枝一族……」
「それじゃない。正式名称の方だよ」
「正式名称?」
「四葉事件というのは、あくまでも苗字がついただけの略称。内容はアリアの知っての通り、三枝一族皆殺し事件。あくまで一族の心中ってことで処理されたけど、本当の形は違うの。本当の名は、四葉公安委員会壊滅事件。あれは一族心中なんかじゃない。四葉公安委員会に所属していた人間は、何者かによって全員殺されたの」
白雪はアリアと喧嘩している時のようなふざけた感じは一切感じさせなかった。
「一つの公安委員会のメンバーを……皆殺しに?」
「それも、公安0に1番近いとされていたほどの公安委員会。戦闘において最強ともいえる超能力を持ってその実力を示していた戦闘特化の委員会」
公安0課。
武装検事と並んで日本において1番物騒な言葉だ。
どちらも職務上で人間を殺しても罪に問われることのない、いわゆる『殺しのライセンス』を持つ闇の公務員。彼らの強さはシャレにならない。
なのに……
(公安0に1番近い公安委員会を皆殺しですって!?)
公安0は殺しのライセンスを持つ先頭集団。彼らが出て着る場合、人権なんてものは無視されるのが常だ。そんな物騒な連中に一番近いということは、四葉公安委員会は民間の公安委員会においてならば日本においてもっとも優れている公安委員会だったということになるだ。
「でも、そんなことができるのって……」
「アリアもジャンヌと戦って
ふと、白雪は事件が起きた二年前のことを思い出す。
謙吾君が知ったら激怒するような話だ。
二年前、星伽神社を訪ねてきた少年がいた。
でも、星伽神社は男子禁制の場所。
それだけの理由で追い返した。
その少年は何日も何日も神社の入口で頭を下げ、話だけでも聞いてくれと主張した。
けど、掟の名の下に何もしなかった。
いずれは諦めて帰ってくれるだろうと、楽観的な対応だった。
良心の呵責に堪えられなくなって会いに行った時、すでにその少年はいなくなった。
一族皆殺し事件が起こったのはその直後だったのだ。
事件と関連付ける証拠などない。
でも考えてしまうことだ。
ひょっとしたら、あの少年は何か知っている人物ではなかったのだろうかと。
もし、私があの時『かごのとり』ではなかったのなら。
何か、今とは違った未来があったのだろうか。
こと戦闘能力という点に関してのみならば星伽神社なんて比較対象にすらならず、公安0に手が届くような
アドシアードで大切な幼馴染に迷惑をかけることもなかったのだろうか?
いまさらではあるけど、人を守るための神社でありながら見捨てるしかなかったあの時の報いをいつか受けることがあるのだろうか?
それはまだ、分からない。