Scarlet Busters!   作:Sepia

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Mission52 ステルスのアイデンティティ

 

 

『砂礫の魔女』のアジトに潜入すると姉御は軽く言ったが、来ヶ谷唯湖という人物は彼女の昔馴染みのなんちゃって名探偵とは違い、無策で乗り込んでいくような脳筋じみた愚かな真似はしない。

 彼女はいくつもの呼びプランを立案するタイプの人間で、計画が息詰まったら作戦を切り替えることで突破口を開こうとする人間だ。ゆえに、まずは作戦会議である。

 

・姉 御様が入場しました。

・ビー玉様が入場しました。

 

 実況通信。ようはチャットで会議は行うことになっていた。

 牧瀬がオンラインゲームやるために家に帰りたいとか言い出した結果である。

 今回の会議の目的は具体的な計画の最終確認ではなく、魔女というものに関しての認識の温度差をなくすことにある。

 

・大泥棒様が入場しました。

 

 午前0時、作戦会議は開始されることになっている。ノリが完全に夜更かし女子会であった。

 男が一名混じっているのは気にしない。

 

喪魅路(モミジ)様が入場しました。

 

 葉留佳はビジネスホテルの二人部屋の一室にてベッドに寝転がりながら、持参したタブレットPCの画面で四人が揃ったことを確認した。

 

「姉御ー!全員揃ったみたいデスヨ!」

「よし、なら始めるとしようか」

 

 

          ●

 

 

 

・姉 御『さて、まずは「砂礫の魔女」パトラに関する詳細についての確認といこう。魔術なんて絡む連中を相手にする場合のアプローチは、思想から入る必要がある』

・ビー玉『なんでデスカ?』

・姉 御『魔術は確かに便利な技術だ。けど、本来魔術がなければ生きていけないというほどの技術ではない』

 

 魔術とは学問ゆえに、学べば誰でも使えるようになる。

 けど、必要不可欠な技術ではない。

 例えば魔術で火を起こせるようになったとする。

 でも、だから何だといわざるを得ない。

 水田に水を与えるために雨乞いに走らなければならない弥生古墳平安時代ではないのだ。

 もはやそんなもの科学でどうとでもできる時代がやってきている。

 

・姉 御『魔術は苦労と成果がどうしたって釣り合わない。認知されていない環境では胡散くらい詐欺師のように叩かれる可能性だって否定できないんだ。中世の魔女狩りなんて最たるものだろう』

・ビー玉『ふむふむ』

・姉 御『ゆえに、「魔術師」と呼ばれる奴らは科学でなんとかならなかったことを覆す最後の希望に縋り付く感じで絶望の中魔術を学んだ連中のことをさす。だから、目的さえ達成できれば手段を選ばない側面もあるんだ。自分の目的のために人生すべてをかけた奴らなのだから、目的さえつかめれば行動だって読みやすい。逆に言えば、目的さえ達成できればなんでもいい連中ゆえに交渉の余地を残した奴らともいえる』

・ビー玉『なるほど』

・姉 御『もちろんこれはあくまで「魔術師」とか呼ばれる連中の話だ。絶望からではなく「人の役に立ちたい」みたいなポジティブな感情から魔術を学んだ奴らを「魔法使い」なんて呼ぶみたいだが、牧瀬、君の場合はなんて呼ぶのだろうな?』

・喪魅路『何を言っているのか皆目見当がつきませんねぇ』

・ビー玉『……牧瀬君って魔術とか言われてわかるの?』

 

 そういえば、と葉留佳には思い当たることがある。

 牧瀬紅葉は秘匿性が高い超能力調査研究科(SSR)の実状について知っていた。

 本来なら魔術やら超能力とか言われても一くくりにオカルト扱いしてしまっても疑問はないというのに。

 

 葉留佳自身超能力調査研究科(SSR)への編入組だし、高校入学からずっといたわけじゃない。

 

 クラスメイトたちが牧瀬紅葉のことを禁句にしているのだから葉留佳が知らない間に何かあったのだろう。

 

 

・喪魅路『一年間くらい超能力調査研究科(SSR)にお邪魔していた時があったからな。母さんが「魔術」という技術があることを教えてくれたから見てみたくて編入しただけだから、魔術師みたいに人生をかけるほどの望みがあるわけではない。行動原理とかの思想についてなら現役でイギリス清教なんていう王手に所属している奴には勝てないとはいえ大体は分かる』

・大泥棒『科学者のくせしてオカルト肯定するんだ……。そういやモミジのママって確か』

・喪魅路『よせ峰。俺はそのことを言われるのが好きじゃない。勿論母さんのことは俺の自慢の一つであることは否定しないけど、それでも出会い頭「二世」呼ばわりされた時にはさすがの俺もイラッとくる。ずっと前に小夜鳴教諭にそう呼ばれた時なんて地獄に堕ちろと思ったからな。理屈ではそんな風に思われることは仕方ないことだと思っていても、だからと言って俺が何も思わないわけじゃない』

・大泥棒『……そうだね。それはよく分かるよ』

・ビー玉『あー。身内にすごい人がいるパターンか……』

 

 両親でも兄弟でも、どうしたって比較対象になる。

 葉留佳にはそれが嫌というほど理解できた。

 競え合えるのならまだいい。

 少なくとも牧瀬君の場合は自分の委員会を持てるほどなのだから勝負できていないことはないだろう。

 けど、スペックに圧倒的なまでの差がある場合、何をしたって負け続けなければならないことになる。

 実のところ牧瀬君や理子りんがどういう立場にあるのか私には分からないけど、大体の相場は決まっているものだと思う。

 

・姉 御『さてと。前置きはこの辺でいいだろう。私から言わせてもらうと、「砂礫の魔女」というのは超能力をアイデンティティとしる典型的な超能力者(ステルス)という印象を受けた』

 

 超能力をアイデンティティとする超能力者(ステルス)

 正直、葉留佳はそう言われても今一ピンとこなかった。同じ部屋にいることだし、直接聞いてみることにした。

 

「どういう意味デスカ?」

「どうもこうもそのままの意味だ。葉留佳君、超能力者(ステルス)の君は分からないとは言えないはずだ。大して理解できていないみたいだから聞くが、君は自分が超能力を使えるようになったときどう思った? 何一つとして思わなかったのか?この力を使って何かしよう人の役に立つことをしようとか、この力を持っているのはきっと何かしらの意味があるんだとか。そんなポジティブなものでも、なんで自分なんかにこんな能力が宿っているんだという純粋な恐怖を感じたみたいなネガティブなものだって何だっていいんだ。葉留佳。君にだって何かあっただろう?」

「……私は」

「ん?」

「私は、……こんなものが大事だったのかと。私はそう思ったよ」

 

 そうかい、としか姉御は言わなかった。

 三枝葉留佳は超能力者(ステルス)だ。

 ただし、まともに超能力を使えるようになってからまだ一年も経っていない超能力初心者でもある。

 ゆえに、能力的には超能力者(ステルス)であったとしても、考え方が生まれながらの超能力者(ステルス)のそれとは違うのだ。

 でも、姉御が言わんとしていることは理解できた。

 

・姉 御『他人とは違うことが、自分にしかできないことがある。その事実は優越感を与え、自分を優れた人間だと錯覚させる。度が過ぎれば自身は他人を導く義務があるみたいな脅迫概念の虜となる。私の昔馴染みの友達は才能ある人物はそれを発揮する義務があると考えていたし、私も昔はその通りだと思っていた』

・大泥棒『今は違うと?』

・姉 御『そうでなかったらほとんどいなかった友達と喧嘩別れしてまで王室の仕事を辞めたりはしない』

・喪魅路『ほぅ。伊達に「才能の無駄使い」と呼ばれてはいないようだな』

・姉 御『「無断使い」なら君だって大差ないだろう。病気が高い基本スペックすべてを台なしにしてるくせに』

・喪魅路『好きでやってることにとやかく言われる筋合いはないな』

・姉 御『別に病気を治せとは言ってないさ。私はあれはあれで見ていていつも大爆笑してるからな』

 

 来ヶ谷唯湖と牧瀬紅葉。

 ログを見ながら、峰理子はこの二人のことがうらやましいとちょっとだけ思った。

 二人とも才能だけなら世界レベルの人材だが、非常に面倒な性格をしてすべてを台なしにしている人間だ。けど、自分の欲望に忠実に生きている。

 他人からの評判がどれだけ酷かろうが、それでも幸せそうだとに思えてくる。

 

・ビー玉『つまり、その「砂礫の魔女」とやらは超能力を使えて優越感に浸っている人間だという認識でいいのデスカ?』

 

 思えば魔剣(デュランダル)ことジャンヌ・ダルクもそうだったように理子は思う。

 世界を動かすのは超能力者(ステルス)だとすら思い超能力を過信し、その結果は敗北だ。

 

・姉 御『そうだな。例えば「きれいな花を腐らせる」みたいな無かった方がマシなマイナス要素丸出しの超能力ならともかく、便利な超能力を持つ人間にはその傾向がある。星伽神社という所はわざわざピンポイントメタ魔術まで用意して身内の超能力者(ステルス)の優越感をくじき社会的劣等感を植え付けることで反乱を防止する「かごのとり」なんて称される心理的管理システムを構築しているくらいしな』

・喪魅路『おいおい、イギリス清教の人間がそんなこと言って大丈夫なのか?』

・姉 御『それっぽい理屈つけてみただけだし、この「姉御」のアカウントの人物が来ヶ谷唯湖である証拠は何もないから何一つ問題ない。ただ、現実問題として星伽神社の「かごのとり」は不要なものだと断言でできないところが悲しい所だ』

・ビー玉『なんで?』

 

 勿論、「かごのとり」のシステムがあることは幸せに生きられないこととイコールではない。

 左腕にヒビをいれたどっかのバカなんて今やたら幸せそうだし、神社の巫女さんは幼なじみの世話をやいて毎日頬を緩めている。

 

超能力者(ステルス)でないお前に生まれてきた価値も生きる意味もないんだよ』

 

 それでも、本来劣等感を植え付けるなんてあってはならないことのはずだ。

 

・大泥棒『ここからはりこりんが説明するよ。「砂礫の魔女」パトラはちょっと前、戦争を引き起こそうとしているんだよ!』

 

 

           ●

 

 戦……争?

 なんだそれは、と葉留佳は思った。

 

・ビー玉『クーデターってやつ?』

・大泥棒『クーデターとはちょっと違うかな。クーデターは失敗した革命みたいなものだけど、厳密には戦争は起きなかった。多分だけど、何か重大な誤算が生まれたんだよ』

・ビー玉『にしても戦争って……』

・大泥棒『パトラは誇大妄想のケがあるんだよ。自分は生まれながらの覇王(ファラオ)だと思い込んでいる。いずれまた、自分の王国を作るための戦争を起こし、世界制服すら実現させるつもりなんだよ』

 

 さっきまでどんな議論をしていたっけ?

 自分にしか出来ないことがあるという事実は優越感を与えてくれる。

 そんな話だった。

 その結果が、戦争?世界征服?

 自分は生まれながらの覇王(ファラオ)

 

・ビー玉『正気なの?』

・大泥棒『ああ』

・喪魅路『バカな奴だ。そんなことできるはずがないのにな』

・ビー玉『そ、そうだよね!世界征服だなんてそんなバカげたことなんて……』

・喪魅路『当然だ。何しろ世界の支配構造に混沌と変革をもたらすのはパトラなんかではなくこの俺だからな』

・ビー玉『牧瀬君もおかしいよ!?』

 

 おかしい。

 牧瀬君はまともな人だと思っていたけど、腐っても『魔の正三角形(トライアングル)』の一人だったのか。

 

・大泥棒『パトラについては割と有名な話なんだけど……葉留佳は本当に「砂礫の魔女(パトラ)」という名前に心当たりがないの?』

・ビー玉『……どういう意味?』

・大泥棒『……深い意味はない。聞いてみただけだ』

 

 知恵熱でも出てきたのだろうか。葉留佳はなんだか頭が痛くなってきた。

 

「姉御ー。世界征服なんか企むようなイカレタ奴相手に私たち四人でどうにかできるんデスカ? イギリス清教の魔術のプロをお呼びした方が……」

「私たちがやるのは強襲ではなく潜入だ。砂礫の魔女なんて面倒なやつをまともに相手にするつもりなんて、もとよりない。それに、魔術師というのは魔女相手に潜入するにはかなり難しいんだ。これは、パトラがどうこうという問題よりは魔術というものの本質にある」

 

 そういえば、前に魔術と超能力の違いについて聞いたことがある。

 超能力というものは本来生れつきのものだ。

 葉留佳自身超能力者になった(・・・・・・・・)から実感できることだが、超能力者(ステルス)が超能力を使うために必要なのは慣れだけだ。

 事実、葉留佳は自分の超能力の理屈なんて全く知らない。

 去年一年、思い出しただけで車酔いにでもなりそうな姉御のスパルタ教育によりなんとかまともに発動できるようになったが、その時理論なんて全く教えられなかった。酔いになれろ、とひたすらジェットコースターに乗せられた。メリーゴーランドとかもう見たくない。

 おかげで遊園地恐怖症だ。どうしてこうなったのか、今も疑問に思っている。

 

「魔術というものはな、どうしても魔力という形で痕跡が残ってしまうものなんだ。東京ドームの中に一円玉が落ちていてもそんなものは誰も気がつかないだろう。しかし、書道をするときの和紙に墨でもこぼれてしまえば、どんなに小さな墨でも気になってしまうだろう?」

「まあ……そうデスネ」

「つまり、魔術は使った瞬間に感知されてしまう。葉留佳は超能力者がステルスと呼ばれている理由を知っているか?」

 

 名前の由来なんて大して気にとめたことなんてない。

 知らないことだったが、話の流れから推測できることだ。

 ステルス(stealth)という言葉から真っ先に思い付く意味は隠密の意味。

 無色透明であるというような意味。

 

  無色透明なものはいくらおいてあっても気づかれない。

 例えば、空気。

 今日は空気が少ないね、とか言う人間がいたら病院を紹介しなければならないだろう。

 

「超能力って……跡が残らないの?」

「そうだ。魔術的な探知に引っ掛からない無色透明なもの(ステルス)。それが超能力者がステルスと呼ばれている理由だよ」

 

 だとしたら、魔術以外の技術が一般人の域をでない魔術師では潜入なんてできないだろう。

 魔術師が砂礫の魔女を欺くには、少なくとも彼女と同レベル、もしくはそれ以上の魔術師でないと不可能だ。

 

・ビー玉『で、どうするんですカ?何をするにしても、向こうだけがオカルトを振りかざしてくるなんて、不公平もいいとこじゃないですか』

・大泥棒『そうでもないよ、はるちん。パトラはね、後ろ盾となってくれるような組織はもう何もないんだよ。戦争を起こす一歩手前までいった過去がある以上、パトラを始末するために放たれた追っ手は世界中にいる。下手に魔術なんて使ったところをイギリスやローマの連中に悟られたらピンチなんだよ。でしょ?』

・姉 御『あぁ。魔術を使うこと自体は罪にはなりえないが、パトラの場合は晴れてお尋ね者だ』

・喪魅路『何でもいいんだけどさ、何しにパトラのアジトに行くんだ?まさかパトラ逮捕が目的というわけでもないんだろ?』

・姉 御『資料貼り付けたから読め』

 

 実況通信に挙がったのは、盗難品のリストだった。

 率直な感想としては金目のものが見当たらない。どれもこれも遺品ばかりである。

 国際カジノ辺りから金塊とか盗んだ方が金になりそうだ。

 

・喪魅路『これは……いわゆる「一世の遺品」とか呼ばれているものだな。前に母さんから聞いたことがある。確か十年くらい前のことだったと思うが「一世」なんて呼ばれるほどの偉大な人物にゆかりのある品々が相次いで盗まれたらしい』

 

 銭形平次の五円玉だとか。

 エジソン手製の蓄音機やら。

 ワトソンの虫眼鏡やら。

 

 そんなもの盗んでどうするんだというものばかりだった。

 

・ビー玉『パトラっておばさんなの?』

・姉 御『いいや。歳は私らと大差ない。どういう経緯でパトラに渡ったかは知らないが、そんなことは大した問題じゃない』

・ビー玉『にしても、なんでこんなの必要なんでしょうね。……あ、これは売れば高そうじゃないですカ?「騎士王の剣」っていかにも高価そうな……』

・喪魅路『ん?エクスカリバーか!?』

・ビー玉『きゅ、急にどうしたの牧瀬君!?』

・喪魅路『……なんでもない。忘れてくれ』

・大泥棒『プククク……』

・姉 御『「エクスカリバー」ってのはイギリス王室に伝わる宝剣でな。はっきり言うと、私はそれが欲しい』

 

 一年程度の付き合いとはいえ、すでに姉御の性格は熟知している。

 物を欲しがるなんて珍しいなと葉留佳は思った。

 

「イギリスでは面白い風習があってな、その時代のイギリス一の天才とされる人物にはイギリス王室から宝剣を貸し与えられるんだ。いわば、天才の証明書だな。エクスカリバーは昔、シャーロック・ホームズ卿に貸し与えられたんだが、ホームズ卿の失踪と同時に行方不明となっていたんだ。今でもホームズ卿が生きていて使っているとかならまだしも、超能力者(ステルス)であることを鼻にかけるような魔女風情が持つのは気にくわん。私は血統的には日本人だが育ち、つまり心はイギリス人だ」

「おおー。じゃ、もし取り返せたら姉御はイギリス人として盗まれた宝物を取り戻すんですね!」

「私が自分で使うために決まってるだろ。何言ってるんだ。パトラの奴が持っていたら宝の持ち腐れだしな」

「えぇー!?パトラって奴はどうするんですカ!?」

「そんな奴ほっとけ」

 

 やはりというかなんというか。

 

・喪魅路『あのさ、今後取り戻すことがあったら俺にも一度貸してくれよ。エクスカリバー握ったとこ写真で撮って父さんへの自慢話にするから。きっと悔しがるだろうからな』

・姉 御『いつか取り戻すことがあったら見せてやるよ』

・大泥棒『んじゃ、基本事項の確認もすんだことだし基本方針を決めるよ!まずはねぇ――――』

 

 

          ●

 

 

 砂礫の魔女、パトラ。

 彼女はとある高級ホテルの最上階に存在するスウィートルームから下の景色を見下ろしていた。

 彼女はスウィートルームにいるもう一人の人物に話しかける。

 

「……のぅ。あいつはホントに来ると思うかの?こんなもので、あいつを招き出せると?」

 

 パトラは何かを両手で転がしていた。

 それは、デリンジャーと呼ばれる超小型銃だった。

 

「リュパン四世の母親、峰不二子の形見の銃です。間違いなく四世は取り返しに来ます。ですが、四世の能力では一人であなたを相手にすることは不可能な以上、おそらくパーティーを組んでやってくるでしょう。貴方を相手取る場合、『銀氷の魔女(ジャンヌ・ダルク)』が檻の中である現状において四世が声をかける筆頭候補はどう考えても彼女でしょう。誘い出す材料には充分なりえるかと」

「ふーん……。誰が来るから知らんが、あいつが来てくれるといいのう。妾が『教授(プロフェシオン)』になるためにはどうしても邪魔な存在ぢゃ。研磨派(ダイオ)の連中が指名している次期教授(プロフェシオン)の命を握って『教授(プロフェシオン)』と交渉しようにも、今下手に狙ったらあの女は間違いなく妾が手に入れる前に殺してしまうぢゃろうからのう」

「敵の手にくれてやるくらいなら、というやつですかね」

「いずれ邪魔者は全員殺すと決めてはいるが、あの女(・・・)だけは今すぐにでも殺してやりたいのぢゃ。あいつはいくら呪ってもすぐ解呪するから、殺すなら直接対決ぢゃろう」

「私も研究が邪魔されてはかないませんからね。彼女には死んで欲しいと思っていましたところですよ。ですから、その峰不二子の銃(デリンジャー)は私からのプレゼントです。それでは、また」

 

 パトラは部屋から出て行こうとしる人物を呼び止める。

 

「ふむ。ありがたく受け取っておくとしよう。のうブラド」

「今は――――――です」

「殺したいほど憎んでいる相手を、どうやって殺してやろうか考えるのは楽しいものぢゃのう」

 

 そう言って。

 砂礫の魔女は笑みを浮かべた。

 魔女の名に相応しい、残虐な笑みだった。

 




今回はアドシアード編の総評みたいなものでしたかね?いろんな疑問点が出てきた回だと思います。
また、超能力者がステルスと呼ばれている理由や星伽神社の「かごのとり」の存在理由など、それっぽいことが書けたのではないかと思っています。
本当のところは分かりません。

あと、モミジの両親が誰だか分かりましたよね?


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