目が覚める。
一日のうちに二回も誘拐されるなんてことをやらかす人物なんてこの世界に何人いるのだろうか。
まるで童話のお姫様だ。
(そうだ。レキさんは……)
理樹は狙撃を受けて気絶した。その時すぐ隣にはレキもいたのだ。彼女も一緒に巻き込まれて誘拐されてしまったなんてことになったらどうやって謝罪すればいいのだろう。無事でいてくれと思いながら必死に探す。今回は拘束こそされてはいるが、目隠しはされていない。辺りを見渡すことはできた。机と椅子がが教室の後ろに積みあがられているところを見るにここはどこかの空き教室だろうか。正確には分からない。それよりも意識しなければならないことがあった。
「だ、誰だ!?」
全身を暗いローブをはおった連中が理樹をじっと見つめていた。その中のリーダーと思われる人物が教卓に立ち、他の連中が理樹を挟むようにして左右一列に整列している。まるでどこかの騎士団あたりのような厳格な雰囲気を醸し出している。
「起きたようだな」
どこかで聞いたことのある声だと思った。僕はおそらくこの人物を知っている。
はたしてこの声は果して誰のものであったか。
ゴクリとする理樹であったが、次に発せられて発言は理樹の予想だにしないものであった。
「それではこれより裁判を始める。皆の者、静粛に」
「裁判?」
何が起きているのかが一切把握できていない理樹を放置して状況は進んでいくが、感謝するつもりはないがすぐに事態を理解させてくれる決定的な一言を口にした。
「会員NO.37。この男の罪状を読み上げたまえ」
「はっ!被告は東京武偵高二年Fクラス所属、直枝理樹。リトルバスターズとか呼ばれる棗恭介のチームの一員であります。偉大なる我らが女神レキ様と手をつないだところを我らが同胞が確保いたしました。今後、この男と女神様との関係について充分な調査を行った後に、この男に対してしかるべき対応を―――――――――」
「御託はいい。端的に結論だけ述べたまえ」
「レキ様と手をつないでいたのが非常にうらやましいであります!」
「うむ。実に分かりやすい報告である。異端者直枝理樹よ。汝は自らのを悔い改め、裁きを受け入れるか?」
「……ちょっと待って」
一連のやり取りで理解した。ここにいるのは前に出会った狐の仮面の人物なんかじゃない。
神妙な声で話しかけてきたこの人物は、
「何をやってるのさ村上君」
間違いなくうちのクラスの連中だ。よく見るとこの教室は理樹らが所属する二年Fクラスの教室である。
二年Fクラスの中ではレキさんは宗教のようなオカルト的なまでの人気を誇っているため、また何かの集会でも開いでいる最中なのだろうか。アドシアードの時のレキさんの応援のためにオリジナルTシャツまで作っていたことを知った時は正直引いたものだ。鈴もちゃっかり購入してたし。
「あのさ、聞きたいことがあるんだけど」
「聞いてやろう」
「その恰好何? それに裁きって、いったい何をするの?」
尋ねると、村上君はわずかに目を細めてから告げる。
「わからないのか?なら教えてやろう。これは我らレキ様ファンクラブRRRが女神様を影から守り、お前のような異端者を抹殺するための暗躍衣装だ。アドシアードではレキ様に棄権させてしまうという失態を犯してしまったからな。二度とあのようなことが起こらないように我らは常にレキ様に関する情報を集めているのだ。何より、そもそもの原因を作った生徒会長誘拐犯を我らの手で報復することができなかったしな」
「努力の方向性が絶対間違っているッ!!」
「では被告よ。覚悟はできているか?これより刑を執行する」
「な、何をするつもり?」
「多くを説明してしまうと被告にはに余計な不安を与えてしまいかねないため、悪いがヒントしか言えないが――――――――」
村上君は暗幕で閉ざされた窓を見るように顔を背を向ける。
「まず、蝋燭を用意して……」
「一体何をするつもりだ!? 蝋燭なんか用意して何をするつもりだ!?」
「安心しろ。俺たちは同じ教室で学を志した仲間だ。せいぜいちょっとだけの火傷を負う程度で許してやるさ」
「ちっとも安心できないのだが?」
僕はいったいどうなってしまうのだろうかと将来に不安を抱えていると、彼に助け船がやってくる。
「理樹さんのことは許してあげてください」
拘束されているために方向転換は転がるという形になったが、それでも確認はできた。そこにはどこから持ってきたのか分からないが、やたら高級そうなソファーに座らされている少女がいた。彼女の前のテーブルにはおいしそうなクッキーと紅茶が置かれている。床に転がされているどこかの男とは待遇が大違いである。
「レキさんいたの?」
「当たり前だ。我らが女神様にティータイムを提供することができるなど我らとしては至福の極み。お前に対する嫉妬などという見苦しい感情でレキ様との交流の機会を逃すなどそれこそ本末転倒の愚の骨頂。お前たち、レキ様の要望だ。その男の拘束を解いてやれ」
「「「はい、村上会長」」」
とりあえず、命の危機は去ったようだ。
村上君たちがあまりにもすがすがしいので怒る気がどういうわけかおきてこない。
結果論ともいえ助かったのだからレキに感謝の言葉を言っておくことにする。
「ありがとうレキさん。助かったよ」
「気になさらないでください」
「ところでさ、教室の後ろの方で倒れている人たちは?」
教室の後ろではどういうわけか気を失っている人たちがいた。
床に寝転がっているものの表情は安らかだ。何があったかの説明は村上君の方から行われた。
「そいつらはお前を狙撃した後、追撃しようとしたところをレキ様に狙撃されて返り討ちにあった連中だ」
おのれ直枝……とか寝言を言っているかと思ったら、やたら幸せそうな笑みを浮かべていた。
幸せな夢でも見ているのだろうか。
「本当に……本当にありがとうレキさんッ!!」
元々レキと手をつないだ理樹に原因があると言ってしまえばそれまでであるが、一緒にいたのがレキであったことに理樹は感謝した。レキがいなかったらもう二三発は間違いなく銃弾をくらっていただろう。これで万事解決かと思っていたら、レキは爆弾発言をしてしまう。
「ですから気になさらないでください。
教室の空気が一瞬にして凍った気がした。
誰もが唖然として口を開けない中、真っ先に立ち直ったのはやはりというかリーダーの村上という少年だ。彼の声は震えていたが、それでもちゃんと口に出した。
「あ、あの、レキ様。今なんとおっしゃいましたか?」
「礼が少しでもできればいいなと言っただけです」
「その前です」
「よく可愛がってもらいました」
「その前です。いったい誰に……」
「恭介お兄ちゃんですが?」
村上が口を閉じてしまった以上、再び二年Fクラスの教室に静寂が訪れた。
そして、しばらくしてその場にいた一同は口をそろえて叫んだ。
「「「殺せぇッ!!!」」」
一同は緊急会議を開始した。
「あの男、ことのあろうにレキ様に『お兄ちゃん』とか呼ばれているだと……!?なんてうらやま―――――――うやらましいことを!!!」
「今すぐ抹殺計画を立案せよ。今すぐ奇襲部隊を編成しろ」
「「「はい。村上会長!!」」」
「準備が整い次第、我らは宿敵棗恭介へ総攻撃を仕掛ける。皆の者準備を怠るなよ」
「村上会長、我らが宿敵の居場所が現時点は判明していないように思われます。いかがしますか?」
「何を言っている。棗恭介の居場所が分からなければ、人質をとればいいだけの話だ。ちょうどここに、おあつらえ向きの男がいるだろう?」
次の瞬間。
RRRの連中の視線が一か所へと集められた。
その視線は当然のごとく理樹へと向けられている。
「あ、あはは――――――――――さらばだッ!!」
「「「逃がすかッ!!」」」
クラス単位の鬼ごっこが始まった。
●
『奴め、いったいどこへと行った?爆弾なんて使いやがってッ!』
『焦るな、時間はたっぷりとある』
『絶対に見つけだして我らが村上会長のもとへと凱旋するぞ!!』
追ってくるレキ様ファンクラブRRRの連中の声がすぐそばで聞こえてくる。もともと理樹の本職は
『チクショウ! 見当たらない!』
『焦るな、村上会長からの指示により着実に包囲網は狭まってきている』
レキ様ファンクラブRRR会長の村上のカリスマ性は大したもので、一クラス分以上の人数を指示しながらも、適切な行動を指示している。理樹を囲む包囲網は確実に小さなものへなってきていた。
これからどうしようかと考えていたら、ポンッと理樹の肩に手が置かれる。
突然のことに理樹はわひゃあッ!という情けない悲鳴を挙げてしまった。
「どうしたの?そんなに怖いものに怯えるような顔をして」
「と、朱鷺戸さん!」
後ろに立っていたのはRRRの連中ではなく朱鷺戸沙耶だった。彼女は紙袋を手に持っている。
「流石にヤバそうだったから助けに来てあげたわよ。はいこれ、変装道具」
「あ、ありがとう!これで村上君たちから逃げられるよ」
「じゃあ早く着替えに行きましょ。こっちきて」
村上君たちに着替えているところを見つかっては本末転倒だ。
だから誰からも見つからないような場所で着替える必要がある。朱鷺戸さんその場所を知っているみたいだから大人しくついていくと、朱鷺戸さんはこともあろうか女子トイレに入っていった。
「はい?」
そしてまたすぐに朱鷺戸さんは女子トイレから出てきた。
「誰もいなかったわ。ここで着替えなさい」
「正気!?」
「だって、男子トイレから女の子が出てきたら不自然でしょ」
「女子トイレに男子がいる方が不自然だよ」
「そういえば、言ってなかったわね。その服、女物よ」
「はい?」
「というか、あたしが男物の変装道具を持っているわけないじゃない。捕まりたくなければさっさと着替えてきなさい」
おそらく中途半端な変装ではバレてしまうだろう。やるなら徹底的にやりかしかない。
理樹は無人の女子トイレのボックスにて女物の下着から着用した。
下着の色はナ・イ・ショ!
心ののどこかで本当に引き返せないところまで来ていると思いながら着替えを終わらせて女子トイレから出てくる。
「それじゃ、この制服は後でまた返すわね。それじゃ作戦を続けましょうか」
「まだやるつもりのなの?」
「まだって、まだ一セットも終わってないじゃない。確かに思ったより時間はかかったし、最後のカードの指示をこなして終わりにはするけどね」
「効果はあったの?」
「終わってから言うわ。どの道次が最後だし気楽に考えなさい。じゃ、ミッションリスタート」
見事な女装によってRRRの連中の包囲網を突破した理樹は今度は校舎の内部をうろついてみる。
三枚目のカードの内容な『冗談を言って驚かせる』
誰に嘘を吹き込もうかと考えていると、三階校舎で知り合いに遭遇した。
今度はレキさんの時のように熱狂的なファンクラブの妨害が入らない相手だ。
「こんにちは。星伽さん」
「あっ。こんにちは。えっと」
星伽白雪。どういった人物であるかは大体ではあるが把握している。
知り合いならまだやりやすい。冗談を言って驚かせる相手は白雪にすることにした。
そういえば理樹にとって白雪は顔見知りでも、白雪にとっては今の女装は初対面だ。
女装本人だって女としての名前を考えていないのだから、白雪だって女装の名前だって知らないだろう。
そのことを思い出した女装はいきなりの世間話で考えてもいない名前をごまかすことにした。
「星伽さん。アドシアードでは大変だったそうですね」
「はは。でも、私も大切なことを気づけたからいま思えばよかったよ。今日はキンちゃんと一緒に朝食作ることができたしね」
白雪の口から遠山君のことが出てきた。白雪は普段初対面の人間にそんなことをいう人ではない。何やら浮かれているようにも見える。女装は知らなかったが、今日白雪はキンジにお前は大切な幼なじみで、感謝だってしていると彼の口から直接聞いたばかりなのだ。ついつい浮かれてしまっていても仕方がないだろう。
(遠山君? そうだ! 真人に筋肉があるように、星伽さんと言えば遠山君じゃないか!?)
二人は幼なじみだ。
冗談を言って驚かせてしまっても、すぐに嘘だと見抜いて笑ってくれるに違いない。
理樹だって真人の冗談をすぐに見抜ける。
何よりこれは女子同士のたわいもない会話ということになっている。
多少誇張しても問題ないだろう。
「そうだ、星伽さん」
「ん?何?」
「実は私―――――遠山君とお付き合いしてるの」
「そう」
アハハ、と二人して笑う。女子同士ってのも案外気楽なものに思えてきた。
現に白雪だっていつもと変わらず、いやいつも以上の笑顔でニッコリと微笑んでいた。
「えっと、何さんだっけ?」
「遠山君の彼女さんですよ」
名前を考えていなかったため強引にごまかした女装は、白雪の口からこんな言葉を聞いた。
「―――――――――――モウ、イチド。イッテモラエルカナ」
●
神崎・H・アリアは突如連絡を入れてきた友人が最初何を言っているのか分からなかった。前に本人からこれからボストンに観光―――――仕事に行くとか言っていた。とってつけたような誤魔化しに意味がないことをわかっているはうなのに、わざわざ隠そうとしないのも潔い。数少ない友人来ヶ谷唯湖はもともとぶっ飛んだことを言うような人間であったが、それでもなおよくあることだと済ますことはできなかった。
・名探偵『リズ、もう一回お願い』
・姉 御『じゃあ要望に応えてもう一度言うぞ。明日の0時から
さあ、人数を増やして地下迷宮に再チャレンジです。
二人一組三ペアの六名とのこのですが、誰が来るかの予想はつくと思います。
ところで……おい主人公!お前!ちゃんと参加できるんだろうな!?
病院のベッドで寝たきりになったりしないよな!?
作戦参加メンバーにこの時点で確定しているのはアリアだけだという……どういうことだ?
最後に一言。
草薙先生ごめんなさい、また村上会長が暴走しました。
では!