Scarlet Busters!   作:Sepia

69 / 124
Mission69 火刑台上のジャンヌダルク

明日の0時から二人一組(ツーマンセル)三組の計六名でイ・ウー主戦派(イグナティス)の魔術師のアジトに殴り込みをかける。『機関』の仲間からそういう連絡を受け取った朱鷺戸沙耶は彼女のパートナーとして作戦に参加する直枝理樹と一緒に集合場所である諜報科(レザド)の校舎の前に来ていた。何時の間に決まったことであるのかなど色々と聞きたいことはあったが、文句を言っていても詳しいことは言えないとか言われたのでおとなしく指示に従っておくことにした。0時から行動開始ということであり、それまでに集合というなんともまあズボラな待ち合わせであった。三十分前には沙耶は理樹と共に集合地点へとやってきたがいまだに誰も来ていない。これが巧妙な(トラップ)であるという万が一の可能性も考慮して彼女無条件に安心するつもりが起きないのはスパイとしての性分なのだろうか。良くも悪くも素直な人間である理樹は罠の可能性なんか考慮せずに前向きに考えそうなものであるが、

 

「怖かった……怖かったよう」

 

 今の彼は前向きとはとても呼べないものになっている。

 膝を抱えて体育座りでうつむいている。声も震えていて鬱モード全開だ。

 聞けば星伽さんを対象にカードの指令である『冗談を言って驚かせる』ことを行ってみたところ、彼女に笑顔のまま切りかかられたらしい。なんとか自力で星伽さんから逃げ切ることに成功したものの、命綱など一切なしにして三階の窓から飛び降りる羽目になってしまったときはここで死ぬのかなと正直に覚悟したとか言っていた。どうやら今の理樹はその時の星伽白雪の恐怖が現在進行形でよみがえっているみたいだ。おそらくよほど怖い目にあったのだろう。ちょっとだけ申し訳ないことをしてしまったのかもかもしれない。それにしてもこの男、今日一日だけでも魔術師のアジトに突入して罠にかかり落とし穴に落ちて夜の冷たい海へと叩き落されたりイ・ウー研磨派(ダイオ)のスパイに誘拐されたりレキ様ファンクラブRRRに狙撃されたりと命にかかわりそうな散々な目にあっているはずなのだがその中でも一番怯えているとうな気がする。やだ、女って怖い。

 

(……さて、どうしたものかしらね。あいつ(・・・)はこの作戦に参加するメンバーについての信用に関しては心配ないって言ってたけどさ)

 

 自身の相棒が現在使い物にならないので沙耶は一人で作戦のことを考えることにした。今から約三十分後に殴り込むということであるが、そもそもこの作戦を考えたのは沙耶ではないのだ。この作戦のことは沙耶と同じく東京武偵高校に通っている『機関』の仲間から聞かされた。あいにく()は今東京武偵高校の外に出ているので詳しいことは聞くことができなかった。どういうことかと問い詰めようにも電話では切られたらおしまいである。詳しいことは聞けてない。詳細を聞いたところで今回の作戦の仲間とも実際に面と向かって打ち合わせをしてみないことには分からないが。とはいえ今後どういったことが実際に起こり得るかをシュミレートしてみると、沙耶は近づいてくる二つの気配を確認した。

 

「アンタも今回の仲間?」

 

 沙耶に話しかけてきたのは長いピンクのツインテールの髪型をしている赤紫色(カメリア)の瞳を持つ人形のように愛らしい美少女。

 強襲科(アサルト)の第二学年の首席、神崎・H・アリア。

 その隣にはちょっとだけ暗そうな雰囲気を持つものの、堂々と彼女の隣に立っている少年がいる。

 沙耶はアリアと直接会話をしたことなどないがアリアは有名人だ。彼女にパートナーができたなんてことになったらすぐに噂として広まるのは仕方のないことである。従って、アリアの隣に立つ少年が誰かもわかる。

 

「神崎さんと遠山君ね。間違いないかしら?」

「ええ、アンタは?」

「あたしは諜報科(レザド)二年の朱鷺戸沙耶。今回はイギリス清教からの依頼を受けて今回の作戦に参加することになったわ。今回はよろしくね」

 

 もちろん沙耶が作戦に参加することになった経緯にそんな事実なはい。が、『機関』の仲間からの連絡により、そういうことにしておくことになった。キンジとアリアにとって初対面である沙耶を信頼させるためにはそれに値するだけの立場をはっきりさせておく必要がある。でも、沙耶としてもこの作戦のためだけに自身が『機関』のエージェントであると打ち明けたくはない。それに『機関』などという具体性のない名前とどこぞの厨二病科学者の普段の言動のせいで打ち明けたところで『厨二病、乙!』とか言われそうだ。あの野郎くたばればいいと思う。

 

 ともあれ、実際のところイギリス清教からの依頼を受けてということならば信憑性的にも合理的だ。

 今回沙耶のパートナーである直枝理樹の所属するチームにはイギリス清教の人間がいる。

 口裏を合わせることもたやすく、何より自然な形を装える。

 

「そう、あんた今回の作戦のことどれだけ知ってる?あたしはリズ―――――――――ある人からの連絡を受けてきたんだけど、集合時間と場所と人数くらいしか聞けなかったものだからね。ミッションの内容を確認しておきたいんだけど」

 

(……リズ?エリザベスのことかしら?となると、この二人は正真正銘のイギリス清教からの推薦ということになるわね。理由は教えて貰えなかったけど、あいつ(・・・)がメンバーは信用できるといった理由がそれか)

 

 仲間だと思っていた人物が実は敵だったとかなったら正直シャレにならない。

 けれどアリアとキンジの場合はその心配はなさそうだと沙耶は判断した。

 となると、問題はあと二人。一体誰が来る?

 

「生憎だけど、この作戦の立案者はあたしじゃない。むしろあたしが聞きたいくらいよ。そもそも二人一組(ツーマンセル)としてあなたたちが来ることも今まで知らなったわ」

「そういえば、アンタのパートナーは誰?」

「あれ」

 

 アリアに聞かれたので沙耶は自分のパートナーである体育座りを指さしてた。一応隣にいたはずなのだか理樹のあふれる白雪恐怖症(ネガティブオーラ)が夜の背景と完全に一致して気が付かなかったのだろうか。キンジは変わり果てたルームメイトを見て動揺を隠せなかったみたいだ。

 

「な、直枝」

「……ッ!!」

 

 キンジに名前を呼ばれた理樹は体をビクンッ!!と小動物のように震えさせる。

 理樹のすがりつくような瞳を見たキンジは柄にもなく可愛いと思ってしまった。

 いったいこいつに何があったんだ?キンジはそう思わずにはいられなかった。

 

「誰が来ると思う?」

「相手は魔術師なんでしょ?だったら強力な超能力者(ステルス)だとかかしら」

 

 アリアが強力な超能力者(ステルス)といったところで理樹の肩がまたビクンッ!と震えた。

 そして今にも泣きだしそうな顔を沙耶に向けた。

 

「きょ、強力な超能力者(ステルス)って……ほ、星伽さんとか来るのかな?」

 

 超能力者(ステルス)と聞いて真っ先に理樹が連想したのは白雪である。

 謙吾は超能力者(ステルス)というよりは魔術師に近いし、何より怪我がまだ治りきっていない。

 それに白雪ならばキンジとアリアとの連携も取りやすい。

 自分の中でほぼ確定的だという結論を出した理樹の顔は暗い中でも分かるくらいに蒼白になっていた。

 けど、キンジが否定する。

 

「いや、白雪は来ないと思おうぞ」

「……え?」

「さっき会ったときにはそんあそぶりは見せなかった。むしろ、『あの女誰!?』とかいうわけが分からないことを言われたな。あまりにもしつこかったから置いてきたけど」

「……ふうん。キンジ、その話詳しく聞かせてもらおうかしら。アンタまた女の子誑かしたのね」

「だから心当たりがないんだって。俺はお前から呼び出されるまでは俺と武藤と不知火に平賀さんの四人でトランプしてたんだからな」

「ホント?」

「あいつらに確かめてもらってもいいぞ。実際本当のことだし」

 

 アリアの機嫌が徐々に悪くなっていく一方で、理樹はパァーッとひまわりのような明るい笑顔を見せるようになった。もとの前向きな明るさを取り戻した理樹は体育座りから変形(トランスフォーム)し、立ち上がる。

 

「もう、なにも、怖くなんてない!! 魔術師だろうがなんだろうが何でもかかってこいッ!」

「こいつ何があったのよ」

「聞かないであげて」

 

 不思議がるアリアとキンジとは違い、沙耶はあきれたような視線を理樹へと向ける。

 今の理樹にはそんな視線など怖くもなんともないようだ。

 まあ、沙耶としては今回の作戦のパートナーが無事(?)に復活してくれて何よりである。

 

「じゃあ一体誰が来るんだろうね?」

「一人は二木さんでしょうね。おそらく彼女が今回の作戦の立案者。後は誰を連れてくるのかということだけど……」

 

 ひょっとしたらイ・ウー研磨派(ダイオ)のスパイを名乗ったあの狐の仮面の人物が来るかもしれない。

 あのバケモノじみた戦闘力を誇る奴が来てくれたら厄介ではあるが百人力だ。

 そんなことを考えていた沙耶であったが、すぐに思考を中断しなければならないはめになった。

 近くからハーモニカの音が響いてきたのだ。このメロディーはどこかで聞いたことがある。

 それは一体どこで聞いたものだったか。

 

(……あ、思い出した。アルテュール・オネゲルが作曲して舞踏家のイダ・ルビンシュタインに捧げられたものだったわね)

 

 近代フランスの作曲家の一人、アルテュール・オネゲル作曲の劇場聖譚曲(オラトリオ)

 確かそのタイトルは―――――――『火刑台上のジャンヌダルク』。

 ハーモニカによるセルフBGMとともに姿を現したのは、

 

「ジャ、ジャンヌ!?」

 

 先月のアドシアード期間中に星伽の巫女である白雪を誘拐し、地下倉庫(ジャンクション)にてアリアたちと戦った『魔剣(デュランダル)』ことジャンヌ・ダルク30世。

 

「どうしてアンタがここにいるのよッ!」

 

 アリアはすぐに二丁拳銃のガバメントを抜いてジャンヌに向けるが、東京武偵高校の女子制服を着ているジャンヌは応戦の構えを取らなかった。細長い二本の銀髪おさげを頭の上でまとめたジャンヌは切れ長の碧眼をアリアではなく、アリアの背後にいる人物へと向けた。

 

「私が持ちかけた司法取引よ」

「ッ!」

 

 後ろを振り向くと、発言者がすぐ後ろにいた。いつの間にか人の気配に敏感なアリアの背後をとっていたようであるが、今の今まで気が付かなかったことにアリアは驚愕せざるを得ない。

 

「いつ近づいてきたの?」

「そこのジャンヌ・ダルクがセルフBGMを吹いている最中よ。普段デスクワークばかりやっていたから心配だってけど、ジャンヌが気を引いていてくれたことを差し引いても強襲科(アサルト)の首席を出し抜けたのだから、どうやら私もまだまだ捨てたものではないみたいね」

 

 片手を腰に当て、澄ました顔でそう言う少女の名は二木佳奈多。

 委員会連合に所属できるだけの委員会を持っている若き風紀委員長。

 

(……ふうん、こいつがあの諜報科(レザド)の有名人か)

 

 佳奈多は今でこそ超能力調査研究科(SSR)に所属しているが、彼女は諜報科(レザド)での有名人である。佳奈多は中学二年の時点で諜報科(レザド)のSランクの資格を取り、中学時代にインターンとして一年間東京武偵高校で過ごした経緯を持つ。一時は暴力団やマフィアを潰しまくっていた。現在進行形で諜報科(レザド)に所属している沙耶は彼女に憧れているという話を後輩たちがしているのを何回か聞いたことがある。アリアが強襲科(アサルト)の後輩たちの憧れの的なら、佳奈多は諜報科(レザド)の後輩たちの憧れの的である。

 

「そこのジャンヌが受けた司法取引の条件の一つを大雑把に言うなれば東京武偵高校の生徒となり、生徒たちに危害を加えようとする輩から守ること。だから、ジャンヌが(・・・・・)あなたたちに危害を加えることはないから安心なさい。今のジャンヌはパリ武偵高校からの留学生、情報佳(インフォルマ)二年のジャンヌ・ダルクよ」

「それで、そんな似合わないセーラー服を着ているわけか」

 

 キンジはそう言うが実際のところジャンヌの制服姿はかなり様になっていた。

 もともとが美人ということもあって何を着ても似合うのかもしれない。

 似合わないといったのはせめてもの腹立ち紛れであったのだろう。

 

「私としても恥ずかしいのだぞ。なんだこの服は。いくら女性が拳銃を(もも)に隠すのがデリンジャーからの伝統だとしてもだ、未婚の女性はこんなにみだらに脚を出すものではない」

「ならあなたは一生ジャージでも穿いてなさい」

「一生!?おい待て佳奈多。それは私が一生結婚できないとでも言いたいのか!?」

「そんなことは言っていないわ。被害妄想が過ぎるんじゃない?それとも何、あなたはリサのように『仕えるべき勇者様が見つからない』とか言ってベッドの中で袖を濡らしているような人間だったの?魔女が聞いて呆れるわね」

「ほほう。諸葛の奴に口説かれた実績がある女は言うことが余裕に満ちているなぁ」

「あなたそれ、こないだの意趣返しのつもりかしら。仲間になれってしつこくて私だっていい加減迷惑してるのよ。ジャンヌの方でなんとかしといてくれない?あ、それも司法取引の内容にねじ込んでけばよかったか。失敗したわね」

「ちょ、ちょっと待ちなさい」

 

 佳奈多とジャンヌの間で繰り広げられる会話はとても昨日今日会った人間のものではなかった。互いの共通の知人と思われる人物の名前まで出して皮肉を言い合っている以上、この二人は以前からの面識があるということになる。

 

「アンタ、ジャンヌと知り合いだったの?」

「私は以前とある公安委員会で仕事していたことがあって、その時に不本意ながらアウトローとの面識ができてしまったの。イギリス公安局に所属していたことがある神崎さんならなんとなく理解できるのではないかしら」

「その一つがイ・ウーってわけね」

 

 アリアを遮り、沙耶は佳奈多に言葉を紡ぐ。

 突如出されたイ・ウーの名前にアリアもキンジも、そしてその言葉を口にするとは思っていなかった理樹でさえも沙耶の方に向く。

 

「さっきあなた、そこのジャンヌが(・・・・・)私たちに危害を加えることはないって言ったけど、

もう一人の方はどうなの?」

「もう一人?」

「東京武偵イ・ウー研磨派(ダイオ)のスパイ。こいつは無害であることの証明が私たちにとって最優先事項よ」

 

 アリアはジャンヌに視線を向けた。イ・ウー研磨派(ダイオ)のスパイがいることはアドシアードで分かっていたが、その正体は依然として不明だった。知る手がかりはも何も残っていないとすら思っていたがだけに、アリアは今ここでそのことが言及させるなんて予想だにしなかった。

 

「あれは無視しても構わないわ」

「なぜ?」

「そこのジャンヌは勿論のこと、私もそいつの正体を知っているからよ。あえて言うなれば、あいつに魔術師の情報をなんでもなんでもいいから集めてくれとお願いしたのはこの私でもある」

「「……は?」」

 

 実際に対面した理樹と沙耶にはその心当たりがないわけではない。狐の仮面の人物は、理樹を誘拐こそしたものの取り立てて拷問などはしてこなかった。沙耶との戦闘になった時でさえ防御に徹してさっさと退散を決め込もうとしていた。あれからまた監視しているのではないかと疑い、スパイ排除大作戦を物は試しで行ってみた沙耶が出した結論は理樹は誰にも監視などされてはいないというものだ。

 

「なら今は味方……ということにして一応納得はしておきましょう。けど、それなら今この場にいない理由は何?」

 

 認めたくはないが、あの狐の仮面のスパイの戦闘能力は非常に高い。

 いくら沙耶の体調が本調子ではなかったことを差し引いても軽くあしらわれたのもまた事実。

 味方だというのなら一緒に戦ってくれたら相当な戦力になることは間違いないのだ。

 

「必要ないからよ」

 

 そのことは佳奈多も重々承知しているはずなのに、彼女はいらないとバッサリきった。

 

「探索範囲が広くて私とジャンヌの二人だけだと苦労しそうだから今回手伝ってもろうってだけであって、戦力的には私とジャンヌの二人だけで充分よ」

「これはまた大きく出たわね。じゃあもう一つだけ聞いてもいい?」

「何かしら?」

「あなた、昔は公安委員として働いていたことがあるっていったわね?なら、最年少公安0の人間の噂を聞いたことがある?」

「あ、それあたしもイギリス公安局で仕事してた時に聞いたことがある。なんでも、日本の公安0にあたしと同い年の凄腕公安委員がいるって」

 

 狐の仮面の人物の正体を沙耶が考察した時、一つの仮説が生まれた。

 ジャンヌ・ダルクがアドシアードで捕えられたにも関わらず、同じくイ・ウーのメンバーであるあのスパイが捕まらずに未だ東京武偵高校に在籍していられ理由を思いついた。

 

 ――――――あいつ、多重スパイなんじゃないか?

 

 立場上は味方ということになっているから捕まらなかったのではないか。

 そういう予測が立てられた。

 実際に対面して沙耶の攻撃を軽く流したあの戦闘力を目の当たりにし、それができる人間が思いついた。

 

 公安0。

 

 強襲科(アサルト)のSランク武偵どころか、もう一つ上のランクに届くであろう人間なんてそうはいない。

 そして、ある噂があったのを思い出す。

 最年少公安0の話。なんでも中学三年生の時点で公安0の一員になったという鬼才がいるらしい。

 これは『機関』が集めた情報の中にあった眉唾物の話の一つだ。

 そいつがこの東京武偵高校に生徒として紛れ込んでいるのではないか。

 あくまでも憶測の息を出ないもののごく僅かな可能性の一つとしては考えられると沙耶は踏んだ。

 

「公安0はそもそも警察とも命令系統自体が違うわ。だから、公安委員をやっていたといってもそう会うことなんてないわ。第一、奴らは自分が公安0の一員だと主張してこないし。どうして?」 

「……いや、なんでもないわ」

「そう。なら行きましょうか」

 

 話すことは終わったと佳奈多とジャンヌは歩き出し、アリアとキンジもそのあとに続く。

 沙耶もついていこうとしたが、不安そうにしている理樹に気が付いた。

 

「どうしたの?」

「いや……大丈夫かなって」

 

 この六名の中では、おそらく理樹が敵のアジトに突入するといった経験が少ないはずだ。

 キンジだって昔は強襲科(アサルト)の首席候補とまで言われた男だし、佳奈多とアリアなんてその手のプロの公安委員をやっていたことがある。『機関』のエージェントである沙耶に至っては今でもよくアジトに突入なんてことはザラにあることだ。

 

「空を見なさい。今日は星がきれいね」

 

 そういわれた理樹は夜空を見上げた。雲一つかかっておらず、一番星がひときわ輝いている。

 

「……きれいだね」

「そうね。夜空は心を落ち着かせてくれる。それに今日は星が輝いている。だから、不安だったら星空へと願いなさい。雲一つかかっていないのだから、きっとその願いは届くわ」

「朱鷺戸さんって……割とロマンティストなんだね」

「ほっときなさい。ほら、私たちも行くわよ」

 

 理樹と沙耶もこれから敵のアジトへと向かうことになる。

 星空を見上げたからだろか、どういうわけか二人の心は落ち着いていた。

 

 

        ●

 

 同時刻。

 『機関』が経営しているとある老人ホームにて一人の少女が目を覚ます。

 神北小毬。

 先日流れ星を見に行ってから寝込んでしまい、それから一向に起きてこなかった少女。

 彼女は二日ぶりに目を覚ましたことになるが、今の彼女の瞳は以前の太陽のような輝きはない。

 右手で自身の頭を抱え、上半身だけベッドから起き上がった状態で小さくつぶやいた。

 

「思い出した。思い出したよお兄ちゃん」

 




佳奈多が仲間に加わった!
ジャンヌが仲間に加わった!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。