Scarlet Busters!   作:Sepia

7 / 124
Mission7 昔馴染み アリア&来ヶ谷

 

「てめえ!! なんだと!?」

「単細胞の筋肉は黙ってろ!!」

 

 真人と謙吾は仲が悪い。彼らは今日も喧嘩する。

 でもそれは『喧嘩するほどなんとやら』であり、当人達はともかく、端から見ていてほほえましいものである。彼らは今日もどうでもいいことで喧嘩していた。

 

「・・・ねえ、いい加減喧嘩よしたら?」

 

そんな光景を見るのは日常茶飯事だとはいえ、理樹はとりあえず止めなければならなかった。

なぜなら―――――、

 

(・・・真人と謙吾が喧嘩するのはいいけど、大方の被害は僕にくるんだ!!)

 

 喧嘩とはいえ小学生二人のほほえましい喧嘩ではないのだ。

 強襲科(アサルト)の単細胞たちみたいに実物の拳銃を押し付けあうような命の危険はない。

 一応、真人は拳を、謙吾は竹刀をもっているから、けど、

 

(・・・真人の拳も、謙吾の竹刀も正直言って洒落にならない!!)

 

 過去の実績をあげてみよう。

 教室大破、プール大破、道場大破、廊下大破。

 結論から言って必ず『大破』におちつくのだ。

 ここでの最大の問題は、

 

(・・・二人が大破したものを片付けるは、たいてい僕の仕事になってしなうんだよ!!)

 

 二人が理樹に仕事を押し付けるようなことをするのではない。

 二人に任せたら、また喧嘩が起きて原型をとどめなくなってしまうのだ。

 結果、理樹が介入したほうが手っ取り早い。

 

「みんな喧嘩とめるの手伝ってよ!!」

 

 Fクラスのクラスメイト達にそう呼びかける。そしたら、

 

『いまレキ様の写真公表会やってるんだ。邪魔するな』

 

 と、同じ教室にいて、みなさま落ち着いて自分のしたいことをしていらっしゃる。

 ところで鈴さん?

あなたはなぜ僕の手伝いではなくて、村上君たちが持っているレキさんの写真を見ているのですか?

 

「・・・ええい、こうなったら恭介を探すか・・・」

 

 真人と謙吾の喧嘩を止められるのは恭介しかいないことは分かっている。

 幼いときからのルールとして、『恭介がいないときに本気の喧嘩は禁止』というものがある。

 

(さて、二人の喧嘩の度合いは――――)

 

 理樹は視線を向けた瞬間、レキの写真に見入っていた変態集団に物体が飛んでいった。

 

『な、なんだこれは!? 机か!?』

『レキさまの写真は無事か!?』

『た・・・大変なことになった。少々しわが付いてしまった!?』

『なにい? 何してるんだお前は!?』

 

 わりと本気のようだった。というかこれでいいのかFクラス。

 真人と謙吾の前に、このクラスを何とかしなければならないと思う。とはいえ、

 

「恭介を急いで探しに行こう」

 

 真人と謙吾の喧嘩がおきることは恭介がいることを意味している。

 急いで理樹は探しに向かった。

 

               ●

 

 

 

 中庭に入る。恭介は依然として見付からない。

 

「恭介・・・どこ行ったの・・・」

 

 心が挫けそうになる。

 ここは覚悟を決めて一緒に罰則を受ける気持ちでいたほうがいいかもしれない。

 すると、

 

『こっちだ、少年』

 

 呼びかけてくる声がする。振り返るっても誰も見えない。

 声だけ聞こえてくるなんてホラーかと、正直思った。

 でも待とうか。僕はこの感覚に覚えがある。たしか・・・

 

『どこを見ている、こっちだ』

「いや、声で正体は分かってるんだけど・・・・出てきてよ、来ヶ谷さん」

『もう出てるけどな』

 

 いきなり背後から声がした。

 反射的に振り返ると、大人の雰囲気が漂う女性が一名。

 来ヶ谷唯湖。理樹のクラスメイトだ。

 

「うわっ!」

 

 理樹が驚くのも無理はないだろう。

 なにしろ、さっきは声が後ろから聞こえたと思って振り向いたら、実際は正面にいたのだ。

 勘違いで済ますには武偵としては致命的だ。

 気がついたら背後をとられていて銃を突きつけられていましたなんてシャレにならない。

 

「今のは『横や後ろばかりではなく、前を向いて生きろ』ということを示唆してみたわけだが」

 

 このように来ヶ谷さんはつかみどころのない女性で、正直何を考えているのかよく分からない。真人や恭介の考えていることが意味不明なのは彼らがバカだからであり、バカの思考を読みきれないからであるが、この人は純粋に何がしたいのかが理解できない。

 

 天才、というのは彼女に似つかわしい表現だろう。

 

「どうしたんだ? そんなに驚いて」

「いや・・さっき来ヶ谷さんの声が後ろから聞こえたような気がするんだけど・・・」

「なんだ? 幻聴か? それはよくない傾向だな。保健室でも行って見てもらうといい」

 

 はあ、と頷くしか出来ない。

 

「さっきバカ二人と棗兄弟が走っていったが、また何かやってるのか?」

「うわ・・・恭介、もう止めに入ったんだ」

 

 入れ違いが起きてしまった。

 

「ごめん来ヶ谷さん。僕はもう行くよ」

 

 理樹も急いで現場に行こうとしたが、ガスッ!!と肩をつかまれる。

 

「待て、君はここでゆっくりとして行くといい」

「え、でも……」

「……」

「どうしたの?」

「いや、私はどうして君がそんなに懸命なのかと思ってな」

「……どうして? とうぜんじゃない?」

 

 来ヶ谷さんの言いたいことがよく分からない。

 

「今までいろんなバカ連中を見てきたが、君にはあの本能的バカ二人を止める事はできないだろう」

 

たしかにそうだ。でも、

 

「・・・友達だしさ。協力するのは当たり前じゃない?」

 

 思ったことを正直に口にする。

 言いたいことが伝わるかは微妙だと思ったが、来ヶ谷さんは満足そうだった。

 

「そういえば、先ほど面白いことを聞いたんだ」

「何?」

「あのアリア君が来てるんだって?」

 

 

         ●

 

 強襲科の生存率は97%だ。

 まあ、必ずしもそうではないし全員が卒業できた年もあるにはあるらしい。

 遠山キンジは強襲科に帰ってきた。もう二度と帰らないと決めていたのに帰ってきた。

 これもすべて、

 

(……あの野郎のせいだっ!!!)

 

 キンジは先日の直枝の裏切りを思い出す。

 井ノ原と一緒にどこかに行きやがったため、一人で寮の自室(元々理樹&真人の部屋)に戻る羽目になり、『変態』の烙印を押された挙句に、一度だけだが一緒にチームを組むことになってしまった。

 

(俺は武偵なんてやめてやると決めているのに……っ!!)

 

 けど、なんで帰ってきてしまったんだろう。

 きっとあの疫病神(アリア)のせいだ。そう心に刻んでおく。

 憂鬱を隠し通すことも出来ずに懐かしの強襲科(アサルト)の扉を開けると、

 

『おーぅ! キンジ! お前は絶対帰ってくると信じてたぞ!さあ、ここで1秒でも早く死んでくれ!』

「まだ死んでなかったのか夏海。お前こそ俺よりコンマ1秒でも早く死ね」

『キンジぃ! やっと死にに帰ってきやがったか! お前みたいな間抜けはすぐ死ねるぞ! 武偵っていうのは間抜けから死んでいくからな』

「じゃあ、なんでお前が生き残ってんだよ」

 

 昔は有名人だったからか、早速囲まれる。

 死ね死ねと連呼するのはいじめ問題に繋がりかねないが、武偵高では強襲科(アサルト)流のあいさつなのだ。

 つまり、『死ね死ね』と言うのが『おはよう』や『こんばんは』と同義ないかれた場所。

 そこがかつてキンジがいた場所、強襲科(アサルト)

『死ね死ね団』という愛称までついている。

 

 

「キンジぃ! 俺は嬉しいぜ! さあ、死の世界にGOだ」

「何言ってんのか分からねえよ! お前こそ爆発に巻き込まれて死ね」

 

 正直放っておいてくれ。そう思っていると、

 

「キンジ」

 

 呼びかけてくる声があった。

 キンジが顔を上げると校門の前にいたアリアがこちらにかけてくる。すると、

 

「じゃ、じゃあなキンジ」

「は、早く死ねよ!!」

 

 彼らはアリアの姿をみたら、急によそよそしくなって消えていった。

 

「あんたって人付き合い悪いし、ちょっとネクラ?って感じもするんだけどさ。ここのみんなはあんたには一目置いてる感じがするんだよね」

 

 ずばっと言ってくれた。

 

(そうだな、それは入試の時のあれを覚えてるからじゃねえか?)

 

 昔のことを思い出す。

 白雪でヒスってしまったあの日。俺のここでの黒歴史の始まりの日。

 

「あのさキンジ」

「なんだよ」

「ありがとね」

「何をいまさら・・・」

 

 アリアは小声ながらも心底うれしそうにする。

 

「勘違いするなよ。俺は仕方なくここに戻ってきただけだ。事件を1件解決したらすぐに探偵科に戻る」

 

 これがキンジの出したの条件。最大限の譲歩。

 

「分かってるよ。でもさ」

「なんだよ?」

「強襲科の中を歩いているキンジなんかかっこよかったよ」

「…………」

「あたしになんか強襲科(アサルト)では実力差がありすぎて誰も近寄って来られないのよ。昔は能力的に合わせることができた人もいたんだけど、方針の違いで喧嘩したことがあっちゃってね。まあ、あたしは『アリア』だからそれでもいいんだけど」

「お前は強襲科(ここ)で浮いてるような感じだったが、友達がいたのか?」

「昔はね。でも今どこで何してるかも知らない。派閥が変わっってしまったから。『アリア』って、オペラの『独奏曲』って意味もあるんだよ。1人で歌うパートって意味なの。1人ぼっち・・・あたしはどこの武偵高でもそう。 ロンドンでもローマでもそうだった。前に実力で組めるやつもいたんだけど、結局私と組んでくれそうな人はいなかった」

「それで俺を奴隷にしてデュエットにでもなるつもりか?」

 

 言ってやる。キンジには完全に皮肉のつもりだった。

 するとアリアはクスクスと笑った。

 

「あんたおもしろいこと言えるじゃない」

「そうか?」

「うん」

「キンジは強襲科に戻った方が生き生きしてる。昨日までのあんたは自分に嘘をついているみたいで苦しそうだった。 今の方が魅力的よ」

「そんなことは……ない」

 

今度は言い切れなかった。だからキンジはアリアを振り払うように、

 

「俺はゲーセンに寄っていく。お前は1人で帰れ! ていうかそもそも今日から女子寮だろ。一緒に帰る意味がない」

「バス停までは一緒ですよーだ!!」

 

 アリア嬉しそうに無邪気な笑顔を見せた。

 

「ねえ、ところで『げーせん』って何?」

「ゲームセンターの略だ。 そんなことも分からないのか?」

「帰国子女なんだからしょうがないじゃない。 じゃあ、あたしもいく。今日は特別に一緒に遊んであげるわ。ご褒美よ」

「いらねえよ。そんなのご褒美じゃなくて罰ゲームだろ」

 

 あ!?という鋭い眼光により結局、二人でゲームセンターに行くことになった。

 

 

         ●

 

「かわいー・・・」

 

 クレーンゲーム。

 その商品の可愛さにうっとりしていた。その愛らしさに思わず、

 

「やってみるか?」

 

 キンジは声をかけていた。アリアの顔がぱっと輝く。

 

「できるの?」

「やり方を教えてやろうか?」

 

 やり方を教えてやる。けど、取れない。

 アリアは今度こそ本気の本気と何度も言いまくっていた。

 

(ハハハ、取れないんだな?)

 

 ズイっと前に出てアリアをどかす。

 プライドの高いアリアは当然のごとく反発するが強引に押しのけた。

 だが、その願いはかなわずに、キンジの操るクレーンは人形を掴みあげる。

 

「キンジ見て!2匹釣れてる。キンジ放したらただじゃおかないわよっ!!」

「もう、俺にどうこうできねえよ」

 

 取れた。それも二体。

 

「やった!」

「っしゃ!」

 

 無意識に本当に無意識にパチイと俺達はハイタッチしてしまう。

 

「「あ」」

 

 目と目が合い二人はは目を背けた。

 

「ま、まあ馬鹿キンジにしては上出来ね」

 

 アリアは取り出し口から人形を2匹わしづかみにし取り出し、

 

「かぁーわぁいいー!」

 

 ぎゅうううと 人形を思いっきり抱きしめている。

 この子も年相応の女の子なんだなと思った。すると、

 

『うむ。相変わらず元気そうで何よりだ』

 

 気配は突然やってきた。声がなければ完全に気がつかなかっただろう。そいつは突如アリアの背後に現れる。キンジは思わず銃を手に取ろうとしたが、そいつの方が動きが早かった。

 

「誰!?」

 

 アリアも慌てたようだ。仮にもSランクの称号は単なる飾りではないのだ。

その彼女を持っていままで接近してきた人物に気が付かないというのは相当の大物であることを意味する。

 

(……相手の目的は何!? こんな場所で何かをしでかそうというの!?)

 

 背後を取られている以上不利はどうしようもないが、せめて背後に隠している刀で迎撃をしようとして。

 

『……白、か』

 

 変質者にスカートをめくられた。ゲームセンターにアリアの悲鳴が響き渡る。

 

 

           ●

 

「なにやってるのさ、来ヶ谷さん」

 

 直枝理樹はあきれ果てていた。

 もうちょっとまともな行動は取れないのかと。

 才能の無駄使いだった。

 

「久々の友人との再会なんだ。ちょっとしたインパクトがあってもいいだろう。サプライズだ」

 

 今しがたアリアのスカートをめくった変質者、もとい、来ヶ谷唯湖は笑っていた。

 はっはっはと笑っていた。

 

「すまないなアリア君。君がおもしろいことやってると聞いて様子を見に来たんだ。私とはずいぶんと久しぶりになるのかな?」

 

 来ヶ谷唯湖はイギリスの帰国子女。つまり、アリアと同じ。

 彼女は武偵の免許はイギリスでとったイギリス武偵だと聞いたことがある。

 イギリスからの仕事をやってた関係上、一年生の時のの後半に転校してきたアリアとは日本で会えないでいた。

 

「え……あなたまさか……リズ?」

「やあアリアくん」

 

 リズと呼ばれた少女はアリアの右手を握り、彼女の手に唇を重ねた。

 イギリス的な挨拶である。

 来ヶ谷は笑いながら、アリアは恥ずかしさに顔を真っ赤にしながら。

 

「ところで来ヶ谷さん。質問いい?」

「なんだ?」

「リズって何?」

 

 理樹は疑問を口にする。

 すると、アリアのほうから返答があった。

 

「イギリスで優秀な人間はミドルネームを女王からじきじきにもらうことがあるわ。イギリス時代には『エリザベス』という名前が付けられた。私の『リズ』は愛称の一つよ」

「リズべスと呼ばれることの方が多いけどな」

「へぇ」

 

 アリアは淡々と説明する、けどその様子は、

 

「リズ!! 久しびりね!! 元気してた?」

 

 誰もがとてもうれしげに見えた。

 

「ねえねえいつから日本にいたの? 強襲科には在籍してないわよね?いま何してるの?」

 

 樹にはアリアが小さな子供にも見えた。

 来ヶ谷さんはハハハと笑い。

 

「・・・心配なさそうだなアリアくん。今はほら、私のことじゃなく」

 

 来ヶ谷さんはアリアを見て、安心したような温かい笑みを見せ、クレーンゲームに向き直らせる。

 ほら、と彼女はいう先に、アリアは見た。

 キンジと二人でゲットした人形があることを。

 

「キンジ!」

 

 喜んでアリアは人形を押しつけてた。そして言った。

 

「2人で分けましょう」

 

 釣り目気味の細目をにっこり細めたアリア。キンジは不覚にもドキッとしてしまう。

 

「なんだか悔しいけどな」

 

 負け惜しみのようなことを言いながらキンジは受け取り、それが携帯のストラップになっていると気づく。

その段階で、

 

「あれ?来ヶ谷さん、もう行くの?」

「ああ。もともと様子を見ても声をかけるつもりはなかったんだ」

「へ?」

「アリアくんがあの様子なら、心配も何もないだろう。じゃ、行こうか、少年」

「どこへ?」

「somewhere」

 

 二人は出て行った。

 何しに来たんだあいつら、と感じるキンジは半ばあきれながらも、無邪気に喜んでいるアリアと入手した人形を見て、

 

(・・・ま、いっか)

 

 遠山キンジはつかの間の安堵を手にしていた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。