Scarlet Busters!   作:Sepia

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遊☆戯☆王アーク・ファイブ TAG FORCE SPECIALをこの間購入しました。
仕方のないことだとはいえ、王様ボイスの違和感が半端ないッ!
どうか次の映画は風間さんが出演してくださりますように。
……いや、絶望的だとは思うけど。


Mission78 融合する砂化身

 

 

 アリアとキンジの武偵タッグの二人は今、必死に階段を駆け上っていた。

 なんでわざわざ来た道を引き換えるよなことをするかというと、仲間の援護に向かうためである。

 

「ハァ……ハァ……急ぐぞアリア!!」

「言われるまでもなく分かっているわよ。アンタはもうちょっとペースを考えなさい!そのままじゃ向こうに戻っても単なる足手まといにしかならないわ!」

 

 この地下迷宮には彼ら二人で来たわけではない。直枝理樹に朱鷺戸沙耶、それに二木佳奈多とジャンヌ・ダルクという二人一組(ツーマンセル)二組を加えた三ペア計六名できている。迷路を潜り抜けた後、大広間へとたどり着いた彼らを待ち受けていたのは50体に及ぶであろう砂で作られた怪物たちだった。キンジたちは、大広間にジャンヌと佳奈多を置いて先に進むこととなったのだ。

 

「もうちょっとでたどり着く。待ってろよ!!」

 

 残って全員で目の前に現れた砂の化身たちを相手にするはずだったが、合流されたら面倒くさそうなのがいるということで先に階段を下りてそいつを倒すことになったのだ。結果、ミノタウロスとかいう三メートル大の化け物と戦い、二人は勝利を手にすることができた。二人の連携によってつかんだ勝利であったが、あいにくと二人にそれを喜んでいられる時間はないのだ。片付いたというのなら、早く戻って仲間の援護にいかなければならない。武偵憲章一条。仲間を助け、仲間を信じよ。

 

「キンジ!そう慌てないで仲間を信じなさい!!キンジだって知っているはずよ!!あの風紀委員はアドシアードでリズの護衛として教務科(マスターズ)から任命されていたほどの実力者ということみたいだし、ジャンヌの強さは実際にあたしたちの目で見たわ。あの二人がそうそうやられるもんですか」

 

 キンジだってあの二人がやられると心から思っているわけではない。

 所詮はEランク武偵である自分が心配すること自体おこがましいほどの実力者たちであるのだと考えている。

 それでも、50体近い相手をたった二人で相手にするのは無茶を通り越して無謀だと思う。

 超能力者(ステルス)は強力な能力を使えはするものの、その分消耗だって激しいのだ。

 最初から全力で超能力を使って、バテて疲れ果てたことにより生まれた一瞬のスキを突かれる可能性だって0ではない。

 

 途中の分かれ道で別れた理樹と沙耶の方も心配だが、おそらく現時点で命の危機が大きいのはジャンヌたちの方だろう。アリアもすぐに加勢できるようにとすでに二丁のガバメントを手にしていたのだが、結論から言ってその必要はなかった。大広間に戻ってきたときにはすでに50体近くいたはすの砂の化身の姿は一体として見当たらなかったのだ。その代わりと言ってなんだが、砂の化身のなれの果てである砂は地面一面を覆うほどに存在している。

 

(あいつら、あれだけの数をたった二人で倒したの? しかもこの短時間だけで?)

 

 アリアは自分たちがこの部屋を離れてから戻ってくるまでの時間を考えても、いくらなんでも早すぎると思った。ジャンヌの冷気を操る超能力は時間稼ぎに使えるから、それでなんとかアリアたちが戻ってくるまでは持たせるつもりだと考えていたこともあるだろう。

 

「―――――――ジャンヌ?佳奈多?」

 

 二人と別れたはずの大広間には、砂の化身たちだけでなく、ジャンヌも佳奈多もいなかったのだ。敗北して連れ去られた、とかいう間抜けなことにはなっていないだろう。そうだとしたら、この一面を覆う砂についての説明がつかない。また、イ・ウーのメンバーであるジャンヌが裏切ってアリアたちをこの地下迷宮に閉じ込めた、ということもあり得ないだろう。帰るために佳奈多とジャンヌの二人が用意していたアリアドネの糸は、今もまだ大広間の入り口付近に存在している。ジャンヌが裏切ったのだとしてらこんな命綱同然の糸を残しておくわけがない。

 

「弾丸を温存出来て助かったけど……あの二人、いったいどこに行ったのかしら?」

 

 

    ●

 

 バフォメット。

 別名「サバトの山羊」。黒山羊の頭部とカラスの翼を持つ両性具有の怪物。

 魔女達に篤い崇拝を受ける悪魔とされ、、ローマ・カトリック教会に反発するサタン崇拝者の儀式である黒ミサ(サバト)に出張するのはたいていこのバフォメットの仕事であるとされている

 

 1300年頃に、十字軍で活躍した騎士修道会・テンプル騎士団が時の為政者フィリップ4世の糾弾を受けた際、彼等がこの悪魔の偶像を崇拝していた、と言う風評が元で広く世に知られるようになったという。

 

「元ローマ正教のお抱え錬金術師が、よりにもよってサタン系統の怪物を呼び出すなんて堕ちたものね」

「この世の心理を探究する。それは僕たち錬金術師の使命であり、本命です。科学者が行う実験と同じようなものですよ。ただ、技術として可能かどうか探究し続ける。そこには善も悪もありません」

「だから何をやってもいいとでも?冗談じゃない」

 

 どんな技術も使う人の意思しだいである。確かにヘルメスのいうことには一理ある。拳銃なんてその最もな例ともいえる。拳銃を何のために手に取るのかと聞かれた時、ある人は人の命の命を奪うためだと答えるかもしれない。けどまたある人は、誰かの命を守るために手に取るのだということだってあるだろう。原子力という技術だって同じだ。発電という形で莫大な恩恵を人々の生活に与えていると同時、一歩方向性が異なるだけで原子力爆弾という大量殺戮兵器と化す。確かに技術自体に善も悪もない。だけど、だからと言って何をやっても許されるわけではない。

 

「ヘルメス。アンタがどんな研究をしていようがアタシには正直言って知ったことじゃない。世界が変わるような世紀末の大発見でも目の前にしたというのならご自由に好きなだけやっていればいい。アンタ一人でやっている分にはあたしだって言うことやることに一々口出しすることもなかったはず。でも、あんたはあたしたちを巻き込んだッ!!アタシや小毬ちゃんから拓也さんを奪っていった!!」

 

 沙耶の口から突然出てきた小毬の名前。拓也という名前には心当たりがない理樹であったが、彼には拓也という人がどのような人物を指しているのか察しがついた。ついてしまった。小毬さんから聞いていた夢の中にだけ出てくる兄の話。小毬さんは大好きなお兄さんと、仲良しだったお友達と笑っている光景を夢に見るという。小毬さんのお兄さんというのは実在していたのだ。そして、夢に出てきた小毬さんと仲良しだった友達だというのは、

 

(―――――――朱鷺戸さんのこと、だったのか)

 

 実のところ、直枝理樹が朱鷺戸沙耶について知っていることなんて微々たるものでしかない。理樹と沙耶の関係は暗殺者の標的という命のやりとりからスタートしたため、どうしても彼女とはヘルメスの居場所を引きずり出すための作戦方針だとか生き抜くための情報交換のやりとりばかりとなってしまった。イ・ウー研磨派(ダイオ)のスパイを名乗った狐の仮面の人物が沙耶のことを超能力者(チューナー)だなんて称しているあたり、あんな得体のしれない人物の方が理樹よりも沙耶の理解度で負けている可能性だってある。いや、負けているのだろう。そもそも理樹は沙耶の言う『機関』という組織がどのようなものであるかすら聞いていない。聞いても沙耶は意味がないとして教えてくれなかった。

 

 結局のところ、直枝理樹は朱鷺戸沙耶という人物についてはまだ何も知らないのだ。

 それでも分かることもある。

 朱鷺戸さんは小毬さんのことも、拓也さんとかいう人のこともとても大切にしていたんだろうな。

 

「あたしにとって、アンタが砂を材料にした式神を使っていることも気に食わない。それはパトラさんの技術だッ!!!」

「かつては僕を殺そうとした砂礫の魔女も、今では僕に協力してくれていますよ。仮にも世界の変異ついて嗅ぎまわっている『機関』のエージェントをやっていたのなら知っているでしょう?『砂礫の魔女』というのはもはや砂場で地域の幼く無邪気な子供たちと一緒になって遊んでいたようなおめでたい奴ではなく、世界を自分のものにするための戦争を起こそうとした正真正銘の――――――」

「それ以上ッ!!あたしが大好きだった人たちのことをアンタが口にするんじゃないッ!!」

 

 沙耶は激情に任せてコンバット・コマンダーを発砲したが、銃弾はヘルメスにカツン!という金属音を響かせたまま地面に落ちていくだけだった。ヘルメスには銃弾は効かない。銃弾を無駄遣いすることになると分かっていてもなお、沙耶は自身を抑えることができないでいた。ハァ、ハア、と身体を動かしているわけでもないのに息を荒くしている。

 

「ヘルメス。アンタはそうやって神様気取りで精々高みから見下ろしているといい。すぐにアンタを表舞台へと引きづり下ろしてやる」

「そうですか。そのためにはまずは――――――こいつを止めないといけませんよ」

 

 今まで沈黙を保ってきた怪物が、バフォメットが吠える。咆哮というのはそれだけで威嚇の意味を持ち、人の動きを阻害させる。理樹は心情として気持ちが一歩、後ろへと下がってしまう。その間にヘルメスは次の行動を開始する。

 

「さらにもう一つ!!」

 

 そして、もう一度地面に手を置いたヘルメスは地面からもう一つ棺桶を出現させる。棺桶の蓋がパカッ!と開き、次に現れたのは巨大な一角を持つライオンであった。百獣の王といえば誰もがライオンを想定する。檻という安全装置のない状態でライオンを向き合うのはたとえ武偵であったとしても恐怖の対象となる。

 

「二体目ってこと?何体来ようが変わらない!!」

「それはどうでしょうか?」

「なに?」

 

 山羊の怪物であるバフォメットと、巨大な一角を持つライオン。本物のライオンが相手だとしたら、銃で射殺するしか理樹に取れる手段はない。だが、今の相手はあくまでも砂で作られた怪物。右手で一発当てることさえできれば粉砕できる超能力をば持っている以上、彼が警戒するべきは同時攻撃による対応のおくれのみである。ジャンヌと佳奈多が残って相手にしているような50体の砂の化身のように人海戦術でこられる方が理樹にとっては対応が困難になるこの二体で襲い掛かってくるのかと身構えたが、ヘルメスが取った手段が真逆ものであった。

 

「僕は、この二体で融合するッ!!」

「!?」

 

 二体の怪物の身体がゆっくりと砂へと戻りながら、一か所に集まってくる。そして集められた砂により新たな怪物が生み出された。ライオンの身体を基本としているが、頭が二つある怪物がそこにはいた。バフォメットの持つ羊の頭と一角のライオンの頭。それだけではない。バフォメットが持っていた白い翼がこいつにも生えているばかりか、しっぽは蛇になっていた。ヘルメスは融合すると言っていたが、まさしくこの怪物は先ほどの二体の特徴をそのまま受け継いでいるバケモノであった。

 

「キマイラ。その力で邪魔者を切り飛ばせ」

 

 キマイラと呼ばれた怪物が跳びかかってくる。二メートルクラスの巨体による跳躍はもはや突進というよりは大砲の弾丸のようにすら思えてしまう。反応が遅れたせいで、理樹には左右に飛んで回避するだなんてことは考えもつかなかった。だがそれでも彼は構わないとした。

 

(僕の能力で砂の化身を一撃で粉砕できることは以前に実証済み!融合だかなんだか知らないけど、的が大きくなったと思えばいい!!)

 

 理樹の右手が触れる前に、一方の頭についてある角で貫かれでもしたら即死になるだろう。ゆえに彼はタイミングを合わせ、防御を前提としながらもカウンターぎみに、

 

「そらぁ!!」

 

 拳を打ち込んだ。キマイラの角や爪が理樹を切り裂くよりも先に、彼は自身の拳を当てることに成功する。キマイラを粉砕したという確かな手ごたえと、一歩間違えれば即死は免れないという状況下での成功に心のどこかでほっとしてしまったのだろう。それが次の行動に対して致命的となってしまう。

 

「理樹君、まだよッ!!まだこいつは死んでないッ!!」

 

 危機を訴える沙耶の一言にすら、ワンテンポ反応が遅れてしまった。そして見る。理樹の右手の一撃を受けたキマイラは確かに身体の一部を粉砕させられていたが――――二つあったうちの頭がつぶれ、もとの一角のライオンへと姿を戻していた。

 

「――――――――が……ぁ……」

「理樹君!!」

 

 攻撃を放った直後のことであったためにもう一発拳のタイミングを合わせることができず、理樹はい一角のライオンの体当たりによって吹き飛ばされてしまった。防弾制服を着用していたおかげで撲殺だけはまぬがれたが、大砲をその身に受けたかの衝撃に理樹はすぐに起き上がることができないでいた。

 

「直枝理樹。君の持つ超能力は一度見させてもらっている。見たところ超能力者(ステルス)というよりは超能力者(チューナー)に近い能力であるみたいだが、一度に破壊できるのは一つまでのようだね」

「……なに、を」

「簡単な話さ。キマイラは心臓を二つもっていた。見たところ君はバフォメットの心臓を破壊したようだが、ガゼルの心臓までは破壊できなかったようだね。礼を言うよ直枝理樹。これで吸血鬼のような心臓を複数持つ怪物に対しての呪いの効力に対する仮説を立てることができた。感謝しているよ。だから――――今すぐに楽にしてあげるよ」

 

 倒れている理樹にキマイラが跳びかかる。元々バフォメットが持っていた白い翼や羊の頭などはもはや見る影もないが、それでもまだガゼルの呼ばれた大きな角を持つライオンの姿は健在だ。起き上がろうにも未だに腕一つ動かせないでいた理樹をキマイラは爪で切り裂こうとする。死んだ、と直感的に感じて眼をつぶった理樹であったが彼が予測していた衝撃が来なかった。何があったのかと目を開けた彼が見たものは、キマイラは鋭い爪を振り上げたまま固まっている姿であった。よく見るとキマイラの足元には、周囲を囲むように折り紙が置かれていて、それぞれが六芒星の模様を描くように光の線でつながっている。

 

「陰陽の封印術の一つですか」

「―――――――ゲホッ!!プハッ!?」

 

 その後、咳き込むような声がしたので沙耶の方へとふり向くと、沙耶は口から血を吐き出していた。

 

 

「朱鷺戸さん!?」

「あたしはいいから前を向いていなさい理樹君。この程度は何ともないわ。いや、ちょうどいい状態になってくれた。これなら逆に好都合よ。運は私に向いている」

 

 

 何ともないと沙耶は言うが、そんなはずはない。

 前に二人で地下迷宮へと突入すとき、沙耶は魔術は使えないと言っていた。

 魔術的なサポートは期待するなとも前もって聞いていたのだ。

 使って何ともないのならもっと早くから使っていただろう。

 

 前に謙吾から聞いたことがある。

 魔術というのは、ただ便利なだけの技術ではないのだ。

 個人の魔力許容量が『G(グレード)』という単位で現されているのは、自分自身の『G(グレード)』を超えるだけの魔力を扱おうとしても身体がついて行かずに悲鳴を挙げていくからである。言ってしまえば、身体の出来上がっていない幼い子供を身体が壊れるまで強制的に走らせているようなものだ。現に、今魔術を使ってキマイラの動きをとめた沙耶の身体の状態がいいようには全く見えない。単に血を吐いたという事実からだけでなく、身体を支える芯がどこかぶれているようにすら見えてきた。

 

 それでもなお、沙耶は握りしめた折り紙とコンバット・コマンダーの手を緩めることはなかったが。

 

「……魔術を使った反動ですかね?仲間を守った代償として負傷してしまうのなら、結局は意味のない行為にすぎませんよ」

「……ふふ」

 

 理樹を守るために魔術を使った反動で身体が内部からボロボロになってしまっても沙耶は今、笑っている。

 彼女は自分がこのまま負けるのだという絶望感を味わっているわけではないのだ。

 むしろ、これから仇敵を叩きのめせることへの喜びを味わっていた。

 雰囲気などという目に見えないものではなく、目に見える形として変化が訪れている。 

 沙耶の瞳は――――緋色に染まっていたのだ。

 

「発動条件は満たした。これであたしもまともに戦える」

「その緋色にそまった瞳……なるほど、超能力者(チューナー)としての超能力ですか。なぜ今まで使わなかったのかは疑問が残りますが―――面白いですね。みせて下さいよ」

「ヘルメス、もう一度言う。アンタを表に引きづり出してやる」

 

 沙耶は、緋色に染まった瞳を正面から錬金術師へと向けて宣言した。

 

「エクスタシーモード、発動」

 




おそらく次回で『流星の魔法使い』編はおしまいになります。
もうちょっとでブラド編だ!!
まさかここまでくるのに80話近くかかるとは思いもしませんでした。


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