Scarlet Busters!   作:Sepia

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遊戯王の新OPにジャック出演おめでとう!!
EDは見た瞬間にランサーズが仲良し八人組にしか思えなくなった!!
まさか忍者がレギュラーメンバー入りとは……。

ヒロインはもうセレナでいいんじゃないか、うん。
アイドルセレナ可愛かった。
あと、不審者は全力で私の腹筋を壊しにきました。

元キング登場でリゾネーター強化があると思いますが、お願いですからディフォーマーも新規ください!!
スマホだけじゃ環境相手じゃどうしようもないんです!!


Mission86 理子と佳奈多

 ―――普通じゃない。

 

 午前中の一般教科のテストを終わらせた遠山キンジの頭痛は絶えることはなかった。原因は目の前で繰り広げられているスポーツテストにある。競技自体は普通の50メートル走や反復横跳びだ。そこまでは問題ない。だが、集まっている連中が普通ではなかったのだ。

 

 香港マフィアの愛娘で口調が死ねと殺すの人間バンカーバスターの強襲科(アサルト)教官、蘭豹。

 蘭豹の親友で授業中の今もタバコらしきものを吸ってラリっている尋問科(ダキュラ)の綴。

 背後に立ったというだけで生徒に手刀を叩き込み骨折させたことがある、狙撃科(スナイプ)の南郷。

 諜報科(レザド)のチャン・ウー先生に至っては来ているらしいが姿すら見えない。声は聞こえるのに。

 

(……そういえば、結局あれから教務科(マスターズ)は何もしなかったな)

 

 二木がイ・ウーのメンバーであったということを知ってから、キンジはもちろんそのことを教務科(マスターズ)に連絡した。だが、それからの反応は何もない。それどころか政府の役人がやってきて司法取引の書類を持ってきた。二木がイ・ウーということは公言するなというものだ。いくらなんでも対応が早すぎる。いくら委員会連合に所属する風紀委員長だからって、そんな権限があるのだろうか。

 

(あいつひょっとして、司法取引を終えているのか?)

 

 二木の奴が司法取引を終えているというのならまだ納得ができることであるが、どうにも分からないことが多すぎる。何かあいつのことを知っている奴にでも話を聞く必要がある。そうしないと危険なことに無自覚のまま足を踏み入れかねないと思った。これといった根拠は特にないが、あえて言うなれば武偵としての勘といったところだろうか。他学科の生徒たちが走っている姿をぼんやりと見つめながら考え込んていたキンジであったが、ふと二木のことを知っている人物に遭遇した。

 

「あ」

「あ」

 

 そうだ。どうして忘れていたんだ。こいつがいたじゃないか。

 キンジの知っているイ・ウーのメンバーというのは、何も理子だけじゃない。

 初めて会った時のように鎧で着飾っているわけではなく、東京武偵高校指定の体操服を着ているがこいつも仲間だった。

 

「おいジャンヌ。お前何をやっているんだ」

「何って、スポーツテストに決まっているだろう。お前はそんなことも分からないマヌケだったのか」

「マヌケだということは否定しないさ。よくよく考えてみればあの地下迷宮に潜るときに二木と仲良さげであったことにちょっとして顔身知りという説明を受けただけであとは何の疑問を抱かなかったんだからな」

「なんだ。佳奈多の奴、お前達に自分の正体をバラしたのか」

「そもそも隠す気なかったようにも思えるがな」

 

 今思えば、あいつが自分がイ・ウーであるということを命をかけてでも隠し通すだけの秘密であるとは考えていないように思う。普通にジャンヌと親しげに話している様子は、まるで友達のようであった。憎まれ口を叩いていたが、二人の間に嫌悪感などは存在していなかったように見えた。

 

 もしも二木佳奈多がアリアを本気で騙そうと思えば可能だった思う。イ・ウーと共に戦う仲間として近づいて、信用を勝ち取ってから裏切る。

 

 確かにアリアは勘のいい方であるが、諜報科(レザド)Sランクである二木にはこの手のことはお手の物のはずだ。この手のプロを相手にするなら、さしものアリアとて分が悪い。アリアは何だかんだで一度気を許した人間には甘いところがある。実際佳奈多相手であの時一番戸惑っていたのはアリアだ。もし二木が本気でつぶしにかかってきていたら、何の抵抗もできずにやられていただろう。

 

「確かにイ・ウーでは話すことを禁じられているわけではないからな。佳奈多は強いし、そこらへんに気を配っていないのかもしえないな」

「……そうだったのか?もっと上下関係が厳しい組織だと思っていたのだが」

「知りたいのか。イ・ウーのことを」

「アリアも理子も何も教えてくれないんでな」

「ふむ。イ・ウーは知っているだけで身に危険が及ぶ国家機密だからな。だが私はむしろ教えて、私をこんな目に合わせたお前を奈落の落とし穴へと叩き落してやりたい。だから教えてやろう」

「ならこんな往来で話していていいのか?」

「別に問題ないだろう。確かにイ・ウーは死闘を禁じていないから話す内容によっては私が狙われてしまう。だが、私が話すのはさしあたりのない内容程度のことだ。誰かに聞かれたとしても、私の身の安全に支障はない」

「狙われたとしても、お前ほどの力があればどうとでもやりすごせるだろう」

「――――――ムリだ」

 

 ちょっと皮肉を込めていったつもりだったのに、ジャンヌはやけにはっきりと首を横にと振った。

 そしてキンジが聞きたくなかったことを断言する。

 

「私の戦闘能力は、イ・ウーの中でもっとも低い部類に入るのでな」

「嘘だろ?」

「こんな悲しい嘘をついて何になる」

「まさか二木の奴も弱い部類に入るのか?」

「佳奈多は違うぞ。あれはイ・ウーでも最強候補の一人だ。極東エリア最強の魔女とか呼ばれている奴だぞ。そんな奴が弱いわけがない」

「ちょっと安心したよ。あれより強い奴が何人もいると思うとゾッとする」

 

 認めたくはないが、二木は強かった。

 Sランク武偵であるアリアや、同じく超能力者(ステルス)である葉留佳を同時に相手にしても焦りすら見せなかった。

 ちょっとした遊び気分で剣を握りしめていた。

 

「元々イ・ウーという場所は、全員が教師であり生徒でもある。天賦の才を神から授かったものが集い、技術を教えあい、どこまでも強くなる。いずれは神の領域まで。イ・ウーとはそういう場所だ。だから実は理子に戦闘技術を叩き込んだのは佳奈多だったりする」

「何が目的なんだ?」

「組織としての目的はない。目的は個々が自由に持つものだ」

 

 コンセプト自体は悪くない。むしろいいようにすら思える。

 自分のできることを人に教えあって、互いに切磋琢磨する。

 問題は、ソイツラが遵法精神のかけらもない連中だということぐらいだろう。

 

「そういえばお前もなんだかんだで二木の奴と仲よさげだったな」

「私達は仲はわりといい方だと思うぞ。もちろん中には会うだけで間違いなく殺し合いを始めるような仲の連中もいるが、私は努力家の理子のことが好きだし、佳奈多は魔女とは思えないほどに何もしなかったが話せば分かる奴ではあったからな」

「は?理子は努力家?それに、二木は何もしていなかった?」

「佳奈多がイ・ウーに来た当初、ぼんやりとしているばかりで何かしようとはしていなかったんだ。どこか上の空だし、何考えているのか分からなったな」

「二木のイ・ウーでの目的は何だ?」

「さあ?それは分からん。案外目的がないようにも思う。弱体化した超能力を取り戻そうとすることもなく、ベッドに寝転がりながら本でも読んでいることが多かったからな。あいつはやる気を出せば間違いなく最強を目指せるのに、その気はまるでない」

「弱体化?いったい何のことだ?」

「ん?知らなかったのか?佳奈多の超能力は弱体化している。単純な強さだけだったら、イ・ウーに入る前の方が強いだろうよ」

 

 ジャンヌの話を聞いてキンジの二木に関しての疑問が解消されるどころが増した。

 貪欲に力を求めていたわけでもない。そして、何かイ・ウーに加入してから何かしようとしたわけでもないという。あの夜実際に対峙して思ったのは、佳奈多はアリアのことも、そしてイ・ウーのことでさえどうでもいいと考えている節があるようにすら見える。

 

「私も佳奈多についてそう詳しいわけではない。あいつは他人の過去を探ろうとはしなかったと同時、自分の過去を話そうともしなかったしな。ただ自由を手に入れたとは言っていた。もしかしたらイ・ウーには目的があって入ったのではなくて、イ・ウーに入ること自体が目的だったのかもな。そうだとしたら理子とあれほど気が合う理由にも合点がいく」

「自由?」

「ああ。理子は少女の頃、監禁されて育ったのだ。理子がいまだに小柄なのはその頃ロクに食べ物を食べさせてもらえなかったからであり、衣服に関して強いこだわりがあるのは当時ボロ布しか纏うものがなかったからだ」

「ウ、ウソだろ?リュパン家は怪盗の一家とはいえ、世紀末の大怪盗として名を馳せた高名な一族じゃないか」

「リュパン家は理子の両親の死後、没落したのだ。財宝は盗まれてロクに残っていないそうだ。ちょっと前、アメリカで理子は母親の形見の銃を取り戻したそうではあるがな。ともあれ両親が死んでから、まだ幼かった理子は親戚を名乗るものに『養子に取る』と騙されて、フランスからルーマニアへと移り、そこで囚われて監禁された。そういう過去があったから佳奈多は理子に共感したのかもしれないな。あいつもきっと、超能力者(ステルス)を受け継ぐ一族に生まれ落ちてロクな目に合ってはいなかったようだしな。白雪を思い返してみろ。この間の一件でいろいろ吹っ切れたのだとしても、何かと不自由な宿命を背負わされた奴だとは思えないか?」

 

 白雪のことを考えてみる。もしも白雪が『かごのとり』だなんて称されることが嫌になって、自由を手にするんだと言ってイ・ウーに入ろうとしたら、俺は白雪を止められるのだろうか。白雪は俺にありがとうって感謝の言葉を口にしてくれるが、その実白雪にしてやれたことなんて何もないのだ。あいつは不満を口にすることもなく、ただありがとうって微笑んでいた。

 

――――――いや、そうじゃないだろキンジ。お前はちゃんと思い返せ。

 

 分かっている。本当は気が付いている。白雪は大人しくていい子だ。大人たちはみんなそう口にする。でも実際は違うのだ。白雪はいい子だから、あいつは文句を言おうとすらしていなかったんじゃない。文句を言おうとすることさえ、きっとあいつには考えられなかったんだ。外の世界のことを全く知らない籠の中の鳥。本当によく言い表している言葉だ。あいつはきっと、ささやかな幸せを受け取るだけで自分には過ぎたものだと思うのだろう。そんなものは所詮は閉じた幸福に過ぎないのに。

 

 もしかしたら、白雪にとっては星伽神社なんかと完全に手を切ってイ・ウーのメンバーとなり、自由を手に入れていた方があいつは幸せだったのではないかとふとキンジは思ってしまった。

 

(……でも、それは嫌だな)

 

 けど。その方が白雪にとっていいことだとしても、それで目の前からいなくなってしまうのは嫌だった。

 たとえそれがキンジのエゴでしかないのだとしてもだ。

 

「それでも、お前たちに白雪を渡さなくてよかったと、俺はそう思っている」

「そうか。それは残念だ。ともあれブラドは檻から自力で脱出した理子を追って、イ・ウーの現れたのだ。理子はブラドと決闘したが敗北したが、成長が著しかった理子に免じてある約束をした。初代リュパンを超える存在にまで成長し、それを証明できればもう手出しはしないというものだ」

「なんでそんなことをする必要がある?そのブラドってやつを倒ればいいだけじゃないか」

「ブラドは人間ではない。言うなれば鬼だ。忠告しておくが、もし潜入先でブラドに遭遇したら、作戦を中止して即刻逃げろ。絶対に勝てない。かつて先代の双子のジャンヌ・ダルク達がブラドを純銀の銃弾で撃ち、聖剣デュランダルでついたが奴は死ななかったと記録にある」

「ちょっと待て。先代っていつのことだ?」

「120年ほど前のことだ。言っただろう?あいつは鬼だとな。ブラドが敗れたのは、イ・ウーのリーダーと……あとは佳奈多と戦ったときぐらいか。佳奈多の場合は中断されたからなんともいえないが、あれは実質勝ってたようなもんだしな」

「二木がブラドってやつと、戦っていた?一体どうやったんだ?」

 

 佳奈多の戦闘というものをキンジは一度この目で見ている。何というか、魔女らしい戦いをしているとは思わなかった。武器はナイフに爆弾といった科学丸出しのものだったし、魔女らしいというだけなら炎を出したり氷を作ったりしている白雪やジャンヌの方がそれっぽい。何か特別なことをしたのだろうか。

 

「ブラドを倒すには、全身に四か所にある弱点を同時に破壊しなければならないらしい。四カ所のうち、三カ所までは判明している。以前ローマ正教のが誇る聖騎士(パラディン)に一生落ちない『目』の紋様をつけられてしまったみたいでな」

「どうやって戦ったんだ?いくら超能力があったって、残りの一か所も同時に破壊なんて無理だろう」

「……遠山。お前は『青髭危機一髪』というおもちゃを知っているか?」

「あたりが出たら飛び出すおもちゃだろう?それがどう……まさか」

「そうだ。佳奈多は現時点で判明している三カ所を剣で貫いて抜けないようにし、最後の一か所が出るまでひたすら剣を刺し続けた。当時は蘭幇(ランバン)っていう組織が武器の売り出しに来ていたから剣の数には困らなかったんでな。イ・ウーのリーダーが止めなければどうなっていたのか分からない。止めた時にさえ、ブラドの身体には何十本という剣が身体に刺さっていた。佳奈多のことはまだよくわかっていなかった頃の話だが、あの時は佳奈多のことを正真正銘の魔女だと思わざるをえなかったね。返り血で真っ赤に染まったあいつに私は何も声をかけることができなかった」

 

 当たりが出るまで何十本も剣を刺し続ける。

 いくら相手が人間ではないとしても、そんなことまともな人間がやることではない。

 例えば山奥に熊が出たとする。

 対峙しなければならなかったとして、何発も銃を撃つことができるだろうか。

 技術的な問題ではなく、生きているものに対してそんなことをまともな人間ができるのだろうか。

 

(……どんな環境に育ったら、そんなことができるようになるんだッ!?)

 

 思い返して見ると、おかしいと思ったのはあいつだけではない。妹葉留佳の方だって変だった。

 もし、もしもあの姉妹に起きたことが自分の兄弟で起きたことだと考える。

 代々『義』のために戦ってきた遠山一族の宿命に疲れ果てて、自由を手にするためとか言って兄さんが家族親族たちを皆殺しにしたら、俺は一体どう思うのだろうか。父さんはずっと前に殉職したし、母さんはまだ俺が小さいときに病死した。じいちゃんは生きているけど、一緒に住んでいるわけじゃない。俺にとって家族とは、ただ兄さん一人だけだった。

 

 そんな兄さんが、親族たちを手にかけたと知ったてもなお、犯罪者となってもなお大切に想えるのだろうか。

 

―――――無理だろうな。

 

 アンベリール号事件で死んだと聞かされた時でさえ、どうして俺を一人にしたんだと恨み言を言いたくなることがあった。

 

 なのに、二木の妹は、三枝葉留佳は親族たちのことを責めるそぶりは見せなった。

 お願いだから私を一人にしないでくれと、泣き叫んでいるようにも見えた。

 親族たちを殺した姉ではなく、変えてしまったイ・ウーを憎んでいた。

 たった一人の家族のことを、失ってもなお求め続けている。

 

(……失った家族のことを求め続けているのは、俺だって変らないか)

 

 武偵をやめて、一般高に通う。それは今のキンジの目標だ。

 その目標も、今後は見直す必要が出てくるかもしれない。

 そもそもキンジが武偵をやめようとした理由は大好きだった兄が非業の死を遂げたから。

 もしも兄さんが理子の言うように生きているのだとしたら、自分は一体どうするのだろう。

 

 葉留佳のように、変わらず家族を大好きなままでいられるのだろうか。

 それとも、それともキンジは――――――

 


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