Scarlet Busters!   作:Sepia

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この前友人の家にお泊りで遊びに行ったときにとあるカードゲームのアニメ(遊戯王にあらず)がやっていたのでルールも全く分からない状態でしたが見ることになったのですが、アニメでテーブルの上でゲームしていることに違和感を覚えている自分がいることに気付いて愕然としました。

おかしい、バイクに乗ってカードゲームは違和感を覚えないのに、どうして机だと違和感を覚えるんだ。

隣ではまた別の友人がこう呟いていました。
どうしてDホイールと合体しないんだ……。


Mission88 機巧工学のバイク

 

「お、見たところ怪我とかしてないようだな」

 

 葉留佳が牧瀬から聞いていた集合地点に行くと、あいも変わらずバイクの整備を続けていた牧瀬紅葉がそう言って彼女を出迎えた。どうやら彼は本当に心配していたようで、彼自身にほっと気が抜けたように一息をついた。

 

「心配してくれてアリガト。けど、よくあの短時間で反応できたね」

「偶然近くにいたからな。いつもみたいに理科室にでニートしてたら気づかなかったと思う。これから作戦だとはいえ、お前に何かあったら俺はあの女に殺されかねないからな。現状傷一つないみたいで一安心だ。ところで星伽とはいったい何を話していたんだ?」

「わたしもよくわかんないことだったよ。なんだかよくわからない見当違いの謝罪みたいだったし、白雪姫が何が言いたかったのかもよく分からなかったナ」

「……ふーん、ま、いいか。向こうも向こうで魔術を代々継承する由緒正しい家系の人間として、きっといろいろあるんだろうしな」

「ところでさ、別れ際に白雪姫が結界を壊されたことを驚いていたけど、それってすごいことなの?」

「人払いの結界は繊細だ。その性質上、壊す壊さないなたいした問題じゃないんだよ。むしろ、繊細な術式ゆえにぶっ壊すのは割と簡単だったりする。結界が張られていることに気づくか気づかないか、それだけだ。そんなことより今は小夜鳴だ」

「まだやるの?」

「まだ何もやってないだろう。今からお前に見てきて欲しいことがある。これを見ろ。これは来ヶ谷から届けられたものだ」

 

 牧瀬からb5サイズの紙を受け取った葉留佳はその内容に目を通した。

 書かれているのはなんてことのない、ただの連絡事項である。

 

「血液検査の再検査のお知らせ?これがどうかしたの?」

「見ての通りだ。お前がその再検査に忍び込んで見てきてくれ。出来ればその再検査を受けているメンバーを確認してきてほしい」

「……なんで?」

「その再検査を受けるようにと言われている人間が結構いるみたいなんだが、本来再検査をうけるやつなんてなんてそうそういない。心拍数を図っているわけじゃないんだぞ?緊張したからって値がどうこう変わるもんでもないし、精々不幸な機械の不具合に当たってしまったか、そもそも用事かなんかでそもそも検査を受けられなかったから一緒にやるか、それくらいしかない。受けるメンバーが多いのなら、それはそれでおかしいことなんだよ。しかも担当が小夜鳴ときたもんだ。元々小夜鳴教諭には研究室からフラフラになった女子が出てくるっていう噂もあるし、そのこととの関係も否定できない。現状では証拠がないから杞憂かもしれないけど、現状怪しい要素はすべて裏を取っておくべきだ」

「姉御はどうしてるの?私が潜入なんて面倒な手順を踏まなくても、素直に姉御がこの再検査に行けばいいんじゃない?」

「あいつは今も手が空かないみたいだし、出てこれないとさ。再検査は神北っていう奴に頼んで問題なしって結果を書類で送って終わらせるらしい」

「はぁ……」

「頼んだぞ。何かあったらまたすぐ行くから気を付けとけよ」

 

 白雪に葉留佳に危害を加えるつもりはなかったとはいえ、一度は結界の中に閉じ込められた葉留佳を助けるために牧瀬はすぐに行動した。今度も何かあったら本人の言うように助けにくれはくれるんだろうけど、そこまで警戒することではないと葉留佳は思う。

 

「ねえ、どうしてそこまで小夜鳴先生を不信に想っているの?」

 

 これはあくまで直観に過ぎないが、どうにも牧瀬君には小夜鳴先生を嫌っているというよりは不信感が見受けられる。本人の説明によると、リア充よ爆発しろとのことだか、それだけじゃない気がした。

 

「いい人で好かれているのが嘘っぽいって理由だって前は言ってたけど、それだけじゃないんでしょ?」

 

 嫌うのと不審に思っているのでは意味合いが違う。

 同じマイナスの感情であったとしても、嫌うのに明白な理由なんて必要ない。

 ちょっとした仕草が、言動が、何もかもが気に食わない。

 嫌う理由なんてそんなちっぽけでくだらないものでもいいのだ。

 だが不審ともなると、もっとはっきりとした根拠があるはずだ。

 

「……暇つぶしの一環に小夜鳴教諭の論文を読んだことがあるんだ。せっかく有名な生物学者が同じ学校にいるならせっかくだし読んでみてもいいかなって思った結果なんだが、ずいぶんとまた極論が書かれていてな、とてもじゃないがあんな笑顔を振り向いている奴が書くようなものじゃなかったんだ」

「どんな内容だったの?」

「人間の価値は生まれた時に決まる。簡単に言うとそんな内容だった」

「それの何が問題なの?悲しいけど事実じゃない?」

 

 人間の価値というものは生まれた時に決まっているというものは、あながち間違いではないと思う。

 容姿、才能、環境。人は努力でいくらでも生まれ持ったものを覆せるだなんていうけれど、生まれた時からはっきりとしている差があることは否定できない事実だと思う。

 

(……言ってしまえば超能力だってきっとそうだ)

 

 才能なんていう目に見えないものよりも具体的に形に現れるものとして、超能力がある。

 これは本来生まれ持っていなければ使うことができないものだ。魔術ならまだしも、超能力は努力ではどうにもならないものだ。だからこそ、超能力を持っていなかった私は一族の中で疫病神のようにすら扱われた。

 

「お前にみたいに悲しいけど事実だと受け止めているのなら何も問題なかったんだけどな、小夜鳴教諭場合はそんな次元じゃないんだよ。すべては遺伝子によって定められたものだとか考えている。例えば、ある人が努力でなにかを成し遂げたものとする。シャーロック・ホームズのような名探偵やエジソンのような発明家が成功したのは、本人の才能や努力なんかではなく、優秀な遺伝子を持っていたからだということを言っている。例えば俺が科学者になれたのだって、あいつは親の優秀な遺伝子が受け継がれたからだとか思っているんだ。本人の努力なんて一切考慮に入れないで、優秀な遺伝子を持って生まれてきてよかったですねって平気な顔で言うんだぞ。そんな奴が学校の教師?才能ないかもしれないけど、努力して夢をかなえていきましょうとか言っていかなきゃならん立場にいる人間だとは笑わせる。あの野郎め、なにが『無名の父方のほうではなく、科学者として優秀な自分の遺伝子を子供に受け継がせることができて、かの牧瀬教授も喜んでいることでしょう』だッ!!ああ、思い出したらなんだか腹が立ってきた」

 

 はっきりと分かった。牧瀬君はきっと小夜鳴先生のことを気に食わないんだ。

 教務科(マスターズ)の先生たちに裏切り者がいるとして、その人物が小夜鳴先生だったらいいなと思っている。

 自分の委員会を持っていて、そして科学者を自信満々に名乗ることができるまで勉強して。

 努力して努力して頑張ってきたのに、有名な科学者である親の遺伝子が優秀だったんだとか言外であったとしても言われることがどうしても気に食わない。

 

「でもさ、現実問題才能とか能力の遺伝ってあるでしょう?」

 

 例えば同じ親をもつ兄弟姉妹でも能力には絶望的なまでの隔たりがあったり。

 同じことをやってみても、出てくる成果はどれとして同じものはない。

 ここ一年これでもかというくらい才能に愛された人の近くで過ごしてきたからこそ分かってしまう。

 

 ――――ああ、姉御とは才能(もの)が違うや。

 

 自分に才能がないと思っているからこそ、努力しなければならないと思う。

 そしてそのたびに私はある事実と向き合うことになる。

 

―――――一年やちょっと努力してきた程度や、お姉ちゃんには到底太刀打ちできない。

 

 今までずっと、生まれてからずっと努力を強いられてきた人間を相手に一年やちょっとのハンデがあったところでどうにもならない。実際に全く勝負にすらならなかった。悲しいと思うと同時、こうも思う。こんな短期間の努力だけで、あれだけ努力してきた人間に勝ってしまうようなことがあってもいいのだろうか。才能を欲しいとか思うのに、努力してきた人には勝利を手にしてほしいと思う。

 

「牧瀬君はさ、自分が科学者になれたのは親の才能の遺伝とかあったと思う?」

「天才科学者を親に持つ者として、うらやましいと思う連中にはこう言うだけだ」

 

 牧瀬君がニッコリと笑顔を浮かべた。

 どうしてだが嫌な予感がした。

 

「俺は科学者になるまで勉強しかしてこなかったから、友達と遊んだ経験がないんだ」

 

 そして、さみしくて悲しいことをさらりと述べた。

 

「少なくとも俺の才能を妬むのは友達0でずっと勉強ばかりという悲しい学校生活を送ってからにしろとな。今までも何回かこう言ってやったらどいつもこいつも口を閉じたもんだ。ふっ。きっとこの俺の努力に恐れをなしたに違いない。中には目を覆って泣きそうになるのを我慢していたやつもいたしな。己のふがいなさを嘆いていたのだろう」

 

 きっとその人たちは牧瀬君を憐れんでいたのだろう。私も泣きそうだ。悲しい、悲しすぎる。本人はやたら前向きにとらえているけど、これ本来は自慢げに話すことじゃない。どうして牧瀬君はこうも自信満々なんだろう。

 

「わかったらさっさと行け。もうちょっとで再検査が始まってしまう。始まったら潜り込むことなんて厳しくなるぞ」

「え、牧瀬君は一緒に来てくれないの?」

「女子の再検査なんかに男の俺が近づけるか。俺がやろうもんなら覗き魔だとか変態だと陰口を叩かれて人生に余計な傷を負ってしまう」

「私が危険に陥ったらホントに助けに来てくれるんだよね?ね!?」

 

 紳士的というべきなのか、というべきなのかよく分からない。 

 もしも私が危機的状況に陥ったら本当に助けに来てくれるんだろうかと不安になったが、考えないことにして再検査の場所となっている救護科(アンビュラス)棟の一階、第七保健室に向かう。

 

(……あれ、ひょっとしてもう誰か来ている?)

 

 誰かいたような気配を感じたと思ったけど、実際に部屋の中に入ってみたらまだ誰も来ていない。

 さてどこに隠れて様子を探ろうかと周囲を見渡していると、都合のいいことにロッカーがあった。

 ここなら堂々と覗いていられるし、万が一見つかりそうになっても超能力使って外に跳べばいい。

 人が来る前に隠れようと思いながらロッカーをこじ開けると信じられないものを見てしまった。

 

「「あ」」

「え?」

 

 なんと、ロッカーの中で遠山キンジと武藤剛気の野郎二人が仲好く(?)同じロッカーの中に入っていたのだ。 一瞬の沈黙が場を支配した後、葉留佳は無言でロッカーを閉じた。

 

「ふーっ、疲れているのかな。はは、こんなむさくるしい幻覚を見るなんて」

 

 深呼吸を何回かした後、もう一度ロッカーを開ける。

 そこにはあいも変わらず、遠山キンジと武藤剛気の二人が密着している姿があった。

 

「ち、違うんだ三枝っ!!」

「うわー、のぞきだー、うわー」

「待て、早まるなッ!!落ち着いて話を聞けッ!!」

「そうだッ!!俺は女子をのぞくためにここに来たんじゃないッ!!」

「そうなの?あ、うんうん分かった。分かってる」

「おい。お前今何を納得した?」

「なんか、二人だけでお楽しみだったのに邪魔してゴメンネ。前に美魚ちんから聞いてたよ。二人は美しくもない友情で結ばれているって。ダメだな遠山くん。ぬいぬいから浮気したら美魚ちんが怒るよ」

「お前は何を言っているんだ!?」

「だってもう一個ロッカーあるのに、わざわざ同じロッカーに入らなくても……」

「お前が急にきたから慌てたんだろッ!?」

 

 葉留佳が野郎二人の弁明を聞いている時間はなかった。

 葉留佳も葉留佳で人の話を聞かずに自己完結してしまっているし、なにより話を聞いている時間もなかった。女子たちの楽しげな話し声が聞こえてきたのだ。もうだめだ、おしまいだぁと絶望している野郎二人に構っている時間はもう残されていない。葉留佳もさっさと隠れ場所を探す必要があった。

 

 超能力使って二人を排除しようにも、そうなれば武藤に超能力をバラすことになる。それは困るため、葉留佳はごゆっくりと二人にささやいてロッカーを静かに閉じた後、窓際の方にあるロッカーに潜り込んだ。

 

(あの二人、後で覗き行ったとして脅して夕食でもおごらせよう)

 

 自分自身が似たようなことをしていることが女性であるから問題ないということにしく。姉御だってよくやってるんだ。同性だから問題ない!!決してセクハラなんかになることはない!!キンジと武藤のことなんて頭からきれいさっぱりと忘れることにして、牧瀬君からのミッションを遂行することにした。

 

(えっとメンバーは……あややにりこりんに、この間お姉ちゃんと戦ってたアリアって子か。あの子、よくお姉ちゃんについていけたなぁ。あ、レキもいる。なんだこのメンバーは)

 

 ただの再検査と思っていれば気が付かなかっただろうが、牧瀬君からこれでもかというくらいに怪しいと話を聞いていた今、このメンバーには違和感が生じていた。優秀だとされている人間しかこの場にいない。かつては情報科(インフォルマ)に在籍していて、姉御と一緒にイギリス清教のお仕事の手伝いをしていたから大体分かる。どいつもこいつも、優れた血統(・・)のお嬢様たちばかり。

 

(……でも、白雪姫がいないことを考えたらそうでもないのか?でも姉御にも再検査の案内が来たらしいからなぁ)

 

 考え事をしていると、再検査の部屋に小夜鳴先生がやってきた。

 

「ぬ、脱がなくていいんですよー!再検査は採血だけですから。メールにも書いたじゃないですか。はい、服を着るッ!!」

 

 下着姿の武偵たちの姿にうろたえていたものの、小夜鳴先生は何かを呟いていた。

 

(『フィー・ブッロコス』?小夜鳴先生も牧瀬君みたいにおかしくなっちゃったのかな?)

 

 集団勘違いにより服を脱いでいた武偵娘(ブッキー)たちがみな右往左往して自身の服を取りに行く中、ただ一人服を取りに行かず不動の姿を貫いている女子がいた。レキだ。彼女は窓の方へカメラのような眼を向けていたかと思えば、突然リノチュームの床を蹴って走り出した。そして野郎二人が詰まっていた炉ロッカーが開け放たれ、二人のネクタイをつかんで巴投げをするようにして放り投げた。

 

(――――――――何か来るッ!?)

 

 葉留佳が野郎二人に対してご愁傷様だと思う暇もなく、葉留佳は何者かの襲来を肌で感じ取った。

 『空間転移(テレポート)』という超能力を手にした影響か、葉留佳は空間をただで感じ取るセンスは格段に上がってきている。ロッカーに男二人が入っていることまでは分からなかったようだが、急激に近づいてくる者には割と敏感だ。そして方向を感覚で察知した葉留佳は見た。

 

 がっしゃああああああああああああああああああああああああああん!!!

 

 窓ガラスが割れる音を鳴らしと、何かがの部屋に入ってきたのを見た。

 そいつは一目散に葉留佳の隠れているロッカーに向かってやってきた。

 

(い!? き、緊急空間転移(テレポート)ッ!!」

 

 人目につかないように、葉留佳は外への空間転移(テレポート)で脱出したが、慌てていたもので思い切り地面に身体を叩きつけてしまう。痛む背中を押えながら外から中の教室の様子をうかがうと、

 

「え、お、オオカミさん?」

 

 圧倒的な殺気。気品すら感じさせる逞しい肉付き。

 そして100キロに迫ろうかとしている巨体。

 葉留佳は知る由もないが、それは絶滅危惧種、コーカサスハクギンオオカミと呼ばれているオオカミであった。

 このオオカミの登場と同時、覗きをしていたため帯銃していた武藤は威嚇射撃を行ったようだが、どうやらオオカミに大した効果はなかったようだ。

 

「武藤、銃を使うな!跳弾の可能性がある!女子がまだ防弾制服を着ていない!」

 

 キンジが叫ぶが、危機が及んだのは防弾制服を着ていない女子たちではなかった。

 

「――――――――あっ!」

 

 オオカミはなんと、立ちすくんでいた小夜鳴先生を体当たりで撥ね飛ばした。

 本来小夜鳴先生は武偵高校の教師と言えど、本職は研究者。戦闘訓練など受けたことがない非常勤講師だ。科学者を名乗った牧瀬君がパトラとかいう魔女を前にして一歩も引かなかったから忘れていたが、研究者は戦う人間ではないのだ。

 

(うっそ!?小夜鳴先生がやられた!?)

 

 だから、考えれば当たり前のことのはずなのに、丸腰という状況において誰が最も弱いのかを忘れていた。散々怪しいと疑惑がかかっていたこともあって、小夜鳴先生の負傷は葉留佳には予想だにしていなかったことであった。オオカミは自分が破った窓から逃げていこうするが、窓からひそかに覗いていて呆然としてしまった葉留佳は恐怖が迫ってきていることに気付くのが遅れてしまう。

 

(ひいいいィイ!!こ、こっちきた!? あ、そうだ!牧瀬君から発信器をもらってたんだッ)

 

 急いで携帯テープで発信器をくっつけられるようにして、オオカミとぶつかる一瞬で、彼女が体当たりによって弾き飛ばされる直前に発信器を取り付け、その後まだ緊急テレポートを行った。なんとかオオカミから逃げた後、葉留佳はもう一度空間転移を行う。場所は車輛科。どうせ誰もいないと牧瀬君が言っていて、いざとなったら逃げてこいと言った場所でもある。

 

「うわッ!!ビックリした!!やっぱりお前の超能力、どう考えても心臓に悪いぞッ!!」

「牧瀬君!バイク出して!!」

「あ?いきなりどうした?」

「オオカミ出たの!発信器取り付けたの!追跡するからバイク出して!!」

 

 生憎と葉留佳は運転免許証を持っていない。逃げ出したオオカミに追いつくには連れて行ってもらわあいといけないし、そもそも発信器の場所が分かるのは牧瀬君だけだ。葉留佳の話を聞いてからしばらくはレーダーを見ていた牧瀬君であったが、すぐに顔をあげた。

 

「そう遠くには行ってないな」

「追いつけそう?」

「愚問だな。このバイクはこの機巧工学の天才たる鳳凰院喪魅路さんが作り上げた、魔術と科学の結晶の一つ。オオカミごときに後れを取るものか。乗れ。ほらよ」

「え?ちょ、ちょっとなにこれ!?」

 

 牧瀬君はバイクから100円ガチャのカプセルほどの大きさのものを投げてきたと思うと、葉留佳が受け止める頃には頭部を守るヘルメットくらいの大きさになっていた。というかヘルメットになっていた。

 

「このバイクは魔術と科学の両方の技術を結晶したものだって言っただろう?」

 

 渡されたヘルメットをしっかりとかぶり、ハンドルを握る牧瀬君の背中に抱き付くようにしてバイクに飛び乗った。

 

「割と大きいね」

「これ、バイクではあるが霊装としての機能を備えている。設計目的からして移動用ではないしから二人乗っても不自由しないだけの大きさになってるだけだ。さあ行くぞ、舌を噛むなよ」

「うん……うん?」

 

 バイクなのに移動用じゃない?何を言っているのかよく分からなかったが、そんなことを気にしている時間はない。牧瀬君はハンドルを握りしめ、はっきりと出発を宣言した。

 

「Dホイール、アクセラレーションッ!!!」

 

 

 


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