Scarlet Busters!   作:Sepia

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思い出補正とかもあるんでしょうが、個人的にはアクションデュエルよりもライディングデュエルのほうが好きみたいです。

ライディングデュエル、アクセラレーションッ!!


Mission89 レキと狼

 オートバイを使った追撃戦において、市街地ではバイクの加速度と制動速度が勝負を分ける。

 さて葉留佳を乗せた牧瀬紅葉のバイク、『Dホイール』の性能はどんなものだったかというと、

 

「ねえ、もうちょっと早く走れないの!?」

 

 どうやら葉留佳にとっては不満があったらしい。一応弁明しておくと、Dホイールの速度自体はお世辞にも目に見えるほど早いと言えるものではなかったが、それでも一般的なものに対して決して遅れをとるものではないのだ。ただ、元々超能力(テレポート)を使った高速戦闘能力者集団として恐れられた三枝一族の出身である葉留佳には、もうちょっと早くは走れないものかと思えてしまうのかもしれない。早くあの狼を見つけて何とかしないと大変なことになるという彼女の危機感も合わさってのことだろう。

 

「走れるぞ。でもここじゃこの速度が限界だな」

「なんで?」

 

 焦りというものを全く感じさせないばかりか、むしろのんびりとしているまである牧瀬の声色に理由を尋ねると、彼は看板を見ろとだけ言った。なんの看板かと思って辺りを見ると、何のことを言っているのか理解した。

 

「一応弁明をしておくよ。これでも法定最高速度ギリギリを出してるんだ。これ以上のスピードは出せないことはないけど、そうしたらスピード違反になってしまう。もうちょっとしたら制限が緩くなるからもっとスピード出せる。それまで待ってろ」

「そ、そんなこと言っている場合!?」

「実際このスピードでも追いつける。何の問題もないんだ。発信器の電波を追いながら運転してるから、これくらいでちょうどいいんだよ。いいか、緊急事態だからと速度制限なんか気にしないような車輛科(ロジ)の連中なんか警察からしたら格好のカモなんだぞ。覚えておくといい」

 

 安全第一。変なところで律儀だった自称マッドサイエンティストであったが、武偵だからと簡単に法律を破るわけにはいかないのもまた事実。現実はしょっちゅう武偵は法律を破り、バレなければ無問題だんなんて考え方が浸透しているものの、問題になったら武偵側に勝ち目は薄い。武偵としての身軽な立場というのは、逆に自信を保護してくれる法律に恵まれていないことも意味しているのだ。

 

(それにしても……このバイク静かだなぁ……)

 

 さっきから気になっていたのだがDホイールとか言ったこのバイク、バイクとは思えないほど静かに走っている。バイクといえばブオンブオーンッ!!と激しいエンジン音を出しながらヒャッハー!!と叫んでいる学ランの暴走族が運転するものというイメージがあるせいだろうか、葉留佳はこの無音の快適性能に素直に感心した。しばらく音もなく進んでいたバイクであったが、突然ブー、ブーと警報のような音が鳴り始めた。

 

「え、マジで?」

「何の音!?」

「Dホイールに搭載している魔力感知レーダーに反応があった。この辺には結界でも張られているのかもしれない」

「……一応超能力(テレポート)を使う準備はしといたほうがいい?」

「いや、それはDホイールから降りてからでいい。今はしっかりつかまってろ。いざとなったらこのDホイールのSp(スピードスペル)を使うから」

Sp(スピードスペル)って何!?」

「このバイクは一種の霊装だって言ったろ。このバイクは術式を読み込まれることであらかじめセットした魔術を発動できるんだ。ゲームソフトとカセットみたいなもんだと思ってくれればいい」

 

 なんでバイクにそんな機能をつけているんだと、いやそれ以前に何を思ってバイクの霊装なんて作ったんだと思ったが、もう気にしないことにした。急に狼が現れて、追っていたら魔力の反応を探知した。狼との因果関係はわからないが、どうにも嫌な予感しかしないのだ。葉留佳にの意識はすでにそちらの方にとられていた。

 

「あそこか」

 

 しばらくしたら工事現場が見えてきた。

 土嚢(どのう)がいくつか食い破られ、散らばった砂に足跡が付いている。

 バイクから降りて、レーダーを片手にオオカミの場所を見てみると、どうやらこの工事現場に潜んでいるらしい。葉留佳と牧瀬の二人はバイクから降りて、建設途中のマンションを見上げた。どうやらまだ骨組みの段階であり、各階には柱くらいしか見受けられない。

 

「……またずいぶんと広いね」

「ああ」

「何階くらいあるのかな」

「10階ぐらいじゃないか?」

 

 ここで問題が一つ。

 オオカミが逃げ込んだ場所までたどり着いたのはいいものの、肝心の狼の居場所が分からない。

 レーダーで大まかな方向だけは分かるのだが、生憎とそれは前後左右の方向であり、上下方向には対応していなかった。地図の上から居場所を点で刺しているようなものゆえ、肝心の狼がこのビルの何階まで行ったのか分からない。

 

「どうしよう。二人で手分けして探す?」

「お前、一人で大丈夫か?」

「いやちょっと不安。科学者である牧瀬くんよりはマシ……だと思いたいけど、牧瀬くんをさっきから見てたらすごい秘密道具とか持って方だし、はるちん一人で出くわしたらどうしようって思い始めた」

「じゃ、一緒にいくか。俺はお前の言うように本職は科学者でしかないからな。いくら霊装を作り出すことができたとしても、俺の根本的な運動能力は姉さんから『話にならない』と一蹴されるレベルでしかないしな。それにどうやら一分一秒を争うような状況でもないみたいだ」

「でも一般の人の前に野生のオオカミなんて現れたら大問題になるよ。誰が襲われるかわからないし……それでいいの?」

「あぁそれについては心配はないぞ」

「どうして?」

「このビル、よくよく見れば人払いの結界が貼られている。さっきのDホイールの反応はこの結界に対してのものだ。一般の人間がここに迷い込むことはないだろうよ。さて、どうしたもんかな。下手なことしたらこっちがやられかねない。敵がお前が見たという狼だけだとも限らないしな」

「どういうこと?」

「よく考えてもみろ。例えば山奥にある田舎に山から熊が下りてきたというのならまだ分かる。けど、この都会で狼だぞ。この時点で何かの偶然とは俺にはとても考えられないね」

「偶然近くの動物園から逃げ出してきたとかじゃないの?」

「ほう。観光地である動物園が偶々狼が逃げられるという不祥事を起こして、そんな失態を今まで偶々隠し通すことができていて、偶々運よく今まで誰も襲われるという事件になってはなく、偶々物騒な武偵高校までたどり着き、偶々オマエが小夜鳴教諭を覗いているところを中断し、偶々なぜか人払いの結界まで張られているところに逃げ込んだ。ふざけんな。こんな偶然があってたまるか。科学者として偶然を認めてやるのは二回までだ。基本的に偶然は三回以上重なったら必然を疑うべきだ」

 

 葉留佳はオオカミが現れたことに対して今まで深く考えてはいなかった。

 でも、こうして言われてみればおかしなことのオンパレードだ。

 おサルさんとかならまだ可愛げもあったかもしれないが、オオカミだと笑えない。

 

「じゃあどうする?警察にでも電話して応援を呼ぶ?」

「お前は野生の狼が現れたって聞いて信じるか?俺は信じないだろうよ。現に、実際俺自身がこの目で見たわけじゃないから半信半疑だしな」

「私は嘘はついてないよ」

「分かってるさ。別にお前を信頼していないわけじゃない。だからここまでついてきた。けど、実際問題警察は元より実際に狼を目にした連中だって人払いの結界の中じゃ、ここまでたどり着けるか分からないしな。超能力者(ステルス)みたいに魔術に慣れ親しんでいたら感覚で分かるもんなんだがどうもな……」

 

 援軍は期待できない。そう結論を出しつつあった時、ブオオオオオンッ!!というバイクのエンジン音が聞こえてきた。葉留佳と牧瀬の二人はほぼ同時に音の方向に顔を向けたが、牧瀬はすぐに視線を変更して黙り込んで俯いてしまった。牧瀬の顔は無表情を装っているが、ちょっとばかり赤くなっている。

 

「エロいなー、牧瀬君エロいなー」

「うっせ、思春期男子をバカするもんじゃないッ!!」

 

 やってきたのは見知った顔。先ほど期待できないと判断した援軍の到着だった。

 BMW・K1200Rという世界最強のエンジンを搭載したネイキッドバイクに二人乗りでやってきた二人組である。 大胆にも女子の再検査を見ていた覗き魔の遠山キンジと、ドラグノフ狙撃銃を背負ったレキの二人がやってきたのだ。

 

「お前等無事か!?オオカミは!?」

「そんなことよりそいつに服着せろバカァ!!」

 

 牧瀬は羽織っていた防弾白衣を脱いで顔もあわさずに投げつけた。

 キンジに抱き付く形でバイクに乗ったいたレキは、再検査の時の下着姿のままだったのだ。

 牧瀬はレキに背を向けたまま、呟くようにして話しかける。

 

「しかし、お前たちこの人払いの結界の中にまでたどり着けたものだな」

「葉留佳さんたちを乗せたバイクがこのビルに入っていくところを目視することができましたから」

「ほるほど、納得だな」

 

 人払いの魔術といえども万能ではない。

 人払いの魔術は魔力に耐性がない人間に無意識下のレベルで働きかけるものだ。

 だから今の牧瀬のように魔術に関して知識があれば難なく気づくことができるし、キンジたち二人のように明白な目的があってきたのだとしたら簡単に突破してやってこれる。

 

三人(・・)いるなら大丈夫そうだな。狼の方は任せたぞ」

「あれ、牧瀬君は一緒にこないの?」

「俺は今はこの場にある結界について調べてみたい」

「一人で大丈夫か?」

「なんだ?お前、見ず知らずの俺のことを心配してくれるのか。別に気にしなくてもいいぞ。俺にはどんな奴と遭遇しようと命だけは守れる自信がある。とりあえず狼を対処したら連絡くれ。そしたらこの人払いの結界をDホイールのSp(スピードスペル)で破るから」

「わかった。無理しないでね」

 

 結界について調べたいといった牧瀬紅葉と別れ、葉留佳、キンジ、そしてレキの三人はオオカミを探すことにした。この三人のうちでも役割分担のためキンジ、そしてレキ&葉留佳組の分かれることにした。

今のキンジはさっきまで覗きをしていたこともありヒステリアモードに入っているため一人でも問題ないということもあるし、いざとなった場合、葉留佳の超能力(テレポート)は機動力のない狙撃手と相性がいいということもあった。

 

 よってキンジは一人、オオカミの足跡を見つけてそれを追っていた。

 一歩一歩慎重に足跡をたどっていると、それが途中で途切れていることに気付く。

 

「!!」

 

 ヒステリアモードによって高速化している思考によって考えられたのは罠であった。

 このオオカミは、一度わざと砂の上に自分の足跡をつけて、その足跡を丁寧に踏んで後退し、自分の行き先を偽装したうえで潜んでいたのだ。

 

「賢い奴だな!」

 

 オオカミはキンジに体当たりしてその牙で噛みつこうとしてきたが、キンジは銃を噛みつかせて身体を守る。その代償として銃をオオカミに奪われて体勢を崩してしまうが、今のキンジはヒステリアモード。そうやられるだけではない。

 

 ベルトにつけられていたピアノ線のワイヤーを飛ばし、オオカミの後ろ足に絡みつかせた後、ベルトと接続していたもう片方のワイヤーを外して近くの工事用パイプに投げつけてた。円を描いて結ばれたワイヤーは、今オオカミとパイプを結ぶ拘束具となっている。この器用さこそがヒステリアモードの本骨頂。

 

「可哀想だがここまでだな」

 

 オオカミはキンジの方へやってきて、そのままキンジを無視して工事中のパイプに体当たりする。

 コンクリートで固められているわけでも何もないため、それだけでオオカミのワイヤーによる拘束は解かれ、逃げられてしまうが問題ない。そこはもう、レキの射程範囲内。

 

「ねえレキュ。麻酔弾でも持ってるの?」

「いいえ。通常弾で仕留めます」

 

 もともとの作戦は、キンジが狼を窓際まで追い詰めること。

 そので別の建設中のビルから狼を狙撃する。

 もともと何階に潜んでいるのか分からないということもあったが、何階であったとしてもここまで追い込めれば狙撃条件は満たす。

 

「銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えない」

 

 葉留佳はレキの隣で、無表情にドラグノフ狙撃銃を構えるレキを見つめていた。

 

「ただ、目的に向かって飛ぶだけ」

 

 武偵は基本金で動く。そして金でやらせるもの仕事には当然嫌な仕事だってある。

 猛獣駆除なんてまさしくその一つ。

今回のように十分な用意ができない場合、最悪無垢な動物を射殺しなければならない。

 

 ふと、レキは今どんなことを考えているのだろうかと葉留佳は思った。

 

 どんな仕事をするときも眉ひとつ動かさず、自分の任務を感情抜きで確実にこなす。

 冷淡と言えば聞こえが悪いけど、仕事に私情を全く挟まないことは難しいことだ。

 それをそつなくこなせる人間になりたいとは葉留佳は思わないけれど、人間的に敬意を払うべきだと思っている。

 

 さらばオオカミさん。そしてゴメンネ。

 

 心の中で謝りながら、レキが引き金を引いたとき、葉留佳は思わず目を閉じてしまう。

 しばらくして目を開けると、そこには射殺されたオオカミが転がっていると思っていたのに、何もない。

 

「え?」

 

 レキの銃弾は、オオカミの背中をかすめただけで命中はしなかったのだ。

 レキはアドシアードの日本代表として選抜されるほどの天才児。

 外すところが想像つかなかっただけに、茫然としてしまった葉留佳は分かっているはずのことなのにわざわざ声に出して尋ねてしまう。

 

「外したの?」

 

 だけど、レキは葉留佳の疑問を否定で返す。

 

「外していませんよ」

 

 レキと葉留佳がキンジのいたビルの階にやってきたときには、オオカミはすでにその場に倒れていた。

 キンジに射殺されたわけではない。それどころか、オオカミには目立った外傷が一切見受けられない。

 

「何をしたの?」

「お前たちが何かしたんじゃないのか?俺は何もやってないぞ」

 

 何が起きたのか理解できいできていない葉留佳とキンジを無視して、レキはオオカミに近づいていく。

 よくよく見ればこの背、首の付け根あたりに小さな汚れみたいなかすりが見受けられる。

 

「―――――脊髄と胸椎の中間、その上部を銃弾でかすめて瞬間的に圧迫しました」

 

 レキは、二人を置いてけぼりにしてオオカミに語り掛ける。

 

「今、あなたは脊髄神経が麻痺し、首から下が動かない。ですが、五分ほどすればまた動けるようになるでしょう。元のように」

 

 レキが言ったことに、葉留佳は開いた口が閉まらなかった。

 第三者が見たら、それはさぞかしマヌケな顔をしていたことだろう。

 外したと思っていた銃弾は、その実もっととんでもない神業をやってのけていたのだ。

 葉留佳が持つ超能力(テレポート)とは方向性が異なる、オカルトなど一切絡まない単純な技術としての神業。

 

「逃げたければ逃げなさい。ただし次は―――――2キロ四方どこ逃げても、私の矢があなたを射抜く」

 

 噛んで含めるように、しかし余計な感情を交えずにレキは語る。

 オオカミはまるでその言葉が分かっているかのように見つめていた。

 

「―――――主を変えなさい。今から、私に」

 

 舌を出して荒い息をしていた銀狼は、もがくように何度か宙をひっかいてから、よろ、よろ、と起き上がった。麻痺が少しづつ解けてきたらしい。よた、よたと歩いてきた手負いの銀狼は息をのむ葉留佳やキンジの前を通り過ぎ、すりすりと頬ずりした。先ほどまで殺そうと襲い掛かってきた奴を手なずけたのだ。

 

「そのオオカミどうするの?」

「手当します。そして飼います」

「飼う?」

「そのつもりで追いましたから」

「でもオオカミだよ?」

「武偵犬ということで許可をもらいます。お手」

「ガゥ!!」

 

 武偵犬とは警察犬や軍用犬の武偵版で、武偵高では鑑識科(レピア)探偵科(インケスタ)が犯人の追跡に使うものだ。だが狙撃科(スナイプ)で飼っているやつなんて聞いたことがない。しかもオオカミだし。

 

(……まあ、姉御だって国宝の霊装ぶら下げてたしまあいいの……カ?)

 

 よく考えればおかしなやつはこの学校にはたくさんいる。

 ともあれ一件落着したようで一安心だ。後は牧瀬君に結界を解いてもらうだけだと思い、言われていた通り連絡を入れようとすると、何やら葉留佳に寒気が走った。

 

(――――――――なに、いまの?)

 

 身体のどこかに傷を負っているわけではないのに、何かが壊されたような感覚が彼女を襲ったのだ。今は何ともないものの今感じたものを気のせいだということは葉留佳にはどうしてもできなかった。いや、今反応したのは葉留佳だけではない。レキも狼を撫でまわしていた手を動かすのをやめて、どこか虚空を見つめていた。

 

「どうしたんだ?」

 

 急に二人が変な反応を示したのに、何も感じ取ることができなかったキンジは二人に尋ねるが葉留佳には分からない。でもレキは違う。レキは今の現象についての明確な回答を用意した。

 

「たった今、人払いの結界が破壊されました」

「え、でも牧瀬君とは連絡を受けてから破壊するって手はずになっていたはずだけど」

「何か予定を変更しなければならない事態に陥ったと考えるべきでしょう」

「じゃあ……」

「一種の救難信号。そう考えるべきかもしれません」

「ごめん、先行くねッ!!」

 

 葉留佳はレキたちを置いて一足先に駈け出した。

 

        ●

 

 話は少し前にさかのぼる。

 葉留佳たち三人と別れた後の牧瀬紅葉は一人、結界の核となっている場所を探し出していた。

 彼のDホイールにつけられた魔力探知レーダーを見て、このあたりだと目星を付ける。

 

「このあたりで始めるとするか」

 

 実のところ結界を破るだけなら今すぐにでも彼は行うことができる。

 それを行わないのは、結界を破ったことによって関係のない一般人が事件に巻き込まれる危険性排除するためだ。今牧瀬紅葉は、この結界を張ったものの魔力の性質を調べようとしている。

 

 一体誰がここの結界を張ったのか、それを見極めてやる。

 

 もともと魔力の性質というものは、指紋のように人それぞれで異なっている。

 どんな奴だか知らないが、科学者に思考としてとりあえず集めておこうと思ったのだ。

 

(朱鷺戸が起きてこればいざというとときの最終手段として逆探知の魔術が使える。あいつが自分で使うのはリスクが高いからエクスタシーモードになった時にでもやってくれとお願いしてみるか)

 

 ともあれ、これで手掛かりは掴むことができる。そう考えていた矢先のことだ。

 Dホイールからは降りて、フラスコを地面において魔力を回収しているとカツンッという足音を聞いた。

 足音がした方向には一人の男の姿が見える。

 歳は40代前半ぐらいか。ちょうど自分たちとは親子ほど年齢が離れているように見える。

 

「―――――――――――!!??」

 

 目の前の男が一歩前に踏み出そうとしたのを見て、牧瀬紅葉も身構えた。

 何としてでもこのフラスコは持ち帰ろう。

 そのためにも、まずは目の前に現れたこの男を排除する。

 

機巧(ギミッ)……)

 

 隠し持っている霊装の準備をしつつもそんなことを考えていた矢先、牧瀬は反応することもできないまま、地面に叩き付けられていた。

 魔力を回収したいたはずのフラスコも木端微塵に破壊されていた。

 

(おいちょっと待て!?こいつ、さっきまで30メートルは離れた場所にいたよな!?)

 

 この人払いの結界を張った魔術師がここにいる可能性は考えていた。

 だからこそ、超能力(テレポート)で緊急脱出ができる葉留佳をレキたちと行動させた。

 牧瀬自身も狼に襲われる可能性があるからと周囲に意識は配っていたし、仮に狼に襲われてもやり過ごすことぐらいはできると判断していたのだ(勝てるとは言ってない)。

 

 だが実際、牧瀬は何の対処もできなかった。不意打ちならまだ分かる。気配を感じ取ることができなかったというのもまだわかる。でも、今一気に距離を詰められたことをどうやって説明しよう。まともな人間の出せる速度ではない。考えられるとしたら、魔術の領域のものだ。

 

(……まさか、『聖人』?いや違う!『聖人』は肉体が神様に近い体質のためあらゆす出力が上がっているけど、逆に繊細なことは何もできない。こんな人払いなんていう繊細極まりない魔術なんて使えるわけがないッ!!)

 

 そうなると、いったい何だ。

 30メートル近くの距離を一気に詰められる人間っていったいどんな奴だ。

 

(――――――――まさか)

 

 牧瀬紅葉には一つ心当たりがあった。

 その超能力を有する一族が経営する委員会は、かの公安0に続く戦闘能力があるとまでされた超能力を宿した一族があったではないか。

 

「お前まさか、三枝一族か!?」

 

 答え合わせだとばかりに、もう一度牧瀬は頭を地面に叩き付けられた。

 

 

 


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