Scarlet Busters!   作:Sepia

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Mission9 バスジャック事件

 

 

 

 

「バスジャック?」

 

 ヘリの中、キンジとレキの二人は自身の装備の確認を行いながらアリアの説明を聞いていた。バスジャックと聞いて一つ心当たりがある。今日、キンジはいつも使っている通学バスに乗り過ごしている。

 

「武偵高の通学バスよ。あんた達の寮の前に7時58分に停車しているやつね」

「犯人は車内にいるのか?」

 

 いつもあのバスは混んでいる。身動きだってロクにできない状態かもしれない。

 緊迫した状況だということは、頭での理解より先に実感としてやってきた。

 

「分からないけど多分いないでしょうね。今回のバズジャックもたぶん今までと同じ同一犯。あんたたちの自転車に爆弾を仕掛けた犯人と同じ犯人ね」

 

 爆弾。

 この言葉が先日のチャリジャックを思い起こさせた。

 

「キンジ。これは『武偵殺し』。あのチャリジャック犯と同一だわ」

 

(『武偵殺し』――――――――――だって!?)

 

 武偵殺しというのは白雪が話題に出した連続殺人犯の通称である。

 でも、武偵殺しというのは、

 

「奴は毎回減速すると爆発する爆弾をしかけて自由を奪い。遠隔操作でコントロールするの。でも、その操作に使う電波にパターンがあって今回もあんた達を助けた時もその電波をキャッチしたのよ。今回出ている電波はあたしが集めたものと同じだということはリズが証明してくれたわ」

「待て、武偵殺しは逮捕されたはずだぞ」

 

 武偵殺しはとっくの昔に捕まっているはずだ。

 白雪だって言っていたじゃないか。

 武偵殺しの模倣犯がでるかもしれないから気を付けてね、と。

 

「それは真犯人じゃないわ」

「待て、なんでそんなことを断言できるんだ?それに……一体お前はなんの話をしているんだ?」

 

 直観としての違和感を感じる。よくよく考えてみればこの話はあちこちおかしな点がある。第一に、アリアがいくら優れた武偵だとしても、事件発生から対処までの準備が早すぎるのだ。昨日アリアは『リズ』という名の友人に再会して、協力してしてもらったとしても行動が早い。

 

「説明している暇なんかないし、あんたが知る必要もない。リーダーはあたしよ。事件はすでに発生している」

「リーダーをやりたきゃやれ! でも状況をもっとッ!!」

「武偵憲章1条仲間を信じ仲間を助けよ!被害者は武偵高の仲間よ!それ以上に説明はいらないわ」

 

 上空からヘリの音が聞こえてきた。ヘリの音は緊張感を伝えるのには充分だった。なのに、彼女は笑っていた。こんな状況にも関わらずアリアは笑っていた。

 

「キンジ。これが約束の最初の事件になるのね」

「大事件だな。俺はとことんついてないよ」

「約束は守りなさい。あんたが実力を見せてくれるの楽しみにしてるんだからね」

 

           ●

 

「見えました」

 

 レキの声よりキンジは防弾窓の下を見た……が、台場の町が見えるがバスなんて見えない。

 それどころかまだ何も見えない。本当に存在しているのかすら疑わしかった。

 

「どこだレキ!」

「ホテル日光を右折しているバスです。窓から武偵高の生徒達が見えています」

「よ、よくわかるわねあんた。視力いくつよ?」

「左右共に6.0です」

 

 お前はアフリカの原住民か。

 そんな突っ込みをしながらも状況を把握したアリアが作戦を説明した。

 

「じゃあ、パラシュートでバスの上に降りるわ。あたしはバスの外側をチェックするからあんたは周囲を警戒。レキは待機。キンジは車内を確認、報告。簡単でしょ?」

「内側って、中に犯人がいたらどうするんだ。人質が危険だ」

「『武偵殺し』なら、車内にはいない」

「そもそも『武偵殺し』じゃないかもしれないだろ!」

「違ったら自力で何とかしなさいよ。あんたなら、どうにかできるはすだわ」

 

 ――――――――――コイツッ!?

 

 探偵科(インケスタ)に入ってから、チームとしての行動は棗先輩がリーダーのものしか見ていない。

 あの人は作戦も行動も予想の斜め上をいっていたて、今のアリアみたいにぶっ飛んだことを言う事もあった。けど、今のキンジたちにはないものがある。信頼度。棗恭介を中心としての信頼度は完璧といっても問題なかった。

 リトルバスターズ。何より彼らには『信頼』があった。

 けど、おれはアリアのことを信頼できそうにない。アリアが独奏曲なのが分かった気がした。

 それでも今の状況ではアリアを止めることはできやしない。事態は一刻を争うことは事実なのだ。

 

 「作戦スタートッ!!」

 

 バスが行ってしまう。俺は落下していく。距離的に死にはしないがバスが追えない。

 レキの報告を受けたらしいアリアが通信機越しに怒鳴りつけてくる。

 

「うわっ!」

「よう武藤、早い再会だったな!」

「あ、ああ畜生。 俺はなんでこんなバスに乗っちまったんだ?」

「友達見捨てたバチがあたったのさ」

 

 アリアに散々怒鳴られながらもなんとかバスにヘリから飛び移ることには成功した。

 

「遠山先輩!助けてください!」

 

 後輩が泣きそうな顔で携帯を差し出してくる。するとその携帯には、

 

 『速度を 落とし やがると爆発 し やがります』

 

 聞き覚えがある。間違いない。とりあえずは報告だ。

 

『アリアの予想通りだ!遠隔操作されてる!爆弾は!』

『バスの下にプラッチック爆弾!このバスなんか簡単にけし飛ぶ量よ』

 

 消し飛ぶ量ということはこのバスに乗った客はみな、キンジたちの手にかかっているということだ。

・・・そう、普段はただのFランクの少年の手に。

 

『え?』

 

 アリアの戸惑いの声が通信機から漏れる。

 

 (・・・・・!)

 

 

 見ると後方から1台のオープンカーが距離を取っている所だった。

 その座席には俺達を追いまわしたあのセグウェイと呼ばれる乗り物があった。

 

 (・・・・やべえ!)

 

「みんな伏せろ!」

 

 指示は間に合った。みんなが伏せた瞬間機関銃が車内にぶち込まれる。だが、一応は無事だ。

 

「みんな大丈夫か!」

 

 ぐらっとバスが変な揺れ方をしたので慌てて運転席を見ると運転手がハンドルにもたれかかるように倒れていた。

 

 (・・・・気絶したか!)

 

 運転手さんは一般人だ。むしろ、これまでもってくれたことすらありがたいと思うべきだろう。

 

 「武藤!運転変われ早く!」

 

 ヘルメットを投げながら言うと武藤は慌ててそれを頭につけて運転席に座る。武藤はバカだが素直な奴だ。状況を理解している。

 

「俺、この間改造車がばれて1点しかもう、違反できないんだぞ?」

「ハハハ、友達見捨てた罰だ。速度違反で免停確実だな」

 

 ワイヤーを戻しながら言うと後ろから武藤の怒声が響いてきた。

 

「落ちやがれ引いてやる!」

 

 バスは高速でレインボーブリッジに入っていく。こんな都心で爆弾が爆発したら大惨事になる。

 キンジはアリアの様子を見ようとして、ぎょっとする。アリアはヘルメットをつけていなかった。

 

「アリア!ヘルメットはどうしたんだ!」

「さっき、ルノーにぶつけられた時ぶち割られたのよ! あんたこそヘルメットどうしたのよ!」

「武藤に渡してきた。今はあいつが運転してるんだ」

「―――――――――――ッ!? このバカッ!」

 

アリアの怒声が響くが、焦ったような声だった。何だと振り向くと猛スピードでルノ―が突っ込んでくる。そして・・・銃口はまっすぐ自分を見据えていた。

 

(俺はこんなところで……死ぬのか? ――――――――兄さんっ!?)

 

「後ろ! 伏せないさいよ馬鹿!」

 

 

 死を覚悟したキンジは時間が止まったように動けはしない。呆然とするキンジに対し、アリアがタックルして―――――――鮮血が飛び散った。

 

「アリア!」

 

 ごろごろとアリアが転がってくる。見ると機関銃が破壊されている。アリアが交差の時にやったらしい。なんて奴だ。あのタイミングであわせたのか!

 

「アリア……アリア!」

 

とりあえずルソーがいなくなったことには安心している暇はない。アリアは俺をかばって撃たれたのだ。アリアの意識も飛んでしまっている以上、早く医師に見せないと!

だが、現実はアリアの心配もしていられない。また三台ものルソーが銃口をむけて現れたからだ。

 

「ちくちょうっ!」

 

 いや、正確には四台だった。三台のセグウェイに、一台の車。

 残り一台にのっているのは、見慣れたルームメイト。

 

            ●

 

「く、来ヶ谷さん! 随分とあぶない運転するんだね!!」

「仕方がないだろう、少年。こうでもしないと追いつけないからな」

 

 理樹と来ヶ谷はチャリジャックの電波を捉えた後、アリアに連絡をして、なおかつ自分たちで現場に向かっていた。人命に関わるということで車輌科(ロジ)に行って絶賛被害者の武藤の車を勝手に拝借した。後で武藤に怒られそうな気もするが、人命救助の役に立てたのだからそれくらい見逃してくれるだろうとは来ヶ谷の言い分である。

 

「行くぞ、少年、準備はいいか?」

「うん。いつでも。そっちこそ、大丈夫?」

「私を誰だと思ってるんだ?」

 

 来ヶ谷唯湖が運転しているの車はオープンカー。しかも、二人乗りのタイプである。来ヶ谷が荒くもスピードを出して前方に追いつこうとするのに対し、理樹は体を乗り出した。正確には、右手を前に差し出した。本当なら真人も一緒にいたなら、しっかりと支えてもらえたかもしれないが、いかんせん時間がなく、恭介も今どこでなにやってるか分からないため、二人で来ることになった。

 

(僕の能力は魔術に対し有効な能力!!)

 

 ジャックされたバスに付いている爆弾に対してはこちらから取れる手段はない。なら、標的となるのは、三台のセグウェイだ。

 

「少年、この銃借りるぞ」

「え!?」

 

 理樹の持っている銃はコンバット・マグナム。

 それをいつ掠め取ったのか分からないが、来ヶ谷は勝手に理樹の銃を取り出して、片手で運転したまま、

 

「そらっ」

 

 片手でマグナムを連射する。そして、いとも簡単にセグウェイに付けられた銃口を破壊した。

 

(すごい!! 恭介みたいだ!!)

 

 なんて人だろう。来ヶ谷さんは軽い気持ちで問題を1つ解決した。

 となると、残りも問題はただ1つ。

 

「さて、出番だぞ、理樹くん」

「分かってるよ」

 

 セグウェイ自身にも爆弾が付けられている。その爆弾を何とかするのが理樹の仕事だ。

 

(大丈夫。この間みたいに解決すればいい)

 

 以前チャリジャックされた時と同じようにやる。来ヶ谷さんもいるし、失敗する要素はない。

 

「構えろ、少年!」

 

 来ヶ谷さんは今度は爆弾を取り出す。しかも、魔術による爆発を起こす特別製を。来ヶ谷さんの動きは適格だった。セグウェイにぶつかった瞬間に爆発するように時間を見計って投擲する。以前理樹が使用したものよりも爆発範囲が広く、本来なら二人が乗っている車も巻き込まれるはずだが、

 

「――――――――!!!」

 

 理樹もいる。理樹は右手を必死に前に出し、オープンカーに飛んでくる爆風を無効化する。

 

(僕だって役に立つんだ!! 来ヶ谷さんに迷惑をかけるわけにはいかないし!!)

 

 来ヶ谷さんに負担はかけられない、と、爆風に思わずはじかれそうになる右腕を必死に前に伸ばし、

 

「……やった」

 

 やりきった。少年は打ち消すことに成功した。おつかれ、と少年は少女とともにとりあえずの安堵を得たことに優しい笑みを見せ、こう言った。

 

「じゃあ、後はお願いねレキさん」

 

 

          ●

 

 

 遠山キンジはアリアをその胸に抱えたまま、ことの成り行きを見ることしか出来なかった。

 ルームメイトとこの間会った変質者が助けてくれたのに、今起こっていることは何かを正しく理解することが出来ない。ただ分かるのは、アリアをなんとかしなければという焦りのみ。その時、上空にやってきたヘリから声が聞こえた。

 

 

 

『――――――――――私は、一発の銃弾』

 

 

 私は1発の銃弾。レキの声。レキのお決まりのセリフだ。

 撃つ時、レキは集中のため言う言葉だとキンジは思っている。

 

『銃弾は人の心を持たない。 故に、何も考えない』

 

『ただ、目的に向かって飛ぶだけ』

 

 バスの鹿から部品が落ちて転がっていく。

 部品から火花があがり宙を飛び、ガードレールを飛び越え海に落ちていった。

 

(すげえ・・・さすがレキだ)

 

 レキはヘリに乗ってる不安定な状態で、ガードレールの隙間から動いているバスに付けられた爆弾の接着部分を一つづつ狙撃し、爆弾を叩き落した。海中に落ちた爆弾は巨大な水しぶきを上げる。バスジャックはこれで解決したことになるだろうが、キンジには勝利の余韻に浸ることなどできない。

 

「アリア・・・・しっかししろ、アリア!!」

 

(額から血がでている。早く病院に・・・・)

 

 

 バスは次第に減速して止まる。

 結局、最後まで何の役にも立たなかった男は、ただその場に立ち尽くすことしかできなかった。


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