Scarlet Busters!   作:Sepia

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黒咲さんがシンクロ次元を満喫しているように見えるのはどうしてだッ!
郷に従うの早いですね!

くーろさき!くーろさき!くーろさき!
この人自身は至って真面目なのにどうしてこう笑えてくるのでしょう。
どこかのブックス!を彷彿とさせますね。


Mission92 Episode Haruka②

 

 中学への入学の時期となると、お姉ちゃんとツカサ君の二人は武偵中学へと進学した。

 ツカサ君はなにか思うところでもあったみたいだけど、私からしたらお姉ちゃんと一緒の学校に行けるなら羨ましい限りである。一方私はというと、中学に通う歳となったからといって学校というところに通ったことはなかった。私には超能力を使えない。その上一族の疫病神としてろくな扱いは受けてはいない。それでも一族の直系であるという事実は変わらない。あいつらが言うには、腐っても三枝の血筋ゆえに狙われる可能性がある以上、学校には行かせられないと親族たちは言ったのだ。そのことで、お姉ちゃんがあいつらともめていたりもした。

 

『な・に・が、狙われる可能性があるから学校には行かせないだ、よ。あいつら、私の葉留佳のために今まで何をしてくれたというの。どうせ葉留佳に何かあっても何もしないくせに。自分たちが星伽神社の巫女たちのように伝統と格式のある由緒正しい家柄だとでも思っているのかしら。金もない、人望もない、そのくせみみっちい。いいところなんて何もないのに。近所から陰口叩かれるのは自分たちにも理由がないと本気で思っているのかしら』

 

 お姉ちゃんは文句を言っていたけれど、お姉ちゃんも私と一緒に学校行けたらいいなと思ってくれているのだろうか。そうだったらうれしいなと思う。

 

 お姉ちゃんが武偵中学に通いだして一年くらいたった時のころだったか。

 ある日、お姉ちゃんが飛び込むようにして三枝の家へとやってきた。

 

「やったわ葉留佳。これであの腐れ親族どもも私に何一つ文句は言うことはできないはずよ。葉留佳、これからは私と一緒に四葉(よつのは)の屋敷で暮らしましょう」

 

 お姉ちゃんが私が住んでいる三枝の屋敷にやってきて私に笑顔でそう言った。

 わたしは突然のことでお姉ちゃんが何を言っているのかすぐには理解することができなかった。

 

「……どうして?」

「私があなたを愛していることを、今から疑うの?」

「そうじゃないの。どうして、そんなことが許されたの?今まで、そんなこと認められなかったのに」

「葉留佳。私ね、諜報科(レザド)ってところでSランクの資格が取ってるけど、今度から正式に私が公安委員として採用されたのよ。それが条件で葉留佳と一緒に暮らしていいっていう親族連中との約束だったし、ツカサは自分は四葉(よつのは)の家を出ていくから四葉の屋敷は自由に使ってくれてもいいって言ってくれている。これでようやくあなたにただいまって言葉をいうことができるわね」

 

 行ってきます。そしてただいま。

 家族ならだれにも使う当たり前の言葉だって、住んでいる家が違う私たちには無縁の言葉だった。

 お姉ちゃんは、それらをこれからは言えるのだと嬉しそうに微笑んだ。

 

「一緒に暮らせるの?」

「ええ。流石に二人っきりというわけではないけど、少なくてもこれからは今までよりはずっと一緒にいられる時間は増えるはずよ」

 

 いつか、ふたりで一緒に。

 昔そう約束したけれど、それはもっと遠い日のことだと思っていた。

 未成年である以上、どうしても親には逆らうことができない立場にある。どれだけ武力という形で力を持っていたとしても、社会的な立場は弱いままだ。お姉ちゃんと一緒に暮らせるようになるのは、大人になって、自分の力だけで生きていくことができるようになってからのことだと思っていた。

 

「本当に?」

「ええ。もちろん。葉留佳に嘘はつかないわ。これから四葉(よつのは)の屋敷にお世話になるのだから、今から幹久(みきひさ)おじさまに二人で挨拶に行きましょう」

「今から?で、でも私なんの準備もしてない」

「準備なんていらないわよ。当分は服なんて最悪私のものを着ればいいだけだし、せっかくだから日用品は心機一転して買い換えましょう」

「でも、あのおじたちが一体どう言うか……」

 

 お姉ちゃんと一緒に行きたいけど、出ていくなんてことを言ったら恩知らずとか言っておじにまた殴られるかもしれない。そう思って言い淀んでいた私に手を指しのべてくれた。何も心配はいらないと、微笑みながら出された手をはねのけるだけの理由はない。きっとお姉ちゃんの手を握った私も笑顔でいられたと思う。

 

「私と一緒に来てくれるでしょう?」

「……うん」

 

 四葉(よつのは)の屋敷はまさしく屋敷と呼ぶにふさわしいだけの広さを持っている。

 ここいらの地域では名家として名を馳せているだけのことはあるのだ。周囲の山や田畑だってすべて四葉家の私有地である。屋敷を囲む外壁には四葉家の家紋である四葉のクローバーの紋章が書かれていた。この模様は委員会に所属している人たちだってつけていたから見覚えがある。

 

「ねえお姉ちゃん。そういえばさ、四葉家の家紋が四葉公安委員会の紋章と同じだよね?なのにどうして今の委員会を取り仕切っているのって三枝の叔父たちなの?」

「四葉家は元々三枝本家を支えるために存在している分家なの。四葉公安委員会だって、もとはと言えば戦後に衰退した一族を立ちなおすために四葉の家の人間がつくったものらしいわね。だから委員長の補佐役には代々四葉の家の人間が選ばれることになっているみたい。ほら、ツカサが私の補佐役をやらされているでしょ?……あいつ、全然やる気ないのにね」

「そうだね。でもお姉ちゃんやツカサ君も、いずれは四葉公安委員会の一員として働いていくんだよね?」

「……それはどうかしらね。私が武偵をやっているのは手段であって目的ではないのだから。私の夢は、葉留佳と一緒に……」

「私と?」

「な、なんでもないわ!恥ずかしいから口にしない」

 

 そういってお姉ちゃんは微笑んだ。昔に佳奈多が言っていたことだ。

 いつ死んでしまうか分からないような武偵なんて仕事はいずれはやめて、静かに一緒に暮らしましょう。

 お姉ちゃんはあの時の約束をまだ覚えてくれている。そのことがなんだか嬉しくなった。

 

 そして今日。その夢の第一歩を踏み出すことになる。

 

「今までは二木の家に預けられて育てられたけど、これからしばらくは幹久叔父様の手伝いをしていくことになるわ。きっと今まで以上に忙しくなるだろうから、同じ家に住んでいるといっても二人だけの時間はそうそう取れないかもしれないわね」

「……それでもいいよ。私の所に戻ってきてくれるならそれでいい」

 

 お姉ちゃんは武偵中学に通っているけど、授業にはテストくらいしか受けていないらしい。単位はすべて、外部からの依頼による報酬点で補っているとのことだ。今でさえそれだけ忙しいのだから、これから本格的に仕事を始めるなら私の相手をしている暇なんてなくなるのかもしれない。でも、それでも別に構わなかった。

 

「待ってたぞ。これからのことで話がある」

「お久しぶりです、幹久(みきひさ)叔父様」

 

 屋敷の正面まで来たところで、私たちを出迎えた大人が一人、そこにいた。名前は四葉(よつのは)幹久(みきひさ)。現四葉家の当主であり、ツカサ君のお父さんでもあり、そして今の四葉公安会委員長でもある。私は今までこの人とは見かけたことこそあれど、まともに話をしたことなんて一度もないから人となりまでは分からない。また何かされるのではないかという不安から、私のこんにちはという挨拶の声は震えていた。大丈夫だよ、と佳奈多が強く握りしてくれた手が温かかった。私たち二人は十畳くらいの座敷の部屋へと通されて、幹久おじさんと向かい会う形で座ることになった。

 

「まずは、佳奈多。おめでとう。武偵中学に通いだして一年ちょっとでこれだけの成果をお前は出した。三枝の名に恥じぬ結果であることを誇りに思う」

「……お誉めに預かり光栄です」

「佳奈多。しばらくはお前は俺の補佐の仕事をすることになる。それは分かっているな?」

「心得ています。それがこの家に葉留佳と二人で住まわせてもらう条件でもありましたから」

「俺の補佐役といっても、これは単なる研修期間のようなものだ。現状、お前の公安0への内定はほぼ確定している。公安0としては最年少での加入となるが、まだ中学を卒業すらしていない歳ということを差し引いてまで選ばれたんだ。俺たち三枝一族にとってこれがどれだけ重要なことだか分かるな?お前には期待してるぞ」

「……」

「くれぐれも、同じく公安0であった三枝(しょう)のようなことだけはしてくれるなよ」

「……心得ております」

「ならいい」

 

 もう言うことはないと、幹久おじさんは立ち上がった。この部屋から出ていこうと引き戸を引いたときに、私に声がかけられた。

 

「葉留佳」

「は、はいッ!!」

 

 わたしは三枝の家ではいないものとして扱われてきた。私は疫病神。私と話せば運気が落ちるし、何か不幸が訪れる。私がいなければすべて万事うまくいったものをと、親族たちは声がかけてくることなんて今までなかったから、声がかけられるなんて思ってもみなかった。

 

「お前は好きに過ごせ」

 

 それだけ言うと、今度こそ幹久おじさんは出ていった。

 それは、私が初めてきいた親族の大人からの、ぶっきらぼうでも悪意はこもっていない声であった。 

 

         ●

 

 それからの生活は、今までとは一変することになる。

 おやよう。そしてお休みなさい。

 家族なら本来誰もが使うであろう言葉を佳奈多から言ってもらえるようになった。

 

 朝起きたらおはようと声がかかる。朝ごはんできてるわよ。一緒に食べましょう。

 お姉ちゃんが帰ってきたらただいまと声がかかる。これから一緒に夕飯の買い物にでも出かけましょう。

 

 こんなことでいちいち喜んでいられることは、本来間違っていることなのだろう。

 本来ならば当たり前に享受して当然のことなんだろう。でも、それが出来てこれなかったことが悲しいことだとしても、私はそれでも別に構わなかった。

 

「お姉ちゃん、おかえりなさい!!」

 

 今まで佳奈多とかわす挨拶の言葉は二つだけ。久しぶり、そしてさようなら。

 住む場所だって扱いだってまるで違う私達姉妹には、こんなことでさえようやくつかみ取った小さな幸せであったのだ。まあ、今まで努力してきたのはお姉ちゃんであって、私に何かできたわけでもない。私はいつもそうだ。いつもお姉ちゃんからもらってばかりで、何もしてあげられていない。超能力があるかないかという違いだけで、私たちは双子の姉妹なのに。

 

「ただいま」

「お仕事お疲れ様。顔色悪いけど大丈夫なの?」

「最近仕事続きでろくに休みも取れていなかったから、今かなり眠たいの。葉留佳、悪いけど今日はもう眠らせてもらうわ。ご飯時になったら起こしてね」

「あ、うん」

 

 四葉の家に来てしばらくしてから、お姉ちゃんは公安0というところで働くようになったらしい。

 公安0というのは聞いたところによると、この日本の治安を守るために存在している最高位に位置している国家による委員会らしい。当然危険度も一般の武偵が取り扱うことができる次元のものではなく、存在が公になればそれだけで大きな事件へと発展してしまうようなものばかりらしい。公安0の仕事は機密性も高いので、お姉ちゃんの補佐役であるツカサくんだって表立って協力することはできないでいる。ツカサくんも何だかんだといいながらもお姉ちゃんの補佐役をしっかりとやっているみたいだけど、それでも大事なことは一人で何でもやっているみたいで、お姉ちゃんは帰ってきたら疲れ切って眠ってしまうことが多くなっていた。

 

「ねえ葉留佳。学校に通うつもりはない?」

「学校?」

「ええ、学校に行くの。私は一緒に通うことはできないけど、きっと葉留佳のためになるわ」

「でも、私今まで学校には通わせてはもらえなかったよ?」

「もうあいつらに許可を取る必要なんてないわよ。葉留佳一人の学費くらいなら、あいつらの手を借りなくても私一人でどうにかできる。もうそれくらいのわがままを通すだけの力を今の私は持っている」

 

 そんな中、ある日佳奈多は私に学校に行かないかと告げてきた。私は学校という場所に行ったことがないので、今一つピンとこなかった。義務教育では中学までは学校で教育を受けることを義務付けられているみたいだけど、それにだって例外はある。学校に通うことにより得られるメリットよりも、それによりこうむるデメリットの方が大きい場合、義務教育であっても例外として処理される。

 

 つまり、超能力を扱う一族には義務教育は適用されていないらしい。

 

 私も、ツカサ君も、そしてお姉ちゃんでさえ、結局小学校には通うことはなかった。

 今でこそお姉ちゃんは武偵中学に通ってこそいるが、単位はすべて依頼でとっているため授業なんて受けたことがほとんどないのだという。実質の形だけの所属だ。まして、今や公安0で働く社会人。学校なんて行っている時間はほとんどない。

 

「そんなことを言うなんていきなりどうしたの?」

「私は二木の家で、ツカサはこの四葉の家で、そしてあなたは三枝の家で今まではずっと一人で過ごしてきた。超能力を使う一族だから、私たちは特別な力をもつ超能力者(ステルス)なのだから、それが掟なのだからと教えられて、何も疑うことなくずっとそれに従ってきた。でも、外に出て超能力者を他の名乗る人たちとも出会って気づいたことがあるの」

 

 お姉ちゃんは私が知らない外の世界のことを知っている。

 実際に見てみたいと思ったことはないというわけではない。

 

超能力者(ステルス)は確かに色んなことができる。私だってこの超能力に命を救われたことが何度かある。きっとこの超能力(テレポート)がなければ私はとっくに命を落としていたでしょう。私には武偵としてやっていく才能はない。自覚があるけど、どうしても変えられない致命的な弱点がある。確かにその力のせいで魔女だと石を投げつけられ、恐れ疎まれることだってあるけれど、だからと言って自分が特別だなんて本気で思い込み、周囲を見下すようなことはあってはならないのよ。そんな奴は間違いなく社会化から淘汰される。この人間社会において、自分が特別なんてことはない。そんなこと言うやつは生きていけないのよ」

 

 超能力者(ステルス)は特別で優れた人間なのだと私たちは教えられてきた。

 だから超能力者(ステルス)ではない私は一族の中では疫病神のようにいないものとして扱われてきた。

 

「葉留佳。どんなことを言ったとしても、私が超能力者(ステルス)であるという事実は何も変わらない。超能力者(ステルス)として生きてきた以上、何だかんだ言っても考え方が超能力者(ステルス)特有のものになってきている。私も、そしてツカサも、武偵という仕事に関わっているせいでそもそもの感覚でさえ狂ってきているわ。このままじゃ、私が武偵をやめたとしても、この一族から離れて葉留佳と一緒に暮らすときには何も分からない。私の普通はもう普通ではなくなっている。これじゃ、あなたとの約束を果たせなくなってしまう」

 

 だから、葉留佳が一般の生活というものを、当たり前に存在している幸せというものを私に教えてくないかしら?

 

 それは佳奈多が私に対して初めて言う、明確な頼み事であった。

 かつてツカサくんは、かつて私が超能力者(ステルス)だったらよかったのにと言ったときに、肯定的な返答じゃくれなかった。その意味を理解したわけというじゃないと思うけど、私はこの時初めて私が超能力者(ステルス)ではなくてよかったと思うことができた。

 

「うん。わかった。私もまだ何も分からないけど、学校に行くよ。いっぱい学んで、今度は私がお姉ちゃんのために何かしてあげられるようにするよ」 

 

 今のわたしにはできることも、そして許されていることも大したことはないのだろう。

 同年代の子供たちと比べて、私が知らないことだってきっと多いはずだ。

 それでも私は幸せだったのだ。

 大好きな家族が傍にいてくれて、大好きだって言ってくれる。

 それさえあれば、他には何もいらなかったのだ。

 家族のためになるとうのなら、学校に全く馴染めなかったとしても諦めずに頑張れるような気がした。

 お姉ちゃんが私のために頑張ってくれたように、私だってきっと頑張れる。心からそう思っていた。

 

 だから、いつからだったのだろうか。

 

 佳奈多がおかしくなってしまったのは、私の幸せが崩れ始めたのはいったいいつからだったのだろうか。

 無表情でそっけないような態度を取りながらも、いつだって私のことを見てくれていたお姉ちゃん。

 目覚めた朝には必ずおはようって言って穏やかな声をかけてくれる佳奈多お姉ちゃん。

 いつだって私のたった一人の家族は、そっけなくとも優しさにあふれた人だった。

 ちょっとしたことですぐ心配性の姿を見せ、慌ててそれを隠そうとする人だった。

 

 そんな佳奈多が、私のたった一人の家族がまるで別人のように変わってしまったのはいつからだっただろう。私と顔を合わせても、一瞥すらせずに横を通り過ぎていくような人になったのは一体いつからだろう。

 

 おはようという挨拶もなく、さよならという言葉も交わさない。

 私のやることに対し何の反応も興味も示さない。

 まるでただの他人のような言葉をかけてくるようになってしまったのはいつからだっただろう。

 

『出てこい佳奈多ッ!!話があるッ!!』

 

 佳奈多が私の前で見たこともないような姿を見せたあの日のことを思い出すと、原因が一つの決定的な出来事だけだとは思えない。私の幸せはどこかできっと、私が気付かなかっただけで以前から綻びはじめていたはずだ。でも、その綻びはいったいいつから始まっていたのだろうか。

 

 




名前だけなら結構前から登場していたツカサ君ですが、こいつ葉留佳視点の物語だとそう出番多くないんですよね……。いつかこいつ主人公で外伝やってもよさそうです。こいつの相棒すでに登場していることですし。

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