忍者が有能すぎましたね!
777回、地を這う敗北者たち!!
……うん、いつもの遊戯王でした。
何かがおかしくてもいつものことすぎて気にならないあたりがすごい。
来週はデニスがついに融合を使って、ゲニスになるんでしょうか?
なんか予告ですでに革命機レボリューションファルコンが火を噴いていたんですけど…。
今から楽しみです。
(……うぅ。身体中があちこち悲鳴を挙げている)
病院へと運ばれた後ずっと意識不明で眠り込んでいた少女、朱鷺戸沙耶はようやく目を覚ますことができた。ここは一体どこなのだろうかと周囲を見渡して、ここは自分自身が拠点としている老人ホームの一室であることに気が付いた。ヘルメスはどうなったのかなど気になることはいろいろあったが、彼女は一つ真っ先に考えはじめたことがある。佳奈多のことだ。
『朱鷺戸さん、あなたは大人しくここで寝ていなさい。いくら
地下迷宮にて佳奈多がイ・ウーのメンバーだと分かったあの時、佳奈多は一瞬にして沙耶と理樹の二人の意識を刈り取った。沙耶自身エクスタシーモードになっていたため佳奈多の動きに全く反応できなかったわけではなかったが、反応できたとしても身体が全くついて行かなかった。ただでさえ魔術を使った反動でボロボロだったため、意識だけは対応することができても、身体が動かなければどうしようもない。いや、佳奈多の強さを考えれば万全の状態であったとしてもどうなっていたか確証はない。
(あいつ、一体何を考えているのかしら)
今思うと、佳奈多が自分たち二人を瞬殺したのはドクターストップの意味合いもあったように沙耶自身思えてくる。その何よりの証拠として、私は今生きている。口封じをしたいなら、あのまま地下迷宮にでも放置すればいいのだ。そしたらイ・ウーだってことも誰にも知られずに済んだかもしれない。わざわざ気絶した人間を二人も抱えて地上に戻ったのは、佳奈多には最初から私たちには死んでもらっては困ると思っていたからなのだろう。
(そういえばあいつ、自分の委員会を持っている風紀委員長だったわね)
佳奈多がイ・ウーのメンバーであったことについては沙耶自身、実をいうとそれほどの驚きはなかった。
イ・ウー研磨派ダイオのエージェントがいるということはアドシアードの時点で判明していたことである。
沙耶が気になっているのは、佳奈多がイ・ウーのメンバーであるということではなく、佳奈多が委員会連合に加入できる委員会の委員長をやっているということである。
(確か現『魔の正三角形トライアングル』の三人の委員会は、自分で委員会を一から作ったはず。あいつはどういう経移で委員会なんか持つことになった?)
そうなると気になる点が沙耶には一つあった。
沙耶は地下迷宮で佳奈多がイ・ウーのメンバーだと知ったあの時、アドシアードでイ・ウーの仲間のジャンヌ・ダルクが逮捕されたのに佳奈多には何の影響もなかった。その理由は佳奈多は委員会連合に所属する風紀委員長をやっているからだと思ったものだが、今冷静に考えてみればその解説ではおかしな点がある。
―――――そもそもどうやって、委員会連合に加盟できるほどの委員会を作った?
夢を壊すようであるが、委員会連合に加入しているということは一種のブランドである。商売においてプロ野球球団をもっていたら会社としてのブランドとして機能するように、委員会連合の委員会という肩書だけで優秀であると証明しているようなもの。そうなるためには当然、後ろ盾となってくれている組織があるはず。
来ヶ谷唯湖の放送委員会におけるイギリス清教。
牧瀬紅葉の保健委員会にだってバックについている組織がある。
なら、二木佳奈多の委員会にもどこかの組織からの支援があるはずだ。
どれだけ超能力が強かったとしても、たかだか17にも満たないような小娘にそんなことなどできるはずがない。
最初はイ・ウーがバックについている組織かと思ったが、そんなわけがない。
イ・ウーというのは一つの大きなまとまりであって、具体的な一企業だというわけでもないのだ。
それにイ・ウーとのつながりが疑われている人間に権力を与えようとするほど委員会連合の審査委員会もマヌケではないはずだ。そうだと信じたい。
(……そうなると、あいつがイ・ウーのメンバーになったのはどうしても委員会を作ってからということになるわね)
イ・ウーのメンバーを味方に引き入れるために委員長という席をわざわざ用意した可能性もあることにはある。
だが、あいにく風紀委員は知識職だ。一朝一夕で勉強したところでなれるはずもない。
時系列の辻褄合わせを考えたらどうしてもこういう結論になってしまう。
そしてそれが、佳奈多がイ・ウーのメンバーであるにも関わらず、委員会を形成できている理由なのだろう。
「考えてばかりいても仕方ないわね。とりあえずあの野郎に問い詰めに行くとしますか」
手始めに、沙耶は何本の刺さっている注射を引き抜いた。
●
6月14日。潜入作戦開始の日となった。
これから二週間、キンジとアリアの二人は計画の通り横浜にある紅鳴館へと潜入する。
必然的に学校の授業はこれからしばらく欠席することになるのだが、武偵高校には『民間の委託業務を通じたチームワーク訓練』だとか書類に書いて教務科へと提出したらあっさりと通った。この学校はホントに大丈夫なのかとキンジが不安に思っていると、待ち合わせ場所にアリアがやってきた。来ヶ谷のことのメイドさんの特訓によって少しはしおらしくなったのかと期待していたが、期待はあくまで期待で終わる。やってきたのは私物の詰まったトランクを当然のようにキンジに持たせるいつものアリアであったのだ。人間というものはそうそう変われるものではないらしい。
「ようアリア。なんか久しぶりに見た気がするな」
「奇遇ね、あたしもそう思うわ。アンタのマヌケ面がなんか落ち着くわ」
「マヌケ面で悪かったな」
潜入に向けてキンジがやった準備はないに等しい。せいぜい荷物をまとめる程度のことである。けれどアリアはそうもいかない。キンジに準備があまり必要なかったのは探偵科寮での召使いのような生活を強いられてきたことによる奴隷根性の産物だ。あまりうれしくはない。対し、ホームズ家で貴族として生活してきたアリアはどうにもメイドというものを演じることができないでいた。
『ム、ムリよっ!』
『いいですか神崎様。無理という言葉は人間の可能性を奪う悲しい言葉なのですよー!』
『そ、そうだけど!できないものはできないのよ!!』
『そんなことありません。最初はいらっしゃませ一つ言えに噛んでしまったり、頑張ってねを注文されたりするような体たらくでも立派なメイドさんになることができます!!この私と一緒に頑張っていましょー!!』
ちょっとアリアの訓練を覗いたとき、それはそれは悲惨なことになったいた。
『よいではないかーよいではないかー!おーアリアいいニオイ!クンカクンカ!』
『へ、ヘンタイ!ヘンタイね!!』
『文句言わないでください神崎様。理子様の言うとおりにすることが作戦成功の第一歩なのですよ!』
『いーやーッ!!??助けてリズッ!!』
メイドの恵梨さんと理子の二人がメイド服を持ってアリアに詰め寄る姿はなんだか怖かった。アリアが助けを求めた相手である来ヶ谷はやたら高そうなカメラを黙々とセットしていて、いつでも撮れるようにと写真撮影用のレフ板を三枝が持ち上げて待機していた。当時のキンジとしては、迷わずに逃げ出そうとした判断は間違ったものではなかったと思っている。
「結局お前は潜入は大丈夫そうか?」
「恵梨さんも一緒に来てくれるみたいだし、何かあってもサポートしてくれるようだから取り敢えずは大丈夫だと思うわ……たぶん」
来ヶ谷のところの委員会の人間だと言っていたが、そうキンジたちと歳は変わらないようにも見える。
話してみた感想としたは、ずいぶんと素直な人ではあった。
素直に笑顔を浮かべて、アリアの無理だという主張を無視し続けてレッスンに取り組んでいた。
「なあ、奥菜さんってどこかで見たことないか?なんか初めて会ったって感じじゃないんだが……どこかで会ったことがあったかな?」
「キンジ。またアンタ過去にたぶらかしてた女じゃ……。白雪に聞いたわよ。あんたの彼女を名乗る女がいたって」
「だから俺心当たりがないって言っているだろ」
「どうかしらね」
すぐさま否定するが、アリアがキンジに向ける視線はどこか冷たかった。
このままでは作戦に支障が出るかもしれないと、どうにかして機嫌を取ろうと考えたキンジであったが、それは実行に移されることはなかった。
「……キンジ?」
待ち合わせ場所に奥菜さんがやってきた。そこまではいい。けど、奥菜さんと笑い声を挙げながらやってた人物を見た瞬間キンジは固まってしまった。
(――――――カナ!?)
時が静止してしまったかの世に立ちすくんでしまった。
アリアが自信を呼ぶ声にも返事を返すことができないでいた。それでもすぐに本人ではないことに気づく。このカナは理子が変装したカナである。そもそもの声が理子のものであるし、背丈だって違う。数年前のカナになら顔は似ているような気もしたが、やはり違う。
「……理子。なんで……なんでその顔なんだよッ!!」
偽物だとすぐに気づいたが、そこには落胆はなかった。むしろ偽物でよかったとすら思う。もしも本物だったとしたら、今の金縛りから解き放たれる気がしなかったからだ。
「理子はブラドの奴に顔が割れちゃってるからさぁ。防犯カメラに映って、ブラドが帰ってきちゃったりしたらヤバいでしょ?だから変装したの」
「だったら他の顔になれ!なんでよりにもよってカナなんだ!!」
「カナちゃんが理子の知っているうちで一番の美人だから。それにキーくんの一番大切な人だしね。だから理子、この顔で応援しようと思ったの。怒った?」
「……いちいちガキの悪戯に腹をたてるほど俺もガキじゃない。さっさと行くぞ」
もし、この作戦を成功させて兄さんの情報を手に入れることができたとする。
そして兄さんと再会することができたものとする。
その時、俺の知る兄さんとは別人のように変わっていたとしたら俺は一体どう思うのだろうか。
『アリアのママは生きているからうらやましいって、今言ったな。なら、私のこともうらやましいか?』
三枝の話を聞いたとき、少なくともこれは決して他人ごとではないのだと思ったものだ。
『正直、殺された親族連中のことなんてどうでもいいんだ。親族たちはみんな死んだけど、私の家族は殺されてなんかいない。でもね、今の私と佳奈多の間にはもう何もないんだ。おはようって声をかわすことも、大好きだって言ってほほ笑んでくれることもない。佳奈多は私を見かけても赤の他人のように一瞥すらせずに横を通り過ぎるだけなんだ』
二木は魔女。血のつながった人間を殺してしまえるほど心を病んでしまった人間。
キンジは二木佳奈多のことをそう思っている。
『今はどこで何をしているのか分からないけど、確かにお姉ちゃんはちょっと前までは寮会で仕事していたから会いたければいつでも会いに行けたさ。でも、全くの別人のように感じるんだよ。ねぇ理子りん。おまえに全くの別人のように変わってしまった家族の姿を見ていなければいけないわたしの気持ちが分かる?大好きだった時のかなたに戻ってくれるんだっていう現実味のない幻想に縋りつかなければならない気持ちが分かるか?』
キンジは三枝葉留佳という人間のことをそんなに知っているわけではない。
でもわかることもある。
きっと葉留佳が大好きだった姉の姿は、今のキンジが知っているような人間ではないのだろう。
大好きだと胸を張って言えるようなお姉さんではあったのだろう。
そうではければ、あそこまで葉留佳は苦しんではいない。
『――――――――生きてればいいってもんじゃない』
この言葉を聞いたとき、慰めの言葉一つキンジは思いつかなかった。
理子の変装とはいえ、カナを実際に目にして分かった。
――――ああ、これは無理だ。耐えられない。何も言えない。
実を言うと、キンジの中には葉留佳に呆れている部分があった。
佳奈多は東京武偵高校にいたのは一日やそこらみたいな短い期間ではなかったのだ。
今までいったい何をしていたのかと、そんな風に思っていた。
大切なら話をしてみればいい。時間はたくさんあったんだ。なぜ今まで何もできないでいたのだ。
そんな風に思っていたのに、今カナを目の前にキンジはなぜ葉留佳が今まで何もできないでいたのか分かった気がした。
「キーくん、ポッキー食べる?」
「あ、ああ。もらうよ」
横浜へと向かう京浜東北線の中で、理子はカナの顔でずっと奥菜さんと談笑していた。
話題は聞いている限りくだらないことばかり。
それでもキンジは、いつしかカナの顔を眺めているだけで懐かしい気持ちになっていた。
話を振られたら冷たく返そうとしていたが、悔しいが幸せな気分であった。
「ねえキンジ。カナって誰?」
質問されたら受け答えする。そんな当たり前のマナーでさえ、キンジは守ることができないでいた。
二木がイ・ウーのメンバーだと知った夜、三枝はちょっとした会話ができたことにすら喜んでいた。
その時は歪んでいると思ったが今は気持ちを理解してしまった以上、もう葉留佳を責めることはできない。
できることなら、このままずっとカナの顔を眺めていたい。そうとまで思ってしまった。
●
「の、呪いの館って感じね」
たどり着いた場所は、ホラー映画の撮影会場にでもなりそうな怪しげな洋館であった。
見取り図を眺めている限り、この禍々しさは読み取ることができないだろう。周囲を囲む鉄柵はドンヨリとした黒雲めがけて真っ黒な鉄串を突き上げており、その内側には茨の茂みが続いているというオマケつき。夜行性のコウモリまで目で見つけることができた。
「ねえ、ホントのホントにここなの?アンタの勘違いで別の場所だったりしない?」
「ここで合ってる。行くよアリア」
「あら、神崎様は怖いのですか?」
「こ、こここ怖くなんかないわおよッ!!」
「落ち着け。何言ってるか分からんぞ」
必死に否定こそしているものの、どう見ても怖がっているアリアに対して余裕の笑みを浮かべていた理子であったが、紅鳴館からの出迎えの者を見た瞬間に理子の笑顔も若干ひきつってしまっていた。変わらずニコニコと人当たりのいい笑顔を浮かべているのは奥菜さんくらいのものである。
「い、いやー。意外なことになりましたねー。あ、あはは……」
だって出迎えてきたのは武偵高校のイケメン非常勤講師の小夜鳴徹であったのだ。
この間のオオカミによってやられた腕にはまだギプスが巻かれており、小夜鳴徹は全員をリビングのソファーへと案内したのち、腰を下ろした。
「遠山様や神崎様のお知り合いだったのです?」
「あたしたちの学校の先生よ」
「おおー!先生ですか!ということはさぞかし先生もお強いのですよね!こんな理立派なお屋敷にすんでいらっしゃるなんて、見事なものです!!」
「い、いやー。感動しているところ悪いのですが、ここは私の家ではないのですよ。私はここの研究室を借りることが多々ありまして、いつの間にか管理人のような立場になってしまったんですよ。ただ、私は研究に没頭してしまって周囲のことを気に掛ける余裕なんてなくすことが多いですから、ハウスキーパーは武偵さんということは決して悪いことではないのかもしれませんね」
「―――――では、契約の方はこのままでよろしいのでしょうか?」
「ええ、もちろん構いませんよ」
決して顔には出さないようにしていたが、キンジは採用通知をもらったことにより一安心した。
人間によっては顔見知りは雇いたくないと言い出す人もいる。この時点で不採用をもらったら作戦がすべて台無しだ。人当たりの言い先生をだますことになるのは少しばかり罪悪感を覚えるが、そんなことも言っていられない。
「ご主人様がお戻りになられましたら、ちょっとした話題になりそうですね。まあ、この三人が契約期間中にお戻りになられたら……という話ですが」
「いや、彼は今とても遠くにおりまして、しばらくは帰ってこないみたいなんです」
そして、キンジは計画が思いの他好調であると判断した。
ジャンヌに言われた鬼とやらは戦って勝てる相手ではないと言っていたし、小夜鳴の言っている通りなら、ブラドとやらと鉢合わせすることはない。
「では、これより先のことはこの奥菜さんに何でも聞いてください。彼女が責任をもって、仕事を取り仕切ります。私はこれから契約成立と本社の方に正式に伝達に行きますので」
「そうですか。では奥菜さん。よろしくお願いします」
「任せてください先生。教師と先生の関係だとはいえ、手抜きだけは絶対にさせませんので!」
●
アリアたちが紅鳴館での仕事を開始したと同時刻、棗鈴とレキの二人は小毬が働いている老人ホームへと花束を持ってやってきていた。まだ病院で寝たままの沙耶への見舞いのためと、ペット(?)として飼い始めた銀狼について小毬に聞きたいことがレキにはあったためである。狼を寮の部屋で買うことになったのはいいものの、食事などで気を付けなければならないものなどを知っている人がいたら紹介してもらえたら御の字だと見舞いに行くという鈴にレキはついていった。
「そういえば、理樹さんは大丈夫なのですか?理樹さんも病院へと運びこまれたとお聞きしましたが」
「知らん。理樹は退院するなりすぐどこかに行ってしまったからな。おかげでバカ二人が寂しがっててあたしが迷惑だ。早く戻ってこい」
「テストの時もいませんでしたね」
「まあ、きょーすけもくるがやも現状似たようなもんだし、気にすることもないだろ」
ブツブツと文句を言いながらも、二人は小毬がいる老人ホームへとたどり着いた。
するとどうだろう。今の老人ホームでは、どことなく慌てているような感じがあった。
「なにかありましたね」
病院として機能している場所が慌てている時なんて、たいていが非常事態である。
誰かが意識不明の重体になっているだとか、これから急患が運ばれてくるだとか。
生憎と、ここは病院設備があるだけであくまでも本質は老人ホームであるらしいので、考えられるとしたら前者だろう。けれど、ちょうどすれ違った小毬は鈴たちとレキを見ると慌てて駆け寄ってきた。
「鈴ちゃん!レキちゃんッ!!ちょうどいい時に!あやちゃん見なかった?」
「え?あいつ目を覚ましたのか?」
「病室からいなくなっちゃったッ!!」