隣のワンダーアリス   作:押花

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第4話「来てる……!来てるぞ……!!」

 映研の新歓を抜け出して家へ帰る俺と島田さん。これからの予定は俺の部屋で晩御飯を済ませて、二人でボコの映画鑑賞だ。

 とりあえず服を着替えてシャワーを浴びようという話になり、俺たちは一旦部屋の前で別れた。

 すぐにシャワーを浴びて部屋着がわりのスウェットに着替えた俺だが、仕事はこれからだ。晩飯にはレトルトのハンバーグを用意する予定だが、それに合わせて米を炊いたり味噌汁を作ったり。お米に関してはシャワーを浴びる前に炊飯器を動かし始めたからほぼする事は無いが。あとは……そう考えながら部屋の中をウロウロすると、コツンと足に何かが当たった。床に乱雑に置かれた俺の落書きが詰まったスケッチブックだった。部屋も少し片付けた方がいいな。

 とりあえずいつでもハンバーグを湯煎できるように鍋に水を入れて沸騰させる。味噌汁は……インスタントのものがあるからそれでいいか。沸騰した水に袋に入ったハンバーグを入れる。その隙に俺は部屋の掃除を始めた。

 ピピピとタイマーが鳴りハンバーグを温め終わった頃、ちょうど掃除もひと段落ついた。レトルトのハンバーグを袋から出し皿に盛る。うん、うまそうだ。うまそうだけどなんか寂しいよな……。そう思って何か無いかと冷蔵庫を漁る。目に入ったのは卵。これだ!

 

 それから少し経ってボコのブルーレイを持った島田さんが部屋にやってきた。

 インターホンを鳴らす島田さんに「空いてるよー」と声を掛ける。すると「お邪魔します」と言いながら島田さんは扉を開いた。

 シャワーを浴びたあとだからか島田さんはパジャマ姿に着替えていた。空色の布地に白いフリルのついた柔らかそうで丈の短いワンピース。その下からは膝下まであるこれまた柔らかそうな空色のズボンを履いていた。

 修学旅行や林間学校で同級生のパジャマ姿を見たのを思い出す。男はだいたいTシャツとかスウェットだけど女の子のパジャマってみんなめちゃくちゃ可愛いんだよな。島田さんのパジャマもそれにもれず可愛いと素直に思った。男とはそこらへんの感覚が違うんだろうな。

 そんな事を考えながらも俺は着々と準備を進めた。

 既に折りたたみのテーブルの上に晩御飯は並べてある。座布団は無いので床にじかに座ることになるがそこは許してほしい。

 とりあえず先に晩飯を済まそうという話になったので二人でいただきますと手を合わせて遅めの夕食を食べ始める。

 今日のメニューは炊きたてのお米にインスタントの味噌汁、そしてレトルトのハンバーグに半熟の目玉焼きを乗っけたものだ。

 

「あの……これは?」

 

 島田さんの視線が目玉焼きを乗っけたハンバーグにに向かっていた。

 

「ああ、レトルトのハンバーグだけだと寂しいと思ってさ。乗っけてみたんだ」

 

 島田さんの言葉にそう返して俺は味噌汁を一口すすった。うん、インスタントのものだけど普通にうまい。続けて俺はお米を食べ、目玉焼きハンバーグもつつく。腹も減ってるからどんどん箸が進んだ。空腹は最高の調味料とはよく言ったもんだ。

 しかしそこで島田さんの箸が止まっていることに気づく。

 

「島田さん……?」

 

 どうしたんだろうか。もしかして何か苦手なものでもあったのだろうか。目玉焼きが駄目とか?卵アレルギーを持ってたりってのもあるかもしれない。ああ、もしそうだとしたら失敗した。島田さんはあの性格だ。きっと俺に気を使って食べられないとは言えないだろう。

 

「……なんか苦手なものあったら残してくれてもいいからね?」

「あっ……ち、違うのそういうんじゃなくて……なんか勿体なくて……」

「勿体無い?」

「その……友達にご飯作ってもらうのって初めてで……嬉しくて……」

 

 ああ、なるほど。

 島田さんは大学生といってもまだ十三歳だ。こういうご飯会みたいな集まりに慣れてないのかもしれない。俺も学園艦で初めて友達の家に招かれて晩飯を用意してもらった時は友人への感謝と申し訳なさを感じたのを覚えている。きっと島田さんの中じゃ申し訳なさの方が大きいんだろう。なら言うことは一つだ。

 

「とりあえず一口食べてみてよ。島田さんの為に作ったんだからさ。……といってもほとんどレトルトだけどね」

 

 そう言って俺は笑った。何も気にせず食べて欲しい。気負わないで欲しい。そんな思いを込めて言った言葉だった。俺の言葉に島田さんは頷くと、箸で器用にハンバーグと目玉焼きを一口サイズに切り取り口に入れる。

 

「………おいしい!」

「よかった……」

 

 思わずほっと息が出た。

 

「目玉焼きを乗っけるだけでこんなに美味しくなるなんて……知らなかった!」

 

 喜んでくれたようで何よりだ。最後の一手間は無駄じゃなかったって事だな。それから島田さんは空腹に後押しされてか次へ次へと箸を動かして食を進める。自分の用意したご飯をこう美味しそうに食べてくれるとなんか嬉しいな。まあただのレトルト食品ではあるけど。

 

「……なんか楽しい」

「ん?」

 

 俺は返事をしてごくんと口の中のものを飲み込んだ。

 

「さっきも言ったけど友達にご飯作ってもらうの初めてで本当に嬉しくて……それになんか友達の家でご飯食べるって、ワクワクする」

 

 ワクワクする……か。少しわかるかもしれない。人の家でご飯を食べるって気を使うけどなんか楽しいんだよな。きっと祭りの焼きそばを食べるのが楽しかったりとか、そういうのと似ているのだと思う。

 

「暮井さん、本当にありがとう」

「あ、うん……」

 

 島田さんに改めてそう言われて照れ隠しで思わず視線を逸らした。

 しかし、正直こんなに喜んでくれるとは思わなかった。ほぼレトルトだし本当に大したことはしてないので少し申し訳なさまで出てくる。

 

「今度はレトルトじゃなくてちゃんと俺が料理してご馳走するよ。まあそんなに料理が得意なわけじゃないけど」

 

 でもたまに晩飯を作ったりすることもあるから今日より豪華のものはきっと用意できるだろう。

 

「ほんと……!」

 

 そう言った島田さんの目はキラキラしていた。思ったより島田さんが食いついてきた。そんなに期待されると満足するものを作れるか不安になる。

 それからも雑談を交えながら俺と島田さんは食事を進めた。

 

「あの……」

 

 島田さんからの視線。ふと手元を見ると再び箸を動かす手が止まっていた。

 

「どうしたの?」

「えと……その……」

 

 島田さんはモジモジと恥ずかしそうに口籠る。しかしやがて意を決したようにこう言った。

 

「お代わりって……お願いしてもいい………かな?」

 

 見るといつの間にか島田さんの茶碗から米が消えていた。しかしなんだ、そんな事か。

 

「もちろん!」と答えて炊飯器に残っていたお米を島田さんの茶碗によそった。ついでに俺も白米をお代わりする。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ〜ごちそうさま」

「ごちそうさま。あ、私も食器運ぶの手伝う」

 

 晩飯を平らげてお腹が落ち着いた俺たちはすぐに片付けをした。折りたたみテーブルを食卓にしていたからそれを退けないとテレビが見にくいのだ。俺が食器を洗う間に島田さんに持ってきたボコ映画のブルーレイのセットをお願いする。ちなみに我が家には父さんが残して言ったテレビはあるが、ブルーレイレコーダーはない。だから代わりにゲーム機で再生をすることにする。

 俺が食器を洗い終わった後。ちょうど映画の方の準備も完了したようだ。俺はボスンと自分のベッドに腰掛ける。テレビがある壁の向かいにちょうどベッドがあるので、テレビを見るときはベッドに腰掛けて見るのが一番楽なのだ。島田さんが床に座って見ようとしていたので隣をポンポンと叩いてベッドに座る事を勧める。

 すると素直に俺の隣に腰掛けてくれた。少しだけベッドのスプリングが沈む。やっぱり軽いんだなぁと思う。

 

 

 そして俺と島田さんで深夜の映画鑑賞会が始まった。

 

『映画を見にきてくれたちびっこ達、ありがとな!!オイラの名前はボコ!!ところでオマエ等ミラクルボコライトは持ったか!?』

 

 映画が始まってすぐにボコがそんな事を言った。ボコの手にはミラクルボコライトらしいものが握られている。

 

『ミラクルボコライトはオイラを応援するときに使ってくれよ!!オマエ等のミラクルボコライトの光はオイラの力になるんだ!!ただし振り回したり、光を近くで見たり、危ない行為は絶対に禁止だからな!!』

 

 続けてボコはミラクルボコライトとやらの説明をする。応援するためのライトってなんか聞いた事ある設定だな。それもかなり大手のアニメで聞いた気がする。

 チラッと横を見るといつの間にか島田さんの手にミラクルボコライトが握られていた。 用意がいいな……。俺の視線に気づいた島田さんは、はっと何かに気づいたような顔をしてポケットに手を入れた。そして取り出したのはもう一つのミラクルボコライト。

 

「これ、暮井さんに貸してあげる」

「あ、ありがとう」

 

 そう言ってライトを受け取る。やっぱり見たことあるデザインしてるな。それもきっとパクリ元はあの超大手アニメ。権利的に大丈夫なんだろうか……。そうこう考えているうちに映画の本編が始まった。

 

 上映時間は1時間。

 結論から先に言おう。ボコの映画は、面白いと言えるものではなかった。

 既に映画が始まって40分ほどだったが、やってることは最初からほとんど変わらない。ボコが誰かに喧嘩をふっかけて負け、そのリベンジにもう一度誰かと喧嘩をして負ける。何故か誰かに勝ったわけでもないのに相手はどんどん強くなり、今の喧嘩相手は巨大なドラゴンだ。最初はボコと同じくらいのウサギとかだったのにインフレがすごい。

 映画は正直面白く無い。仮にもボコ原作絵本の原案を出した俺だが面白さは分からなかった。これじゃあ映研の新歓と対して変わらないな……。

 対して隣の島田さんは食い入るように映画を見ていた。本当に楽しんでいるようで画面に集中しきっているのか俺の視線に気づかない。

 そうこうしているうちにとうとうクライマックス。ドラゴンにボコボコにされていたボコが立ち上がった。

 

『うおおおお!!やってやるぜ〜!!』

 

 やってやるやってやるや〜ってやるぜ。と後ろでテーマソングが流れる中ボコは雄叫びをあげた。そこからは少し凄かった。突然作画が豪華になりすごい迫力でボコがドラゴンに突っ込んで行く。ドラゴンのブレスや爪を避けて避けてとうとう敵の懐に潜り込んだ。

 おおっ……!これはもしかして……!!と思わず手に汗握った。しかし、ボコが渾身のアッパーカットを放とうとした瞬間。ズルッと足が滑りボコはその場にズッ転けた。

 

「……はい?」

 

 思わず声が出る。その後も豪華な超作画でドラゴンにボコボコにされるボコ。ボコが空中で錐揉みして地面にぐしゃっと落ちる。

 それを見たドラゴンは翼を広げてその場を去り、その背中に『覚えてろよ……!』というボコの言葉で映画は終わった。

 

「まさかあの超作画で勝てないとは……」

 

 流れるスタッフロール見ながら呟く。

 

「でも、それがボコだから!!」

 

 俺の言葉に島田さんがそう返した。

 映画はつまらなかった。つまらなかったけど今日の飲み会と同じじゃない。あの時は島田さんが困った表情をしていたけど、今の島田さんは大好きなボコ成分を摂取したからか幸せそうな顔をしていた。

 まあ、島田さんがこんなに喜んでいるんだ。この映画を見て良かったのだろう。最後のバトルは正直見応えあったしな。だからこそボコが滑って転けたときはおい!ってなったけど。

 

「て、あっもうこんな時間か」

 

 スタッフロールが終わった後時計を見るともう深夜の2時だった。自覚すると思わずあくびが出る。

 

「全然気付かなかった。でも確かに少し眠い……」

 

 島田さんも口元を押さえながら小さくあくびをする。

 明日が休みでよかったなと思いつつ今日は解散しようという話になった。すぐ隣だが、島田さんを部屋まで送って行くことにする。寒さを覚悟してガチャっと扉を開く。

 うっ、やっぱり寒い。

 

 ーーーにゃあ。

 

 突然鳴き声が聞こえた。ふと下を見ると共用廊下に太った黒猫。ボスの姿が見えた。

 いつも俺に餌をねだりに来るボスだが、こんな時間に来るのははじめてだ。

 

「しょうがないな……ちょっと待ってろ」

 

 そう言って一度扉を閉める。

 

「どうしたの?」

「いや、ボスが来ててさ。せっかくだからなんか餌をあげようとおもって」

 

 言いながらキッチンの戸棚からビーフジャーキーを取り出す。そしてもう一度扉を開き、ボスにビーフジャーキーをあげた。ボスはよくやった、と言わんばかりににゃあと鳴くとビーフジャーキーを食べ始めた。

 

「よしよし、しっかり食えよ」

 

 しかしボスを撫でようとするとスッと手を躱された。

 

「ボス、おいで」

 

 今度は島田さんが俺の隣に座ってボスを呼ぶ。するとボスは素直に島田さんの膝の上に乗る。全く、なんで餌をあげてる俺には懐いてくれないのかね………。

 でもボスを膝に乗っけてる島田さん絵になるな。島田さんがなんとなく白いイメージでボスが黒猫だからかお互いによく映えさせあってると思う。

 ほんと絵になるな……。

 絵に………。

 

 

 ーーーそうだ、絵になる。

 

 

 何かがズガンと頭に降りて来た。

 島田さんはお姫様。ボスはそんなお姫様に使える騎士だった成れの果ての姿

 もしくは島田さんは本当はいい子なのに嫌われものの魔女で、ボスは島田さんをみんなと仲良くさせるために動いている臣下。

 どんどんとアイデアが溢れて来る。アイデアっていうのは一度閃くまではなかなか出てこない。しかし一度閃いて仕舞えばあとはどんどんネタが湧いて来るものなんだ。

 島田さんと別れた俺は部屋に戻り、作業用テーブルの席に着く。

 鉛筆を取りガシガシとネタを忘れないうちに紙に書き込む。そうやってネタを書いている間にもどんどん新しいネタは増えて行く。

 

「来てる……!来てるぞ……!!」

 

 この調子だとまだまだ寝れないな。

 そんなことを考えながらニィっと口角を釣り上げた。

 




愛里寿嬢の好物は目玉焼きハンバーグです。
つまりそういうことです。

そろそろガンガン話を進めていきたいですね。
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