(前回までのあらすじ:剣士、女魔法使い、女武闘家の白磁級一党は辺境の街で女神官を加えゴブリン退治へと繰り出す。しかし敵戦力の算定を誤った一党は分断され各個撃破されてしまう。女魔法使いも瀕死の重症を負い、女神官の目の前で死を待つばかり。そして今、女神官までもがゴブリンの手に落ちようとしていた。走れ!ゴブリンスレイヤー!走れ!)
「アイエェェ・・・」
つい先程、自分たち二人を逃がすために身を挺してまで庇ってくれた女武闘家。彼女が手酷く陵辱される瞬間を女神官は目にしていた。女性として産まれたならば恐らく最も避けたい最期であろう。それでも彼女の唇の動きからは逃げて、と読み取れた。
しかし女神官は無力であった。自身も女武闘家と同じ運命を辿ることは容易に想像がつく。女神官は恐ろしさのあまりしめやかに失禁した。
「アイエェェ・・・!」
最早万策尽きたり。女神官はせめて人質達がこの後に訪れる冒険者によって解放されるよう地母神に祈った。ゴブリンに拐われた村人の娘を救おうとして自らが窮地に陥るとは。まさに情にサスマタを突き刺せばメイルストロームに流されるのコトワザ通りの展開、このコトワザは平安時代の哲学剣士ミヤモト・マサシの残したものだ。
アワヤ!このまま女神官はゴブリン達に陵辱の限りを尽くされ、強制前後されてしまうのだろうか!?地母神=サンはここでセービングスローお願いします。1D100で判定を行って下さい。・・・おお、ゴウランガ!地母神!
「Wasshoi!」
辺境勇士ゴブリンスレイヤーのエントリーだ!
飛び込みざまにスリケンを投擲し、前転!「イヤーッ!」「ゴブアババババーッ!?」ゴブリンの首がボーリングのピンめいて弾き飛ばされる!ストライク!
スリケンを投擲し、前転!「イヤーッ!」「ゴブアババババーッ!?」ゴブリンの首がボーリングのピンめいて弾き飛ばされる!スススストライク!2連続キルでポイントが2倍点!
スリケンを投擲し、前転!「イヤーッ!」「ゴブアババババーッ!?」ゴブリンの首がボーリングのピンめいて弾き飛ばされる!ススススススストライク!3連続キルでポイントが3倍点!
スリケンを投擲し、前転!「イヤーッ!」「ゴブアババババーッ!?」ゴブリンの首がボーリングのピンめいて弾き飛ばされる!スススススススススストライク!4連続キルでポイントが4倍点!
スリケンを投擲し、前転!「イヤーッ!」「ゴブアババババーッ!?」ゴブリンの首がボーリングのピンめいて弾き飛ばされる!スススススススススストライク!5連続キルでポイントが5倍点!パワリオワー!
「ウオーッ!」この光景を眺めていた地母神も喝采をあげる!只人の王国西部辺境の街名物、いつもゴブリンゴブリン言ってる何か変なのは神々の間でもカルト的人気を誇る!
神に至った巨龍、ドラゴン・ニンジャも強い母性を感じさせる瞳を細めて彼女のニンジャクランの末席に連なる若きニンジャの活躍を見守った。
「ヤレーッ!ゴブリンスレイヤー=サン!ヤレーッ!」
ダイス目の良さと臨場感、そしてお気に入りの女神官が救われるのが確定したことで何かのタガが外れたのか地母神が髪を振り乱して叫ぶ!違法薬物メン・タイをオーバードーズしたかのようだ!コワイ!
これには周囲の神々や幻想の神、真実の神も苦笑する。ところで読者の方々の中にニンジャ神学を修めておいでの方はいらっしゃるだろうか?もしニンジャ神学を修めておいでなら地母神の狂乱にも得心がいくであろう。古来より地母神とは大地の恵みを司る母なる神であると同時に、人に試練を与え成長を促し、時に荒ぶる狂乱の神たる一面を持つ。今でも世界各地にのこる地母神の祭儀を見れば一目瞭然である。
そしてゴブリンスレイヤーは当然の如く地母神の期待に応える。彼は世界を救わない。だがゴブリンは殺す。
カラテ奥義スリケンボールで瞬く間にゴブリンを5体殺し終えたゴブリンスレイヤーが女神官に向き直る。そして女神官の矢傷を見るや、羽をへし折り矢じりが女神官の傷口を徒に広げないよう注意しながら引き抜いた。ゴブリンスレイヤーは腰のニンジャポーチから解毒薬を取り出し、女神官に渡す。
「ドーモ。ゴブリンスレイヤーです」
「あなたは・・・いえ、私よりも彼女の手当てを優先してあげてください!」
ゴブリンスレイヤーが両手を合わせてオジギした。アイサツはニンジャ同士の礼儀作法であるが、時代が下りモータルに対しても日常的に行うように変化していったものだ。なお、今でもニンジャ同士のイクサにおいてアイサツは絶対の礼儀であり、アイサツ前のアンブッシュは一度きり、アイサツ中に攻撃を行うのは言葉も出ぬほどのスゴイ・シツレイとされている。
女魔法使いは明らかに深手を負っていた。呼吸も弱く、血を吐き、時折引きつけをおこしたかのように息を吸う。
「手遅れだ」
ゴブリンスレイヤーの視線は女魔法使いに深手を負わせたと思しき短剣に向いている。短剣には異臭を放つ汚ならしい液体が塗布されていることが分かる。ゴブリンスレイヤーはこれに見覚えがあった。この汚ならしい液体はゴブリンの用いる毒である。ゴブリンは自分たちの糞尿を腐敗させた腐毒を武器に塗布して用いることがあるのだ。
「ナンデ!」
「この短剣を見てみろ。これはゴブリン共が使う腐毒だ。奴等は馬鹿だが間抜けではない。こうして毒さえ使う」
「そんな・・・」
ゴブリンスレイヤーはジゴクめいたフルフェイスメンポのまま女魔法使いの口許に耳を近づける。
「まだ意識はあるか」
「・・・ろして・・・こ・・て・く・・・・」
「カイシャクする。ゴブリン共も皆殺しにする。安心せよ」
ゴブリンスレイヤーは手刀でアイアンクローツメを放ち、痛み無く女魔法使いをカイシャクした。
「あり・・が・・・」
女魔法使いは絶命した。白磁級一党のありふれた末路だ。ゴブリンスレイヤーがゴブリンスレイヤーとして西部辺境で活動し始めて5年、同じ運命を辿った白磁級一党を数多く見てきた。
「俺はこの巣穴のゴブリンを殺す。お前はどうする」
ジゴクめいたフルフェイスメンポのニンジャが女神官をジゴクめいた視線で貫いていた。女神官は急性NRS(ニンジャ・リアリティ・ショックの略。ニンジャから放たれる超自然的威圧感や恐怖で恐慌状態に陥ること。症状が悪化するとショック死に至る)に陥りかけた。だが少なくとも彼は自分達をゴブリンから救ってくれた。自分も自分に出来ることをしよう。地母神の教えを胸に、女神官は決断的に立ち上がった。
「私も行きます!」
「ならば来い。奇跡は何が使える?」
「小癒と聖光を3回使えます。先ほど小癒を一度使ったので残りは2回です」
ゴブリンスレイヤーはひとつ頷くと、おもむろに殺害したゴブリンの腹を開きテヌギーにたっぷりと血を吸わせ始める。
「アイエェェ狂人!?」
女神官は再びしめやかに失禁しそうになるがもう出るものがない。
「・・・何を勘違いしているかは知らんがこれは臭い消しだ。ゴブリン共はそれなりに鼻が利く。特に女の小水の臭いにはな」
そう言うとゴブリンスレイヤーは有無を言わさずに血塗れテヌギーで女神官の衣服を赤黒に染めていく。
「アイエェェ・・・」
女神官はツキジのマグロめいた瞳だ!だがむざむざアンブッシュが失敗する可能性を見逃すゴブリンスレイヤーではない!
「奇跡についてだが小癒は使い物にならん。閉暗所で使うなら聖光だ」
「分かりました!」
前置きなしで指示を出すゴブリンスレイヤーに戸惑うも、即座にマグロ目から復帰する女神官。バッファロー殺戮轢殺鉄道めいた勢いで進んでいく現実に精神のヘイキンテキを失いかけていた女神官だが既にその瞳は巣穴の奥、仲間や人質達の救出に向けられている。
ゴブリンの巣穴をジゴクめいたフルフェイスメンポのニンジャと、経験は浅いが今まさに「冒険者」へと成長した女神官が奥へと進んでゆく。