「え、今日は豚殺しの依頼ないの!?」
「はい、今日はありません」
「ちゃんと装備の汚れを落として、エプロンの洗濯もしたのに!?」
「えぇ、綺麗になってますね。これからもそれを続けて下さい♪」
「ソンナー」
オークの依頼がない。
それは、彼にとって「今日のご飯?ないよ!(ニッコリ)」と言われるのと同じくらいショックな事なのだ。
因みに独身の一人暮らしだからご飯は自分で用意しないと無いのも事実で、昨日の食事はオークの端肉を使ったシチュー。美味いぞ。
「でも、いいじゃないですか。貴方の憎む相手が今この時だけでもいないのは、普段から頑張っている証ですよ」
受付嬢からの言葉にオークハンターはそれもそうかと考えると、掲示板に貼られている余った依頼を見る。
白磁等級向けの仕事がほとんど、その中で一番余ってる物がゴブリン退治である。
ふと、師匠であるゴブリンスレイヤーが休みなくゴブリン退治をしている姿を思い出す。
オークハンターが新米冒険者の頃、早く憎きオークを殺せるようにランクアップを目指して無理に一人でゴブリン退治に行った。
結果は罠にかかって集団に囲まれて死にそうになった所をゴブリンスレイヤーに助けてもらい、九死に一生を得た。
オークハンターは無知で無鉄砲な自分を恥じ、同時にゴブリンを相手に油断もせずに徹底的に殺すその姿に憧れた。
だから弟子入りした。半ば強引に。
だからたまには、初心に帰ろう。
「受付さん、師匠は?」
「ゴブリンスレイヤーさんですか? 既にゴブリン退治へと出向いてますけど」
「相変わらず行動が早いな、あの人は。たまには一緒に行こうかと思ったけど」
「という事は今日は?」
「ゴブリン…いやゴミを片付けるかな」
そう言うと受付嬢はニッコリと微笑んで残っているゴブリン退治の依頼を提示してくれた。
それを一通り目を通してからオークハンターは準備してから依頼を受けると言い残して一度ギルドへ出た。
今の装備はあくまで「オーク用」の装備。
ゴブリン退治にはそれ相応の準備が必要だと師匠には教えられているのだ。
「新人冒険者のパーティが先に?」
「はい、少し前に依頼を受けて出発されまして…すいません、もう少し待つように言ったのですが」
「大方、ゴブリンを追い払った事があるからって油断しているな…全く」
装備とは言っても着込んでる防具は変わらないが、背中には骨の棍棒を背負い、腰にはエプロンと包丁の替りに骨を削って作られた短剣を数本、そして追加のバックパックを装備したオークハンターが再びギルドを訪ねて依頼を受けようとすると、受付嬢から既に新人冒険者のパーティが受けてしまったと話を聞いた。
確かにゴブリン弱い。白磁等級の冒険者どころか村人でも倒せる事は倒せる。
しかし、それは一個体だけの話だ。
新人冒険者がゴブリンによって全滅も珍しい話ではないし、オークハンター自身も死にかけたのだ。
「今すぐ出る、ゴミ掃除だ」
先程までの緩い感じの口調から一転して、まるでゴブリンスレイヤーみたいな淡々とした口調になると急いでギルドから出た。
オークはぶち殺す。それはオークハンターの最優先事項でもあり、生き甲斐でもある。
ゴブリンなど本来は興味ない。でも奴らは師匠の敵、師匠を苦しめるゴミなのだ。だからゴブリン退治を『ゴミ掃除』と呼んでいる。
依頼のあった洞窟まで来たオークハンターはまず入口に建てられているトーテムに目がいく。
それはゴブリンシャーマン…呪文使いがいる印であり、群れの率いているのはこいつだろうと彼は考える。
これは新人達には荷が重いなと感じ、すぐに松明を用意して、腰の短剣を抜くと洞窟に入る。
そしてすぐに目に付いたのは先程入口にあったトーテム…これを見たオークハンターは横穴に目をつけて警戒するが気配がない。
「あいつら、やっちまったな…」
そう呟いた瞬間に男女の叫び声と共に戦闘に入ったであろう物音が響いた。
それを聞いたオークハンターは駆け足で洞窟の奥へ進んでいく。
本来ならあまりゴブリンに気づかれないように歩くのがセオリーだが、戦闘しているなら走っている音には気づきにくい。
そして、奥に明かりが見えた。
状況は最悪。
魔術師の女はゴブリンに刺されたのか血を流しながら倒れ、
その傍にいる神官の少女が腰を抜かして何も出来ない。
近くで剣士らしい青年が集団に囲まれて攻撃を受けている。
そして、奥に武闘家の少女が身ぐるみを剥がされて凌辱されようとしている。
その光景にオークハンターはこう呟いた。
「ゴミ共が…」
右手に持っていた短剣を奥で武闘家の少女を慰み者にしようとしていたゴブリンに向けて投げると寸分の狂いもなく頭に刺さり、後ろに倒れる。
すぐにゴブリン達はオークハンターの頭を見ると集団で襲いかかる。
大きい豚が、食べ甲斐のある餌が来たと勘違いでもしているのか、舌なめずりしながら迫る。
「掃除の時間だ」
ゴブリン殺す宣言をしながら、空いた右手は背中の棍棒を引き抜いて左手の松明と共に構えると、飛びかかるゴブリンの頭や胴を棍棒で打ち返し、壁に叩きつけたり地面に落として思い切り頭を蹴りつけて首を折る。
時には松明も武器として使い、ゴブリンの顔面を殴りつけながら押し付けて燃やす。
餌だと思った豚頭の戦いぶりに数匹のゴブリンが恐怖に駆られて逃げようとしてもオークハンターは短剣を投擲し、頭に刺さったのは死に、体に刺さって倒れたのは彼に追いつかれて蹴り飛ばされる。
これで奥にいるデカい個体…ホブを残したゴブリンは全部殺された。
突然の出来事に女神官は腰を抜かして呆然としたいたところを、オークハンターはホブを睨みつけたまま声をかける。
「おい、そこの神官。怪我はないな?」
「は、はい…」
「なら、あいつらにこれを飲ませろ。
急げ」
「…っ! はい!」
左手の松明を足元に落とすと、腰に付けてある水薬と解毒剤の二種類の小瓶が入ったバックパックを女神官に投げ渡してから短剣を抜いた。
このホブは渡り…つまり用心棒として群れにいるから力も強いだろう。
実際に女武闘家の蹴りを片手で受け止めて振り回せるくらいだ。
ホブも俺様には勝てないだろうと、そう思い込んでいる。
「来いよ、ゴミ」
「〜〜〜!!」
「逃げて下さい!」
オークハンターは棍棒持った手でホブを挑発すると、馬鹿にされてると感じたホブは雄叫びを上げながら石斧を振り上げて襲い掛かってくる。
このままでは潰されてしまうと思った女神官は逃げるようにと叫んでしまう。
しかし、問題ない。
彼を誰だと思っている?
「馬鹿だな、お前」
「!? ~~~~~っ!!!?」
そのまま石斧を振り下ろそうとしたホブにオークハンターは呆れながらそう言うと、体を低くして棍棒で思い切り殴った。
すると、ホブはまるで時が止まったように硬直したかと思うと何か叫びなから仰向けに倒れて悶えている。
そう、オークハンターは全力で殴ったのだ。
ホブの『股間』を。
「俺はお前よりデカくて力任せで馬鹿で臭い豚を狩ってるんだよ。ゴミが新人を倒したくらいで、調子に乗るな」
そのまま彼は悶え苦しんでるホブに乗っかると、首に短剣を突きつけてから棍棒で何度も短剣に打ち付けて首の骨を折った。
それと同時に短剣も折れてしまったが、元々使い捨ての武器だから問題ない。
最後に頭を蹴飛ばしてちゃんと死んでいるか確認していると背後から誰か歩いてきた。
聞き覚えのある足音に彼は振り向いて頭を下げた。
そう、ゴブリンスレイヤーだ。
「お疲れ様です。師匠」
「やはり…お前か」
「たまにはゴミ片付けも大事ですね」
「当然だ。ゴブリンは殺す」
閲覧ありがとうございます。
原作に突入しました。
オークハンターの泥臭い戦い方は師匠譲り(ゴブスレさん)です。
今後もこういう戦い方をしますのでよろしくお願いします。
それでは、また。