「神官、さっきの中身はちゃんと飲ませたか?」
「はい…ありがとうございます」
「ならいい。後…そこの娘にはこれを羽織らせておけ」
ゴブリンスレイヤーに挨拶し終えて、自分が駆けつけた現状と殺したゴブリンの数を報告したオークハンターは女神官に水薬と解毒剤を三人に飲ませたかを確認する。
集団で攻撃された青年剣士も刺された女魔術師も少しずつ効いてきたのか呼吸は安定している。
それでも青年剣士の方は酷い怪我であるのは間違いない。
先程から女神官の後ろに隠れて泣いている女武闘家を見たオークハンターはバックパックからシーツを取り出して女神官に投げ渡し、師であるゴブリンスレイヤーに視線を移す。
「師匠、俺はとりあえずこいつらを外に連れ出しますよ。投擲用の短剣は持っていきますか?」
「武器は奴らのを使う。短剣は外へ逃げ出そうとした奴を殺す為にお前が持っていろ」
「了解です。多分残りのゴミはシャーマンとその取り巻きが数匹くらいだと思います」
「この巣の規模としては残りはそのくらいだな。後は俺が行く」
「私も、行き…ます」
新人冒険者一党を全員連れ出そうとした矢先に女神官がそう言って立ち上がる。
まだ死の恐怖に泣きだしそうな顔をしているが強く意志を固めたであろうその目を見たオークハンターは少し感心した。
あんな事が起きてからすぐに覚悟を決めて立ち上がれるとは…この神官、強くなれるなと感じたのだ。
ゴブリンスレイヤーが女神官に何の奇跡を使えるとかを確認している間、オークハンターは青年剣士と女魔術師をそれぞれの肩に背負い。
そういえばゴブリンは臭いには敏感だったなと思い出し、オークハンターはこれから女神官に起こるであろう事を言おうと思った。
しかし、既にそれは遅かった。
そこには血で汚れた法衣を着て目が死んでいる彼女の姿があったのだ。
プライベートであれば「洗えば落ちるよ!…多分、きっと、恐らく」と励ましていただろう。
しかし、今は心の中でこう言うしかない。「強く、生きろ」と。
「っ…ここは? いってぇ!?」
青年剣士が目を覚ますとそこは洞窟の入り口の近くだった。何故ここにいるんだと飛び起きた瞬間に全身の痛みに悶える。
着ていた防具は外されて全身には包帯が巻かれてあった…誰が助けてくれたんだろうと思っているとそれはすぐそこにいた。
豚頭を被ったゴツイ男…オークハンターだ。その異様な出で立ちに青年剣士が驚いていると、男の方もそれに気づいた。
「起きたか、思ってたよりしぶとくて良かったな」
「あんたは? 皆をどこに…!?」
「いきなり動くな。死んでてもおかしくない位にゴミ共にやられてたんだぞ?」
「…っ」
「質問には答えてやる。俺はオークハンター、冒険者だ。あと仲間はそこだ」
そう言ってオークハンターが視線で指した先を見る。そこには木の木陰で震えて泣いている二人の女性の姿、武闘家と魔術師だった。
少しずつ思い出してきたのか、段々と顔色が悪くなってきた青年剣士は気付いた。もう一人いない事を。
その事を話そうとした瞬間にオークハンターから話し始めた。
「あの女神官なら洞窟に出向いている」
「はっ? 何であんたも一緒に行かないんだ? あの子が危ないだろ!?」
「俺の師匠が付いている。あの人の言う通りに行動をしているのなら問題ない」
「けど…っておい!」
食い下がろうとする青年剣士を無視して立ち上がったオークハンターはそのまま青年剣士を抱える。
そして二人の許へ行くと抱えていた青年剣士をそっと降ろしてから三人の前に座る。
表情がまるで見えない豚頭の兜と面は彼らに圧力を与えているように思えた。
泣いていた二人も怯えながらも見ていた。
「お前ら全員が生きてて、何よりだ。死んでは元も子もない」
オークハンターが少し間を空けてから話し出す。それは全員の無事に喜んでいるようにも見えた。
もし彼が来ていなかったら全員が死んでいた、それを彼が助けに入り高価な薬まで与えてくれたのだ。
三人には彼が物語に出てくるような人物なのではとも思えていた。
次の言葉を吐くまでは。
「だから、これが終わったら故郷に帰るといい」
突然の突き放した言葉に三人は呆然と固まっていた。
声色から怒っているようにも脅しているようにも聞こえない。
いつも通りの淡々とした声で、話し方でこう言っているのだ。冒険者を辞めろと。
これには青年剣士も黙ってはいられない。
「何でだよ!? いくら助けてくれたからって言っていい事と悪い事があるだろ!?」
「今回、お前らがやった失敗を全て…いや半分でもいいから言えるか?」
「俺達の、失敗?」
「今すぐには思いつかないか? 少しだけ時間をやる、考えてみろ」
「いきなりそう言われてもよぉ…」
オークハンターは文句言いながらも考える青年剣士をじっと見つめて黙る。
考える事は大事だ、それは彼が師から何度も聞かされた教え。
彼も頭の出来は良くなかったがそれでも考え、行動して、学んだ。
すると女魔術師と女武闘家は恐る恐る手を上げ、答えた。
それに気づいた彼は答えて見ろと二人に視線を移す。
「私達は…解毒剤を用意してなかった」
「正解だ。俺の手持ちが無かったらお前は猛毒で死んでいたな」
「背後から、ゴブリンが襲ってきて、頭の中が真っ白になってました…」
「惜しいな。正確には奴らの罠に気づかずにまんまと引っ掛かった事だ」
「罠? あんな何もない洞窟で…っ!?」
青年剣士がそう言うと二人もハッとした顔になって気づいた。
そう、洞窟の中に入口と同じトーテムがあった事に。
オークハンターは頷いて、骨の短剣を抜くと地面に何かを描き始めた。
それは目の前にある洞窟の図だった。
誰もが目に入るトーテムの横に穴がある事、それは明かりが無いと見落としてしまいがちである事に加えてそこにゴブリン達は待っている。
間抜けな獲物が素通りして背後をがら空きにしてくれる事を。
駆け出しの冒険者がよく陥る失敗だなっと付け加えながら彼はそう説明した。
そして説明し終えると「次は?」っと言わんばかりに三人を見る。
「思いつかない、答えたくないっていうなら構わん」
「…剣を」
「何だ、あるなら言ってみろ」
「剣を、洞窟の壁に引っ掛けて、あいつらにやられた…!」
青年剣士は自らの恥をそう言うと泣き出してしまった。
彼は「それも正解だ」と言うと拾っておいた彼の剣を持ってきた。洞窟で振るうには長すぎる剣を。
洞窟や室内などには必ず存在するのが、壁などの障害物。それに引っ掛けずに剣を振るのは難しい。
ましてや、独自に学んだ自己流剣法では尚更だ。
そしてこの剣もあと数匹斬っていくと血脂で切れ味が落ちていく。終には折れる。
「…思ったよりは考えられたみたいだが、根本的な部分が無い」
「根本的な…?」
「雑魚なゴブリンだからという油断、俺達なら大丈夫という過信、他者からの助言すら無視する傲慢…違うか?」
オークスレイヤーの言った事が全て当てはまったのか、三人は俯いて黙ってしまった。
これらを改めない限りは、いつかは死ぬ。徹底している彼と師も既に何度も死に掛けているのだから。
若い奴らが無駄に命を散らすなという彼なりの優しさだ。
すると洞窟の方から音がした瞬間にオークハンターは反応し、即座に短剣と棍棒を構えて三人の前に立つ。
逃げ延びたゴブリンかと思ったが、そこにはゴブリンスレイヤーと女神官がいた。
「おっと、師匠達でしたか」
「攫われた娘が四人、息はある。手伝ってくれ」
「わかりました。ゴミ共は?」
「お前が殺したのを含めて二十二、皆殺しにした」
「お疲れ様です。神官もよく頑張ったな」
オークハンターは帰ってきた女神官にもそう労ってから師と共に洞窟へと向かう。
万が一に隠れているゴミがいるかもしれない。そう考えて武器を持ったまま奥へと入っていき、倒れている娘達を確認する。
身体も大きく力が強いオークハンターはすぐにシーツを被せて彼女達を運び出し、ゴブリンスレイヤーは怪我している娘に応急手当てをしている。
二人が共にゴブリンを殺していた時からの役割分担であるのか、救出作業は手慣れていた。
こうして、オークハンターの久々のゴミ掃除…ゴブリン退治は終わった。
「という事だ」
「という事だ…じゃないですよ!? 誰も駆け出し冒険者を問い詰めろとは言ってませんよ!?」
「いや、それくらいの心構えもないと同じ事が起きるから…」
「いやいや、だからと言ってそんな突き放すような言い方はどうかと思います!」
「優しく言ったつもりなのになぁ」
仕事を終えたオークハンターはギルドでゴブリン退治の報告して、受付嬢に怒られていた。
理由はあの駆け出し冒険者達への対応だった。確かに注意するにしてもいきなり故郷へ帰れは言い過ぎだ。
本気でそういう事を言ったのではないのは受付嬢も知っている。
オークハンターは普段は気さくで面倒見がいいのだが、仕事になると師匠同様な口調と態度になるので誤解される。
なので見た目と相まって彼を知らない人物からは敬遠されるのだ。
「でも、今回は誤解されていないみたいで良かったですね」
「え?」
受付嬢がオークハンターの背後を見ると微笑んでそう言った。それに釣られて彼も後ろを振り返る。
そこにはあの三人が冒険者との姿ではなく普通の服で立っていた。
防具もなくあれだけやられたので既にボロボロ、特に女武闘家に関しては原型もなく破られている。
これではあんまりだと洞窟の近くの村で金を払って譲り受けたのだ。因みにその金は彼が支払っている。
「何だい? もし俺を恨んでいるなら謝るよ?」
「俺達を、鍛えてくれ…いや鍛えてください!」
「助けてもらって、色々とお世話になったのにこんな事を言うのは図々しいと思いますが!」
「…貴方の許で私達を導いてください」
「…ぇ、どゆこと?」
まさかの事にオークハンターは完全に素に戻った口調に呟いた。
どうやら、三人は彼の芯のある真っ直ぐな言葉とそれに見合う強さに惹かれていたようだ。
突き放しているようでわかりやすく自分達の失敗を正し、教えている。
だから学ぼう、強くなろう、この人の許で…いう気持ちになっていたと。
他人から疎まれたりするのは慣れているオークハンターにはこの状況に困惑していた。
それと同時に重戦士や女騎士、槍使い達もあまり見ない彼の反応にニヤニヤと見ている。おのれ。
一緒に行く冒険者など師匠以外はいない、たまたま依頼が重なった冒険者たちくらいである。
つまりぼっちだったのだ。
「いいじゃないですか。貴方も銅等級なんですよ? そろそろ新人達を育てる事も始めては?」
「等級を持ち出されたら何も言えねぇ…」
「それに、ゴブリンスレイヤーさんの良さを理解してくれるかもしれませんよ」
「っ…!」
彼は自分が蔑まれたりするのはどうって事はないが、師であるゴブリンスレイヤーが蔑まれるのは我慢ならない。
その辺の冒険者が師を愚弄したのを聞いた瞬間に殺意全開で睨んで飛びかかる寸前だった事もあるくらいだ。
因みにその時は「よせ」「はい」の二言で終わった。
仕方ないとばかりに息をつくと三人の前に立ってこう言った。
「ついてきな、オークくらいは倒せるようにはなってくれよ?」
閲覧ありがとうございます。
これで新人三人はオークハンターがもらった!
無論、面倒見がいいのでちゃんと鍛えます。
魔改造? それはつまらないからしません。ちゃんと彼らにも泥臭い戦いをしてもらいます。
それでは、また。