アルドノア・プラスワン   作:あけろん

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<オリ主(ハジメ・サイガ)プロフィール>
日本からの火星移民団の子孫。生粋の日本人で和名は『雑賀一』
火星で生まれスパイである両親と共に地球にやってきたが、両親は任務中に殉職。
自らも追われる身になるところをアリアーシュ親子に助けられる。
以降5年間諜報活動に参加し、結果トップクラスのエージェントとなった。
アリアーシュ親子に強い恩義を感じており、彼らの為なら非道なこともためらわずに実行できる。
両親を亡くしてしばらくは毎日泣いていたが、その度にライエに励まされて立ち直った過去があり、今でも彼女には頭が上がらない。



裏切りと別離

『我らがアセイラム姫の切なる平和への祈りは、悪辣なる地球人の暴虐によって無残にも踏みにじられた!!』

 

 ヴァース帝国37家門の騎士の一人、ザーツバルムの怒りの声は通信モニターを通じて衛星軌道上の全揚陸城に響き渡っていた。

 

『我らヴァース帝国の臣は、この旧人類の非道に対して断固正義の鉄槌を下さねばならない!!』

 

 アセイラム・ヴァース・アリューシアの暗殺。

 それは15年前の休戦協定からくすぶっていた地球と火星の争いの火種を再び燃え上がらせるには十分なきっかけであった。

 

『誇り高き火星の騎士達よ、いざ時は来た! 歴代の悲願たる地球降下の大任、義を持って今こそ果たすべし!!』

 

 これまで月の裏側で牙を研いでいたヴァース帝国37家門が動き出す。

 この日、衛星軌道上に滞留している37基の揚陸城のうち19基が地球に向けて降下を始めた。彼らが降下した主な地域はニューオーリンズ、北京、モザンビーク、そして東京。

 タイミングも位置もバラバラなこの降下作戦は一見連携も何もない拙い行動に見えるが、そうではない。

 ヴァース帝国37家門はそれぞれ1人の騎士が率いる別個の強力な軍隊なのだ。加えて彼らが持つ人型起動兵器『カタフラクト』の力は凄まじく、15年前の惑星間戦争でも地球軍を圧倒していた。

 彼らはお互いを競争相手と認識しており、協力や連携など考えてはいない。

 地球侵略は彼らにとって一丸となって押し進めるものではなく、いかに他の騎士を出し抜いて自分が侵略する地域を広げるかの陣取り合戦なのである。

 

「ふん、造作もない。地球人など所詮この程度か」

 

 東京に降下した揚陸城の主、クルーテオは旗下の軍隊でほぼ一帯を制圧しつつあった。

 

「クルーテオ郷、今すぐ新芦原に進軍するべきです」

 

 そう進言するのはトリルラン。

 彼はこの揚陸城に食客として滞在する火星騎士だ。

 

「我らが姫の悲運の地に御旗を掲げば、ヴァースの大義はより確固たるものとなりましょう」

「うむ、元よりそのつもりだ。だが、ますは落着地制圧が急務であろう」

「ならばクルーテオ郷。是非このトリルランにお任せを。長らく食客に甘んじた御恩を果たすに絶好の機会と考えます」

 

 そう言って一礼するトリルランを見て、クルーテオは一考する。

 彼にはアセイラム姫の地球行きを止められなかった負い目があった。

 ここで手をこまねいている間に他の37家門に新芦原市を制圧されようものなら、彼の騎士としての矜持に大きな傷がついてしまう。

 

「貴公に委ねようトリルラン。当地の責任者を拘束し、姫の死にまつわる子細を明らかにするのだ」

「はっ! お任せを。すぐに吉報をお届けできるでしょう」

 

 クルーテオはトリルランの言葉を少しも疑わなかった。

 彼の駆るカタフラクト『ニロケラス』の力を以ってすれば、新芦原市の制圧など容易いことだからだ。

 

(ついでに地球に潜ませたネズミどもの後始末も含めて、な)

 

 故にそう心の中でつぶやくトリルランの真意に彼は気づくことが出来なかった。。

 

 

 

 アセイラム・ヴァース・アリューシアの暗殺を遂行した工作員たちは、あらかじめ取りめてあった集合場所、高速道路上の一角に集結していた。

 東京がほぼ制圧されたことで新芦原市一帯には避難勧告が出されており、ほとんどの住民は港から出航する避難船に乗る為に移動している。

 彼らを見とがめる者は誰もいなかった。

 

「よくやったハジメ。今回のミッションが成功したのはお前のおかげだ」

 

 遅れて合流したハジメをウォルフは笑顔で出迎えた。

 

「ウォルフさん達があのポイントでターゲットを孤立させてくれたからそこですよ。俺一人の力じゃありません」

「謙遜しなくてもいい。あの距離でヘッドショットができるのは同志の中でもお前だけだ。お前は最高のエージェントだよ」

 

 他の工作員達も口々にハジメを称賛する。

 だが、彼はそんな称賛よりウォルフが見せる晴れやかな笑顔が一番嬉しかった。

 

「これで我々は契約通り騎士の称号と共に母なる故郷ヴァースへ凱旋するのだ」

 

 そう言うとウォルフはハジメを見つめる。

 

「実はなハジメ、ヴァースへ帰還したらお前を養子にしようと思っている」

「えっ!?」

「私はお前のことを息子のように思っている。騎士としての地位があればお前に何不自由ない暮らしをさせてやることができるだろう。私達と本当の家族になってはくれないか?」

「ウォルフさん……」

 

 突然の申し出にハジメは何と返事をしていいか分からなかった。

 

「ハハハ、返事は火星に帰るまでゆっくり考えればいい。もうすぐ出迎えも来るだろう。それまでライエの話し相手をしてやってくれ」

 

 そう笑ってウォルフは他の工作員達の輪に戻っていく。

 ハジメはその輪から少し離れたところに立っているライエに歩み寄った。

 

「お疲れ様ハジメ、無事でよかった。遅かったから心配したわ」

「すまない、現場に近かったから抜け出すのに少し時間がかかったんだ」

 

 ライエの表情もウォルフと同じく安らいだものだった。

 もう、明日をも知れぬ身でおびえて暮らすこともないのだ。

 

「どうしてこんな離れたところにいるんだ?」

「私は何もしていないもの。結局お父様は最後まで私に『仕事』をさせてはくれなかった」

 

 そう言ってライエは不満げな表情をする。

 

「それだけウォルフさんはライエのことが大切なんだよ。俺もライエに仕事はしてほしくなかったし」

「それはハジメも私のことを大切に思っているってこと?」

「そ、それは……その……」

 

 口ごもるハジメを上目使いで面白そうに見つめながら「まぁ、いいわ」と彼女は機嫌をなおす。

 旗色の悪いハジメは慌てて話題を変えた。

 

「そ、そういえば俺が養子になるって話は聞いてるか?」

「少し前にお父様から聞いていたわ。でもハジメには最後のミッションが成功するまでは言うなって口止めされてたのよ」

「ライエはいいのか? 俺が、その、家族になっても」

「今更それを聞くの? 嫌なら5年も一緒に暮らしたりしないでしょ?」

 

 呆れたようにライエは言う。

 

「家族になってもこれまでと何が変わるわけじゃない。あなたの名前がハジメ・アリアーシュになるくらいよ」

 

 当たり前のように自分を受け入れてくれる彼女にハジメの心は暖かくなった。

 そう、何も迷うことはなかった。

 ウォルフとライエ、大切な彼らと家族になれるのだ。

 それは間違いなく幸せなことだろう。

 

「ハジメ・アリアーシュ、か……それもいいかもしれないな」

「言っておくけど、正式に家族になったら私はあなたの姉よ。きちんと敬いなさいよね」

「ちょっと待て、俺たちは同い年だろう。むしろ誕生日が早い俺の方が兄ということにならないか?」

「精神年齢は私が上よ。泣き虫ハジメ」

「ここでそれを言うのは卑怯だろ……」

 

 勝ち誇るライエを横目に苦笑するハジメ。

 

「……まぁ正直、私としては少し複雑なんだけどね」

「え? それはどういう……」

「迎えがきたぞ!」

 

 だが、ハジメの問いはウォルフの言葉と続く強風にかき消された。

 上空から降下した1機のカタフラクトが地響きを立てて着地する。

 

「トリルラン卿、お待ち申し上げておりました」

『うむ、大役ご苦労であった』

 

 ウォルフの言葉に着地したカタフラクト『ニロケラス』の中からトリルランが答える。

 同時にニロケラスが不可視のフィールドに包まれ、強力な光を発する。

 

「これが、アルドノアの輝き……」

 

 畏怖するようにウォルフがつぶやく。

 火星で発見された古代文明の遺産『アルドノア』

 ヴァース帝国のカタフラクトはその技術を利用した『アルドノア・ドライブ』を動力としているのだ。

 だがハジメはこの時、嫌な予感がした。

 

(なぜ、このタイミングでアルドノア・ドライブの出力を上げるんだ……まさか!!)

 

「みんな逃げろ!!」

 

 しかし、ハジメの叫びは間にあわなかった。

 

『いざ、さらばだ。ドブネズミの諸君』

 

 嘲笑を含んだ言葉と共にニロケラスの右腕が目の前のウォルフ達に向かって叩きつけられる。

 それで終わりだった。

 これから家族となるはずだったウォルフが、これまで苦楽を共にしてきた同志達が、その一瞬で立っていた地面ごと消滅した。

 

「なっ……!? ウォルフさん! みんな!」

『後々チュウチュウと余計な鳴き声を立てられても困るのでね』

「そういうことか、トリルラン!」

 

 ニロケラスに向かって叫びながらハジメは悟った。

 トリルランは皇女暗殺の真相を知っている人間を口封じのために殺そうとしているのだ。

 ならば次に狙われるのは……。

 

「ライエ!」

 

 ハジメは放心して座り込んでいるライエの手を掴んだ。

 

「おとう……さま」

「今は何も考えずに走るんだ!」

 

 そのまま彼女の手を引いて走り出す。

 

『フハハ、子ネズミ共め逃がさんぞ』

 

 2人をも亡き者にせんとニロケラスが動き出す。

 彼らが走る後方の道路はニロケラスに触れた傍から消滅していく。

 追いつかれれば自分達も同じ末路をたどるだろう。

 

(じわじわと追いつかれている。このままじゃ……)

 

 ハジメが焦りを覚えたその時。

 

『撃て!!』

 

 ニロケラスに向かって無数の弾丸が撃ち込まれる。

 振り返ると緑褐色のカタフラクトが数機、ニロケラスに向かってマシンガンを構えていた。

 

(あれは、地球のカタフラクト『アレイオン』か!)

 

 ハジメは諜報活動の中で得た知識を頭の中から引っ張り出す。

 『KG-7 アレイオン』地球連合軍の主力量産型カタフラクトである。

 ニロケラスは五月蠅そうにハジメ達からアレイオンの小隊へと向き直る。

 

『なんのつもりだ。このトリルランの邪魔をしようと言うのか?』

 

 あれだけの攻撃を受けたにもかかわらず、ニロケラスは何のダメージも負っていなかった。

 撃ち込まれた弾丸は全て機体の表面で消滅しているのだ。

 

(ダメだ、あのカタフラクトじゃニロケラスには勝てやしない)

 

 ハジメは走る速度を緩めなかった。

 地球のカタフラクトは15年前の星間戦争以降に開発された急造品でおまけにアルドノア・ドライブも積まれていない。

 戦力の差は明らかだったが、アレイオン小隊は果敢にニロケラスに攻撃をしかけていた。

 

『貝塚准尉、生き残りを保護しろ、カバーする!』

『了解!』

 

 一機がグレネード弾で牽制している隙をついて

 もう一機がニロケラスの脇をすり抜け、ハジメ達の前へと回り込む。

 

『乗って!』

 

 伸ばされたアレイオンの手のひらにハジメとライエは飛び乗った。

 

『民間人を確保しました!』

『よし、撃て撃て撃て!!』

 

 続けざまにニロケラスへとグレネード弾が撃ち込まれるが結果は同じだった。

 弾丸の雨の中を悠々と歩きながら無敵のカタフラクトはアレイオン小隊へと肉薄する。

 

『消えろ、劣等人種共』

 

 ニロケラスの腕が振り抜かれるたびにアレイオンの機体が千切れ飛ぶ。

 触れたものを消滅させるその圧倒的な力の前に小隊は次々と数を減らしていく。

 

『邪魔者は片づけた。ネズミ退治の続きをしようか』

 

 ニロケラスがハジメ達を乗せたアレイオンへと近づいてくる。

 

『逃げろ貝塚!』

『鞠戸大尉!』

 

 生き残った1機がかばうように前に出てマシンガンを連射する。

 やがて全弾を撃ち尽くすと背から格闘用ナイフを抜いて突撃した。

 

『臆病に死ぬか、蛮勇に死すか、誇り高い選択をしているつもりかね?』

 

 突っ込んでくるアレイオンをトリルランは嘲笑する。

 

『うおおおおおおおおおおおお!!』

 

 だが、雄たけびを上げながら突き出された格闘用ナイフはニロケラスの表面で消滅し、それを掴んでいた腕までもが半ばまで削り取られる。

 

『チイッ!』

 

 さらに脚部のバーニアを吹かして反転し、もう片方の腕に掴んだハンドガンを至近距離で連射する。

 しかし……。

 

『ふ、残念』

 

 ハンドガンの至近弾をも無効化したニロケラスの腕がアレイオンの機体を真っ二つにした。

 

『鞠戸大尉!!』

 

 崩れ落ちる僚機を背に最後の一機になったアレイオンはハジメ達を手のひらで包みながら全速力で後退する。

 

「ハジメ……お父様が……お父様が……」

 

 手のひらの中ではハジメの服を両手で掴みながらライエが肩を震わせていた。

 

(くそっ! 助けられなかった! ウォルフさんも同志のみんなも……!)

 

 ハジメはその肩を抱きよせながら、己の無力さを噛みしめるしかなかった。

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