Singing Phantasm   作:サクラフブキ

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お前の光は、俺には眩し過ぎる。


Episode2 ~My longing.~

 

 

 

 

「ふーん、昼間そんなコトがあったのね」

 

 実に楽しげな様子で話す友奈の言葉を聞きながら、風は嬉しそうに頷いた。

 その日の放課後、いつもの様に部室へ足を運んだ友奈は扉を開けるや否や、既に来ていた風と樹に午前中の出来事を語り出した。

 

「もうホント凄かったんですよー! こう、足でバーンって!」

「友奈がそこまで興奮して言うんだから相当だったのね。でも、東郷大丈夫? 怪我とかなかった?」

「はい、おかげさまで私はこの通り」

 

 穏やかな表情で美森が答える。

 初めは自分の事を話題に出されるのを恥ずかしがっていた美森だが、友奈の眩い笑顔を見てしまっては受け容れる以外の選択肢は存在しない。せっかくだから話のお供に、と、持参したぼた餅を広げながら彼女は茶を淹れていた。

 

「なら良かったわ。大切な勇者部員に何かあったら気が気じゃないもの」

 

 そう言って風は微笑む。

 普段の振る舞いはサバサバしているが、『勇者部』等という部活を創るだけあって、その本質は細かい所まで目が届く面倒見の良い性格だ。

 1年間一緒に過ごしてきた美森は彼女のそんな一面をよく理解しており、まるで自分の事の様に身を案じてくれる事をとても嬉しく感じていた。

 

「それにしても、御厨やるじゃない。男見せたわね」

「そりゃあ女の子を護ってやりたくなるのが男ってモンですから」

 

 ニヤけ顔で揶揄う風の声に、隣でぼた餅を頬張っていた奏介は得意気な顔で答える。

 すると、その言葉を聞いた樹が目をキラキラと輝かせた。

 

「カッコいいです……まるで王子様みたいですね!」

「フフフ、解ってくれるかい樹ちゃん。惚れちゃっても良いんだゼ」

「え、えっと……」

「こーら、姉の目の前で妹を口説かないの」

 

 ペシりと軽く頭を叩かれる王子様、もとい奏介。傍から様子を見ていた美森は肩を竦め、友奈は変わらず楽しそうに笑っている。

 

 部室が和やかな雰囲気に包まれ始めた時、「そう言えば」と、奏介は思い出したように呟いて自分の鞄を漁り出した。

 取り出したのは手の平サイズの小さな御守り。黄色の花が真ん中に描かれ、全体的に赤く染められたそれは、装飾の具合から手作りだという事が見て取れる。

 奏介はその御守りを樹へと差し出した。

 

「これ、俺から樹ちゃんへのプレゼント」

「私に、ですか? どうして……」

「何、お近付きの印ってやつだよ。手作りで申し訳ないけど、良かったら受け取って欲しいな」

「わぁ……ありがとうございます! 大切にしますね!」

 

 貰った御守りに目を奪われている樹の姿を見て奏介が満足そうに頷く。プレゼントを喜んでくれるというのは、贈り主からしたらとても嬉しいコトだと彼も実感していた。

 

「ねぇ、奏介くん。そこに描いてある花って、もしかしてブローディア?」

「お、流石押し花が趣味なだけあって詳しいな、友奈。正解だよ」

 

 やっぱり! と、友奈は言うが、彼女の様に普段から花に触れていない人間は名前を挙げただけでは余りピンと来るものでもない。

 勿論それは樹にも当て嵌り、小さな受取人はこてんと可愛らしく首を傾げて問い掛ける。

 

「ブローディア? それってどんな花なんですか?」

「6枚の花弁が特徴の、園芸植物として有名な花なんだよ! 多分樹ちゃんも何処かで見た事はあるんじゃないかな?」

 

 名前は知らなくても目にした事はある、というケースは人が思っている以上に多いもの。

 そしてそれは花に関する事が最も多いとも言える。ムムっ、と唸りながら考えていた樹も思い当たる節があったようで、手をポンと叩いた。

 

「言われてみれば確かに、見覚えはある気がします」

「でね、青紫が一般的なんだけど、他に色があるんだ。えっと……確か、白とか赤とか、ピンクとか! それで、花言葉が『守護』っ!」

「成程~、守護、と言うと御守りに合ってる花言葉なんですね」

 

 確かにそういう意図を持って作った物ではあるが、製作者本人の目の前でその手の話をされてしまってはどうしてもむず痒くなってしまう。

 照れ隠しにぎこちない咳払いをすると、奏介は2人の会話に入っていく。

 

「ソレ、強く握って念を込めたら俺に届く仕組みになってるから何かあったら遠慮なく使ってね」

「そんなハイテク機能があるんですか!?」

「そうそう。普通に見えて実は凄い秘密があったりするんだよ」

「えっ、すごーい! 私も欲しいな!!」

「ダメよ2人共、惑わされないで。幾ら手作りとは言え、そんな摩訶不思議な仕掛けが施してあるなんて有り得ないわ」

 

 友奈と樹が目を輝かせながら奏介へと詰め寄るが、それを美森が制止する。

 彼女の言葉を受けた奏介は、「決めつけるのは早計なんじゃないか?」と愉快そうに言ってみるが、美森からは生暖かい視線を向けられてしまったので大人しく引き下がった。

 

「まあアレだ、そんな物が無くても俺がいつだって護ってやるから安心して良いぞ、樹ちゃん」

「御厨先輩───」

「頼りねぇかもしれないけど、出来るコトは精一杯するからさ。年上としてちょっとカッコつけさせてもらうぜ」

 

 告げられた言葉に偽りがないコトは、真っ直ぐな瞳と情に満ちた温かい表情からよく伝わってくる。だからこそ、入学したばかりの小さな少女は安堵感を覚えるコトが出来た。

 人見知りの樹は、初めて接する〝異性の先輩〟という存在に対し、不安な気持ちを少なからず抱いていた。

 今はまだ完全にソレを取り払うコトは難しいが、この人だったらきっとすぐに打ち解けられるだろうと彼女は考える。

 

「私達も居るよ、樹ちゃん! 何か困ったコトがあれば何でも相談してね! 勇者部五箇条、1つ! 〝悩んだら相談〟だよっ」

 

 奏介に続き、友奈が樹の手を握りながら元気良く言う。

 勇者部五箇条とは、文字通り、勇者部で定められた5つの誓約の事だ。

 〝なるべく諦めない〟や、〝なせば大抵なんとかなる〟等、決まり事にしては若干雑な部分もあるが、彼女達の年相応な緩やかさが垣間見える勇者部らしい言葉である。

 

「───はいっ! ありがとうございます、友奈さん、御厨先輩」

 

 樹が浮かべる満面の笑顔に釣られてその場の全員が温かい雰囲気に包まれた。

 ご満悦な様子の奏介はさり気なく4つ目のぼた餅へと手を伸ばしたが、欲望に塗れた右腕は美森に容赦なく叩き落とされてしまう。

 

「チッ、貴様見てやがったな」

「当然でしょう。貴方の事はずっと見てるわ」

「それって愛の告は───いだだだだ!」

 

 美森は自身の持つ力の全てを込めて奏介の手を抓り、彼の戯言を遮るコトに成功する。

 表情は笑顔であるが、樹のモノと比べて余りにも正反対の黒いモノだった為に思わず友奈は苦笑した。

 

「にしても、アンタ達本当に仲が良いわね……昨日今日で知り合った間柄には見えないわ」

「……ははは。まあ、コイツは面白いから自然と距離感縮んじゃうんですよ、部長」

 

 離された手をブンブン振りながら楽しそうに言うと、奏介は制服のポケットから小さな白いケースを取り出して中に入っていた固形物───錠剤の様にも見える丸いモノ───を口に運んだ。

 

「奏介くん、それ何? お昼の時も食べてたよね」

「塩味のタブレットだよ。これ食うと頭スッキリするからつい摘んじゃうんだよな」

「そうなんだ! 私てっきりお薬かと思ってたよ。見た目がそれっぽいし」

「確かに、言わなきゃ普通に薬っぽいもんな、ケースとかも相俟って」

 

 友奈の目の前でカラカラと音を鳴らしてみせると、奏介は(はこ)を大事そうに仕舞った。

 会話も食事も一段落つくと、勇者部部長は勢い良く立ち上がる。

 

「よし! 東郷のぼた餅でリフレッシュも出来たし、そろそろ今日の活動を始めるわよ!」

 

 風の号令に、部員達が元気良く返事をした。たった一声で素直に彼女達を振り向かせるコトが出来るのは流石の人望と言えよう。

 こうして、新生勇者部の最初の活動が幕を開けた。

 

 

 

* * *

 

 

 

 本日の活動は、街の清掃を行うという比較的簡単なモノである。

 幾ら道徳教育が盛んとは言え、ゴミのポイ捨てはいつになっても絶える事はない。故に、この類の依頼は勇者部に沢山届く事となる。

 一行は早速、学校付近の人通りが多い街の中心部へ移動して活動を始めた。

 

「流石に大袈裟な程じゃねぇけど、やっぱタバコとかは割と落ちてんのな……」

 

 無惨な姿で放置されていた吸殻を拾い上げながら奏介は呟き、手元のゴミ袋へ入れ込む。付近を見渡しても灰皿らしき物は見当たらず、これでは道路に捨てられてしまうのも無理はない───と一瞬思ったが、そもそも歩きタバコをしなければ良いだけの話じゃないかと思い直す。

 

「よし、この辺りはこんなモンか……東郷、そっちはどうだ?」

「微量だけど空き缶や袋があるわね。9時の方向よ」

「ん、了解」

 

 美森の声に従い、奏介は彼女の車椅子を押す。

 現在部員達は3班に分かれて行動していた。本来なら全員バラバラで行う作業ではあったが、今日が初めてというコトで、特別にこの様な形を取っている。

 隻眼の奏介は、他人より狭い視界を補う為に勇者部の中で最も視力の良い美森と組んでいた。

 

「ホントお前が居てくれて助かるよ。俺だけだと結構見落としてたかもしれねぇし」

「あら、貴方がそんな事言うなんて。明日は雨でも降るのかしら?」

 

 まさか奏介の口から素直な言葉が出てくるとは思わなかった為、今まで揶揄われていた事へのお返しと言わんばかりに美森は軽口を叩いてみた。

 

「うっせ! せっかくヒトが素直に気持ち伝えたんだから有難く受け取りやがれっ」

「ふふ、冗談よ。どう致しまして。私の方こそ、力になれてるなら良かったわ」

 

 分かりやすく拗ねる奏介の姿に、美森は思わず頬が緩んでしまう。

 

(不思議ね……。何時もだったら誰が相手でもこんな巫山戯(ふざけ)た事は言わないのだけど、彼が相手だと悪戯心が芽生えてしまうわ)

 

 ちらりと自分の背後に居る少年を見つめながら、車椅子の少女は思いを巡らせた。

 然し、幾ら理由を考えた所で答えは出ない。解っているのは、彼に対する振る舞いはこれが正しいモノだという事だけだ。理屈ではなく、本能がそれを知っている。

 

「どうした? 東郷」

「……いえ、何でもないわ」

 

 自身への視線に気付いた奏介が問い掛けると、美森は目を逸らして遠く離れた友奈の方を向いた。

 彼女の大親友は樹と組んで楽しそうに活動している。美森としては大好きな友奈と一緒が良かったという気持ちも強かったが、極度の人見知り体質を持つ樹には快活で物怖じしない友奈が適任だと彼女も理解しているので今日の所は我慢する事にしていた。あくまで〝今日の所は〟だが。

 

「おー、あっちも頑張ってるみたいだな」

「そうね、結構ゴミも集まってるみたい。友奈ちゃんも樹ちゃんも素敵だわ」

「けど、もう1個の活動の方はなかなか上手くいってないっぽいな……まあ、樹ちゃんは仕方ないか」

 

 道行く人に対して真逆の対応を示している2人の少女の姿に、奏介は思わず苦笑した。

 依頼の内容としては清掃をするだけでいいのだが、風の指示で挨拶運動も並行して行うようにと言われている。

 勇者部五箇条の1つに〝挨拶はきちんと〟と言うモノがあり、勇者部では欠かせないアクションでもある。

 明るく挨拶をしている友奈に倣って樹も声を出そうとするが、緊張感に包まれてしまっているせいで言葉が詰まっている様子だった。

 

「気になるなら行ってあげても良いんじゃない?」

 

 真面目な顔で視線を向けている奏介に美森が訊ねる。お人好しの彼なら助言を与えに行くだろうと予想していたが、意外にも彼は首を横に振った。

 

「いや、やめとく。俺が行って余計なプレッシャーは掛けたくないからさ。それに───」

「それに?」

「友奈だったら安心して任せられる。アイツが居れば大丈夫だろ」

「信頼してるのね、友奈ちゃんの事」

「そりゃあ仲間だしな。お前だって同じだろ?」

 

 愚問ね、と言わんばかりに少女は得意げな顔を返し、それに対して少年は満足そうに頷いた。

 

 それから2人は行動範囲を広めて活動に取り組んだ。

 人が密集する広場に設置してあるベンチの下や、街の景観にアクセントを与えている街路樹の付近、近道するのに使われたりする細い裏通り───探してみれば、様々な所からゴミは出てくる。

 掃除ってのは、極めようとすれば果てがない! 何て、かつて誰かが言っていたっけ、と、奏介は遠い過去の記憶に思いを馳せていた。

 作業に没頭すると自分が納得するまで手を尽くしてしまうという点は2人に共通しており、気が付くと彼らは、言われなければ認識する事もない極小の小石すらも律儀に取り除いていた。

 

「ふぅ……粗方片付いたし、部長に報告しに行くか?」

「ええ、そうしましょう」

 

 舗装された道路の上をゆっくりと押して行く。

 風は2人から少し離れた所で佇んでいた。

 見慣れぬ赤いバッグを手に持ち、神妙な面持ちで唸っている。直後、自身の元へ歩み寄ってくる2つの影に気付いた風は、手招きをして彼らを呼び寄せた。

 

「アンタ達ちょうど良かったわ。今皆を集めようと思っていた所だったの」

「何かあったのですか? 風先輩」

「これ、拾ったのは良いんだけど持ち主が判らないのよね……何か身分が分かる物があれば手っ取り早かったんだけど、そういうの入ってなかったから」

 

 お手上げ状態、といった様子で風が告げる。奏介達も中身を見せて貰ったが、入っていたのは小さなぬいぐるみと可愛らしい桜の髪飾りだけだった。

 

「見た感じ女の子の物なんだろうけど、まあアタシだけじゃ探すの時間掛かるだろうから手伝って貰おうかなって」

「勿論良いですよ、部長。けど、持ち主探すよりかは交番に届けた方が早いんじゃないですか?」

 

 奏介の意見は効率性を考えた尤もなモノであったが、風は苦笑を返す。

 

「それも考えたんだけどね。汚れが見当たらないから、多分持ち主の子は近くに居ると思うの。だから届けてあげた方が早いと思ってさ」

 

 彼女の声は、まるで子を想う母親の様に優しいモノだった。

 当然、持ち主が近くに居るとは限らない。遠出をしに来た人であれば届けに行くコトは不可能かもしれないし、もしかしたら既に交番へ向かっている可能性だってある。何より、特定出来る物がない以上手探りで捜索するのは非効率的だ。

 それでも───仲間がそうしたいと願うのなら、奏介に断る理由などある筈もない。

 

「成程、だったら任せてください。俺、捜索に関してはちょっとばかし自信ありますから」

「我儘押し付けてゴメンね、御厨。アタシは樹と一緒に学校の方行ってみるから、アンタ達は友奈連れて商店街の方頼んでも良いかしら?」

「お易い御用です。東郷、早速友奈を───って、何やってんだアイツら……?」

 

 友奈と樹は変わらず活動を続けていた───と思われたが、何やら様子がおかしい。奏介が目を凝らして見てみると、友奈は樹に向かって奇妙なポーズを取っていた。

 

「ふふ、友奈ちゃんったら。私が教えたα波で樹ちゃんをサポートしてるのね」

「……うん。α波ってのがどんなモノか知らねぇけど、お前のコトだから碌なモンじゃねぇってコトだけは判る」

「失礼ね。きっと御厨くんも直ぐにα波の魅力に気付くと思うわ。こう、螺旋を意識して───」

「ハイハイ。その話は後で聞くから、取り敢えずあのおてんば娘連れて来るぞ」

 

 癖の強い同級生の扱いに早くも慣れてきた奏介は、呆れながら車椅子のハンドルの握り直した。

 

 

* * *

 

 

 その後、執拗にα波を後輩へ掛け続けていた友奈を引き剥がした奏介は、彼女に事の経緯を伝えながら街の一角にある商店街にやって来た。

 美森の車椅子は友奈が押している。彼女曰く、「東郷さんの後ろは私の定位置」らしい。

 

「それで、御厨くんは何か策があるの?」

「いーや全く。部長の前ではカッコつけたけど、正直アテなんてねぇんだよな……」

 

 困り果てた表情で奏介は肩を竦める。こっちの方がきっと人も居るだろうから、と風からバッグを預かっていたが、向こうの2人が先に見付けてしまっていたら申し訳ないと今更思ってしまう。

 

「仕方ないわ。元々望みは薄かったから。でも───」

「勇者部五箇条、1つ! 〝なるべく諦めない〟! 見付かる可能性が少しでもあるなら、私達は頑張る! だよね、東郷さん」

「その通りよ。流石ね、友奈ちゃん。私の言いたい事、何時も解ってくれるね」

「当たり前だよ! 東郷さんのコトは私が一番よく知ってるんだから!」

「────っ」

 

 互いが互いを大切に想うからこそ行える微笑ましいやり取りだが、奏介はそんな2人から目を逸らしてしまった。

 

「奏介くん? どうかしたの?」

「……何でもない。それよか、固まるんじゃなくて二手に分かれた方が……ん?」

 

 言い掛けて、止まる。

 疑問に思った女子2人は顔を見合わせて小首を傾げ合い、彼が見ている方向へ目を向けた。

 

「───あ! もしかして、あの子が……?」

 

 3人を代表して、友奈が考えを声に出す。視線の先には、泣きじゃくる少女が居た。

 母親らしき女性にあやされているが、一向に様子は変わらない。取り敢えず声を掛けてみようというコトになり、奏介達は少女に近付いていく。

 

「こんにちは、そんなに泣いてどうしたんだい?」

「うぐ……ひっく……たいせつなバッグ、なくしちゃって……」

 

 やっぱり。そう確信した奏介は、届け物を少女の前に差し出した。

 

「もしかして、このバッグは君のかな?」

「あっ……それわたしの……!」

「見付かって良かった。もう失くしちゃダメだよ」

「うんっ!」

 

 少女は心底嬉しそうに、笑顔の花を咲かせてみせた。先程まで涙で顔を濡らしていたとは思えない位の穏やかな表情に、奏介も柔和な微笑みを浮かべる。

 

「とどけてくれてありがとう! お兄ちゃん、ヒーローみたいだね!」

「ヒーロー? どうして?」

「だって、こまってるわたしを助けてくれたんだもん! カッコいいヒーローだよ!」

「───そっか」

 

 何処か寂しさを含んだ声で呟くと、奏介は少女の頭を優しく撫でた。

 

「本当にありがとうございました。何とお礼を言ったら良いか……」

「気にしないでください、この子を笑顔に出来て良かった。それじゃあ俺達はこれで」

「バイバイ、お兄ちゃん達!」

 

 手を振って見送る少女に、3人の中学生は手を振り返してその場を後にする。

 

 暫く歩いて、商店街を抜ける頃。奏介は、ふと立ち止まって楽しそうな2人の後ろ姿に半ば無意識に声を掛けた。

 

「なぁ、友奈、東郷。……俺、少しは勇者部として役に立てたかな?」

「え? どういうコト?」

 

 友奈の疑問に、奏介は静かに語り出す。

 

「俺、正義の味方ってのに憧れていてさ。お前の誘いに乗ったのも、勇者部の活動内容が俺の目指しているモノに近かったからなんだ」

「そうだったんだ! カッコイイ夢だと思うな、私は」

「はは、サンキュ。けど俺は全然自信が無くて……他人の役に立ててるのかなって。情けないよな、男の癖に───」

「ううん、そんなコトないよ」

 

 自虐的に吐露する奏介の手を、友奈は固く強く、熱を込めて握った。

 

「奏介くんはあの子も東郷さんも助けてくれたもん。だからね───」

 

 友奈は言葉を区切ると、真っ直ぐな眼差しを彼に向けて、満面の笑顔で───。

 

 

 

 

 

「───もう、立派な正義の味方だよ」

 

 

 

 

 

 

 そう、迷いなく告げた。

 

「私も同じよ、御厨くん。貴方は私を二度も救ってくれたじゃない。だから、貴方はもっと胸を張って良いのよ」

「友奈……東郷……」

 

 呆気に取られた様に、奏介は呟く。友人達が余りにも自身を肯定してくれるモノなので、目をぱちくりとさせながら彼は思わず噴き出してしまった。

 

「ああ───何だか、めちゃくちゃスッキリした気分だよ。ありがとな、2人共」

「えへへ、喜んでくれて嬉しいな! 私は奏介くんの夢、応援してるからね!」

「私も応援してるわ。同じ勇者部員として、困っている人を沢山助けましょう」

「おう! 一緒に頑張ろうぜ」

 

 3人は笑い合う。彼女達の顔を交互に見ながら、奏介は相談して良かったと強く思った。

 

「あ! 私、今日の宿題で分からない所があって……奏介くん、東郷さん、手伝って欲しいな……なんて」

「仕方ねぇな、英語以外はあんま出来ねぇけど、手伝ってやるよ」

 

 トン、と軽く友奈の額を小突いて奏介は先を歩き出した。

 

「じゃあ部長に報告して戻ろうぜ。俺達の部室に」

 

 陽だまりの下、少年の足取りはとても軽い。

 奏介はタブレットを一粒口に含むと、安堵の表情を浮かべて進み続けた。




暫く間が空いてしまいましたが、忙しい時期が終わったのでこれから更新ペース上げるつもりです。
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