だいぶ遅くなりましたが、おめでとうございます。
読者の皆さま、今年も何とぞよろしくお願いいたします。
それでは、本編の方をどうぞ。
あれからイツキと雫は二人並んで雑木林の中、ゆっくりと歩いていた。イツキは何もないか周りを軽く見渡しながら歩き、雫は正面を向いて歩きつつ先程のカヅキの笑みについて考えていた。
元の世界であまり関わることがなく、自分が知る限りでは今まであんな笑み浮かべている所など見たことがないのだ。普段から気だるそうにしてやる気がない様子が見られ、その事で度々光輝に咎められたりしていた(ことごとく無視されていたが…)そんな彼がまるで子を見守る父親のような笑みを浮かべて見つめていた。「あれは何の意味があったのだろうか?」そんなことを雫が考えていると、いきなり…
「ごめんね、八重樫さん…」
唐突にイツキが謝ったのだ
「いきなり、どうしたのよ?」
「いや、兄さんが八重樫さんに失礼なことを言っていたからね…もう一度謝っておこうと思って。」
「別にいいわよ…そんなに気にしてないから。それよりも驚いたわ、お兄さんからあんな指摘を受けるなんて…。」
そう言って雫は先程カヅキに言われた言葉を思い返した。
"もっと視野を広げて頼れる人を見つけろ!"
"一人で抱え込むな!!"
まさかあんな言葉をかけてくるなんて思いもしなかったし、また彼の言う通り一人で抱え込むことも自分がよくすることだった。
「正直嬉しかったわ。
「兄さんは不真面目そうにして色々見ているからね。よく見てその人に合った指摘をするんだけど…口が悪いからいつも裏目に出るんだ…。」
「……そう言えば
「………それは兄さんが原因だと思う。兄さんも以前、"人がせっかく南雲の関わり方を指摘したのに白崎の奴、聞く耳持たなかった"って愚痴ってたような。」
そう言って、的を得つつ口の悪い指摘をする兄、カヅキを思い浮かべるイツキ。
「……多分、香織にも原因があると思うの。あの子、南雲君の事になると周りが見えなくなるから。」
そう言って、カヅキの言葉にどこかムキになる親友、香織を思い浮かべる雫。
「「はぁ~」」
二人は大きなため息をついた。そして同時にこうも思ったた。「何でこんなに身近な人に私は振り回されているんだろう?」と……
「そう言えば香織で思い出したのだけど……」
「ん…?」
雫はあることを思い出し、イツキに尋ねた。
「月山君、あの時どうやって香織を止めたの? 触れるだけで香織は気を失ったけど…身体に影響は無いわよね?」
雫の言うあの時とは南雲が落ちて香織が錯乱している時のことを指していた。あの時、自分の声は香織に届かなかった。もし、イツキが来てくれなかったら香織はあのまま南雲を追って飛び降りていたかもしれない…そう考えると今でもゾッと思う。
それと同時にどうやって香織を気を失わせたのか気になり、また身体に害はないのか非常に心配になってきたのだ。
「ああ、あれね。あれは…」
そう言ってイツキは左手を雫の前に掲げた。すると、
バチ…バチバチバチバチ……
左手に青白い火花、というよりも電気が左手に纏うように放電しているのだった。この光景に雫は「え? えっ…?」と困惑しているとイツキが説明に入った。
「実はね、僕……電気を操作出来るんだ。技能欄にね、"魔力操作"を覚えるのと一緒に"纏雷"という技能が追加されてね。その技能のおかげなのかな…こうやって身体の周囲に電気を纏わせ、伝わせることもできるようになったんだ。」
「それじゃあ香織を気絶させたのも…」
「うん、この纏雷でね…気を失う程度に電気を流したんだ。あっ、もちろん身体に影響が無いようにしているから、そこは安心して欲しいな。」
「……そうなのね………あなたがそう言うなら…その言葉、信じるわ。」
笑顔で言うイツキの言葉に雫は静かに頷いた。イツキの言動がどこか光輝に似ており、本来なら過去の出来事もあってこのような言動されるのは苦手で、一切信用出来ないのだが、何故だかイツキがすると自然に頷いていたのだ。
「(どうして……簡単に受け入れてしまったのかしら? 呆れるほど光輝から見てきたはずなのに、妙に説得力があったわ……それだけじゃない。どこか懐かしい感じもする…以前どこかで彼と話したことあったかしら?)」
元の世界では日常的に毎日話していた訳でもなく、教室で会ったら挨拶する程度だ。月山兄弟もといイツキと面を向き合って話したのは先程が初めてのはず…なのにどこか懐かしい感じがして初めてではないような気がしたのだ。もし、以前どこかで関わったのなら、いつ、どこで関わったのだろうか? 小学校?、中学校?、それとも幼稚園? イツキのような子と関わった記憶はあっただろうか?
そんなこんなんで雫は過去のことを振り替えって歩いていた。故に、先程からイツキの呼びかけているのにまだ気づいていなかった。
「…さん……さん、八重樫さん!」
「?…ひゃい!!?」
雫に目線を合わせたイツキの顔が近くにあり、思わず変な声で驚く雫。イツキは「あっ、ちょっと面白い」と思いつつ口を開いた。
「急にどうしたの? 立ち止まって難しい顔なんかして、声をかけても全然反応してくれなかったし…」
「えっ、そうだったの? ごめんなさい、全然気づかなくて…」
「相談ごとならのるよ。別に頼られるのは嫌いじゃないから。」
「ううん、大丈夫。ほんと大したことないから。さぁ、行きましょ。」
そう言って無理やり話しを切り上げて歩き出し、イツキは少し心配そうに見つめた後、雫の後に続いた。
「……。」
「……。」
あれから二人は特に何か話す訳でもなく、泊まっている宿の中庭を歩いていた。雫の部屋に向かうための近道だからだ。二人は並んで歩いていたが、いきなりイツキは歩みを止めた。雫は少し歩いてからそれに気づき後ろを振り替えるとどこか儚げな顔で立っていた。
「どうしたの、急に立ち止まって…?」
「八重樫さん……一つ聞いてもいいかな?…………魔物を斬っても、君は……平気だったのかな?」
「…………えっ?」
唐突な質問に一度頭が真っ白になったが、すぐにイツキが言っていることを理解してあきれたように答えた。
「…もう、いきなり何を言い出すのかしら? ヘビモスに遭遇する前、私たちのパーティーの動き見てたでしょ? ビビっているように見えたかしら?」
「いや、見えなかった。傍から見れば勇敢な女剣士に見えたよ……でも本当は恐怖で一杯だったんじゃあないかな?」
「一体何を根拠にっ…私はビビって何か「…八重樫さん。」」
イツキの言葉にどこかムキになって言い返そうとしたとき、イツキに言葉を遮られた。そして、指を指して口を開いた。
「
「!!? ………っ。」
その言葉にハッとして、素早く左手で右手首を掴み震える手を押さえた。そして、他の誰かにこの光景を見られて苦痛の表情を浮かべた。イツキは表情を変えずに口を開いた。
「八重樫さんは相手に一撃目を与える時、鞘に納めた状態から入り、剣を抜くのと同時に相手を斬っている…だから最初の一撃目はどうしても右手に伝わってくるはずだよ……肉を斬る感触が…」
「………。」
図星なのか雫は何も言わず、ただうつむいたままだ。イツキは言葉を続けた。
「思えばこの世界に来て魔人討伐をさせられると聞いた時、誰よりも先に"人を殺す"ということを理解して、恐怖を覚えたんじゃあないかな?」
「……違う」
「魔物いえど剣で命を断つ行為…斬る度にこびりついた血がさらに恐怖を加速させた。」
「…そんなことはない。」
「極めつけはあの四人が落ちた時、君は死の恐怖を感じた。そして、目をそらすかのように錯乱する白崎さんを全力で止めに入った…もし、全力で止めに入らなければ……死の恐怖に、殺す恐怖、その二つの恐怖に押し潰されそうになったのは……君じゃあないかな?」
「…やめてってば!!……もう、やめてよ…。」
イツキの言葉を止めるかのように叫んだ雫は、そのまま身体を震わせて嗚咽を堪えるかのようにうずくまった。
イツキの言う通り雫は今日の訓練で魔物いえど命ある者を殺すこと、4人が落ちたことで常に死と隣り合わせだということを実感し、恐怖を感じた。故に雫はこのことを忘れようとした。だが、忘れようとしても、さっきあった出来事を少しでも思い出すと右手に震えがくるようになった。
そして今、イツキに嫌って言うほど目をそらしてきたことを突きつけられて全身に恐怖による震えが巻きついているのだった。
そんな様子をただ黙って心配そうに見ていたイツキはしゃがみつつ片膝を立てて静かに告げた。
「八重樫さん……目をそらしてはいけない。これは必要なことなんだ……君が剣士として、この世界で生きていくのなら……これは必ず向き合わないといけないことだよ。」
どこか諭すように言うイツキ、しかし、この言葉で雫の中の何かが弾けた。
「っ……じゃ…あ…じゃあ、あなたはどうなのよ!! あなたも同じ剣士でしょ!? 前に立ち、常に命の危険が伴いながら魔物を斬る……あんな恐ろしいこと、私は耐えるのに必死なのに…………なのにあなたは、どうして! どうして!! そんなにも落ち着いた表情でいられるの? 何も感じなかったわけ!?」
肩を震わせながら涙目になりつつ、叫ぶように、八つ当たるようにイツキに話した。誰も知らない想いを、親友達にも話さなかった心の内を全部吐き出すように話した。
「…………。」
イツキはただ黙って聞いていた。何か答えるわけでもなく落ち着いた様子で雫の吐き出す言葉に耳を傾けていた。ただどことなく苦しい表情はしているのだった。
「ねぇ…答えてよ。どうして…そんなにも落ち着いていられるの……ねぇ、どうして…そんなにも…あなたは……強いの…?」
イツキの襟を掴むも、その手は弱々しかった。そして、懇願するかのようにイツキ尋ねた。
"どうして、強いのか…"と。
思えば迷宮の訓練時、イツキのパーティーの様子を見ていた時、どこか違う感じがした。そして、極めつけはトラウムソルジャーの群れが襲いかかってきた時、"イツキの放つ剣技"、"群れを突破する勇気"、"死を恐れない覚悟"この三つを感じ取り、心の奥底で嫉妬を感じた。
故に欲するのだ、その心の強さを…そして知りたいのだ、どうやったらその心は手に入るのかと…。
「…………。」
イツキは黙ったままで、どこかしゃべるのをためらうような感じも見受けられた。ただ、この話しをふったのはイツキ自身、「自分から話しを振っておいて何も話さないのはよくない」と思い、イツキは静かに口を開いた開いた。
「八重樫さん…僕も、兄さんもとっくの昔に君と同じ経験をしてきて克服もしている。そして、この強さはいずれクラスの全員が強いられるであろうことを…何回も経験して得た強さなんだ」
「えっ…」
イツキの言葉に雫の思考が停止した。彼は何て言った? 「経験をしてきて克服もしている。」それはつまり、「自分と同じような現象を何回も経験してきた」という意味だろうか? さらに気になるのは
「……僕のおじいさんがどういう想いで、剣を教えていたか覚えているよね? この世界に飛ばされても自分を守るため、生き残るために剣を教えていたんだ。そして、ここは元の世界と比べて常に死と隣り合わせ、頻繁に命のやり取りが行われている……だから馴れるためにその恐怖を経験し、覚えさせる必要があったんだ…。」
「!? それって…もしかして…。」
「うん、察しの通り。僕と兄さんは…
元の世界で人を斬り、命を絶たせたことがあるんだ。」
どこか真剣な表情でイツキは静かに告げるのだった。
いかがだったでしょうか?
最後の迷宮で受ける試練の言葉をここで受けさせました。何でこんなことをしたかというと、カップリンクを成立させるための準備です。
俗に言う、イツキ×雫ですね。
美女剣士には美男子剣士が似合うという考えを持っているのは私だけでしょうか?
えっ、「天ノ河とくっつけないのか」って?
過去の出来事があってもう一度惚れさせるのはなかなか至難の技だと思います。
あと一話で雫とイツキの話しを終えて、本編の方に戻りたいと思います。だいぶ遠回りになってしまいましたね…
感想お待ちしております。