ありふれた職業で世界最強  魔王を支える者達   作:グルメ20

30 / 55
どうも、グルメです。

お待たせしました、クラスメイトside.in雫の最後の話しになります。

果たして雫はどうなってしまうのか……

それでは、どうぞ。



剣を握る意味、雫、新たな決意

イツキとカヅキ、二人が中学生になり初めて夏期休暇をむかえたある日、ある程度の荷物をまとめ、千十郎に連れられて海外に飛んだ。

着いたのは某国のとある街。一見街並みは綺麗でビーチもあり、高層ビルのような建物はあまり立っておらず、そこそこ高いビルがいくつか並んでいた。交通も整っており、観光業が盛んそうな感じで争いと無縁な街並みに見えたが、ひとたび裏路地に入れば薬の売人、ギャングやマフィアが巣窟しており、表定にならない所で常に殺しがあった。警察はある程度買収されていることもあり、ほとんどその機能を果たしていなかった。そのため治安維持は武装した現地の町民が行っていた。

 

 

 

さて、そんな街に着いたイツキとカヅキは千十郎から目的を聞かされた。それは現地の治安維持活動に参加し、命のやり取りを経験、慣れさせることだった。当然拒否権は無かった。逃げることも許されず、ただ、千十郎と一緒に街を見回り、時には抜刀してギャングやマフィアを斬っていった。イツキとカヅキは千十郎についていくように必死に喰らいつき、人を斬り、命を絶った手の震えに耐えて抗った。治安維持活動は夏期休暇が終わる一週間前まで続き、無事帰国してもその震えは二学期が始まっても続いた。そしてこの活動は高校入学するまで続き、中三の夏を迎えた頃には手の震えは無く、イツキとカヅキは千十郎の付き添いも無しで一人で活動できるようになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………。」

 

大まかにイツキから話を聞いた雫は目を丸くして口元を手で押さえて驚嘆するしかなかった。目の前にいる男は人を斬ったというのだから。

 

「………………。」

 

イツキは目を逸らすことなく真剣な表情で雫を見続け彼女の反応を待った。例え拒絶の言葉があっても真に受け止める覚悟はあった。

数十秒間沈黙が続いた後、先に口を開いたのは雫だった。

 

「………アハハ、もうめちゃくちゃね……月山兄弟(あなた達)は……結局は殺し(経験)がものを言うわけね。こんな、臆病者の私には………到底為しえないわ。」

 

卑下するように乾いた笑いを浮かべながらその場に座り込み、前髪で顔を覆うように俯くと様々な自分を思い返した。

心の弱い自分、死や殺しをためらう臆病な自分、そして何も出来ない無力な自分を、雫はただそのことを心の中で笑うしかなかった。

 

「…………………。」

 

イツキはその様子を静かに見守っていた。見ているだけでも彼女の無力さが伝わってくるのだ。この原因を作ったのは無論自分の発言、だが、遅かれ早かれどこかで向き合わないといけないことであり重要な局面を迎える前にこのことで躓き何かがあっては遅い、それぐらい()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。故に早い段階で過激な発言で現実を見てもらった。何かが起こる前に、命の危機に関わるわだかまりを解決しておこうと思ったのだ。そして、原因を作った自分は彼女のわだかまりを解決、いや、彼女を導く義務があるのだ。

だから早速、イツキは義務を果たす為に行動に移った。

 

「………えっ?」

 

顔を俯かせていた雫はいきなり右手に温もりが伝わり顔を上げると、イツキの顔が近くにあった。イツキは片膝をついて雫に目線を合わせると自分の両手で雫の右手を優しく包み込んだのだ。一瞬驚き戸惑い、目線を合わせられなかったがすぐに落ち着いてイツキの顔を見るようになった。

イツキは優しく微笑みを浮かべながら静かに口を開いた

 

「八重樫さん、確かにそれをするための経験は強くなるために重要なことかもしれない………でもね、それよりも大事なのは…‘’何のために剣を握るか‘’だと思うんだよ。」

 

「何のために剣を握る…?」

 

「うん、…………これは僕のおじいさんが剣術を教える前に最初に言った言葉でもあるんだ。」

 

そう言ってイツキは千十郎が言った言葉を思い返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいか、カヅキ、イツキ。おまえらこれから先、‘’何のために剣を握るか‘’………その理由を必ず見つけろ。そして、その見つけた理由を決して忘れず胸に刻み込んでおけ。それがお前らの心身を強くするだろう…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕も兄さんも、それを忘れず今日まで剣を握り刃を振ってきた………兄さんは自分の信念、‘’我道‘’を掲げ、それを貫き通すために…僕は兄さんを…いや、大切な人を守り、支える為に剣を握ってきた…………八重樫さん、君は何のために剣を握っているのかな?」

 

「私は…」

 

雫は改めて考えた、‘’自分は何のために剣を握っているのだろうか‘’と。

思えば小さい時から剣を握っており、本当は可愛い洋服やアクセサリーでおしゃれをしたかったが、厳しい祖父や父を見てきたので「かなわぬ願い」だと思い、そういう物は全て押し殺してきた。だから自分で言うのもなんだが地味な女の子だったと思う。そんな女の子が自分の道場に通っている王子様のような存在(実際、私もそう思っていた)の光輝と親しく話しているのが周りの女の子達には気に食わなかったのか、いつも心無いことばかり言われた。家族にも心配をかけたくない故に小さい時から押し殺してきた癖もあって、この事は誰にも話さなかった。

そして、今でも覚えている言葉がある。

 

「あなた、女の子だったの?」

 

ある女の子が言った一言。金槌で頭を殴られるようなショックだった。私は初めて光輝が最初にやって来た時に言った言葉「雫ちゃんも、俺が守ってあげる!」 その言葉を信じて今まで女の子達に受けてきた仕打ちを光輝に話すも「きっと悪気はなかった。」「話せば分かる」など言って理解してもらえず、さらに言うとこのやり取りが周りの女の子にバレて風当たりが強くなったのは言うまでもなかった。もちろん、光輝の目の届かない所で……それが今でもトラウマになっているし、この時は本気で剣も何もかも、この身でさえ投げ捨てたい思いで一杯だった。

それなのに今でもこうして剣を握っていたのはどうしてだろうか………。

 

「…………………あっ」

 

雫はおもむろに小さな声を上げた。嫌なトラウマを押しのけて深い深い記憶の奥底にあった一つの記憶。

 

 

 

 

「雫、すごいぞ! お前には才能がある!!」

 

それは4歳の時だ。いつも仏頂面の祖父が何気なく私に竹刀を持たせ、祖父と同じような動きを真似てみたら大いに喜び、頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。その時の祖父の笑顔は今でもハッキリ覚えている。そこから私の剣の道は始まった。

 

八重樫流の技を一つ覚える度に祖父や父、道場の皆が笑顔になって喜んでくれた。

 

初めて剣道の大会に出て、一試合目に勝った時(その大会では優勝出来なかったが)家族の皆は大いにはしゃいでいた。

 

光輝と出会い、初めて模擬試合をして終わったあとに「雫ちゃんは強いな。」と笑顔で言ってくれた。

 

香織に助けられ初めて八重樫流を見せた時、「すごい、すごい! 雫ちゃんかっこいい!!」とぴょんぴょん跳ねながら喜んでくれた。

 

剣道の大会で初めて優勝し、香織や家族の皆が大いに喜んで祝い、次の朝まで大はしゃぎしていた。

 

その他にも色々な記憶が蘇ってきて、その記憶の中には何かしら誰かの‘’笑顔‘’があった、

そして、雫は一つの答えを導き出した。

 

 

 

 

「(そっか私……………皆の‘’笑顔‘’を見るのが好きで、今まで八重樫流を続けて来られたのだわ…)」

 

どんなに練習が辛くてキツイものでも頑張れば頑張るほど、家族や道場の者、誰かが笑顔でいてくれた。それが嬉しくて、期待に応えたくて、頑張れてこれた。いじめられてスランプに陥かけた時も、香織に助けられ、いつも見せてくれる香織の笑顔に癒されて、立ち直る支えとなった。

剣に触れ、八重樫流という剣術を覚えて悪いことばかりだと思っていた雫だが、良いこともあったということを改めて実感出来たのだった。

 

「何か思い出したみたいだね……じゃあ君が剣を握る理由は何かな?」

 

雫の心を見透かしたようにやさしい笑顔で問いかけるイツキ。雫は目をつぶり考えた、剣を握り振り続ける理由を…

目を閉ざして数分後、見つけたのか目を開いた。そして、ゆっくり息を吸って呼吸を整えると口を開いた。

 

「私は…守りたい。大切な香織(親友)を……大切な光輝(家族)を……慕ってくれるクラスメイト(仲間)を、この手で、いえ…この剣で守りたい! 私は皆の笑顔を守り続けるために剣を握り続けるッ!!」

 

静寂な真夜中に凛とした声が響いた。真っすぐにイツキを見つめる雫を見て、その言葉を聞いて確信した。

目の前にいる女性はこの世界の摂理に恐怖し怯える存在ではない。決意を固め何事にも立ち向かうことができる女剣士だということを、それと同時にある’’変化’’にも気づいた。イツキはそれを見て「ふふっ」と静かに笑いながら口を開いた。

 

「八重樫さん……右手を見てごらん。」

 

「えっ? …………あっ、震えが…止まっている。」

 

イツキがいつの間にか右手を包み込んでいた両手を離しており、その右手を見てみると震えが止まっていたのだ。さらに言うと身体の震えも収まっているのだった。

 

「でも…どうして?」

 

「強い意志が君の恐怖に勝ったんだよ。」

 

イツキはそう言って雫の両手を持ち立ち上がらせ、雫はイツキにつられるように立ち上がった。そして再びイツキは口を開いた

 

「僕も兄さんも、このようにして震えを、恐怖を、克服していったんだ。でもね…これは一時期的なもの。またすぐに震えが来ると思う。だから、何回も自分の意志、剣を握る理由を思い浮かべないといけないんだ。それが何回必要か分からない……けど、いつか必ず震えが来ない日が来る…」

 

「だから…」と前置きした後、真剣な表情で雫に告げた。

 

「それまで頑張ろう。大丈夫、僕が支えるから」

 

そう言ってどこか決意を固めたようにつげるイツキ。その言葉を聞いて光輝と初めて出会ったことを思い出し、一瞬嫌な思い出が蘇るも、すぐに振り払いイツキを見た

目の前の彼は信頼できる。この人なら自分の思いを真剣に受け止めてくれると思えた、そして、もっと強くさせてくれると思えてきた…だから、

 

「…………うん。」

 

笑みを浮かべ首を縦にふるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

あれから二人は無事に雫の部屋前に着いた。カヅキの元から歩き出してしま5分で着くところ1時間もかかっていた。

 

「ごめんなさいね、ここまで来るのにだいぶ時間をかけてしまって…」

 

「ううん、そんなことないよ。元を辿れば僕の発言で遅くなったんだ……謝るのは僕のほうだよ。」

 

「でも、あなたのおかげで見えてなかったものが見えてきた。それだけじゃない…もう一度、自分の剣と向き合おうと思えてきたのも月山君のおかげだよ。だから言わせて…………‘ありがとう’って」

 

「八重樫さん……」

 

そう言ってやさしい笑みを浮かべてイツキに‘’ありがとう‘’の言葉を送る雫。イツキはその言葉を聞いて今までの疲れが吹き飛んだのと同時に迷いのない、思いつめた様子もない彼女の笑顔に安心するのだった。ずっと見ておきたかったが、もう夜中も超えて明日も早いので早々に自分の部屋に帰ることにした。

 

「それじゃあ、僕はそろそろ戻るよ……おやすみ八重樫さん。」

 

「ええ、おやすみ月山君」

 

イツキは背を向けて歩き出しすぐに右の角に曲がって歩いていった。

イツキの姿が見えなくなるのを確認してから雫は部屋に入った。真っ先に向かったのは寝ている香織の元だった。

 

「………ただいま、香織」

 

返事がないのも承知の上で、そう告げると両手で包み込むように香織の手を握った。

 

「(香織……私、強くなる。あなたや光輝、龍太郎、いえ…私を慕ってくれるクラスメイトを守れるくらいもっと、もっと強くなるわ。だからお願いよ……あなたも早く、目を覚まして…。)」

 

大切な親友が良くなるように祈りを込めると同時に雫は新たな決意を胸に刻み込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………。」

 

イツキは誰もいない廊下の中、一人歩いていた。そして、今日あった一日の出来事を思い返していた。

八重樫 雫と関わった事を思い浮かべ、普段関わらない分、今日だけでも色々な表情、内面を見ることが出来た。不幸な出来事があり不謹慎かもしれないがイツキにとって充実した一日に見えてきた。

そして、イツキにある記憶が蘇ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ暗闇の中、いきなりある場所にスポットライトが当てられた。そこには中年の男性が大の字に倒れていた。顔、頭を中心に酷く殴られており、血を多量に流して見るも絶えない無惨な姿だった。

別の方向を見ると一人のショートカットの少女が尻餅をついて酷く怯えていた。大の字に倒れている男性に怯えているよりも、むしろこちらを見て怯えていた。少女に近づこうと一歩踏み出せば少女は後退り、その目は拒絶することを訴えていた。

そして、ふと両手に生暖かいものが伝わり両手を見てみると…………

 

 

 

 

 

 

その両手は、真っ赤な血に染まっているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………。」

 

いつの間にか立ち止まり、自分の両手を見ていた。当然そこには‘’血塗れの手‘’はなかった。一瞬おぼろ目で自分の手を見るもすぐに顔をしかめ両手をぎゅっと強く握りしめた。

 

「どう思われようが、彼女のために尽くす………ただ、それだけだ。」

 

自分も改めて決意を固めると、再び廊下を歩き出すのだった。

 

 




ありふれ噂話

当麻「どうも、当麻です。」

佐助「やぁ、現場復帰した佐助だぜ。」

当麻「佐助くん、首治ったんだね。」

佐助「ああ、おかげさまでね。いや~死ぬかと思ったよ。」

当麻「これに懲りたら、女の子をからかうのをやめようね…」

佐助「そうだな、‘’当分‘’はやめとくか…。」

当麻「えっ? 佐助くん、さっき当分って……」

佐助「じゃあ、時間無いから早速行きますか。はい、これ読んでね。」

当麻「えっ、ちょっと、もう……………ありふれ噂話…」












当麻「実は香織さんとカヅキさんのひと悶着があった次の日からカヅキさんはストーカー被害にあったみたいですよ。」






佐助「学校が終わってその帰り道途中、いきなり般若のお面を付けた男性が現れて大将を見るなり『野郎、ぶっ殺してやぁぁる!!!』て言って包丁振り回しながら向かって来たみたいだぜ」

当麻「へ、へえ…そんなことがあったんだ。その後、どうなったの?」

佐助「当然二人は逃げて振り切ったみたいだ。でも次の日も、また次の日も帰り道途中に現れて追いかけられて、一週間くらい続いたみたいだぜ。」

当麻「一週間も!?」

佐助「そうそう。旦那は旦那で面白がって止めることもせず狙いが大将だけだからな……面白がって二人が追いかけている所を後方から見守ってたな」

当麻「そこは止めようよ…イツキくん。」

佐助「そんで一週間後はピタリ止まったんだよな~そいつがどうなったかは知らないけど最終日の日、うちの学校の制服を着た女子がそいつを引きずっている所を何人かの目撃証言があったんだ。イッタイダレダロウナ~」

当麻「うん、何となくそっとしておいた方が良いかな…」

佐助「さて、お時間もきたことだし、今回はこれまで……次回、お会いしましょう。」

当麻「またねー」












いかがだったでしょうか?
独自の解釈で雫の覚悟を書かせていただきました。これもイツキという男を気になる存在にするための準備です。今後、雫とイツキの関係を語るとしたら最後の迷宮の出来事になります。そしては雫には別の件で試練にぶち当たることになりますが…今は置いといて。

先ずは謝罪を。クラスメイトの話を書いていたら書きたいことがどんどん増えて半年かかってしまいました…すみません。
次回から、主人公サイトになります。ヒュドラと決着、そこにいるキャラ総出で活躍しますので楽しみにしてください。


感想、お待ちしております。

それでは、また…。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。