今回のお話しはレムが旅立つ前のお話しとなっています。
そして、タイトルを読むと分かるのですが、あの‘’二人‘’にも大きな転機が訪れようとしていました……。
それでは、どうぞ。
「(……周囲に人影は……ありませんね。)」
次の日、まだ日が昇らない真っ暗な王宮内を静かに駆け抜けていくレム。ニア以外にここを出て迷宮に挑む事を伝えてないため、見つかれば当然怪しまれ、最悪周囲にばれて行動を制限されることも考えられる。故に王宮内を見回りしている兵士などにバレないように慎重に行動していた。このまま王宮を出てニアが事前に話しをつけているホルアド行の商隊の荷車に乗り込みハイリヒ王国を出るつもりなのだが、その前にレムはある所に向かっていた。
レムはある部屋の前に立ち、辺りに人がいない事を確認して部屋に入っていった。そして静かに部屋にあるベットに向かうと、
「…………すぅ……。」
穏やかな呼吸で眠っている優花の姿があった。気を失ってから何回も訪れているが一向に目を覚ますことなくこの日を迎えてしまい、旅立つ前に一目見ようとやってきたのだ。レムは優花の手を包み込むようにして持ち、静かに語りかけた。
「優花さん、私はさよならは言いません。士郎さん…いえ、皆さんを見つけて必ず帰って来ます………もし、目を覚ましたら……悲しみに明け暮れず…自分に出来ることをしてください。きっと、優花さんにしか出来ない事があるはずです……貴方の大切な親友レムはそれを切に願っています。」
そう言うとこの想いが優花に届く事を信じて静かに部屋を後にした。
ニアに事前に教えてもらった経路で王宮を出て何とか外に出れたレムは、城下町にある荷車の停留所に向かって歩いていた。すると、
「見送りも無しに旅立つのは、少々寂しくないか?」
横から聞きなれた声が聞こえてきてレムは声がした方を振り向いた。
「カヅキさん、イツキさん、それに佐助さんに厚史さん。どうしてここに?」
振り向くとカヅキ、イツキ、佐助、そして、眠たいのか目をしょぼしょぼさせている厚史がいるのだった。
「佐助君が『明日、レムがハイリヒ王国を発ちオルクス大迷宮に向かう』言うもんだから、兄さんの提案で、皆で見送りする事になったんだ。」
そう穏やかにイツキが言うなか、カヅキは笑みを浮かべながら口を開いた。
「しかし聞いたぞ昨日の件、クラスメイトと縁を切る……大したもんだ! 後悔はないのか?」
「後悔はありません……ただ私の発言で誤解を招かれた方がいます。誤解が解けたとはいえそのことで申し訳ない気持ちでいっぱいですね。でも、今はそれよりも………」
そう言ってカヅキに少し暗い表情を浮かべていた矢先、急に佐助の方を向いてジト目で睨みつけた。
「佐助さん、私の交友関係といい、今回の件といい、少々乙女の秘密探り過ぎではありませんか?」
「えっ、いや~たまたま知っただけだって。ニアちゃんとの関係は仲良さそうなところ見て知ったし、今回の件だってたまたま部屋を通りかかったら聞こえてきたしさ~」
「どうだか…。」
そう言って悪びれる様子もない佐助に対してレムはあきれかえるのだった。この男は元の世界でも生徒でも知らない個人の情報を知っていたり、また、相応の対価を払えば情報の売買はもちろん、独自に調査をして情報を得てくる等、学校ではちょっとした噂になっているのだった。「今後、秘密を探られないように気を付けないと…」とレムが改めて認識した時、
「レム!」
「レムっち!」
聞きなれた声にレムは今度は本気で驚いて後ろを振り向いた。
「妙子さん、奈々さん!? どうして、ここに!?」
振り向いた矢先には不満げな表情を浮かべる妙子と奈々、それと申し訳なさそうにいるニアがいた。実は訳あって奈々と妙子には迷宮に挑むことは伝えておらず、レムが旅立った後にニアの口からレムの居場所や言づけを伝えてもらう予定になっていたのだ。
「申し訳ございません。レム様が部屋に戻られた時、再びお二人がやってきてレム様から何か聞かされてないか強く問い詰められまして……私もお二人が何も言えずにこのままレム様を行かせるのもどうかとおもいまして、それで…つい…」
ニアは「本当に申し訳ございません。」と言って深く頭を下げた。そして、妙子と奈々がゆっくりとレムに近づいてきた。
「ニアさんから大体のことは聞いた。レムのステータスが私達のステータスより遥かに高く迷宮に挑むのに充分だということも…だけど、」
「何も言わずに行っちゃうなんてひどいよ! せめて話してほしかった、レムっちの口から聞きたかった!」
顔をしかめ、怒っているような悲しんでいるような複雑表情でレムを見つめ悲痛な思いを告げる妙子と奈々。その思いにレムはまともに二人の顔を見ることが出来ず、自分の足元を見下ろしながら震える声で告げた。
「もし、オルクス大迷宮でスバル君、ハジメさん達を探しに行くと伝えたら絶対反対されると思いましたし……仮に賛同を得ても、二人なら絶対についてくるとも考えてました…」
「当たり前だよ! いくらレムにとって大切な人達でもそんな危険なことさせられないよ!」
「仮に行くとなっても一人では行かせられないわね、私と奈々が一緒について行くと思うわ。」
レムの考えに猛反対する奈々、行くとなってもついて行く考えを持つ妙子。真剣に自分の事を想って言っている二人の言葉に嬉しく思いつつ、何も話さなかった自分の行いを恥じながらも口を開いた。
「私も…お二人がついてきたら、‘’これほど心強い者は無い‘’そう何度も思いました。ですが……」
そう言ってゆっくりと顔を上げてどこか苦痛そうな表情でレムは訴えた。
「もし、そうなった時…優花さんが……目を覚ました優花さんのことが気になって……ただでさえ大切な人が奈落の底に落ち、そして、いつも身近にいる私達が傍にいなかったら……本当に今度こそ優花さんの心が壊れてしまうと思いまして……それで…つい…」
「…黙って一人で行こうとしてたわけね」
妙子の言葉にレムはコクッと軽く頷き再び顔を下に向けた。二人とてレムについて行った時、優花の事はもちろん考えた。王国にいることだし、他のクラスメイトもいるから大丈夫と考えていたが、改めてレムの言葉を聞いて考えてみると無くもない話に妙子と奈々は顔を見合わせた。二人は複雑な表情で見合わせていたが意思疎通したように顔を緩めて頷き合い、レムの方を向いた。
「レム、顔を上げて。」
「えっ………あいたっ!?」
妙子に言われてレムが顔を上げるといきなりおでこにデコピンを喰らい、そのおかげで苦しそうな表情は一気に吹き飛んだのだ。地味に痛かったのかレムがおでこを抑えていると、
「とりあえず、私達に黙っていたことはこれでチャラね。」
「しょうがないから奈々達が残って優花っちを見守ってあげる。」
「えっ…よろしいのですか?」
仕方なさそうな顔をして言う二人にレムが驚いていると妙子が口を開いた。
「本当はついていきたいのは山々なのよ。でもね、ニアさんからレムのステータスについて聞かされた時、‘’本当について行っても良いのか?‘’とも考えたわ。悔しいけど私達の今のステータスだと、どこまで迷宮に行けるか分からないし、最悪私達二人が弱かったらレムの足を引っ張りかねない…足手まといにはなりたくないのよね。」
「そんな! 二人がついていくことに足手まといになるなんて私は…」
「レムっちがそう思わなくても、迷宮で助けられる度に私達はそう思っちゃうの!」
言葉を遮るようにそう断言する奈々。そして、妙子は「だからね…」と前置きして、
「私達の事は気にせず、行って来なさい!」
「その代わり必ず生きて帰って来ること! 約束だよレムっち!」
「妙子さん……奈々さん……ありがとう…ございます…。」
笑顔で後押しする二人にレムは思わず涙が出そうになるもグッとこらえて、こちらも笑顔を見せた。するとここで、
「レム様、これを…」
「ニアさん、これは?」
ニアは突然、レムに手紙のようなものを手渡した。不思議そうに見ていると、
「私の親族が宿を経営してまして、これはその招待状です。向こうでの拠点としてお使いください。」
「ニアさん……何から何までありがとうございます。ここまでの御恩は一生忘れません。」
「ふふ、私は友達として出来ることを精一杯したまですよレム様。」
にこやかに笑うニアは自然と手が出ていて、レムも自然と手が出ていた。
「レム様、どうかお気を付けて…ご武運を…」
「ニアさん、私は貴女に出会えて本当に良かった。本当に本当に、ありがとうございます。」
レムとニアはお互い両手を合わせて握手した。ある程度、握手をしたレムはカヅキ達の方を振り向いた。カヅキはニィと笑って口を開いた。
「随分スッキリした顔つきになったなレム。」
「ええ、もう心残りはありません。これで思いっきり皆さんの捜索に専念出来ます。」
「そうか………………悪いな、力を貸せなくて。」
「いえいえ、お二人にも深い事情があるのですから、そちらの方を優先してください。」
「そう言ってもらえると助かるよレム。」
そう言ってイツキは苦笑いを浮かべた。
実はレムはカヅキ、イツキの強さを見込んで事前に計画を打ち明け、協力してもらうようにお願いしていたのだ。二人は雫に話したように今までの経緯を話しつつ、この世界で自分達がしなければいけないことをレムに伝えて協力を断っており、レムも二人の経緯に驚きつつ、事情を理解して潔く諦めたのだった。
「レム、ついでと言っちゃなんだが…頼みがあるんだ。」
「?」
カヅキの言葉に首をかしげるレム。どこか真剣な表情でカヅキは口を開いた。
「あいつらに会ったら伝えてくれ…………『月山パーティー一同はお前たちの活躍で助かった、ありがとう』ってな。頼めるか?」
「!! はい、必ず!」
レムは強く頷いた。
その後、レムはニアが事前に話しをつけていた商隊の荷馬車に同乗し、朝日が昇ると同時にハイリヒ王国を発った。見送りに来た者達はレムの乗った馬車が見えなくなるまで見続けたのだった。
「ふぁあああ~………あれ、レムさんは?」
「レムちゃんなら、もう行ったよ。」
「ええええーー!!? 行っちゃったのですか!? どうして起こしてくれなかったのですか、佐助さん!!」
「いやいや何度も起こしたって。というか厚史、今まで寝ながら歩いてたのか? 器用すぎないか…。」
今まで寝ていたことに驚く佐助に、起こしてくれなかったことに抗議する厚史。あれから、レムを見届けた一同は王宮に向かって歩いていた。
「兄さんはこれからどうするの? 野宿先に戻るの?」
「いや、その前に王様と話しをする。」
「王様? ハイリヒ王国の?」
「ああ。えっーと、ニアだったか? すまないが、王様と謁見出来るように話しつけてくれないか?」
「えっ…? あっ、はい。分かりました。」
カヅキに頼まれた事を引き受けるニア。ニアとイツキはカヅキが何用で王様と出会うのかいささか気になるのだった。
「……………………。」
「見送りしちゃったけど、やっぱり寂しいわね。」
「………そうだね。」
カヅキ達から2、3歩離れたところに奈々と妙子が歩いていた。レムを見送ってから奈々はどこか思いつめた顔をしており妙子の言葉にも空返事を返すばかり、妙子が「大丈夫かしら…」と心配仕掛けた時、
「よし、決めた!!」
「えっ!?」
俯いていた顔を上げると小走りでカヅキ達の前に立った。そして、
「カヅっち! イツっち! お願い、私を強くさせてください!」
「はぁ?」
「えっ?」
いきなりのことに面喰い、変な声が出るカヅキとイツキ。佐助、厚史も奈々の発言に目を白黒させている中、妙子が慌てたように奈々の近くにやって来た。
「ちょ、ちょっと、奈々!? 一体どうしちゃったのよ、レムがいなくなったからって気が動転し過ぎ……」
「私は気は動転してないし、大真面目だよ妙っち!」
妙子にキッパリと言うと、奈々は頭を下げた。
「お願いです。私を強くさせてください。」
その言葉にカヅキとイツキは少し顔を見合わせた後、再び奈々の方に顔を向けた。
「藪から棒だな、訳を話してくれ。」
カヅキの言葉に奈々はゆっくり口を開いた。
「その……単純に友達を、ううん…‘’大事な人を守るために強くなる。‘’っていう理由だけじゃダメかな? 私、今までレムっちに守られてばかりだったし…レムっちがいない今、‘’今の弱い自分でいいのかな?‘’っと思って………それにいまいち実感湧かないけど戦争中なんだよね? 仮に敵が攻めてきて何も出来ずにいるのは…耐えられないかな…」
一呼吸置いて「それと…」と奈々は前置きして、
「私、優花っちが落ち着いたらレムっちの所に行こうと思うの。少しでもレムっちの支えになれたらと思って……だからそれまでに少しでも強くなりたいの!」
そう言って真剣な表情で二人を見る奈々。すると今度はイツキが奈々に質問した。
「別に僕たちに教わらなくてもメルド団長の教えと訓練をしっかりこなせば自然と強くなると思うけど?」
「確かにそうなんだけど……なんとなく、なんとなくなんだよ? 上手く言い表せないけど、メルド団長の教えに何か足りないような気がして………カヅっちとイツっちの戦いは迷宮の脱出時に私見てたから、二人から何か教われば一気に強くなれると思って…それで…」
「僕たちに頼み込む訳ね…。」
「ほう…。」
奈々の言葉にカヅキは強く感心した。彼女は無自覚かもしれないがメルド団長が‘’教えきれてない‘’ことを理解している事に。この様子なら‘’それ‘’に触れてもスランプを起きないと考えたカヅキは、
「お前の覚悟、部屋にこもっている他の連中に聞かせてやりたいぜ……」
「ええっと、つまり……」
「いいぜ、のってやる。時間の許す限り、お前を強くしてやる!」
「本当!? やった!! ありがとう!!」
奈々が喜ぶ中、イツキは小声でカヅキに話しかけた。
「珍しいね、兄さんが二つ返事で引き受けるなんて…。」
「頼られるのは嫌いじゃないからな、どこまで強くなるのかも見ものだ。」
「それに…。」とカヅキは前置きして、
「
「……………………。」
その言葉を聞いてイツキはどこかやるせない思いになるのだった。
二人がそんなやり取りをしている中、妙子は決意に満ちている奈々を「じー。」と見つめた後、妙子は小さく頷いてから、いきなり、
「ねぇ、カヅキ君、イツキ君。奈々の訓練なんだけど、私も入っていいかしら?」
「妙っち!?」
「妙子さんまで……」
「あらら、これは面白くなってきたか?」
突然の発言に奈々と厚史は驚き、佐助は面白がり今後の展開に胸を弾ませる中、カヅキは「ふむ…。」と少し頷いた後、
「まぁ、かまわないが…どうしてまた?」
「どうしてって……半分は奈々と一緒の想いよ。守れるようになりたいし、後悔もしたくない…今後の事も考えて強くなっとこうかなと思って。」
「残りの半分は?」
イツキに尋ねられると妙子は儚げに笑うと、
「ちょっと寂しいかなって思って。レムも奈々も強くなって、どこか手の届かない所に行ってしまいそうな感じがして……」
「なるほどね…。」
妙子の言葉に納得するイツキ、妙子は奈々の方を向いた。
「奈々、置いてけぼりはごめんよ…一緒に強くなりましょ。」
「うん、妙っちがいると心強いよ。」
「それと一人で抜け駆けは禁止。レムの所に行く時は‘’優花‘’も連れて行きましょう。」
「えへへ、そうだね。」
二人の新たな決意と目標が定まった所を見届けたカヅキはタイミングを見て二人に話しかけた。
「話しはまとまったか? よし、善は急げと言うことだし、早速今日の昼頃から俺の野宿先で「お~い!」あ? 何だ?」
今後の予定について二人に話しかけようとした時、王宮の門から数人のクラスメイトがやって来るのだった。
いかがだったでしょうか?
レムが旅立つ時、「旅立つ直前にメッセージを残す。」「旅立つ者の見送り。」「旅立つ者にメッセージを託す」は絶対に書きたいと思っており、試行錯誤して何とか書く事が出来ました。自分で言うのもなんですが、綺麗にまとまったと思っています。
そして、奈々、妙子に強化フラグが立ちました。
小説を書くに至って、本編ではそれ程目立たない者の何人かはハジメやユエに及ばない程度に強化は考えており、その内の二人が彼女らになります。
妙子には、いずれ‘’ある武器‘’を持ってもらいます。
奈々については本来、アニメ放送期間、原作でも天職については触れておらず、オリジナル天職をつける予定でしたが、アニメ放送が終わって、知らぬ間に公式サイトにひっそりと追加され、原作の最新刊でも反映されていたので、それに従うことになりました。
ただ、色々バリエーションが豊富そうな天職なので動かす時が楽しみです。
次回、やって来たクラスメイトとやり取りをしてから、白崎香織が目覚めた直後に戻ります。自分で言うのもなんですが、いつの間に回想に入っていたんだろう……。
皆様の感想、評価、いつでもお待ちしております。
それでは、この辺で。では、また………