歴オタミリオタ介護福祉士が異世界転生して外道鬼畜と言われようと手段選ばず天下と美少女の眼差しを受け続ける退屈じゃない毎日を目指す様です。   作:オラニエ公ジャン・バルジャン

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11話 三将模擬戦・五ヵ国協議(前編)

オートクレール子爵(本来は侯爵、伯爵相当)として爵位を賜ったマサユキは二ヶ月間黙々と鉄砲歩兵の育成を続けていた。500名程の兵達を育成し、その内50名を指揮官として部隊教練、編成を担う存在にする、むしろそれこそが目的であった。そしてこの日二ヶ月という短い期間ながらも立派な戦列歩兵として生まれ変わった500名は名実共に新世代軍の尖兵としてアルトヘイムの軍歴に名を連ねる事になった。その500名の教え子にマサユキは祝辞を述べていた。

 

マサユキ

『おめでとう諸君‼︎この短い訓練期間の中で良くぞここまで練り上げてくれた‼︎私は諸君らを誇りに思う‼︎特に優秀者50名の諸兄らは今後この鉄砲戦列歩兵を牽引していく存在だ。諸君らの活躍如何が今後の我が国の存亡を分ける事になるだろうが、これは過言では無いぞ。しかし当面は我が部隊に入り、其々の分隊を指揮してくれたまえ。』

 

マサユキの言葉に兵達は銃を捧げ銃の態勢で威勢よく応えた。

 

歩兵達

『『『ハッ‼︎‼︎』』』

 

マサユキはその返答に無言で頷くと更に続けた。

 

マサユキ

『諸君らが初めて敵に対しこの武器を向け、引き金を引き、轟音と共に鉛玉が飛び出し、敵兵の身体をズタズタにした時、諸君らはこの武器に取り憑かれ、そして新たな時代の到来を身をもって知るであろう!』

 

 

 

『忘れるな‼︎‼︎諸君らは歴史の先端に立っている‼︎諸君らこそ新たな時代だ‼︎‼︎』

 

とマサユキは言い終わった所で祝辞は終わり、兵達には一時金が渡され、しばらくの自由時間を楽しむ時間を貰った。(尚マサユキはこの時のためにオートクレール領なら何処でも食事も宿代も娼館代までも半額にして残りは全て領主である自分が払うのでそうして欲しいと領内を回って頼み込んでいる。)

 

マサユキは領都(普通の町より少し大きい程度に留まる)クレモールの仮家に戻ると数日後の大規模模擬戦に向けて思案した。因みに本来領主は屋敷か城に住まうがマサユキの場合は既に屋敷がひどくボロボロになっており、修繕するよりも打ち壊して新たに城か屋敷を建てた方が良いと結論が出た為、領地の象徴となる新たな城を建てているところである。その為アッシュを除く全ての将校がその城の普請のため出払っている。そしてその設計図が今マサユキの目の前にある。上からの見取り図は菱形の建築物が上下左右に置かれ、その周りと内側の辺に水堀を築き、北側にあたる菱形の中央に天守閣というより館と天守閣の合わさった建物が置かれ、其々の角や城門を築く場所に石造りの櫓が築かれていた。そしてそれ以外でも投石機を配備可能な城壁の空間や城壁内に兵舎や工房、畑や果樹園がある庭園が建てられている。これはマサユキの故郷にある城の復元兼アレンジの施された城である。(因みにマサユキは日本の甲府県の出身である。)結果そのモチーフにされた城の二倍程の面積を持つ城になったが、そもそもオートクレール領は今は半分になっているとしても広大であり、ここは国境都市アマルに近い為、国防上重要な場所になるだけでなく、もしもの時は領民すべてを城の中に入れる事が出来る様にしなければならないと考えたマサユキの意向とそれを支持したホルサス卿の援助、そして何より領民の尽力がそれを可能にしたのだ。

 

マサユキは領地についてまず最初にやった事は領内の村々や街を周り自身が領主になった事、今問題になっている事、子供はどれほどいるのかという事を領民に聞いて周り、税は最低限に留め、エルフの町でやった様に各村や町、他の領地に向けて馬車便を整備し、道路を整備し、農地を改革し、治水工事を普請する為の技術者を呼び、領内の子供達の為に学校まで作ったのだ。マサユキにしてみれば異邦人で、ましてや平民上がりの領主が信用してもらう為には真摯に働くしかないと当然の事と認識して働いただけだが私財までも投げ打って領内発展のために尽力する若者に感謝しかなかった。先ず税が殆ど掛からない事から彼らが食事や医者に困ることが無くなり、豊かな暮らしができる様になったのだから当然のことだが、更に子供達に学問まで教えてくれると来たものだから感謝よりも好奇心の方が優ってしまっていたのだ。領民に学問を率先して学ばせてくれる領主など聞いたことも見たことも無かったのだ。もしマサユキが先に述べた事をやらなかったら先の城の普請など出来るはずも無かったろう。

 

マサユキ

『まっ、もしもの時自分を守る壁だからなそら必死に作るわな。』

 

アッシュ

『何もそこまで卑屈にならずとも良いではありませんか?皆喜んでおりましたよ?』

 

マサユキ

『当然だろう?出なければオレ達はヴァルハラ送りだ。自分たちの暮らしを豊かに守る存在だからもちあげられてるだけでそうでなければ平気で殺すぜ?あの衆らは忠誠心なんて無い。その日の飯にありつけるか否か、それのみを考えて行動するのだ。このアルトヘイム王国が無くなろうと眼中に無いよ。』

 

アッシュ

『…………。』

 

マサユキ

『我々は領民を守ると同時に監視する役目を担っていることも忘れてはいかんよ。アッシュ、いつか俺が大将軍になったら君も他のみんなも将軍の一人として己の領地を持つ身になって欲しいんだ。くれぐれも忘れないでくれたまえよ。』

 

アッシュ

『私が将軍ですか、考えたことはありませんでしたな。成る程それで他の皆様に城の普請を担わせたのはそう言う目論見があったと。野戦築城を学ばせる為に。』

 

マサユキ

『話が早い‼︎そゆこと、野戦築城こそが野戦の粋だからな。』

 

野戦築城…戦場となる場所にちょっとした城や拠点を築く技術であるそれは特に防衛において重要になる。その地に巨大でなかろうと城や砦を築けば兵を野晒しにする事なく、敵の矢弾から身を守り、交通の要所に立てれば、敵はそこを通らざるを得なくなり、敵に出血を強いて、味方を活かす時を稼げる。正しく万に一つ勝ち目の無い戦に勝ちを見出す壮大な舞台装置である。この野戦築城こそがマサユキがシルヴァン、そしてモーティアスの二人を相手にして勝つ為の切り札であった

 

3日後アルトヘイム西方の平原通称コッカス平原に布陣するマサユキ達の姿があった。

ここでこの地で激突する三つの五千人隊の編成を紹介しておく。

 

黒襷隊

全身を鎧で固め、大楯と槍と戦斧を持った重装歩兵が1500名、剣やハルバートを持った軽装〜中装歩兵1000名、重装、軽装合わせての騎兵1000騎、弓兵500名、魔道士500名、そして鉄砲隊500名である。(マサユキはクロスボウ兵500名を丸ごと鉄砲隊に更新している。)

 

シルヴァン隊

重装歩兵1500名、騎兵2500騎、弓兵、クロスボウ兵1000名

 

モーティアス隊

重装歩兵1000名、騎兵1000名、中装近接剣歩兵1500名、魔道士750名、弓兵750名

 

この編成で三隊は模擬戦を行うのだ。この三隊の特徴を挙げるなら、マサユキの隊は遠近両面に対応できるバランス型、シルヴァン隊は重歩兵と騎兵に特化した近距離衝突力及び防御特化型、モーティアス隊は中軽装、投射兵力を多めに配備した遠距離攻撃力及び機動力特化型と言った感じである。

 

模擬戦は明日とされそれぞれの隊の駐屯地にはたくさんの人々や商人が集まっていた。この大規模模擬戦自体がアルトヘイム王国に於いての行事なのである。その為一眼見ようと多くの国民が集まるのだ。そして当然王侯貴族の類いの人々も当然それぞれの応援する天幕に行くのであるがマサユキはどうも其の衆らに受けが悪いのは既に述べた。王室と宰相を除いては。マサユキの天幕にはフレデリック国王夫妻に宰相、そしてソフィア王女殿下一行が訪れていた。(公平な配慮として他の二人を先に訪れている。)

 

フレデリック

『他の二隊と違って元は農民が多い部隊でここまで練り上げるとはな。これには余もかくやとしか言えんな。』

 

王妃ミレーヌ

『まるで若い頃の貴方や宰相みたいね。それにしてもマサユキちゃん、ちゃんとご飯食べてるのかしら?(若い男を子供の様にちゃん付で呼ぶ癖がある)少し痩せたんじゃなくて?』

 

マサユキ

『あはは…本音を白状しますと朝や昼を抜くことが少々…。』

 

ホルサス

『いかんな…我が息子もそうだが鍛錬や政務に集中するばかり己の身体を壊しては意味がなかろう。気をつけたまえよ?』

 

マサユキ

『肝に命じておきます。』

 

フレデリック

『それにしてもソフィアは何をしておるのだ?先に行ってて欲しいとは言っていたがいつまで経っても来ないでは無いか?』

 

ホルサス

『恐らく明日の会談の為の準備でしょう。明日の為にかなりの準備をしてきましたからな殿下は。』

 

マサユキ

『恐れながらお聞きしたいのですが会談とは?』

 

ミレーヌ

『明日、我が国、サン・モシャス、教皇庁、ハドシア、エルフラーシュの五カ国の同盟を成立する会談を執り行いますのよ。それでソフィアが我が国の代表としてホルサス殿を伴って会談に赴きますの。』

 

マサユキはそれを聞くと脳内で理解した。

 

マサユキ

(成る程、対帝国戦は近いな。アルトヘイム単独では当然戦は出来んし、他国も周りにいた帝国の衛星国を呑み込んだそうだからな。もはや我々は帝国に剣を向けた以上戦わねばならないしその為の仲間が欲しいところか。)

 

フレデリックは明日の準備もあるだろうからそろそろ暇をするとしようと皆を引き連れ天幕に戻っていった。マサユキはそれを見送ると己の天幕に入り、入り口を閉めると声を上げた。

 

マサユキ

『堂々と逢引なさった所で誰憚ることがありましょうか、殿下?』

 

すると物陰から白い大きな外套に身を包み深々とフードを被ったソフィアが現れた。

 

ソフィア

『冗談は全く上達しないのですね。オートクレール子爵殿。』

 

見つめ合った二人の間に沈黙が暫し流れ、二人を笑みを浮かべると抱擁し合った。

 

マサユキ

『こうして…話したかった。ずっと…‼︎』

 

ソフィア

『可哀想な貴方…自らの手で罪なき者を殺めたのね…。それが最善の方法だと理解しつつも貴方は今も苦しんでいる。』

 

暫く二人の時間が続いた。色んな世間話や戦、政治の話、街やそこに住う民、マサユキの住んでいた世界の話をした。短いながらも幸せな時間が二人の間に流れた。

 

マサユキ

『夢を見た。とても不思議で恐ろしい夢だったよ。』

 

ソフィアは自身の膝にマサユキの頭を乗せ、頭を撫でながら聞いた。

 

ソフィア

『どんな夢だったの?』

 

マサユキ

『決闘の夢を見た。俺の目の前に白いドレスを着た女がレイピアと盾を持って立ってるんだ。俺は声にもならない恐ろしい雄叫びを上げながら禍々しい大剣を持ってその人に襲い掛かり、その女の人も俺に斬りかかってきた。数え切れないほど打ち合った最後、俺はその女の人を貫き、そして俺も心臓を貫かれていた。』

 

ソフィアはそれを聞き少し静かになると口を開いた。

 

ソフィア

『まるで女神様の神話ですね。女神ソフィエルには聖騎士アルトヘイム以上に信頼していた騎士が居ました。名前はもう覚えられていないけど今の暗黒騎士の開祖と言われています。その騎士は女神と共に邪悪なる者を打ち払いましたが、騎士は力に溺れ、新たな邪悪なる者として君臨してしまうのです。(アルトヘイムはこの時その騎士と戦うのを恐れて戦列を離脱し、聖騎士の誓いを破った為裏切りの騎士と言われるようになり昨今のアルトヘイムの誹謗中傷等に繋がる。)女神と騎士は数十合打ち合い、ついに相討ちという形で幕を閉じ、女神が己の命と引き換えにその邪悪なる者を封印したという神話があるのです。』

 

マサユキは不思議そうに聞いた。

 

マサユキ

『なんでそんな夢を見たんだろうな…俺には判らないよ。』

 

ソフィアは暗い影を落としながらボソッと答えた。

 

ソフィア

『私達は…運命の悪戯によって出会ってしまったのかも知れない…。』

 

マサユキ

『えっ?よく聞こえなかったぞ?』

 

ソフィアはマサユキに膝から頭を退けてもらうよう促すとそのまま立ち上がった。

 

ソフィア

『何でもありません。私は明日の用意が有りますから失礼しますね。オートクレール卿、武運をお祈りします。』

 

マサユキは頭をたれ答えた。

 

マサユキ

『感謝の極み』

 

ソフィアが天幕を出ると、マサユキは椅子にもたれ掛かり目を手で覆い、一人呟いた。

 

マサユキ

『何の悪戯なんだろうな…その夢で殺し合った女が女神なら、何で…ソフィア、君とそっくりなんだろうな…。』

 

翌日早朝。霧の濃い日であったと記録されるこの日。遂に三将相撃つ模擬戦の当日を迎えた。この日は自由戦と決まり、各将各々の戦術での戦闘が許可された。全将兵が魔導士達により不殺の結界を張ってもらっているため殺すつもりで斬り付けても鎧や身体には傷がつかない様にして貰っているとはいえ緊張感は想像を絶するものであった。

 

シルヴァン、モーティアス隊は共に陣地を出て、敵を探した。シルヴァンは当然目の敵にしているマサユキ達を探し、モーティアスはマサユキとシルヴァンが潰し合い、どちらかの生き残った方、又は双方が程よく弱ったところを一気に平らげる気でいた為気を窺うべく高台を目指して進んだ。然し、マサユキは本陣から動かなかった。そしてシルヴァン隊の斥候が遂にマサユキ達を見つけたと知り部隊の行軍を早めたのが開始してから1時間経った頃だという。聞けば本陣から動いていないと言う。シルヴァンもその配下の将兵も怖気付いたと考えた、一人を除いて。シルヴァン隊の軍師ヨーステンはマサユキ達が本陣から動かない理由が解せなかった。もし怖気付いているのなら尚のこと本陣を捨てるべきだった。マサユキの本陣の周りは背後は急な坂で出来た丘や川があり攻め寄せられれば逃げるのは難しい場所であり、明らかにこの地からは離れなければならない。だが奴らは居続けている。ヨーステンは直ぐにシルヴァンの元に馬を寄せ、進言した。

 

ヨーステン

『若、明らかに妙です。マサユキ五千人長が本当に逃げ出すのであれば本陣に居る事は自殺行為です!何か企んでいると警戒すべきです。彼らには新兵器鉄砲もあります。』

 

シルヴァン

『ヨーステン、確かにその危険はある。だがなここでどんな手段や小細工を弄して来たとしてもこの手で奴を打ち砕かなければならないんだ。あんな奴にこれ以上我が軍を好き勝手にさせてなるものか‼︎』

 

ヨーステンはシルヴァンの悪癖を知っていた。だがそれを諫める力が自分には無いのも知っていた。シルヴァンの敵意や嫌悪感は自分でもコントロール出来るものでは無く、更に身分の高い家に生まれたという自負感や責任感と言うものも彼を動かしていたのだ。

 

だが無情にもヨーステンの杞憂は本当に物になる。確かにマサユキ達は本陣から動かなかった。だがその本陣は徹底的に要塞化していたのだ。更に何という事だ、マサユキ達を発見してきた斥候の姿も無いのだ。霧が晴れ、マサユキのインスタント要塞の全貌が明らかになった時シルヴァン隊は動揺に包まれた。そして更に追い討ちを掛けるように轟音と共に鉛玉が飛び、矢が飛び、魔法が飛んできた。先手を取ったマサユキはひたすらシルヴァン隊の主力である騎馬軍団を減らす事を優先していた。

 

マサユキ

『撃て撃て撃て撃て‼︎鶴瓶撃ちにしろ‼︎相手は王国の精鋭兵だ。近寄られたら死ぬぞ‼︎ひたすら撃てー‼︎‼︎』

 

まだ本格的な実戦を積んだことのない鉄砲部隊は装填に手間取りながらも準備の出来た兵から矢継ぎ早に撃ちまくった。その鉄砲隊の指揮を執るトマスは潮時を察していた。

 

トマス

『敵の重装甲兵が出てきましたね。騎兵を削る事はこれで出来なくなった。マサユキ兄さ…いえ、お館様より退却は任せると言って下さっている。みんな、落ち着いて退却しよう。下がる間、マシュ姉さんとミシェエラさんの部隊が援護してくれる!』

 

マシュ、ミシェエラが指揮する部隊が一の堀を突破してきた歩兵に矢と魔弾の雨を降らせ続けた。特にミシェエラの魔法部隊は重装甲兵を効率的に殺傷出来る唯一の部隊であったからその効果は絶大であった。しかし、シルヴァン隊の重装甲兵は対魔法コーティングの施された新式の鎧で固めている為、通常の重装甲兵よりも耐久性が高く二の堀に近づくのにそこまで時間は掛からなかった。黒襷隊の投射部隊は早々に三の堀まで撤退し、ヤートン指揮下の白兵戦部隊が遅滞戦闘を繰り広げていた。

 

ヤートン

『流石は王国の精鋭だな。もうここまできやがった。けどな、暫く暴れさせてもらうぜ!俺のガントレットから繰り出される拳は岩も砕くぜ‼︎』

 

黒襷隊の白兵戦部隊はシルヴァン隊の歩兵部隊と激しくぶつかり合った。練度の差は投射部隊の攻撃でやられた犠牲者が埋めてくれたこともあってか拮抗する迄に留めたがされど少しずつ押されている。そして更にモーティアス隊が比較的守りの薄い右翼側に出現したことによりマサユキ達の戦況は悪化した。

 

モーティアス

『もう始めていたか。シルヴァン隊は結構弱ってるな。ならマサユキ隊の右翼を攻めるとしよう。風の如く攻め立てろ‼︎速さと身軽さがウチの強みだ‼︎』

 

ーマサユキ隊本陣ー

 

マサユキ

『モーティアスが来たか!よりによって右翼とはな…‼︎ガストンの騎兵隊を展開してシルヴァン隊の背後を突かせろ。アッシュは俺とこい‼︎直衛隊は全員下馬しろ‼︎それとトマスとミシェエラから少し魔法兵と鉄砲兵を借りてこい‼︎右翼は俺達で支える‼︎』

 

アッシュ・直衛騎馬隊

『ハハッ‼︎‼︎』

 

マサユキ達が少ない兵力で右翼を抑えている間ガストンの騎兵隊はシルヴァン隊後方の本陣と投射部隊に襲い掛かった。

 

ガストン

『お館様はここで俺たちが勝ち、シルヴァン隊を降すことをお望みだ。良い男ってのは期待に応えるもんさ、行くぜ野朗ども‼︎ここで勝ったら貴族の女達は俺たちに惚れるぞ‼︎』

 

シルヴァン隊の後方にガストン直属の槍騎兵隊を筆頭にした騎兵部隊が迫るが、それを押し止めるべく立ち塞がったのはシルヴァン本人であった。槍をついてきた騎兵五人を纏めて槍で返り討ちにすると声高らかに名乗り出た。

 

シルヴァン

『我が名はシルヴァン・ド・ホルサス‼︎農民上がりの卑しき者どもに遅れを取ると思うか‼︎‼︎下がれ下郎共ー‼︎』

 

ガストン

『チッ、厄介のがいるな!マサユキ・ド・オートクレールが将シルヴァン見参‼︎お相手仕る‼︎来られよ敵将‼︎』

 

シルヴァン

『平民風情が礼儀を弁えてるとは誉めてやろう!我が槍の錆になれ‼︎』

 

ガストンとシルヴァンが槍で打ち合っているその頃、マサユキに率いられた直衛の重騎馬隊が全員下馬し、厚い装甲と片手に剣、槍、戦斧もう一方の片手に盾を持ち戦闘で大剣を振るう大将と共にモーティアスの中装歩兵を食い止めていた。

 

モーティアス隊兵士

『なんだ、なんだあの大剣振り回してる奴は…化け物か‼︎』

 

モーティアス隊兵士

『これが…これが暗黒騎士。なんだあの禍々しい魔力は‼︎』

 

マサユキは雄叫びを上げた、兵は威圧された。辛うじて怯まなかった兵がマサユキを槍で突いた。だが槍は甲冑で止まり、マサユキはその兵士の顔を掴み、放り投げた。更にそのまま大剣で大立ち回りを演じた。その様子に恐怖を覚えた重騎兵の一人がアッシュに問うた。

 

重騎兵

『アッシュ様、お館様のあの様子は一体…⁉︎アレではまるで獣ですぞ。』

 

アッシュ

『…暗黒騎士の型には二通りある。一つは守りの型、普段の戦い方だ。己の魔力を守りに回してまるで城壁の如く硬化させるものだ。そしてもう一つが攻めの型、自身の魔力と源である負の感情や諸々に身を任せ暴れ回る力だ。長らくお館様はこの型を使いこなすのに四苦八苦していたのだが、今は使いこなせている様だな。』

 

重騎兵

『今は…ってじゃあ他の時にアレやって使いこなせなかったらどうなるんです?』

 

アッシュ

『闇に呑まれて死ぬそうだ。沢山いた暗黒騎士がドンドン減っていったのはその攻めの型の体得に失敗して命を落とすか、理性を失って同じ暗黒騎士に倒されるか騎士団に討伐されるかして減っていたのさ。因みにああやって吠え散らして戦ってるがアレ演技だからな。お館様のお戯れだ。』

 

 

重騎兵

『えっ⁉︎あの気が触れた化け物みたいな奴演技なんですか⁉︎』

 

アッシュ

『精々敵を怯えさせてやろうとお館様の人の悪い所が出たと言うことだ。(とは言え幾分かは狂気に呑まれている節はあるだろうがな)』

 

そう話しているアッシュ達をみたマサユキは大声で呼んだ。

 

マサユキ

『アッシュ‼︎何をしているか‼︎‼︎そろそろ良い加減入ってこい。こっちはもうクタクタだ。モーティアスかシルヴァンの為に体力は残しておきたいんだぞ‼︎‼︎』

 

アッシュ

『御意。重騎兵隊行くぞ‼︎』

 

重騎兵

『『『はっ‼︎‼︎』』』

 

アッシュと重騎兵が戦線を構築した後マサユキは一度鉄砲隊の位置まで引いた。本隊から離れマサユキを支援する為に離れた分隊から余りの鉄砲を借りたマサユキは戦っていたモーティアス隊の将兵に向けてマスケットを撃ち、一人を射殺した後馬に乗り、機を待った。

 

機は巡ってきた。戦線の様子を見にモーティアスが前線まで馬を立てる時が、マサユキは間髪入れず馬に拍車を入れる。急な坂に障害物だらけの場所に馬を入れる奴なんて居ない。だがアッシュも下馬した重騎兵達の奮闘のお陰でちょっとした道が出来ていたのだ。

マサユキは拍車を掛けモーティアス目掛けて一直線に駆けていった。モーティアス隊の将兵が止めようとしてもアッシュ以下黒襷隊の将兵がそれを許さない。マサユキは馬上から鉄砲を構え放った。

 

モーティアスは身構えたが、弾は逸れ、近くの側近に当たっただけであった。マサユキはそのまま大剣を抜刀、モーティアスに斬りかかる。食い止めんとするモーティアスの側近を返り討ちにしながら肉迫し、遂にモーティアスを間合いに捉える。だがそれはモーティアスも同じ事であった。モーティアスは細剣を抜き迎え撃つ構えを取る。両者の得物が金属音を挙げ打ち合う。一方は大剣、もう一方は魔法で鍛え上げられ硬化した細剣である。

 

マサユキ

『ム、細剣ごと叩き斬るつもりが斬れないじゃないか‼︎どうなってんだ?』

 

モーティアス

『魔法で鍛えて更に硬質化の魔法を掛けたから如何にバルムンクと云えどそう簡単には斬れないさ。さてこっちの番だ‼︎』

 

モーティアスは空いた片手で魔力を集めると炎の光弾を作り出した。マサユキはシャムシュに後ろへ引く様に促した。ギリギリの所で交わしたが相当な力で撃ったのか光弾が当たった堀は大穴が出来ていた。

 

マサユキ

『守りの型を使って普通に喰らったとしても吹っ飛ばされてたな、なんて力だ…。』

 

モーティアス

『これでもアルトヘイム一の魔法の天才って言われてるんでね!』

 

マサユキとモーティアスの一騎打ちが起きたことは少し離れたシルヴァンにも届いた。

 

シルヴァン

『そこにいたか‼︎鼠め‼︎‼︎』

 

ガストン

『貴様…!鼠だと‼︎お館様を鼠と言ったか‼︎‼︎』

 

突きかかるガストンをとんでもない速さの槍の突きで返り討ちにしたシルヴァンは単騎で昌幸の元に向かう。落馬し戦死扱いになったシルヴァンは一瞬の事に驚愕しつつも時間は稼いだと満足げに寝転がり、それを聞いたヨーステンは頭を抱えた。

 

ヨーステン

『なんと言うことを…‼︎これでは若が他の二人を討ち取るか他の二人が若ともう一方を討ち取るか、王の御沙汰が降らないとこの戦は終わらなくなってしまった。三軍の指揮官が指揮を放棄しては収拾のつかない泥沼になる。どうしてこうなったのだ⁉︎』

 

ヨーステンは嘆き、いっその事こと若が討ち取られてくれた方がマシかもしれないとすら頭をよぎる始末であったが、自身の職責を果たすべく采配を取り続けた。それは黒襷隊の将校もモーティアス隊の将校も一緒であった。暫くするうちに剣戟や怒号の音は静かになり平原には三人の一騎討ちを固唾を飲んで見守る一万数千の兵が立っていた。

 

シルヴァンは鬼気迫る表情で槍を片手に愛馬を走らせ、マサユキの名を呼ぶ。マサユキは魔力で剣山の壁を作りモーティアスを遠ざけると先に借りた鉄砲を構えた。

 

マサユキ

『貴様と堂々と武器を交わすと思うか?阿呆が…死に絶えろ、貴族共‼︎』

 

発砲音と共に鉛が撃ち出され真っ直ぐシルヴァンに向かって飛んでいった。だが運命はシルヴァンとマサユキを離すことを拒んだ!弾丸はシルヴァンの甲冑に着弾するも跳弾しシルヴァンは尚も向かって来たのだ‼︎

 

マサユキ

『何っ⁉︎馬鹿な‼︎‼︎』

 

好機と悟ったシルヴァンはマサユキの首目掛けて槍を突き入れる‼︎

 

シルヴァン

『獲ったぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎』

然し、マサユキは未だ勝利の女神から見放されては居なかった‼︎

 

マサユキ

『獲ってねぇ‼︎‼︎』

 

マサユキは咄嗟のところで大剣で身構え、槍を弾くが落馬してしまう。シルヴァンは馬上よりマサユキを突き掛かるがモーティアスの魔法を喰らい討死の判定は出なかったものの落馬する。更にモーティアスもマサユキの大剣より放たれた魔弾を受け止めた反動で落馬する。三人は徒歩で己の武器で決着をつけるべく打ち合った‼︎

 

マサユキ

『そろそろ倒れてくれないか?俺が先に将軍に、いや大将軍になった所でオタクら出世には響かないだろ‼︎』

 

モーティアス

『本当は寝転がりたいけどさ、こっちにも立場ってものがあるのさ!この戦いに勝ったらさる家柄の女の子と達遊ぶ約束があるんでね、勝ちで飾りたいのさ‼︎』

 

シルヴァン

『どこの馬の骨とも知れない平民にも、貴族の責務や怠惰に溺れる腑抜けにも我が国と軍を任せられん‼︎凡庸、無能も、下劣な平民、劣等種も異人も尊き血の一族にひれ伏し、平伏すれば良いと何故分からん‼︎』

 

それを聞いたマサユキはシルヴァンに打ち掛かる。当然シルヴァンはマサユキの剣を受け止める。だがマサユキは同時にシルヴァンの内を攻めた。

 

マサユキ

『貴様のその思い上がった選民思想がお父上の最も忌避するものであると気づけぬとは卿はおめでたいな。だから今のお前を、いや過去のお前も愛しては下さらぬのではないか?シルヴァン…。』

 

シルヴァンの怒りは頂点に達し槍を大きく振りまわした。マサユキはこれには手が出せないと身を引くが隙が出来たとモーティアスは攻めるがシルヴァンが先に動いた為、モーティアスはシルヴァンの攻撃を受け止める形となった。そして…憎しみは連鎖していくのだ

 

シルヴァン

『貴様がどう言おうと、血眼になって戦っているのは知っているぞ。貴様は両親に捨てられ祖父に育てられた。両親は弟しか愛さない。お前は今も昔も両親の気を引こうする只の童と変わらないな。この世に貴様を愛している者など一人として居ないという現実を大勢の女と寝る事でしか晴らせない哀れな、実に哀れな男よ。』

 

終始飄々とした表情を浮かべていたモーティアスもこれには怒りと憎悪の顔を浮かべ、魔法でできた飛礫をシルヴァンに雨の如く降らせた。シルヴァンは槍で弾きながら身を引いた。シルヴァンに気を取られているモーティアスにマサユキは大剣で叩き斬ろうとするもモーティアスはその辺と岩や、土で作った魔法の盾でマサユキの剣を受け止めマサユキに囁いた。

 

モーティアス

『本当の君を見てくれる人は本当に居るのかい?さっきの戦いもそうだが獣そのものではないか?今迄の戦もそうだ。血を好む野蛮な獣、それこそ君の正体だ。皆食い殺されない様に君に笑顔を浮かべてる事に気づかず狂って狂って狂いまくって戦ってる。君は常に一人だ。魔法をやっている身だからね分かるよ。君の闇が大きくなって行くのが自他に向けた怒り、憎しみ、そして恐怖。君はそれが漏れるのを恐れている。君からそれらが漏れたらもう誰も君を見てくれないって‼︎君を愛してくれた人が離れて行くのが怖いって‼︎』

 

マサユキ

『黙れぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎』

 

マサユキの周りから憎悪の覇気が溢れ出し、勝手にマサユキは攻めの方の構えを取っていた。攻めの方は暗黒騎士の憎悪や恐怖に身を任せ戦う構え、つまりそれが自然に発生したという事は負の感情の暴走であった。バルムンクは黒い魔力の塊が纏わり付きそれぞれが前や横に隆起し、禍々しい大剣へと姿を変えた。モーティアスもシルヴァンも憎悪に駆られ、表情も魔力もドス黒くなっていた。そして更に悪い事に三人にかかっていた不殺の結界が三人の桁外れの覇気と狂気と憎悪にやられて破れてしまったのだ。そしてそれを知ってか知らずか三人はとどめの一撃を同時に繰り出したのだ。そして同時にフレデリック王の制止の声が飛ぶ。

 

フレデリック

『もう良い‼︎やめよ‼︎‼︎戦は終いだ‼︎‼︎』

 

三人に王の声は届かない。もはや三人とも相討ちで死出の旅を飾る事になる瞬間、三人の攻撃を受け止めた三人がいた。

マサユキの攻撃を水龍騎士団団長大将軍アリスが蒼い双剣で弾き返し

シルヴァンの攻撃を聖龍騎士団団長大将軍アーシェが宝杖より放たれた聖なる鎖で何重にも絡め取り

モーティアスの攻撃を療養中ではあったがマサユキの従者で修行に来ているリリーの付き添いで来ていた火龍騎士団団長大将軍リューネが戦斧で叩き壊した。

 

呆気に取られた三名にアリスの檄が飛ぶ。

 

アリス

『王命に従わず、己すら見失い、闇に身を任せて醜く戦うとはそれでも貴様らアルトヘイムの五千人長か‼︎恥を知れ‼︎お前達三人とも恥を知れぇ‼︎‼︎』

 

こうして、アルトヘイム王国史上最も激しく、そして最も不思議な終わり方をしたコッカス平原の模擬戦はこうして終了したのだ。

 

 

 

 

 

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