歴オタミリオタ介護福祉士が異世界転生して外道鬼畜と言われようと手段選ばず天下と美少女の眼差しを受け続ける退屈じゃない毎日を目指す様です。 作:オラニエ公ジャン・バルジャン
マサユキが北方の地へ飛ばされた意味はアルトヘイムでは知る人ぞ知る名将にして暗黒騎士である、このオグマと名乗る初老の男と出逢う為であった。オグマ率いる北方軍と合流したマサユキ達は当面は北方軍の側面防御の任に就き行軍する軍勢より少し離れた位置で前進していた。2日経った頃で全軍停止、休息を告げる太鼓とラッパがなり黒襷隊もそれに従い兵と馬の足を止めた。そして暫く経たない内に主だった将の集合を告げるラッパが鳴った為マサユキは鎧や兜をちゃんと着直し留守を皆に任せると1人愛馬シャムシュに跨り本営に向かって去っていった。馬上のマサユキは様々な思いを巡らせていた。
マサユキ
(オグマという人はどんな人だろう。猛将のイメージは感じ取れたし、暗黒騎士としての力も遠くからでも感じ取れた。戦の仕方も一見めっちゃくちゃに見えたが改めて思えば明らかにわずかに兵の厚みが薄くなっていた場所に強力な一撃を加えて全体に深刻なダメージを与えていた。こんな事が出来るのは圧倒的な野生の勘を持った者のみだ…)
他にもそんな将に従う人間はどんな人間か、アルトヘイムの中でも珍しい末端に至るまでが精鋭で編成された軍勢に所属している兵達はどんな連中なのかだとか色々である。そんなことを考えている内に本陣の天幕に近づいた為馬を預けるともう既に他の将は入っていた上座に大将軍たるオグマが座り、その両隣を軍師風の男と筋骨隆々な戦士の風貌をした男が固めていた。
オグマ
『皆揃ったな?知っての通り陛下は遂に帝国のバカ共と戦をする事をお決めになられた。永らく王国の影として緑坊主共(ゴブリン、オーク)や騎馬民族を相手しておったワシらにも戦列に加われと命が下ったのでワシらも進軍を開始した訳だ。当面緑坊主共は攻めて来れんし、騎馬民族は宰相殿が何かしらの対抗策を打ち出した様じゃから此奴らも当面帝国の石壁には近寄らんそうじゃ。此処までは良いな?今回の戦からワシらに特別遊軍部隊としてそこにちょこんと座っておる童マサユキ・ド・オートクレール子爵率いる五千人隊が加わった。童マサユキ、皆に挨拶せい。』
マサユキは緊張してガクガクになりながらもどうにか立ち上がり自己紹介を行った。無理もない、何せ大将軍の天幕に入ってからというもの恐ろしい程の威圧感が篭ってしまっていてマサユキは完全にやられてしまったのだ。居並ぶ各千人将や五千人将もそうだが、総大将オグマとその両脇を抱える件の武人と軍師が比べ物にならない覇気を放っていたのだ。マサユキは生物的本能で察した。もしこの中の人間を一騎打ちで倒せと言われたら千人将は何とか、五千人将はギリギリ、そして例の三人には唯々痛ぶられるか、一刀の元に斬り伏せられて終わるだろうと。
オグマ
『この中で最も若い将じゃ。皆気にかけてやれぃ。この童はワシが弟子として面倒を見る事になったが皆も精々可愛がってやれい。将としてはまぁやるらしいがまだまだじゃ。とりわけ暗黒騎士としては未熟すぎる。まぁそこはワシがみっちり鍛えてやる。武術はジード、兵法、軍略、政治学はシモン、お前達が見てやれ。』
巨人と見間違う武人の方がジード、軍師風の装いをしたハーフエルフの優男がシモンである。それぞれ同時に頭を下げた。
オグマ
『半日すれば、我が軍にも鉄砲が五千丁程の支給される。それと同時に新兵器の攻城兵器もな。それまで各隊英気を養う様に。解散!』
マサユキはホッとした表情を浮かべ席をた…いや違うマサユキは席を立ったのではない‼︎胸倉を掴まれ宙に浮いているのだ。安堵の表情から一転驚愕の表情を浮かべたのは言うまでもないだろう。
ジード
『おい小僧、なめたマネやヘマはすんじゃねぇぞ?殿の弟子だ何だで浮かれたりしてふざけた態度や行動をした日にゃあてめーをぶっ潰す。覚悟しておけ。武術の稽古もサボるんじゃねぇぞ?最も俺はてめーが気にいらねぇ。殺しちまっても文句言うなよ?』
と、このジードと言う荒くれ者の将軍は言いたい事だけを一方的に言ってマサユキを床に叩きつけるとノシノシと出て行った。マサユキはヨロっと立ち上がるとそれを助けた者が現れたシモンと紹介されたハーフエルフの軍師だ。
シモン
『全くジード殿は困った者です。若者いじめがそんなに楽しいとは拙僧には理解出来ませぬな。大丈夫ですかな若人よ。改めて私はシモンと申します。我等が主人大将軍オグマに軍師として仕えている女神教の僧です。』
マサユキ
『こちらも改めてマサユキ・ド・オートクレール五千人隊長であります軍師殿。以後宜しくお願いします。』
シモン
『僧の身では有りますが俗世に浸かりきった破壊僧に学ぶ事など少ないと思いますが共に学びましょう。女神は生涯は永遠の勉学であると仰せになられたのですから。』
マサユキ
『はい、宜しくお願いします!』
その様子を見ていたオグマはニタニタと横から口を挟んだ。
オグマ
『因みに一番怒らせると手がつけられないのはシモンだからな気をつけろよ。此奴が本気でキレおったらワシは兎も角ジードも勝てん。』
マサユキはエッ…と言いたげな顔でシモンを見つめ、当のシモンはそんな訳ないだろうと自身の主君を諫めたが一瞬主君に向けた殺気が凄まじい物であったのをマサユキは見逃さなかった。マサユキは吐きそうになりながらもシャムシュまで這いながら辿り着き急いで跨がると自身の本陣まで飛ぶ様に走り去った。そして着くや否や転がり落ちる様に馬から降り天幕に引っ込んでしまった。幕僚達は天幕の中で待っていたが自身の上官が血相を変えた顔で帰ってきたもんだから面食らっていた。そして察した。
幕僚一同
(俺達とんでもない所に派遣されちゃったらしい…)
暫くして本国からの補給部隊が到着し、オグマ軍に鉄砲五千とカノン砲20門が支給された。その補給隊の中にはマサユキの顔見知りのドワーフエンジニアが居た。どうやら宰相の口利きで派遣された様だ。マサユキは自領で試作中の兵器の状況を聞いた。
ドワーフエンジニア
『うーん…砲は事前に坊(マサユキ)が伝えてくれた理論とサン・モシャスから輸入したカノン砲を元に製作してお陰で粗方完全なんじゃが…砲弾がな…陸地に着いた瞬間爆発すると言うのがどうもな…耐久性がいかんとし難くてな…空中で爆発したりなんだりと上手くいっとらん。コボルトの学者先生達がなんか閃いたらしいんじゃが音沙汰が無いから戦には間に合わんかもしれんのぉ。』
マサユキ
『散弾は?それは出来たんだろう?』
ドワーフエンジニア
『ああそれは問題なく。普通の弾と一緒に持ってきた。他の軍や国の連中には順次配備されるじゃろうて。最もサン・モシャスではもう実用化されとるらしいからアルトヘイム製とモシャス製の砲弾が当面同盟の火砲を支える事になるじゃろう。』
マサユキ
『分かった。ご苦労さん、みんなによろしくな。元気にやれよって。』
ドワーフエンジニア
『坊も達者でな。戦で若いもんが死ぬより虚しいもんはないでな。』
エンジニア一行を見送ったマサユキは直ぐに大砲の運用と配備の具申を将軍に行うべく天幕に向かい、ある程度上奏した後、己の天幕に戻ると用意してあった紅茶で一息ついた。
マサユキ
(数日以内にこの世界での近代戦が始まる。俺が来たからなのか、それとも偶々なのか…明らかに文明の進化が早過ぎる。まるで意思を感じるよ。)
翌日行軍を再開したオグマ軍に対し王都アルトヘイムからの伝令が届く、ハドシア領に渡り、ハドシア国門付近でハドシア、教皇庁義勇軍の連合軍が帝国軍を相手に苦戦している為援軍として参加せよというものだった。伝令を受け取り進路を変更したオグマ軍は程なくしてハドシア国門に辿り着いた。その先で同盟軍10万対帝国軍6万が戦っていた。数の上で考えれば普通なら有利なのは同盟だが帝国軍は四万の差をオーク、ゴブリンの奴隷軍団で編成し、帝国に反抗的な民からなのか、それとも同盟ないしはアルサス帝国領の街を襲って拐ってきたのかまたは無惨に敗れた冒険者なのか痛めつけられ血だらけになり、あるいは五体が満足にない女達が板に括り付けられオーク、ゴブリンの常套手段『人の壁』を全面に出し同盟を攻めあぐねさせていた。だが人の壁にされた彼女らには幸いか不幸か、オグマ軍はそれで躊躇する様な連中でなければそれに所属するマサユキは日本人である。過去の日本人のメンタリティを持つマサユキなら彼女らを生きたまま救うという考えは存在していないのだ。
戦場に着くやいなやマサユキは将軍に上奏した。彼女らを人として葬りたいと、オグマは了承した。マサユキは自分の隊からプリースト達を集めると彼らに女神教の鎮魂歌を歌わせた後鉄砲隊を整列させ、自ら指揮を取った。
マサユキ
(少しでも生き残っていてくれと思うのはエゴだろうな己の罪悪感を拭い去りたいが故だろう。これは戦争なんだ。そして人としての尊厳を守る為だ。彼女らの名誉を守る為だ。)
『鉄砲隊構え‼︎狙え‼︎‼︎放て‼︎‼︎‼︎‼︎』
500丁近い鉄砲が一斉に火を吹き、人の壁ごと後ろのゴブリンやオークを貫き、瞬く間にそれを無効化した…これがお前のやった事だ。お前は彼女らに恨まれても仕方がない。永遠にその十字架を背負えとでも天は言うのか、人の壁にされた者達の内生きている者は居なかった…皆マサユキの号令で放たれた鉛玉で死んだのだ。後に歴史は判断するだろう。この時のマサユキは救世主だったのかただの人殺しか…だが当の本人にとってはどうでも良い事だった。
マサユキ
(この程度、最初にこの世界から来た時と同じ事をやっただけだ。何を今更罪悪感に浸る必要があろうか。)
一度本陣に戻ったマサユキをオグマ軍の将校達が迎え入れ、オグマは良くやったと言い労い次の作戦を伝えた。
オグマ
『童マサユキよ、これより我が軍は中央を味方の軍、両翼を我が軍で固め、敵の軍勢を鶴翼で挟み込んで撃破する。そこでじゃ、お主は左翼先鋒として突撃の先頭に立て右翼はジードが務める。』
その言葉に居並ぶ諸将は驚愕の表情を浮かべた。ジードに至っては怒りの形相である。
ジード
『何故ですか将軍‼︎何故この様なクソガキが左翼先鋒なのです!』
オグマ
『ここに来るまでの間、お主やシモンが見てやってるのを見ておったが中々やるではないか、ジード、何度か打ち合っておるがお主の言った通りに死ぬどころか半殺しにすら童マサユキはなっておらぬし、シモンの評価も高い。そうじゃのシモン?よく出来ておるのじゃろう?』
シモン
『はい殿。オートクレール殿は大変勉強熱心でございますし、人より出来るまでの時間は少しかかる様ですが、覚えは早く教える側を裏切る様な真似は致しませぬ。』
オグマ
『ワシは此奴の実力を見誤っておった。だから今度は確実に見極める為に本物の戦場で測ろうと思ったのだ。ワシの感が正しければ個人としてはまだまだかも知れんが他の将よりはやるぞ。』
オグマは席を立ちマサユキの前に立ち、話を続けた。マサユキは威圧されながらも踏み止まり真っ直ぐ大将軍の瞳を見つめ続けた。
オグマ
『童マサユキ、ジードと同等ないしはそれ以上の軍功を稼いで見せよ。さすればこのワシ自ら修行をつけてやろう、それと褒美も取らせる。お主なら出来るはずだ。』
マサユキ
『はっ、この童期待に応えて見せます。』
オグマ
『その言や良し‼︎では皆解散じゃ。』
諸将達はさり、ジードは憎たらしく一瞥し、シモンは御武運をと会釈し去っていき、マサユキはオグマの背中を見つめた後に天幕を去った。
全軍の配置が済むと、マサユキは左翼の最前列より少し離れ、自軍が見える位置に馬を進め振り返った。
マサユキ
『……聞け‼︎‼︎アルトヘイムの紳士淑女諸君‼︎遂に戦端は開かれた!敵は栄えある恐怖の帝国軍、と自称しているロクデナシ共だ!本当にそうならゴブリン、オークといった穢らわしい獣共の力を借りなければ女を盾にして戦う事はしない‼︎そんな奴らに我らが負けるはずがない‼︎‼︎我等は敵よりも勇気と火力に優れている、そして将軍閣下は私に期待を寄せられた。私はそれに応えたい‼︎だか無理だ‼︎‼︎少なくとも私1人の力では、だからこそ諸君の力を貸してもらいたい。アッシュ!ヤートン!ガストン!トマス!マシュ!ミシェエラ!皆‼︎俺に力を貸してくれ‼︎‼︎‼︎‼︎』
アッシュ・ヤートン・ガストン・トマス・マシュ・ミシェエラ
『ハハッ‼︎‼︎‼︎‼︎』
黒襷隊将兵
『ウオオオオオオオオオオオオオオオ‼︎‼︎‼︎‼︎』
左翼から一際大きな鬨の声が上がりオグマはニヤリと笑い、他の諸将をチラリと左翼先鋒を見やった。
マサユキ
『行くぞ‼︎‼︎王家の名誉の為に‼︎‼︎我等の民のために‼︎‼︎女神の為に‼︎‼︎‼︎突撃ー‼︎‼︎‼︎‼︎』
マサユキの号令が掛かると同時に黒襷隊の鉄砲から火を吹き、矢とボルトと魔弾がが空を飛び、そして大砲が火を吹いた。それらは前列の帝国軍に甚大な損害を与えた。とりわけ大砲は攻城兵器と思われていたが実際は歩兵に対しても有効であり、それをマサユキはオグマに伝えていたので、今までの間接攻撃よりも遥かに優れた効果を発揮したのだ。そしてこれによって崩れた戦列にマサユキを先頭にした重騎兵隊が突っ込んできた。強烈なランスチャージを喰らった帝国軍は前衛は崩壊、更に歩兵がその傷口を広げていった。両翼の先鋒の突撃は凄まじく、それを率いる両将の武勇を大した物であった。右翼側でもジード将軍率いるオグマ軍最古参部隊の突撃で帝国軍は夥しい戦死者を出していた。
アルトヘイムは弱兵揃い。今までそう言われており、実際他の軍の兵も決して強い訳ではない。だがこの軍だけは違うと帝国兵は思った。明らかに段違いの強さであった。この白色の軍勢は戦い慣れていた。何よりゴブリンは兎も角、オークですら全く歯が立たないのだ。人より力のあるオーク族が力負けしているのだ。そしてそれを率いる先頭の大男に関しては大斧を振るい、ゴブリンもオークも人も何もかも全部を真っ二つにして突き進んでくる。更に中央からも恐ろしい雄叫びを上げながら突っ込んでくるこの白色の軍勢の総大将であろう老将が大剣を振るい突撃してきており、それを他の軍勢が追う形になっていた。
火力、士気、その他にも全てにおいてこの場にいた帝国軍の全てを凌駕した同盟軍は程なくして敵十万を血祭りにあげ、夕刻には勝鬨を挙げていた
ガストン
『勝った、勝ったぞ‼︎』
マシュ
『みんな勝鬨をあげなさい‼︎マサユキに、我らが隊長に‼︎‼︎』
将兵
『ウオオオオオオオオオオオオオオオ‼︎‼︎』
マサユキ
『皆良くやってくれた、勝ち戦だ。勝鬨をあげよう!』
マサユキはそういうと懐から扇子(カズマ、カテキ兄妹より譲られた物)を取り出し大きく上に振り上げた
黒襷隊全将兵
『栄‼︎‼︎永‼︎‼︎‼︎‼︎雄ォォォォォォォォ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』
勝鬨を上げ終わったマサユキはまたしても宙に浮く羽目になったいつの間にかジードがマサユキの後ろに馬を立てておりマサユキが振り返った瞬間またもや胸ぐらを掴んだのだ。これには黒襷隊将兵は怒り狂った。だがマサユキは静止した。ジードは何か言いたげだったが結局手を離した。そして後ろに下がるとオグマとシモンもマサユキを労いに来ていたのだった。
オグマ
『良くやったな童マサユキ。まさか敵将の首まで取るとは思わんかったわい。』
マサユキは最初の突撃から三度目のランスチャージで敵陣後列まで貫く事に成功し、そのまま敵将の首を取ることに成功していたのだ。尤も敵将は凡将であった為呆気なく終わったが…
マサユキ
『いえ、此度の武勲は私の献策を受け入れて頂いたオグマ将軍と我が隊の将兵によるもの。私は大した事は全くしておりませぬ。』
オグマ
『フン、まぁ良いわい。約束通り戦功稼いできたからワシが自ら修行をつけてやるぞ。ジードの奴歯軋りしておるわ。ククッ、あとお主の褒美じゃがな、童マサユキ!』
急に大声で呼ばれたマサユキは姿勢を正した。
オグマ
『お主、名を変えぃ。』
マサユキ
『はっ!…は?え?えぇ⁉︎』
マサユキは自分の耳を疑った。無理もない事だった。思わず聞き返そうかと思ったが呆然としてしまったが故にそれすらも敵わない。
オグマ
『マサユキ・ド・オートクレールだとあんまりにも語呂が悪いからのぅ、お主がこの調子で軍功を稼げば将軍になる。そうなれば何度もフルネームで呼ばれるだろうし、格好もつかん。よってワシが名付け親になってやろうぞ!』
マサユキはまだポカンとしていたが頭の中では思考は停止していなかった。マサユキ自身も自分の名前とこの国での新しいホームネームが実に不釣り合いな事を煩わしく思う事もあった。何度か改名を考えたが自分の名を捨てる事は元の世界の両親や一族、先祖に申し訳が立たないと思ったのと名家オートクレールを継承して思い上がっている、増長していると思われる危険性があると判断していたからだ。しかし今千載一遇のチャンスが到来しているのも事実だった。マサユキの答えは
マサユキ
『ありがたく拝領いたします。これからは義父上とお呼び致さねばなりませんな。』
オグマ
『そこまでせんでええわい、気持ち悪い。…さてそうじゃのう…。フム…ヨシ。』
オグマは息を大きく吸い込み、この地一帯に聞こえるように大声で命名した。
オグマ
『この場にいる全ての将兵がお主の新たな名前の証人じゃ!マサユキ・ド・オートクレール子爵、汝の新たな名は…
フリードリヒ・マサユキ・ド・オートクレール
そう名乗るがよい‼︎‼︎』
マサユキは新たな名よりも師がこの世界に持ってこれた数少ない財産である親から貰った名前を残してくれた事に感謝した。以降歴史書には
フリードリヒ・M・ド・オートクレールと書かれる事になる。新たな名を将兵達は連呼した。
将兵
『フリードリヒ・ド・オートクレール子爵万歳‼︎‼︎フリードリヒ・ド・オートクレール子爵万歳‼︎‼︎』
この騒ぎを遠巻きから見てる者達がいた。
ハドシア王国総大将オルランス伯爵と教皇庁製騎士団団長ヴィルジャンス卿である。この2人も軍を率いて同じ場にいたのだ。
ヴィルジャンス
『アルトヘイム王国にあれ程の強者が居たとは、騎士の国は衰えてはいなかったのだな。』
オルランス
『歳は卿の方が幾つか上くらいだな。新しい世代の出現はいつの世も良いものだ。いつか共に轡を並べて戦いたいものだ。』
同盟の勝利で沸いている一方、ノーロット帝国帝都では文武百官が皇宮に集結していた。その中で一際存在を放つものがいた。皇帝の子供達である。
この場にいる子供らを順に紹介すると
長女
オクタヴィア・フォン・ノーロット 帝国第一皇女
『帝国近衛飛竜騎士団団長兼帝国軍近衛第二軍団軍団長』
次男
オスカー・フォン・ノーロット 帝国第二皇子
『帝国重装魔法騎士団団長兼帝国軍近衛第一軍団軍団長』
三男
アウグスト・フォン・ノーロット 帝国第三王子
『帝国重装斧歩兵軍団及びドワーフ帝国名誉市民義勇軍軍団長』
次女
シュザンナ・フォン・ノーロット 帝国第二皇女
『帝国軍神聖魔導士・武装神父戦鎚歩兵軍団軍団長兼帝国軍近衛第二軍団副軍団長』
時の皇帝、ミヒャエル・シーザー・フォン・ノーロットの五人の子供のうち四人が一堂に皇宮に会しているのである。16の成人後それぞれの軍団を率いて任地にて帝国の威信を広めていたこの皇帝の血族たちが集まる事は歴代最強の武勲を誇るミヒャエル帝の血を引く五人の偉大な戦士が集まる事と同義であり、文武百官に例えようのないプレッシャーが掛かっていた。信じがたい事だが半年前に成人したシュザンナはまだ16である。見かけはあどけない少女で有るのに、教皇庁仕込みの強力な神聖魔法(他者を癒したり、光の力で攻撃する魔法の系統、他に不死者やゾンビ、亡霊の除霊等もこの魔法で行う。)の使い手であり戦鎚の使い手でも有るのだから、驚きしか無いだろう。
さてこの場に居ない長男ジィール・ガブドシア・ノーロットは何処にいるのか?文武百官が周りを見渡すと国務省書が玉座の横まで歩いていき高らかに叫んだ。
国務省書
『神聖不可侵にして全世界の支配者、ノーロット帝国皇帝ミヒャエル・フォン・ノーロット陛下御登壇‼︎‼︎』
その場にいた全てのものが跪いた。玉座に座った老人は豊かな白い髭を蓄え、衰えたとはいえ逞しい筋肉を黒衣の衣と軽装の鎧で包んだ堂々たる武人であった。しかし、顔には生気が無く病に侵されて長いのだと子供でも分かる状態であった。
皇帝ミヒャエル
『皆、面をあげよ。』
皇帝の声に皆が呼応し立ち上がる。皇帝は軍議を始めると言うと、一人の貴族が口を挟んだ。
貴族
『恐れながら陛下、この場にジィール殿下がいらっしゃいません。先のアルサス帝国軍との戦にお出になられて以来戻られておりませぬ。全軍の総大将たる殿下を差し置いて軍議を開いて宜しいのでしょうか?』
皇帝ミヒャエル
『心配するでない。我が息子は現れる。そう今この瞬間な。』
言い終わった瞬間、大広間の戸が開き、ジィール直属の騎士団通称黒色騎士団がハルバードを持って整列し出口から皇帝迄の道を作った。そしてその間をジィールが歩いてきた。手には自身のハルバード、そして何やら薄汚れた麻袋を持っていた。ジィールが一歩ずつ歩くたびに覇気が飛び、居並ぶ者達を威圧した。そして皇帝の前に着くと跪いた。
ジィール
『遅れて申し訳ございません。途中砂嵐にあい足を止めておりました。』
皇帝ミヒャエル
『致し方ない。して我が息子よ、大将軍よ。首尾は如何に?』
ジィール
『こちらをご覧あれ。』
ジィールが持っていた麻袋をひっくり返すと中からゴロッと音を立て、四つの男の首が出てきた。大広間はどよめいたが、三男アウグストが己の得物である大斧を床に打ちつけそれを静止した。
ジィールは首を並べると誇る様に言った。
ジィール
『セパルコ王朝アルサス帝国大将軍(エーラーン)クヴァシルヒ・ホークハント、以下3名の現皇帝派の万騎長悉く我が手にて討ち取りましてにございます。それに合わせ敵軍将兵25万、敵国についた裏切り者の民も含め反抗した民衆4万を血祭りに挙げましてにございます。』
大広間はおおっ‼︎歓声が上がった。将軍4名の死亡、兵、民衆合わせ30万近くの犠牲は中央大陸におけるアルサス帝国の人間の六割がたを死なせたことになり、アルサス帝国の侵略を挫くには十分なダメージであり、更に老いて命数も少なく、帝位を若く有能な孫に継がせようとする現皇帝の政治バランス(現在アルサス帝国では皇帝派も貴族、宦官との連合と権力闘争の最中にある。)を完全に瓦解せしめたのだ。まごうことなき大戦果であった。
皇帝ミヒャエル
『流石は我が息子よ。お主が居れば我が帝国は安泰。では弱った父の為にもう一働きをしておくれ。オスカー、軍議を始めよ。』
オスカー
『はっ!諸君、知っての通りだが、アルトヘイム王国、サン・モシャス自治領、エルフラーシュ神聖王国、商業王国ハドシアこれらを僭称する叛徒共が教皇庁聖騎士団、及びその直轄地歩兵団の半数を伴い、遂に衛星国を飲み込み、国門を通り恐れ多くも神聖不可侵なる皇帝陛下の領地に足を踏み入れた。現在敵軍は連合を組み第六都市を落とし、第四都市を、攻囲せんとしている。だがそれまでだ。諸君が私が事前に渡した命令書の通りに行動してくれたお陰で敵軍は我が帝国の奥深くに足を踏み入れ、補給も不安定な状態になり、領地より富と物資を引き揚げた事により彼奴等は日上がり始めている。おまけに我が軍が敢えて負けている事にも気づきもしない。己の力で勝ったと思い上がっているがその実連中は死に体で有る。第四都市司令官には程々抗戦し撤退せよと伝えてあり、妨害行動として現在新兵器大砲に換装を完了した帝国第二艦隊が第四都市近辺の海域で通商破壊に出撃している。二線級とは言え我が軍の重装艦隊であり、艦隊司令官は歴戦のグスタフ・フォン・オッペンマイヤー将軍が指揮を取る。仮にサン・モシャス、アルトヘイムの艦隊が来ようとこれらが蹴散らし、それを皮切りに疲弊しきった敵軍が第二都市を攻囲している隙に全軍を当て彼奴等を屠るのだ。絶望した彼奴等は鎧袖一触で敗れるだろう。』
なんて事だ!今までの同盟軍の勝利は敵よって作られた偽りの物だったのだ‼︎確かに同盟軍は開戦直後順調に軍を進めていたが屈強な帝国軍の妨害は余りにもお粗末な物だったのだ。最初こそ警戒はしたが立ち続けに得る勝利が彼らの目を曇らせたのだ。そして同盟軍は占領した街や村に入るが物資を得られず逆に放出するという事態を繰り返し続けていた。前線にはホルサスも出ていたが神算鬼謀の彼を持ってしてもそれを見抜けなかったのだ。しかしこれには理由があり、それは帝国の主力がアルサス帝国との戦線で膠着しているという情報があり、物資の不足が目立ってきたが補給線を破壊される心配が無いことからそれに則って行動していたからであった。しかし現実は帝国軍の戦力は現在、更に分散していた軍もまたジィールの功績により集結してしまう。もしこの状況をホルサスや各国首脳、各国大将軍、将軍が知っていれば歴史は変わっていたかも知れない。
オスカー
『帝国の忠臣達よ!今こそ反撃の時だ。敵軍は自ら死地に入った事を理解していない今こそ叩く時なのだ。全軍第二都市に集結し時を待つのだ。今作戦の総参謀長は私が務める。総大将は兄上、ジィール・ガブドシア・ノーロット皇太子殿下がお勤めになられる‼︎皆皇帝陛下に誓いをせよ‼︎帝国万歳‼︎‼︎勝利を帝国に‼︎‼︎』
文武百官
『帝国万歳‼︎‼︎皇帝ミヒャエル陛下万歳‼︎‼︎帝国に勝利を‼︎‼︎‼︎ジーク・カイザー・ミヒャエル‼︎‼︎‼︎‼︎』
帝国の反撃は始まろうとしている。そしてこの時昌幸は自身に起こる悲劇を全く予知していなかった………。物語は始まったばかりなのだ。