歴オタミリオタ介護福祉士が異世界転生して外道鬼畜と言われようと手段選ばず天下と美少女の眼差しを受け続ける退屈じゃない毎日を目指す様です。   作:オラニエ公ジャン・バルジャン

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16話 北方騎馬民族スレン族・鈍色灯台入江沖海戦

戦争が続く中、ソフィアとアリスは馬を引きながら雪原を歩いていた。目指す先は騎馬民族スレン族の交易場である。スレン族といっても実際は大小十数の部族の集合体であり約2世紀程前に新興種族スレン族に統一されたのだ。二人はこの先にある交易場に寄り、スレン族の族長の所在を確かめるのが目下の目的であった。スレン族は遊牧の騎馬民族なので基本家畜を追って冬季の為雪に覆われた平原を駆け、夏になれば作物を作る。だが唯一の例外が平原の中心に位置するスレンの揺籠と称されるアルトヘイムの王都にも劣らぬ巨大な石造城塞都市があり、そこにスレン族の本拠と族長の住う宮殿があるのだが、時折族長はそのスレンの宮殿を留守にする。理由は二つ、一つは掠奪のため、もう一つは平原の各地に散らばった同胞の様子を見るためである。そして都市にまで無事に帰る様に叱咤激励し彼らの労を労うのだ。つまり現在の族長の位置が分からねばソフィアは長い時間この平原を彷徨う羽目になるのだ。当然、そんな事があっては堪らぬし、特にアリスがそれを酷く心配していた。実は二年前、スレン族は大軍を三つ編成し、一つノーロット帝国、一つはハドシア王国、そしてアルトヘイムに略奪戦争を挑んだのだが、三つとも撃退され、特にアルトヘイムに至ってはその相手をしたのはオグマである。(アリスも五千人将として水龍騎士団を率いて参戦していた。)三軍の中でもとりわけ損害が酷いため、この三国の内最も怨まれているアルトヘイムの姫君が自分達の国に居るなど知れば何をするか分からなかったからだ。

 

ソフィア

『アリス、雪が強くなって来ましたね。』

 

アリス

『はい殿下。しかし流石スレン族の外套です。寒さを全く感じない所か、鎧すら簡単に覆ってしまう。我が軍にも同じものがほしいものです。』

 

ソフィア

『今回の盟が叶えばその外套も手に入りますよ。交易場は…あれね。立派なとは言えないけど暖かそう。ハドシアの通行手形と商談優先券が有るから楽に通れると思うけど。』

 

アリス

『何にしてもお気をつけください。ハドシアの商人ではなく、アルトヘイムの王族、いやアルトヘイム人だと分かった瞬間襲い掛かるやも知れません。その時は躊躇せず剣と魔法を使い、馬を手に入れるのですよ。』

 

ソフィア

『わかってるわ。それよりも着いたから先ずやる事、この交易場の管理人に会わないと。』

 

二人は宿を見つけると馬を止め、管理人の居る小屋に入り偽造した身分証明書を出した。

 

管理人

『ハドシア王国商人ミューゼル商会のソフィア・ミューゼルとその護衛の双剣術士アリス・スール・キルヒアイスっと…他国の商人は基本ここの様な交易場やスレンの揺籠でやる事と決まっている。なのに族長自らに商談を持ち掛けたいから現在地を教えろとはどう言う事だ?一回の余所者にそんな事は教えられないし、族長と交渉したいなら尚の事スレンの揺籠に出向く方が確実だろう。先ずお前達は何を商売しに来たのだ。』

 

管理人が訝しげに聞くと、ソフィアはポケットから印鑑を取り出した。それを見た管理人は表情を変えた。

 

ソフィア

『管理人なら知っているでしょ?それはハドシア王国王党派の双璧大商人シモン・デュテールの紋章を象った印鑑。これを持つ者はシモン・デュテール様の代理としてハドシア王国の国事を担う者に任じられているという事。両国間の大事な商談を遅らせるどころか妨げでもしたら貴方はどうなるかしら?スレンの刑罰は過酷だとか、生きながら馬に裂かれたり、男根を引き千切られるとか…賢明な判断を期待しますわ。(私なんてはしたない事言ってるの…。)』

 

管理人

『失礼…いや失礼致しました。直ぐに伝書鴉をお送りして周辺の交易場と揺籠に確認を取ります。現在族長は狩りのため揺籠を留守にしている筈ですので、それとお手数ですが…もしお会いできた暁には〜…』

 

ソフィア

『ええ、お伝えします。宿に下がっても?』

 

管理人

『お送り致します。』

 

ソフィア

『結構、キルヒアイスが居ますので。』

 

二人は小屋を出るとソフィアは顔を手で覆った。ソフィアは赤面している様であった。

 

ソフィア

『私男の人のなんて見た事ないのになんて事を…。』

 

アリス

『大義のためです。それに姫様はお年頃なのですからそろそろ姫事の稽古も為さらないと。お子を産むのもまた使命です。』

 

ソフィア

『言われなくても分かってるわ!ただ緊張するだけよ。第一それは貴女も一緒です!』

 

アリスは少し意地悪く笑いながら首を垂れた。だがお陰でアリスは緊張が解れたのか頬を膨らましていた。

 

アリス

(良かった。少しでも気を抜かないとこの方はお倒れになってしまうから過剰かも知れないけど寧ろ今はこの方が良いかもしれないから。)

 

宿に戻り、軽い食事を済ませた二人に先の管理人が書状を持って恭しく現れた。何と幸いにも族長はこの交易場から少し東に行った辺りで野営しており、揺籠への帰還の準備を始めている最中だったのだ。直ぐに案内を二人は頼むと管理人が用意した駿馬が用意されており、護衛の為二人の騎士が待機していた。四人は直ぐに交易場を出て族長の一団の野営する天幕迄駆け抜けた。護衛の騎士が話をつけるために離れるとアリスはソフィアに気になっていた事を質問していた。

 

アリス

『そういえば殿下は何時頃スレン族の知識と知己を得ていたのです?聞かされた時は驚きました。姫様に外国の御友人が居るとは。』

 

ソフィア

『九年ぐらい前の話なんだけど、アルトヘイムの王都にスレン族の使節団が来た時が有ったわよね?その時に族長に着いてきた若い戦士風の青年と知り合ったの。その人から沢山スレン族の話を聞いたわ。馬の扱い方、食べ物、歌、踊り、戦士達の武勇。私の夢が始まったのもその時よ。その人と私は夢を共有したの。』

 

アリス

『成る程そう言う事情がお有りでしたか。それでその青年は、族長についていたのであれば近衛の戦士の筈、家柄も良いでしょうから口利きを期待出来ると?』

 

ソフィア

『いーえ。もっと良い結果になると思うわよ。後で分かったことだけどその青年は次期族長、つまり族長の一人息子だったの。女の兄弟が何人かいた様だけどスレン族の習慣は余程の事が無ければ女性の世襲権は無いから生きていればその青年が族長になっている筈つまり。』

 

ソフィア・アリス

『つまり互いが同じ目的を持っているなら腹を割って話しやすい‼︎』

 

二人は楽観的に話していたがこの時彼女達の考えが甘い事を知っている者は本人達を含め誰一人知る所では無かったのだ。

 

族長の天幕に通された二人は待つ様に言われてから20分程待ちぼうけを喰らっていた。

 

アリス

『何か嫌な予感がして参りました。』

 

ソフィア

『………。』

 

すると一人の立派な戦装束に身を包んだピンク色の髪をした猫人の女が現れた。歳は30になった所だろう。略奪品だろうか?サン・モシャス製の両刃の剣にエルフラーシュの高級な金細工のクロスボウ、更にアルサス帝国の象牙のピストルまで下げている。後ろに着く衛兵もアルサス帝国産のマスケットと彼らの伝統的な剣で武装している。ソフィアたちが持ってないと思っていた銃火器で武装した衛兵に守られたこの女はスレン族の高位な存在であることは明らかであった。だが彼女らの驚愕はまだ終わらない。

 

『顔を上げなさい。ソフィア・ミューゼル、いやプリンセス・ソフィア・ド・アルトヘイム。』

 

ソフィアとアリスは更に驚いたのは無理もない。ハドシア王国の協力の元完璧な偽装を施したにも関わらず正体がバレたのだ。

 

?

『知らぬ存ぜぬと誤魔化しは効かないよ。あんた達はハドシアの北方から来た。あそこは私達の商人もいれば族長の鼠と云われるスパイが幾人か居る。ましてや敵の多い王党派の双璧シモン・デュテール公の商人が北方に行くとなれば商売敵の共和派は理由と商談をぶっ潰したいが為に情報を手に入れ私達に垂れ込む。味方の情勢を少し理解しておくべきだったわね。』

 

ソフィア

『…貴女は一体どなたです?大ハーンは如何いたしたのです?』

 

?

『二年前、私達スレン族はアルトヘイム、サン・モシャス、そしてノーロット帝国に三方面の大遠征を敢行した。結果私が率いたモシャス方面軍は王都の城壁を守る黒い悪魔、あのむさ苦しいオルランスに阻まれ、アルトヘイムでは帝国の石壁のジジィ(オグマ)に追い散らされ、帝国を攻めた本軍の弟、私の可愛いテムジンは一騎討ちの末、ジィール・ガブドシア・ノーロットに討たれ、帰ってきたのは首が無い身体だけだ。』

 

ソフィア

『そんな…テムジン様が…あの戦いで…そんな。』

 

?

『アンタが泣く事じゃない。私の弟はここのどんな騎士や貴族達よりも強かったが、私とジィールのクソ野郎よりは弱かった。それだけだ。』

 

ソフィア

『では貴女が…テムジン様の姉上、狐族の長。』

 

ユイコ

『そう、私が今のスレンの大ハーン。狐族の長、ハーン評議会の主人、狐のユイコ。アンタら風の名前だと、ユイコ・フォックスだ。』

 

ソフィア

『大ハーン・ユイコ。謹んで申し上げます。我等反ノーロット帝国同盟鷲獅子同盟への参加を要請します。帝国打倒の暁には帝国により失陥した不凍地の農業地帯、更にそこから幾分かの領土の割譲とそれの発展のための人材と支援をお約束します。そして長らく教皇庁によりスレン族の国家承認の申し出を禁止されておりましたが、鷲獅子同盟参加国全ての君主の名に於いて一国家であると承認致します。』

 

ユイコ

『魅力的な提案だ。宜しい同盟に参加しよう。ただし、途中参加した国に同盟加入前に発生した戦争への強制参加の決まりは無い。もし参戦せよと言うのであれば断らせてもらうよ。』

 

アリス

『何を馬鹿な‼︎この同盟が何の為にあるかを分かって言っているのか‼︎この同盟は…』

 

ユイコ

『対ノーロット帝国の同盟。だがお宅のあの切れ者の宰相はアルトヘイム以外の国を飲み込むための道具としか思ってない。意味は弁えてるさ。』

 

ソフィア

『否定したいところですが…その通りです。もしよしんば帝国に勝てたとしても、次は確実に同盟諸国間の覇を競う戦いが始まるのは火を見るより明らか。でもそうなる前に謀略を以て国を統一する。それがホルサスおじさま…宰相ホルサス卿の思惑です。』

 

ユイコ

『今我等も一つ岩とはとても言い難い。私の即位に反対した者達とそれから私を守ってくれようとしている父祖からの重臣や姉妹達の暗闘がスレンの揺籠でもそしてこの平原の何処かで繰り広げられている。自分の部族を纏めるので精一杯なのに他人の戦に首を突っ込んでその見返りに侵略を招く事になると知って何故盟を結ぶ?』

 

ソフィア

『お言葉ですが、大ハーン。私達はこの平原への野心は微塵もありません。ただ力を貸して欲しいとお願いしに参ったのです。そして見返りは今貴方達が一番欲しがっているものを差し出しているのです。この盟をお捨てになるのはうつけのする事です。』

 

アリス

『土地や作物、労働力としての男の奴隷も、子袋、慰み物としての女の奴隷もあんたらからにしろ、ノーロットの連中からにしろ自力で手に入れる。寧ろ帝国につけば見返りでもっとくれるかも知れない。』

 

ソフィア

『ええそうです。でも貴女が真に欲している物めはない。』

 

ユイコの眉がピクリと動き、アリスとハーンの取り巻き達は息を飲むばかりであった。

 

ユイコ

『私が真に欲しい物?それは天使と見間違うほどの美男子か?天女と同じくらい美しい美女、美少女か?大抵の私の噂を知る者はそう言うがそんな物は今でも簡単に手に入る。なんならこの後まさにそれら10人ばかり全員朝まで乱れさせるしその中に加えてやっても良いよ?』

 

ソフィアは一笑し返した。

 

ソフィア

『いいえ、貴女が欲しているのは友。共に草原を馬で掛け抜けてくれる者です。今貴女は自ら欲している物を教えてくれました。一つは弟君の為の復讐。そしてその為の権力闘争の後ろ盾といった所でしょうか?貴女は本当はテムジン様の復讐をしに帝国領へ進軍したいと考えていた。王都に居らず、こんな所でしかも重装備の戦支度までして、狩りや巡視にしてはあまりにも大袈裟です。反対派に止められて軍を興せなくなった。或いは興す為に反対派を粛清しようとしたが自分と自分に味方する氏族達だけでは不安が残る。どちらにしても味方が欲しい。仮に軍を用意出来たとしても単独で帝国と戦うのは得策では無い。何処かと盟約を結び、戦力を提供する代わりに兵糧だけでも賄ってくれるところが欲しい。そんなところに私達が盟を結びに訪ねてくる、正に行幸だが国を守る為には下手に承諾する事だけは避けねばならないだから敢えて突っぱねて反応を見たかったのでしょう?』

 

ユイコが口元を緩め、微笑したのをみたソフィア

は更に続けた。先の条件と共に北方の平原スレン族の領地一切に手を出さず独立保証を加えて全面的に大ハーン・ユイコ・フォックスの王位を全面的に支持すると言う条件を出したのだ。

 

ユイコ

『弟の言う通り、アンタは話のわかる奴だ。何より信用できる。早速約束を果たしてもらうとしようか。私と一緒に揺籠に来ておくれ。今アルトヘイムから盟約を結ぶための使者が来てるって氏族を全員集めてある。その場で反対派を全員始末する。あんた達二人も腕が立つんだろう?力を貸してくれよ。』

 

アリス

『殿下。』

 

ソフィア

『分かりました。必ず終わったら援兵を出すと誓いますね?』

 

ユイコ

『風に賭けて‼︎すぐに出陣出来るウチと氏族の軍合わせて15万の軍で参戦しよう。』

 

二人は固く握手すると、馬に跨りスレンの揺籠迄馬を走らせた。ソフィアとアリスは招待がバレる訳には行かないのでユイコの護衛の女性兵に扮して揺籠に入城した。一行は真っ直ぐ宮殿に向かい、待っていたユイコ側の氏族の一人に会った。ユイコはその氏族にこう伝えた。

 

『風来たる』

 

氏族はそれを聞くや否や会釈するとすぐに去っていった。会議場の隣室で一度、一同で打ち合わせを行った。会議をしつつ絶好のタイミングでユイコが合図し、その合図と共にソフィアとユイコ派の兵達が反対派の氏族を皆殺しにする事になった。幸いにも宮廷中で反対派の人間の掃除が行われており、完全に密室の会議場にいる反対派は何が起こっているか知らず、何かをしようにも全てユイコに筒抜けであった為、企みを水泡に期してしまったのだ。

 

ユイコは一人会議場に入っていき隣室の一同は壁に耳を当てた。会議場にはスレン族を構成する全ての氏族長が集まっていた。先ずユイコは玉座に座ると、諸氏族に遅刻した事を詫びた。そして会議を進めた。

 

ユイコは先ず自分が意見を述べた。同盟に参加し、帝国を打ち倒すべしと。ユイコ派の氏族長達は全員、『そうだ‼︎その通り‼︎』などと叫ぶが反対派の主犯格は反対意見を述べた。先ず二年前の敗北から立ち直っていないこと。南側の国々と手を結ぶなど今日までの経緯を考えても不可能だと。他にはもう秋も中頃であり、冬が始まろうとしているのに一部とは言え15万の人員を動員すれば越冬に差し支えると言う氏族長もいれば、同盟軍が見返りに女や金品、食糧に軍馬、武器、兵器、そして領地を差し出せと言っても応じるとは思えない。仮に応じるとしても今述べた全てを満たさねば決して出兵などせぬと言う氏族長まで現れた。

 

反対派氏族

『…以上をもって我らの上申を終えまする。大ハーンには厳正な判断を持って明断して頂きたく存ずる。』

 

ユイコ

『…諸侯の言い分はわかった。このハーン会議に於いてハーン達の賛成多数の意見が尊重されるのが掟だ。此度の盟に反対の諸侯はこの場の六割、私が取るべき道は決まった様なものだ。諸君らの言う通り決して愚行に走らないと約束しよう‼︎』

 

反対派氏族

『誠にございますか?大ハーン!』

 

ユイコ

『勿論だとも、私はスレン百種族の長ぞ?』

 

ユイコが実に大袈裟に答えたと思うや否や立ち上がると瞬きをする間にピストルを引き抜き、反対派の一人を射殺したのだ。

 

ユイコ

『お主らの様にこの揺籠に赤子の如く閉じこもり、復讐の機会を離するような行いをな。そして私は復讐は必ず果たす。我が弟を売った罪、死を以て償うが良い!死して我が弟に詫びるが良い‼︎‼︎』

 

それを皮切りにユイコ派の氏族長達が一斉に剣を引き抜き近くに座っていた反対派の氏族長に襲い掛かり、戸が蹴破られるとソフィアやアリスを始め隣室に控えていた兵士達が一斉に襲いかかって来たのだ。

 

会議場は真っ赤に塗装された。ユイコは玉座の前に戻るとその場にいる全員に再び宣言した。

 

ユイコ

『大スレン百種族の長として、神々と我が臣下、そして我が盟友に誓う。我等スレン族は鷲獅子同盟に加盟する‼︎それに伴い即座に動員可能な兵力15万を以て、ノーロット帝国を脅かさん‼そして子らに誓おう!凍える事なき地を手に入れて赤子を飢えさせぬ事を‼︎‼︎』

 

スレン族氏族長一同

『風の王ユイコ‼︎永遠に治世が続かん事を‼︎』

 

その場にいた氏族長と兵達はそれぞれの武器を天に掲げ雄叫びを挙げた。ソフィアは信念と決意を持ってスレン族15万の勇猛な戦士達を味方につけたのだ。

 

ソフィア

(マサユキ…私はやったわ、頑張ったのよ。だから貴方も必ず私に会いにいらっしゃい。生きて私の前に、必ず…。)

 

場所は変わりノーロット帝国領第四都市近郊ではマサユキはオグマに修行をつけてもらっていた。

剣術の腕はメキメキと上がっていき、暗黒騎士としての力の使い方も覚えて行った。今はオグマが麾下の兵に戦う前に授ける加護の使い方を習っていた。

 

オグマ

『先ずは魔力を自分に身に纏うのだ。次に死んでいった仲間や殺してきた敵の想いを込めるのだ。先ずはやってみよ。』

 

マサユキ

『魔力は兎も角、後者は如何にやるのですか?』

 

オグマ

『感じよ、必ず答えてくれる。』

 

マサユキは目を閉じ、魔力を纏った。そして言われた通りに感じる…と言うより思いを馳せてみた。死んでいった者達の想いを、するとどうだオグマが出しているように暗黒騎士の力、オーラが自分の身に纏ったのだ。だがオグマが黒色であるのに、マサユキは灰色だったのだ。これにはオグマも目を見張った。

 

オグマ

『これは…どういう事だ。』

 

マサユキ

『出来た‼︎出来ました師匠‼︎‼︎』

 

オグマ

『ああ…いや、だが、まさかな。』

 

師の要領を得ない返答にマサユキは不思議に思ったが、オグマが口を開いたので黙る事にした。

 

オグマ

『本来、暗黒騎士がこの力を使うと黒い魔力を身に纏う。何故なら我らは死者の怨念などを力に変えるからだ。だがお主は、灰色だ。それは正しく死者だけではない、生者の思いも込められている、違うか?』

 

マサユキ

『はい、死んだ者たちの事を考えていたら今生きている者たちも何故か頭に浮かんできて気がついたらこんな事に。』

 

オグマは少し物思いに耽ったが少し遠くを見つめながら口を開いた。

 

オグマ

『20年程前か、ノーロット帝国の第一次侵攻の前位の時ワシには弟子がおった。その者の名は優衣。お主と同じ異世界から来た女子だ。黒い不思議な服を着て、歳は18のじょしこうこうせいなる学生だったそうだ。』

 

マサユキは驚愕の余りを声を上げた。

 

マサユキ

『わ、私と同じようにこの世界に来た者がいるのですか⁉︎しかも二十年前‼︎』

 

オグマ

『まぁ、聞け。その女子は帝国の石壁の近くに倒れておった。ワシが見つけ、介抱した。聞けば何故ここにいるかも分からないし、自分は死んだ筈だと抜かしておった。この世界でいうところの馬車のような乗り物に轢かれたと申してな。おそらく故郷では死んだ扱いになっているだろうし、帰る方法もない、この石壁に居させてほしい。と願い出たもんだ。』

 

オグマはそう言いながらそこにあった丸太に腰掛けた。

 

オグマ

『我が王国の要衝に若い女子、それも異世界の女子が流れ着いた事は何処から漏れたのか王国中に広まった。見せ物のように扱われるのは可哀想だし、生きる術なんてもう己の体を売るしか無いじゃろうと思ったから、ワシが引き取った。家内も死に、子も居なかったからな。優衣は剣なんて持ったこともないそこらに居る町娘や村娘と変わらぬ女子だったが、魔法の才を持っておって、剣の腕も飲み込みが早いから腕をぐんぐん上げた、お主と一緒じゃな。そしてやがて戦に出た。その折にある二人の男と知り合った。その男らは優衣と馴染みになった。お主でいうところのシルヴァンとモーティアスの様な関係じゃ。その二人は今や国王と、宰相になった。フレデリック国王陛下と

クリストフ・ド・ホルサス宰相殿じゃよ。』

 

マサユキはぽかんと口を開けるしかなかった。自分と境遇が余りにも似過ぎていたし、当事者からも今の今まで話される事も無かったからだ。

 

オグマ

『やがてお主と同じ様に戦功を稼ぎ、将軍になった。女子の身でそこまでの地位でしかも何も持たずなる事など前代未聞の事じゃった。たちまち王国では英雄になった。因みに今の三龍騎士団の総長を務めとる小娘三人に武芸を教えたのは優衣なんじゃぞ?だが間もなく帝国の侵攻が始まり…』

 

オグマが続けようとしたら、そこにシモンが現れ、主君に報告した。

 

シモン

『オグマ様、たった今サン・モシャスより書状が届きました。サン・モシャス・アルトヘイム連合艦隊、モーティアス隊選抜部隊を乗せ、鈍色灯台の占拠、及び近辺に停泊中のノーロット帝国第二艦隊撃滅の為出航した模様です。』

 

オグマ

『話は後じゃな、フリードリヒよ。シモン、陣触れをだせ‼︎出陣じゃあ‼︎艦隊が沈めば我らに包囲された第四都市は補給が無くなり容易く落ちる。奴らの希望は艦隊しかないからの‼︎仮に敵艦隊が我が方の艦隊から逃れてもワシらが包囲して居れば容易には近づけん。抜かるでないぞ‼︎』

 

シモン&マサユキ(フリードリヒ)

『ハッ‼︎‼︎』

 

シモンとマサユキが去った後オグマは夕陽を見ながら心中に思いを馳せた。

 

オグマ

(恐らく連合軍はこれ以上進めないだろう。全軍に行き届く兵糧はもう無いに等しい。補給の滞りも見られておる。第四都市を占拠しても他の都市や村落の様に食糧や日用品がどういう訳か全て帝都に取り上げられていたらワシらはそれを放出しなければならぬだろう。そして掠奪のしようもない。まだ最前線に到着しておらんクリストフに急ぎ鳥を飛ばし、実情を伝えたほうがよかろう。奴が、ミヒャエルの爺とその子供らが何か仕掛けてこぬうちに。)

 

だが歴戦の大将軍オグマでさえも、当代一の魔法使いと言われたホルサス卿でも今帝国の恐るべき作戦は既に佳境に入っており、もう逃れられぬという事実を認識する事は出来なかったのだ。

 

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大戦が始まって数ヶ月が経過した現在サン・モシャスより出航した艦隊があった。最新兵器大砲で武装したサン・モシャスとアルトヘイム王国の連合艦隊であった。編成は英国の戦列艦等級を用いるなら新造の二等戦列艦(90門艦)のサン・モシャス艦隊旗艦クイーン・オブ・サン、次に三等戦列艦(72門艦)二隻、4等(56門艦)三隻、6等戦列艦(32門艦)10隻、アルトヘイム王国艦隊旗艦三等戦列艦アルトヘムハンマー(サン・モシャスより譲渡)5等戦列艦(48門艦)6隻、6等戦列艦15隻、砲門数1556門という大艦隊であるが、帝国は帝国第二艦隊旗艦一等戦列艦(100門艦)オットーマルク、二等戦列艦5隻、三等戦列艦7隻4等戦列艦6隻5等戦列艦8隻と艦数は劣るが砲門数1774門とこれは帝国軍の艦隊戦力の半分であり、ましてやそれでも最強クラスの一等戦列艦を一隻擁し更に格下なれど戦艦級の二等戦列艦を5隻も艦隊に含む、詰まるところ圧倒的に砲門数が違いすぎるのだ。当然ながらこの大砲は19世紀初頭までの砲弾詰まるところ鉄球を飛ばす類の大砲である。砲弾内に炸薬は入っていない以上敵を倒す為には数を用意しなければならない。そういう意味では同盟軍はかなり部の悪い勝負をしなければならない。サン・モシャス側の艦隊司令官はオルティガ・ジョバンナ・カルバーニー大都督(ホワイトオークと人間のハーフ)、副司令官としてアルトヘイム艦隊司令長官スティルクロウ(鉄詰)・エドマンズ・シルバーフォックス提督(猫人・獅子族)が艦隊に参加している。この二名の艦隊と海を知り尽くした偉大な船長、提督と共に、モーティアスも特別選抜部隊を編成し、ノーロット帝国軍鈍色灯台泊地上陸、制圧の任を与えられ参加していた。

 

オルティガ

『とは言ったものの、艦隊戦では部が悪い。船員の練度は申し分無いが、各国のドワーフや人間の工房をフル稼働させてどうにか用意した大砲の扱いがまだ未熟な船乗りも多いし何よりこれ程の量を用意したが、劣悪品も多いし、敵に比べ数も少ない。船の中には今までバリスタとトレビュジェットを装備していたのに強引に大砲を乗っけた軽量艦も居るから正直本来の速度も出せていない。』

 

シルバーフォックス

『つまるところ我等は船と武器の問題で帝国に劣るという訳ですな。真っ向勝負は出来る事なら避けたい。だが我等は敵を撃滅しなければならない。彼らを沈められなければ第四都市の城壁内の港に兵糧を送られ続けることになる、厄介ですな。敵側に人の輪を譲るとしても天の時と地の利を我等は得ねばなりません。』

 

この会話をモーティアスはずっと黙って聞いていたが彼はあくまで陸の人である以上無用な口出しをするべきでは無いと弁えていたからであった。

両提督は海図をじっと見つめ、ついに方針を決めた。敵艦隊より同盟艦隊は四等以下の小型艦の数が多い。そして本土と鈍色灯台の間にはかなり広い範囲で浅瀬が広がっているのである。元々本土と鈍色灯台は今程離れていなかったのだが大地震が起きた際に見事に今海になっている部分だけが沈んでしまったのだ。だがそれは深く沈む事なく今こうして浅瀬を作り上げている。当然四等以上の大型艦は浅瀬を航行するのは難しい。つまり第四都市に兵糧を届ける輸送艦隊の護衛は四等以下の小型艦で無ければならないのだが、帝国側は数が少ないので事実上その全てを護衛にあてがうだろう。そこを先ず同盟艦隊が急襲、その後救援に駆けつけてくる本隊を叩くと言う各個撃破作戦である。幸い同盟艦隊は帝国艦隊相手に略奪行為を働いてきた歴戦の勇士であり、この海域の航海の仕方も心得ており、四等以上の大型艦がこの浅瀬を航行する術も知っている。これで地の利は得た。問題は如何に敵艦隊を誘い込み、有利な状況で戦うかである。

 

両提督の出した答えは単純明快であった。敵に敢えて情報を流す事である。最初に輸送艦隊を襲う。そしてそのまま補給を絶ち、艦隊の火力に物言わせ第四都市の城壁を破壊してしまう作戦を立案したと敵に教えてやるのである。それを敵が知れば当然警戒する。だが補給が絶たれた(正確には帝都上層部によって意図的絶たれているが殆どの将兵は知る由もなかった。)第四都市とその住民に兵糧を届けねばならない以上、艦隊は出さねばならないし、同盟艦隊の破壊活動を知った以上艦隊を引き篭もらせては居られないし、第一艦隊はアルサス帝国艦隊の抑えとして動かせない以上、第二艦隊は嫌でも出撃しなければならない。これで誘い込む策は出来た。それと同時にモーティアスの任務も説明しておこう。モーティアスの命令は鈍色灯台とそこに併設された泊地及び漁港の制圧である。モーティアスの任務の正念場は寧ろこれらが終わった後である。泊地の全機能を掌握し、併設された大砲と投石機を駆使して艦隊に追われた、ないしは異変に気づいて引き返してきた敵艦隊を1隻たりとも湾に入れないことが彼らの任務であった。そしてモーティアスが艦隊に参加したもう一つの理由は、彼に海戦という物を学ばせる為であった。話を戻すと後は如何に戦うかであったがそれは結論が出ず会議は終了し、各戦隊司令官と船長達はそれぞれの船に戻っていった。

 

『アルトヘイム艦隊旗艦アルトヘムハンマー第一甲板』

 

モーティアス

『本当に勝てるでしょうか、あの帝国艦隊に?』

 

シルバーフォックス

『フィンガーフート五千人将、戦はできる出来ないでは無い、やるかやらないかだ。戦略家達は勝てる状況を作るのが仕事だが、現場では何が起こるかわからない。戦術家である私達は創意工夫を持ってそれを完遂するか、酷ではあるが不可能で有ると分かれば否と答え、人命を守るのが仕事だ。少なくとも私は王都の戦略家達は第二艦隊にだけなら勝てる状況を不完全ではあるが作り出してくれたと思っているし、私自身も勝ち目がゼロでは無いと思っている。後は風と海に嫌われず、如何に戦うか、そこに掛かっている。』

 

モーティアスは尚も不安そうな表情を浮かべたが、この獅子人の提督はモーティアスにラムを差し出すとこう続けた。

 

シルバーフォックス

『なるようになる。戦とは焦ったり、諦めたものが負ける。しかも我々は有利な状況だ、何せ最悪補給さえ断てば艦隊そのものは相手しなくて良い、後は負けなければ良いのだからな。』

 

そう言ってシルバーフォックスは船室に戻っていくと、モーティアスは手渡されたラムを呷ると、海を眺めた。どうやら風は味方についてるらしい…そう思いつつ、四方に停泊する友軍の船を見やった。両舷に無数の大砲を並べる船の大群、これだけ見れば壮々たるものだが帝国はそれを超える艦隊を2セットも持っている。数こそ勝るものの質においては劣る艦隊で強大な帝国艦隊を相手取るのだ。モーティアスが不安を払拭出来ないのは無理もない事だった。だが、それはさっきまでの話だった。モーティアスはこの時この世界では前代未聞の戦術が頭の中で浮かんだのだ。

 

翌日再びクイーン・オブ・サン号に集結した艦隊主要人物だったがやはり如何にして戦うかが難点であった。そこでモーティアスは提案を行った。聞いた船長達は自身の耳を疑ったという。それはあまりにも無謀で、前例のない事だった。だが同時にそれを成功させれば効果絶大である事も、理解した。船長達の心中は様々だったがそれをやるか否かは両提督に掛かっていた。そして両提督の答えは是であった。そして海戦の日にちは次に鈍色灯台からフリゲート戦隊が輸送物資を積んで出港した時と決め、陸の同盟軍と協力して、敵が動くのを待った。

 

その時は直ぐに来た。二日後、鈍色灯台側に潜り込ませた間者より輸送艦隊防衛の為フリゲート艦隊が出撃すると文が届いたのだ。全艦出撃命令が下り、作戦通り第四都市に続く運河の近くで艦隊は待機した。そして輸送艦隊と戻ってきたフリゲート艦隊は待ち構えていた同盟軍艦隊と遭遇するのである。すぐに先頭の五等戦列艦が号砲と狼煙を上げて第四都市と本隊に敵襲来を知らせた。然し、第四都市から上がってきた狼煙は援護不可能を知らせてきたのだ。この時に合わせて同盟軍はハドシア軍総大将オルランス公爵の指揮の元、第四都市に攻囲戦を仕掛け、城塞の兵器が艦隊に向かうことの無いようにしていたのだ。敵襲来の報を受けた帝国第二艦隊司令官兼元ノーロット帝国海軍元帥フォン・ザルツブルグ提督は麾下に出撃を命じつつも自身の最期の時が来た事を理解していた。その理由を語る前に帝国の内情を少し離さなければならないだろう。

 

ノーロット帝国は知っての通り効率性官僚制国家であり、ドラスティックに政治を運べる専制政治と相性は抜群であり、その効果は短期間で大国に成長せしめた所以でもある。だが昨今の帝国の官僚は汚職、贈賄、更には非合法の密売や売春等が横行しておりそれは上級から下級にまで及んでおり、僅かに残った熱意ある官僚がその割を喰っている。そして農奴達の怒りはその僅かな官僚に向かい、やがて限界が来た官僚が腐る。

この悪循環を正すべき中央は二人の次期皇帝候補の間で割れ、水面下で、ないしは表立って権力闘争に明け暮れているため、全く意に介して居なかった。派閥はこの通りである

 

先ず一つは長男のジィール・ガブドシア・ノーロットを皇帝に据えるべきという派閥である。この派閥は武官七割、文官三割で構成されている。元々ジィールが次期皇帝にと定めたのはミヒャエル帝であるが当時からジィールは内政に疎いと貴族や文官から反対の声が上がって居たが、ジィールは内政面を優れた才能を持つ武官、文官、農奴の代表に一任し、自身は軍権を統括する立憲君主制を志して居たのだ。だがそれは当然貴族達の特権を廃しようという思惑があったからである。彼は実力主義者であった為力なく特権を振りかざす人間を決して許さなかった。それは自身も例外ではなく、その為に自ら武勇を奮ったのである。そもこの考えに至ったのはジィール自身の母親が中層階級の生まれの女性であり、他界したミヒャエル帝の后の腹から産まれた子では無いというのが大きい、つまり彼は庶子であった。そう言う経緯もあり彼の歩む道は始まった時から険しいものであったが、最も彼自身は父親と義理の母親との関係は良好であり、弟や妹たちとも仲がとても良かったのだ。それが彼の強みでもあったが弱みでもあった。家族全員が味方であると言う彼の根拠の無い確信が国の混乱を産んだのだ。そして彼はこれを自覚して居ない。彼の敵になる事を選んだ一人の兄弟には気づかなかったのだ。それがもう一人の皇帝候補(暗に呼ばれているだけであり、公ではその身分では無い)次男、オスカー・フォン・ノーロットである。彼は魔法や戦略に於いて非凡な才能を見せ、帝国内で確実な人気を得て居た。そして何より幼少期より貴族身分の連中と連んでいた事や彼の身の回りを世話する者たちも貴族身分の出身であり、彼らはジィールを兄弟と思うなと幼いオスカーに吹き込んでいた。最もオスカー自身も兄とは反りが合わず、内心彼を見下しており、それは歳を重ねるごとに増し、彼の母親が中流層の側室だと知ると憎悪に変わり、それを周りの人間に隠し続けた。だが彼がついに我慢の限界を迎えたのは父からの衝撃の言葉であった。身分賤しい女の股から産まれた兄を名乗る下賤な化け物が次期皇帝に任命すると言うものであった。更に彼を刺激したのは、ミヒャエル帝が他の兄弟に対し長兄に忠誠を誓わせた事である。姉も、弟も妹も何の迷いもなく忠誠を誓ったのでもう気が狂いそうになった。だが彼はその麗しい顔に一切曇りを見せず忠誠を誓うふりをしたのだ。その後彼は水面下から行動したのだ。ジィール即位後明らかに特権を奮えなくなる貴族や官僚、そして高貴な身分であるという自負の強い文武官を味方につけ、時が来るのを待ち続けることにしたのだ。味方は物凄いで集まった。ジィール自身の治世による改革が始まれば不都合なことが多い事もあるが、自身の君主が下賤の者の出身であることに耐えられないという一種の身分制の末期症状がそうさせたのだ。当然この流れは、ジィール側の聡い武官や文官達は気づいたが、行動しようにも決定的な謀反の証拠も無ければ、弟が自身を害そうとしているなどジィール本人が信じないだろうという彼のこの際厄介な家族愛が邪魔をする事は百も承知であった。その為ジィール本人と残りの兄弟、そしてミヒャエル帝に対しても秘密裏に暗闘を繰り広げることになったのだ。

 

フォン・ザルツブルグ元帥もそう言う人達の仲間であり、彼はオスカーとその側近達直々の引き抜き工作にあったがこの老提督はミヒャエル帝の忠臣である事を誇りに思っており、ジィールこそ次の皇帝であると固めてしまっていたのでこれを拒絶し更に父でもあり皇帝でもあるミヒャエル帝の沙汰に従えぬとは何事かとオスカー以下をこの一本気の船乗り(帝国の武人は大抵がそうだが)は罵声を浴びせてしまったのだ。結果、彼は有る事無い事を風潮され、海軍卿を罷免され、第二艦隊の提督に格下げされてしまったのだ。そして熟練の船乗りである彼はこの鈍色灯台周辺の海域にこんな重装艦で戦う事の愚を承知していたが、そしてそれを帝都に何度も説明したがオスカーに揉み潰され、ミヒャエル帝は病の為、その頭脳は振わず、ジィールもまた愛すべき聡い弟の策を疑わなかった。彼は事実上の孤立無縁であった。最後の頼みであった第一艦隊から小型、中型の快速艦を数隻分けて貰うことも出来ず、彼は自分の命日が来た事を悟る事になったのだ。

 

ザルツブルグ

(恐らく、補給艦とその護衛に出したフリゲート艦隊は我らが着く前に全艦が沈められているか、降伏しているだろう。一等から三等の艦が主力である以上、あの浅瀬を突っ切るのは至難の業だ。迂回しているうちに終わってしまっているだろう。)

 

ザルツブルグ元帥はもはやフリゲート艦隊は助からぬと諦めて居たが、せめて同盟艦隊を道連れにせねばと艦隊に全速を命令した。

 

一方同盟艦隊は帝国に比べて質と良に勝るフリゲート艦隊の活躍で補給艦とその護衛の第二艦隊所属フリゲート艦隊は轟沈、降伏の末路にあった。しかし此処からが問題である。如何に地の利を得ているとしても敵の残りとの火力、防御力に明らかな差がありすぎる現状でどう沈めきるかであった。そしてザルツブルグ元帥の座乗するオットーマルクが姿を現した。

 

鈍色灯台沖海戦の開幕である。

 

同盟艦隊は敵艦隊に向かって真っ直ぐ進む‼︎先頭はクイーン・オブ・サン以下二等〜四等の第一戦隊、続くはアルトヘイム・ハンマー以下三等〜6等の第二戦隊である。だが此処で明らかにしなければならないがオットーマルクのいる深瀬には近づけば帝国艦隊も動きやすくなってしまう、嫌でも浅瀬に近づけなければならない。そこで彼らが採った戦法は前代で未聞であった‼︎

 

敵前回頭である‼︎

 

浅瀬一杯を使った回頭運動により第一、第二戦隊は敵艦隊正面の頭を抑える形になった。つまり1556門の半数、片舷778門が敵艦隊に向けられたが、敵艦隊が向けられる砲はオットーマルクの正面のカノン砲四門のみである。

 

オルガ

『FUOCO‼︎‼︎(フォウコ)←(撃て)』

 

シルバーフォックス

『feu‼︎‼︎(フー)←(撃て)』

 

一斉に火を噴いた778門の大砲は一斉にオットーマルク以下先頭の艦に襲い掛かった。帝国艦隊の甲板は地獄絵図で遭った。だが敵に反撃するには側面を見せねばならない、浅瀬に向かって回答しなければならない。だが水兵たちはとにかく浅瀬を目指してほしいと必死に願った。帆船は正面と後面の攻撃には脆いのだ。この一方的な殺戮から逃れられるなら不利な体制で戦をする事を選んだのだ。結果、まぁ当然のことだが敵艦隊は動きがすごぶる鈍った。同盟艦隊の旗艦である二等戦列艦クイーン・オブ・サンがどうにか動けるように苦心した結果浅瀬で動けている状況なのだから自明の理である。更に運の悪い事に艦隊旗艦オットーマルクは座礁してしまったのだ!

 

ザルツブルグは座礁した旗艦から後方の三等戦列艦に移り、もはや足手纏いの一等、二等を盾に鈍色灯台か帝国本土の港に退避しようと決めた時彼の最後が訪れた。何度めかの砲撃がオットーマルクの後部甲板に集中し、提督以下高級船員を肉塊に変えてしまったのだ。

 

主人を失ったオットーマルクは座礁しながら側面側に出てきたクイーン・オブ・サンに猛射した。流石一等戦列艦であった。ひたすら撃ち込まれて居たのに未だ艦は健在であり50門の砲撃は二等戦列艦の装甲や船員たちを脅かした。然し女海賊オルガは怯まない。船員たちの尻を蹴りながら叱咤激励し、砲撃の手を休ませず、未だ浅瀬に向かってくる敵艦隊の頭を再度抑えるべく回頭命令を出した。

 

提督死亡の事実を知らない帝国艦隊は健気にも自ら不利な浅瀬に向かって居た。座礁し動けなくなっている旗艦や二等戦列艦を避けながら。だが、同盟艦隊二度めの回頭運動からの一斉射を受けた事で艦隊の士気は瓦解した。三等以下の艦が鈍色灯台への退却を始めようとしているのをシルバーフォックスは見逃さなかった。

 

シルバーフォックス

『逃がすな‼︎第二戦隊陣形を解け、フリゲート艦全艦敵艦隊を各艦で追撃せよ‼︎敵は手負いだが絶対に逃がすな‼︎』

 

座礁しながらも抵抗する二等、三等戦列艦を第一戦隊に任せ、第二戦隊が逃げ出す中型、小型艦を追いかける為陣形を崩した。海賊行為を働き続け、この海域を知り尽くしたこのフリゲート戦隊は拙い操船で逃げていく帝国艦隊に容赦なく襲い掛かり、更に数の差を活かして、一隻につき2隻で追い縋った。

 

アルトヘイム・ハンマーも激しい抵抗を受けながらも逃走する帝国艦隊の指揮を取っていると思われる三等戦列艦とゼロ距離で撃ち合っていた。

シルバーフォックスは大斧を持ち出すと咆哮した。獅子の咆哮の正にそれは、自身の船の船員を鼓舞するのと同時に敵艦に対しての乗り込みを意味していた。勝手のわかる船員は敵艦に鉤縄や橋を掛けるとこの獅子人の船乗りの後に続いて敵艦の乗り込んだ。

 

シルバーフォックス

『国王陛下の為に‼︎‼︎奮い立てアルトヘイムの船乗り共ぉぉぉぉぉぉ‼︎‼︎‼︎‼︎』

 

アルトヘイム海軍将兵

『『ウオオオオオオオオオオオオオオオ‼︎‼︎‼︎‼︎』』

 

シルバーフォックスの大斧に倒れた帝国の船乗りは数知れず、彼に向かって剣やピストルの弾が飛んできたがそれらは全く当たらず、持ち主に死を持って帰ってきた。だが第二戦隊の奮闘にも関わらず一隻の六等戦列艦が浅瀬を抜けて、鈍色灯台に入ろうとした。だがその六等戦列艦は灯台の港に入る直前に沈められた。それは鈍色灯台に併設された砦からの砲撃であった。生き残った船員が見たものは帝国国旗では無くアルトヘイム国旗の翻る灯台の姿であった。モーティアス麾下の特別選抜部隊は鈍色灯台を占領していたのだ。

 

逃げることも、戦う事も叶わず帝国第二艦隊は全艦が撃沈、鹵獲され、兵員の半数が死亡する結果になった。因みに最後まで抵抗したのは一隻の二等戦列艦であった。(オットーマルクは提督の死後20分後に白旗を揚げた)最後まで四方八方に大砲を撃ちまくり抵抗したが、最後は第一戦隊の猛射を受けて、弾薬庫に引火、爆沈し、乗員750名悉く討ち死にした。

 

対する同盟の損失は六等戦列艦2隻、三等戦列艦一隻が大破座礁、四等戦列艦一隻爆沈という軽微な元であった。

 

鈍色灯台の浅瀬には座礁したり、沈んだ船の残骸が見え隠れし、人間の死体がそこら彼処に浮かんでいた。

 

 




本当にお待たせしてすいません出した‼︎二話構成ですが、事実上三話、四話はあると思います。ネタは出来上がってるのでボチボチ続けますのでお待ち下さい。オラニエ公は数少ない領民(読者)を裏切りません‼︎

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